コメディ・ライト小説(新)

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蝉時雨、後、晴天也。【短編集】
日時: 2016/05/15 00:27
名前: 蝉時雨

__世界には、雨が降っていた。
それは余りにも煩く、世界から私だけを切り離したかの様に周りの音が届かない。
しかし、空は雲ひとつない晴天だ。


そう、所謂、蝉時雨。



こんにちは、蝉時雨と申します。

今回は前々から考えていた短編集を書こうと思っています。宜しくお願い致します。


ちまちま細々、不定期更新。

*常時リクエスト募集中*

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蝉時雨、後、晴天也。 ( No.1 )
日時: 2016/08/19 09:47
名前: 蝉時雨

 夏。
 ジリジリと空から降り注ぐ蝉の声が、より一層僕のやる気を削ぎ落としては地面に叩きつけられて消えていく。
僕は、夏も蝉もあまり好きでは無かった。

しかし、それはある出来事を切っ掛けに、だんだん「好き」へと変わっていく事になる。


 それは夏真っ盛りのある日、一学期ももう残り一週間となった頃だった。
暑さで倦怠感の漂うこのクラスに、転校生が入ってきたのだ。

何だってこんな時期に。どうせなら二学期から入ればいいものを。

窓辺でそんなことを考えながら転校生の自己紹介を聞き流していると、転校生が僕の隣で椅子を引きながら、宜しくお願いします、と何処か儚げな表情で笑った。


 席が隣なので、休み時間には色々な話をした。
名前は瀬川 深幸といい、頭文字を取ると”セミ”になるから、よくからかわれたらしい。
でもそのお陰で蝉に興味を持てたからおあいこかなぁ、って言って笑う彼女は、楽しそうにも、悲しそうにも見えた。


 時間は流れ、夏休みまで残り二、三日という頃、僕は放課後教室に忘れ物を取りに戻った。
下校時間もとうに過ぎ、夕暮れに染まる教室に、ひとつの人影。

それは紛れもなく、

「……瀬川さん?」

転校生の彼女だった。

「……津田くん、今日は雨降りだね。」
「そうかな?」
 今日は夏らしい雲ひとつない晴天で、蝉の鳴き声が辺りに響きわたっていた。

「蝉時雨、って知ってる?」
あまり聞き慣れない単語に、僕は首を横に振る。

「ほら、蝉は一週間しか生きられないって言うでしょ?
そんな彼等は叫ぶんだよ、生きたい、死にたくない、ってさ。」

「その叫びが時雨っていう雨の音に似てるから蝉時雨って名前がついたんだ。」

「だから、今日は雨降り。」
そう言って彼女はにっこりと笑った。


「津田くん、私を何処か遠くに連れていってよ。」
「何処か、って」
「何処でもいいんだ。大事なのは、思い出に残ることだから。
その為なら学校も休むし、大金だって出すよ。」

彼女の決意は相当なものなんだな、と実感する。
「それなら、三日後の終業式の後に出掛けようか。それなら学校を休む必要は無いよね。」

僕の言葉を聞いて、彼女はぽろぽろと涙を溢す。
「……君は優しいんだね」


 僕は何時しか、彼女が好きになっていた。

Re: 蝉時雨、後、晴天也。【短編集】 ( No.2 )
日時: 2016/09/04 14:15
名前: 蝉時雨

 約束のその日まで、僕達は沢山の話をした。
僕の小さい頃の話、好きなものの話。嫌なことの話だとか、それはもう沢山。

 そして、約束の日。
僕は終業式が終わってすぐに家で着替えを済ませ、待ち合わせの時刻の三十分前くらいに駅に向かった。
僕より前に着いていたのか、彼女が此方を見つけて駆け寄ってくる。
まだ三十分前なのに遅いよ、待ったんだから、なんて言って笑う。
彼女の髪は透き通るような青色で、いや、もしかしたら、本当に透き通っていたのかも知れない。

 僕達は様々な場所へ行った。
近場から、段々と遠くへ、遠くへ。
遊園地に行ったり、動物園に行ったり。美味しいものを食べ、絶景も見た。
沢山のことをした。色々なものに挑戦した。何段にもアイスを重ね、落としそうになりつつも食べきったりもした。
今までに無いくらい充実した一日だった。

 地元に帰ってきた時にはもう真っ暗で、日付も変わりつつあった。
僕は彼女を家まで送り届け、その日はもう寝ることにした。



 夏休み初日の朝、僕は新聞を取りにポストを覗く。
すると、新聞の上に重ねられた一通の手紙が見えた。どうやらそれは僕宛のようで、家に戻ってから封筒を開く。


津田 様
先日は色々な場所へ連れて行ってくれてありがとうございました。どの場所も、とても楽しかったです。
ずっとずっと、忘れることのない思い出になりました。

充実した一週間をありがとう。
楽しい思い出をありがとう。

私は瀬川深幸であるために、一週間しか活動期間がありませんでした。
だから沢山の思い出を作っておきたかったのです。

私と出会ってくれてありがとう。
優しいあなたが大好きでした。

瀬川 深幸


……なんだよ、これ。
でした、って、なんで、過去形で。

 気がつけば僕は外を走っていて、目の辺りに現れた湿気が、どんどん視界を狭めていく。

 目の前には空き地があった。
昨日僕が青髪の少女を確かに送り届けた家は、忽然と姿を消していて。


 その日は、雨が降っていた。
雲ひとつない晴天の癖に、降り注ぐふたつの雨は容赦なく僕の頬を濡らす。
……ひとつは、僕の涙だけど。

かつて、彼女が言った言葉。

「「蝉時雨、って知ってる?」」

呟いたその言葉は、雨の降る空き地に響いては溶けていった。




end


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