コメディ・ライト小説(新)

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問題だらけの新婚夫婦
日時: 2017/11/11 09:38
名前: 榊

愛を誓った夫婦同士にも、問題だってあるのです。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


初めまして、さかきという者です。初となるこの作品、頑張っていこうと思います。
僕達の住んでいる世界とは違う世界で、ある日夫婦になった二人が戸惑いながらも世界を救っていくという、色々なジャンルが混ざっていますが基本的には明るくいきたいと思います。ラブ4割バトル1割コメディ5割と言った感じですかね。
誤字脱字の指摘や物語に対するアドバイスやコメントなど、大歓迎です。是非良かったらコメントしてくださいね。作者のモチベが上がります(о´∀`о)
それでは、『問題だらけの新婚夫婦』始まりです。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇
○プロローグ○
>>3
○第一章 二人の約束○
第一話 結婚 >>4
第二話 結婚-2 >>5
第三話 結婚-3 >>6
第四話 結婚-4 >>8
第五話 終幕は突然に >>10
第六話 終幕、開幕 >>11
第七話 二人 >>12

短編-1 親 >>7
短編-2 魔法とは>>9


◇ ◆ ◇ ◆ ◇
2017/11/1 執筆開始


◇ ◆ ◇ ◆ ◇
○コメントをくれた皆様方、いや、神様方○
◆四季さん

Page:1 2 3



第一章 二人の約束 ( No.8 )
日時: 2017/11/07 21:40
名前: 榊

第四話 結婚-4


──何だ何だ、何が起きたんだ?
──あの子が突然走ってどっか行ったのよ。
──いやいや、何が起きたんだ?
──私に聞かれても分からないわよ。


突然のアスミの退場に困惑する村人達。
当然の事だろう。
結婚式の最中新婦が。
何故だか突然逃げて。
困惑しないはずが無いのだ。


(はぁ……。流石はイルの嫁って言ったところか。中々狂ってやがる)


突然のアスミの退場に溜息するタナトス。
当然の事だろう。
子同然の様なイルの嫁は。
イルと同様おかしい子で。
溜息しないはずが無いのだ。


「え、ア、アスミ!?お前さん一体何を……どこへ行くのじゃァァァァ!?」


突然のアスミの退場に叫び出す村長。
当然の事だろう。
頑張って女装までしたと言うのに。
その努力も知らずアスミは去って。
叫び出さないはずが無いのだ。


「もう恥ずかしいとか照れるとかそういう感情通り越して混乱してるわよ〜‼︎」


突然退場し泣きながら走るアスミ。
当然の事だろう。
ただでさえ恥ずかしくて死にそうなのに。
世界を救うだの何だのあーだのこーだの。
泣きながら走らないはずが無いのだ。


「アスミ、どこ行くんだ!?アスミー‼︎」


走り去るアスミを式を放棄し追いかけるイル。
当然の事だろう。
走り去ったから。
追いかけるまで。
追いかけないはずが無いのだ。


このようにして、神秘な雰囲気に包まれ終えるはずだった結婚式は。
しかし予定とは裏腹に、夫婦がいなくなる最悪の事態を招いていた。
困惑し、溜息し、叫ぶ礼拝堂内の人間達。
逃げた新婦を追いかける新郎。
──もう一度だけ確認しておこう。
今日は結婚式──そのはずだ。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「なあアスミ、何で突然逃げ出したんだよ?」


村の北側に位置するアスミの家に、二人はいた。
走り疲れたアスミと、何とか追いついたイルだ。
礼拝堂から逃げ出したアスミは、自らの家に逃げ込んだ。
そこへ追いついたイルが無理やり家の中に入ったという始末だ。


「だって……その……色々いっぱいいっぱいだったし……。それに……」
「それに?」


息を切らしながらも何とか言葉を繋ぐアスミを気休めになるよう背中を撫でているイルは、不思議そうに聞いた。
返答は、思いもよらないものだった。


「それに……もう村の人達の視線に耐えられなかったから……」
「視線?ああ、確かに今のウェディングドレス姿のアスミは可愛いからなー、みんなの視線が集中するのも訳ないわな」


何故存在するかは分からないが、村長の家に置いてあったウェディングドレスを着たアスミは、美しいと一言では纏められない雰囲気を纏っていた。
茶化すイルに対し、しかしアスミは真剣な顔で、声を荒げ。
本心を、口にした。


「そうじゃなくって‼︎もう嫌なの、村の人達が私を恐怖や軽蔑の目で見てくるのが、もう耐えられなかったの……」


明かりが灯っていない暗い家の中で。
それでもイルにははっきりと見えた。
今にも泣き出しそうな、いや、もう泣いている、アスミの表情を。
その表情に込められているのは、何なのだろう。
悲しみ?孤独?怒り?
世知辛い表情を、アスミは浮かべていた。


「そんな事ないだろ、アスミは……」
「みんな私の事を嫌がってる‼︎みんな私の事を、嫌いなんだ‼︎」
「そんな事……」
「あるのよ‼︎だって……」


もし自分が、嫌がられていないのなら。
もし自分が、嫌われてはいないのなら。
もし自分が、受け入れられているなら。
もしそうだとしたら、一体何故。
村の人達は────


「だってみんな、私の事を名前で呼ばない。いつまで経っても、『あの子』としか呼ばないのよ‼︎それが全てでしょ!?」


もう何度、この言葉を口にしたか。
一体何度、村長にこう言ったのか。
アスミが泣きながらそう言うと、村長は何も言わず抱きしめてくれた。
その優しさは、温もりとなって伝わっていた。
だがそれでも、心まで温もりは届かなかった。
分かっている。このような事を言っても、現実は何も変わらない。
ただ弱音を吐き捨て、泣き喚いているだけでは、何も変わらない。
分かっていても、アスミはただ言葉にするしかできなかった。
どうすればこの悲しみは消えるのか、知らないからだ。


きっとイルは、村長と同じように慰めてくれる。
今はそれだけで十分だ。
きっとイルは、笑って済ましてくれる。
今はそれだけで十分だ。
今はただ、イルに隣にいてもらうだけで。それだけで十分────


「俺はお前の事をアスミって呼んでる。他人なんてどうでもいい。俺は、お前の夫である俺は‼︎アスミ、ちゃんと名前で呼んでる。これまでも、これからも」


視界が滲んだ。涙が止まらなかった。
嬉しくて、悲しくて、切なくて、嬉しくて。
アスミはイルに抱きつき、ひたすら泣き続けた。
いつ枯れるかも分からない程、泣き続けていた。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「……ねえイル、私ってイルの夫なんだよね?」
「あ、ああ。そうだな。うーん、なんだろ。照れるような不思議なような……」


突然何の前振りもなく聞いたアスミに。
頰を少し赤らめ歯切れ悪く答えたイル。


「夫婦ってさ、一緒に助けあったりするんでしょ?じゃあさ、イルの夢は私の夢でもあるって事なのかな?」
「アスミ……」
「私も、世界を救うだなんて言う馬鹿げた夢、持ってみようかな?って」


恥ずかしそうに、それでもはっきりと喋り続けるアスミ。
彼女の思いはただ一つ。
イルと同じでいたい。それだけだ。
いや──それは少し違うだろう。


「私、分かったの。泣き喚いていても、何も変わらないって。自分で動かなきゃ、何も変えられないって。だからさ、イル。私も、イルと同じ夢を掲げて、そして叶えたい。世界を救って、私自身を変えたいの‼︎」


何がアスミをここまで変えたのか、イルには分からなかった。
だがきっと、何かがあったのだろう。ここまで瞳を輝かせるほどの、何かが。
イルの答えは、もうすでに決まっていた。


「おう、一緒に世界を救おうぜ‼︎何たって俺達、夫婦だ。俺達二人なら、何だってできる‼︎気がする‼︎」
「気がするが余計よイル。絶対よ、絶対‼︎私達なら、何でもできる‼︎」
「なんかアスミ、変わったな。なんかあったのか?」
「それは──ううん、何でもない」
「何だよー、気になるだろー」


イルのおかげだよ。
そう言葉に出す事を、まだアスミはしなかった。
もし夢が叶って、世界が本当に変わって、もし心の底から笑える日がきたのだとしたら。
その時初めて、アスミは心の底からイルに感謝することができるだろう。
だから今は、まだお礼は言わない。
夢が叶うその日まで、取っておくことにしよう。


「じゃあアスミ、お前がようやく俺の夢に協力してくれる事になったから俺のこれからの予定を話すぞ」
「予定?何かするの?」
「当然だろ。何もしなきゃ変わらない、ってさっき自分で言ってたじゃねーか」


イルは咳払いして、語り始めた。
夢と希望に満ち溢れた、輝かしい表情で。
誇らしく、堂々と。
己の夢を、語り始めた。


「まずは俺、村の外に出ようと思うんだ」
「え?外って……大戦圏に?」
「そう。俺の目標は世界を救う事、つまり大戦を終わらせなきゃ何も始まらないんだよ。でも、この村の本からは大戦の終結条件に関する情報は何も得られなかった。だから俺は外に出る。もっと知識を手に入れて、大戦を終わらせるためにな」
「村の外に出るのは、もうすぐの事?」
「多分。本当はタナトスを説得させて外に行こうと思ってたけど、アスミが妻になってくれて本当に助かったよ、ありがと」
「う、うん……」


顔を真っ赤にして照れているアスミ。
その瞳には、未だかつてないような輝いている笑顔を浮かべているイルが映っていた。
不安はある。まだ世界を救うなんて無理だと思っている。
疑問はある。どうやって大戦を終わらせるつもりなのか。
そんな不安や疑問も、全て吹き飛ぶ様な笑顔を浮かべているイル。
アスミは確信していた。
この人となら、何だって出来るような気がする。世界だって、救えるような気がする。


「一週間以内には外に出たいな。多分相当な長旅になるからこの村にはしばらく帰ってこれなくなるだろうな……村長とタナトスをどうやって説得するかだよなぁ、問題は……」
「まあ、何とかなるんじゃない?」
「そうだな、何とかなる‼︎」


この先、どんな事が待っていようと。
イルと一緒なら超えて行けるだろう。
何故なら、夢と希望に満ち溢れた、自慢の────


夫だから。


「よーし、そうと決まれば早速説得だ‼︎今すぐ村長のところへ





ドゴォォォォォォォンッッッッ────────


爆音。そして爆風。
光と熱に包まれ、テレステオ村の北部は。
一瞬。ほんの一瞬で──


──消滅した。




第一章 二人の約束 ( No.9 )
日時: 2017/11/08 18:57
名前: 榊

再び短編。本編書くの疲れ(ry


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


短編-2 「魔法とは」


魔法。
人が怪物に立ち向かう事のできる、唯一の力。
はてさて、魔法とはどのような力なのだろうか。
そんな疑問を解決する為、とある村で行われている魔法の特訓を少し覗き見てみる事にしよう。
大陸の果て、テレステオ村。
さあ、一体ここではどのような魔法の特訓が行われているのだろうか。


「《エクス》───展開ッ‼︎」


少年の軽快な掛け声と共に響いた爆音。
あたり一面は丸焦げになり煙が立った。
はて、魔法とはこのようなものであるのか。
いや、自爆前提の魔法など使う者はいない。
これは失敗だ。


「ゲホッ……。まじかぁ、今のは成功したと思ったんだけどな……」
「魔法陣生成に時間がかかりすぎだ。魔力が篭りすぎて爆発したんだ。魔法陣を作る時は、もっと早くしないと今みたいに失敗するぞ」
「でもさ、魔法陣生成の時間を早くするとか無理でしょ?」
「無理じゃない。ほら、もう一回‼︎」


言い訳をしながらも立ち上がる少年、イル。
少し離れた所で腕を組み見守る大人、タナトス。
ため息をつきながらイルは右の掌を前へ突き出し、目を閉じた。
その瞬間、手の周りに様々な色の光る球体のような物が現れた。
これが全ての力の源、エレメントだ。
人が生まれながらにして持つ特殊な力魔力を手に集中させ、エレメントを手に集める。
そして、集めたエレメントで魔力を様々な物質に変える。この作業がいわゆる魔法陣の生成だ。
魔法陣の生成、と言われるだけあってこの作業の最中は掌の前に円形の模様が現れる。
何故このような現象が起こるかは不明だが、この魔法陣と呼ばれる模様から魔法は発せられる。どのような魔法であろうとだ。
今イルが発動しようとしている魔法は、初級魔法《エクス》だ。
魔法は全て初級、中級、上級、高等のいずれかに分類されている。
過去に魔法を発見し研究した人物が分類したと言われているが、真相は明らかでは無い。
だが、この階級は難易度によって確かに分けられている。
魔法における難易度というのは、使用するエレメントの種類の数、魔法陣の生成にかかる時間などで決まるが、一言で言うならば魔力の使用量で全てが決まる。
イルが発動しようとしている魔法の分類は初級。一番簡単な分類の魔法という事だ。
魔法陣を生成していたイルは目を開け、大声で唱えた。


「《エクス》、展開‼︎」


その瞬間、魔法陣はその形を歪ませた。
中心に向かい渦巻き、炎の球体へと形を変えた。
これが初級魔法《エクス》。炎の球体を発生させる、初歩的な魔法だ。
先程の爆発とは違い、成功したイルは笑顔でタナトスの元へ駆け寄った。


「よ、よっしゃ‼︎出来たぞ、出来たぞタナトス‼︎」
「よし、じゃあ次はその炎を操ってみろ。方法は分かるな?」
「当たり前だ!俺は自力でも魔法勉強してるんだからな」
「ほほう、それじゃあ見せてもらおうかね、勉強の成果を」
「言われなくとも‼︎」


初級魔法《エクス》は、あくまで炎の球体を発生させる魔法。
炎を操り攻撃する魔法では無い。
それでは、どうやって発生した炎の球体を操るのか。それは。


「《アイディー》、展開‼︎」


イルが発動させた魔法、《アイディー》こそがその方法だ。
任意の物体を思うがままに操るという内容の魔法だ。
この魔法の分類は初級。決して難しい魔法では無い。
だが、魔法をすでに発動している状態で魔法を発動する、《二重発動ドブル》と呼ばれる行為が非常に難しいものなのだ。
《エクス》だけでは炎を発生させるだけ。
《アイディー》だけではそこら辺にある物体を操るだけ。
重要なのは、《アイディー》で操れる物はエレメントが含まれている物体だけという事。
効果のある攻撃魔法を発動させたいのなら、《エクス》といった発生魔法に《アイディー》といったアシスト魔法の同時発動、つまり《二重発動ドブル》を行わなければならない。
魔法陣の維持、エレメントの同時使用、何倍にも上がった使用魔力量。
本来並みの人間では到底行う事の出来ない《二重発動ドブル》。
だがそれを、イルは成功させようとしていた。


「ど、どうだタナトス!今俺は、炎を操ってるぞ‼︎」


空中で動き回る炎の球体。それを操っているのは、イルだ。
このように、現実的に考えれば決して起こる事のない現象が。
魔法という力によって、人の手でも起こす事が出来るわけだ。
魔法には、限界が無い。
只ならぬ努力と、時間を費やす事によって、それこそ何でもできる事だろう。
世界を救うというイルの夢を叶える為に必要不可欠な力、魔法。
どうやらとんでもない可能性を秘めた、想像以上に凄い力だったようだ。


今後もイルとタナトスの特訓は続くが、ここらで覗き見るのは終わりとしよう。
まだまだ謎を秘めた魔法という力。
今後、少しずつその正体を紐解いていく事にしよう。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


短編というよりかはこれ、用語説明じゃね?
書きながらそう思った榊です。
今回は魔法について説明しましたが、はい。意味分かりませんよね‼︎
仕方ないです。語彙力が皆無に等しい作者が、説明できるわけがありませんでした‼︎
まあ、とんでもない力であるという事だけ伝われば幸いです。
さて、何故このタイミングで再び短編を挟んだのか、その理由を説明いたします。
まず最初に、サブタイを結婚として物語を進めてきましたが、次回の五話からはサブタイが変わります。ストーリーが一変しますので。そんな第一章ですが、作者の脳内では残り十話くらいとなりました。その十話の中で魔法が出てくるのですが、作中で説明しながら進めるのもなんかなぁ、と思い短編でやらさせていただきました。なんの説明にもなっていなかったと思いますが。
言いたい事は言い切ったので作者はしばらくトンズラします。短編もしばらくやらないと思います。それでは、引き続き第一章をよろしくお願いします。

第一章 二人の約束 ( No.10 )
日時: 2017/11/09 00:35
名前: 榊

第五話 終幕は突然に


イルとアスミが礼拝堂から去りしばらく経過した頃。
礼拝堂内には、村長とタナトスだけが、残っていた。
村人達が去りしばらく沈黙が流れていたが、タナトスが口を開いた事によってそれは破られた。


「……アスミちゃん、でしたか。中々面白い子でしたね」
「たわけ。式を投げ出すやつがおるか、まったく」
「イルと釣り合いそうで、何よりじゃないですか」
「むう、言い返せないのが悔しいわい」


二人の笑い声が、礼拝堂内に響き渡った。
村長とタナトス。この二人は、決して仲が良いわけではない。
だがそれは接する機会が少なかっただけであり、本来であれば二人は仲良くなっていたのかもしれない。
両親を亡くしたイルの親代わりになる事を決意してから、イルはあまり外を出歩く事をしなかった。
それ故に村長との付き合いは少なく、こうして顔を合わせて喋るのも数年ぶりなのだ。


「タナトス、お前さんはなかなか顔を出さんからな。こうして話すのも久しぶりじゃな」
「まあ、家に篭りきりでしたからね。イルと一緒にいる事だけが生き甲斐でしたので」
「……お前さんがこの村に来てから、もうしばらく経つのう。来たばかりの頃よりは笑顔が増えたものじゃ」
「それも全部、イルのおかげですよ。生きる意味を失っていた俺に、生きる意味を与えてくれた。あいつと共に生きていくだけで、俺は救われたような気がしますよ」
「そうか……」


語りながら、どこか遠くを見つめるタナトス。
その笑顔の奥に隠されている感情に、村長は気付いている。
あえて触れないでおこうと思っていたが、タナトスの笑顔は今にも消えそうなほど、儚い。
口にするのを一瞬ためらったが、それでも村長はタナトスにゆっくりと問いかけた。


「──悲しくは、ないのか?」


そう問いかけた瞬間、タナトスの笑顔が崩れるのが分かった。
が、再び笑顔を取り繕ってタナトスは答えた。


「悲しくない、と言ったら嘘になります。でも、これでよかった、という気持ちの方が大きいですね」
「どういう、意味じゃ?」


意味が分からず思わず疑問を投げかけた村長に。
偽物の笑顔を浮かべながら、タナトスは答える。


「イルは、世界を救うと言って止みません。そんな事、無理に決まっているのにです。だから、あいつには大事な人が必要だった。遠く離れた大きな夢よりも、近くにずっといる大切な人の方がアイツには必要だったんですよ」
「イルにとって……お前さんが、その大切な人では無いのか?」
「それは違います。俺は、あいつの親代わりであって、あいつの大切な人じゃない。いつまでもそばで、助け合っていけるような人間じゃないんです、俺は。それに──」


上を見上げ。
笑顔はそのままで。
しかしその表情が曇りかかり。
悲しげに、儚げに、小さな声でつぶやいた。


「俺の親としての役目は、もう終わりましたから」


そんな事はない。
その言葉を、村長はかけることができなかった。
村長は、タナトスがどんな人間なのか知っている。
それ故に、タナトスの言葉の意味が理解出来る。
アスミという存在がある以上、タナトスという存在はもう必要ないと。
もうイルのそばで見守り、共に生きていく理由は無くなってしまった。
きっと、タナトスはそう思っている。
かける言葉が見当たらず黙っていると、今度はタナトスが村長に問いかけた。


「そういう村長こそ、寂しくないんですか?アスミちゃんは、村長に育てられてたと聞きましたよ?」
「寂しいわい、当然じゃ。それでもわしは見守る。そもそも結婚を決めたのはわしじゃしな」
「そういえばそうでしたね。なぜ、あの二人を……?」


その理由を村長が語り出そうとしたその時。
突如普段は聞かない奇妙で謎の音が響いた。
風が強く吹いている時のような音。どこか不安にさせる大きな音。
その音を、タナトスは聞いたことがあった。
そして、反射的に礼拝堂から飛び出した。


「まさか……‼︎」


空を見上げ、目を見開いた。
目の周りに光る球体が集まり、その球体はやがて目の前で模様を描いた。


「《ビジョン》、展開‼︎」


光る模様、即ち魔法陣はタナトスが叫ぶと同時にタナトスの両目に刻み込まれた。
資格を強化する魔法《ビジョン》を発動し、本来見えない遥か遠くを目に映した。
しかし、映っているのは何も無いただの赤い空。
それに対し、タナトスは再び叫んだ。


「《二重強化ドブル》‼︎」


再び魔法陣が現れ、視覚を更に強化させた。
森を更に超え、村から遥か遠く離れた空。
そこには、多数の空飛ぶ戦艦の姿があった。
間違いない。


「機械族の戦艦……しかもこんなに‼︎なぜ……こんな大陸の果てに!?」


勢いよく飛び出したタナトスを追いかけ、礼拝堂から出た村長が見たのは。
絶望という言葉を体全体で体現している酷く驚愕しているタナトスだった。
その体は震えていて。
その顔は怯えていて。
この世の終わり。そう告げているようだった。


「タナトス……一体何があったんじゃ?」
「……村から離れた所で、機械族が争っている。それも、戦艦で‼︎」
「──‼︎その戦艦とやらは、やばいのか?」
「やばいなんてもんじゃない。波動砲は全てを焼き払い、頑丈な装甲は全てを弾く。機械族の作る物の中でも、相当たちの悪い方だ……俺が、この目で見ている。あれはまさしく悪魔の兵器だ」


村長に対し敬語で話すことすら忘れ焦っているタナトスの様子から、本当に危険な状況だということが伝わった。
しかし、一つだけ疑問が浮上する。それは。


「そ、そんな兵器が、なぜこの地に!?」


そう。ここは大陸の果て。
大戦の被害の及ばない、安全地帯のはずだ。
その近くでなぜ、争いが起きている?
そう疑問が浮かぶのは、当たり前の事だ。


「分からないが……。俺達の知らないうちに、大戦圏は広がっていたというのか?やつらの流れ弾が当たったら、村はひとたまりも無いぞ……」


突如として、平和は崩れ去る。
終幕は突然に無慈悲に訪れる。
何を勘違いしていたのか。
いくら大陸の果てだろうと。
いくら被害が及ばなくても。
永久の大戦に、真の平和など存在しなかった。


「タ、タナトス‼︎何か出来ることは……」
「とりあえず、村人を安全なところへ……クソ‼︎こうなった今、安全な場所なんてあるはずないのに……。考えろ……どうすれば、どうすれば良い!?」


記憶が蘇る。
まだ戦場に立ち、戦っていた頃の記憶が。
戦場でも、よくこのような場面に出くわした。
突如として訪れる最悪の事態に。
人は容赦なく決断を迫られる。
一つでも選択を間違えれば。
──人の命は、脆くあっけなく消える。


それが嫌だった。もう誰も失いたくなかった。
そんな理由で、この村に逃げてきた。
しかし、この地は戦場と何も変わりはしなかった。いや、この地だけではない。
所詮、この世界はどこへ行こうと戦場だった。
安息の地など、平和の地など、存在はしない。
それが現実。タナトスが目を背け逃げてきた、この世界の現実。
それならば。目を背け、醜く逃げてきたのなら。
せめてこの村だけは救わないと、逃げたままになってしまう。
この村だけは、守らなければ。
イルと共に生きてきた、この村だけは──‼︎


「村長‼︎俺が流れ弾が来ないか確認する‼︎もし流れ弾が確認できたら指示するからその通りに村人を逃がしてくれ‼︎多分、地下倉庫なら身は守れる‼︎頼んだ‼︎」
「──分かったわい。まったく、そこまで必死なお前さんなんて初めて見たわい。それこそピンチということじゃな。良かろう、村長の名にかけて村人とこの村は絶対に守ってみせるわい‼︎」
「ありがとう、村長‼︎じゃあ、早速村人に指示を──」

そう言い前を向き直し、再び遠くを見つめた時。
それはすでに、迫っていた。
目を逸らした瞬間、放たれていた。
この村をめがけ飛んでくる、波動砲が。


「ダメだ、逃げ──」


言うよりも早く。
音を置き去りにして光が弾け飛び。
衝撃と風が村を駆け巡り。
ようやく音が聞こえた時には、全身を熱が襲っていた。
光が消え。熱が去り。音が消えた。
視界が元通りになった。どうやら、タナトスがいた場所は無事だったらしい。
急いで村全体を魔法で見渡した。その結果。


「……タナトス、今何が……」
「……村の……村の北側が、消えた……」


そう。消えた。
跡形も無く、消え去った。
目の前には無い遠くの景色を目に映すタナトスは。
自分に対する怒りでいっぱいになっていた。


「クソ‼︎どうして、どうして早く気付けなかった……」


そして、タナトスの報せを聞いた村長は。
咄嗟にアスミの顔を思い浮かべていた。
15歳になり、自立すると言い一人暮らしを始めたアスミ。
そして住みかとして選んだのが、村の最北部に存在する木造の家だった。
もし、タナトスの言うことが本当なのだとしたら。
もし、アスミが今家にいるのだとしたら。
気付いた瞬間、村長は走り出していた。


「村長!?……クソ、一人でやるしか無いか……」


流れ弾を確認し。
村人の誘導も行う。
普通に考えたら不可能な事だ。
しかし、やるしか道は残されていない。
村を守る為。この地を守る為。逃げた自分に落とし前をつける為。
今、タナトスは立ち向かわなければならない。
理不尽で、残酷で、無情な世界に。


「やってやるよ……。イルの親として最後くらい頑張らないと、本当に存在意義が無くなるからな……。来いよ、機械族共‼︎守ってやるよ、この村を‼︎」


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


被爆した北側は、見るに耐えない状況になっていた。
多数建っていたはずの家は。
──しかし無慈悲に瓦礫と化し。
緑豊かだった畑は。
──しかし無情に跡形も無く消え。
いつも賑わっていたはずの村人達は。
──しかし理不尽にその命を体ごと奪われ。
徐々に見えてきた森は燃え、本来の美しさは完全に消えて無くなっていた。
もはやここは地獄。何もかもが消え無くなった、この世の地獄。
感覚と記憶だけを頼りに、村長は走り続けた。
アスミが一人で住んでいた、あの美しい家は。
一体どこへ行ったのか。それすらも分からなかった。
感覚が体を動かし。
記憶に導かれたどり着いた場所は。
瓦礫しか存在しない、元あった小さくも美しい木造の家など、どこにも無い更地だった。


「そんな……アスミ……」


この家にいなかった可能性だってある。
だが、一体アスミにこの家以外にどこへ行く場所があった?
──否。そんな場所、どこにも存在しない。
強いて言うならば、自らの家か、イルの家のどちらかだ。
しかし、自らの家は礼拝堂のすぐ近くに建っている。もし自らの家にいたのだとしたら、爆音が聞こえた時点で外に出て状況を確かめるはずだ。この可能性は消えた。
そして、イルの家はアスミの家と同じく北部に存在する。どちらにいようが、結局は一緒だ。


「アスミ……アスミィ…………‼︎」


その場で、ただただ絶望した。
なぜこの世界は、突然にして全てを奪う?
なぜこの世界は、こうも簡単に奪い去る?
なぜこの世界は、今も奪い続け争い合う?
全て答えは一つにまとまる。
大戦が終わらないから。それに限る。
そんな世界を、村長はただただ憎んだ。
どうしてこんなに、理不尽なんだ。
どうしてこんなに、無慈悲なんだ。
こんな世界、こんな世界。
──無くなってしまえば良いのに。


ゴトッ────


悲しみに暮れていた村長を我に返させたのは、瓦礫と瓦礫がぶつかり合った音。
確かに前から音がした。それが意味するのは。もしかして、もしかして────


「…………っぁーー‼︎死ぬかと思った‼︎」


瓦礫の山から姿を現した──イル。
その横で倒れているのは──アスミ。
生きていた。アスミは、生きていた。
理不尽に奪われていなかった。無慈悲に奪われていなかった。
傷まみれで、それでも笑いながら立つ青年──イルと共に。
この状況で。絶望的な状況で。それでも、アスミは生きていた。

第一章 二人の約束 ( No.11 )
日時: 2017/11/09 17:58
名前: 榊

第六話 終幕、開幕


「イル……アスミ……お前さんら、生きとったんか……」
「あ、村長。いやー、危なかったぜ。あと少し魔法の発動が遅れてたら、二人共死んでた」


イルが思い返すは爆発の瞬間。
咄嗟にイルは魔法《クリエ》を発動した。
現れた青色に輝く透明な球体が包み込み。
二人は爆発の被害から逃れる事が出来た。


「ア、アスミは無事なのか!?」
「大丈夫だって。ほら、アスミ」
「うーん……一体何が……」


隣で倒れていたアスミが目を開いた。
その目に飛び込んできた光景は、今まで見てきた光景とは違い。
全てが焼き尽くされ破壊し尽くされた、まさに地獄の様な光景。
思わず息を飲み込んだ。
一体何が起こったのか。
変わり果てた村の姿からは、察する事も出来なかった。


「村の近くで機械族の戦艦同士が争っておる。その流れ弾が、当たってしまったというわけじゃ」
「そんな……。こんな、こんなのって……」


こんな場所、村とは信じたくない。
だが、信じる他無かった。
瓦礫の山に埋もれているのは、かつて自分の家に置かれていた机や椅子といったものだった。
黒焦げになり、見るも無残な姿に変わり果てたそれらは、ここが村だと無慈悲に告げていた。
絶望と恐怖が一気に体を走らせた。
またもう一度、同じような爆発が起こるのではないか。
気が気でならない。そんな状況で。
──イルは一人、不敵に笑みを浮かべていた。


「機械族……機械と人が融合した成れの果て……戦艦……機械族最高傑作と言われている人工知能兵器……。ハハッ、そんなやつらがこの近くで戦ってんのか……‼︎」


いつもと変わらない陽気で話すイルに。
村長はおろかアスミでさえ、どこか恐怖を感じた。
この状況に、微塵も絶望していない。それどころか、どこか希望に溢れたような顔をしている。
その理由は分からない。その意味は汲み取れない。
だが。
イルがこのような顔をする時は決まって、何かを思い付いている。
誰も思いつかないような、いや。
誰もやらないような、なにかを。


「イル?一体今度は何を考えてるの?」


笑顔で問いかけるアスミに。
同じく笑顔でイルは答えた。


「その戦艦、潰してやろうじゃねーか。これ以上村に被害は及ばさせねー。俺が、この村を守ってやるよ‼︎」
「な……!?」


人の身で。
村の北部を完全に消滅させた戦艦を。
あろうことか、潰すと宣言したのだ。
その発言に驚くのは普通の事だ。
だが、今この場で驚いたのは村長ただ一人。
アスミは、呆れ返ったような顔で、しかし笑みを浮かべ立ち上がった。


「そうだね、イルならそう言うよね‼︎」
「お、お前さんら‼︎何をする気じゃ!?潰すなんて無理に決まっておるじゃろ‼︎」


あたふたと取り乱す村長に対し。
一切の迷いを感じさせない笑顔で、イルは堂々と宣言した。


「文字通り、戦艦を潰す‼︎それが一番だ‼︎」
「無理じゃ‼︎戦艦は何物も通さない頑丈な兵器じゃ‼︎人が潰せるわけが無いじゃろう‼︎」
「じゃあ、これ以上村が壊されるところを黙って指咥えて見てろって言うのか?」
「…………ッ!それは……」


笑顔から一転、真剣な表情になったイルは。
否定を続ける村長に、厳しく言い放った。
黙る村長だったが、イルは続けた。


「それだけじゃない。また流れ弾が来たら、村だけじゃなくて村人の命まで消える。さっきだって、さっきの流れ弾で何人が死んだ?何人が、無意味に、理不尽に、その命を奪われた!?」


村の北側には、多くの人が生活していた。
だが、その人達はもう、この世にはいないだろう。
その犠牲を。今後も出し続けるというのか?
その光景を。黙って眺めていろというのか?
そんなわけがない。これ以上、犠牲を出すわけにはいかない。


「俺は世界を救う男だぞ?故郷の村一つ救えないで、世界なんか救えるかよ」
「……タナトスが、村人を避難させておる。無理に戦艦に挑みなどせんでも……」


それを口にした途端、イルの顔が一変した。
先程と同じような、しかしどこか違う。
好奇心と探究心に満ちた、少年のような笑顔を浮かべていた。


「それに俺、戦艦を一度見てみたかったんだ‼︎本で読んだだけじゃやっぱ伝わりづらいし、本物をこの目で確かめたかったんだよな〜」
「そ……」


そんな理由で、命を懸けてまで大戦圏へ出るのか。
その発言を、村長は口にする事なく飲み込んだ。
今まで黙っていたアスミがいつのまにか横に立っていて、村長の腕を突いていたからだ。


「イルはいつもこうなの。一度言い出したら絶対にやめない。そういう、変わった奴なのよ」
「あ、アスミ酷い!アスミだって十分変わってるくせに」
「私も一緒にしないでよ‼︎まあ、そんなわけだから、止めないであげて欲しいの」


村長の目を見つめ訴えるアスミ。
村長はこの時初めて、誰かの為に何かをするアスミの姿を初めて見た。
今までアスミは、多くの人に無下に扱われていた。
幼い頃からそれは続き、いつしか他人を信用しないようになった。
だが、今目の前で訴えかけているアスミは、明らかにイルの為に動いている。
アスミをそうやって変えさせてくれたイルを。
心の底から信じ切ってみる事も悪くは無いと。
村長はようやく笑顔を浮かべ、穏やかに言った。


「分かった。イル、お前さんに戦艦の撃退を依頼する。だが、くれぐれも無理はしないようにな。もしお前さんが死ぬ事でもあったら、アスミが悲しむからのう」
「安心してくれ。世界を救うまで、俺は絶対に死なないからさ!」


しばらく忘れていた、この気持ち。
世界が忘れ、人々からも消えた物。
すなわち──《希望》。
今まで考えてこなかった事。
今は期待して願っている物。
すなわち──《未来》。
希望と未来。世界が忘れたはずのこの二つを。
目の前で不敵に笑う青年は、しっかりと持っていた。
戦艦を潰せるかもしれないという希望を、抱いてみても良いのかもしれない。
村が救われるかもしれないという未来を、託してみても良いのかもしれない。
こうして村長は、希望と未来を、イルに抱き託した。


「んじゃ、行ってくる」
「ちょっと待っておくれ。一応聞いておくが、勝算はどのくらいじゃ?」
「五分五分ってとこかな。なにせ、戦艦なんて初めて見るしなぁ。まあ、頑張るよ」


そう言って魔法を発動し、戦艦の位置を確認し始めたイル。
その後ろ姿を見つめながら、アスミは言いたい事を言えずにいた。
本当は、自分だって。自分だって────


「よし、北にまっすぐ進めば戦艦のところにたどり着ける。じゃあ、行って──」
「────待って‼︎」


走り出そうとしたイルを止めたのは。
アスミが唐突に叫んだ声だった。
イルと村長、二人が注目する中で。
本当の気持ちを。
言いたいことを。
思いきり、叫んで伝えた。


「私も、連れてって‼︎」


連れてって、つまり、一緒に戦いに行くという事。
その発言に、再び村長はあたふたと慌て始めた。


「ア、アスミ?お前さんまで行く必要は……」
「私も、連れてってほしい。私だけ、村に残さないでほしい!」
「ど、どうしてそのような事を……」
「だって、私は────」


なぜ一緒について行きたいのか。
その理由は、ただ一つ。
なぜ命の危険を惜しまないのか。
その理由も、ただ一つ。
世界を救うという馬鹿げた夢を掲げるイルは。
アスミにとっての──


「私は、イルの妻だから。一緒に、どこまでもついて行く」


その表情に一切迷いはなく。
その表情に一切曇りはない。
覚悟を決めた、清々しい表情だった。


「おー!アスミが着いてきてくれるなら安心だ‼︎機械族にとってアスミは天敵だろうしな」
「イ、イル‼︎アスミを本当に連れて行く気か!?死なせるつもりなのか!?」


慌て、声を荒げ叫ぶ村長に。
アスミはそっとその右手に自らの左手を添えて。
優しい声で、語りかけた。


「大丈夫、私は死なないよ。私だって、この村を守りたい。だから、行かせてほしいの。村長だって、守りたい。お願い、お願い村長──ううん、おじいちゃん‼︎」


おじいちゃん。そう呼ばれるのは何年ぶりだろうか。
アスミが小さい頃は、よくそう呼ばれていた。
それを今、なぜこの場で。理由はわからない。だが。
その頰を、涙が伝っていた。


「まったく、困った孫じゃのう。……絶対に、絶対に帰ってくるんじゃぞ‼︎」
「うん。任せてよ、おじいちゃん‼︎」


とびっきりの笑顔で、アスミは言った。
村長にもう迷いはなかった。
信じてみることにしよう。この世界の、可能性を────


「話は終わりだな。じゃあ村長、行ってくる‼︎」
「行ってきます‼︎」
「ああ、気をつけるんじゃぞ‼︎」


そして、イルの後を追いかけアスミはその場から去って行った。
村長の脳裏にはふと、タナトスの発言が思い出されていた。


『俺の親としての役目は、もう終わりましたから』


今なら、タナトスの気持ちがよく分かる。
あの二人なら、何があっても大丈夫だろう。
自分の存在など、もう必要ないのだろう。
こんな時が来るのは分かっていた。分かっていたが。
感じたことのない程の悲しみが、押し寄せていた。


「……老人を悲しませおって、馬鹿者が……」


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


こうして、イルとアスミの二人は、最強の兵器戦艦へと立ち向かって行った。
終幕は突如としてやって来る。何の前触れも無しに、無慈悲に訪れる。
だが、それと同じくして。
開幕も、突如としてやって来るのだ。
人が、諦めない限り。
希望を、捨てない限り。
未来を、切り開こうとする限り。
終わりがやって来ることはなく、再び始まっていくのだ。


「行くぞアスミ!俺達夫婦初の、共同作業だ‼︎」
「きょ、きょきょきょ……。わ、分かった‼︎頑張ろうね‼︎」
「世界を救う、伝説の始まりだ‼︎」

第一章 二人の約束 ( No.12 )
日時: 2017/11/11 09:35
名前: 榊

第七話 二人


「ねえイル、戦艦ってどこで戦ってるの??」


どこかへ走り続けるイルの後を追いながら、アスミは尋ねた。
この村を囲っている森は、果てしなく広い。
それ以上に、森は気が密集して迷いやすい。
ましてや、燃え炎上している今では尚更だ。
そんな中、森の中を走り続けるイルに疑問を抱き尋ねたというわけだ。


「森を抜けた遥か遠く‼︎」
「そ、そんな所に辿り着けるの?」
「走ればなんとかなる‼︎」


森を抜けるだけで半日はかかりそうな勢いだというのに、そこから更に遠くで戦艦は戦っている。
そんな場所にイルは、走って行こうとしているのだ。
無謀にも程がある。


この状況を、打開する策が一つある。
だがそれは、あまり実行したくない。
それを分かっていて、あえてイルもその事は口にしないのだろう。
イルは村を守る為頑張ろうとしている。
イルが頑張っているなら、自分も──


「イル……私に乗って‼︎」


そう言った瞬間、アスミの体は光に覆われその形を変えた。
人の形から、龍の形へ。翼を生やし、鱗で身を覆い、立派な尾を靡かせた龍が、そこにいた。
村人から忌み嫌われてきた理由。
大戦の象徴とも言えるこの容貌。
この姿になる事を、アスミは嫌い避けてきた。
だが今は、そんな事を言っている場合ではない。


「アスミ、良いのか?」
「うん、大丈夫。ほら、早く乗って!」
「じゃ、遠慮なく!」


龍となったアスミの背中に乗った瞬間。
光速とも言えるスピードで飛び出した。
前方へ向かって動くその速さは、とても巨大な体からは考えられないものだった。
これこそが、龍。常識を超えた、最強の生物。


「体、耐えられる?」
「魔法で強化しときゃなんとかなる。それよりもアスミ、もっとスピード上げてくれ!このまま前へ、もっともっと速く‼︎」
「分かった!振り下ろされないようにね」
「がってんしょうち!」


更にスピードを上げ、森を駆け抜けるアスミ。
魔法で体を強化して、風圧に耐えているイル。
気付けば二人は、村を囲う森を抜けていた。
それは同時に、大戦への参加を意味した。
大陸に果て、大戦の被害が及ばない平和な村テレステオ。
その大戦との境界線こそが、この森だった。
どこまでも赤く染まる空。
異臭とともに降り注ぐ雨。
灰の山と化した踏む大地。
これが、世界の成れの果て。
大戦が齎した、残酷な世界。
その世界に今、イルとアスミの二人は降り立った。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


どれくらい飛び続けたのだろうか。
イルが声を上げた。


「見えた。あれが戦艦だ」


前を見つめると、それは空にあった。
それは龍になったアスミよりも遥かに大きく。
それは全身を銀と黒で輝く鋼で覆い尽くして。
それは前方に位置する砲台で波動砲を放って。
まさに、戦艦。全てを焼き尽くす、最強の兵器。


「気を付けろ、ここから波動砲に当たる……アスミ‼︎右に避けろ‼︎」
「え?」


反射的に体が右へ動いた。その直後。
体の横を、波動砲が過っていった。
もし当たれば、体は一瞬で灰と化していただろう。
その恐怖が一瞬にしてアスミを襲った。体が震えた。
それを感じ取ったのか、イルは優しく声をかけた。


「大丈夫だ。しっかり見てれば避けれる。それに、いざとなったら俺がなんとかする。だから、安心して飛べ」
「うん……。分かった」


アスミは飛び続けた。
戦艦が見える方角へ。
そして、戦艦がその目ではっきりと確認できるところまでたどり着いた時。
初めてイルは、その体を震わせた。


「おい……。いくらなんでも、数が多すぎだろ……」


遠くから確認しただけでは分からなかった事。
そう。空を、無数の戦艦が覆い尽くしていた。
どこまでも戦艦が空に佇み、波動砲を放ち合っていた。


「イル、これは……」
「くそ、なんとか方法を考えるしか……」


このまま止まっていれば、波動砲に当たり死ぬだろう。
だが、動こうにも何をすれば良いかが分からない。
途方にくれる中、イルは一つの方法を思いついた。


「そうだ……《ディテクション》展開‼︎」


両手を横に広げ魔法を発動した。
両手から魔法陣が発生し、その魔法陣は強烈な光を発して消えた。
この魔法は、全ての力の源であるエレメントを感知する魔法。
イルは昔、村の本でこのような事を読んだ。
──機械族は効率重視である。
──戦艦には記録保存装置が備わっているが、全ての戦艦ではなく大将とされている戦艦に備わっている。
──戦艦の動力源は莫大なエレメントである。
もしこれらが本当ならば。


「イル、何を……?」
「一番エレメント使ってる戦艦が大将なら、その戦艦ぶっ潰せば効率重視な機械族は撤退するかもしれない……これしかねぇ‼︎」


この戦場における一番の効率とは何か。
それは、記録の保存である。
より長く生き延びる為には、戦闘の記録を保存し、研究し、より良い一手を編み出さなければならない。
それは機械族にとっても同じだろう。
それでは、その記録保存の唯一の手段である大将が倒されたらどうするか。
効率重視ならば、撤退するに違いない。
この仮説を信じ、イルは魔法を発動したのだ。


「見つけた……。右斜め前にまっすぐ進んでくれ、アスミ‼︎」
「分かった。イルがそう言うなら、そうするよ‼︎」


右斜め前を向き進み始めたアスミ。
だが、その行く手を無数の波動砲が阻んだ。
当たらぬよう、合間合間を紙一重で避けて進んでいった。


「ここだ、まっすぐ上昇してくれ」


一瞬意味が分からず止まったが、すぐに上を向き飛び始めた。
波動砲を避けながら、戦艦が位置する高さまで飛んだアスミは問いかけた。


「これで良い?」
「いや、もっと高くに飛んでくれ」
「そしたら、イルの体は……」
「大丈夫だ。俺を信じて飛んでくれ」
「……分かった!」


この世界の上空は、エレメントが密集している。
力の源であるエレメントが密集する上空は、地上とはまるで環境が違う。
酸素は薄く、気圧が非常に高い。
龍の体では耐えられようと、人間の体で耐えられるものではない。
だが、イルはそれでも上空へ行く事を指示した。
何を考えているかは分からなかったが、上空へ飛び戦艦を上から見下ろした時、ようやくその意味が理解できた。


「波動砲が、飛んでこない……」
「そういう事だ。機械族にとって龍族は天敵だろうな。自分達が作る戦艦よりも、遥か高くに飛ぶんだからな」
「でも、わざわざ上空まできて何を?」
「決まってるだろ。大将を、潰す」


そう言い、イルは大将と思われる戦艦をめがけ両手をかざした。
痛みが全身を襲い、呼吸もままならないはずだ。それでも、イルは耐え、魔法を発動した。


「《フォール》展開‼︎」


魔法陣を通り抜ける物を強化する魔法、《フォール》。
幾何学的な模様を映し出し回る魔法陣を前に、イルはもう一言付け加えた。
これでは足りない、と言うように。
まだまだ頑張れる、と言うように。
不敵な笑みを浮かべ、その言葉を発した。


「《二十展開エンペラーヴァン》」


二十に及ぶ魔法陣が、イルの両手の前に連なった。


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