ダーク・ファンタジー小説

バクの食事
日時: 2017/03/24 20:20
名前: ノア

 初めまして、ノアと申します。
 小説を書くのは初めてなので、拙い文章ですが、よろしくお願いします。






 早速ですが、バクという妖怪を知っていますか?
 夢を食べる妖怪です。


 もとは中国の妖怪だそうですよ。
 

 さて、私は、少し変わり者のバクの話を綴ってみたいと思います。

 登場人物(進み具合で変更)

 バーク・ドレアム…主人公。バク。悪夢を好む変わり者。面倒くさがりやで、食事の時にしか地上に降りていかない。普段は紫色の猫の姿だが、人間の姿になると、金髪碧眼の美少年となる。

 レティ…一つ目の夢のドリーマー。大空襲で屋敷ごと両親を亡くし、今は屋敷を再建して、叔父叔母夫婦と一緒に暮らしている。大空襲の慰霊の日が近づくと、いつも悪夢にうなされるため、記憶がなくなればいいと思っている。

 師匠…バークを人間からバクに転生させた。普段は豹の姿をしている。人間の姿は東洋系美人。バク監視員を務め、下界で暮らしている。

 ヤツ…バークたちをいつも困らせているバク。

 リナ…二つ目の夢のドリーマー。ヤツの力で夢を操る力を手に入れた。ナホに嫌われるのを恐れている。

 ナホ…リナの幼馴染

 

 用語(進み具合で変更)

 ドリーマー…夢を見ている本人、その夢の主人公。
 夢の交渉…一つは、三晩の間、ドリーマーの見たい夢を見させてあげること。二つ目は、ドリーマーの消したい記憶を、夢ごと喰らい、消してあげること。










お知らせ
 2017年1月5日
 あけましておめでとうございます。
 今年の四月から、私事で恐縮ですが、小説投稿が不定期になります。9月ぐらいからは書けなくなるかもしれません。いっぺんに見たいと思う方は、来年の四月ぐらいから見ることをお勧めいたします。

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Re: バクの食事 ( No.11 )
日時: 2016/12/21 15:33
名前: ノア

「記憶を消してください」


 涙でぐしゃぐしゃになった顔で、レティはそう告げた。
 バークは、彼女の顎を右手ですっと持ち上げて、その涙をそっと拭う。

「きれいなお顔が台無しです。記憶といっても、その出来事がなしになるわけではございません。あなたが望むなら、経験として、残して差し上げましょう」

 左手を、レティの頭にかざす。すると、綺麗な陶器のような額から青い光があふれた。レティは不思議そうな顔をして、バークをきょとんとした目で見つめている。
「あ、あの」
 バークは、レティの顎を話し、目の前にレティの記憶から抜き取った小さなおもちゃのペンダントをぶら下げた。
 それは、青い水晶が金細工で囲まれた、子供にしては豪華なペンダントを模したものだった。
「こ、これは」
 レティの目が真ん丸に見開かれる。レティの記憶によると、このペンダントは、レティの母からの贈り物だ。使用人たちが火事の焼け跡から偶然見つけたものだったが、レティは母の顔を思い出したくなかったので、捨てさせた代物だった。
「バークさんに失礼ですが、それはいりません」
「しかし、これはあなたとお母さんの大切な思いで、失くしてしまってもいいのですか? これを失くしてしまっては、あなたのご両親が亡くなった知識でさえも無くなってしましますよ」
 すげなく答えるレティに、呆れ顔のバークはそういった。
「記憶なんて、知識なんていりません」
 レティは語調を強くして言った。しかし、バークはそれを笑顔で受け流し、あなたの部屋に置いておきます、といって、ペンダントを消した。
 そして、大きく腕を広げた。

「さあ、始めましょう。あなたの、つらい記憶を消す儀式を」

Re: バクの食事 ( No.12 )
日時: 2017/01/05 21:40
名前: ノア

 地面を軽くステッキでつつく。バークの足元に幾何学的な文様が現れ、複雑さを増しながらぐるぐると回りだした。
 バークはその文様の上で、調子外れなステップを踏み出した。



 タン、タン、タタタンッ、タン、タンタンタン


 
 ステップとともに文様が広がっていく。



 夢、夢、踊れ、楽しき、夢よ



 バークは手拍子も交えて楽しげに踊り出す。



 タン、パン、パパパン、パン、タタタン




 文様の中心円が広がって行き、中心から屋敷が修復されていくように綺麗になっていく。



夢、夢、我が美食、楽しき夢よ、悪しき夢よ、集まりたもう、消されうる夢



 バークの燕尾服のツバメのような裾が舞い、彼は、スケートでもするかのように床の上を滑り出す。彼のつま先の動きはちょうど焼いている途中に、目玉焼きの端をつついて大きくしていくように円を大きくしていく。
 半径五メートルほどの円が出来上がった頃。バークはレティとともに立っていた円の中心に戻ってきた。
「手を、握ってください。今から二人一緒に飛びますので。
 私が地面から離れると、この世界は一気に、空襲前の景色に戻ります。
 準備は、よろしいですね」
 今までの光景に呆然としていたレティは、いきなりバークに手を掴まれて我に返った。
 そのまま頬を染めてこくりと頷く。

「良いですね、一、二、三」

 バークが足を離した途端、シュバッと音を立てて、屋敷が修復された。レティの両親の亡骸もなくなっている。
 バークは、レティの手を握ったまま、綺麗に直った屋根をすり抜けた。
「空、ですよ」
 ぎゅっと目をつむっているレティに声を掛ける。レティは、うっすら感嘆の息をもらし、その景色に見入った。空襲前の景色。屋敷の前では、幼いレティが使用人とともに走り回っている。両親は、父の書斎の中で、その様子を優しく見守っていた。
 今日も一日、良い日でありますように、神に願い、その通りになると信じて疑わなかった幼い頃の記憶。レティは、涙を必死で堪えた。


 ウウウゥゥーーー、ウウウウウゥゥゥーーーーン。


突然の警報、しかも、最大規模の。屋敷にいる全ての人が、いや、この街にいる全ての人が、畏怖の表情で、空を見上げ、空を滑空する戦闘機を見つけ、悲鳴をあげる。
 その瞬間、大きなプロペラ音を立てて、戦闘機が低空飛行すると、真っ先に大きな家、つまり、レティの屋敷めがけて、爆弾を落とした。屋敷は炎に包まれ、幼いレティは呆然とした目で屋敷を見た。つい今し方、優しく見守ってくれていた両親が、窓辺からいなくなっている。遊んでくれていた使用人たちは、慌てふためいて、屋敷の中に入っていった。
 幼いレティの隣にいるのは、一人の女性使用人。大丈夫です、旦那様と奥様は。きっと無事です、と何度も何度もレティを抱きしめた。
 空の上のレティは、あまりにもむごい悪夢の連続で、気を失っていた。
 しかし、とバークは微笑む。僕に会った記憶も、今日二度もこの悪夢を見た記憶も、無くなってしまうのニャから、レティの状態はどうだっていいニャ。
「お母様、お父様!」
 使用人の制止も聞かず。倒れる両親の元に駆けつけるレティ。一酸化炭素を吸いすぎたのだ。もう足は動かず、レティを見て、儚げに笑う。
「レティ、早く逃げなさい。火が回るわ」
 母親が、レティに諭すように言う。父親も、それを聞いて。こくりと笑った。
 しかし、レティはいやいやを続ける。使用人たちは心を鬼にして、レティを捕まえ、無理矢理外に連れ出そうとした。
「レティ、早く、早く逃げるのよ!!!」


ズガーーンンンン!!!!!!


 調理場の方から爆発音が響き、屋敷全体が大きく揺れた。焼けてもろくなっていた天井の梁が、いきなりレティと彼女の母親めがけて降ってきた。

「レティ!!!!!」

 母親の叫び声がしたかと思うと、レティは使用人もろとも、玄関の方へ突き出されていた。落ちてきた梁の下には、か細い母の手が見えていた。使用人たちの顔は真っ蒼になり、有無を言わさず、レティを抱えて屋敷のそっとへ逃げた。
「お母様ぁぁ、お父様ぁぁ、嫌だぁ、連れてかないでぇぇ!」
 必死に拒むレティの手は、空しく宙を掴む。使用人の力強い手の中で、レティは、もう、二度と両親の顔を見れないと、子供ながらに悟った。

Re: バクの食事 ( No.13 )
日時: 2017/01/05 21:41
名前: ノア

気絶したレティの身体を、焼ける空の上に横たわらせ、頭に手をかざして、まじないを唱えると、ぽうっと、緑色の光が浮かび上がった。
 バク本来の姿に戻り、長い鼻からいっぱいに香りを吸い込む。
 美味しそうなツンとした香り、これぞまさに、悪夢。
 大口を開け、ぱくりと一呑みにすると、先ほど味わった周りの部分より、数倍濃厚で、噛みごたえのある夢が口の中に広がった。バークは身震いし、その悪夢を味わう。
 これでバークに関する記憶消去と、彼女が望んだ惨劇の記憶消去を同時に行えたのだ。
(後は、ペンダントニャ)
 美少年の姿に戻りながら、夢から離れる。
 小さく片足飛びをして屋根をすり抜け、レティのベッド脇に舞い降りる。
 ベッド脇には、小さなテーブルが置かれてあり、そこにペンダントを置いておく。
 後は、レティの考え次第で彼女の未来が変わる。
 嫌な笑みをその美麗な顔に浮かべながら、音もなく屋敷から抜け出す。
 そのままステッキをまわしながら、満足そうに白み始めた街に歩き始めた。

Re: バクの食事 ( No.14 )
日時: 2017/01/14 21:42
名前: ノア

 ゴーン、ゴーン、ゴーン。焼け残った協会の鐘が三つ続けて鳴り響き、そこにいる全員が黙って頭を下げ、目を閉じる。中にはすすり泣きをして、ハンカチで目をぬぐう者もいた。

「今日は、われらの友人、家族、仲間たちの多くがなくなった日です。祈りましょう、彼らの魂が、主によって慰められますように。」

 そう、今日はあの空襲の記念日である。




 記念式典が終わり、ぞろぞろと、民衆たちが帰っていく。その中には、あのレティの姿もあった。
「レティお嬢様、あなたのご両親も、空襲で亡くなられたのでしょう? 本当に、あの日は悲惨な日でしたわね」

 レティの隣を行く白い貴婦人が、レティにそう話しかけた。しかし、レティはキョトンとした目をして、

「私の、お父様と、お母様が、空襲で?」

 周りにいる淑女たちの目が見開かれ、全員そろって驚きの声を上げる。

「レティお嬢様、いつもいつも、この時期になるとご両親のことを夢に見るとお嘆きになられていたではございませんか」「お嬢様、お気を確かに!」「お嬢様!」


 そう、レティはあの日、起き抜けにはバークの言葉を覚えていたが、あの後、やはりいらない、と言って召使いにペンダントを捨てさせたのであった。

「私には、こんなものがなくても生きていける」

 それが、彼女の記憶に両親の死に際の記憶が残っていた時の最後の言葉だった。


「おもしろかったにゃ〜」
 そうぽつりと言い残して、バークは猫の姿に戻り、雲の上へと戻っていった。

Re: バクの食事 ( No.15 )
日時: 2017/01/14 21:48
名前: ノア

 U 師匠

 バクの産まれ方には、二種類ある。

 一つは、バク×バクの交配。

 もう一つは、賢い子が、夢に現れたバクを出し抜き、そのバクに気に入られた場合だ。気に入られなければ、強制的に夢を食べられて終わりだ。そのバクがちょっとした、掟の抵触行為を少しだけ咎められるだけだ。しかし、その抵触行為における罰というのはだいぶ面倒なものだ。

 バークは、後者の方で、バクとして第二の人生を送っている。

 一年分の食糧を蓄えたので、長ーい昼寝に入ろうと、うとうとしかけた時、にぎやかな音を立てて、師匠がやってきてしまった。

Re: バクの食事 ( No.16 )
日時: 2017/01/28 21:42
名前: ノア


「シンジ! この寝ぼけ猫!」

 大きな雑音がバークの眠りを妨げた。丁度深い眠りの中にいざなわれようとしていたのに、だ。
 バークはその雑音を無視して、再び眠ろうとした。
 しかし、その雑音の主は、バークの襟首をひっつかんで、宙ぶらりんにし、大声で叫んだ。

「起きろ! このへぼ弟子!」
「フニャアアアアアア!」

 閉じたままの目を見開いて、耳を閉じたい衝動に駆られながら、バークは必死で雑音の主から逃れた。
「起きたならいい、起きないならスカイダイビングでも楽しませてやろうと思っていたんだ」
 雑音の主が、ふん、と鼻から息を出して言った。たいそうご立腹の様だ。
「師匠、本名で呼ばれるとむず痒いです」
 バークがとりあえず、雑音の主、師匠に一つ要望を述べた。先ほど師匠が呼んだシンジという名前の少年は、十数年前に死んでいるはずだ。というか、彼自ら自殺した。その死に顔は、途轍もなく穏やかだったらしい。何を隠そう、シンジというのは、バーク本人だからである。

 先ほども述べたとおり、バクになる方法は二つだけある。バークは、その二つ目、師匠を騙して、無理やりバクに転生したのだ。

 しかも、天寿を全うするのを待ちきれず、自殺までして。

「仕事だ、またアイツがやらかした」

 しかし、運の悪いことに、師匠はバクたちを管理する管理員だったのだ。何か大ごとがあれば、弟子の手を借りに来る。
 今度も、また、寝損ねてしまうようだ。

Re: バクの食事 ( No.17 )
日時: 2017/03/19 20:00
名前: ノア

 バークが猫の姿を好むのは、のんびりとしたその動物を好むからと、師匠が豹の姿を象っているからだった。しかし、師匠は今はそんな恰好ではなく、ちゃんとした純日本人の姿を象り、いまだ猫の姿を象っているバークの首根っこをつりさげて怒っていた。
「ふん、何をしているのかと思えば、またでかい物を狩ったようだな」
「ああ、はい」
 でかいもの、というのはレティの夢の事だろう。バークは、人間の姿を象り、正座をさせられてしゅんとした。
「まあ、それを聞いてお前の手を借りに来たんだ。ヤツは私が捕まえてやる。ヤツの尻拭いをしてやれ」
 バークはそれを聞いてげんなりとした。ようするに、ただ働きをしろという事だ。
「まあ、いいですけど。その代わり、下界のツナ缶おごってくださいね」
 バークは、ツナ缶がお気に入りなのだ。
「ふん、いいだろう」
 師匠は、下界でのバクを取り締まっているので、下界での暮らしをしている。よって、下界の硬貨はいくらか持っているのだった。

「で、ターゲットは?」

 師匠は、バークのその言葉を聞いて、ふん、と鼻を鳴らし、紙を渡した。そこには、黒髪短髪の少女の顔とその子の現住所が書かれていた。
「ヤツが夢をおかしくしたために、夢に閉じこもってしまったのだ。そうとう心に悩みを抱えているそうだ。このままでは、衰弱死してしまうかもしれん。バクのせいでそのようなことになると、人間たちが騒ぎ出す。さっさと片づけてこい。お前のセールストークなら朝飯前だろう」
「わかりました」
 その言葉を待っていたかのように、師匠は豹の姿になり、何も言わずバークの前から姿を消した。
 バークは長々とため息をついて、重い腰を上げた。

Re: バクの食事 ( No.18 )
日時: 2017/03/20 19:07
名前: ノア


「君 君 君 いない 君 君 会いたい 会えない・・・」

 どこからか、ぽつりぽつりと呟く声が聞こえて来た。目のまえには、黒髪短髪が肩の上で揺れる少女リナがいた。今回の、ターゲットだ。
 
 そう、バークがいるのは、ターゲットの夢の中。途轍もない量の彼女の記憶を映したテレビ画面が、夢の世界を覆っている。
 そこには、彼女の今までの幸せな記憶と、悲しい記憶が交互に再生されていた。
 この前のレティのとは全く度合の違う悲しい記憶だった。

「リナさん、こんなところに閉じこもってないで、早く外へ出よう」
 バークが自分から話しかけながら歩み寄ると、リナが顔を上げてバークの顔を見た。可愛さは中の下といったところだろうか。目は細く、髪は癖っ毛で、少しぽっちゃりとしている。しかし、バークは近づきながら異様なものを見た。リナの前に、誰かが倒れている。
「リナさん、その子は誰だい」
「ナホ」
 バークの問いに、リナは短くそう答えた。よく見ると、リナの手には血糊がべったりとついている。

「例えば君の喉を切り裂いてしまえたら 私だけの君に… 」

 リナは、そういって、悲しそうに笑った。

「どうしてそんな事するんだい」
 そう、バークは尋ねずにはいられなかった。すると、リナはうつむいてしまった。
「ナホは、私の親友。少なくとも私はそう思ってる。けど、ナホが本当にそう思ってくれてるのか分からない。誕生日も、バレンタインデーも、祝ってはくれなかった。電話一本よこしてくれるだけでよかったのに。でも、私が電話でそんなことを話しても、ずうずうしいと思われるかもしれない。だから、どうすればいいかわからない」
 心の内を話し始めたリナの目からは、涙がぽとぽと流れていった。
 よほどつらいのだろう。

Re: バクの食事 ( No.19 )
日時: 2017/03/22 10:42
名前: ノア

 不意に世界がぐらりと揺れた。
 夢の世界ゆらゆら揺れた。泣いているリナは気付いていないようだが、夢の移り変わりが行われているのだ。夢の世界はディスプレイがそこかしこに並ぶ世界から、どこかの学校の世界になってゆく。
 どこかの教室だろうか。普通の教室の半分ぐらいしかない部屋で、机が向かい合わせで四つ並んでおり、そこには三人の人間が座っていた。三人の顔には一様に笑顔が浮かんでおり、楽しそうに話をしている。
 教室の扉の上にある札には、『生徒相談室』。
 よく見ると、椅子に座っている一人の生徒はリナのようだ。その向かいには先生らしき人が座り、隣に座っている生徒はナホだろうか。
 リナとナホそろって歌を歌っているようだ。机の上には三冊ほどノートが置かれてあり、そこには歌詞が書かれている。どうやら既存の歌詞のようだ。


 また世界が揺れた。
 次は世界が変わらず、リナが教室のドアに立ち、教室の奥にいるナホに話しかけていた。そこから何度も何度もその映像が映し出され、時々ナホが一緒に教室に行く場面があったが、ほとんどはリナだけが教室に帰っていった。時には、ナホがいないのにリナが来て、肩を落として帰る場面もあった。
「これが、中三の時の私とナホの日常」
 いきなり、バークの背後からリナが現れた。どうやら、師匠のいうヤツのおかげで、夢への干渉ができる様だ。
「楽しそうじゃないか。何が不満なの?」
「不満なんてなかったって言ったらうそになるわ。私も学校に行けなかった日はある。たぶん、ナホだけが来てた日の方が多い。私も、寂しい思いをさせたなって今になって後悔してる」
 リナの格好はいつの間にか中学の時の制服になっている。
「私の自己中心的な心では、中学校生活は嫌なものだったけど、私立高校を受験して、合格して、ほっとしてから、ナホに会う時間が、ほとんど会わない日がないような時間が、続いてほしい、そんな気持ちが芽生えていた。」
 そう言って、リナは自己嫌悪に陥ったように唇を嚙んだ。そのまま涙を一粒落として、静かに言った。
「そんなの無理だってわかってたのに」


 また世界が揺れた。
 今度はその中学の運動場だった。在校生に花道を作られて、リナたち卒業生が歩いてくる。
 リナの隣にはもちろんナホの姿があった。座っているときはわからなかったが、ナホのほうが背が高く、ほっそりとしているが、スポーツをしているのか、ガリガリではなく、スタイルがいい。
「私は、私立高校。ナホは陸上の強い高校へ行った。私は、いくら親に頼み込んでも携帯を買ってもらえなくて、メールもできない。電話しかできない。そんな私を、ナホはどう思ってるのかな。電話では普通に話せるのに、いざ遊びに行って話そうとすると、言葉が出てこないの」
 リナはそう言って、こぶしをぐっと握った。そのまましばらくして、爪が食い込んだのか、掌が血が流れてくる。
 バークはその光景を何とも言えない気分で見つめていた。

Re: バクの食事 ( No.20 )
日時: 2017/03/24 20:15
名前: ノア

「あああアアアアアアアアアアアアアア!」

 ビシャッ!

 もう、何度目だろう。バークは、その血が流れゆくさまをじっと見ていた。こんなになった人間は、落ち着くまで待たなければしょうがない。
 一人の血塗れの少女は、今自傷行為に浸っていた。ついさっきまでは、ナホを思って泣いて、枕を涙で濡らしながら、夢の中で眠りについたというのに、思い出したかのように跳ね起きると、次は、カッターナイフで自分の右手首を切り付け始めて、今まさに死んだところだ。
 むろん、夢の中ゆえに、現実で死んだりはしない。
 世界は、始めバークがリホにあった場所に戻り、そこには、いまだ死体のままのナホの姿がそこにあった。
 バークの精神は、もう限界に来ていた。
「ねぇ、そろそろ止めにしない?」
 バークは、意識が戻っているはずのリナに声をかけた。
「やめられない。この夢は私のもの。わたしは、この世界で好き勝手して、好きなだけナホと遊ぶの。受験だってどうでもいい。勉強だって、成績だって・・・」
 バークはため息をついた。長々と。
「そう、それなら、そこにずっといなよ。そこにいたって、ナホちゃんには会えない」
 リナの顔から血の気が消えた。見開いた眼でバークをにらみ、ばっと右手を振って、バークを視界から消そうとした。
「消えて!私はナホに何度だって会える。夢の世界ならね。アイツに貰ったこの力なら!」
 それを聞いて、バークは笑みを浮かべた。
「その力を使いきったら、きみはぼくらに奴隷だ。その力と引き換えに、何かしなければいけないんだろう?僕らは、そのおかげで生きているんだから」
 リナの足から、力が抜ける。口は動けど、声は出て来ない。
 しかし、バークが予想しなかった展開が起きた。
 バークの足元が揺れ、ガラスが割れるように底が抜けた。とっさのことに動けなかったバークは飛び上がることもできずに、そのまま落下していく。



「イッツショータイム!」


 と、リナの物ではない男の声が、穴の底から響いてきた。

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