コメディ・ライト小説(新)

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I can't hear "your voice"
日時: 2020/03/23 08:17
名前: 桜蜜
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12720

声が出せなくなってしまった少年、胡樂代湖珀うたしろこはく
誰からも期待されない少年、甜雅維牙あまみやゆいが

二人が出会った高校生の春。それは偶然なのか、必然なのか…。そんなこと、幸せが掴めるならどうでもいい。
見上げた青空は、有り得ないほどに澄んでいた。鳥の羽ばたきの音が聞こえたその時に、世界が変わった。
根拠はないけど、何故かそう思えた。
これから先、何があるか分からないけれど。
不確定な未来に抗う青年期モラトリアム。それから脱出出来るように、彼等は夢を見る。
そして、それでも現実から逃げないように、少年達は今日も青空を見る。

これはそんな、奇妙な春と夏の物語。


暗い時は暗く、明るい時は明るい、高校一年生の二人を中心とした日常の話です。少し非日常的な話もあります。
同性愛描写や少しグロい描写が稀にありますので、苦手な方は回れ右。


*Character (>>1)

Page:1 2



Re: I can't hear "your voice" ( No.6 )
日時: 2020/03/23 06:34
名前: 桜蜜
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no

絋牙について行って辿り着いた場所は、文房具屋。
こんな所で一体何を始めるのだろうか…?
すると、湖珀を置いて維牙はどんどん中へ入って行き、スケッチブックやらペンやらを手に取っていく。
こんな見た目をしたやつの事だ。万引きでもする気か?
そう思いボーッと絋牙を見ていたが、そのまますんなりレジへ行き、お金を払う。

「何ぼーっとしてんだよ。次、行くぞ。」

店内を意味も無しに見渡す湖珀の肩に、維牙は自分の腕を掛け、次はまた別の場所へ向かった。

で、男二人、しかも傍から見れば、どう考えても普通の高校生が不良に絡まれているようにしか見えない絵面で、やけにお洒落なカフェに来てしまった。
すると、維牙は先程買ったスケッチブックとペンを机に置き、湖珀に指示をした。

「お前、話せなくても文字は書けんだろ?」

袋を開け、スケッチブックの最初のページを開く。
トントン、と机を叩くが、何をすればいいのか分からないのか、湖珀は虚ろな目で、じっと維牙の顔を見るだけ。

「だーから!これと!これで!今テメェが考えてる事書け!ッつってんだよ!」

静かなカフェにも関わらず、思わず勢いよく机を叩き、大声を上げてしまった。
流石に少し恥ずかしい。気を紛らわすように水を飲み、少し湖珀から目を逸らす。
湖珀はやっと理解したのか、スケッチブックのさいしょのページに文字を書く。
そして書いた文字を、維牙の方へ見せた。

『店内では静かに』

スケッチブックには黒のペンでそう書いてある。

「ッ!?最初の言葉がそれかよ……。 つか字汚ねーな…書道部入るか?」

最初だから、もう少し何か別の言葉だと思っていたが、記念すべき最初のページが維牙への注意で奪われてしまった。
悪いのは維牙だが、少しショック。

『お金は大丈夫?』

その文字の下に、湖珀はそう書いて見せた。
維牙自体はあまり気にしていなかったが、確かにスケッチブックもペンも維牙の自腹だ。
だが今更金を請求したところで何も良い事は無いだろう。

「あー、全然大丈夫だよ。 ま、お前の頭にこの発想がなかったのが驚きだが……それなら大体の会話はいけんだろ。」

少し得意気にそう言う維牙。
それよりも、絋牙は昨日の事を謝らなければいけない。
声が出ないと知らなかったとはいえ、酷いことをしてしまった。が、素直に謝るなんて絋牙のガラでは無い。
恥ずかしいが、どうにかしてキャラを崩さずに反省の気持ちを伝えなければ。

「そ、その…昨日は、ゴメンな。痛かっただろ?」

ダメだ。キャラがぶれた。
しかし湖珀は、維牙がこんな素直に謝ってくれるとは思っていなかったようで、目を丸くさせて唖然としていた。
そして、また紙を見せた。

『すごく痛かった』

「ってオイ、清々しいくらい素直だなお前……。それのお詫びって事で、好きな飲み物頼んでいいぞ。」

そう言って、カフェのメニューを湖珀に見せる。
じっとメニューを眺め、暫くすると、湖珀は『ミルクティー』と紙に書いて見せた。

「いや、それくらい指差したりで良くねーか?
つか、理解した事も律儀に『分かった』って書かなくていいからな。頷くとかでいいんだよそういうのは。」

苦笑いをしながら、軽い事は書かなくても良い、と言う。
思っていたより湖珀は抜けているのだろうか。
取り敢えず、注文しておこう。
というか、高校では人とは関わらないと決めたのに、何故一人の為にここまでやってしまった。確実にやらかしだ。
まあ、どうせこれも今日限り。日にちが経てば湖珀も離れていくだろう。

『僕のためにここまでしてくれてありがとう』

すると湖珀は、何処か別の世界に飛びかけていた維牙にスケッチブックを押し付ける。
お礼…か。正直、維牙も人にここまでしたのは初めてだ。
このまま放っておこうとも思っていたが、何故だか放っておけない。
自分と同じ、何かしらの『欠点』がある人間として、他人とは思えなかったのだろうか。

「あー、お礼なんていいよ。話せないって、生活じゃ何かと不便だろ?」

『ありがとう』なんて初めて言われた言葉すぎて、一瞬湖珀の書いた文字に魅入っていたが、直ぐに我に帰れば、はにかみながら手をひらひらさせそう返した。

『どうせ僕と話してくれる人なんていないから、うれしい』

次に湖珀が書いた文字は、これ。
無表情で無感情で、何を考えているか分からない湖珀だが、紙でとはいえ言葉を聞くと、また別の人間に見えてくる。
中学ではあまり人と関わっていなかったのだろうか。それは維牙も一緒だから、気持ちはよく分かる。
ひとつ違うのは、湖珀は前ではなく、後ろを向いていること。最初から何もかもを決め付けて、自分を卑下しているように見える。

「それじゃ、俺がお前の話し相手になってやるよ。それなら寂しくないだろ?」

そう言うと、維牙は立ち上がり、湖珀の髪をぐしゃぐしゃにしながら頭を撫でた。
その場しのぎの台詞…ということにしたいが、残念ながらこれは本心。
目の前に暗い顔をした奴がいると、どうも気分が乗らない。
それなら明るい顔に変えてやりたくなる。
虚ろで、光のないその瞳に光を灯して、表情の動かないその顔を笑顔にしたい。
なんて台詞は、言うと気持ちが悪いだろ。だからそれは言わない。

そう言う維牙の顔を見る湖珀は、気の所為かもしれないが、何も言わなくても少しだけ嬉しそうに見えた。

Re: I can't hear "your voice" ( No.7 )
日時: 2020/03/23 07:52
名前: 桜蜜
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no

風を感じた。
春の、暖かな風を。

青く澄んだ空に手を翳してみる。
このまま、死んじゃいそうだ。

「おい!危ねぇぞお前!」

その言葉で、ハッと我に返った。
そういえば山の上にいたんだった。山と言ってもそんなに急では無い。
綺麗な桜が見えるから、そう維牙に誘われて、わざわざここまで歩いて来たんだ。
湖珀が寄りかかっている場所は細い柵。
その下は崖。
まあ、落ちれば普通に死ぬだろうな。

空を見て少しの雲を目で追っているうちに、いつの間にか結構危ない体勢になっていたのだろう。
湖珀を支える維牙の瞳は震えていた。

『ごめん』

改めてそこにあるベンチに座り、湖珀は維牙に謝った。
このまま死ねそうだった。なんて言ったら、怒られそうだから絶対に言わない。

ずっと気になってたこと。
維牙は、何が好きで湖珀と一緒に居てくれるのだろうか。
まだ出会って日も経っていないから、早速そんな事を聞くのも気持ちが悪いだろう。
だから、それも聞かない。

湖珀の存在を迷惑だと思えば、絋牙も何れ離れて行くだろう。
声が出なくなってから、湖珀は明らかに変わった。
変わってしまったのだ。
夢も、何もかもを捨てて、自分の心を閉ざして。

「ほら、そこの桜、綺麗に咲いてるだろ?」

そう言って笑う維雅は、湖珀とは真逆の存在のように感じる。
維雅に指さされた桜の木に目をやり、湖珀が軽く頷くと、維雅は何だか味気無いような、少し不満そうな顔をした。

「あんま花見るのは好きじゃねえのか?………って、普通か。高校生にもなってガチの花見なんて誰もしねーよな。」

無表情だから、やはり感情が読み取りにくい。せめて表情があれば、何を考えているかなんて何となく分かるのに。

『すごくキレイ。僕、桜は好きだ。』

苦笑いしながら桜の咲く青空を眺める維牙に、湖珀はそう書いて見せた。

満開の桜は、もう散りかけている。
きっともう少し時間が経ってこの場所に来れば、この薄ピンク色の花弁はほとんど散って、葉桜になっているんだろうな。
そう考えると、やはり少しだけ悲しい。

気が付くと、空は薄らピンク色。
綺麗な夕焼け、オレンジ色に青の空が包み込まれていた。

「そろそろ帰るか。遅くなるとお前の親も心配するだろ。」

この時間は言葉と筆談で、色々なことを話したが、維牙はなんとなく、湖珀に気を使っている気がする。
維牙も湖珀も、同じ歳。
高校生の、大人と言うには子供すぎて、子供と言うには大人すぎる。
そんな曖昧な時期に生きる人間だ。

『キミの親も心配しているかもしれない。』

湖珀はそう紙に書いた。
その文字を見た維牙は、少し複雑そうに笑う。

「俺の親は心配も何もしねぇよ。」

そして吐き出すように、低い声をより一層低くさせてそう呟いた。
触れてほしくないことに触れてしまったのかもしれない。

ごめん……。謝罪の言葉をスケッチブックに書こうとしたが、維牙は湖珀の手を引っ張り、「もう良いだろ。早く帰るぞ。」と言った。

出会ってまだ日も経っていない。相手のことを知るのは、ゆっくりで良い。
それはお互いに言えること。
だから、まだ言葉は交わさない。
いや、交わせない…の間違いか。

Re: I can't hear "your voice" ( No.8 )
日時: 2020/03/23 22:13
名前: 桜蜜
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no

休日が終わり、また一週間が始まった。

「おはようございまーす!」
「テニス部です!」
「野球部です!入部待ってまーす!」

朝から、正門が騒がしい。
高校二年生と三年生の先輩達だろう。
入学してから三日目。部活への勧誘も始まる日だ。
一年生の確保の為、色々な部活が必死に呼び掛けをしている。
ただ少し正門から下駄箱までを歩いただけなのに、やけに沢山部活のチラシを貰ってしまった。

無駄に手の中にある紙を眺め、ため息混じりに教室に入り、机に荷物を置く。

ふと窓際の席に居る湖珀に目をやると、昨日と何も変わらない虚ろな瞳で、校庭を眺めていた。

「お前、部活決めてんの?」

わざわざ、ずっとボーっとしている湖珀の席まで行って、維牙はそう問い掛けた。
椅子に座ったまま維牙を見上げる湖珀は、その問いに首を横に振った。

まあ、正直維牙は部活に入る気なんて全くと言っていいほど無いが、せっかくの機会だ。
湖珀がどこか見たいと言うならついて行ってやろう、なんて上から目線な事を考えていたが、想像通り、湖珀も何も考えていなかった様子だ。

教室移動の時や空き時間に、湖珀は廊下や色々なところに貼られたポスターを眺める湖珀。

「それ気になんのか?」

維牙がそう問いかけ、湖珀が何部のポスターを見ていたのか、其方に目をやってみると、それは『演劇部』のポスターだった。
演劇に興味があるのだろうか…?いや、でも湖珀は声が出ないから、そんな事はない気もするが。

『いろんな部活、見てみたい』

少しそんなことを考えていると、突然目の前にそう書かれたスケッチブックを突き出された。


結局、取り敢えず気になった部活から体験入部をしに行く事に。

分かっていたことだが、放課後は朝よりも勧誘が凄い。一年生が歩いていれば片っ端から声を掛けてくる様な先輩ばかりだ。

一体ここの学校はどれだけ新入部員に命をかけているのだろうか。

「ねぇねぇそこのお二人さ〜ん!聞こえてる?こっちこっち!」

二人で色々な教室を眺めていると、突然後ろから声が聞こえてきた。
二人……と言っているから、湖珀と維牙の事だろうか。
いや、他の人だったら恥ずかしい。
湖珀は全く気がついていない様子だから、このまま無視して行こう。

「いやちょっと無視しないでよ!!」

そう言って二人の前に立ち塞がってきたのは、緑髪の小柄な生徒。女の子みたいに華奢な見た目だが、制服は男子だ。
焦った様子で何やら紙の束を持っているが、隣のクラスの生徒だろうか。流石に二年生には見えないからな。

「あー、ちょっと俺達急いでるんで。」

何となく、絡まれたら面倒臭そうだ。
維牙は取り敢えず適当に理由をつけ、湖珀の肩に腕を乗せ、そのままその場を離れようとする。

「待って待って!ちょっとでいいから!
本当に入口見てくれるだけでもいいの!お願い!一生のお願いです!!」

その少年の横をすり抜けて道を進もうとすると、その少年は湖珀の腕を無理矢理掴んで引っ張り、必死にそう言った。
どうやら部員に相当飢えているように見える。

『少し見てあげよう』

引っ張られながら書いた字だから、いつも以上に崩壊している。
ここまでポーカーフェイスで居れる湖珀が逆に凄く思えてくるが、流石に湖珀も目の前の少年が可哀想に思えてきたらしい。

何の部活かも言われていないが、二人は取り敢えずその少年について行くことにした。

Re: I can't hear "your voice" ( No.9 )
日時: 2020/03/25 20:08
名前: 桜蜜
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no



「おいお前、せめて何部かは言えよ。」

前をスタスタ歩いて行く少年に、維牙は喧嘩腰でそう問い掛けた。
部活内容を全く言わないということは、きっと何か変な部活なのだろう。
まあ、その時はその時。目の前の弱そうな少年を薙ぎ払って出て行くだけだ。

「あー、いや……それは部室についてからのお楽しみ!って事で?」

二人の方に目をやり、へにゃりと笑いながら少年はそう調弄す。

階段を降りて、地下へ足を進める。
この前見た感じ、地下にはそれほど部室になりそうな部屋なんて無かった気がするが……。

少年はどんどん先に進んでいき、階段を降りたその先の突き当たりで、やっと止まった。

「おーい、そこ壁だぞ。チビ。」

何やら壁を触っている少年に向かって溜息をつき、頭を押さえながら文句を言う維牙。

「違うの!!ちょっと待って!
おーいさったーん!何やってんの〜?部員!来た!よ!!」

維牙に文句を言われ少しムッとしながらも、壁をドンドンと叩きながらそう声を掛けている少年。
頭がおかしいのだろうか、それともその壁の先に何か隠し部屋的なものでもあるのだろうか。

そんなことを考えてその光景を見ていると、突然扉が回転した。
回転扉が仕込まれていたようだ。

「よっしゃ開いた!二人共〜!こっちこっち!
ちょっと暗いから気を付けてね!」

その扉を押して、二人を呼ぶ少年。
正直怪しすぎる。

仕方なく後を追って中に入るが、言われた通り本当に薄暗い。
扉の向こうはまた廊下。
暫く歩くと、少年はやっと立ち止まった。

「ここだよここ!
さあ、入って入って…☆」

扉をガラッと開けると、少年はニコニコしながら二人を中へ迎え入れた。

こんな明らかに怪しい所に居るのに、湖珀は本当に表情一つ変えない。
いくら表情筋が固くても、普通リアクションくらいは取るだろう。

「うわ、本当に暗いな……。電気通ってねぇのか?」

呆れたようにそう呟く維牙。
取り敢えず、こんなに怪しい場所にある部活だから、きっと活動内容も怪しいのだろう。

『ここは結局何部?』

無表情のまま維牙の肩をぽんぽん、と叩き、湖珀はそう書かれたスケッチブックを指さした。

「さぁな………。
おいチビ、いい加減活動内容でもなんでも言えよ。」

湖珀の問いにますます困った様に返事をすれば、維牙は扉を閉めて、鍵をかける少年に問い掛けた。

「まあまあ怒らないで、ゆっくりしていってよ。

ようこそ!黒魔術・アイドル研究部へ!
俺は部長の密良木鳴みつらぎめい!好きに部長って呼んでね!」

少年、改めて鳴はニコニコしながら、声を弾ませて自己紹介をする。
それより予想通り怪しい部活だった。今すぐ逃げよう。

「何が部長だ。よーし帰るぞ湖珀。」

「ちょ、待って待って!!怪しくないから!
皆でアイドルを研究するの!ほらさー、アイドルってキラキラしてて可愛くてかっこよくて最高でしょ?だからそういう素敵な…………って、聞いてよ!」

湖珀の手を引いて部屋から出て行こうとする維牙。
鳴はどうにか二人を引き留めようとするが、鳴が別世界に飛んでいる間に維牙は部屋を出て行こうとする。
しかし、鍵を開けようとした時にバレて引き止められてしまった。

「テメェがアイドル研究一人でやれば良いだろ!
しかも俺が気になってんのはアイドルじゃなくて、黒魔術の方だよ!明らかに怪しいじゃねえか。」

「さったーーーーん!!!言われてるよ!!黒魔術怪しいって!!」

維牙の腕を引っ張る鳴に、思いっきり怒鳴りつける維牙だが、鳴は全く怯む様子はない。
恐らく超が付くほど空気が読めない人間、もしくは自分は話しまくるくせに人の話を聞かないタイプの人間か。

それに先程から鳴は誰かの名前を呼んでいるが、もう一人の部員だろうか。

━━ガシャーン!!!

すると、突然何かの爆発音と破裂音が聞こえてきた。
あまりにも大きな音に思わず唖然とする維牙。
湖珀は音がした場所をじっと眺めている。

「す、すみませェん……いつもは無い気配がしたのでェ…つい、失敗してしまいましたァ……。」

真っ黒な煙が立ち込める中、小さくか細い声で謝る声が聞こえてきた。

Re: I can't hear "your voice" ( No.10 )
日時: 2020/04/03 13:45
名前: 桜蜜
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no

真っ黒な煙の中から出てきたのは、目付きの悪い…というか、何処か寝不足気味で怪しい雰囲気を漂わせる、黒いマスクをつけた生徒。

申し訳なさそうに眉を下げ、ペコペコと頭を下げているが、取り敢えずこの明らかに怪しいヤツは一回痛い目を見せた方がいい。
そしたら結果的にあっちの自称部長も散るだろう。

「なんか殴りやすそうなの居るじゃねぇかよ。」

すると維牙は出てきた少年の肩を強引に掴み、壁に叩き付けた。
ちゃんと謝ったのに何故維牙が期限を悪くしているのかが分からず、少年は思わず目を維雅から逸らして涙目になりながら、何かブツブツ呟いている。

「……ご、ごめんなさィ……ころ、殺さな、ィ…で、下さい、ッ………まだ、死にたくな……」

「ア?聞こえねーよ!
…チッ、ハッキリ話せや、小枝みたいな腕しやがって。」

「ひィッ!?許してくださィ!何でもしますッ、何でもしますからァ……!」

思わず維牙がその先輩らしき生徒に殴り掛かるかとでも思っていたが、ただ威嚇しているだけで大丈夫そうだ。
それに怪しいと思っていた少年も、気が弱そうだから少し無害に見える。
いや、本当に少しだけ。
これは、止めてあげた方が良いのだろうか。

『ゆいがくん、やめてあげよう。』

すると何かスケッチブックに瑚珀が文字を書いている。
何を書いているのか、と気になった鳴がそれを覗き込もうとすると、瑚珀はピリピリしている二人の間に割って入っていった。
そして、スケッチブックのその文字を、維牙に見えるように上にあげ、無言で維牙と見つめ合った。

「ちょ、なんで文字?こいつが言葉通じないから文字で伝えるって感じなの?」

溜息をつき、ガタガタ震える少年から手を離す維牙を指差し、鳴は首を傾げ問い掛けた。

「いや、何で俺がバカみてぇになってんだよ!頭割るぞチビ。」

明らかに馬鹿にされたことに呆れ気味に維牙は瑚珀の代わりにそう答える。


取り敢えず、煙も収まったので話を整理することにした。

「改めて!アイドル・黒魔術研究部の部長、二年の密良木鳴です!
それと、こっちは副部長のさったん!」

『変わった名前だな』

取り敢えずたまたま四個あった椅子に腰を掛け、鳴は【アイドル・黒魔術研究部】と書いてあるポスターを自信満々に広げながら、改めて自己紹介をした。
先程まで「黒魔術・アイドル」の順だった気がするが、順番なんてもうどうでもいいのだろう。

横にいる青髪の少年の説明が雑だが、今言われた名前は絶対に本名じゃない。
維牙はもう呆れて項垂れているので、ツッコミを入れる元気もないみたいだ。
その代わり真に受けた瑚珀が感想を書いている。

「…あァ、いや、えッと……本名は、鴾稻羽ときいなばっていいます……。
く、黒魔術が好きで…この部活に、居ます、ゥ……。」

ずっと無言で髪の毛の一箇所だけ長い部分をくるくるさせていた少年が、やっと自分から話し始めた。
物凄く雑に紹介されていた挙句、やはり本名では無かったが、改めて怪しいヤツだということがよく分かった。

「いや、本名掠りもしてねぇな!?
何でトキイナバがさったんになるんだよ!」

思わず突っ込まずには居られなかったらしく、維牙が鳴の渾名についてツッコミを入れるが、鳴は不思議そうに首を傾げるだけ。
同学年では普通のことなのだろうか。

「あー!そうか!一年生はそりゃあ知らないよね!
さったん、二年生内では『サタン』って呼ばれてるの!怪しいし、怖いし、まともに授業には出ないし、学校内にある魔法陣全部さったんが描いてるし!」

「いや本当に怪しいなオイ!俺が言うことじゃねぇけどよくダブらなかったな。」

やっとピンと来たらしく、ニコニコ笑いながら鳴は渾名の説明をする。
本人の目の前で言うことでは無いくらいの悪口が少し混ざっているが、本人は気にしていない様子。

「それより、お二人さんも自己紹介してよ!」

鳴はパッと表情を変えると、再び頭を抱える維牙と、三人の話を無言で聞いている瑚珀に話を振る。

「……俺は一年、甜雅維牙。」

維牙が先程までの大声と同一人物だとは思えないくらいの小さい声で名を名乗ると、鳴はニコニコ嬉しそうに名前を聞いて、メモを取っている。

維牙がふと横を見ると、無表情のまま、ペンを走らせる瑚珀が居る。
そういえば、鳴と稻羽は瑚珀が声を出せない事を知らない。正確には言い忘れた。
声が出ない、と知れば二人はどんな顔をするだろうか。

『一年。胡樂代瑚珀です。』

維牙の不安を他所に、瑚珀はそう書いたスケッチブックを正面にいる二人に見せた。

「な、何って読むの?こがくよ?」

「う!た!し!ろ!こはくだ!」

やはり口頭ではないとどう呼べばいいのか分からないようで、取り敢えず漢字をメモしながら、鳴は問い掛けた。
ぼーっとしている瑚珀の代わりに、維牙が答えたが、二人はやはり瑚珀が話さないのが不思議な様子。

『僕は、声が出ない。』

すると瑚珀は、少し俯きながら、自分の名前の下にそう書き足した。
感情の出にくい顔だから、イマイチ何を考えているの分からなかったが、本人も自分が変に思われているのは自覚しているらしい。

「声……が?」

鳴はもう一度そう問い直すが、稻羽は少し気まずそうに目を逸らした。
見ての通り、瑚珀は一度も声を発さない。
病気か生まれつきかは維牙も分からないが、声が出ないのは事実。
やはり、誰でも奇妙に思うのだろう。

「別に、いいと思いますよ……。そうやって、文字で言葉が分かるなら、何の支障も出ませんし……。」

どう言葉を返せばいいのか困っている鳴と、フォローをする好きを見逃した維牙。
沈黙の中、言葉を発したのは稻羽だった。

「うんうん!さったんの言う通り、俺達には何も問題ないし、歓迎するよ!」

こくこくと頷き、鳴もニコニコしながら元気にそう言った。
二人の言葉を聞いて、瑚珀は思わず唖然としている。
ただボーっとしているだけに見えるが、てっきり自分は受け入れて貰えないとでも思っていたのだろう。

「それじゃあ、ここに自分の名前、書いてくれる?」

嬉しそうに二人を見ると、鳴は二人に紙を一枚ずつ渡し、名前を書いてと指示した。
維牙は紙をじっと眺めて、軽く鳴を睨みつけながら答えた。

「いや、俺この部活入んねぇから。」

『僕もだ。』

このまま勢いで入部届けを書かせて入部させてしまおう、と思っていた鳴だったが、想像以上に上手くいかなかった。
それに入部届けも返却され、大失敗。
多分ほとんど怪しい行動をし過ぎた稻羽のせいだ。

「待って待って待って!!お願いします!部員二人じゃ廃部になるの!!お願いお願い!」

席を立って再び帰ろうとする二人を引っ張って、どうにかまた引き止める。
流石にこのまま部活の内容も知らずに帰られたら困るどころか、悲しい。

「チッ、仕方ねぇな…活動内容だけ、手短に話せ。」

仕方なくまた椅子に腰かけ、髪を搔き上げると、気だるそうにそう言った。
すると鳴は大きな模造紙を取り出して、机いっぱいに広げた。


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