コメディ・ライト小説(新)

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あなたの剣になりたい
日時: 2019/11/15 18:39
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2

初めまして。
あるいは、おはこんにちばんは。

四季と申します。
今作もお楽しみいただければ幸いです。よろしくお願いします。


《あらすじ》

——思えば、それがすべての始まりだった。

親や使用人らと退屈ながら穏やかな日々を送っていた令嬢、エアリ・フィールド。
彼女はある夜、買い物を終え村へ帰る途中の森で、気を失っている見知らぬ少年リゴールと出会う。

だが、その時エアリはまだ知らない。

彼との邂逅が、己の人生に大きな変化をもたらすということを——。


美しかったホワイトスター。
憎しみに満ちるブラックスター。

そして、穏やかで平凡な地上界。

近くて遠い三つの世界。これは、そこに生きる人々の物語。

※シリアス要素があります。
※この作品は「小説家になろう」にて先行掲載しております。


《目次》連載開始 2019.6.23

prologue >>01
episode >>02-31 >>34-153


《コメントありがとうございます!》
いろはうたさん

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Re: あなたの剣になりたい ( No.149 )
日時: 2019/11/14 19:47
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2

episode.146 もう狙わない

 リゴールが部屋から出ていくや否や、トランは愉快そうに話しかけてくる。

「ふふふ。それで良かったのー?」

 トランはニヤニヤしながらこちらを見ている。多くを発することはしないが、言いたいことが何やら色々ありそうである。もっとも、他人を刺激するようなことだろうから、まともに聞く気はないが。

「良いのよ」
「王子ファーストじゃないんだ?」
「貴方に『もう狙わない』と約束してもらうことの方が大切だわ」

 約束してもらえるという保証はどこにもないけれど。

「……ふぅん」

 トランは面白くなさそうな顔をする。

「ボクがそんな約束をすると本気で思ってるんだ?」

 いや、そこまで甘く考えてはいない。
 ブラックスター王に絶対的な忠誠を誓っているわけではないとしても、そう易々と約束してはくれないだろう。
 そのくらいは想定している。

 嫌だ、と。
 無理、と。

 そんな風に言われることくらいは、想定の範囲内。

「思っていないわ」
「……そうなのー?」
「私、貴方が言いなりになるだろうなんて、考えていないわよ」

 はっきり言っておく。
 それに対しトランは、ふふ、とさりげなく笑う。

「そのくらいは分かってるーってわけだね」
「えぇ。それでも頼みたいの。どうか、もう手を出さないでって」

 私やリゴールは命を狙われず、トランが命を落とすこともない。そんな解決方法があるのなら、それが一番理想的と言えるはずだ。トランとて馬鹿ではないだろうから、そのくらい理解してくれそうなものなのだが。

 待つことしばらく。
 トランはあっさりと答える。

「……いいよー」

 トランの答えに、思わず大きな声を出してしまう。

「本当!?」

 すんなり頷くとは考えておらず、少し驚いた。

 よく考えてみれば、今までも彼は、時折すんなり頷いてくれた時があった。それを記憶していたなら、今回のこともそこまで驚きではなかったかもしれない。

「うん、いいよー。っていうかさ。そんなに熱心に頼まれたら、まぁ、いいよって言わざるを得ないよねー」

 さりげなく棘を練り込んでいるような発言。
 だが、間違ってはいない。
 ただ一つ、今の彼の発言で驚くところがあるとすれば。それは、熱心に頼まれたらいいよと言わざるを得ない、などという常人的な心がトランにもあったのだというところだろうか。

「王子と君には手を出さない。それでいいんだよねー?」
「……えぇ」
「分かったよ。じゃあ、その二人にはもう何もしなーい」

 おちょけた調子でそう言って、トランは両足を宙に浮かせる。

「だからさ。これ、外してくれない?」

 トランの二本の足は、きちんと揃えているかのような状態で括られている。今の状態では、歩いたり走ったりするどころか、立ち上がることさえままならないだろう。

「いいわよ。でもその前に」
「んー?」
「私たち二人に関係する人たちにはもう何もしない、と、言い直して」

 トランは確かに、二人にはもう何もしない、と言った。一見何の問題もない発言のようだが、裏を返せばそれは、二人以外には何かする可能性があると暗に伝えているような文章だ。

 そんな言葉を認めるわけにはいかない。

 私の関係者のエトーリアやバッサ。リゴールの関係者のデスタンや、彼と親しくしているミセ。
 そういった人たちにも、手を出さないでほしい。

 もちろん、赤の他人だからどうなってもいいと思っているわけではないが。

 ただ、まずは身の回りの人たちの安全を手に入れなければ、安心できない。

「んー? どうして? 言い直しさせる意味がよく分からないなぁ」
「知り合いに手を出されたくないのよ」
「そりゃそうだろうねー。……それにしても、わざわざ言い直させる意味が理解できないよ。ほとんど同じ意味だしー」

 首を軽く回しながら、愚痴を漏らすトラン。

「お願い」
「……どうしてそんなところにこだわるのかなぁ」
「私やリゴールの関係者にも何もしないと、そう言って」

 暫し、沈黙。
 トランは何も返してくれない。

 どうしてここで黙るの? 私やリゴールには手を出さないと言えるのに、他の人たちには手を出さないと言えないの? もしそうだとしたら、それはなぜ?

 二人きりの静寂の中、疑問ばかりが湧いてくる。
 一言何か言ってくれれば、疑問の一つや二つ、消し去ってくれるかもしれないのだが。

 大きな動きのない状況に一人悶々としながら、待つことしばらく。

「分かった」

 トランは面倒臭そうに口を開いた。

「もういいよ、それで。言うよ。君たちには手を出さないって、狙わないって、約束するから」

 少し間を空けて、彼は問う。

「これでいい?」

 私はすぐさま大きく頷く。

「もちろんよ!」

 トランの返答を聞くまで、私の心は、霧に覆われた森のようだった。でも、今は違う。今、この胸の奥は、すっきりしている。

「じゃ、足のこれ外していいかな」

 口約束なんて、何の力もない。いとも簡単に破られてしまうもの。それを信じるなんて、馬鹿ではないだろうか。
 そんな風に言われそうな気もするけれど。

「そうね。外すわ」

 トランはこちらへ足を伸ばしてくる。私はその両足首を括っているタオルを、力を込めて、外す。どのような括り方なのかが分かっていないため少々時間がかかってしまったが、五分もかからぬうちに完全に解くことができた。

「はい!」
「ありがとー。遅かったねー」
「ちょっと、失礼よ」
「ごめんごめん」

 その後、手も足も自由になったトランは、簡易布団から立ち上がる。
 怪我はまだ治りきっていないはずなのだが、私が思っていたより、しっかりと立てていた。

「トラン、傷は?」
「んー? 君が負わせたやつ?」
「そ、そう。それよ」

 私が、私の剣が、彼につけた傷。
 それは分かっているけれど、改めて言われると、心なしか胸が痛むような気がする。

「もう平気だよ」
「……そうなの?」

 信じられず、疑うようなことを言ってしまった。
 するとトランは、両腕を、大きくぐるぐると回転させる。

「うんうん、大丈夫ー」

 簡単な手当ては施しているから、悪化の一途をたどるということはないはずだ。だが、もう平気というのは、どうも信じられない。

 決して小さな傷ではなかった。
 だから、少なくともまだ、軽い痛みくらいは残っているはずなのだ。

「じゃ、これで出ていくよー。しばらく世話になったね」
「もう出ていくの」

 数日近い距離にいた人物がいなくなるというのは、何だか少し寂しくて。

「えー? どうしてそんなに嬉しくなさそうなのかなぁ?」
「……ゆっくりしていっても良いのよ」
「あ! もしかして、君、ボクにメロメロー?」

 笑いの種にされてしまった。
 ほんの少し寂しさを感じたというだけのことだったのに。

「じゃねー」

 トランは立ち上がったまま、体をこちらへ向け、開いた片手をひらひらと振る。
 そして次の瞬間、姿を消した。

Re: あなたの剣になりたい ( No.150 )
日時: 2019/11/14 19:47
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2

episode.147 彼からのお茶のお誘い

 トランは去った。まさかこんなにもあっさり別れることになるとは考えてもみなかったけれど、ひとまず、約束を交わすことはできた。それだけでも十分な成果だろう。

 命を狙ってくる敵は一人でも少ない方がいい。
 今はただ、そのためにできることをするだけ。

 ようやく用を終え解放された私は、静かにゆっくりと腰を上げる。しばらくじっとしていたがために固まっていて、少しばかり痛みを感じてしまった。が、痛みは一過性のものであり、特に問題はなく。だから私は、そのまま部屋を出ることにした。


「終わったのですか? エアリ」

 扉を開け、廊下へ出た瞬間、リゴールの声が聞こえてきた。
 声がした方へ視線を向ける。
 華奢なリゴールが廊下の端にちょこんと立っている。細いラインの体つきだけでも控えめな印象を受けるが、その遠慮がちな表情も、また、控えめな雰囲気を高めていた。

「リゴール。待っていてくれたの?」
「はい」

 彼はそっと笑う。
 どことなくぎこちない笑み。

「待たせてごめんなさい」
「あ……いえ」
「それで? 私に何か用?」

 急ぎの用事だったのなら申し訳ないことをしてしまったな、などと思いつつ、私は尋ねた。
 すると彼は、首を横に動かす。

「いえ。実は……これといった用はないのです」

 右手を胸の辺りに当てながら静かな声で述べるリゴールは、緊張しているような面持ちだ。

「そうなの?」
「ですが、もし良ければお茶などどうでしょうか」
「お茶?」
「あ……えっと、実は、以前習ったお茶の淹れ方で実際に試してみたいものがありまして……」

 私は、屋敷の外へ出てどこかの店に行きたいと言われているのだと思っていたため、屋敷の中でのお茶というのは意外で、少し驚いた。

 だがその方が良いかもしれない。
 リゴールを連れて外を歩くのは少々不安なものがあるし。

 危機に晒される可能性に怯えていては何もできない、というのも真理ではあるけれど、敢えて自ら危険な目に遭いにいくこともない。屋敷の中でできることなら、屋敷の中で行うのが理想だ。

「そうだったの! それはいいわね。そうしましょ!」

 するとリゴールは、ふぅ、と安堵の溜め息を漏らした。

「……良かった」

 リゴールはその時になってようやく頬を緩める。

「では、参りましょうか!」
「えぇ」

 隣り合い、私たちは歩き出す。

 ——こうして、トランの一件は幕を下ろしたのだった。


 食堂の端の席につき、私はリゴールを待つ。

 あの後リゴールは、「美味しく淹れる」といつになく張りきって、食堂の奥へと消えていった。
 だから私は一人きりで待たなくてはならない。

 今は食事の時間でないから、人は一人もおらず、食堂内はとても厳かな雰囲気に包まれている。
 静かで、しかしながら少し張り詰めているような、独特の空気。どうも肌に馴染まない。永遠の静寂の中へ一人放り込まれたみたいで、薄気味悪ささえ感じるほど、しっくりこない。

 ただ、今からリゴールと交流することを思えば、このような人のいない時間帯が望ましいと言えるだろう。

 今の食堂には、私とリゴールが関わることを良く思わない者はいない。それは、私としてはとてもありがたいことだ。変に気を遣わずに済むから、かなり気が楽である。


 待つことしばらく。
 リゴールがお盆を持ってやって来た。

 小さめの体に似合わぬ大きな木製のお盆には、ガラス製で縦長のポットと、透明のグラス二つが乗っている。ポットは完全に透明ではなく、磨すりガラスのように少しばかり曇っているものだったが、中に茶色の液体が入っているということは全体的な色みから理解することができる。

「大変お待たせしました」

 涼しげにそう言って、リゴールはお盆をテーブルの上に置く。
 近くでよく見ると、双子のように並んでいる透明のグラスには氷が入っていることが分かった。

「アイスなの?」
「はい。冷たいものを用意してみました」
「へぇ、それは良いわね」

 そんなつもりはなかったのだが、少々上から目線な物言いになってしまったかもしれない、と心なしか不安を感じる。デスタンが見ていたら「王子に対してなんという失礼なことを!」と口を挟んできそうだ。

 ただ、リゴールは不快感を抱いてはいないようで、直前までと変わらずにこにこしている。

「それでは注ぎますので、もう少しだけお待ち下さい」

 縦長のポットを持ち上げ、液体をグラスへと注ぎ込む。

 顔つきは真剣そのもの。緊張感がある。
 しかし、手つきは安定していて、初心者とは思えない。

 これまでも幾度かリゴールお手製の飲み物を飲ませてもらったことはあるが、食堂で二人きりでというのは新鮮な気分。

「はい! お待たせしました!」

 私の目の前へグラスを差し出してくれる。
 僅かに赤みを帯びた茶の中で、宝石のように輝く氷が眩しい。

「ありがとう」
「いえ」
「ところで、このお茶は、珍しい何かなの?」

 実際に試してみたい、というようなことを言っていたから、不思議に思って。

「淹れ方が特別とか?」
「あ……」
「あるいは、何か、日頃は淹れられない理由が?」
「え……っと……」

 途端に気まずそうな顔をするリゴール。
 もしかして、聞かない方が良かったのだろうか。

「……実は、ですね」
「なになに?」
「その……あのような言い方をしたのは、本当は、嘘なのです……」

 リゴールは顎を引き、平常時より数センチほど俯く。そして、目線だけを僅かに上げて、顔色を窺うようにこちらを見つめる。

「え。そうなの」
「はい、あの……申し訳ありません」
「べつに平気よ。気にしないで」

 理由が嘘というくらいなら、こちらに特別大きな害があるわけでもないし、気にするに足らない嘘だ。ただ、なぜそんな地味な嘘をついたのか、気になってしまう部分はある。

 どうしてもお茶を飲みたい理由があったとか?
 お茶を飲まなければいけない個人的な事情があるとか?

「でも、どうしてそんな嘘を?」

 そう問うのは、偽りを述べられたことに怒りを覚えているからではない。
 これは、ただの好奇心からの問いである。

 私が放った問いに、リゴールは、身を小さく縮めながら答える。

「本当は……エアリとゆっくりお話したかったのです」

Re: あなたの剣になりたい ( No.151 )
日時: 2019/11/14 19:49
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2

episode.148 指示

 本当は話したかったのだと、そう話すリゴールは、まるで恥じらう乙女のよう。初々しさに満ちていて、少年というよりかは、少女と表現した方がしっくりくるような雰囲気をまとっている。

「そういうことだったのね」
「はい……適当なことを言って申し訳ありませんでした」

 リゴールは私の隣の席に腰掛けると、体も顔も、こちらへ向ける。

「エアリとはしばらく二人で話せていないので、その機会を設けることができればと思い、こんなことを提案したのです。すみません」

 リゴールが謝ることではない。

 実際、ここしばらく、彼と接する時間は減っていた。

 以前関わりづらい状況になっていたのはエトーリアに見張られているからだったが、ここしばらく会えなかったのは、どちらかというとトランのことが原因である。

 つまり、私がトランとの交流を優先していたせいで、リゴールとの間に距離が生まれてしまっていたということだ。

「いいの。むしろ誘ってくれてありがとう」
「……そう言っていただけると、いくらか救われます」

 リゴールは恥ずかしそうに俯く。
 俯いてはいるけれど、表情はどこか嬉しそうだった。

「それで? 何を話す?」
「えっと……実は少しお聞きしたいことが」

 食堂には相変わらず人がおらず、ただただ静かで。けれど、リゴールと言葉を交わしている時は、そんな静けさもまったく気にならない。

「エアリは、その、トランと親しくなったのですか……?」

 そんな問いを放ったリゴールの顔つきは、やや緊張気味なものだった。

「えぇ。色々話したりして、少しは親しくなれたわ」
「そう、ですか……」

 リゴールは肩をすくめ、気まずそうな顔をしながら返してきた。何とも言えない反応である。彼はそんな妙な顔つきのまま、さらに続ける。

「親しくというのは、その……男女という意味ではありませんよね……?」

 なぜ彼からこのような問いが出てくるのか、完全に謎だ。

「そうよ。いきなりそんな関係になるわけがないじゃない」
「……ですよね」

 静かに言って、リゴールは胸を撫で下ろす。
 今度は何やら嬉しそうだ。

 正直、今の彼は、私にはよく分からない。彼には彼なりの心というものがあるのだろうが、それを完全に理解することは簡単ではなさそうだ。

 ただ、リゴールが嬉しそうにしているのを見るのは好き。
 色々しがらみのある彼だからこそ、なるべく明るい顔をしていてほしいと思うのだ。

「安心しました」
「え?」
「実は少し不安だったのです。エアリとトランが男女として親しくなっていたら、と」

 いやいや、考え過ぎだろう。

 確かに私はトランの世話をしていたし、同じ場所で過ごしている時間も少なくはなかったけれど、それでもほんの数日だけだ。ものの数日で男女として親しくなるなんて、よほど引き合う二人でなければあり得まい。

「よく分からないけど……私を心配してくれていたのね?」
「はい」
「ありがとう。それは嬉しいわ」

 少々歪な形の心配な気もするが、まぁ、そこはあまり気にしないことにしよう。

「あ、そうだ。リゴールが淹れてくれたお茶、飲んでみるわ」
「はい! ぜひ!」

 話を一段落させ、グラスへと手を伸ばす。

 光を受けて煌めく氷はガラス細工のように美しい。

 端に唇を当て、グラスの下側を軽く持ち上げる。すると、グラスの中に注がれていた液体が滑らかに流れてきて、口腔内へと入っていく。唇、舌、そして口全体に、ひんやりとした感覚。鋭すぎない冷たさ。悪くない。


 ◆


 ——その頃、ナイトメシア城・王の間。

 闇の中のような黒で統一された部屋。その一番奥には、四五段ほどの、小規模な階段がある。それを上った先に王座はあり、そこには、ブラックスター王が鎮座していた。

 王は、どちらかというと、がっしりした体型ではない。腕や首などには多少の筋肉はついているが、細身である。そして、背が高い。また、赤と紫の糸で刺繍が施された黒のローブをまとっている。そのローブはすとんと下まで落ちるようなラインのデザインであり、そのため王は、余計に背が高く見える。

「集まったか」

 四五段の階段の下には、ブラックスター王へ忠誠を誓うかのように座り込む者たちが六人いた。横並びは三人で、二列に並んでいる。

 その多くは男性だ。
 しかし、その中に二人ほど、女性が混じっている。

 女性——と言っても、一人は少女なのだが。

「パルと言ったな、娘」
「ハイ、そうでス」

 王に低い声で名を確認されたのは、少女。

 ——そう、以前エアリらと交戦した、包帯を巻いたようなデザインのワンピースを着た少女だ。

 ちなみに彼女は後列の中央にいる。

「お前には、脱走者の暗殺を命じる」
「脱走者と言うト……?」
「無能で直属軍を追放され、さらに牢から脱走した、愚か者だ。確か名は——トランといったか」

 王はゆっくりと述べた。
 それに対し、パルは小悪魔的な笑みを浮かべる。

「追放とかダッサ! しかも逃げ出すとか、諦めワッル!」

 パルはケラケラと笑い出し、止まらない。
 そんなパルに、彼女の右手側の隣にいる四十代くらいの男性が注意する。

「王の御前でそのような振る舞い、相応しくない。止めなさい」

 しかしパルはさらりと「おっさんウッザ」などと漏らして、右隣の男性を睨んでいた。反省の色など少しもなかった。
 それから彼女は、王へ視線を戻し、馴れ馴れしい口調で問う。

「脱走者を片付けてくレバ、それだけで良イ?」

 無礼ともとれるような言葉遣いだったが、王はそこに目を向けることはしなかった。

「そうだ。暗殺が完了したならば、ここへやつの首を持ってこい」
「オッケー! じゃあ行ってくル!」

 パルは無邪気な声色で言い、その場から消えた。

 場に一旦静けさが戻る。
 誰も何も発さないことを確認してから、王は次の言葉を発する。

「そして、そこの女」
「はい!」

 爽やかに返事をしたのは、パルがいたところの左隣に待機していた女性。

「横の男と二人で、裏切り者を抹殺せよ」

 ちょうどそのタイミングで、先ほどパルに注意していた四十代くらいの男性が、口を開く。

「裏切り者と言いますと、グラネイトとウェスタのことでしょうか?」

 問いに対し、王は一度だけ頷いた。

「「承知しました」」

 女性と四十代くらいの男性は、ほぼ同時に発した。

 これで、王から命令を受けていないのは、残り三人。
 前列の男三人である。

「では次。前列中央の者」
「お、おいらのことだべ!?」

 前列中央、一番かっこいい場所にいるのは、ぱっとしない容姿の青年だ。顔立ちは並、体格も並、特徴的な部分はかなり少ない。唯一他の者たちが違うところがあるとすれば、布巾のようなものを頭に巻いているところだろうか。

「お主は我が護衛となれ」
「えっ、ええっ!? む、無理だべ! それはおいらには難しすぎるべ! おいらは語尾に「べ」をつけて話すこと以外、特技がないんだべ!」

 いきなり護衛役を任され、青年は大慌て。
 王は、そんな青年のことを無視し、話を次へ進める。

「残る二人は、王子がいるという屋敷を攻めよ」

 王の言う「残る二人」というのは、前列両端の二人のことだ。
 ちなみに、二人とも男性である。

 一人は顎髭が二股に分かれている。
 もう一人は、ふくよかな体つきだ。

Re: あなたの剣になりたい ( No.152 )
日時: 2019/11/15 18:36
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2

episode.149 包帯の少女パル

 トランはクレアの街を一人歩いていた。

 彼はブラックスターの人間だが、特別な容姿ということはない。そのため、地上界の者たちに紛れて歩いていても、違和感はない。

 周囲を眺めながらゆったりした足取りで歩いていたトランは、ある店の前で立ち止まる。
 虚ろな瞳に映っているのは、刃渡り二十センチほどのナイフ。

「いらっしゃーい」

 トランがまじまじと見つめていると、店員の女性が奥から現れる。四十代くらいの、恰幅のいい女性だ。

「このナイフ、良いねー」

 女性に声をかけられたトランは、顔を上げ、うっすら笑みを浮かべながら言う。

「気に入ってくれたのかい?」
「うん。好みだよー」
「そうかい。じゃ、あげよう」

 女性店員はトランが見ていたナイフを掴み上げ、持ち手をトランの方へ向けて差し出す。

「……いいのー?」
「実は売れ残りでね、古くなってきて困っていたところ。だからプレゼント!」

 トランはナイフの柄をそっと握る。

「そっか、ありがとー」
「いいよ」
「助かったぁ。ありがとー」

 貰ったナイフを服の中にしまい、トランは再び歩き出す。
 爽やかな風が吹いていた。


 しばらく歩き続け、少しばかり疲れたトランは、街の外れに設置されているベンチに座る。はぁ、と溜め息をつき、それから空を見上げていた。まるで「これからどうしよう」と言っているかのようだ。

 音のない時が流れる。

 時折吹く風と、それに揺らされる木々。
 それ以外に音はない。


 ——ぱぁん。

 突如、乾いた音が響いた。

 トランは咄嗟にベンチから飛び降りる。
 数秒後、ベンチのもたれる部分に灰色の塊が突き刺さった。もたれる部分は粉々になり、飛び散る。


 急に攻撃を受けたトランは、上着の内側から先ほど貰ったばかりのナイフを取り出す。そして、怪訝な顔をしながら、辺りを見回す。

 しかし、何者かの姿はない。

 攻撃を仕掛けてきそうな者はいないどころか、人一人さえいなかった。
 それでもトランは警戒を解かない。

「いきなり何なのかなぁ。まったく、もう……」

 クレアの街で貰ったナイフを手にしながら、独り言のように漏らすトラン。

 この状況で愚痴を漏らしている辺り、呑気な人のよう。しかしトランは、決して、呑気なわけではない。というのも、さりげなく周囲の様子を見回しているのだ。つまり、周りへの警戒を怠ってはいない、ということである。

 ——刹那。

 再び、ぱぁん、と乾いた音が鳴る。

 音はトランの背後から聞こえてきていた。トランは素早く振り返り、右手に持っていたナイフで、飛んできた灰色の弾丸を払う。

「ふぅん。そっちなんだねー」

 トランは、どちらから乾いた音が聞こえてきたのか、聞き分けていた。余裕の笑みを浮かべながら、木々が生い茂る方へと向かっていく。

 そして、一本の木の幹、その中央より少し上辺りを強く蹴る。

「……出てきなよー」

 直後、その木から一人の少女が飛び降りてくる。

「プププ! かっこつけてるノ、ダッサ!」

 正体はパルだった。
 小型銃を片手に舞い降りる彼女は、天使のようで、しかしながら幼い悪魔のようにも見える。

 パルは地面に降り立つと、トランへ視線を向ける。

「脱走者は殺ス!」

 はっきりと宣言するパル。
 対するトランは、呆れたように笑う。

「ボクを殺すって? 呆れるなー。そんな馬鹿げたことをはっきり言うなんて、馬鹿としか言い様がないよねー」

 トランは相変わらず挑発的な言葉を放つ。
 そこに躊躇は一切ない。

「覚悟!!」

 パルはトランへ銃口を向け、引き金を引く。
 飛び出すのは、灰色の弾丸。

 だがトランも負けてはいない。体の前でナイフを振って、灰色の弾丸を跳ね返す。

 パルは銃を持っていない方の手を前方へ伸ばす——そして、爪から灰色の包帯のようなものを発生させ、跳ね返ってきた弾丸を払った。

「ふふふ。面白いねー、それ」
「黙レ!」

 パルは地を蹴り、常人であれば気づけぬであろうほどの速さで、トランの背後へ回ろうとする。

 ——しかし。

「遅いよ」

 トランのすぐ横を通り過ぎた瞬間、パルは愕然とした顔をする。というのも、通過した一瞬のうちに首に傷を負っていたのである。

「ナッ……!?」

 状況が理解できない、というような顔のパル。
 トランは赤いもののついたナイフを片手に持ったまま、体を回転させ、パルへ目をやる。

「ふふふー」

 ナイフを持っていない方の手を掲げる。すると、宙に、黒い矢が大量に現れる。そこからさらに、トランは手をパルの方へと伸ばす。その瞬間、黒い矢が一斉にパルに向かってゆく。

「チ……このッ……!」

 パルは首の傷を左手で押さえ、右手だけで小型銃を打つ。
 灰色の弾丸はトランが放った黒い矢のいくつかを消した。が、矢は数が多く。そのため、すべてを消すことはできない。

「そのくらいで間に合うわけがないよねー」

 トランは笑顔だ。
 余裕に満ちている。

「じゃ、ばいばーい」

 次の瞬間、黒い矢がパルに刺さった。

 パルはその場に倒れ込む。
 抵抗する間もなかった。

 自然に満ちた人気のない場所に、静寂が戻ってくる。

「ふぅー」

 トランは一人息を吐き出し、ナイフを持っていない方の手の甲で額の汗を拭う。

「まったく、もう……面倒だなぁ」

 そう呟き、トランはその場に座り込む。
 そして、少し赤くなったナイフを見下ろす。

「せっかく貰ったのに、もう汚れてしまったなぁ」

 トランは地面に座り込んだまま、両手を地につけ、顔を上向ける。木々の隙間から降り注ぐ光に目を細め、暗い青の髪を風に揺らす。

 パルが動かなくなって、トランは穏やかな時間を取り戻した。

Re: あなたの剣になりたい ( No.153 )
日時: 2019/11/15 18:37
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2

episode.150 優雅な朝から

 その夜、私は夢をみた。
 恐ろしい夢を。

 それは、すべてが破滅に向かうところを見ていることしかできないという、不甲斐なさを感じさせる内容で。

 何と言えば良いのか、はっきりとは分からない。
 だが、とにかく恐怖を抱かずにはいられない夢だった。

 目の前で大切な人の命が失われる——なんて禍々しい夢なのだろう。

 何もできず大切な人を奪われるくらいなら、私が襲われる方がずっとまし。私が傷つく方がまだしも良い。

 大切な人のために何もできず。
 大切な人の命を護る力はなく。

 ——なんて情けない。


 ……。

 …………。


 そして、気がつけば朝。

 窓の外が明るくなり始めたくらいの時刻だった。

 直前まで見ていた恐怖を「夢か」と思いつつ、上半身を起こし、縦にする。そして、もう一度眠るかどうか迷う。しかし、二度も起きるのは憂鬱なので、もうここで起きることに決めた。

 それから私は伸びをして、掛け布団を捲り、ベッドの外へ出る。

 心地よい朝だ。
 ただ、嫌な夢をみていなければ、もっと心地よい朝だっただろう。

 私は寝巻きから家着へ服を着替え、部屋から出る。

 今日もまた良いことがあればいいな、などと少し考えつつ。


 私が食堂に着いた時、バッサとエトーリアは既にそこにいた。

 エトーリアは薄い水色のワンピースをゆるりと着こなしながら、椅子に腰掛けて、何やら本を読んでいる。
 バッサはいつも通りの仕事着をまとい、さくさく歩いている。朝食の準備をしてくれているのだろう。

 また、バッサより少し若い手伝いの女性がいて、彼女もバッサと同じように行き来していた。

「おはよう、母さん」

 茶色いブックカバーの本を読んでいるエトーリアに声をかける。すると彼女は顔を上げ、微笑んで、嫌そうな顔はせず「おはよう」と返してくれた。

 それから私は、食堂内の椅子にそっと座る。
 エトーリアは読書中のようなので、彼女からは少し離れた席を選んでおいた。読書を邪魔しては悪いからだ。

「エアリお嬢様。おはようございます」
「バッサ。おはよう」
「飲み物はどうなさいます?」
「特に希望はないわ」
「分かりました。では、何かさっぱりしたものをお持ちします」

 退屈なほどに穏やかな朝。
 静かで、心休まる、素敵な空間。

 賑やかさはないけれど、ゆっくりと時間を過ごせる優雅さはある。私はそれが案外嫌いでない。

「ねぇエアリ」

 バッサが飲み物を持ってきてくれるまでの間、話し相手もいないから一人ぼんやりしていると、それまで本を読んでいたエトーリアが話しかけてきた。

「え。何?」
「その胸のペンダント、綺麗ね」

 言われて、私は自分の胸元を見下ろす。
 そこにあるのは、リゴールがホワイトスターから持ってきた、星のデザインのペンダント。

「ホワイトスターのものよね?」
「そ、そうだと思うけど……」
「素敵ね。美しいわ。リゴール王子から貰ったの?」
「そうなの」

 剣にもなるし便利なの、とまでは言わないでおいた。

「大切にしているのね」

 エトーリアはそんなことを言う。

 発言の意味が分からず、私は少し戸惑った。けれど、本当のことを言ってはならないということはないだろうから、「そうなの」とだけ発して頷いておいた。

 それから少しして、バッサが飲み物を持ってきてくれる。
 黄色い液体のアイスハーブティー。

「ありがとう、バッサ」
「いえいえ」


 アイスハーブティーを飲み始めて数分が経過した頃。

 食堂に、屋敷で働く女性が一人、駆け込んできた。

 ちなみに。
 駆け込んできたと言っても、それほど慌てている様子ではない。

「エアリさんはいらっしゃいますか?」

 女性は食堂へ入ってくるや否や、そんなことを言う。
 いきなり私の名前が出てきたことに驚きつつも、私は「はい」と述べ、椅子から立ち上がる。

「何かあったの?」
「はい。実は、エアリさんにお客様が」
「お客……様?」

 誰かが訪ねてくること自体そう多くはないというに、私に用のある客人なんてより一層珍しい。私に用があって訪ねてくるということは、ウェスタかグラネイト辺りだろうが、こんな朝からというのは少々意外である。

「はい。話があるとのことです」

 話とは?
 もしかして、またブラックスターが攻めてきたという知らせ?

 色々疑問が浮かんできて頭の中がいっぱいになる。

「分かったわ。行くわ」
「玄関で待っていただいていますので」
「行ってみるわね」

 できるなら、何でもない用事であってほしい。襲撃のような物騒な話題ではないことを祈る。祈ることに意味があるのかは分からないが、それでも祈らずにはいられない。

 私は一人玄関へ向かう。
 どうか平和的な話でありますように、と、祈りつつ。


「いやぁーすみませんねぇー」
「は、はぁ……」

 玄関で私を待っていたのは、ウェスタでもグラネイトでもなかった。トランでさえなかった。

「いきなりお邪魔して申し訳ありませんねぇー」
「い、いえ」

 のんびりとした口調で話す男性。
 彼のことを、私は知らない。
 やや灰色がかった緑の頭に、笠部分だけになったキノコのようなピンクの帽子。顔や首回り、そして体全体に、結構な肉がついていてふくよか。また、トップスは渋めの赤紫、ズボンは小豆風、ブーツは髪を薄めたような色、と、妙な色遣いのファッションである。

「えっと……それで、私に何か用なのでしょうか?」

 まったくもって見覚えがない。
 いつかどこかで会っていたのか、それすらも、私には分からない。

「実はですねぇーこちらの家にですねぇー用がありましてねぇー」

 いちいち語尾を伸ばす喋り方が奇妙だ。
 また、笑顔も不気味である。

「少し失礼しますよぉー」

 ふくよかな男性は、私を押し退けるようにして、屋敷の中へと入ってくる。まるで、自分の家だと主張しているかのように。

 普通、大人がこんなことをすることはないだろう。
 他人の家に無理矢理入ろうとするなんて、怪しいとしか言い様がない。

「あの、少し待って下さい」
「何ですかぁー」
「勝手に入ってこないで下さい。まずは用件を——」

 言いかけて、言葉を止める。

「っ……!」

 いや、自分の意思で止めたのではない。
 どちらかというと「止められた」の方が相応しいと言えよう。

 男性が手のひらで私の口を塞いだ。だから私は、続きを発することができなくなってしまったのだ。唇が動かぬほどの力で口を押さえられているというわけではないが、それでも、何も言えなくなってしまった。

 ただ一つ確実なのは、目の前の男性がただの訪問者ではないということ。


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