コメディ・ライト小説(新)

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青春インシデント
日時: 2017/02/26 14:56
名前: 七糸

□ご挨拶
 はじめまして、七糸(ななし)と申します。
 まずはこの小説を開いてくださり、ありがとうございます!
 一人でも多くの方に楽しんでいただければと思っています(^◇^)
 感想、アドバイス、誤字脱字への指摘いつでもお待ちしております。
 ぜひお気軽に声をかけてくださいませ◎
 

□登場人物
 
【高一】
 ・柳つばき(Yanagi __)/真顔マスク
 ・赤峯理衣(Akane Rii)/雄々しい清楚系
 ・水本一輝(Mizumoto Kazuki)/KYもどき
 ・白崎由希音(Sirasaki Yukine)/純粋ツンデレ

【高二】
 ・藤坂圭人(Hujisaka Keito)/カッコつけ馬鹿
 ・黒岩創志(Kuroiwa Sousi)/腹黒好青年

【高三】
 ・青井篤基(Aoi Atsuki)/ダブった裏ボス


□目次

一章/知り合いと親友とクラスメイトとえとせとら >>2-6
二章/不器用な本音と彼女のヒーロー >>7-9

Page:1 2



Re: 青春インシデント ( No.5 )
日時: 2017/01/16 16:09
名前: 七糸


 私はきょとんとした。
 するとすぐに目を細めて、唇はまた綺麗な弧を描く。

 雛子ちゃんがけばけばしいメイクをした上級生にゆるく声をかけた。銀髪さんが入れ替わるように、私の隣に立つ。

「きみがケイが言ってた子?」

 刺激的な外見に反して、物腰は柔らかい。浮かぶ微笑みにも含むところはなく、私は自然と聞き返した。

「ケイさん、とは……?」

「圭人だよ。藤坂圭人。あれ、違う? 会ったでしょ?」

 だから誰だよ。
 眉を寄せる私を不思議そうに見て、銀髪さんは首を傾げた。さらりと流れた髪の間からピアスが覗く。

 ——なんかデジャヴ。
 と同時に、開けっぴろげな笑い声と、ピンクの包みが頭にひらめいた。

「もしかして、屋上の」

 ぱっと銀髪さんが明るく笑った。

「そうそう。俺もあの上にいて——まあ寝てたんだけど——昼休み終わったあと、ケイがなんかご機嫌でね。面白いマスクちゃんのこと教えてくれたんだ」

 面白いマスクちゃん……なんて言い方してくれてんだ。
 こっそり肩を落とす。にこにこする銀髪さんの言葉を反芻した。

 ケイ、藤坂圭人さん。妙なところで名前を知ってしまった。


「俺は黒岩創志。二年五組」

 銀髪さん、もとい黒岩先輩がうながすように私に手の平を向ける。ちょっとした間のあと、求められているものに気づいて慌てて口を開く。

「柳です。一年二組」

 下の名前は故意に言わなかったけど、彼は気付くだろうか。そっと顔をうかがう。
 けれど心配することはなかったようだ。

 私の名前よりもクラスの方に気にかかるところがあったらしい。

「一年二組って——」

 
 そのとき、厳しい口調のソプラノが黒岩先輩の言葉をさえぎった。

「ちょっと創志っ!」

 廊下の向こうから駆けてきて、詰め寄ったのはなんと白崎さんだった。目尻をぎゅっと上げ、いら立ちをあらわにしている。私と相対する時の比ではない。
 一個上の先輩に向かってかなりの剣幕。
 名前を呼んだところを見ると、元々の知り合いだろうか。

 さりげなく一歩横に逸れた。はらはらしつつも、面倒ごとの予感に逃げ出したい衝動に駆られる。
 そんな私を尻目に、黒岩先輩はことさらに笑みを深めた。

「おはよ。本当にユキが同じ制服を着てるとは。白崎のおじさんはやっぱり寛容だね」

「黒岩の不良息子さんが、私のクラスメイトになんの御用?」

「幼なじみとくらい、会話のキャッチボールしようよ」

 白崎さんがポニーテールを揺らして突っかかるのを面白がるように、黒岩先輩はずっと笑っている。

 私はスクールバッグをそっと抱えた。人の注目が集まってきている。こんな美少女と銀髪イケメンが、朝っぱらから往来で騒ぐんじゃない。
 痴話喧嘩かと思われているのか、先生たちも声を掛けかねている。
 

Re: 青春インシデント ( No.6 )
日時: 2017/02/26 15:00
名前: 七糸

 
 もう二人のことは放って教室に行ってしまおうか。決めかねていると、視界の端で雛子ちゃんが自身の腕時計をそっと指した。

 時間……?

 そうして顔の前で申し訳なさそうに手を合わせると、あっさり階段へと消えてしまったのだ。
 嘘でしょ、逃げやがった。
 すると周りの野次馬もそそくさと自教室に向かっていく。他の教師陣も同様だ。
 隣をちらりと見た。

 白崎さんはまだまだヒートアップ中。これはりーちゃんと張るな。正面で笑う黒岩先輩は、私に目配せすると、小さく肩をすくめた。
 この状況を面白がっているらしい——理解できない。

 と、ぱたぱたと軽い足音がした。玄関の方から、誰かが走って近づいてくる。
 細い四肢に、焦げ茶のロングヘア。飾り気のないスクールバッグ。


「りーちゃん」

 待ち人兼、思わぬ救世主に思い切り手を振る。
 走ってきたりーちゃんはスピードを緩め、けれど足を止めずに、

「あれ、つばき!? 白崎も……何やってんの? あと一分すればSHR始まるよ! 遅刻!!」

 つばき、そうやって呼ぶのはりーちゃんと家族だけである。閑話休題。


「まじで!?」

 私と白崎さんの声がかぶった。
 うちのクラスの担任のおじいちゃん先生は、どうしてか朝のSHRをとても重要視している。授業には遅れても、朝遅刻するのだけは許してくれない。
 四月、遅刻した男子を、こんこんと諭し説教していたのは軽くトラウマだ。

 これはまずいと白崎さんと顔を見合わせ、一足早く階段を駆け上がるりーちゃんを追った。
 一年生の教室は四階だ。

「カウントダウンしようか? あと三十二秒ー」

 背後から黒岩先輩の声が追ってくる。
 階段を一段飛ばしに走りながら、白崎さんは顔をしかめ、私はぐいっとマスクを下げた。

「バカ!! いらない!」
「焦るからやめて!」





「もう、創志のせいだ……」

「白崎さんが変に絡んでたせいだよ……」

「二人とも、もう少し体力つけたら?」

 以上、この会話で結末はお察しだろう。

Re: 青春インシデント ( No.7 )
日時: 2017/02/25 16:46
名前: 七糸

 ガコン、と音を立ててパックの飲むヨーグルトが落ちた。ほどよく冷えたそれを屈んで取り出す。購買戦争に負けないよう、先に買っておいた焼きそばパンとサンドイッチも忘れずに持って、教室へ足を向けた。

 渡り廊下を抜けて右手にあるのがランチルーム。その扉のすぐそばに購買部がある。
 今日も今日とて大盛況のようだ。パンなんかは不人気の何種類かを残し、ほとんど売れてしまったらしい。
 午前の授業が終わって十分程しかたっていないのに、食べ盛りの高校生は恐ろしいことだ。



「ごめんなさいね、その辺りは売り切れちゃったのよ。苺ジャムのなんかどう?」

「俺いちごムリ……」

「あらあら」

 と、購買戦争に敗れたらしき生徒がひとり。顔を覆っておばさん相手に嘆いていた。

 ちょうど前を通るその時、ちらりと横顔が見えた。
 忘れようにも忘れがたい、冷たく整った顔立ち。それを崩すいたずらっぽい表情と口調。——全体像を見るのは初めてだ。


「……生首さ、……フジサカさん」

 とっさに『生首さん』と失礼極まりない呼び名を出しかけ、慌てて言い直す。
 ぱっと彼が振り返った。

「柳サン?」

 そっちもなぜ私の名前をご存知か。
 大方、黒岩先輩から聞いたのだろうとは思うけれど。

 こちらから呼んでしまった手前、通り過ぎることもできない。何やら微笑ましそうな購買のおばさんと、きょとんと鋭い目を開く藤坂さんに近寄った。

「こんにちは」

「おぉ、こんにちは」

「あなたはさっき来てくれたわね。飲み物は買えた?」

「はい、無事に」

 愛想のいいおばさんに返事をする。何を隠そう四月入学当初、自販機の場所に迷う私を案内してくれたのが、このふっくらしたおばさまなのだ。


 パンのケースを一通り見回す。残っていた苺ジャムのパンをお金と一緒に渡した。

「あなた小さいのによく食べるのねぇ」

「これから伸びる予定です」

 悪気なく傷口をえぐってくるおばさんに言い切る。来年までに十センチ。伸びるはずだ。信じてれば叶うとどこかの誰かも言っていた。


 ジャムパンを受け取って、抱えていた中から焼きそばパンを藤坂さんに差し出した。

「どうぞ」

 彼は眉を寄せた。視線が私の顔とパンを行ったり来たりする。
 無駄に整った顔で怪訝そうに見つめられると、さすがにたじろいでしまう。自分の容姿による威圧感を考えてほしい。

 ……余計なお世話だっただろうか。それとも焼きそばパンもNGだった?
 不安がちらりとよぎった時、

「よかったじゃない! 女の子の好意は素直に受け取るものよ」

 カウンターの向こうでおばさんが穏やかに言った。ついでに片目をつむる。うん、お茶目。

 藤崎さんがつられたように笑い、私の頭に手を置いた。

「じゃあありがたく」

「いえ」

 最後に髪をくしゃりと撫でて手を下ろす。



 
 購買部を出た先で、今度こそ教室に戻ろうと階段に足をかける。これは、りーちゃんは先に食べてるだろうな。

「あー柳さん、待て待て、お金返すから」

 慌てたような藤坂さんに、はたと足を止める。
 あぁ、お金。

「意外と律儀ですね」

「君は意外と言うね」

 後輩にたかるような事しねーよ、と言ったまではよかった。が、制服のポケットに手を置いたまま藤坂さんは固まってしまった。


「…………財布、教室置いてきたわ」


 つまりジャムパン以外があっても、財布がなかった彼はなにも買えなかったわけで。
 我ながらいい仕事した。ぐっじょぶ私。

 肩を落とした藤坂さんが、何か考え込む仕草を見せる。
 お金は今度でも構わないんだけど。今返してもらわなければ困る額でもない。

 そう声をかけようとした私は、次の藤坂さんの言葉にぽかんとする他なかった。

「一緒に食べません?」

 
 どうしてそうなった。

Re: 青春インシデント ( No.8 )
日時: 2017/01/30 00:12
名前: 七糸

 間抜けた表情をひきしめ、言葉を探る。

「一応、教室に人待たせてるんですけど」

 第一こんな人と一緒に食べるなんて、私は明日からどうなるんだ。これだけ顔がいいなら、ファンクラブくらいありそうだ。確実に刺される。
 女の嫉妬は怖いのだ。明日辺り後ろからグサッと来そう。

「あーそうだよな、普通教室で食うか」

 妙な納得の仕方をする藤坂さん。

 そのとき、カーディガンに入れていたケータイが低く唸って着信を告げた。
 一言断って見てみると、りーちゃんからだった。

『遅い』
『委員会の当番に行ってきます』

 うわ。
 何にか知らないけどドン引いた。しいて言うならタイミングの良さに引いた。

 ひきつった私の目を見留めて、藤坂さんが不思議そうにしている。
 諦めてケータイの画面を彼に向けた。

「一緒に食うってことでオーケー?」

「……オーケー」

 にっと笑う藤坂さんに、そう返す他なかった。



 ご機嫌に向かったのは、渡り廊下を抜けた先の別校舎だった。本校舎と違って二階までしかなく、技術科目で使う特別室が並ぶ。
 一年生は授業ではまだ使ったことはない。


 階段を上る藤坂さんは、ふと思い出したように言った。

「俺のことは呼び捨てで呼んで。さん付けも先輩呼びも却下」

 敬語も外せばなお良い、教科書のような堅苦しい言い方で付け足す。
 何言ってんだこの人。

「……藤坂さん」

「ムリ。名前知ってるだろ。圭人だ、けいと」

 ムリってなんでしょうか。後輩相手になんて要望。
 意外と子どもっぽい藤坂さんに、こっそり脱力する。


「いいじゃん、ユキだって呼び捨てだし」

「ユキ……白崎さん?」

 階段の踊り場で一瞬陽の光が差し、通り過ぎるとまた薄暗い廊下に戻る。

「そ。俺と創志、ユキの三人で小学校からの腐れ縁。ユキと創志は家も近いし、もっと前からの付き合いだけど」


 数日前の朝の痴話喧嘩を思い出す。小学校以前の付き合いなら、あの遠慮のなさも納得だ。


 資料室3という教室の前で足を止める。藤坂さん——もういいや、圭人が躊躇なくドアを開けた。

「ここな、秘密基地」

 頭を反らして、後ろの私にニヤリとする。

 ……ちょっと可愛いとか思ってしまった。
 秘密基地、か。

 ドアの隙間から、ひとまず顔だけを覗かせてみる。が、圭人はそれを許さず、ぐずぐずするなと言わんばかりに私を中へ引き入れた。

「教師に見つかったら面倒なの。はよ入れ」

 けつまづくように教室へ飛び込んだ。


 資料室というだけあって、たくさんの書類や、地理で使うらしい地図や表、生徒会の目録が塚のように積まれている。
 文化祭に使うような看板や足の折れたイス。パイプイスの折り重ね乗せられた車輪まであった。
 正直、印象としてはただの物置である。

 圭人は教室の奥へ進んだ。
 へこんだロッカーが二つ並んでいる。そこに破損した黒板が、垂直になるように突っ立ててあった。
 壁とその二つのロッカーの間には、カラフルなテープが簾のように張っており、向こうのスペースを隠している。


「たでーま」
 
 ただいまを大分崩した挨拶で、テープをかき分けて中へ入る。
 かったるそうな圭人に返す声があった。


「おかえり」

「おかえりー、遅かったな」

 それも二つ。

 思わず顔をひきつらせた。聞いてない。
 
「ほら、来いよ」

「え、ちょっと圭人、誰連れてきたの?」


 怪訝そうな可愛らしいソプラノで察する。刺々しくない声音は本当に可愛らしい。
 手招きする圭人を、割と本気で殴りたくなりながら、私はそっと『秘密基地』に足を踏み入れた。


「……は?」

「あれ、ヤナちゃん」

 私を迎えたのは、想像通りのお二方。
 目が合った瞬間、秒速で険しい顔になった白崎さん。そして、いつの間にやら親しげな呼び名を付けてくれたらしい黒岩先輩だった。

Re: 青春インシデント ( No.9 )
日時: 2017/02/26 15:09
名前: 七糸


 サンドイッチをもそもそ咀嚼しながら、ちらと隣を見やる。すぐに手元へと視線を戻した。ず、と飲むヨーグルトを吸う。


「お、レアカード来た」

「ケイ、ハート」

「お前はまたかよ」


 決して広くはないけど、四人くつろぐには十分なスペースを確保した『秘密基地』。
 閉じられたカーテンは時折湿った風を受けて膨らむ。この教室棟は中庭に面しており、生徒の喧噪も小さく届く。

 狭いスペースの対角線上では、圭人と黒岩先輩がスマホ片手にぽつぽつと話し続けている。二人は所々へこんだロッカーを横に倒し、その上に座っていた。なんという活用方法。
 話している内容はゲームのようで、私にはさっぱり分からない。けれど、二人の間の空気感は自然で、いつもこうやっているんだろうなと容易に想像できる。


 が、連れてきたあげく私を放っておくのはいかがなものか。
 隣に座る白崎さんとの沈黙は正直、大変いたたまれない。普段あれだけ気に食わないオーラを食らっているのであるからして。


 私と同じようにパイプイスに腰を落ち着ける白崎さんは、一足先に昼食を食べ終え、クッキーの袋を開けていた。

 お弁当袋からカバーのかかった文庫本を取り出して読み始める。ちょっと意外だ。目の前の男の子二人と同じくケータイでもいじり出すかと思っていた。

「……なんて本?」

 ちょっと尻込みしながらも尋ねると、白崎さんはこちらをみて、驚いたように二度三度瞬きした。
 唇をとがらせて告げられた題名は、私には聞き覚えのないものだったけど、カバーを外して表紙を見せてもらうと、

「あ、本屋で見たことある」

 綺麗な表紙だったから覚えていたのだ。そう言うと、白崎さんの頬が薄く桃色に染まった。ぱっと顔を上げて、少し表情を明るくする。

「私も表紙につられて買ったの。内容も冒頭でちょっとびっくりするんだけど、面白くて。ファンタジーっぽいの好きならおすすめする。いま半分くらいまで読んだんだけどね」

 私はあっけにとられてしまった。
 いつもの刺々しい態度は鳴りをひそめ、楽しげにその本のことを教えてくれる。
 うろたえると同時に、本当に本が好きなんだなあと少し微笑ましい。


「……よかったら、今度貸す、けど」

「えっ」

「っやっぱり絶対貸さない!」

 ぽかんと口を開けた私を見るなり、眉をきっとつり上げて顔をそむけた。本をぱたんと閉じる。

 なんというか、今日は驚いてばかりだ。

 やっべ充電なくなりそう、と圭人が小さく呟く声。


 小さな子どものようにそっぽを向く白崎さん。私はその横顔に言った。


「うん、良ければ今度貸してほしい」

 


 何個目かのクッキーをもそもそ食べていた白崎さんが、ぽつりと呟いた。私はヨーグルトの紙パックをたたみながら耳を傾ける。

「……入試のとき」

 ぱっと横を向く。
 白崎さんは私の視線を避けるようにうつむいた。彼女のポニーテールの先が、うなじを撫で、鎖骨のあたりに滑り落ちる。
 焦げ茶の瞳をけわしくさせながら、どこか必死そうな光に、私はおそるおそる聞き返した。

「入試?」

 こちらを見ないまま、白崎さんはこくりとうなずく。それきり唇を結んでしまった。

 えーと……。
 高校入試のことらしいけれど、なにかあっただろうか。


「……寒かったよね」

 下手か自分。内心頭をかかえる。今時の女子高生が、どうして天気の話題で会話を広げようと思った。


 圭人と黒岩先輩も液晶に釘付けで、助けは望めそうにない。この現代っ子たちが。

 沈黙を破ったのは白崎さんの方だった。


「どうせ、思い出さないでしょ。私は、別に、ただ」

 言葉をつなげることも出来ずに、ただ並ぶ単語の羅列。
 思い出さないって、私が? なにを。

 途切れ途切れに吐く、自分自身のセリフにじれたかのように見えた。
 いら立ちが瞳ににじみ、白崎さんは立ち上がる。
 半分近くは残っているクッキーの袋を私に押し付ける。そうして、私が口を開くのを許さないように、きっぱりと言い放った。

「帰る」

 きつい声音と反して眉を少し下げた表情をふいとそらし、その言葉通り、白崎さんは小さな秘密基地から出て行ってしまった。
 しきりの向こうで教室の扉を閉める音がし、足音が遠ざかっていった。



「帰るって、家にか?」

「馬鹿、ケイじゃあるまいし。教室だろ」

 戯れのような掛け合いに、のろのろと視線をそちらへ移す。

 
 白崎さんとお互い、少しは印象が変わってくれたかと思った矢先にこれだ。
 正直、私が悪かったとは思えない。けど、私がなにかしてしまったんだろうとは思う。

「わざわざ、白崎さんを怒らせるために連れてきたんですか」

 感じの悪い言い方とは自分でも感じるけれど、それ以外になんと聞けばいいか分からなかった。

 圭人があぐらをかくように片足を持ち上げ、座るロッカーの上に乗せる。手に収まっていたケータイを横に置いた。

「まさか。つーか、アレを怒ってるって思うの?」

「なに見てたんですか。絶対いらついてました」

「苛ついてはいたかもしんねぇけどさー」

 訳知り顔で、のらりくらりと返してくる。何が言いたいんだと視線で訴えると、圭人はにやりと笑みをうかべた。


「誰に対して苛ついてたんだと思う?」

 ……誰にって、私しかいないじゃないか。
 憮然とする。押し付けられたクッキーの袋の端を折って、手首の髪ゴムで留める。ヒントを出すふりしてなにも教える気はないんだ、この人。


「ヤナちゃんって意外と鈍いねぇ」


 ぱっと顔を上げる。
 黒岩先輩が穏やかに私を見ていた。

「否定はしないです」

「というか、鈍いフリしてる?」

 口の下に引っ張っていたマスクを定位置に戻した瞬間、鋭く切り込む静かな声。目を見張る私に対して、黒岩先輩の表情はあくまで柔らかい。

「言葉の裏も表情の裏もちゃんと見てるのに、その意図はガン無視かな。見ないフリして済ませようとしてるでしょ」

「おーい創志」

 圭人がたしなめるように一度、名前を呼ぶ。
 それでも止まらずに、そのスタンスは否定しないけど、と彼はさらに前置きを重ねる。


「ちゃんとヤナちゃんと話したいって思ってる相手にとっては、結構腹立つと思うなぁ」

 たまらず私は立ち上がった。
 どうしてここまで言われなきゃいけないんだ。私が悪かったって言うのか。子どもじみた思考がぐるぐると渦巻く。

「すいません。私も戻ります」

 それでも平静と変わらない自分の淡々とした声音。かすかに震える唇をマスクの下で噛みしめて、二人に背を向けた。



 薄い壁とも言えない仕切りの向こうから届く、残された圭人の呆れたような呟き。続く黒岩先輩の涼しげな声。

「お前なぁ……」

「悪かったって」

「俺に謝ってどうするよ。今日のはどう考えてもユキが原因だし、お前はなにがしたいんだっての」

「ほら、俺は人様を引っかき回すくらいしか脳がないから」

「だからって、ユキのヒーロー様引っかき回すか?」

「あ、やっぱりそうなんだ」

「分かんねぇでやってたのかよ!?」


 ……さっぱり分からない。
 くすぶった気持ちと、僅かに浮かんだ疑問とで頭を埋め尽くされながら、私は後ろ手で扉を閉めた。


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