コメディ・ライト小説(新)

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夜菫の式術師
日時: 2016/05/29 16:40
名前: 種

初めまして、種(たね)と申します。

小説は書くのも投稿するのも初めてなので、もし間違っていたり、こうしたほうがいいよと思われた方は教えていただけるとうれしいです(>_<)


スレッドの作り方もあいまいですが、どうかお手柔らかにお願いします。

※ルビは今のとこかっこで振ってます。後ほどルビ使用にしようかと……!


―――

このお話は、普通の家庭で育った強い霊力を持つ主人公が、家の謎と自分の力を受け入れるため、悪い霊である「悪鬼」と戦う式術師になるために式術学院でがんばっていくお話です。

更新ペースはぼちぼちですが、応援してくださるとありがたいです!

よろしくお願いしますm(__)m

―――



『夜菫の式術師』

序章 >>01 >>02 >>03

第1章 「はじまり」
  第1話 >>04 >>05

Page:1



Re: 夜菫の式術師 ( No.1 )
日時: 2016/05/29 16:17
名前: 種

夜菫の式術師

-序章-


 物心ついた時から、少女にはほかの人には見えない恐ろしい「何か」が見えていた。
 

 苦しみの表情をしたヒトに覆いかぶさるようにして憑いている異形の姿だった。そしてそれは、時折少女の前に現れては監視をしているかのようにじっとこちらを見つめていた。

 そういう時は決まって近くの大人の影に身を潜めてじっとしていると消えるのだが、事情を知らない大人たちは呆れたような表情を見せるのだった。

 話を聞いた母親は、困ったような顔をして「気にしてはダメ」と言った。あなたは“診(み)える血筋”だから、と。母親には見えていなかったらしいが。
 

 恐ろしい「何か」は必ず誰か苦しそうな表情を浮かべるヒトに憑いていた。バスや電車にいる知らない大人の背中にいたり、通り過ぎる女子高生の集団の中の一人にいたりした。
 友達と遊んでいたとき、彼女の母親の背にいたのがわかった。それを友達に伝えると、友達は「母親はいない」と言った。自分は施設育ちだから、母親はこの世にいない、と。
 
 

 ――憑いている「何か」も、それに憑りつかれている「ヒト」だと思っていたものも、存在しないものなのだとその時初めて気がついた。

 

 それからいつも、少女は恐ろしい「何か」と遭遇する度に目を逸らしてきた。みんなに見えないものは、見えないままでいたかったから。目を合わせなければ、恐ろしい「何か」は行動を起こすことはなかったから。
 こちらからちょっかいを出さなければ向こうは何もしない、だからきっと大丈夫だろう。少女はそう思い込んでいた。
 

Re: 夜菫の式術師 ( No.2 )
日時: 2016/05/29 16:30
名前: 種

7歳の時だった。母親に連れられて幼いころに死んだという父の実家に来ていた少女は、暇を持て余して家の裏庭から続く森の中へと足を踏み入れた。初めて訪れた父の実家は、少女が普段暮らしている町よりもずっと田舎で自然が多く、見たこともない花や木々がたくさんあった。森は奥の方まで木漏れ日に照らされていたので、少女は臆することなく先へ先へと進んでいった。


 ――どれくらい遊んでいたのだろう。頭上に降り注ぐ木漏れ日の影がはっきりしていないことに気づいて少女が顔を上げると、太陽がもう少しで傾こうとしているところだった。


 少女は立ち上がった。もう帰らなければならない。歩いてきた方向はうろ覚えであったが、そこまで分かれ道が多かったわけではないし適当に歩いていれば裏庭に出るだろう、と軽い気持ちで森に背を向けた。



 が、しかし、一向に出口には辿りつかなかった。幼い少女の足取りゆえか、はたまた森のいたずらか、少女はまるで自分が森の中の同じ道をぐるぐる歩いているような気になった。青く光っていた若葉が今は夕日を受けてうっすらとした桃色を帯びている。暗闇が訪れていることに気づいて、なおさら不安を感じた。もし帰れなかったらどうしよう。もしここで、あの「何か」が出てきたら――。


 溢れ出る不安を押しつぶすように少女は走り出した。なるべく前だけを見て、早く、早くと急かすように走った。


 
 しばらく走り続け、体力が尽きた少女は少し立ち止った。その瞬間――ちら、と少女の視界の隅に黒い影が映った。



 ――息切れしていたはずの呼吸がぴたりと止まった。映った黒い影が何なのか、少女には予想がついていた。今一番会いたくなかったものだったから。

 少女は恐ろしい「何か」の方へ顔を向けた。目も合わせたくないはずなのに、なぜか自然と引き寄せられるように顔を向けてしまった。

 

 恐ろしいそれを真正面から見たのは初めてだった。真っ黒で底のない闇のような色をしていた。目線を下ろすと、力なく引きずられている自分と同じくらいのこどもの足が見えた。得体のしれない恐怖に少女は身体をすくめ、拳を硬く握りしめた。


 逃げなきゃ、とは思っていた。気にしないで、見なかったことにして、逃げなくちゃ。早く、早く――。

 警鐘を鳴らす頭の中とは裏腹に、足は一歩たりとも動かない。じり、と草を踏み擦る音だけを鳴らした足は、恐怖に震えていた。



 少女を見つめる恐ろしい「何か」、それがいつも少女が出遭っている「何か」だったとすれば、隙を見て上手く逃げられたのかもしれない。

 しかし、この日少女が出遭った「何か」はいつも出遭うそれではなかった。自らの存在に気づいた少女を見逃すことなく――、その少女に刃を突き立てた。


 「うああっ!」


 幼い少女は黒い影の繰り出した攻撃に、いとも容易く倒れ込んだ。少女と影の間には幾分かの距離があったにもかかわらず、逃げる間もなく伸びてきた黒い手のようなものに少女は押さえつけられた。


 逃れようともがく少女だが、力の差は一目瞭然だった。ぎりぎりと締め付けるそれが苦しくて、身体の力を抜いた。


 「う……や、やだ……」


 恐怖に身体を引きつらせ近づく影から顔を逸らすも、無駄な行動であった。黒い影は押さえつけた少女の心臓に頭を近づけた。まるで心臓を喰らおうとするかのように。


 助けて、助けてと少女は心の中で叫んだ。なぜこんなものが自分には見えてしまうのだろう。見えなかったらこんな怖い目に遭わなかったのだろうか。混乱する頭の中いくら考えても結論は出ない。恐怖から逃れようと、目を瞑った。



 ――その時。


 「舞え、“――”!!」


 凛とした青年の声が聞こえてきたかと思うと、瞬時に抑えられていた力が抜けた。驚いて身体を起こした少女の目に映った光景は、ひとりの青年が黒い影に向かって刀を振りぬいている姿だった。薄闇色に光る刀は弧を描いて影を真っ二つに両断した。青年は素早く影から距離を取ると、何処からともなく出した菫色の札を手にし、


 「参の式、“――”!!」


 と叫んだ。少女の聞いたことのない言葉を発した青年は、菫色の札を影に向かって投げつけた。紙のように薄かったはずのそれは小刀のように影に突き刺さると、桜の花が散るかのように瞬時に姿を消した。
 

 影が消えたと同時に姿を現したのは足元だけ見えていたこどもの姿だった。青年は、意識がなく倒れこんだこどもに向かって今度は白色の札をかざし、すう、と息を吸い込んだ。



 「汝の骸(むくろ)、七行に従い、夜菫に紛れて滅す。
  ――終(つい)の式、“輪廻道(りんどう)”」



 静かに重く、しかし優しく青年は唱えた。札はこどもの背に触れた途端に菫色へと染まり、こどもは札に吸い込まれるようにふっと跡形もなく消えた。


Re: 夜菫の式術師 ( No.3 )
日時: 2016/05/29 16:21
名前: 種


 ――すべてが一瞬の出来事であった。何が起こったのかよくわからないまま呆然としていると、青年が心配そうな顔をして駆け寄ってきた。狩衣(かりぎぬ)に袴、足袋(たび)に下駄というまるで神主のような姿をしている青年はこの世の人とは思えず、少女は少したじろいだ。青年は少女の様子を確認すると、優しい微笑みを浮かべて頭を撫で、「無事でよかった」と言った。



 「“菫の皇(おう)”の血を受け継いだのは、君だったのか……。怖かっただろう、もう大丈夫だ」



 立てるかい、と差し伸べられた手に掴まり、少女はよろめきながら立ち上がった。足はまだ恐怖で少し震えており、それを見た青年は少女を優しく抱き上げた。





 「あの黒くて恐ろしい影――、君には小さいころからずっと見えていたんだろう?」


 青年に抱え上げられた少女は、しっかりと肩に掴まり頷いた。視界が高くなり見上げた空はまだ白けた薄紫色をしていて、少し安心した。


 「僕もね、そうだったんだ。子供のころから、ヒトに憑いている怖くて黒い影みたいなのが見えて……。信じてくれたのは年の離れた兄さんだけで、あとの大人は誰も信じてくれなかった」


 青年はゆっくりと森の出口に歩きながら、そう話を進めた。



 「そして僕も、君くらいの年のころやつらに襲われたんだ。幸い助けてもらったから大丈夫だったけど……。でも、それからずっと黒い影が怖くて仕方がなかった。なんで僕だけこんなものが見えてしまうんだろうって、ずっと考え込んでしまってね。
 僕はこの力に対して、恨みしか抱いていなかった。でもある日、兄さんが教えてくれたんだ。僕らみたいにお化けが見える人たちが通う、悪いお化けを倒すための勉強ができる学校があるって」


 「……がっこう?」


 興味深く話を聞いていた少女は、その言葉を聞き初めて口を開いた。



 「そう、学校。君や僕みたいな、さっきの黒い影が見える人たちがたくさん集まって勉強するところだ。その学校で僕は、影を倒す方法と、影に憑かれている人を救う方法の二つを学んだ。君も気づいているだろうけど、他の人たちは、さっきのこどもみたいな『憑かれている人』のことが見えないからね。だから、僕はその人たちを影から救えるようになろうと決めたんだ」


 「かげから、すくう……」


 青年の言葉に驚いて、少女は繰り返すようにつぶやいた。青年は、先ほどかかげたものと同じ白い札をひらりと振って話しを続けた。



 「うん。さっきみたいにね。それで、僕はこの見える力が好きじゃなかったけれど、誰かの役に立てる力だと知ってからは怖くなくなった。影しか見えない者たちは影を倒すことしかできないけど、その影の中には人がいるんだ。その人たちはもう死んでいるけど、魂はまだ生きている。彼らが見える僕らは、彼らが影ごと消されてしまう前に、魂を救うことができる。この力は怖いけど、力を付けさえすれば誰かを助けることができるんだよ」



 青年は終始穏やかに話し続けた。少女は夕日に照らされて雀茶色に光る青年の瞳をじっと見つめた。力を付ければ、誰かを助けることができる。青年の言葉が心の中で繰り返された。


 「どうやったら、ちからをつけられるの?」


 その問いに青年は優しくふわりと笑った。ふと立ち止まると少女を地面に下ろし、自身も目の高さに合わせてしゃがんだ。



 「式術師になるんだ」



 しきじゅつし、少女は聞いたことのない言葉に戸惑いながらも、心の中で何度もつぶやいた。


 「14歳になったら式術学院に行くんだ。そこで、戦う方法と救う方法を教えてくれる。君ほどの霊力ならきっと合格する――いや、もしかしたら学院側からオファーが来るかもしれないね」


 少しばかり楽しそうに青年は笑った。そして、「君自身を護るためにも、行った方がいいんだ」と少女に聞こえないくらいの小さな声でつぶやいた。



 「その……しきじゅつしのがっこうに行ったら、だれかをまもれるようになるの?」

 「ああ。ただし――自分を護ることができたら、ね」



 地面に立つ少女の足の震えはもう収まっていた。真正面から見つめる青年の瞳の中には、いつの間にか濃い紫色の光が宿っていた。美しくも人間味のない出で立ちに少女は少し違和感を覚えた。



 「君の力は強い。強いから、周りの目に留まりやすい。その分受ける、他人(ひと)の倍くらいの攻撃を君は自分で片付けなくちゃならないんだ。そうやって自分を自分で護ることができたら、他の誰かを護ることもきっとできる。君が自分の力を使って、誰かを護りたいと思えば、ね」



 優しく語り掛ける言葉のどこかに一抹の厳しさを感じさせながら青年は言った。そして懐から3枚の札を手にした。菫色のものが2つと、白色をしたものが1つ。


 「君にこれを授けておこう。自分の力を使いたいと思ったとき――誰かを救いたいと思ったときに、使うと良い。今は読めないかもしれないけど、その時が来たら読めるようになるから」


 「……ありがとう」


 薄い和紙のような手触りの3枚の札を受け取った少女は、無くさないようにとスカートのポケットの中に押し込んだ。その様子を見た青年はおかしそうに笑って、「まあ、お守り代わりとでも思っておいてくれたらいいさ」と言った。
 

 

 「さてと――それじゃあ、ここでお別れだ。森の出口はすぐそこ、少し走ればもう裏庭に出るよ」


 青年の指さした先を見ると、気づかないうちにもう出口まで来ていたらしい。見慣れた畑と停めてある母親の車が見えた。


 「あの、おれい、お母さんをよんで……」


 そう言いかけて、はっと息をのんだ。少女の目には、青年がどこか神々しい何かに見えたからだ。


 「わかるだろう?」


 青年は静かに首を横に振った。


 「たとえお母さんを呼んできたとしても、僕は君にしか見えていないよ。だから、もうここでお別れだ」


 少女は青年の雰囲気に飲み込まれかけて、静かに見つめ返した。
 

 「ああ、そうだ」
 

 名前を聞いておこう、青年が思い出したように言った。
 
 「君、名前は?」

 「咲真さくま――咲真 紫織(しおり)、です」

 「紫織か、いい名前だ。……僕は、君をずっと見守っているからね。無事に生きるんだよ」



 さあ、お行き、と青年が示した手の方角に引き寄せられるように、しおりは前を向いた。そのまま沈みかけた夕日に照らされる出口に向かって走り抜け、裏庭の畑まで出ると、母親が自分を呼ぶ声が聞こえた。
 

 随分と探させていたらしい。どこ行ってたの、心配したのよと叱られる声を聞きながら森の奥を振り返ると、もうそこには何の影も残っていなかった。

Re: 夜菫の式術師 ( No.4 )
日時: 2016/05/29 16:41
名前: 種

-第1章- はじまり
 


 ――あの日からいくつかの年齢を重ねても、恐ろしい「何か」を目撃する回数は一向に減らなかった。
 だが、代わりに自分に襲い掛かってくることは、あの日から一度もなかった。

 
 しばらく経ってものわかりがよくなったころ、しおりは父親の死が青年の言っていた「式術師」とやらに関係していることにうっすらと気が付いた。
 

 それから自分の父の真実を知るため、「何か」に憑かれている他の人には見えない者たちを救うため、自分の持つ特別な力を受け入れるために、式術学院に入学することに決めた。


 どんな辛さが待っているのか想像してもわからなかったが、誰かを、自分を救うために「式術師」という知らない世界に飛び込むのは、彼女にとって怖いことではなかった。

 
 あの日青年が言っていたように学校側からオファーが来ることはなかったが、願書を出すと思っていたよりもあっさりと入学を認めてくれた。
 そうして、しおりは今、式術学院に向かう列車に乗っている。
 





 「……!おい、着いたぞ!おいって!」


 見知らぬ少年の大声と肩を揺さぶられる振動で、しおりはハッと目を覚ました。


 「へっ……ひゃ、ひゃい!?」

 「お前、式術学院の新入生だろ。列車、着いたぞ」

 「え……って列車!?着いた!?えっ、うそ」

 「うそじゃない。ここ終点なんだから、ほら!」


 少年はしおりの腕をぐいと引っ張り、客席から立ち上がらせる。いまいち頭が働かないしおりは、言われたままフラフラしながら自身の荷物をまとめだした。


 「ええっと、キャリーバッグと、ポシェットと日用品のバッグと……!あ、あれ、教科書、」

 「これか?持ってやるから早く行くぞ!終点と言えど、そんなに待ってくれないんだからなこの列車。入学早々実家に帰るってか?」


 少年はしおりの荷物の中でひと際重たそうな紺のスポーツバッグを軽々と持ち上げていた。「す、すみません!」としおりは慌てて後を追う。
 途中で勢いよく引き摺っていたキャリーバッグのキャスターがしおりの踵を強打した。あ痛っ、と小さな悲鳴を上げながらもさすっている暇などなく、転がり出るようにしてプラットフォームに降り立った。



 「……大丈夫かよ、お前」


 少年は呆れた顔で踵をさするしおりを見下ろした。赤みがかった赤銅色の髪に、燃えるような真紅の瞳。とてつもなく整った顔をしているというわけではないが、意志の強そうな瞳とピンと伸ばした背筋の良さが彼の凛々しさを醸し出していた。  


 ――が、今は目前でうずくまる少女を見て、ひたすら困惑した表情を浮かべていた。


 「す、すみません!大丈夫です、ぶつけただけですから……」

 「いや、そうじゃなくて。お前、さっき……まあいいや」


 少年は何か言いたげな顔をしたが、何も言わずに口を閉じた。


 「……本当に大丈夫かよ」

 「はい!ああ、あの、ありがとうございました!危うく入学式から遅刻になるとこでした、え、えーと」

 「……蘇芳 朝緋(すおう あさひ)。同じ新入生だから、別に敬語じゃなくていい」


 朝緋と告げた少年は、しおりにひょいと右手を差し出した。しおりは慌てて手を取り立ち上がる。砂ぼこりの付いた漆黒のスカートの端をパタパタとはたいた。


 「蘇芳くん。そのー、先ほどはありがとうございました」

 「だから、敬語じゃなくていいって」

 「あ……そうだった。あ、ありがとう……?蘇芳くん」

 「なんで疑問形なんだよ」


 朝緋は呆れたように笑った。


 「俺の名前を知らないってことは、お前、一般家庭≪シロ≫出身なのか?」

 「し、しろ……?知らない?……あ!」


 しおりは、朝緋の胸元で金色に光る折鶴の紋章に気が付いた。式術師になるため学校に通う生徒たちの中でも、極めて優秀で強い霊力を持ち、4年時からの専門術者≪マスター≫クラスへの配属が決定している生徒のみが付けられる、紋章。

 式術師ではない一般人の母に育てられたしおりは俗にいう一般家庭≪シロ≫出身で、胸元に着いている紋章の折鶴は銀色をしていた。
 


 「蘇芳くん、すごい人だったんだ。ごめんなさい、知らなくて」

 「あー、別に自慢したくて言ったわけじゃないんだ。気にすんな。……そうか、こんなに “ぶっ放してて”シロなのか」


 しおりは朝緋の呟いた言葉の意味がわからずに首を傾げた。尋ねようと口を開くと、「あ、それから」と朝緋が割り込んだ。


 「この学校、蘇芳って名字三人いるから。名字じゃなくて、名前、朝緋って呼んで」

 「あ、うん。それじゃあよろしくね、朝緋くん。わたしは、咲真(さくま)しおりって言います」

 「おう。よろしくな、しおり」

Re: 夜菫の式術師 ( No.5 )
日時: 2016/05/29 16:38
名前: 種


 どちらからともなく差し出された手で握手を交わす。と、一瞬ピリ、と電流のようなものが流れた。
 

 「いたッ」

 驚いたしおりはぱっと手を離した。

 朝緋も痛みを感じたのだろう。自分の指先を撫でながら尋ねた。


 「……。静電気、なりやすいタイプか?」

 「ううん、そんなことないはずだけど……」


 制服の生地かな?と疑問を述べるしおりを朝緋は何かを窺うようにじっと見つめた。
 
 だがそれにしおりが気づく前に目をそらし、腕をまくって時計を確認すると、よいしょと自分の荷物を抱え直す。



 「俺、今日早く行かなきゃならないんだった。こっから学校までしばらく歩くけど、道わかるか?まあ、大体広い道をまっすぐ行けば着くから……あ!おーい、山吹!」


 前方にいた女子生徒がどうやら知り合いだったようで、朝緋は大声で呼び止めた。呼ばれた女子生徒は驚いて歩みを止め、こちらを見ている。


 「校舎まで行くんだろ!道わかんないらしいから、連れてってやって!」

 「あ……う、うん」
 
 女子生徒が慌てて頷いた様子を確認すると、朝緋はしおりに向かって

 「ちょっとおとなしいけど、たぶんいいやつだからさ。じゃ、また後で」

 と言い残し、どこからともなく式札を取り出すと、小さく何かを唱え煙とともに消えてしまった。



 しおりは初めて見る式術に驚きが隠せず残された煙を見てしばらく感心していたが、女子生徒が待っていることを思い出し慌てて駆け寄った。



 朝緋に“山吹”と呼ばれた女子生徒は、緩く巻かれた薄胡桃色の髪と黄金色の瞳が印象的な美しい少女だった。

 しおりはその美しさに目を惹かれ、なぜこんなお嬢様みたいな子がひとり列車で通っているのだろうと疑問に思いながら、緊張気味に話しかける。


 「えっと……わたしは新入生の咲真しおり。学校まで案内してほしいんだけど、一緒に行ってもいいかな?」

 「う、うん、私もひとりだから……その、良かったら」


 少女は目を惹く見た目の割におどおどした様子でそう答えた。そして思い出したように

 「あ、えっと、名前は山吹 金糸雀(やまぶき かなりあ)って言います」
 
 その、よろしく、と緊張気味に告げた。



 駅から学校までは歩いてしばらくかかるらしいが、しおりと金糸雀以外の生徒は周囲に見当たらない。
 野鳥の声が聞こえる朝ののどかな野道を二人は歩いていく。


 「金糸雀って言うんだ!きれいな名前だね」
 
 「そうかな。でも長いから、好きに呼んでもらえると……」

 「うーん、そうだ!じゃあ、カナって呼んでもいい?」


 その問いかけに金糸雀は驚いたように目を丸くしていたので、「あ、嫌だったら、いいんだけど」としおりは慌てて言った。


 「ううん!私、あんまり名前で呼ばれたことがないから、嬉しくって。ありがとう、しおりちゃん」

 ふんわりと微笑む金糸雀を見て、しおりは改めてきれいな子だなあと感じた。


 金糸雀の胸元には朝緋と同じ金の折鶴の紋章があった。内気で大人しそうではあるがどこか気品があるその出で立ちは、やはり名のある家で育った子女であると感じ取ることができた。

 
 「カナは、すごいお家の子だよね?わたしは素人だから家名とかはよく知らないけど、金の紋章はめてるし。なのに、どうして列車で来たの?」


 式術学院は人目のつかない山奥に立っているので最寄駅までが遠く、また荷物も多い新入生は車で送ってもらう者が多いと聞いていた。

 最初に出会った朝緋もそうなのだが、金の紋章を持つ金糸雀こそ豪勢な車で送ってもらいそうな生徒であるだろう。


 「うちは、すごいっていうか、有名なお家ではあるけど……。私、小さいころから式術の勉強しかしていなくて、その、お友達がいないの。
  式術師で有名なお家の子たちはその子たち同士で固まっているから、入学式までにお友達を増やしたくて。だから、列車で来たんだけど……」

 今日、しおりちゃんに会えてよかった、金糸雀は気恥ずかしそうに微笑んだ。


 ずいぶん厳しいお家で育ったんだなあ、としおりは感心していた。
 式術師界で有名らしい朝緋が気安く呼びかけるくらいだから、もしかしたら金糸雀本人、とても有名な人なのかもしれない。


 「やっぱり、すでに式術を学んでいる子たちはその子たち同士で仲がいいんだ。
  わたしは見てのとおり素人で名家のあれこれも全くわからないけど、よかったら色々教えてほしいな」

 「うん!もちろんだよ。こうしてきちんとお話ししてくれるの、しおりちゃんが初めてで。とっても嬉しいんだ」

 「きちんとって、同じくらいの年齢の子たちは今まで誰も話しかけてくれなかったの?」


 さらりと告げられた事実に驚いてしおりは聞き返す。こんなにかわいくて気品のある子、誰でも友達になりたいと思うはずなのに。
 金糸雀は少し表情を曇らせ、申し訳なさそうに告げた。


 「うん、なんか、気分が悪くなるって言われて。私の持つ霊力のせいらしいんだけど……。
  しおりちゃんは、大丈夫?」


 「ぜんぜん大丈夫だよ!わたしがカナを見て最初に思ったのは、かわいくて綺麗で品のある人だなあって、それだけ」


 しおりはそう言ってカナに笑って見せると、「ありがとう」と金糸雀もほっとしたように笑顔になった。




 「あっ、あれが学校!?すごーい、お城みたいだね!」

 話しているうちに近くまで歩いていたらしい。野道の開けた先に、折鶴の紋の掘られた校門がそびえたっている。

 校門前には何台もの車が入っては出て、しおりや金糸雀と同じ漆黒のセーラー服、学ランを来た生徒が大きな荷物を抱えながら登校していた。


 はしゃぐしおりを微笑ましく見つめながら、金糸雀も校舎と大勢の生徒を眺めつぶやく。
 

 「本当に、いつ見ても大きいよね」

 「あれ、カナは一度来たことあるの?」

 「うん、一度だけ。兄さまがここの卒業生だから」
 
 「そうなんだ。お兄さんも綺麗な人だったんだろうなー」

 しおりのつぶやきを聞いて、金糸雀は可笑しそうに笑った。


 「まずは入学式で、それから寮決めかあ。それじゃあ、改めてよろしくね、カナ」
 
 「うん。こちらこそ」


 新入生の皆さんは講堂にお集まりください、と上級生らしい男子生徒が声をかけていた。
 能力系統を調べるための寮決めが後から行われるため、二人は指示された場所に荷物を置いて講堂へと向かった。


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