コメディ・ライト小説(新)

Re: 最強次元師!! 【完全版】 ( No.47 )
日時: 2018/11/11 15:01
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw

 
 第044次元 不和

 「初めまして、今日づけで戦闘部班に異動になりました。フィラ・クリストンです。以前は医療部班に所属していたので、皆さんの体調管理も行っていきたいと思っています。副班長として皆さんと関わっていくことになりますが、気兼ねなく接してくれると嬉しいです。よろしくお願いします」
 「改めてよろしくねー! フィラ副班!」

 着用する隊服が白から黒へと変わった。フィラは正式に、戦闘部班の副班長としてロクアンズやレトヴェールたちとともに戦場に立つこととなり、その顔合わせが今日、東棟の談話室にて行われている。
 拍手を注がれるフィラの背中から、にゅるり、となにかが顔を出した。紅い鱗をした小さな蛇が細い舌を出す。よく見ればそれは、フィラの次元の力である『巳梅』だった。

 「えっ! フィラさん、その子って」
 「ええ、そうよ。巳梅なの。これは『幻化げんか』っていう次元技のひとつよ。もとは大蛇の姿なんだけど、こうして身体の大きさを自由に変えることができるみたい。それがわかってからは、なんだか扉の奥に閉じこめたままなのが可哀想で、だからずっとこうしているの」
 「へえ~! そうだったんだ。かわいいー!」
 「ふふ。そうでしょ?」

 フィラは『巳梅』の顎のあたりを指先でくすぐった。彼女の隣に立っていたセブンが、拍手が治まる頃に「続けて、」と言った。

 「遠方の国、アルタナ王国から海を渡って来てくれた2人の新しい仲間も紹介しよう。挨拶を頼むよ」

 セブンから目配せをされ、ガネストとルイルは立ち上がった。

 「ご紹介に預かりました。ガネスト・クァピットと申します。まだこちらの文化に馴染めずにいますので、ご迷惑をおかけすることがあるかと思います。ですが、おなじ志を持つ者として仲間に加えていただけたらと思います。どうかよろしくお願いします」

 ガネストは胸に片手をあて、礼とした。すぐ隣でかちんこちんになってしまっているルイルの背中にその手を添えると、「ルイル」と小さい声で挨拶を促した。

 「う、うん。えっと、ルイル・ショーストリアっていいます。アルタナ王国では、くにのおうじょとしてすごしてきまし、まいりましたが……ここでは、そういうことを、えっと……なしで、なかよくしてくれるとうれしいです。よろしくおねがいしますっ」
 「よろしくね! ガネスト、ルイル!」
 「はい」
 「うんっ、ろくちゃん」
 「そして最後に、もう1人」
 「え? まだいたっけ?」
 「実はもう1人、南西の支部にいた次元師が本部へ来てくれたんだ。私がもっとも当てにしていた人物でね、同期でもある。入ってくれ」

 セブンは談話室の扉の向こう側に声をかけた。扉が開かれると、大柄な男が足を投げ出しながら入室してきた。

 「おうおうおう。外でずっと立たされて疲れちまったぜ俺ぁ。もっと早く呼んでくれよセブン」
 「それは悪かったな。君たちに紹介しよう。彼はメッセル・トーニオ。私やフィラと同時期に入隊して、以来ずっと援助部班に所属していた次元師だ」

 セブンに紹介された男は、セブンよりもすこし背が高くどこか圧力を感じさせる容姿だった。開いているのか閉じているのかわからない細目で、極度に短い髪がツンと立っている。歯で、細い草のようなものを噛んでいた。無論食べているわけではない。ただ咥えているだけといった具合だ。

 「まぁひとつ頼むわ。ガキんちょたちよ」
 「が、ガキんちょぅ!?」
 「そらおめぇ、俺らと比べりゃまだまだガキんちょだろうが。最近ちょこっと名を聞いたりするが、ずいぶんやんちゃな野郎どもじゃねぇの。あんまセブンに気苦労かけてやんなよ」
 「う」
 「これでも彼は褒めてるんだよロク君。さて、メッセルも加わってくれたことだし……これから、班編成を行いたいと思う」
 「班編成?」

 ロクはきょとんとして、聞き返した。セブンが小さく頷く。

 「戦闘部班が立ち上がり、いまに至るまでは、ここにいるコルド副班長、そしてロクアンズとレトヴェールという3名で組ませて行動させてきた。偶然にも、この"3名で連携をとる"という体制がどの局面においても効果的だった。ついては、次元師3名で1つの班を構成し活動していくという提案をしたいんだ。どうかな?」

 ロクが先んじて「いいよ!」と声をあげると、それに続くようにほかの班員たちも承諾の意を唱えた。
 1人、やや俯きがちになって拍手の中をやり過ごしているレトヴェールを除いて。

 「そうか。ありがとう。……そして、真っ先に前言撤回してしまって悪いんだが、もう1つ新しいことに挑戦したいと考えているんだ」
 「新しいことって?」
 「ああ。それは、2人1組での班編成だ。ロク君、レト君」
 「ん?」
 「……」
 「君たち2人を、離そうと思っている」
 
 え、とロクが小さく声をもらした。セブンの目つきが、すこし険しいものへと変わった。

 「君たちのことを、私は入隊当初からずっと見てきた。初めは、性格が真反対な君たち2人を組ませることでバランスがとれて、ちょうどいいと思っていたんだが……近頃は変わってきた。君たちはもう2人揃っていなくてもいい。別々に行動させても問題ないと、そう思い始めている。君たちにはそれぞれ1人ずつ、副班長をつけるつもりだ」
 「あたしたちが……べつべつに?」
 「嫌なら断ってくれ。これまでいっしょにやってきたのだから、困惑しても当然だ。君たちの意見を尊重するよ」

 ロクはちらりと、レトの顔を見やった。しかしレトはじっと下を向いていて、まるでロクのことを視界に入れようとしていなかった。
 片目を細め、一瞬だけ考えを巡らせたロクが、意を決したように口を開いた。

 「あたしはいいよ。レトと班が離れても」
 「ロク君。ほんとにいいのかい?」
 「うん。いつまでも仲良しこよししてらんないよ。1人でだって、ちゃんと戦えるようになりたい」
 「そうかい。まあ実際には副班長もついて、2人1組だけどね」
 「あ、そうだった」
 「レト君はどうする。君も、ロク君と同意見かい?」
 「……」

 顔を上げ、レトはセブンと視線を合わせた。が、その目つきは、いつになく冷ややかだった。

 「俺は、先日の戦いで人質になって味方の身動きを封じた。しかも戦いの最中に気力を切らして数日間気を失ってた。目を覚ましたのはついさっきだ。それでも俺を、ロクとおなじ扱いにするっていうのか」
 「そうだよ」
 「……」
 「大丈夫だよレト! あたしたちだったらバラバラになったって戦えるよ!」

 花咲くような笑みでロクはレトの顔を覗きこんだ。ようやくロクのほうを向いたかと思えば、レトは小さく嘆息した。

 「よっぽど自信があるんだな、ロク」
 「え?」
 「あの双子の次元師に負かされそうだったお前が。フィラ副班が助っ人に入らなきゃ、今頃どうなってたかわからない」
 「そ、れはレトもいっしょでしょ! それに勝てたんだから関係ないよ!」
 「……。関係ない?」

 レトは目を細めて聞き返した。そして、ロクを睨みつけるようにして眉を顰めた。

 「お前、なんで負けとか考えないの」
 「え?」
 「勝って当然みたいな顔するよな。いつも。負けたらどうするかとかちゃんと想定してないだろ」
 「な……なんで負けることを考えなきゃいけないの? どんなときだって考えないよ、そんなこと」
 「もしもが起こったらどうするつもりだって聞いてんだよ」
 「もしもを起こさないように、全力でやるんだよ! その場でできることはぜんぶやる。ひとつだって可能性は捨てない。それがあたしのやり方だから」

 談話室に集まっている戦闘部班の面々は、ロクとレトの2人を除き、感づき始めていた。2人を取り巻く空気が悪い方向へ流れている、と。

 「レトのほうこそ、考えなしじゃん!」
 「は?」
 「あたし、すっごい気にしてるんだよ。ベルク村で戦ってたとき、レト……空の上から飛び降りたよね。どうして言ってくれなかったの? そういう作戦だって! あのときあたし、ほんとに心臓が止まるかと思ったんだよ!?」
 「余計な心配すんなって言ってんだろ」
 「なんで? 心配するに決まってるじゃん! だってレトはあたしのお義兄ちゃんなんだよ!? なんで心配しちゃいけないのさ!」
 「はっきり言えよ俺が弱いからだって」
 「……え……」
 「そう思ってっから心配するんだろ。みんなはお前に、「こいつならなんとかしてくれる」って期待するかもしんないけど、俺に対してはちがう。俺とお前とじゃ、期待と心配の度合いがちがうんだよ」

 しん、と室内が静まり返った。だれもが声を出すことを躊躇った。
 ロクは小さく口を開いた。

 「じゃあ、そうだよって、言えばいいの」
 「……」
 「だってレト、ぜんぜん鍛えようとかしないじゃん! 強くなろうってしてないじゃん! いっつもいっつも、あたしが鍛錬場に誘ったって来ないし、任務先でだって、「お前がいけ」っていっつも言うじゃん! なんで次元の力から逃げようとするの!? 使おうとしないの!?」
 「ろ、ロクちゃん落ち着い──」
 「レトだって次元師だよ。神様をやっつけられる力を持ってる。それはあたしといっしょだよ! なのになんでいつも……あたしみたいに次元の力で戦おうとしないのさっ!」
 「俺とお前はちげえよ」

 レト以外の班員たちはぎょっとした。彼の口から発せられた声がいつもよりもずっと大きかった。これほどの憤りを感じ取ったことはいままでになかった。

 「俺は、お前みたいにはなれねえんだよ!」

 獰猛な獣が他種族を威嚇するかのような、激しい剣幕だった。この表情を久しく見ていなかったロクは、レトと出会ってすぐのことを思い出し、一瞬言葉に詰まった。
 しかしロクは、一切の怯みも見せずに噛みつき返した。

 「そうやって、なんでもかんでもあきらめて……! レトはどうしたいの!? 神族に対抗できる力があって、だからやっつけようって約束したじゃん! 2人でいっしょにお義母さんの仇をとろうって──」
 「だれがお前の母さんだよ」

 レトは呟いた。腹の底から沸き立つような、重い響きだった。

 「母さんのほんとの子どもでもねえくせに、えらそうに言うな!!」

 まるで、頭に向かって鈍器を振り落とされたみたいだった。ロクはそんな衝撃を覚えた。
 部屋は恐ろしいほどの重たい空気に支配されている。だれも口を割れなかった。
 ロクは顔を伏せた。そして、レトがはっと我に返ったそのとき。ロクは手足を、唇を、小刻みに震わせて、
 目に溢れんばかりの涙を溜めていた。

 「あ、ロクちゃん!」

 ロクはレトの横を走り抜けていった。勢いよく扉を開ける音だけが鳴り響き、ロクは、そのまま談話室から飛び出していってしまった。
 扉が閉まる。重苦しい空気が室内に立ち込めている。この長い沈黙を破ったのは、セブンだった。

 「いまのは言いすぎだよ、レト君」

 本人も気がつかないうちに、レトは強く拳を握っていた。言ってやったという爽快感でも、ざまあみろといった貶めの感情でもない。
 ただただ、とてつもないやるせなさがその拳の中を彷徨っている。
 レトは唇を噛みしめていた。そして、クソッ、となにもない空間にそう吐き捨てた。