コメディ・ライト小説(新)

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あなたの剣になりたい 【完結】
日時: 2020/01/24 19:10
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2

初めまして。
あるいは、おはこんにちばんは。

四季と申します。
今作もお楽しみいただければ幸いです。よろしくお願いします。


《あらすじ》

——思えば、それがすべての始まりだった。

親や使用人らと退屈ながら穏やかな日々を送っていた令嬢、エアリ・フィールド。
彼女はある夜、買い物を終え村へ帰る途中の森で、気を失っている見知らぬ少年リゴールと出会う。

だが、その時エアリはまだ知らない。

彼との邂逅が、己の人生に大きな変化をもたらすということを——。


美しかったホワイトスター。
憎しみに満ちるブラックスター。

そして、穏やかで平凡な地上界。

近くて遠い三つの世界。これは、そこに生きる人々の物語。

※シリアス要素があります。
※この作品は「小説家になろう」にて先行掲載しております。(完結済みです)


《目次》連載開始 2019.6.23

prologue >>01
episode >>02-31 >>34-205
epilogue >>206


《コメントありがとうございます!》
いろはうたさん

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Re: あなたの剣になりたい ( No.202 )
日時: 2020/01/24 19:04
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2

episode.201 そして来る夜明け

 ようやく王を倒せたと安堵していたところに、顔面蒼白で駆け込んできたウェスタ。彼女は肩を上下させながらも、強い言葉で訴える。

「グラネイトを助けて!」

 彼女はいつだってクールで話し方も静かだった。緊急時であっても大声を発することはほとんどない。彼女はそんな冷静な人。

 でも、今は大きな声を出している。
 室内にいた全員が一瞬にして視線を奪われたほどの声を。

「……ウェスタ、何事だ」

 一番に言葉を返したのは、私たちとは離れたところにいたデスタン。彼はしゃがむような体勢を取っていたのだが、ウェスタが落ち着きを失って駆け込んできたのを目にして、立ち上がった。

「グラネイトがどうした」
「死んだ……」
「待て。それは一体?」

 デスタンは困惑している様子。
 だが無理もない、いきなり「死んだ」なんて言われたら。

「息……」

 ウェスタは唇を震わせていた。
 その様子を目にしたら「まさか本当に?」などと考えてしまいそうになる。
 だが、たとえ敵襲か何かがあったとしても、グラネイトがそんなあっさりやられるとは思えない。うっかりやウェスタを護ったりで負傷することはあるかもしれないけれど。

「私の部屋か」
「そう」
「見てくる。ウェスタはここにいろ」

 デスタンは妙に冷静だった。

「一緒に行——」
「ウェスタはそこにいろ」
「……分かった」

 そうして、デスタンは部屋から出ていった。
 室内に残ったのは、私とリゴール、そしてウェスタの三人。ウェスタはデスタンが出ていった後、すぐにその場に座り込み、まだ肩を上下させていた。


 私は隣のリゴールと顔を見合わせる。

 お互い、どうすれば良いのか分からない、というような顔だった。

「グラネイトさん、大丈夫かしら……」
「心配ですね」

 そんな言葉をかわしてから、私たち二人はウェスタに小走りで接近。力なく座り込んでしまっている彼女に、恐る恐る声をかけてみる。

「大丈夫? ウェスタさん」

 話しかけてはみたけれど、ウェスタは何も返してこない。
 返事したくない、というよりかは、返事できない、といった雰囲気だ。

「怪我なさっているのですか?」

 続けてリゴールが話しかけた。

 が、やはり返事はなかった。

 ウェスタは酷い怪我をしてからまだそれほど経っていない。そんな状態で動いたために疲れ果ててしまったという可能性も、ゼロではない。

 しかし、今の彼女の様子を見ている限り、どうもそうではなさそうだ。

「……取り敢えず休んでおいた方が良さそうね」

 改めて、リゴールと顔を見合わせる。

 死んだような顔つきのウェスタを見ていたら、大丈夫なのかと心配になってくる部分もある。けれど、これまでも幾度も苦難を乗り越えてきた彼女なら大丈夫だろうと、そう思える部分はあって。

 そんな時、リゴールは突然言い出す。

「あの……エアリ。わたくしはデスタンを見て参ります」
「そうなの?」
「はい。処置を行うなら、一人より二人の方が良いかと思いまして」
「確かにね。ありがとう」

 リゴールは部屋から出ていった。結果、私はウェスタと二人きりになる。

 ウェスタの服にはところどころ赤い染みができていた。多分彼女も戦った後なのだろう。ただ、傷を受けて出血しているということではないようなので、そこだけは安堵だ。

「襲撃があったの?」

 二人になってから、改めて質問してみた。
 するとウェスタは微かに頷く。

「……そう」

 時間が経って、徐々に落ち着いてはきたようだ。しかし、元気そうな顔つきに戻っているかと聞かれれば、まだ頷くことはできない。

 今の彼女はそんな状態。

「ウェスタさん、体は? 大丈夫?」
「……問題ない」
「なら良いのだけど。辛いところがあったら言ってちょうだいね」
「……負傷してはいない」
「そう。それなら良かったわ」

 グラネイトのことが心配なのは分かるが、これでウェスタにまで倒れられたらもはやどうしようもない。せめて、彼女だけでも動ける状態であってもらわなくては。

「ねぇ、ウェスタさん。ブラックスター王は倒したわ」

 そう告げると、ウェスタは僅かに目を開いた。

「……事実か」
「そうよ。これからどうなるのかしら」

 すると、ウェスタは再び目を細める。

「そんなことは……知らない」

 そりゃそうか、と、私は心の中で呟く。
 王が倒れたからどうなるのかなんて、分かるわけがない。

「ま、そうね。ごめんなさい。ふと気になっただけなの」
「……気にするな」

 ウェスタの言い方は非常にあっさりしたものだった。が、それはきっと、彼女なりの優しさだったのだろう。


 それから十数分ほどが経過して、デスタンが部屋に戻ってきた。
 彼の姿を目にしたウェスタは、すぐに腰を上げ、すがるような目でデスタンを見る。

「あれは死んでなどいない」

 その言葉を聞いた瞬間、ウェスタの瞳に色が戻った。

「ほ、本当か……!?」

 そう述べるウェスタの声は震えている。だが、その震えは、負の意味での震えではない。むしろ逆だろう。

「少ししたら回復した。今は眠っているような状態だ」
「良かった……」

 安堵の声を漏らすウェスタを、デスタンは呆れたように見つめる。

「そんなに大切なのだな、あの男が」

 瞬間、ウェスタは頬を微かに赤らめた。

「っ……! そんなことは、ない……!」
「分かりやすすぎる」

 確かにその通りだが、何も、そこまでストレートに言わなくても。
 もう少し言い方を工夫しても良いのではないだろうか。

「……同僚に少し情が湧いただけで」
「なぜ認めない」
「なっ……兄さんっ……! そんな言い方……!」

 デスタンと話すウェスタは、妙に可愛らしい。戦闘時とは別人のようだ。今の彼女は、まるで少女である。

「はっきり言い過ぎも良くありませんよ、デスタン」

 少し遅れて戻ってきたリゴールが、デスタンの背後からさりげなく口を挟む。

「王子。私はただ真実を述べただけです」
「真実であっても言わない方が良いことはあるものですよ」
「理解できません」

 なぜだろう、凄く懐かしい。
 リゴールとデスタンがこうしてやり取りしている光景を見るのは、とても久々な気がする。

 もうずっと忘れていた、穏やかに流れてゆく時間なんて。何も恐れることなく過ごせる時間なんて、私たちにはなかった。

 でも、それはようやく私たちに戻ってきてくれそうだ。

 ブラックスター王の長い復讐は終わった。多分もう襲われることはない。だからこれからは、敵の出現を恐れる必要もなくなるだろう。

 静寂の中、デスタンはウェスタに向けて言葉を放つ。

「ウェスタはグラネイトの傍にいてやるといい」
「……おかしくないだろうか」
「ない。むしろ、傍にいてほしがっているはずだ」

Re: あなたの剣になりたい ( No.203 )
日時: 2020/01/24 19:05
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2

episode.202 報告を

 ウェスタはグラネイトに会うため、彼のもとへと向かった。

 部屋には、私とリゴール、そしてデスタンが残る。

 懐かしい三人だ。こうしていると思い出す。ここへ来る前、三人でミセに世話になっていた頃を。

 あの頃は不安でいっぱいだった。
 これからどうなっていくのだろう、と、不安を抱いていた。
 でも、それでも、いつだって誰かが傍にいてくれたから勇気を持てて。何だかんだで、それなりに楽しい毎日を過ごしていたような記憶がある。

「お疲れ様、リゴール」
「ありがとうございます。エアリ」

 あれからどのくらいの時間が経ったのだろう。色々なことに巻き込まれていたから長かったような気もするが、案外短かったような気もする。どのくらい経ったかは、もうはっきりとは思い出せない。

「王子、お怪我はありませんね」
「はい。デスタンこそ、体、大丈夫ですか?」
「私は平気です」

 辛いことはたくさんあった。苦しい時もあったし、私が選んだこの道が正しいのかと不安になる時もあったし、寂しい別れも経験した。

 でも、悪いことばかりだったわけではない。
 同じくらいか、それ以上か、嬉しいことや楽しいこともあった。

「……結構前に出ていましたが、本当に平気なのですか?」
「はい。私は嘘などつきません」
「なら良いのですが、無理して『平気』とは言わないで下さいね」
「はい。それはもちろんです」

 険しい道だったが、辛すぎる道ではなかったこと——それは救いか。

「……あ! そうでした!」
「どうしました? 王子」
「エアリのお母様に伝えなくてはなりません。すべての元凶は消えた、と」

 すべてが上手くいった今、私は幸福だ。

 けれども、心に少しの不安もないかと言われれば、そうでもない。

 私はこれまで、この日を目指して戦ってきた。
 ブラックスター王を倒し、リゴールが穏やかに暮らせる日を手にする——それが私の戦いの意味であり、人生の意味でもあった。

 でも、だとしたら、これからはどうなるのだろう。

 目指していた場所に達した時、人は何を目標として行けば良いのだろうか。

 今はまだ分からない。
 終わったばかりだから、よく考えられない。

「ですよね! エアリ!」
「え、私?」
「今日は、このことを、お母様に報告しましょう!」

 私の戦いはもう幕を下ろしかけている。
 でも、完全終了までには、まだすべきことがあるのかもしれない。

「そうね。朝になったら報告に行かなくちゃ」


 朝が来るまで、私は少し眠った。
 顔やら服やらが汚れているし戦いの直後だから眠れないかもと少し心配していたが、案外そんなことはなく。意外とぐっすり眠ることができた。


「ということで、すべて終了致しました」

 朝、食堂でエトーリアと会った時に、リゴールは彼女に向けてそう言った。

「え!?」

 いきなりの報告を受けたエトーリアは、驚きと戸惑いが混じったような顔になる。
 だがそれも無理はない、急だったから。

「昨晩、エアリがブラックスター王を倒して下さいました。なので、恐らくではありますが、もう危険なことは起こらないと思います」

 驚きと戸惑いに胸を満たされ返答に困っているエトーリアに、リゴールは事情を説明する。彼は、エトーリアが戸惑いを露わにしていることは、あまり気にしていないようだ。

「ブラックスター王を!? しかもエアリが? ……待って、話が理解できないわ」

 エトーリアは、混乱したようにそう言い、片方の手のひらを頭に当てる。

「夜の間に何があったというの……」
「仕掛けてきたのよ、王が」

 自ら口を挟むなど厚かましく感じられるかもしれないと心配になりつつも、私は答えた。
 母親相手だから大丈夫だろう、と思うことができたから、可能だったことである。

「……それで、戦ったというの? エアリ」
「そうそう」

 エトーリアが怪訝な顔をしながら放った言葉に、私は小さく頷く。するとエトーリアは、呆れたように溜め息をついた。

「まったく。危ない橋を渡るのが好きね」

 彼女の言葉も間違いではないと思う。

 振り返れば、私は危険な道ばかり選んできた。リゴールと出会ってから、ずっとだ。ただの娘が選ぶべきではないような選択肢を選びながら歩んできた。

 結末が悪いものでなかったから良かったが、これで悪い結末を迎えていたなら——今、私がエトーリアに述べられることなんて、何もなかっただろう。

「でも、命があればそれで十分だわ」

 そう言って、エトーリアは笑った。
 数秒後、彼女は視線を私からリゴールへと移す。

「途中は色々余計なことを言ってしまって悪かったわね。ごめんなさい」

 エトーリアの口から出たのは、リゴールへの謝罪の言葉。

「へ? ……い、いえっ! 謝罪なんて!」

 謝られることは予想していなかったらしく、リゴールは妙な声を出す。
 彼はなぜか、慌てたような振る舞いをしてしまっている。ただ軽く謝られただけなのだから、べつにそんなに気にすることもなさそうなのだが。

「貴方に罪はないのに、わたし、貴方を責めるようなことを言ったわね」
「迷惑をかけてばかりだったのは、わたくしの方です。ですから、その、気になさらないで下さい」

 責めたことを謝罪するエトーリアと、そんな彼女を「悪くない」と言うリゴール。二人の間には、奇妙な空気が漂っている。

「ところでリゴール王子」
「は、はい」
「これからはどうなさるおつもりなのかしら?」

 エトーリアは早速そんなことを問う。遠慮がない。

「実は……まだあまり考えられていないのです」

 彼女の問いに、リゴールはそう答えた。

 するとエトーリアは……。

「もしすることが何もないのなら、エアリと一緒に暮らすというのはどうかしら」

 何事もなかったかのように、さらりとそんなことを言った。

 発言が予想外で驚いた。
 エトーリアが自らそんなことを言い出すとは思えない。

 ただ、これからもリゴールと暮らせるのなら、それは幸せなこと。嬉しいことだ。今さら別れるなんて寂し過ぎるし。

「母さん、いきなり何を言ってるの!?」
「どうしたの? エアリ」
「待って待って! どうしたの、じゃないでしょ!?」
「彼と一緒にいられるのよ。エアリにとっても悪いことではないでしょう」

 まぁ、確かに、それはそうだが……。

「それはそうね」
「ふふふ。でしょう?」

 エトーリアは楽しげに笑みをこぼしている。
 楽しまれているようだ。

Re: あなたの剣になりたい ( No.204 )
日時: 2020/01/24 19:06
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2

episode.203 働かせることはできない

 一緒に暮らすということを提案されたリゴールは、明るい顔つきになりながら、胸の前で両手を合わせた。

 陽気な少女でなければ普通はしないような動作。
 だが、線の細いリゴールがすると、さほど違和感がない。

 デスタンでもグラネイトでも、もちろん私の父親でも、リゴール以外の男性がその動作をすれば、奇妙な雰囲気になったことだろう。

「それは名案ですね……!」

 拒否するかもと思ったが、それは杞憂で。
 リゴールはすんなり頷く。

「このようなわたくしで良ければ、この屋敷で色々お手伝い致します!」

 生まれ育った国が今はもうなくとも、リゴールがホワイトスターの王族であったことに変わりはない。今もホワイトスター王族の血を持っているのだから、彼は間違いなく王子だ。

 それなのに、彼は腰が低い。
 今に始まったことではないが、改めて違和感を覚えてしまった。

「お手伝いなんていいのよ」

 エトーリアは柔らかい笑顔でそう返したが、リゴールは頷かなかった。

「い、いえ……! わたくしは前々から、何か他人の役に立てることをしたいと、そう考えていたのです。ですから、まずはここで恩返しをさせて下さい……!」

 王子が使用人のような立場を選ぶなんて、意味が分からない。それに、リゴールを働かせたりなんかしたら、今は亡きホワイトスター王族たちに怒られてしまいそうだ。

 特に、この屋敷はエトーリアのものだから、なおさら。

 事情を知らぬ者が雇ったならともかく、ホワイトスター出身のエトーリアが雇ったとなれば、妙な念でも送ってこられそうなものである。

「リゴール王子を働かせるなんて……恐れ多くて無理だわ」
「そこを何とか。お願いします」
「できないわ。わたしはホワイトスター出身だから、なおさら」

 エトーリアはすっかり困り顔。
 リゴールはここで働く気に満ちているようだが、そのせいでエトーリアが困りきってしまっている。

「待って待って。リゴールはのんびり暮らせば良いのよ」

 私はつい口を挟んでしまった。
 母親が困っているのを放ってはおけなくて。

「エアリ?」
「これからはここで一緒にのんびり暮らす——っていうのはどう?」

 軽く提案すると、リゴールは奇妙なものを見たような顔。

「一緒に、ですか?」
「そうそう。ま、今までみたいな感じで。それなら良いんじゃないかしら」

 そこでリゴールは黙る。
 彼は何も言葉を発さず、暫し、考えているような顔をしていた。

 思考の邪魔をしてはいけないので、私は唇を閉じて、彼が再び口を開くのをのんびりと待つ。じっと待つ。

 その間、エトーリアも同じだった。
 私とリゴールのやり取りを聞いていたからなのだろうが、彼女も黙ってくれている。

 そのせいで、食堂内がしんとしてしまう。

 だが、皆が遠慮なく喋り続けて騒がしいことになるよりかは、リゴールも落ち着いて考えられるだろう。そう考えるならば、今のこの静寂を悪いものだと思う者はいないはずだ。

 その後、一二分ほどが経過して。

「エアリがそう仰るなら、それも一つかもしれませんね」

 それまでしばらく考え事をしているような顔で黙っていたリゴール。彼の口から出たのは、私が出した案に対して前向きな言葉だった。

 それからすぐに、彼はエトーリアへ目をやる。

「ではお母様……そのような形で構わないでしょうか」
「エアリと二人でのんびり、という暮らし方?」
「はい。それなら楽しそうだと思ったので……いかがでしょう」

 使用人のようなことをしようとしていたリゴールだったが、それは諦めてくれたようだ。

「わたしは賛成よ。それなら」
「では、それでよろしくお願いします……!」

 リゴールは丁寧に頭を下げた。
 王族が一般人に下手に出ている光景というのは、不思議というか何というか、非常に違和感があるものである。

「では改めて。エアリ、これからもよろしくお願い致します」

 リゴールの青い双眸に見つめられたら、何とも言えない気分になってしまう。嬉しいような、恥ずかしいような——今、そんな不思議な気持ちだ。

「ふふ、リゴールは相変わらず丁寧ね」
「この屋敷にお世話になるのですから、当然のことです」
「もういいのよ? そんな固いこと。……それに、ここは私でなく母さんの屋敷よ」

 絶対的な予言なんてないから、明日の私たちをこの目で見ることはまだできない。将来のことはまだ分からない。

 だがそれでも、一つの道は、微かに視界に入り始めた。

 それはとても細ささやかなこと。
 でも、将来を想像するための大きな一歩であることは確かだ。


 朝食後、私とリゴールはデスタンに会いに行くことにした。

 廊下から見える窓の外は明るい。今日は晴れのようだ。降り注ぐ日差しはとても強くて、目を細めたくなるほどに眩しい。

 ただ、光が強いことは確かだが、今日は特に眩しく見える気がする。

 胸の内を満たしていた薄暗いものが消えたから……かもしれない。

 デスタンに会うべく私たちが向かったのは、リゴールの部屋。
 最近の彼は、そこで暮らしている。

「デスタン! 報告が終わりました!」

 リゴールが先に部屋へ入ってゆく。
 するとそこには、デスタンと彼に会いに来たミセがいた。
 デスタンは床に座っていて、ミセは彼にもたれるようにしてしゃがんでいる。彼女の両腕は、どちらも、デスタンの右腕に絡んでいた。

 こんな日でも、ミセは通常通りの運転だ。

「もう終わったのですか、王子。早かったですね」
「はい!」
「それで、何か問題でも浮上しましたか」
「いえ! 問題が発生するどころか、わたくし、これからもここで暮らせることになりました!」

 ストレスから解放されてご機嫌なリゴールは、一切躊躇うことなく、すべてをデスタンに打ち明ける。

「そうなのですか。意外です」
「変でしょうか?」
「いえ。ただ、王子はホワイトスターへ戻られるのだと思っていたので」

 そう、そうなのだ。
 普通なら祖国に帰ることを一番に願うはずで。

 デスタンの考えていたことは正しい。実際のリゴールの考えとは違っていただけで。

「わたくしも、最初はそのつもりでしたよ」
「やはり。そうなのですか」
「エアリに出会っていなければ、わたくしはホワイトスターへ戻ることを選んでいたかもしれません」

 そう言って、私へ視線を向けてくるリゴール。

「でも、エアリと出会いました。だからわたくしは、これからもずっと、エアリと一緒にいるのです」

 私だって、彼とは共にありたいと思っている。

 ……ある意味両想い?

「これまでずっとエアリが傍にいて下さったように、これからはわたくしがずっとエアリの傍にいるのです。ですよね? エアリ」

 いきなり難しい振り方をされてしまった。

「そ、そうね。それが理想形だわ」

 せっかく良い雰囲気になりつつあるのに、私は気の利いた言葉を返すことができなかった。

Re: あなたの剣になりたい ( No.205 )
日時: 2020/01/24 19:07
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2

episode.204 優しい人

「お邪魔しまーす」

 ずっとデスタンが使っていた部屋へ入る。
 室内には、仰向けで眠るグラネイト。そして、その一メートルほど横には、上半身を起こした状態のウェスタがいた。

「あ。ウェスタさん、起きていたのね」
「……エアリ・フィールド」

 つい「なぜいちいちフルネームで呼ぶのだろう」などと考えてしまいそうになる。が、そこには触れないでおくことにした。わざわざ尋ねるほど重要なことではないからだ。

「ウェスタさん、体調はどう?」

 色々あった後だから、自然とグラネイトに意識が向きそうになってしまう。でも、ウェスタも負傷していたことを、私は覚えている。

 だから私は彼女の体調についてを先に尋ねたのだ。

「問題ない」
「それは良かった。……で、グラネイトさんは?」

 もちろん彼の方も心配ではあるから、続けて質問してみる。

「骨折があるが、命に別状はないと言われた」

 私が放った問いに、ウェスタは速やかに答えてくれた。

「う……骨折って……」

 想像してしまった。

 こんなイマジネーションは要らない。リアルにイメージできればできるほど、胸の辺りに嫌な感覚が広がってしまうから。

 でも、一度想像してしまうと、胸の気持ち悪さはもう消えない。

 こんなことを言ったら怪我人を気持ち悪がっていると受け取られるかもしれないが……当然そういうわけではないのだ。

 一人そんなことを考えていた時。

「どうした。急に顔色が悪くなったようだが」

 ウェスタが心配してくれているような顔つきで言ってきた。

 私はそんなに分かりやすいのか……。

「あ……ち、違うの!」
「一体どうした」
「何でもないわ! 気にしないで!」

 慌ててしまって、不自然な話し方をしてしまう。そのせいで余計に妙な振る舞いになってしまった。

「……何でもないならいいが」
「え?」
「体調が悪くなったのなら心配だ」

 それは、ウェスタの口から出てきているとはとても思えないような、優しく温かい言葉だった。グラネイトが聞いたら、きっと、羨ましくて暴れ回るだろう。

「……優しいのね」

 実は戸惑いが大きい。

「そんなことはない。協力者になっていた以上、心配するのは当たり前のことだ」
「……やっぱり、優しいわ」

 ウェスタはデスタンにどことなく似ている気がする。
 兄妹だからだろうか。

 容姿が似ているのはもちろんだが、今私が言いたいのはそこではない。今、私が言おうとしているのは、性格的な面のことだ。

 デスタンは毒舌で冷淡だが、周囲の人を常によく観察しているし、時には励ましの言葉をかけてくれたりもする。彼は、心ないように見えて温かな心を持っている人物。

 そういうところが似ているのだ。

「まさにデスタンさんの妹さんって感じね」

 私は思ったことをシンプルに言葉で述べた。
 するとウェスタははにかんだ。

「それは……少し照れてしまう」

 照れるところが少々おかしいような気がしてしまう。無論、照れるタイミングに決まりなんてものはないのだが。

 その時、仰向けで眠っていたグラネイトが足を小さく動かした。

「んん……」

 口からは低い音が漏れる。
 寝惚けているようだ。

「ん……ウェス、タ……」

 寝言でまでウェスタを呼ぶとは、恐ろしい徹底ぶり。

「どうした、グラネイト」
「あと二分……寝さ、せて……」
「何を言っている」

 グラネイトの残念な寝言に呆れ果てたウェスタは、大きな溜め息を豪快に漏らしていた。今の彼女には、遠慮なんてものはなかった。

「……すまない、こいつはずっとこんなで」
「面白い人よね」
「……かなり変わっている」

 確かに、街で披露していたあの謎の芸は、非常に個性的なものだった。あれはもはや、常人では不可能な域に達していたように思う。だからこそ人気だったのだろうが。

「嫌い?」
「いや……そんなことはない。ただ、呑気さを羨ましく思うことはある」
「確かに。ウェスタさんが傷ついている時以外は、いつも元気いっぱいよね」

 するとウェスタは呆れたように返してくる。

「……時に馬鹿に見える」

 彼女らしい答えかもしれない、それは。

「だがそれでも……助かって良かったと思うのは、やはり、彼が大切な存在だからなのだろうな」

 そんな風に述べながらグラネイトを見下ろすウェスタの表情は、まるで母親のよう。紅の瞳には優しい光が宿っている。

 ウェスタはずっと、グラネイトへの想いに関してだけは素直でなかった。でも、今は以前とは違って、少しは素直さを持っている。もう気づいてはいる、ということなのだろう。

「ところで、ウェスタさんはこれからどうする予定?」
「……それは、どのように生きていくか、という問いか」
「えぇ。首を突っ込むみたいで申し訳ないけれど、少し気になって」

 何も、深い意味などない。
 企みがあるわけでもない。
 尋ねたのは純粋な興味からであって、それ以上でも以下でもないのだ。

「どう、か……今はまだよく分からない」

 むにゃむにゃと寝言を漏らすグラネイトの肩にそっと手を添える。

「だが、なるべく早くここから出られるように努力はする。心配は要らない」
「え? そんなの、べつに気にしなくていいのに」

 今の私の言葉は本心だ。

 私はウェスタたちがここにいることなんて気にしていないし、エトーリアだってきっと怒りはしないだろう。

 けれど、私の言葉はウェスタには届いていないようで。

「……いや、迷惑をかけ続けるわけにはいかない。動けそうになり次第、ここを出る」
「無理しなくて良いのよ? 無茶して動くと危険かもしれないし」
「……ありがとう、いつも」


 ブラックスター王の復讐は終わった。
 それゆえ、ブラックスターの人間とホワイトスターの人間が憎み合い剣を向け合う必要は、もうない。

 リゴールの命を狙った刺客が皆悪かったわけではない。彼らは王の復讐のために利用されていたのだ。ブラックスターに生きる者として、王のために戦いを選んだ——それだけのこと。

 私はウェスタたちを憎みたくない。

 負の感情は巡り続ける。が、それに意味などありはしない。負の感情が巡り続けたところで、生まれるのは不幸だけ。

 だから、憎しみの連鎖はここで止めよう。

 その先にこそ、未来はある。
 新しい明日、明るい明日を迎えるためには、きっとそれが一番良い方法だ。

Re: あなたの剣になりたい ( No.206 )
日時: 2020/01/24 19:09
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2

epilogue

 早いもので、あれからもう一カ月が過ぎた。
 王を倒して以来、リゴールを狙った襲撃は一度もなく、退屈なほどに穏やかな時が流れている。

「長い間世話になった。感謝する」
「ふはは! 何だかんだで長く居座ってしまったな!」

 今日、ウェスタとグラネイトは屋敷を発つ。
 一度ブラックスターへ帰るのだという。
 私はリゴールやデスタンと共にそれを見送るため、屋敷の門の外側に立っている。

 晴れ渡った空は皆の心中のように澄んでいて、青一色。
 降り注ぐ日差しは、私たちを祝福してくれているかのようだ。

「どうか、お気をつけて」

 もうじき旅立とうという二人に、リゴールは控えめな調子で声をかけた。

 彼にとっては、二人は敵だ。何度も自身の命を狙って襲ってきた人物でもあって、それゆえ、今は仲間でも完全に信頼はできないと思う部分もあるだろう。

 それでも、二人を見送るリゴールの瞳に迷いはなかった。

「ふはは! 心の広い王子、百二十点!」
「……あ、ありがとうございます」

 グラネイトがリゴールに妙なことを言っている隙に、ウェスタはデスタンの前へと歩いていく。何か言いたげな顔をしながら少し黙る。そしてやがて、デスタンにそっと腕を絡めた。

「兄さん……必ずまた会いに来るから」

 デスタンはウェスタを拒まない。
 片手をそっと彼女の頭の上に当て、短く返す。

「そうだな。また会おう」

 リゴールに仕えることを選んだ兄と、そんな兄を探し続けていた妹。ずっと一緒に過ごせた方が幸せなのではないか、と、考えてしまう部分はあって。

 でも、それはきっと違うのだろう。

 それは私一人の感覚に過ぎないのだ、恐らく。

 二人はいつだって繋がっている。肉体が傍になくとも、心の深いところで繋がっていられるから、不安ではないのかもしれない。
 私には兄弟姉妹がいないから、その感覚はよく分からないけれど。

「ではこれで」
「ふはは! グラネイト様、完全復活の時!!」
「……うるさい」
「いきなり怒るなよォッ!?」

 温かな日差しの中、去っていく二人を見送る。
 しばらく共に過ごした人たちの背中を見るのは寂しい。でも、仲良く二つ並んだ背を目にしたら、ホッとする部分もあった。

「行ってしまいましたね」

 二人が去ってから、リゴールが残念そうに呟く。

「王子が残念に思われることはないはずです」
「デスタン?」
「あの二人は王子の命を狙っていた者たちですから」
「それはそうですが……それでも寂しいですよ。一緒にいる間は、よく顔を見かけましたから」

 そんな風に心を述べるリゴールの心情が理解できなかったのか、デスタンは軽く首を傾げる。

「そういうものでしょうか……」
「わたくしにとっては、そういうものなのです」
「そうでしたか」

 こうして私たちは屋敷内へと戻った。
 しんみりしていた私を迎えてくれたのはエトーリア。

「お別れは済んだの? エアリ」

 エトーリアは、その整った顔に穢れのない純粋な笑みを浮かべながら、尋ねてくる。

「えぇ」
「何だか寂しそうな顔をしてるわね」
「そりゃそうよ。ずっと一緒の家で暮らしていたんだもの」


 その日の晩。
 私は自室にリゴールを招いた。

「失礼しますね」
「どうぞどうぞ、遠慮なく」

 彼を自室へ招いたことに理由なんてない。
 ただ、すべてが終わったこの時に、彼と二人で話をしたかったというだけのことだ。

「それでエアリ、わたくしに何かご用で?」
「いいえ」
「違ったのですか?」

 リゴールはきょとんとした顔をする。

「そう……用事なんてないの。ただ少し会いたくなっただけ」

 おかしなことを言う、と思われてしまわないか、私としても不安はあった。
 でもそれは杞憂に過ぎず。
 リゴールはちっとも悪く取っていないようで、笑顔で返してくれる。

「そうだったのですね」

 彼は真っ直ぐな目をしている。
 どこまでも、穢れのない。

「ねぇ」

 私は天井を見上げながら口を開く。

「リゴールは……これからも私といてくれるのよね?」

 重いと思われそう、という不安は振り払い、確認の問いを発した。

「はい。そのつもりですが」
「嫌になったら言って良いのよ」
「そうですね。けど……わたくしは嫌にはならないと思います」

 リゴールはそう断言する。

 人間誰しも、相手を嫌いになることはあるものだ。訳なんてなくても、感情が変わることはある。
 それでも、彼は断言できるというのか。

 私には無理だ。

「……随分はっきり言うのね」
「問題ですか?」
「いえ。ただ、少し信じられなかっただけよ。私は、そんなに真っ直ぐ断言できる人間ではないから」

 若干嫌みのようだが、これは、嫌みを込めた言葉ではない。
 彼の真っ直ぐさを羨ましくは思うけれど。

「でも嬉しいわ。貴方にそう言ってもらえて」
「光栄です」
「それは違うわ。光栄、って言うべきなのは、私の方」

 王子に傍にいてもらえるのだから、物語みたいな話だ。

 ……正しくは『元・王子』だが。

「わたくしはそうは思いませんが……」
「私はそう思うってだけ」
「では、お互い、ということですね」

 リゴールの青い双眸を見つめる時、不思議なものが込み上げてくる。

 それは、よく分からないもの。
 でも決して悪いものではないし、不快なものでもない。

 ただ、名称が分からないだけで。

「じゃあ、改めて。これからもよろしくね」
「参りましょう。共に」

 ー終ー


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