ダーク・ファンタジー小説

希う闇 抗う光
日時: 2017/11/04 20:42
名前: karume@

何か無機質な物体が触れ合う硬い音
蔑むような紅い眼
今 解き放て。

〜鈴の音色〜

コツッ、コツッ、
哀れなその少女は、いつもの様に家路を辿る。
「あぁ・・・しんどっ!」
哀れなその少女は、いつもの様に独り言を漏らす
コツッ、コツッ、
哀れなその少女は、いつもの様に狭い路地を潜り、そして・・・




                            闇と化す   「今日もいらっしゃったのですね?ヴァルス様」ニタァ
どう言葉にすれば良いものか、少なくとも人間とは属さない彼は不快な笑みを少女に向ける。
「もうかれこれ四日連続ですよ?いいのですかぁ?」
「黙れ。早く通してよ、嬉しい癖に。」
「かしこまりました・・・」
あらたまった彼は、なにかぼそりと呟くと左手を恭しく振るった。途端に周囲の空気がガラリと変わり、つい数秒まで静まり返っていた住宅街は喧騒に包まれた。
「さぁ、行きましょうヴァルス様」
「ええ」
いつの間にか現れた女性二人に連れられ、《ヴァルス》と呼ばれた少女は、ついさっきまでそこには無かったはずの城へと入った。
「こちらにお着替えくださいヴァルス様」
「後で持ってきて」
「客人が来られています。通しますか?」
「門で待たせなさい、後で行くわ」
少女の周りにいっぺんに人が集まった。その一つ一つを疎ましそうに流していく。向かった先は城の最上部にある一室だった。
「いつもよりお早いですねぇ」
さっきの彼が、きらびやかな装飾の施された青い柄のナイフを差し出す
「ほっといてよ」
不機嫌なようすの少女は乱暴にナイフをひったくり、そしらぬ様子で渡された服に着替える。血液にも似たクリムソンレーキのドレスに微かな嫌悪感を覚えた。
「ほっとけませんよ、そういう契約ですから」
「...」
少女は何も言わず部屋を出る。後ろから彼も付き纏う。
「どうなさったのですか?いつもなら夕食と湯浴みが先でしたでしょう」
「何でもいいじゃない、そういう気分なのよ」
「フフフ、そうですか」
地下を思わせるほど低い天井に、ヒールの硬い足音が濁って響く。重々しい城の扉をドアマンが開く。
  ーフウッ...
締め切った城とは違う澄んだ空気が肌を撫でる。
「今日は・・・」
ぼろぼろになった紙を少女は心なしか震える手で開く。そこには大きく赤い字で【156人】と書かれていた
「嘘でしょ・・・」
少女の顔から生気が失われる。それに比例し彼の顔は恍惚としていた
「これを」
「ええ・・・」
少女は彼の手から小さな鈴を受け取る。
                        チリン・・・
鈴を鳴らすと同時に、辺りは一切の動作をしなくなった。時計の針も、太陽さえも、一寸たりとも動かない。
「さあ、始めてください?」
ナイフを片手に少女は、近くにいた男を切りつけた。ナイフは少年を傷つけることなく体をすり抜けた。その代わりに、男の口から淡い水色をした気体が少しそよいだ。
「っ・・・?!」
少女の目に一瞬血みどろになった男の姿が映ったがすぐに消えた。
「この人数に感づいて早くから御出でになさったのでしょう?先を急がなければ今宵はお返しできませんよ?」
「わかってる、わかってるわ」
少女は重い足取りで踏み出した。




狂う、狂う、緋色の子

Page:1



希う闇 抗う光 ( No.1 )
日時: 2017/05/21 10:46
名前: karume@


〜卯月 花吹雪〜


入学したての高校で少女はすでに精神の限界を感じていた。中学からのエスカレーターで入学し回りには良く知った者ばかりだったが、それが返って苦痛だった。
「おい燈城よぉ、購買行ってこいよ」
「委員長は皆にやさしくしなきゃダメだろ?」
中学まで仲の良かった女子たちに目をつけられ、行動に事細かく制限をかけられた。守ろうが破ろうが、機嫌を損ねれば容赦なく暴力が飛んでくる。何となくイライラするから、と言う理由でプールに突き落とされた事もあった。毎日が辛くてしかたがなかった。それでも何も言わず、毎日笑顔を張り付けて家に帰り、両親には、
「学校が楽しくて仕方ない、明日が待ちどうしい」
と言い続けた。
そんなある日、少女はいつもの様にふらふらと路地を歩いていた
「そこのあなた」
後ろから、ドスの聞いた声が聞こえる。自分しかいなかったはずの廃墟の並ぶ路地に、非日常的な声が響く。
「何ですか」
立ち止まらず、降り返りもしないまま返事をする。
「嫌なこと、お有りですよねぇ」
少女はふいに立ち止まる。
「・・・それがどうかしたの」
「こちらにおいでくださいませ、私めがお助け致します」
振り向いた先には頭から角を生やし、こうもりのような大きな羽を生やした男が立っていた。身長は高く、見上げるほどだった。
「えっ・・・」
「細かいことは気にしないでください、今に分かりますから」
男のいやに整った顔が微かに歪む。
「やっ・・・!」
ただなら無い雰囲気と恐怖に逃げようとしたが体はピクリとも動かなかった。
「ご安心ください?あなたが望まないのなら、すぐにお返し致しますから・・・」





何時間経っただろうか。いや、もしかしたら数分しか経っていないかもしれない。少女は体を起こした。
「ここどこ・・・?」
辺りは一面の花畑で、図鑑でも見たことの無い蝶や鳥が飛んでいた。
「目が覚めましたかヴァルス様」
「ヴァル・・ス?」
「あなたはこちらの世界ではヴァルスという名です」
「え?あぁ、そう」
少女には何が何だか分からなかった。少なくとも回りには、あの気が重くなるような廃墟も、女たちもいなかった。それで十分だった。分からないままで良いと思った。ただこの平和であろう空間を信じていたかった。
「お気に召しましたか?」
「うん、ここ素敵。すっごい綺麗」
「それは宜しゅうございます」
「もしかして私死んだ?w」
天国を思わせる様な仮想空間に笑いがこみ上げた
「いいえ?まさか」
「ふふふ、そうだよね」
久しぶりに笑った気がした。心地よい風がちゃんと心地よいと思えることに幸せを感じた。突然彼が指を弾いた。辺りは一瞬のうちに石造りの狭い部屋へと変わった。
「今からヴァルス様にはこの契約書を読んでいただきます。」
彼の手から薄茶色の紙を受け取った。
ー現世での生活を自分の想った物にする。その代償として契約の者は悪魔の勤めを果たす。ー
「勤め?」
「はい、簡単な仕事でございます。」
少女は一瞬ばかり悩んだが、すぐに首を縦に振った。
「やる。やるよ、私」
「ふふ、契約成立でございます」
大きな窓から風が吹き込み、部屋のなかに花びらを舞い込ませた。哀れな少女の目に、彼の悪どく、醜い微笑みは映らなかった・・・


「たくさん悪人の魂を祓っていただきますからね・・・」クスッ












「この人数に感づいて早くから御出でになさったのでしょう?先を急がなければ今宵はお返しできませんよ?」
「わかってる、わかってるわ」 
少女は嫌々歩み、そこにいた老婆にナイフを突き立てる。
「現世とコッチ、どっちが辛いですか?」
彼の嫌味ったらしい質問が耳を突く。





「コッチに決まってるじゃない、嘘つき」







染まる、染まる、緋色の子

Re: 希う闇 抗う光 ( No.2 )
日時: 2017/06/24 19:03
名前: karume@


〜卯月  血吹雪〜

少女は何も言わず、ただ時折悲痛な表情をしながら、回りにいる人々にナイフを突き立てる。
「あと100人ですねぇ・・・」
「・・・っ」
人を刺す度、血に塗れ苦しそうに呻く姿が目にはっきりと映る。浴びてないはずの返り血が手や顔に付着する感覚も、すり抜けたはずの肉体がナイフの刃に当たる感覚も、鮮明に神経を穿つ。あの日交わした契約。悪に満ち、地獄へと堕ちる運命となった魂を屠る作業に手を貸す事。苦しかったはずの現世での生活の何倍も残酷な一時。囚われた少女の心は少しずつ、確実に磨り減っていく。
「はあっ・・・はあっ・・・」
ふいに少女は苦しそうに胸を押さえる。
「・・・?どうなされたのですか、ヴァルス様。」
「いいえ・・・、はあっ、何でも、無い、わ・・・」
強がる少女の言動とは裏腹に、体の力は抜けていく。頭に鈍器で殴られた様な激痛が走る
「んんっ・・・!痛っ・・・、うぅっ?!」
あまりにもの痛みに少女は地面に倒れこんで身をよじる。
「やはりこんな物ですか・・・」

次第に酷くなる症状と薄れゆく意識の中で、悪魔の嫌味ったらしい声が響く








「休んだら、またおいでくださいませ・・・」ニヤァ












ピピ・・・ピピピ・・・
「ん・・・んぅ・・・」
少女は目覚まし時計の音に目を覚ます。目を擦って時計を見る。
「まだ・・・六時・・・」
ふと手に微かな痛みを感じる。目をやると、彼方此方が葉で切った様に傷ができていた。
「あ・・・」
それと同時にすべてを思い出す。 そうだ、途中で倒れてしまって・・・それで・・・帰ってきた記憶は無いが、確かにここは自分のベッドだ。それに外だっていつもみたいに・・・
「えっ・・・?」
広がってた光景に唖然とする。人、鳥、虫、そこに居るはずの生物は一匹もいない。恐ろしいまでに静かだ。ベッドから飛び降り、両親の部屋に行こうとする。着ている服は昨日のドレスのままだった。
「・・・っ?!」
得体の知れない恐怖心に駆られる。
「??」
足元に落ちていた茶色い紙に気がつく。
ーこのせかいでゆっくりお休みください。二週間後にお迎えに上がりますー

見覚えのある赤い字。あの悪魔の物だと確信する。
「・・・そんな・・・」
少女は悪魔の作り出した仮想空間に閉じ込められてしまった。
「こんなとこで落ち着ける人なんていないわよっ!」
自分の家・・・いや、自分の家にそっくりな建物を飛び出す。闇雲にはしってせめて一人でも誰かいないものかと探し回る。

「もうっ、なんなのよ・・・」
いつしかあの路地裏へとたどり着く。疲れ果てた少女はその場にへたり込む。泥だらけで、たくさん害虫が居るはずの路地は不自然に綺麗で落ち着かない。心細さに涙が頬を伝う。




ーカツッ、カツッ・・・
誰もいなかったはずの路地に足音が響く。人影が少女を覆う。
「・・・?君はだぁれ?」
「え・・・?」






迷う、迷う、緋色の子

Re: 希う闇 抗う光 ( No.3 )
日時: 2017/11/05 11:32
名前: karume@



〜皐月  金魚鉢〜

「誰?」
「・・・え?」
ついさっきまで蟻の一匹もいなかったはずの寂しい路地に現れた少年に、少女は驚嘆した。歳はおなじぐらいだろうか、背はすらっと高く、黒いパーカーを身につけている。彼は本当に日本人なのだろうか。何ら違和感の無い日本語とは裏腹に、染めたとは到底思えない美しい銀髪に、吸い込まれる様な濃紺の瞳をしていた。
「もしかして契約したの」
「あっ、えと、はい・・・あなたもですか?」
「・・・」コクッ
「そうですか・・・」
もう一度小さく頷きフッと息を吐くと、少年はどこへ行くわけでもなく塀にもたれ、黒っぽい雲が覆う空を見つめ始める。この人もあいつに騙されてコッチに来たのだろうか。そう思うと、少年のことがきになって仕方がなくなった。何か聞いてみたいが、なんて話しかければ良いか分からない。出会ってまもないのに、ここにきた理由を聞いてしまうのは少し失礼だろう。
「名前、何て言うんですか?」
少女の苦し紛れの質問に、少年は振り返ることもなく答える
「エレーティカ。アイツにはエルって呼ばれてるけど。」
「エレーティカさんですか・・・それってこっちでの名前ですよね?」
彼の出身が気になり、そう付け加えてみたが、少年は答えるどころかこっちを見る気さえ、さらさら無いように思えた。しばらく居心地の悪そうにうろうろすると、横目で少女を睨みながら口を開いた。
「エルでいいって言ったんだけど」
「あっ、すいませんエルさん」
そんなことを言われた記憶は無かったが合わせる。
「・・・で?」
「え?」
「お前の名前聞いてんだけど」
「あっ、ヴァルスっていいます」
「あっそ」
ぶっきらぼうに返事をしたまま、少年はまた口を閉じてしまう。少しイラつかせてしまったかと顔を窺ってみるが、良く考えると自分もだいぶ失礼な扱いをされていると思い、塀に体を委ねる。もう一度少年のほうへ視線をやる。捲ったパーカーの袖から覗く腕は、筋肉質でこそあったが、もう何年も日光に当たっていないかと思うほど異常に白い。それに、此処に来て間もないのだとしたらもっと狼狽えたりしても良いはずなのに、さっきからずっと冷静だ。もしかしたら慣れているのかもしれない、だとすればこの世界の事を何か知っているはずだ。
「こっちに来て長いんですか?」
一抹の期待を胸に少女は問いかける
少年は何か我に返ったように一瞬目を見開き、少女の方へ向き直った。
「俺は17の時にこっちに来てから、13年間ずっとこの姿。本当ならもういいおっさんなんだけど、あいつ、死なれたらもったいないって、途中からこっちの世界に閉じ込めて、成長も止めて。」
「え・・・?!」
「普段は城で生活してるけど、たまに体が耐えきれなくなって、そしたらこっちの何もないところで決まって二週間休暇をくれる。お前もそれで来たんだろ」
少女は絶句した。絶望した。落胆した。自分もいつかは彼のように閉じ込められ、奴隷のように働かされるのだろうか。現実を操作するなんてなかば自分勝手な契約をしてしまったが為に、自ら現実を棒に振ってしまったのだろうか。ここにくるはめになったのは虐めてきたあのクラスメイトのせいなのではないか。いっそ、死んでしまった方が楽なのではないか。様々な思いがめぐった。狂いそうだった。いや、もう狂っているのかもしれない。少年・・・いや、男は申し訳なさそうに口を開いた。
「昨日、こんな手紙がアイツから届いたんだ。」
差し出された古紙を震える手で恐る恐る開く。
ーーーエルさんに素敵な仲間がいらっしゃいますよ?
         この方が奴隷になってしまわないよう、せいぜい精進して下さいませ・・・ーーー







「俺、頑張るから」












ここまで生気のない微笑みを、誰が見たことがあるだろうか・・・














〜堕ちる 堕ちる   緋色の子〜

Page:1



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