ダーク・ファンタジー小説

ショタくんの反撃!【完結】
日時: 2019/01/05 23:01
名前: 立花 ◆FaxflHSkao




 可愛くて、可愛すぎて、あの頃天使だったショタくんは、
 成長した姿で言うのです。「もう、俺は子供じゃない!」と。










「 お客様 」


 すーぱーうるとらすぺしゃるさんくす!!!!!!!!!!!!!!(意味不明)
 コメントありがとうございます。励みになります。
 読んでくださる皆様もありがとうございます。もしよろしければ、もう暫くお付き合いくださいませ。

■電波 様
□小夜 鳴子 様






藍色の宝石 【中編集】/5作品目

(1作品目)優しい蝉が死んだ夏 >>003
(2作品目) 深青ちゃんは憂鬱だ。 >>029

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6-1 ( No.17 )
日時: 2017/08/10 17:15
名前: 立花 ◆FaxflHSkao
参照: 遠野風子の決別

 煙草もビールもやめろと言われた。
 最後にマキと会ったのは二ヶ月前。御門くんと結婚するらしい風子の姉は、それっきり連絡してくることはなかった。結婚式に招待されたらどうしよう、と考えながら風子はお腹をさすった。

「ね。どうしよう」

 好きな人は変わらず御門くん。愛しているのも御門くん。だけど、お腹に宿った新しい命の父親は御門くんじゃなかった。

「風子は御門くんじゃなきゃ、ダメなのに」

 最愛の人は、マキにとられた。一番大好きで大嫌いなお姉ちゃんにとられてしまった。
 風子はマキのことを少しだけ恨みながら、空っぽの部屋で寝転んだ。




「え。待って、風子ちゃんって今何歳だっけ?」

 店員が来て注文を聞かれた。御門くんがアイスコーヒーを頼むのは、いつもの癖なのだろうか。流れで風子もメロンソーダを頼んだ。
 もう四年くらいの付き合いになるけれど、初めてデートに誘った。きっと向こうはデートなんて一ミリも思ってないだろうけど。

「十九歳ですよ。御門くんの一個下でした、後輩でしたー」

 信じたくなかったんだろう。
 御門くんの挙動不審な様子に笑いをこらえきれなくなって、風子は口角を上げた。

「それって、もうマキに言ったの?」
「ううん。今日初めて御門くんに言った」

 なんで一番に言うのが俺なんだ、とぽつりと不満を漏らして御門くんは頭をかいた。好きな人だからだよ、と答えたかったけれどこの状況じゃ絶対に言えない。

「今何周目?」
「五周目」

 淡々と言葉を交わしていく。
 二十分後には御門くんのアイスコーヒーはもう空だった。風子のメロンソーダも氷が溶けて薄くなっている。

「相手は?」
「誰だと思います?」

 逆に質問してみたけど、御門くんは分からないと短く答えただけだった。

「御門くんだったらよかったのに」
「ん、何か言った?」
「ううん。なんでもないよ」

 聞こえないくらいの小さな声で呟いて、御門くんを見た。
 御門くんがマキのことしか見えてないって、そんなの最初から分かっていたじゃないか。
 だから風子がキスをした相手もエッチをした相手も、御門くんじゃない。いちばん自分がわかっている。

 御門くんと出会うきっかけになった、明るい地毛はもう染めた。バッサリ短く切って、御門くんのことを忘れようとした。それでも大好きだった。忘れることなんてできなかった。

「風子がお母さんになるとか、マキには死んでも言えないよ」

 妊娠した。相手は誰なのか見当がつかない。それも自業自得だ、風子が自暴自棄になったのが悪い。
 でも、マキだったらなんて言うだろう。優しいから一緒に育てようとかほざくかもしれない。
 その優しさが風子を傷つけているということにマキは一生気づかないだろう。マキは無意識に人を傷つける天才だから、きっと風子も傷つけられる。


 人の感情をいつも簡単に抉る。それも大事な奥の、深いところを。


6-2 ( No.18 )
日時: 2017/08/11 21:52
名前: 立花 ◆FaxflHSkao

 御門くんに連れられて来たのは市民病院だった。風子のお母さんが入院していた病院で、小さい頃の風子はこの場所が嫌いだった。病気に蝕まれていくお母さんが可哀想で、痛がっているお母さんを救ってくれない病院の人たちが悪魔に思えた。

「ここ」

 ネームプレートの名前を見て、風子は声が出なかった。御門くんがガラッと扉をあけてこちらを見る。今まで言えなくてごめんね、と御門くんは小さな声で謝った。

「あ、やっほー。風子」

 右手の手のひらをヒラヒラ振りながら、マキは笑ってる。点滴の管に繋がれて、起き上がるのもやっとみたいなのに、表情だけは明るい。でも風子はすぐわかる、四年も一緒にいたのだから。
 無理やり笑った顔だって、すぐに気づいた。

「何がやっほー、なの」
「え、だって風子がわたしに会いに来てくれるなんて嬉しいじゃん」
「それくらい、いつでも……」

 お母さんが死んだ光景がフラッシュバックして、一瞬吐き気がした。口元を押さえて地面を見る。マキの顔を見たくなかった。

「いつでも、くるよ」

 入院してるって、どうして教えてくれなかったんだろう。毎日のように鬱陶しいメールを送って来てたのがパタリと止んだのは、このせいなのだろうか。
 どうして一番大事って言ってた風子に教えてくれなかったんだろう。

 結局一番大事なのは、御門くんのくせに。

「そんな顔しないでよ」

 そんな顔ってどんな顔?
 風子の今の表情が、おかしいっていうの?

「マキ、あのね」

 二ヶ月も連絡せずに、ようやく会おうと思ったきっかけはきっとこれだ。
 風子はマキのことをよく知っていると自負している。だってマキのことが世界で一番大嫌いだから。
 あの日、あの夏の日、飛び降りたあとマキに言われた言葉を思い出す。
 「風子が世界で一番大事」嘘だ。嘘だよ。

 だって、風子のこと思うなら、それなら。

「死なないよね、マキ」

 ボロボロと無意識にこぼれていく涙に心は追いつかなかった。この光景は見たことある。何度もなんども、苦しみながら生きたいと思いながら、それでも近づいてくる「死」と言う恐怖。

「言えなくて、ごめんね」


 そっと風子の頭を撫でて、優しい顔でマキは笑った。
 風子はマキのことなら何でも知っている。だって、マキのことをずっと、


 風子を救ってくれるヒーローだって思ってたから。


◇ 槙野つくも、御門雪無 20歳
 遠野風子 19歳

7 ( No.19 )
日時: 2017/08/22 21:03
名前: 立花 ◆FaxflHSkao
参照: 槙野つくもの悪戯

 やりたいことは全部やった。
 願いごとは、子供の望むことのような単純なものだった。

「御門、もういいや。ありがとう」

 毎日空の写真を撮る。晴れの日も雨の日も、台風がきたとしても毎日毎日写真を撮る。その日しか切り取れない空を、アルバムに綴った。

 わたしが入院すると決めた時に、御門は何も言わずに一枚の紙を出した。

「……ごめん。忘れてた」
「うん、大丈夫。しよう、結婚」
「そう、だね」

 死ぬって分かってるくせに、未亡人になりたがる御門。未亡人は女性の場合なんだっけ、と昔やった御門とのやりとりを思い出して少し笑った。

「好きな人と幸せになるって、罪悪感はんぱないね」
「俺も罪悪感でいっぱい。マキと同じくらい」

 入院の手続きと同じタイミングで役所に行って婚姻届を出した。お幸せにと声をかけられたけれど、これから幸せになるための結婚じゃない場合どう答えたらよかったんだろう。ありがとうございます、と笑顔を作って御門が答えてたのに胸が痛くなった。

 この結婚は、御門がわたしのことを忘れないための呪いだと思う。
 ずっとずっと一緒に居られるわけないから。だから、するんだ。どうしようもなくバカだ、わたしたち。



「ずっとずっと好きでいてなんて言わないから」

 八月の真ん中。
御門の誕生日にアルバムを渡した。空の写真集と名付けたそのアルバムを見た御門はただ一言、大事にすると笑った。

「わたしがいなくなったら、他の誰かと幸せになってね」


 これで、御門に忘れられることはない。御門の唯一になったわたし、ズルをして手に入れた幸せ。可哀想じゃない、わたしは可哀想じゃないんだ。


「ごめんね……ごめんね……」


 どうか神様、もう少しだけ時間をください。
御門ともう少しだけ、もう少しだけ、一緒にいたいんです。

 ほら、叶わない願いごとばっか。





「そっか。妊娠したんだ、おめでとう」

 わたしが風子に笑いかけると、風子はくしゃくしゃの顔で笑った。罪悪感はなかった。

「酷いや。風子がどんな気持ちでマキに報告したのか、ちゃんとわかってる?」

 ごめん、わかんないや。
御門は持ってきたフルーツバスケットからリンゴを取り出してするする剥いていく。対面した風子だけが泣きそうな顔で声を荒げた。

「御門はあげないよ」

 リンゴを剥き終わった御門が透明の小皿に乗せてわたしの前の机に置いた。
 御門が話を聞いてるのかはよくわからない。何も反応せず、ただわたしの隣に座っている。


「紅茶でも入れるね」

 ゆっくりと体を起こしてわたしは部屋を出た。
 風子はわたしのことをどう思ってるんだろう。コップに湯を入れながら、そんなどうでもいいことを考えた。どうせ、最低な姉だという印象は変わらないだろうに。
 コップを三つお盆の上に置いて、一つのコップに魔法をかけた。風子がわたしのことをずっと覚えてくれていますように。

 病室に戻った。うまく笑顔は作れているだろうか。うまく、君の前から姿を消せるだろうか。
 考えるだけで胸がいっぱいになった。そんな、夏の最後の意地悪。



◇ 槙野つくも 20歳、御門雪無 21歳
 遠野風子 19歳

8-1 ( No.20 )
日時: 2017/08/22 21:15
名前: 立花 ◆FaxflHSkao
参照: 御門雪無の啼泣

 好きな人が呆気なく死んだ。蝉がうるさい夏のある日のことだった。水を飲みたいと譫言のように呟いた彼女のために自動販売機に行ったのが間違いだったのだろうか。俺が病室を出たほんの三分の間に彼女は息を引き取った。タイミングはバッチリ、まるで俺に死を看取られたくなかったかのように、彼女は永遠の眠りについた。

「最低だよ、つくも」

 葬式でぼそりと俺は呟いた。隣にいた風子ちゃんが青い顔でこちらを見た。顔は泣き腫らしたのか真っ赤で、ちょっとつついたらまた泣き出しそうな表情だった。

「なんでもないよ」

 つくも、槙野つくも。彼女の名前を生前俺は呼んだことがない。たったの一度も、俺は「つくも」と呼んだことがないのだ。
 彼女自身、名前で呼ばれることを嫌っていた。それでも、あんなに自分の名前に拒否反応を表すのはきっと、何か理由があったんだと思う。

「死んだんだな、マキ」

 俺の愛しい恋人、俺の愛しい奥さん。呆気なく秋を迎える前に死んだ。
 最後にとんでもないことをしでかして、死んだ。きっと最後の復讐だったのだと思う。今までの人生の復讐、自分の「経験するはずだった幸せ」を壊された彼女の唯一の、怒りだった。

「ねぇ、御門くん」
「どうしたの」

 焼かれるマキを待っている時に、ふと隣にいた風子ちゃんが呟いた。

「これがマキの望む未来だったんなら、風子は受け入れなくちゃならないのかな」

 お腹をさすりながら、目の縁に涙をためて風子ちゃんは言った。
 骨だけになったマキを見ながら、俺は返答に少し悩んだ。マキのやったことが正解だとは思わない。それでも、彼女の復讐を知っていたとしても、俺が止めることはできなかった気がする。

「俺さ、ずっと思ってた。もしかしたらマキは風子ちゃんのことが好きなのかもしれないって」
「……え?」
「いろんな意味でさ、マキは風子ちゃんに依存してたし。ずっとずっとマキは君に罪悪感を持ってた」


 だけど、それは間違いだったんだってマキが死んだ今わかったよ。


「でも、逆だった。本当はマキは死ぬほど君のこと嫌いだったんだね」


 死んだのは二人。一人は槙野つくも、もう一人は彼女が殺した新しい命。
 優しかった彼女は、いとも簡単に殺人犯になった。まるで幼い頃にいとも簡単に殺していた蝉を仕留めるように、音もなく。

 彼女の残した最後の手紙に書かれていたあの悲鳴を、風子ちゃんはどう受け取ったのだろう。小さくなったマキを抱きしめながら、俺は鼻をすすった。

8-2 ( No.21 )
日時: 2017/08/18 09:13
名前: 立花 ◆FaxflHSkao

 マキの最後の復讐は、結果的には成功した。だけど、本当にそれが彼女が望んでいた結果かどうかは誰にも分からない。
 ただ一つ、風子ちゃんのお腹の子が死んだのは、彼女が紅茶に混ぜた薬が原因ということ。それを知っているのは俺と風子ちゃんの二人だけということ。

「美夜子さんには、言わないの?」

 流産したと風子ちゃんが俺に電話してきた日、俺は安直な質問をしてしまった。

『言わないですよ。だってこれが、きっとマキの最後の復讐だったと思うから』

 電話越しに聞こえる泣いた後あとの独特の掠れ声に、ごくんと唾を飲み込んだ。風子ちゃんにとって、いや母親にとって、娘を殺されるということは人生で一番悲しいことに違いない。

「マキのこと、恨んだりしないの?」
『しませんよ。これが結果です。風子が今まで無自覚でマキを傷つけてきた結果』

 風子ちゃんのことを大事に大事に、妹のように可愛がっていた。俺が知ってたマキは偽物だったのだろうか。
 心の奥深く、彼女の真っ黒な部分では風子ちゃんのことを殺したいほどに嫌ってたのだろうか。

 電話を置いて、俺はベッドに寝転んだ。当たり前のように隣にいたマキはもうどこにもいない。俺の隣で幸せそうな寝顔を見せることはない。そろそろ、マキが「いない」現実を受け入れなければならないのに……自然と溢れた涙を服の袖で拭って少し笑った。
 いなくなるなんて、わかってたはずなんだけどな。


「そういや、マキが最後にあれくれたんだよな」

 空の写真集。彼女はそのアルバムをそう呼んでいた。中はまだ見ないでね、と笑いながら言っていた俺の誕生日、きっと「わたしが死んでから見てね」という意味だと思い、俺は一度もそのアルバムの中は見ていない。

 だけど、もう彼女はいない。
 自然とページをめくる手が動く。



「御門 雪無 さまへ」



 たくさんの空の写真に、その空を見た日の短い日記が添えられていた「空の写真集」。その最後のページ、俺の誕生日の日の朝焼けの空の写真とともに一通の便箋がはさまっていた。

 俺の下の名前覚えてたんだ。と、何でかそれで笑ってしまった。
 そういや俺もマキの名前を呼んだことなかったけれど、マキも俺の名前を呼んだことなかったな。


「御門へ



 御門がこの手紙を読んでるのはきっと、わたしが死んだ後だと思います。御門は変なとこでバカ真面目だから、きっとわたしとの約束を守ってくれたんだよね。ありがとう。

 空の写真集、どうでしたか。御門に買ってもらっためちゃんこ高いカメラで撮った写真だから、やっぱ綺麗に撮れてたでしょう?
 特に、最後に撮った御門の誕生日の日の朝焼けは綺麗でした。何でかわかんないけど、涙が出てきたの。これが感動したってことなのかなって思った」


 マキの文字だ。少し角ばった漢字と、それとは対照的な丸字のひらがな。
 懐かしくて、辛くて、暖かくて、憎い。
 もう、この世にはいない人間の残した文字。

 マキがこの手紙を残したのにはきっと意味があるのだろう。俺はベッドからゆっくり体を起こし、二枚目の手紙の文字を目で追った。
 それは、彼女の罪の告白から始まった。


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