コメディ・ライト小説(新)

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

放課後の教室で
日時: 2018/09/14 21:37
名前: ある

 忘れ物を取りに、放課後の教室へ。

 ありふれた、日常的なこと。
 平凡な一日の終わりを飾る、アルバムに残らない記憶。

 でも、これだけは断言できる。
 あの日、教室の扉を開いたことは。
 君と目が合ったあの瞬間は。


 死んでも忘れられない、大切な思い出になるだろう。






*目次*


〜Prologue〜  >>1


〜第一章 信じて〜

Page:1



Re: 放課後の教室で ( No.1 )
日時: 2018/09/13 23:03
名前: ある

〜Prologue〜


 帰宅部にとって、家に帰るまでの時間は苦痛なものだ。


 少し語弊があるかもしれない。
 一緒に帰るような友達がいない、俗に言う『ぼっち』に限った話だ。

 同級生の笑い声を背に教室を出て、青空に目を向ける事なく黙々と足を運ぶ。
 寝ていられる学校にも、唯一自由が保障されている家にもいられない帰宅時間。これ以上に憂鬱なことを、僕は知らない。

 登校時に惰性で同行してくれる顔馴染みも、放課後は部活で忙しい。
 かと言って帰宅仲間を作れる度胸なんてもの、持ち合わせているはずがない。

 何度でも言おう。
 下校ほど憂鬱なものは、この世に存在しない。


 この言葉を座右の銘にしていたこれまでの僕に、今の状況を教えたら喜んで訂正するだろう。
 ──放課後の教室に戻る事ほど、憂鬱なものは無い、と。

 明日提出の課題を学校に置いてきた過去の自分をぶん殴りたい。
 どうせ教室では青春を謳歌している人達が青春を謳歌しているに違いない。いや、絶対にそうだ。

 重たい手をなんとか動かして、教室の扉を恐る恐る開く。
 恐怖心で自然に落ちていた目蓋を、精一杯の力で押し上げた。
 誰かいるのか把握すらできていないのに、一刻も早く逃げ出したいという焦燥に駆られて体を前面に投げ出した。

 時を同じくして、聞き慣れた声が耳を貫通した。


「……好きです!付き合ってくださいませんでしょうか!?」


 犬飼いぬかい碧海あおい。高校一年生。
 誕生して十数年、人生史上最大の山場を迎えています。

 同級生の、しかも人気の女子の──


 ────告白練習現場に、遭遇してしまいました。

Re: 放課後の教室で ( No.2 )
日時: 2018/09/14 21:34
名前: ある

〜第一章 信じて〜


 思えば入学式の日から、存在感のある人だった。

 初めての顔合わせで誰もが緊張するなか、堂々とした振る舞いと可憐な容姿で周囲を圧倒していた。
 気付けば周りには、人が集まっていた。
 出発地点から、彼女と僕は真逆の立場だったんだ。

 別に、最初から孤独だったわけじゃない。
 朝教室に来たら挨拶をしてくれる人、机を並べて共に昼食時間を過ごしてくれる人、忘れ物をしたら文句を言わずに貸してくれる人。
 最低限の人間関係は、築けていたはずなんだ。

 友達が欲しくないなんて捻くれた考えは持ち合わせていなかったし、素直に友達と呼べる存在が欲しかった。
 高校という名の新しい環境で、僕は少しだけ胸を高鳴らせていたのかもしれない。

 本当に気の合う人とだけ関係を持ち、他者とも上手く接していければそれで満足だった。
 自分の背丈にあった生活が送れていたことに、不満なんてものは抱いていなかった。
 毎日のように耳に響く彼女の楽しげな声が、少しだけ僕の心をくすぐっていた。それでも、手を伸ばそうとはしなかった。

 彼女の幸せと僕の幸せは、同義じゃない。
 僕は僕らしく、生きていけばいい。


 そんな僕の日常は、彼女の優しさによって壊された。

 重々承知していた。彼女が優しさをばら撒いている事は。
 困っている人には手を差し伸べるし、自ら他人の為に行動を起こす。その取り繕った優しさが、人を魅了させていく。
 結局優しさなんてものは、存在しないのに。
 偽物の感情が、人の心を動かしている。

 そしてその紛い物は、僕の人生すら狂わしてしまった。
 入学から数ヶ月経過し、夏休みも眼中に入ってきた頃の出来事だった。
 どうやら彼女の視界に、僕という存在がようやく映ったらしかった。


『ねえ、碧海君。今度私達と一緒に遊ばない?』


 ろくに話してもいない人間に対して名前呼びした事に、憧れると同時に嫌悪も抱いた。
 明るい世界で生きている人間の思考回路は理解することができない。僕を遊びに誘うことで彼女になんの得があるのか、検討すらつかない。

 それでも僕は、嬉しかったんだと思う。
 現状に満足できていても、どうしても更に上を求めてしまう。
 彼女に話しかけられたという事実が、見事に僕の心を動かした。

 この気持ちを、僕は覚えていた。
 彼女の優しさは、懐かしさと同時に過去の記憶もひっぱりだした。

 今思い返しても、消したくて仕方がない。
 死にたいとすら願った、あの頃の記憶を。


『────ごめん、無理』


 この言葉をきっかけに、僕の生活は一変した。
 絶対的人物の誘いを断った。
 この事実だけで、周りの人達は態度を急変させた。

 無視される日々、親しかった人々からの悪意に満ちた罵詈雑言。
 状況さえ整えば、簡単に人は人を攻撃する。集団に属しているという安心感と優越感のせいで、深く考えることができなくなっているんだ。

 肉体的いじめでは無いのなら、僕は耐えられる。
 疎外感も、虚無感も、憎悪も、哀情も。
 何もかも、耐えてやる。




 入学から、三ヶ月。
 季節の移り変わりを感じさせる、初夏の七月。
 僕は、完全に孤立していた。

 あの時の発言を後悔しながら。
 変わらない今を、醜く生きている。

Re: 放課後の教室で ( No.3 )
日時: 2018/09/16 01:32
名前: ある

「おはよっす碧海!今日は快晴、青春日和だな!」

 一日の始まりは、うるさい挨拶から。
 その元気はどこから湧くのか、疑問に思ったことは一度や二度では無い。
 考えるだけ無駄なので、考えないことにしたのはもう何年前のことだろうか。

「……おはよ、しゅう。今眠いからあんまり大きな声出さないで……」
「早速学校行くぞ!自転車に乗り込んで出撃だ!!」
「……戦いにでも行くのかよ」

 酔っ払い並みの勢いで物事を推し進める様には、最早尊敬の意すら抱く。
 全速力で自転車を漕ぎ出した後を、見失わない程度にゆっくり追いかける。
 いつも通りの光景だ。


 兎丸うさまるしゅうとの出会いは、小学低学年。
 隣の家に引っ越してきた兎丸家と我が犬飼家は仲良くなり、必然的に僕と秀の交流が始まった。

 秀を一言で言い表すならば、お調子者という言葉が似合う。
 騒ぎの中心には必ずと言っていいほど存在する。ふざけていないと死んでしまう病を患っているのではないかと疑うほどだ。

 兎は孤独が苦手と言われているが、同じ文字を苗字に司っている秀には孤独という文字が似合わない。
 常に笑顔で、楽しく人生を送っている。


「──それでそいつなんて言ったと思う?『にんにくは飲み物だ!』とかほざきやがった!普通は生だろ!」
「ごめん、話が常識の範囲外すぎてついていけない」
「まさか碧海まで俺を否定するのか!?」
「肯定も否定もしたくないよ、そんな事」

 学校に着くまでの数十分間は、会話だけで過ぎていく。
 秀のぶっ飛んだ話に、適当に相槌を打つ。
 ただそれだけの事なのに、この時間この瞬間を幸せに感じる。
 たとえ秀がこの時間を嫌がっていたとしても、構わない。

 少しだけ、心が傷つくだけだ。

「てか、もうすぐ夏休みだよな。早く終われ学校!早く迎えろ長期休暇!」
「そういえばもう七月か。あっという間だな」
「もう本当にそれ!気付けば天国で爺ちゃんとお茶してそうだぜ……」
「時経ち過ぎだろ、まだ高校に二年以上通うんだぞ」

 口に出すと、心で思う以上に先が長いと感じる。
 あと二年以上も、あの場所へ足を運ばなければいけない。
 一度定着した印象は、そう簡単には消えない。

 学年が変わろうと、肩書きが変わるだけ。
 環境が変わろうと、入る教室が違うだけ。
 現状は、変化することなんてない。
 そんな事、嫌という程分かっている。

「……秀はよく僕を見捨てないね」
「は?何言ってんだ、急に」

 つい口に出してしまった。
 ずっと前から胸の奥底に隠していた、本音を。

 秀は、僕の側を頑なに離れようとしない。
 学校でどういう扱いを受けているか、知らないほど鈍感な人間ではないはずなのに。
 中学の時の噂くらい、耳に届いているはずなのに。

 惰性、という言葉で自己保管していた疑問を、遂に本人に投げかけてしまった。
 流石の秀も、笑顔を曇らせた。
 けどそれは一瞬だった。

「俺は好きで碧海と一緒にいるんだよ。変なこと言ってるんじゃないぞ、まったく!」
「……そうか、そうだよな」
「なんか今日は様子がおかしいな。さてはにんにくを飲み物として飲んだな?」
「まだ引っ張るか、その話」

 兎丸秀は、こういう人間だ。
 自分の考えを曲げない、頑固で厄介な性格。
 その性格に、僕は何度も救われてきた。

 それなのに、どうしてだろう。
 どうしても僕は、思ってしまうんだ。

「よし、学校到着!じゃ、俺は行くわ。今日も一日頑張ろうぜ!」

 自らの駐輪場へ、去っていった。
 一切の汚れのない、澄み切った笑顔で。

 その純粋無垢な顔を見るたびに。
 人の良い部分だけを集めたような性格に触れるたびに。
 綺麗事を並べた中身の無い発言を耳にするたびに。


 どうしても、薄っぺらいと感じてしまうんだ。


「……頑張ろう、ね」

 こうして、いつも通りの一日は始まる。
 価値も意義もない、無意味な一日が。


 この時は、まだ思ってもいなかった。
 この日が、将来忘れられなくなるなんて。

 放課後に君と出会うまで、あと八時間と少し。


Page:1



スレッドをトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


E-Mail


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。