ダーク・ファンタジー小説

【完結】2006年8月16日
日時: 2018/09/07 04:09
名前: をうさま ◆qEUaErayeY

>>3-37 >>40-55 >>58-72

2015冬大会 管理人賞
2018夏大会 金賞

感想などもお待ちしてます
Twitter:@STsousaku

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Re: 2006年8月16日 ( No.37 )
日時: 2017/09/26 01:12
名前: をうさま ◆qEUaErayeY

 一番上にあった「進捗報告スレ」というタイトルのスレには、すでに100近いレスが付いていた。他に10個ほどあるスレは全て2006年夏以降の書き込みが途絶えている。全く奇妙な光景だと改めて思う。
 彼らも、久しぶりに書き込むときは場違いという気にならなくはなかっただろう。この掲示板は、あるメンバーにとってはきっと忘れたい思い出が染みついていた場所だったはずだ。
 スレを開く。誰もがテンションは高めだった。いや、元からこんなテンションだったかもしれない。ゲームを作るにあたり、最初はそれぞれがそれぞれの担当を確認していて、「そこからかよ」とえんさんに突っ込まれていた。
 真面目なゲーム製作の話題だったのがただの雑談になったり、自由で楽しそうな雰囲気がこちらにも伝わってくる。メンバー全員でSkype通話も何度かしていて、終わるのが深夜になることもしょっちゅうあったみたいだ。
 僕の話題が出ているのも発見した。「次通話するときコウセイくん(漢字分からんw)も呼ぼう」と提案したのはゆーたさんだった。あの大阪弁が強い人だ。
「おk、っていうかコウセイって本名なのかな。名前メッチャ格好良くね? 俺なんてえんだぞ、えん」
「あ、それ私も思って前聞こうとしてたんだけど結局聞けなかったんだよね。えんも知らないんだ?」
「まあ水音の彼氏には負けるかもしれんけどw 今更だけどあれキラキラネームだよな。樹雨で『きさめ』だぞ……」

 あのSkype会議から何も誘われなかったので、もしかしたら僕は彼らに嫌われているのかと実は少なからず思っていた。嫌われる理由なんていくらでもありそうだった。彼らにしてみれば、全くの部外者である僕の手によって、高校時代に経験した莉乃さんの死という辛い過去を今更無理やり思い出させられたのだ。彼らからしたらたまったものではなかったはずで、きっと僕なら、自分のことで精一杯のときにこんなことをされたら何も手に付かなくなるだろうと。
 ……だから、僕は初めて自分がやってきたことが認められたような気がした。初めは自分でもよく分からなかった、メンバーにこの掲示板を見せた意味が今やっと見つけられたような気がした。僕のした行動で少しでも人が喜んでくれるのがとても新鮮だった。

 ひととおり感傷に浸った後、不意にパソコンの画面から目を逸らす。そこには数冊のノートがあった。それぞれ色の違ったノートが何冊も積まれていて、その中で青いノートだけが何故だか無性に気になった。
 その、何冊も積まれたうち一番下にあったノートにゆっくりと手を伸ばす。最初の一行目には綺麗な字で数学の問題が書かれている。連立方程式だ、と今の僕ならすぐに分かる。
 と思ったらその下には汚い字で式が書かれていた。答えは間違っているらしく赤い綺麗な字で直されている。ページ全体を見るとそんな感じで何問も続いていた。
 気づけば僕は笑い出していた。端から見ると気味の悪い光景かもしれない。それでも僕は面白かった。これは、早紀と一緒に勉強したときに使ったノートだとすでに僕は思い出していた。
 彼女がこのノートを忘れて帰ったというのをそれはそれで諒解したが、少しして、これは本当に偶然なのだろうかという思いがふつふつと湧き上がってきた。彼女はこのノートをわざと忘れて帰ったのではと、ふと思ったのだ。
 これがある限り、いつでも僕と早紀は会えるのだ。

 さてと、と僕はすぐ勉強道具を引き出しから取り出し、さっき触った数冊のノートの内の、一番上のノートを開く。中はぎっしりと英文で埋め尽くされている。これは英語の参考書の回答だった。数学と英語以外にも、理科、国語、社会のノートもそれぞれあり、全教科をそれぞれ毎日数十分勉強する生活をここ数週間、毎日繰り返していた。
 すぐに取りかかろうと思っていたときに、えんさんからLINEメッセージが届く。「もう受験は終わったかな? 俺もそうだし他のメンバーも話したがってるから今日Skypeどう?」
 すぐにはっとなる。もう受験は終わっているのだ。僕はノートを閉じる。

Re: 2006年8月16日 ( No.39 )
日時: 2017/06/09 03:32
名前: をうさま ◆qEUaErayeY

>>38
スレ間違えてません?w

Re: 2006年8月16日 ( No.40 )
日時: 2017/08/01 02:12
名前: をうさま ◆qEUaErayeY

 行こうとすぐに思った。あちらが僕と話したいと言ってくれるなら、そもそもこちらには断る理由がない。
 えんさんにLINEを返すと、Skype会議は十時開始だと告げられた。三十分近く後だ。ふと、僕はそれまで何をして時間を潰すのだろうと思う。ここ数週間、今まで暇さえあれば勉強をしてきたが、受験が終わった今、わざわざやる意味が僕には思いつかなかった。
 暇だ、と思った。同時に、そういえば暇だと思うのはいつぶりだろうと思う。そのときが待ち遠しいとか、時間が経つのが遅いだなんて思うことが久しぶりで、今まで何かの感情を忘れていた気さえする。

 えんさんとの個別トークページから戻ると、今まで話した人全員とのトーク履歴が最新順で表示される。といっても限られた人としか話さないので三人しか表示されない。
 早紀とのトーク履歴が気になったので、すぐにタップする。早紀がさっき送った「また会おうね、絶対」が最後だった。遡っていくとその他にも色々話していた。僕から話しかけるときは基本的に勉強関連で、早紀からのときはそれ以外の場合が多い。なかなかいい雰囲気で、ときには一時間話しっぱなしだったこともあった。他にも、珍しい早紀のおどけた発言に、このときの僕は反応に困ってしまい、結局意味不明な言葉で返していたこともあった。そういえば通話したこともあった。一度だけだったが、とても楽しかったことを思い出す。
 僕は、このLINEで、次、いつ、どちらが、どう話しかけるのだろうと思った。そもそも次があるのかどうかも分からないが。
 しばらく早紀とのトーク履歴を眺めていると、突然、ピコン、と音が鳴り、スマホが震える。そして今まで遡った分の画面が凄い勢いで戻され、一気に最新のメッセージが表示される。早紀からメッセージが届いたみたいだ。見ると写真だった。そういえばどこかで見たことのある河の写真だった。
 きっとこれは、去年のクリスマスイブのあのとき、早紀が撮った旭川だと強く思えた。河など日本中を探せばいくらでもあるし、どこも似たり寄ったりな風景だが、映されているのは旭川以外あり得ないときっと僕と早紀なら感じる。
 この写真を見て旭川だと即答できるのはきっと世界で僕ら二人だけだろう。

「あれ、すぐ既読ついちゃった」
 また、ピコン、と音が鳴る。そういえばさっき彼女から写真が送られてきたのはトーク履歴を眺めていたときだった。送った瞬間に既読が付くとは恐らく彼女も思っていなかっただろう。
「過去の会話でも見てたの?」
 彼女は訊いてきたが、僕は何て言おうか迷った。さっきあんな別れ方をしてしまったから普通に話しづらかった訳ではない。何というか、単純に、トーク履歴を見ていたと正直に言うのが、恥ずかしかったのだ。
「いや、ちょうど開いた瞬間に早紀から写真が送られてきた」
「あ、そうなんだ……」
 ちょうどこれで会話が終わりそうだったのが不思議だった。
 僕は彼女の行動が理解できなかった。何故クリスマスイブに撮った旭川の写真を今僕に送るのか不思議でしょうがなかった。しかし、その意図を訊くことは多分僕には不可能だろう。

 また同じ音が鳴る。しかし今度は早紀からのメッセージではなかった。それはえんさんからだった。すぐにメッセージを見ようと思った瞬間、パソコンからまた別の音がした。それがSkypeの着信音だと気づくのに少し時間がかかった。ヘッドセットを付け、端子をパソコンに挿した頃には、もう着信は止まっていた。
 少ししてもう一度かかってきたタイミングで僕は通話を開始した。

Re: 2006年8月16日 ( No.41 )
日時: 2017/08/09 19:18
名前: をうさま ◆qEUaErayeY

「あ、やっと出た。久しぶりーコウセイくん」
 ゆーたさんの声だとすぐに気づく。「お、お久しぶりです」
 分かってはいたが、僕を歓迎するムードにやはり少しばかり緊張する。
「受験お疲れさま!」全員の声が被る。一瞬、さっきのカフェでの出来事を思い出した。
 ありがとうございます、と返す前に、えんさんであろう人が少し大きめの声で話す。「作業の進捗とかは普段、掲示板のほうで話してるから、今日のはただコウセイくんのことを色々と聞きたいってだけのSkype会議です!」

 絶句していると、いきなり質問が飛び出す。「はいはーい! コウセイっていうのは本名?」
 それは水音さんの声だった。やけにテンションが高い、この中で唯一の女性だ。「本名です。よく変わってると言われます」
 だいたい予想していた通りほとんどの人が驚きを示すが、水音さんだけは僕の返答に何も動じなかった。
「へー、好きな子とかいないの?」
 急に答えにくいことを言われたので少し言葉に詰まっていると、全員の反応が一斉に変わった。
「あ、これはいるな。可愛い? 同じクラス?」
「はぁ、まあ可愛いですけど。クラスは違います」
 正直に言うと、主に男性陣がかなり興味を示してきた。
「一緒にいられるのあとちょっとじゃない。大丈夫? 告白はまだ?」
「キモいぞオッサン」
「うるっせえ! 樹雨と違ってこっちはこういうのに飢えてんだよ!!」

 黙っていても会話が続きそうなので何も言わずにいると「で、告白はまだ?」とまた訊かれてしまった。
「告白はしてないです。というかしないつもりです」
「……なんでだよ」
 少し強めに言われたので、動揺した。その声はゆーたさんだった。
「彼女には好きな人がいて、その相手も彼女のことがきっと好きなんです。だから僕が告白しても……」
「それでも想いは伝えたほうがいいに決まってるだろ」
 僕は、何も返せなくなってしまった。どうしてか、彼は怒っている。さっきまでの明るい雰囲気はどこかに行ってしまったようだ。
「ゆーた、落ち着けって」
「ごめん、コウセイくんに当たっても仕方ないよな。気持ちの整理付くまでちょっと一旦抜けるわ」
 ゆーたさんは、彼らと何か話している。何か事情があるのは分かるが、聞ける雰囲気ではなかった。少しして、ゆーたさんはこの通話から姿を消した。

「ごめん」
 ゆーたさんが抜けてから、すぐにえんさんが謝る。
「えんは謝らなくていい。謝るとすればゆーただろ」
「ありがとう。これも言うタイミングがなかったからコウセイくんにはまだだったね」
 僕は今から何かを伝えられるのだと思った。
「……ゆーたさんは莉乃さんのことが好きだったんですね」
 勘だった。賭けるような気持ちで飛び込んだ。
「よく分かったね。もしかして何か聞いてた?」
「いや、何も聞いてないですけど……」
 彼らは一様に驚きの声をあげたが、僕からすれば自分のほうがずっと驚いていた。雰囲気でなんとなく予想はしていたが、まさか本当とは。
「片思いだったんですか?」
「うん。ゆーたは片思いだってずっと思ってるみたいだけど、俺達には分かる。二人は両思いだった」
「そうだ。莉乃から、ゆーたが好きなんだけどって相談されたことがある。確か亡くなる一ヶ月ほど前だな」
「それは初耳だったな……」
 いずれにしろ僕とは全く違うように思えた。きっとゆーたさんのほうが僕よりずっと幸せだと思った。
 何より僕は片思いで、いずれ別々の高校に行き、もう会うことはないのだから。

Re: 2006年8月16日 ( No.42 )
日時: 2018/02/21 13:43
名前: をうさま ◆qEUaErayeY

「もしそうなら伝えないとダメですかね、ゆーたさんに」
 言った後、自分でも少しでしゃばりすぎかなと思った。えんさんは面倒くさそうに一息おいて話す。
「それは僕らもずっと思ってたことだけど、分かるかな。これは本当にデリケートな問題だ。コウセイくんも分かってる通り、おれたちが高校生だった頃のゲーム製作企画は最悪の終わり方をした。今でこそゲーム製作に取りかかれてるけど、最初は皆色々感じたんだ。おれだって正直最初のほうは辛かった。だからゆーたの気持ちは凄く分かる。そんなおれがゆーたの暗い過去をほじくり返すなんて、とてもできない……」
 えんさんの声が少しだけ震えているのに気づいた僕はやっと口をつぐんだ。とはいえ、それはなんだか少し悲しいことのような気がしてならなかった。僕は初めて自分が部外者なのが悔しかった。
「えん、それは言っちゃダメな約束だよ。コウセイくんの前では」
「そうだった。悪い。だけど言わなきゃダメなこともある……」

「私、ちょっとショックだな」
 Skypeの画面では、水音さんのアイコンの、猫の写真が青く光る。少し遠くから男の人の声とともにクローゼットか何かを開け閉めする音がぱたぱたと聞こえる。きっと樹雨さんだ。
「色んなことに一喜一憂してたあのときはもう遠い昔で、今はもう皆大人だから何にも動じないのかなって思ってたけど、私たち、あの頃から何一つ変わってないんだね」
 やけに明瞭なその声は、不思議なほど耳の近くで聞こえた。気づけばヘッドセットを両手で押さえていた。
「正直、コウセイくんの呼びかけでまたみんなと同じことをするって聞いたとき、自信があったんだ。もう私は昔みたいに弱い人間じゃないって、大人になった自分をみんなの前で見せたくて仕方なかった。だけど、いざ会ってみると、あのときから何一つ成長してないって気づかされちゃった」
 彼女は笑い混じりにそう続けた。それは何故か僕にも少し分かる気がした。
「やっぱり水音もそうか。おれも正直全く同じだ」
 ね、とえんさんの言葉にとりあえず返事をした後、ちょっとごめん、と言って水音さんはマイクを切った。プチ、と音がして、この場には僕ら二人だけになる。何気に、二人になるのは初めてだった。
 会話が一度止まる。Skypeの画面には四つのアイコンが表示されているが半分は現在話せる状態にいない。

「……コウセイくんは、傷ついたり責任を背負い込まなくていいからね」
「えっ?」
 信じられないくらい会話が途切れていたが、その均衡はえんさんの言葉によって破られた。僕は無意識に間の抜けた返事をしてしまう。
「もっと早くに言ってればよかったね。ごめん。多分だけど、コウセイくんは僕らと関わりだしてからいくつものショックを受けてきたと思う。前回は水音が泣いてたし。まあそれは完全におれが悪いんだけどさ。君は恐らく他の色々な部分でそれなりに傷ついてきたと思うけど、それらは絶対コウセイくんは悪くないから、そんなに気にしないで欲しい」
 僕はまぶたの裏に水音さんの嗚咽を思い出していた。「ありがとうございます」
「通話する度にいつも誰かが感情的になったり大人げない姿を見せてる気がするからさ。コウセイくんは意外かもしれないけど大人ってこんなもんだよ。だから、あんまり失望しないであげてくれ。まだ見せてないけどおれだってその内ガキみたいな姿見せるかもしれないから……、えっと、水音?」
 画面には水音さんのアイコンが青く光っている。小さな物音に反応しているのだろうか。「あー、気づいてたか。えんが話してたからなかなか話に入れなくて」
「なんだよそれ。そんな高尚な話してないよ」えんさんは失笑を漏らす。
「ありがとうえん。さすがリーダーだね」
「どこから聞いてたんだよ。というかバカにしてないか?」
 ははは、とまるでアナウンサーのように綺麗な笑い声で水音さんは笑い、同調してえんさんも楽しそうに笑う。時刻は11時を廻っていた。

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