コメディ・ライト小説(新)

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

それでも彼らは「愛」を知る。
日時: 2020/07/06 20:09
名前: 猫まんまステーキ (ID: m9ehVpjx)

こんにちは。猫まんまステーキです。

昔、主に社会系小説の方で「おかゆ」という名前でほそぼそと活動してました。

見たことあるなって方も初めましてな方もどうぞ楽しんでくれたら嬉しいなーと思っております。

それではごゆっくりどうぞ。


分かり合えないながらも、歩み寄ろうとする「愛」の物語です。


 登場人物 >>1
 Episode1『勇者と魔物とそれから、』 >>2 >>4 >>5 >>7
 Episode2『勇者と弟』 >>9
 Episode3『勇者と侍女とあの花と、』 >>11 >>12
 Episode4『絆されて、解されて』 >>13 >>14
 Episode5『忘れられた神』 >>15 >>16
 Episode6『かつての泣き虫だった君へ』◇ルカside◇  >>19 >>20 >>21
 Episode7『その病、予測不能につき』 >>22 >>23 >>24
 Episode8『臆病者の防衛線』◇ミラside◇ >>25 >>26 >>27
 Episode9『その感情に名前をつけるなら』◇宮司side◇ >>28 >>29 >>32
 Episode10『雇われ勇者の一日(前編)』◇宮司side◇ >>39 >>41 >>42 >>44
 Episode11『雇われ勇者の一日(後編)』 >>47
 Episode12『いちばんきれいなひと』 >>48
 Episode13『ギフトの日』 >>49 >>52
 Episode14『とある男と友のうた』 >>53 >>54 >>55 >>56
 Episode15『本音と建前と照れ隠しと』 >>57
 ◆番外編◆
 -ある日の勇者と宮司- 『ケーキ×ケーキ』 >>34
 -ある夜のルカとミラ- 『真夜中最前線』 >>58

 ◇コメントありがとうございます。執筆の励みになります♪◇
 友桃さん 雪林檎さん

Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13



それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.57 )
日時: 2020/06/24 20:55
名前: 猫まんまステーキ (ID: m9ehVpjx)



 きっとあたしが求める愛の答えは、まだ出ない。




 Episode15『本音と建前と照れ隠しと』



 「―――随分長く話してしまった」
 
 まるで夢から醒めたような顔をした穂積が小さな声で謝った。

 「まぁそれからいろいろあって俺は今のところにいる。いやぁ、こんだけ長く生きていると何が起こるかわからないものだな」

 何事もないようにけらけらと笑う穂積をみてなんと声を掛けたらいいのかわからなくなった。

 「……お前は‥、穂積は、アンナと、その‥」
 妙に続きの言葉を伝えるのが憚られてしまう。

 「愚問だな、勇者よ」

 あたしの考えを読んだのか穂積が困ったように笑う。

 「俺はあいつがどんな形であれ、たとえ記憶がなかったとしても、俺はあいつの事を愛おしいと思うのだ」
 そういうものなのだ。とけらけら笑うのだった。

 「少し勝気なところも、時折見せた無邪気なところも、少し図々しいところも、誰にでも分け隔てなく接するところも、

 音楽が好きで奏でるその姿ですら、あいつと同じなのだと感じてしまう」


 そして遠くで話しているアンナをゆっくりみた。


 「どんなかたちであれ、幸せに生きていてくれれば、それでいい」


 あぁ、その言葉には一体どれほどの感情と想いが込められているんだろう。

 それを知るには、あたしにはまだ愛を知らなさすぎる。



 
 ◇◇◇


 その後もアンナの店で品物を吟味したあと、あたしはクッキーと香り玉を購入した。穂積は自分用にブローチを、宮司はお酒を買っているのが見える。


 「試飲してみたのですがなかなかおいしかった。よかったら勇者もどうですか」
 「えっ!いいの!?うわぁ嬉しい!このクッキーと合うかなぁ‥」
 「え、クッキーですか‥?」

 後ろで少し戸惑う宮司の声が聞こえる。食べてみないとわからないだろう。

 「いろいろ買ってくれてありがとね!」

 帰り際、ちょうど手が空いたアンナが見送りに来てくれた。
 「なかなかいい買い物ができたよ。ありがとう」
 「ふふん。でしょう?品ぞろえはなかなかいいと思ってるからね!」

 自信満々に話すアンナに思わず笑ってしまう。それは穂積も同じだったようでその顔は少し嬉しそうだった。


 「また来る」
 「うん」

 穂積の顔に迷いはなかった。


 「―――あ、ねぇ、穂積」


 店を出る直前、アンナが穂積を呼び止めた。
 「ねぇ、あたしたち、どこかで会ったことある?」

 フードで顔はあまり見えなかったが、確かに息をのむ音が聞こえた。


 「……いいや。初めてだよ」
 「‥、そっか」




 そして何事もなかったように手を振った。




 「―――よかったのですか?」
 「‥あそこで言って、何になる」

 小さくつぶやくように発した宮司の声に穂積は満足気に話した。


 「――よかったさ」
 



 まるで自分に言い聞かせているようだった。


 「……まぁ俺はこれからも気ままに生きていく。あいつが今幸せならそれでかまわないし‥それに」

 あたし達の方を振り返る。


 「今は騒がしい奴らが周りにいるからな。見ていて飽きない」


 そういわれたその言葉が妙に嬉しくて、だけどそれを素直に認めるのが癪でつい穂積を小突いた。


 結局城に帰ったのは夕方ごろで。 
 あたしが買ったクッキーと香り玉は千代さんやルカ、ミラに好評だった。
 
 
 ◇◇◇


 「勇者」

 一人で長い廊下を歩いていると宮司があたしを呼ぶ声が聞こえた。思わず振り返るといつもの顔をした宮司。だけど、


 「‥宮司?どうしたんだ?」
 「これ、あなたにあげます」
 「ん?」

 差し出されたのは丸い球が付いた髪飾りだった。中は星がちりばめられていてキラキラ光っている。

 「‥きれー‥」
 「先ほどの店で見つけました。とても綺麗だったのでつい手を伸ばしてしまいまして」
 「これ、あたしに‥?」
 「あなたに似合いそうだなと‥いつもあの兄貴やルカ達の相手、ご苦労様です。それと、」


 一瞬言うのをためらう姿が見えたのは気のせいだろうか。

 「――この間の商談のお礼です」

 二コリと笑う宮司の顔に不覚にも少しだけときめいてしまったのは――、


 「え‥宮司がそんなに素直にお礼をいうなんて‥」
 「嫌ならもらわなくて結構」
 「ああいや!!もらう!!もらうから!!‥嬉しい」
 「……よかった」
 「あ、でもあたし、宮司に何も買ってない」
 「それもいいですから」
 
 ずいっと効果音が付きそうなほど詰め寄ったあたしに宮司は右手で制して落ち着かせる。


 「たまたまギフトの日と重なってしまったのでそうなってしまいましたが‥別にこれはギフトの日関係なくただあなたに渡したいと思ったから買ったのですよ」

 少し呆れたような顔で笑う宮司とは対照的に顔が熱くなるのを感じた。


 「えっ……と、」
 「では」
 

 そういって背を向けて歩いて行ってしまった。


 「……っ、」
 
 なんで自分の顔が熱いのか、とか。あの宮司があたしにプレゼントを、だとか。そんなことをぐるぐると考えてはみたけれど。


 「……なんで‥!?」

 すべてを考え理解するのにはもう少し時間がかかりそうだと一人になった廊下でしゃがみ込んでしまうのだった。


それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.58 )
日時: 2020/06/24 21:02
名前: 猫まんまステーキ (ID: m9ehVpjx)



  -ある夜のルカとミラ-

 「やっほー」
 「‥ルカ?どうしたの、こんな夜遅い時間に」
 「ちょっと起きちゃった‥ミラは見回り?」
 「そう。龍司様は結界が張ってあるから頻繁に行わなくていいっていってくださるけど‥でもつい、ね。それにやっぱり昼間より夜の方が動きやすい」
 「吸血鬼だもんね。そりゃあ夜の方が力も出やすいよねー」
 「そう‥最近は力を付けるために昼間も働くことが多いけど‥やっぱり夜の方が落ち着く……」
 「あたしたちも起きてるし?」
 「ルカ」
 「あはは、ごめん」
 「――まぁでも、それも少しは……あるかも」
 「……」
 「なによ」
 「いや、何も」
 「何もっていうならそのにやけ顔やめて」
 「ふふ」
 「もう……」
 「ミラも変わったよね」
 「昔よりもよく感情を出してくれるようになった」
 「……」
 「ちょっと、何その顔。まぁでもあたしはそんなミラも好きだよ!」
 「うるさいよルカ。皆起きちゃうでしょ」
 「あぁ、そっか‥でも事実でしょ?」
 「‥そうかな」
 「そうだよー!ミラが何考えているのかわかりやすくなったもん!」
 「ルカは長くいるからそう感じるだけだよ」
 「えー絶対そうだと思ったんだけどなぁ‥」

 「――‥わかりやすくなったかどうかは別として、でも確かにちょっと変わったところはある、かも」
 「えーなになに!?」
 「‥ちょっと前向きになった、とか‥」
 「前向き?」
 「……自分が吸血鬼でも、いいのかなって‥」
 「……それは誰のおかげで?」
 「‥わかってるくせに」
 「あはは、ごめん」
 「たまにルカは、いじわる」
 「ごめんって!!――それにしても、随分にぎやかになったねぇ」
 「‥うん」
 「始めは人間の、しかも勇者がきたなんて聞いたからどうしようって思ったけど」
 「あぁ、ルカもそんなこと思ったんだ」
 「失礼な!――でも、拍子抜けするくらい温かかったよね」
 「‥うん」
 「温かくて優しくて、ちょっと流されやすくてかなりお人好しで―――このままあたし達を殺すことなく過ごせたらいいのに」
 「……うん。そうなったら、きっと多分、ずっと幸せに暮らせるね」
 「勇者は戦うよりも‥千代様とお茶をして、龍司様と体力づくりをして、あたし達と楽しく遊んで、穂積といろいろな話をして、宮司様と楽しく口喧嘩をしている姿の方が似合うよ」
 「そうね……私もそう思う」
 


     番外編『真夜中最前線』




 「そういえば龍司様と宮司様、まだ多分起きてる」
 「えっ!そうなの?何で!」
 「さっき部屋の前を通ったら唸っている龍司様と小言を話す宮司様の声が聞こえた」
 「あはっ!きっとまたお仕事が行き詰っているんだ!お夜食でも出しちゃう?」
 「‥賛成」



それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.59 )
日時: 2020/07/06 20:05
名前: 猫まんまステーキ (ID: m9ehVpjx)



 「あーーー!!!!疲れた!!俺は疲れたぞ!!」

 ある昼下がり、千代さんやルカ達とのどかにお菓子を食べていると勢いよく扉があき、龍司が弱音を吐きながら入ってきた。

 「お疲れ様です。龍司様」
 「お仕事はおわりましたかっ?」
 
 「んなもん休憩だ!!やってられるかー!」

 相変わらず子どものように駄々をこねながら千代さんが作ったパウンドケーキを食べる。

 「こういう時は気分転換に限る」
 にやりと笑う龍司。あぁ、なんだ嫌な予感がしそうだ。


     Episode16『彼らなりのコミュニケーション』


 「オツカレサマデシタ、ヘヤニモドリマス」
 「どこ行くんだー?勇者」

 面倒ごとに巻き込まれたくないと急いで席を立つとまるで何とでもないというように龍司に襟元を引っ張られ「ぐあっ」と変な声が出てしまった。

 「ちょっと遊ぼうぜ、勇者」
 「遊ばない」
 「どうせ暇だろ―?遊ぼうぜ!!」
 「いや暇じゃ‥剣の稽古だってしたいし」
 「ならちょうどいい。剣の稽古よりもお前が普段やっている体力づくりよりももっと楽しくて有効な遊びしようぜ」
 「……はぁ?」

 まったくこの魔王は何をしようとしているのか。

 わけがわからないという顔をしていると今度は宮司が入ってきた。

 「ここにいたのか‥兄さん仕事は終わったのか?」
 「気分転換にアレをやろうかと思って」
 「アレって‥‥まさか、」
 「さすが弟!話が早いな!」


 二人の会話を聞いて察したのか千代さんは「まぁ」と楽しそうな声をあげ、ルカとミラは心なしかやる気に満ちている。

 「ほう、久しぶりにアレをやるのか。楽しくなりそうだ」

 いつの間にやってきたのか、穂積が近くまで来て楽しそうに口角をあげていた。

 「アレをやると兄さんの仕事がさらに遅くなるじゃないですか…」
 「いいだろ久しぶりにさ!ちょっとだけ!」

 さっきからアレ、アレと何かわからないこちらにとってはさっぱりだ。頼むから勝手に話を進めないでくれ。

 つかんでいた襟元をはなされ、呼吸がしやすくなっていることに気づく。
 「ふふ、ああは言っても宮司君も本当は少し楽しみなんじゃないかしら」
 確かにたしなめようとしている風にみえるがそこまで強くいってない様子を見ると宮司も「アレ」をやりたいんだとわかる。

 「アレっていうのはね、そんなに大層なものではないのよ。簡単なゲームみたいな」
 なんて楽しそうに話す千代さんは少しだけやる気があるように見える。

 「むしろやると仕事の効率も上がる気がする!よしやるぞー!俺はやるからな!」
 「はぁ‥」

 こうなった龍司は絶対折れない。それは長年いた宮司だけでなく気づいたら半年近くいたあたしにもわかることだった。



 そう、ここの生活に半年近くもいてしまっていたのだ。




 

 ◇◇◇


 「よし、集まったな!じゃあ始めるか」

 
 やる気満々の皆とは裏腹に無理矢理参加させられ中庭に連れてこられたあたしはため息をつくしかなかった。
 「お前らは分かっているのかもしれないがあたしは今から何をやるのか知らないんだけど‥」

 少し嫌味っぽく言うが龍司がお構いなしだ。

 「ああ、勇者は初めてなんでしたっけ?まぁ簡単に言えば点取りゲームのようなものです」
 となりにいた宮司が話す。そして龍司が銀色の球体を魔法で作り出す。

 「今兄さんが作り出した銀色の浮遊している球体が的です。アレを一人三個体の回りに浮遊させます。自分以外のもっている球体を壊して最後の一人になったら勝ちというシンプルなゲームです」
 「ちなみにこれは素手でも簡単に壊せるぞ!」

 そういうと龍司は浮かせていた球体をチョップしてみせた。
 「だから私でも簡単に壊せるの」
 ニコニコと千代さんは話す。

 「今回はチーム対抗戦ではなく個々で行おうと思う!最後まで残っていた奴が今日の勝者だ!」
 「ほう、それは燃えるな」
 「勝者には何かあるのですかっ!」
 「そうだなぁ‥じゃぁ」


 勝ったやつは他の奴らに好きなことを命令できる。




 おそらくその場で思いついた龍司の言葉を聞いた瞬間皆の空気が変わった。


 「―――ほう、何でも、ねぇ」
 「えーっ!えーっ!いいんですか!龍司様!」
 「何お願いしよう‥」
「まぁ、楽しみね」
 

 驚いた、皆もう自分が勝つ前提で話を進めている。


 「――――ちなみに、どこまで?」
 「んあ?」
 「どこまで、やってもいいですか?」


 一際違う空気を纏った宮司が静かに尋ねる。



 「‥それはもちろん、殺さない程度なら」
 「‥‥‥それは楽しめそうだ。前言撤回はなしですからね」


 満足そうににっこり笑う宮司の笑顔に含みがあるのが怖い。

 「あいつらは時折、ああやって力を発散させるんだ。一種の兄弟喧嘩のようなものだな」
 まるで風物詩でも見るかのようにのんきに穂積は答える。

 「日ごろのうっ憤をようやく張らせますね。さて、兄さんに何をお願いしようかな」
 「わかっていると思うが他の力量差は考えろよー」
 静かに燃える宮司とは相反してへらへらと龍司は話す。


 「球はそれぞれ三つついてるかー?格闘剣魔法なんでもありだが力量差は考えろよー」
 気付いたら龍司の魔法で作った球体がそれぞれの体に三つずつまとわりついていた。


 「よし、じゃあ――検討を祈るぜ」




 パン!!!!!!!!!



 
 どこからか鳴った空砲のような音が庭中を響かせた。
 瞬間、目の前から奴らが消えた。


それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.60 )
日時: 2020/07/06 20:20
名前: 猫まんまステーキ (ID: m9ehVpjx)



 「―――っ!?」

 消えた?――いや、視界の端でとらえたあいつらは素早く四方に散ったのだ。それを消えたと錯覚してしまうほど、動作が早かったのだ。


―――ザシュッッ!!!!


 「どうしたの勇者!早くしないと3つとも全部なくなっちゃうよ!」
 あたしの所有する球すれすれを黒い影が鋭く通過する。
 気づくと屋根の上からルカとミラがあたしをにこやかに見下ろしていた。不自然に伸びた影からおそらくミラの魔法だろう。

 「もうゲームは始まってるの」
 「そういうこと~」
 
 「……ルカとミラめ」
 「なんだとろくさいではないか勇者よ。いつもの威勢はどうしたんだ?」
 今度は後ろから穂積の声。いつのまに背後に立っていたんだ‥?

 「まさか初めてだからと言い訳をするわけではないだろう?」
 ――あぁ、こいつは分かっていてあたしを煽るんだな。


 「……上等」

 剣を抜き素早く後ろへ回すが予想していたのか穂積は宙を舞うように軽々とよけた。

 「安い挑発に乗る癖、やめた方がいいぞ?」 
 「お前がっ!先に喧嘩を売ってきたんだろうがっ――!!」

 距離を詰めていくがあと一歩で届かない。

 「だが俺だけでいいのか?」
 「‥‥どういうことだ?」

 穂積が至極楽しそうな声色で話す。

 「今お前は中庭のど真ん中にいる。これ以上ないくらいの的だと俺は思うが?」
 「……」
 「今ここで目立つお前が一番狙われやすいと――」

 
 途中まで言いかけたところで穂積とあたしの間に鋭い光の線ができた。


 「そういうことだ。的がわかりやすくて助かる」


 気が付くとにやりと笑う龍司と目が合う。

 「一気に二人駆れるなぁ‥だがあまり早すぎても面白みがない」
「――久しぶりにお前のその悪人のような顔を見た」

 となりにいた穂積も笑っている……だが目が笑っていない。




 「――さぁ勇者、稽古をつけてやるよ」



 ――――『どこまで、やってもいいですか?』
 ――――『‥それはもちろん、殺さない程度なら』

 数分前に宮司と龍司の会話を思い出す。

 息抜きと話していた龍司の姿を思い出し笑いながら再び剣を持ち直した。


 「手加減してやった方がいいか?」
 「まさか」


 ガキン――――――ッ!!!!!

 中庭に鈍い音が響く。連続で出てくる龍司の攻撃は剣でさばくのに精いっぱいだった。

 「どうした勇者よ!これでへばっていたらいつまでたっても俺を倒すことはできないぞっ!!」
 「――っ、誰がっ!へばってるって!?」

 売り言葉に買い言葉、龍司の安い挑発にも乗ってしまうがそれでもお構いなしだ。だがそうも言ってられなくなってきた。

 「くっ、」

 一度距離を取り体制を立て直す。魔法がそこまで使えないあたしでは圧倒的に不利だ。ここはやはり不意打ちを狙いたいところだが――。

 「おらおらおらおらーっ!お前が攻撃しないのならこっちからいってもいいんだぜーっ!」
 ダメだ。脳筋のアイツは次から次へと攻撃をやめない。考えている時間も奪ってしまう。
 龍司が右手を勢いよく掲げる。すると光のやりが一斉に降り注いだ。

 「うわぁあああぁ!?」
 とっさに防御魔法を自分の回りに作り防ぐがやりのようなものは一向に止まらない。

 「お前の魔法が切れるのが先か俺のやりがその防御をくずすのが先かどっちだろうな」
 そこにお前の魔力が切れるという選択肢はないのか!!?

 「……随分余裕なこというじゃんか‥」
 「ふふん」
 そのどや顔が腹立つんだよ今すぐ殴ってやりてぇ……!!!


 防御魔法は固めたまま勢いよく地面をける。この際魔法の弾が割れても割れなくてもいい。

 「一発殴らせろ!!!!!」
 「うおっ!?」
 流石にあたしが走ってきたのが予想外だったのか龍司の体制が少し崩れる。

 (今だ――――!!)

 一瞬防御魔法を解いて右手を強く握り龍司の顔へめがけて――、

 「――なんてな」
 「っ!?」

 龍司が何かをつぶやいたと思った瞬間、よろけた状態のまま体の軸を回転させてそのまま回し蹴りを繰り出した。

 「うっ、」

 パリン―!!


 とっさに受け身をとり後ろへ下がるも球体は割れてしまった。

 「よっしゃまずは1つ!」
 嬉しそうな龍司の声。

 「剣の筋は悪くない。だがお前はたまに慎重に動く癖がある。守りに徹してばかりだといつまでたっても球体なんて割れねぇぞ?」
 愉快そうな龍司の声。ああもう腹が立つ。

 「攻撃は最大の防御だ。攻撃を続けていれば相手は守りに入るから攻撃はされない」
 「―――ほう、いいことを聞きました」


 突然風が吹いたかと思うとまるで竜巻のようそれは大きくなってあたしと龍司の間を通過した。


 「だから兄貴はいつも周りを見ず先読みしない攻撃ばかりを単調的に繰り返すのですね」
 いつの間にか宮司がそこに立っていた。にっこりと笑っているがその目は笑っていない。

 「だいたい兄貴は派手な技、仕事しかやろうとしない。この間の仕事だって面倒、地味だとかいってすべて俺に押し付けましたよね?あれ、結構引きずっているのですが」
 「ああ、そうだっけか」
 「……」
 宮司が左手をかざすのと龍司の右頬が切れて血が流れるのはほぼ同時だった。


 「―――攻撃が最大の防御、なんでしたっけ?」
 「‥‥お前」
 「まあまあ。仲良く兄弟喧嘩とやらでもしましょう」
 「相変わらずお前も血の気が多い。返り討ちにされて泣くなよ?」
 「ご冗談を」


 ああ、二人の兄弟喧嘩が静かに行われようとしている中で、あたしはただそれをじっと見ていることしかできないのだった。


 
 

それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.61 )
日時: 2020/07/27 02:45
名前: 猫まんまステーキ (ID: m9ehVpjx)




 「なんだかんだ言ってっ、お前も俺に似ているからっ‥!動きが単調で読める時があんだよっ‥‥っと、どれだけ一緒にいると思ってんだ!」
 「……」
 
 どんな魔法が繰り出されるのかと期待半分興味半分でみてみると意外にも格闘技が繰り広げられていた。

 「しゃべってばかりだと舌がなくなっても知りませんよ?っ、……あぁ、まぁ舌がなくなれば少しはこの屋敷も静かになりますかねっ……!」

 宮司が回し蹴りを繰り出し、それを両手で龍司が受け止める。鈍い音が聞こえた気がしたがどちらも平気そうだ。

 「おお怖い怖い」
 「……っ、」
 「よっ‥と!」

 あぁ技が上手く決まらなくて心底ストレスが溜まっている顔をしているなぁ‥

 「今は球とか関係なくあなたに一発入れられればそれでいいです」
 「まぁまぁそうカリカリすんなよぉ」
 
 龍司が右手を宮司の球めがけて振り上げる。
 「一個もーらいっ」
 「はぁ?寝言は寝てから言ってくださいよ」
 心底小ばかにしたような声でその右手をいなした。

 「‥やっぱり一筋縄ではいかないか」
 「どれだけ一緒にいたと思っているのですか」

 同じセリフを、口ずさむ。


 「……お?」
 龍司がかすかな違和感に気づく。龍司の目線に目をやると足元から徐々にツタのようなものが巻き付いていた。

 「おおー」
 ツタが体の半分ほどを覆い龍司が感嘆の声を漏らす。その一瞬で宮司は目の前まで迫っていた。

 「―――っ、」

 バシッ――!

 わずかに自由がきいた左手で宮司の手を止め、そのまま下へ叩き潰した。

 「グッ―――」
 予想外だったのか肺から空気が無理矢理出されそのまま突っ伏す。その拍子で宮司の球の一つが割れていた。

 「……クッ、ソ兄貴……!!!」
 絞り出すような声で叫ぶが龍司にはまるで通じない。
 「お前も口が悪くなることなんざ久しぶりに聞いた」
 けらけらと笑う龍司をよそにフーとゆっくり息を吐いて整えていた。

 「詰めが甘いんだよ」
 「―――それは‥っ」

 パリン―――ッ

 「そっくりそのまま返しますよ、兄さん――!」

 
宮司が右手をあげ素早く龍司の両手をツタで縛り地面に縛り付けた。そして手首を軽く曲げると黒い刃物のようなものが地面から浮かび上がり龍司の球の一つを破壊した。


「ほう。油断した」
なんていう龍司の顔は少し嬉しそうで。

自分の球が相変わらず誰かに狙われているかもしれないというのに思わず見入ってしまってあわてて自分の現状を思い出した。


◇◇◇


「いやはや。久しぶりに面白いものがみれた」

 あの兄弟が仲良く喧嘩している間に屋敷の中へ避難した俺はさて、と思考を巡らせる。あのままあそこにいたらいずれ俺も巻きもまれるやもしれん。あの魔族どものやり取りは見ていて飽きないが今はそう悠長なことは言ってはおれないな。

「……ほう」
 室内では感じるはずのない風を感じて立ち止まる。二人で来るとはなんともまぁ、あいつららしいではないか。
「日ごろの恨みつらみをここではたすのにはちょうどいい機会だと思うのミラ」
「それはルカだけだと思うけど‥」
「おやおやこれはこれは」
 思わず口角が上がる。では俺はこの侍女たちと仲良く喧嘩でもしようではないか。

「お手柔らかにな――」 
 すべて言い終わる前に黒い影が鋭く伸びる。ああこれはきっと、

 「無理」

 ゆっくり俺を見るミラの目が鋭く光る。
 「絶対一泡吹かせてやる!」
 ルカも同じくやる気に満ちている。両手をかざすと俺の足元に魔法陣が浮かび上がった。昔に比べると少しは腕を上げたようだ。
 「だがまぁこの程度では」
 
 なんの腹の足しにもなりはしないな。

 「チッ」
 盛大な舌打ちが聞こえてくる。近くにあった調度品にひらりと乗るとそれに傷はつけられないのか一瞬二人の動きが止まった。
 「遅い」

 これまた近くにあった飾ってある剣を拝借しルカとミラの球体を割る。

 「――っ、」
 「うわっ」
 ああ。愉快だ。思わず笑みがこぼれてしまう。

 「――っと、」

 ふと、自分の回りを回っている球体の個数が一つ足りないことに気づく。

 「――ほう、なるほど」
 目線の先にはにやりと笑うミラ。
 「自分の回りにも球がついていること、忘れないでね」
 彼女の手から放たれた鋭い影が俺の球体を壊していた。―あぁ、忘れていたよ。球体の事も、お前たちが思ったより楽しめる相手だってことも。

 「作戦を立て直そう」
 「えっ!?うわっ!」

 そういってルカを引っ張ると自らの影を大きく広げその中へ吸い込まれるように消えていった。

 「――もう少しは楽しめそうだなぁ?」
 なんて、中々に楽しんでいる自分に気づきながらゆっくりと歩みを進めた。




Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。