コメディ・ライト小説(新)
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 突然ですが、切らせてください!
- 日時: 2017/10/24 01:27
- 名前: sora
私の名前は栗林春香。
自分で言うのもあれだけど、眉目秀麗。容姿端麗。才色兼備。
そして、自他共に認める美しい「髪」の持ち主である。
降り注ぐ日光を反射し、美しく光る栗色の髪を風になびかせ、人通りの多い道を堂々と歩く。
男女問わずその美しさ故に振り返らない者はいないほど。
そんな私の前に現れた彼。
開口一番、
「その髪、切らせてください!」
大声で叫んでおいて照れるという、まるで告白のような雰囲気を醸し出している、この人。
(うわ、絶対遊び人だ…早いとこ逃げなくちゃ)
じり、とヒールを後ろへ引きずる。
周囲の視線が痛い。体に穴があきそうだ。
「なんかよくわかんないけど…さようなら!」
その言葉を合図に、私はヒールにも関わらず人混みの中を縫うようにして、全速力で逃げた。
ひたすら逃げた。
行き交う人の多くが私を見ている。
(大丈夫…)
どうせこの髪に惹かれただけだから。
この性格じゃ、たとえ私がいかなる美貌を兼ね備えた女だったとしても、恋人どころか男友達すら不可能。
異性がこんな調子だと、同性ならなおさら。
息を切らしつつ、馴染み深い看板を視界の端に捉える。
(勝った…!!)
Page:1
- Re: 突然ですが、切らせてください! ( No.1 )
- 日時: 2017/10/24 01:29
- 名前: sora
内心、春香はガッツポーズのまま、ベルを鳴らし店内へ滑り込む。
そして何事もなかったかのように平然を装い、立ち上がってスカートの汚れを払う仕草をする。
赤色の丸いポシェットを肩に掛け直し、オーナーににこっと微笑む。
…というのは仮面上での話。
今の春香には関係ない話である。
「オーナー、いつもの」
「あーい」
黙っていれば綺麗なのに。
何度言われたことだろう。
喋り始めた途端相手に引かれるというケースも少なくな…いや、限りなく多いと言っていい。
それが大半だと言っても過言ではないほどに。
「ねー、聞いてよさぁ」
「何。」
「なんかさ、さっきよくわからん男の子に『髪切らせてください!』なんて言われてさぁ」
「うん。」
「逃げて来やったけど、何やったんかなぁ」
「カットモデルじゃない。」
そうなのだ。
春香の喋りには独特のクセがある。
普通、人はこれを聞くと一瞬にして会話する気を失うんだそう。
この癖の強い春香の喋りにビクともしないのが、ここ、"lala terrace"のオーナー、透さん。
この人もまた変わってて、この「!」でも「?」でもない、「。」のついた話し方をする。
そうかなぁ、そうやとええなぁ、なんてぼやく彼女に、無言でカプチーノを差し出す透さん。
それを先ほどとは別物と呼べるくらいの純粋な笑みをたたえ、静かに口をつける春香。
変わり者同士、かなり気があうようだ。
今日もあまり客を寄せないこの店、"lala terrace"に、天井に吊るされた電球が震えるような春香の声が響いた。
「美味しい〜!!!」
- Re: 突然ですが、切らせてください! ( No.2 )
- 日時: 2017/10/24 01:47
- 名前: sora
からんからん…
「あらー、春ちゃんこんにちは」
「綾ちゃん…!」
軽快なベルの音とともに入店してきたのは、ここのスタッフの綾ちゃん。
すらっとしていてスタイルがよく、背が高い上にショートカットだからよく男子に見られるけど、一応女子。
金髪というよりは亜麻色という方がふさわしい気がする彼女の髪は、色合いもあってか電気がうっすら透明感を与えてて、とても綺麗。
一時期、綾ちゃんに憧れて髪色を変えようとしたら綾ちゃんに猛反対をくらったことがある。
それもあってか、この歳でまだ一度も髪を染めたことがない分髪質も昔から変わらない。
「佐伯くん、お疲れ。その箱そこらでいいから。」
「わかりましたー」
段ボール箱を何個か積み重ねると、春香の隣に腰を下ろした。
そしてオーナーに何かしら注文すると、に、と笑って話しかけてくる。
「春ちゃん、どう? 最近。なんか面白いことあった?」
「それこの間も聞かれたぁ! んー。特に…あ」
「何?」
「今日知らん子に『髪切らせてほしい』て言われた」
「えー、どんな子?」
瞳を輝かせて問うてくる綾を横目に、春香は懸命にその少年の顔を思い出そうと試みた。
「えーとねぇ…」
Page:1