ダーク・ファンタジー小説

I live with ヴぁんぱいあ。【1/22更新】
日時: 2019/01/22 23:11
名前: はるた

「しばらく更新停止します(通常更新です)」 byはるた


 




 初めましてor(知っている人がいましたら)お久しぶりです。
はるたと申します。

 はるたの五作目となる今回の小説のテーマは「ヴァンパイアと人間の少女の恋」になっております。
今回は皆様に少しでも「ドキドキした」と言ってもらえるようなお話にしていきたいと思っています(思っているだけ)ので、どうぞよろしくお願いします。





【参照記念】

 参照300記念小説 >>55
 参照600記念小説 >>81
 参照900記念小説 >>111
 参照1200記念小説 >>112
 参照1500記念小説 >>121








【お客様】

◇ゴマ猫様
◆ひよこ様 
◇雨空様
◆朔良様
◇覇蘢様
◆占部 流句様
◇いろはうた様
◆錦歌赤兎様
◇紗悠様
◆如月 神流様
◇みるく様
◆波璃様
◇星来様
◆蒼様
◇美奈様
◆ゆーき。様
◇戒壇様
◆ことり様
◇顔無し@様
◆村雨様
◇佐渡林檎様
◆Garnet様


【目次】

*Prologue >>09
*Episode01 >>113



【設定資料集】

*「ゆたか&鉋」 >>77
*「八朔&海里」 >>78
*「恭也&庵」 >>104
*「悠真&千影」 >>105





 参照9000感謝です。
 



では、物語の世界へどうぞ。





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Re: I live with ヴぁんぱいあ。【更新再開】 ( No.180 )
日時: 2016/11/14 17:03
名前: はるた ◆OCYCrZW7pg







 Sidestory08




〈会いたいけど会えない現実D〉


 さて、俺の顔を見た瞬間に邪険にしてきたこの男。説明がないまま紗耶香に連れられてこの場所に来たのだが、お互い所見のはずなのにどうして俺の名前を知っているのかも分からずパニックに陥ってしまった。


「鉋は恭也さまのことをご存じで?」

 俺が口をパクパクさせていたのに相反して、冷静な紗耶香はズバッとその男にモノ申していた。
 

「あぁ、昔そういやゆたかが言ってたなぁって思って」
「……何でそんな嫌そうな」
「あぁ、昔ゆたかが告白されたんだ―って顔真っ赤にしていうもんだからさ、もしあったら殺してやろうかと」
「心狭いですね、鉋は」

 何の話をしているのか分からなかったけど、どうやら「ゆたか」について知っている男の用だった。けれど、紗耶香の読んだその名前「鉋」はどこかで聞いたことのあるような……。あぁ、そういえば紗耶香の「好きな人」
 
「恭也さま、紹介します。こちら、望月鉋、吸血鬼です」




 ……は?



 確かに何となく「吸血鬼」がいるとかいないとかそんな話を紗耶香から聞いてはいたものの、いきなり紹介として「この人吸血鬼だよ」的なことを言われても頭が追い付くはずもなく、俺はまた軽いパニックを起こしていた。
 それより中入れよ、とその鉋という男が言ったために俺の脳内整理が追い付かないまま家の中に招待される。ゆたかはここに居るのだろうか、そう思って辺りを見渡すも鉋から「ここにはいない」と俺の心を察したかのような言葉が返される。


「お前、本当何なんだよ」
「きゅーけつき、だよ。そんで、ゆたかの「元カレ」」


 にやりと笑ったその表情に俺の心は音を立てて壊れていった。


***

 そもそも人間の脳はそこまで優秀ではないのかもしれない。俺は今までの考えをすべて覆して目の前にいる少年を見た。どちらかといえば整った綺麗な容姿はきっと女子がきゃーきゃー黄色い声をあげるんだろうな、と誰だって予測できるほどのものだ。
 見たからに「イケメンの高校生」にしか見えない、紗耶香に鉋と呼ばれた吸血鬼は何の躊躇いもなく俺たちを家に入れた後茶まで出してきやがった。

「お前、吸血鬼なのかよ……」

 震える声で尋ねると、鉋はこくりとうなづいた。余裕のある笑みだ。
 隣にいる紗耶香ですら、少し同様したそぶりを見せたのにどうしてこんなに落ち着いてられるんだか。出された茶を少しだけ口に含んであたりを見渡した。普通の家だ。普通の家族が住んでいるような普通の家。
 けれど、違和感がする。家にはお父さんもお母さんもいない。共働きってこともあるんだろうけど、そもそも吸血鬼に親とかいるものなのだろうか。頭がこんがらがってきて俺は紗耶香を食い入るように見つめていた。

「そんなに見つめないでくださいませ、恭也さま。胸がどきどきします」
「おい。誰がそんなに分かりやすい嘘をつけといった」
「あら、そんなにすぐに嘘だとお分かりなるとは思いませんで。男子高校生ならそれなりに健全な性欲を抱いていただかないと」

 にっこりとほほ笑んだその表情は今までのロボットみたいな感じとはまた一風違った。紗耶香がこんな顔するなんて思ってもみなかった。けれどすぐに気付く。その表情を引き出しているのは鉋なのだと。

 鉋のことを慕っていると彼女は言った。
 俺のことなんか眼中にないくせに、そうやって照れ隠しをする紗耶香の意図は全く分からない。そもそも恋敵的なポジションにいるゆたかに何の感情も抱いていない様子にも違和を感じるのだ。


「吸血鬼が、どうしてゆたかと一緒に暮らしているんだ。それより、本当にゆたかは「生きて」いるのか?」


 俺の質問に鉋は笑って答えてくれた。


「ゆたかが死んだのは過去の話だよ。生きてる、けど知ってるんだろお前は」


 つながらない会話。
 かみ合わない会話。
 どれが本当の話で、どれが嘘なのかわからない。
 けれど、少しずつ核心に迫っているような気がして仕方がない。それが気づいていいことなのかわからないが、それでも俺は追求せずにはいられなかった。

「知ってるって何が」


 ゆたかがいなくなったのは、いつだっただろうか。
 ほんの数か月前。だったはずだった。
 それなのに何なのだろう。この違和感は。
 

「お前は全部知っているんだよ。ゆたかが死ぬ話を、さ」


 それは知りたくない話。知ってはいけない話。
 俺の生きた時間とはまた別のお話なのである。


 俺が知っているゆたかの死ぬお話は、ゆたかと一人の少年との恋物語から始まるのだ。

Re: I live with ヴぁんぱいあ。 ( No.181 )
日時: 2016/12/29 13:27
名前: はるた ◆OCYCrZW7pg





 Blood17「冬鳥」


 何が何だか分からない。分かるのは、私の知らない私の話、それを鉋も八朔もしっているということだけだ。
 記憶喪失とか、そういう類のものかと最初は考えた。でもさっきの言葉ですぐにそれは否定される。

 ――今年の二月十五日に、死んじゃうんだよ

 八朔はさっきそう言った、私が死ぬと、そう言った。
 私が病気の話は誰にもしていないはずなのに、それなのに。病院の先生に言われた余命より早く死ぬと宣告した八朔は、全てを知っているような口調。それを聞いてひきつった表情になった鉋だって、何か知っているに決まってる。

 教えてくれないのはどうして、って。
 聞きたい。けど、何か理に反する気がした。


「両思いはさ、苦しいだけなんだよ」

 ぽつりと呟いた鉋の瞳には薄らだけど涙が見えた。
 頭をくしゃくしゃと掻いて、大きくため息をつく鉋に八朔は「ごめん」と小さく謝る。鉋は八朔をぎゅっと抱き寄せて「俺もごめん」と謝った。
 傍から見れば、兄と弟の家族愛みたいなものに見えるのに。彼らの陰に隠れた黒い何か闇のようなもので、それはとても危険なものに見えた。鉋が八朔の赤く腫れた頬をそっと触り、ごめんとまた繰り返す。


「かんっ――」
「ゆたか、ちょっと部屋に戻ってて。鉋が具合悪いから」

 子供の姿の八朔は、たしなめるような口調で私を部屋から追い出した。
 うん、しか言えなくて私は自分の部屋に戻った。ベッドの上で体育座りをして、ぎゅっと体を小さく丸めた。何も考えられなくなればいいのに。そう考えて、また深い眠りにつく。久しぶりに、二度寝をした。

 その日、悠真の夢を見た。
 どこにもいかなで、ずっと一緒に居て、そう叫ぶ悠真の涙に私は応えてあげなかった。真っ赤な炎の中、泣き叫ぶ大好きな弟の声がずっと響いて声を殺して私は泣いた。

 目が覚めると、ベッドには涙の後か、少しだけ濡れていた。


「ゆたか」


 ふと気が付くと、部屋に鉋が入ってきていた。
 名前を呼ばれて私はゆっくりと起き上がった。朝ご飯作れなかったなぁ……そういや今何時だろうと頭の中でそれがぐるぐるする。


「ずっと言いたかったことがあるんだ」
「……なに、さっきのよく分からない私の未来予知てきなもの、とか」

 小馬鹿にしたように、私はふっと鼻で笑って言ってやった。
 私に何も教えてくれない鉋が悪いんだ。そればっか私の心を占領する。
 鉋は馬鹿じゃないから、私のこんな下手な挑発で答えてくれるわけないのに。


「俺さ、ゆたかのこと好きだったんだ」



 すべてを無視して彼は私の想像を余裕で超えた発言をするのだ。
 それがたとえ「過去形」だったとしても、過去の話だったとしても、それがすべての引き金になったとしても、

 鉋はそれでも、私に教えてくれる。
 終わりと、始まりのお話。私たちが出会った、「過去と未来」のお話。


***

Re: I live with ヴぁんぱいあ。 ( No.182 )
日時: 2017/01/20 17:08
名前: はるた ◆OCYCrZW7pg





【 お知らせ 】

 奥さん奥さん、この小説「冬の小説大会」で銀賞でしたわよ。
 というわけで(どういうわけだ)また今回も小説大会で賞をいただきました。ありがとうございます。この作品では三回目の受賞となりますね。うれしい限りでございます。もう二年も書いているのに完結の目途が立っていない現実からは少しだけ目をそらしましょう。
 残念ながら現在、私はネット関係をあまり使えない状況にあります。受験生とかではないのですがね(汗
 三月ぐらいには復活しますので、それまではちょこちょこ書けるときに書いていこうと思います。

 ここからは過去編に入っていきます。鉋とゆたかの昔のお話。
 といっても、ただの「過去」ではありません。
 ゆたかの知らない「過去」のお話です。
 そういえばこの話はファンタジーだったな、と思い出していただけると嬉しいです。そう、ファンタジーなのですよ。
 甘酸っぱい恋愛ものを書きたいと願いつつもこういう話ばかり書いてしまう私を許してください。

 投票してくださった皆様、本当にありがとうございます。
 これからも皆様のご期待に添えるように精一杯頑張っていきたいなと、そんなことを考えながら少し更新スピードを速める努力をしていこうと、そう思っております。
 三月くらいまでは本当にカキコにもツイッターにも浮上できないと思いますので、また帰ってきましたら「あ、いるな」とそんな感じで認識していただけると嬉しいです。


 

Re: I live with ヴぁんぱいあ。【お知らせ】 ( No.183 )
日時: 2017/08/05 20:44
名前: はるた ◆OCYCrZW7pg


 Blood18「虚偽」



 物語の始まりは全部同じだった。
 結局何も変わらない。ゆたかの両親が最低で、最悪で、それでも子供思いの人間で――彼らが悠真に殺された事実も、ゆたかが悠真と両親を失った事実も、何一つ変わらない。

 恭也が失恋したのも変わらないし、彼女が家を飛び出していったことも変わらない。

 何にも変わらなかった。変わったことは、望月鉋が人間として生きていたということだけ。




***


 高校二年生の冬、加瀬祐輔はいつものように部活のエナメルバッグを肩にかけ、サッカーシューズを手に持ち走っていた。
 前日雪が降ったため、車の上には真っ白に輝く雪が積もっており、水たまりには氷が張っている。
 白い息を吐きながら、ただ前だけ見て走る。青い空はサッカー日和である証明だった。

「やっば、遅刻」

 祐輔はただサッカーが好きな少年だった。
 部活に行くのも楽しいし、たとえ無謀だったとしても全国大会を目指すような熱血漢をもった逞しいバカだったのだ。

 この日も、いつものように練習をこなし、監督に怒られ、居残り練習をして帰路に就いた。
 夜も遅い。もう二十一時を回っただろうか。冬の夜空は時間を想像させてはくれない。真っ黒な空に、早く帰らなければという気持ちだけが膨らんでいく。さっきまで無我夢中で走っていたため、もう足が動かない。

 そんなときだった。
 
 こんな夜遅くに人影が見えた。最初は怖がりな祐輔にはそれが「幽霊」に見えたが、そんなわけはない。まだ丑三つ時でもないのに、そんなのが出てたまるか、というバカなりの呼吸を整える方法だ。

 よく見てみると、その幽霊は女の子だった。
 長い黒髪の幽霊。服装はワンピースだろうか、暗いからよく見えないがそのワンピースも少し汚れていて、よれている。
 ふらふらと立ちくらみのような行動を起こすその女の子に、どうしても見てみる振りができず、祐輔は声をかける。

「大丈夫ですか?」


 にこり、と彼女は口元を緩めたが、顔はとても疲れているようだ。
 名前は、とまた尋ねると、少しだけ彼女は顔を伏せて、何かを決意したように言葉を紡いだ。
 アルトくらいの、耳になじむその優しい声に恋をしたような感覚を抱いた。

  ――さがら、ゆたかって、いいます


 のちにわかることだが、彼女がこんなにも汚れているのはただの迷子だったからだそうだ。


***

 方向音痴の彼女、名前を相楽ゆたかというらしい。
 真夜中にふらりと現れた彼女はどうやら「家出少女」みたいで、夜も遅かったために彼女を放って帰ることもできず、祐輔は自分の家に招き入れた。
 母親は看護師のためになかなか家で鉢合わせることはない。その上父親は単身赴任中なので、家出はだいたい一人だ。靴を持たせ、家にあげる。自分と年の近そうな女の子を家に入れたり、部屋に入れたりするのに多少の罪悪感はあったが、見捨てるよりはいいと自分に言い聞かせて部屋の扉を開けた。
 
「あの、……えっと」

 やっぱり男の部屋に入るのには躊躇あるよな、と思って祐輔は咄嗟に「ごめん」と謝ったけれど、彼女は少し顔を赤めて首を左右に大きく振った。

「ち、違うんです。いや、あの、さっき会ったばっかの赤の他人、しかも家出少女にこんな優しくするなんて、変な人過ぎて怖いっていうか……いや、あの、違うんです。あなたが悪いっていう訳じゃないんですよ。私が行く宛もなく家を出てきたのが悪くって」

 彼女が言葉を連ねれば連ねるほど、どんどんと自分を追いつめていっているようだ。
 思わずぷっと吹き出してしまった。

「いや、こっちこそ悪い。なんか罪悪感もあったんだけど、あんな時間にいるし、警察にはいきたくないっていうし、あーでもやっぱり今からでも警察いく?」
「いや、警察は駄目です。絶対に家には帰らないって決めているんで」


 祈るように両手をぎゅっと握って、彼女は「警察にだけは連絡しないでくれ」と祐輔に縋った。
 夜遅くに女の子を拾ってきた、という自分の行為もばれると社会的にアウトだと思って、祐輔は彼女のお願いを聞くことにする。危ない、危ない。
 

「あの、色々理由があるんです、ちゃんと、理由が。ちゃんと話すのでもう暫く私のこと匿ってくれませんか?」

 そりゃ、高校二年生。健全な男子高校生なら、可愛い女の子の頼みは断れないだろう、と。誰かに言い訳をしてそっと彼女の頭を撫でた。
 切なそうな表情から、親と何かあったんだろうと勝手に想像して、祐輔は眠そうな表情の彼女をベッドで寝かせてやった。


 

Re: I live with ヴぁんぱいあ。 ( No.184 )
日時: 2017/08/20 21:50
名前: はるた ◆OCYCrZW7pg

 Blood19「涙色」



 先に目覚めたゆたかに起こされて、祐輔はソファーから起き上がった。時刻は六時、いつも起きている時間よりは三十分以上も早い時間だった。

「もう少し寝かしてくれ」

 と言って二度寝希望を出したが、それは当然のごとく却下された。
 ゆたかは座布団の上で正座したまま、こちらをずっと見ている。祐輔がその前に仕方なしに座ると、彼女はまず、おはようございますと小さな声で言った。
 おはよう、と返しながら頭をかいて外を見る。この季節の朝は真っ暗だ。

「すみません、朝早くに起こしてしまって」

 本当に申し訳なさそうに、ゆたかはぺこりとお辞儀した。確かにそのことについては不満を覚えていたが、男子高校生の心は寛大だ。許してやる、と心の中で言った。
 ゆたかのほうもあまり寝ていないみたいだ。確かに、男のベッドでよく眠れるほうがおかしいなんてことを考えながら、祐輔は頬杖をついて彼女を見つめた。


「で、なんで家出したの」

 まず、一番気になる質問はこれだ。
 家出をするってことは、彼女にはそれ相当の何かがあったはずだ。
 祐輔の質問に、答えづらそうに彼女はうつむいた。

「親が死んだんです。弟も意識不明の重体で。――私だけが取り残されました」

 震える声に、ありえない現実を突きつけられる。
 最近ニュースで話題になっている「一家心中」。それは彼女のことではないかと勘繰り始めたのもこの時だった。
 祐輔がそれを尋ねると、彼女は「そうです」と短く答えて、大粒の涙を流した。女の子を泣かせた経験なんてあまりない祐輔は、焦りながらゆたかにティッシュを渡す。

「って、同情ひこうって思ってるの、ちゃんと分かってくださいよ」

 ゆたかが涙を拭いながら、ぼそりと呟いた。

「優しすぎると、いつか騙されますよ」


 別に一家心中に取り残されたことが悲しいことじゃないんです、この涙は真っ赤なウソなんですから。と、付け加えて、彼女は笑った。
 それが本当のことなのか、嘘なのか、そんなのどっちでもよかった。
 震える彼女を助けられるなら、それで良かった。



***


 ゆたかは優しい女の子だった。
 両親がなかなか帰ってこない祐輔の家の事情も、何も突っ込んではこなかった。ただ単に興味がなかったのかもしれない。
 彼女はいつも、誰もいない家のキッチンに立って祐輔の朝食を作る。ご飯に味噌汁、甘い卵焼きに焼き魚。温かい料理を食べるのは久しぶりで、少し感動した。
 一緒に食卓を囲むゆたかが、ふと箸を止めた。
 突然のことで、祐輔も声が出なかった。

「ごめんなさい、違うんです」

 ぼろぼろと涙を零したゆたかを見て、祐輔も何でか無性に泣きたくなった。
 彼女が泣いている理由が、きっと自分と同じなんだろうと思った。

「久しぶりで、誰かと、食べるの。弟は一緒に食べてくれてたけど、そうじゃなくて、そうじゃなくて」

 壊れた家庭で、傷つく弟に何もできなかった自分がどれほど悔しかったのだろう。姉なのに、自分しかこの子を守ってあげられないというのに、ゆたかの感情はもう崩壊していたに違いない。

「俺も」

 好きになったのはいつだったっけ。
 それは思い出せなかった。

「久しぶりに、食べる」

 書置きを残していなくなる母親が悪いなんて思わない。自分を育てるために選ばざるを得なかった道なのだろうと理解はしている。
 それでも、高校生になったからといって寂しいという感情を簡単にゴミ箱に捨てることはできなかった。

 味噌汁から湯気が出ている。
 一口飲んで、これが彼女の家の味なのかなと少しだけ考えた。

 嬉しそうにほほ笑むゆたかに、祐輔も自然と笑みがこぼれた。

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