ダーク・ファンタジー小説

ただ、日常を綴る。
日時: 2019/03/14 22:03
名前: 立花 ◆FaxflHSkao



 可愛くて、可愛すぎて、あの頃天使だったショタくんは、
 成長した姿で言うのです。「もう、俺は子供じゃない!」と。










「 お客様 」


 すーぱーうるとらすぺしゃるさんくす!!!!!!!!!!!!!!(意味不明)
 コメントありがとうございます。励みになります。
 読んでくださる皆様もありがとうございます。もしよろしければ、もう暫くお付き合いくださいませ。

■電波 様
□小夜 鳴子 様






藍色の宝石 【中編集】/5作品目

(1作品目)優しい蝉が死んだ夏 >>003
(2作品目) 深青ちゃんは憂鬱だ。 >>029

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2-1 ( No.8 )
日時: 2017/08/21 19:08
名前: 立花 ◆FaxflHSkao
参照: 遠野風子の初恋


 マキと初めて会ったのは高校一年の春だった。
 十五歳だった風子はその年の春、初めて人を好きになった。その人の恋人がマキだった。

 入学式の日、お父さんが仕事で来られないと急に連絡があった。代わりに来た新しいお母さんはあんまり好きなタイプじゃない。にっこり笑って風子に手を振る。気持ち悪いと心の中で毒づいた。
 お父さんがそいつと結婚したのは、きっと風子のためだ。外見は若く綺麗なお母さん。でも中身は一度娘を捨てた残酷な女。お父さんは知っていながら結婚した。風子に「お母さん」が必要だと、結局自分勝手にそう決めつけて。

「最悪だ」

 体育館の裏にある自動販売機の前のベンチに座って、さっき買った春限定のミックスジュースを飲んだ。もうあと数分で入学式が始まる。
 ついさっきまで、変な女子生徒たちに絡まれていた。多分先輩だろう。風子の明るい地毛を染めてるとでも思ったのだろうか。調子のんなとかありえないとか好き勝手言ってどっかに行ってしまった。結局ここが体育館裏ということはわかったけど、こっからどう行けば会場に着くのかがわからない。

「どうしたの、きみ、新入生だよね」

 後ろから軽くポンと背中を叩かれた。振り返ると一人の少年がこちらを不思議そうに見ている。
 その言い方からして、先輩だ。こんなとこでサボってたらそりゃ声かけられるわ、と風子が立ち上がろうとすると、その人はにっこり笑って言った。

「もしかして迷っちゃった? 俺と一緒に行く?」

 まるで子供に優しく声をかけているみたく風子に手を差し伸べたその人は、笑顔を崩すことなく風子を入学式の会場に連れて行った。

「これから、どうぞよろしく」

 その人は名前も名乗らず、風子の胸元に花をつけて背中をポンと押した。式の途中から入った風子を変な目で見る人は多かったけれど、後ろからその人が見守っててくれてるみたいでなんだか安心した。

 あとで知ったのは、その人の名前が「御門」という二年の先輩だということ。生徒会の人で、その日はお手伝いで学校に来てたということ。
 何故か今回のことが運命のように感じられた。入学式に出ることを諦めてたのに、御門先輩のおかげで参加することができた。あのあとお母さんには怒られたけど、そんなのどうでもよかった。御門先輩のことで頭がいっぱいになる。

 これが恋か。

 気づいた瞬間風子の顔は真っ赤に火照っていた。あつい、あつい。
 次の日、また同じベンチで同じミックスジュースを買って飲んだ。そしたら御門先輩に会えると思えた。
 また会いたい。御門先輩に会いたい。

「どうやったら会えるかな」

 飲み干して、紙パックを潰してゴミ箱に捨てた。教室に帰りながら、眩しい太陽を睨みつけて風子は大きなため息をついた。




2-2 ( No.9 )
日時: 2017/08/21 19:31
名前: 立花 ◆FaxflHSkao


 五月になって御門先輩と同じ生徒会に入った。御門先輩は風子のことを覚えてくれているみたいで、いつも優しく声をかけてくれた。

「風子ちゃん」

 名前を呼ばれるたびにドキドキして、期待した。だけど、同じ生徒会の先輩に御門先輩に恋人がいると聞いたとき、風子は深い底の見えない穴に突き落とされたような感覚に陥った。

「御門先輩、に彼女いるんですか?」
「うん、そうだよ。まぁあれだけかっこよきゃいるよね、彼女の一人や二人」

 短いスカートで唇が少し赤かったその先輩はケラケラと風子を小馬鹿にしたみたく笑った。きっと無駄な片思い、と言いたいのだろう。

「同じ学年の槙野っていう女子生徒。お似合いのカップルだよー、誰もつけいる隙なんてない」

 言い切ったその先輩はすぐに生徒会室から出ていった。残っているのは風子だけ。力が抜けてソファーにへたりこむ。やっぱり、風子の恋は叶わないのだろうか。あの先輩が言うように諦めた方がいいのだろうか。
 冷たいソファーの上で、体育座りをして縮こまる。体だけ大きくなっても、こういうところで小心者な自分が嫌いだ。

 いっそ、告白して玉砕すれば諦められるかも。

 家に帰って、新しい母親に「こんな時間まで何やってたの」と言われ腕を掴まれた。まだ六時だというのに、鬱陶しい。
 なんでもいいでしょ、とその腕を払うと「心配なの! 風子ちゃんのことが!」と大声をあげて挙句泣き出した。出張で帰ってこないお父さんを恨みながら、風子がこの女をあやす。
 いい子じゃないと、理想の子じゃないと、きっとこの女は子供を愛せない。欲しいのは自分の思い通りになる人形でしょ、と言ったところでどうにもならないのはわかっていた。
 この女に捨てられた実の娘に同情する。こんな頭のおかしい女の子供ってだけで本当不憫だ。

「お母さんはね、風子ちゃんが心配なの」

 繰り返しいう言葉は、きっと建前だ。本当に心配してるのは風子のことじゃない。風子が施設に奪われたとして、責められるのが自分だという現実が怖いのだ。
 吐き気がして風子はご飯を食べずに部屋に引きこもった。制服を脱いでゆっくり呼吸をする。見えたハサミで自分の喉を潰したい。ぼたぼたと落ちる赤黒い血液を想像して、風子の口角が自然と上がった。

「死ぬ前に、やっぱり御門先輩に告白しなきゃな」

 もうすぐ梅雨の季節がやってくる。きっと今年もすぐにあの暑苦しい夏がやってくるのだろう。そして夏の化け物であるあの蝉たちが大声で合唱を始めるのだろう。
 ああ、嫌だな。
 教科書を地面に散らかして踏み潰す。びりっと破れた音に快感を覚えた。自分が少しおかしいということはずっと前から気づいている。

2-3 ( No.10 )
日時: 2017/08/21 19:36
名前: 立花 ◆FaxflHSkao


「ごめん風子ちゃん。俺、付き合っている人がいて」

 告白は玉砕だった。そりゃそうだ、御門先輩には彼女がいるのだから。
 体育館裏に呼び出して告白、というシュチュエーションに憧れがあって先輩を呼び出した。結局返事はノーだったけれど、言えただけ良かった気がする。
 六月が来て、梅雨の季節に入った。でも、今日はそれを感じさせないほど、気持ちよくカラッと晴れていた。御門先輩がいなくなった体育館裏に風子は一人突っ立ったまま、太陽の光をガンガンに浴びる。夏の気配を感じた。

「先輩の彼女ってどんな人だろう」

 最初はどうでも良かった。だけど、振られて何故かそれが無性に気になった。
 だからちょっとだけ、みてみようと思った。お似合いのカップルと言われる彼女を。
 風子の知っていることは、その人が御門先輩と同じ学年の二年生で、槙野という苗字の先輩だということ。
 いろんな人に聞きまくって、その槙野っていう先輩の教室を覗きに行った。
 風子の目に映ったのは、とても綺麗な女の人が御門先輩と楽しそうにお話している様子だった。胸がざわざわして、何だか嫌な感じがした。風子が嫌な女になっていってる気がした。

「あれっ、風子ちゃんじゃん。もしかして俺に用かな?」

 御門先輩が風子を見つけて声をかけて来た。振った相手にも優しくしてくれる、そんな先輩がやっぱり好きで大好きで。

「えっと、あのっ」

 上手く言葉が出てこなくてパニクっていると、その人が風子に声をかけて来た。
 それが風子にとマキの初めての会話だった。

「この子、御門の後輩?」

 風子をじっと見つめたその人は、何故かすごく青ざめた顔をして前髪をいじった。御門先輩がそうだよ、と肯定したあとも風子を見る目はおかしかった。その違和感には御門先輩も気づいたみたいだ。どうしたの、と尋ねる。

「風子ちゃんだよね、遠野風子ちゃん」

 その人が呼んだ名前はまさしく風子の名前だった。初めて会うはずの風子のことを知っているなんて、よほど彼女が物知りなのか、風子が有名人なのか。

「そう、ですけど。先輩、風子のこと知ってるんですか?」

 尋ねたあと、槙野つくもは譫言のように何回も何回もごめんなさいを繰り返して、風子の顔を見て泣き出した。異様な光景だった。
 槙野つくものクラスメイトたちがギョッとした顔でこちらを見ている。風子は今すぐにもここから出て行きたかった。気持ち悪い空間だった。

「お母さん、元気?」

 槙野つくものその言葉ですぐに気づいた。突然泣き出した理由も分かった気がした。
 お母さんが捨てた娘というのは、きっとこの人だ。号泣する槙野つくもを見て、何が泣くほど辛いことなのかを風子は察した。

「風子がお母さんに殺されたら、槙野先輩のせいにしていい?」

 不意に出て来たのは槙野つくもを責める言葉だった。
 何故か、すごく傷つけたいという衝動が芽生えて来た。御門先輩の彼女ということではないけれど。

 あぁ多分、罪悪感で死にそうなんだろうな、と風子は少しだけ槙野つくもに同情した。


◇槙野つくも、御門雪無 高2
 遠野風子 高1

3 ( No.11 )
日時: 2017/08/21 20:07
名前: 立花 ◆FaxflHSkao
参照: 槙野つくもの幸福

「御門の両親はなんて言ってるの。結婚の話」
「うーん、好きにしろって感じかな。もうあの人たちは俺に興味なんてないから」

 御門の自虐は久しぶりに聞いた。それを言わせているのが自分だと気づきたくなくて、わたしは無理やり笑顔を作る。
 近くにあったぶさかわ猫のぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。一年以上前にゲームセンターのUFOキャッチャーで御門にとってもらったぬいぐるみ。まだここにいてくれたんだ。無性にそれが嬉しかった。
 ベッドから起き上がって御門の隣にちょこんと座る。一ヶ月ぶりの彼の隣は何だか安心した。

「それより、プロポーズの返事。聞きたいんだけど?」

 御門がわたしの方に向き直って言った。正座の上に握りこぶしがちょんと乗ってる。真面目な話をする時の御門はいつもそうだ。そういや高二の夏の時もこうだった。

「返事って。わたしが「結婚しよう」って言えば全部解決する話?」
「そうじゃない。言ったじゃん、昨日。俺は最期までマキのそばにいたいんだ。だから、お願いだからこの先も俺のそばにいてくれよ」

 震える声で、泣きそうな声で、絞り出した御門の言葉に胸が痛くなった。

「わたしは死ぬんだよ。御門、未亡人になっちゃうじゃん」
「それは女の場合な。って今、わざと間違って話逸らしただろう」
「あ。ばれた?」

 ヘラヘラ笑うわたしを御門は怒らなかった。きっとどうすれば正解なのかわたしが決めあぐねているのに気づいてるんだろう。正座した足が痺れてきて、わたしはゆっくり足を崩した。

「風子と結婚すれば御門は……」
「それ、何回言うの?」

 御門がわたしの腕を掴んでぎゅっと顔を近づけた。

「俺が好きなのはマキだよ。俺が愛してるのはマキ、ただ一人なんだって」

 わたしと同じ二十歳のくせに、わたしなんかにはとても言えない言葉をさらりと言ってしまう。御門はずるい。ずるいや。
 恥ずかしい言葉をいとも簡単に言ってのけて、そのくせに後になって赤面する。恥ずかしいのはこっちだよ。
 御門の大きな手のひらが頬に触れる。あったかいその手にもっともっと触れられていたい。
死ぬときまで、その手に。

「うん。ごめん」

 上手く言えなくてごめん。
 ゆっくり顔を近づけて、御門の唇に重ねた。

「わたしも愛してる。御門が大好き」

 ごめんね、あと何ヶ月生きられるかすらわからない。明日死ぬかもしれないし、今突然倒れて死んじゃうかもしれない。
 それなのに、わたしに好きって言ってくれてありがとう。一緒にいてくれるって言ってくれて嬉しかった。

「わたし、御門のお嫁さんになりたい」

 わたしが死んだあとのことを考えるのはもうやめた。いま、幸せになることだけを考えよう。
 これが最後の告白だ。最期まで君と一緒に笑っていよう。約束だよ。


◇槙野つくも、御門雪無 20歳

4-1 ( No.12 )
日時: 2017/08/21 20:11
名前: 立花 ◆FaxflHSkao
参照: 御門雪無の後悔


「そんなにいい子で疲れない?」

 上から降って着た声の主は、黒いパーカーに短パンの小柄な少年だった。笑っていたはずの口角が引きつったまま動かない。睨みつけるようなその少年の視線に自分が愚かだと気付かされた。

「理想の息子を演じるのって絶対疲れるよ。早く諦めた方がいい」

 塀の上に上ったその少年は、勢いをつけてこちらに飛び降りてきた。
 小学生だろうか。汚れたスニーカーに鋭い瞳。記憶に残るには十分すぎるほど綺麗な顔。

「なんで君にそんなこと言われなきゃいけねーんだよ」
「あ。ごめん、関係ない人間が余計なこと言った。気にしなくていいよ、ちょっと同情しただけ」

 少年の言葉が一つ一つ、俺の胸に刺さる。

「君、名前は?」

 あとで知ったのだけれど、その子は施設児童だった。親がいない子供だそうだ。

「わたし? わたしはマキ」

 またあとで知ったのだけど、その子は少年ではなく、少女、だった。





「あの時のマキは本当に男みたいだった」

 そう言うとマキは頬をリスみたいにぷっくり膨らませて眉をあげた。

「いつの話をしてるの。めっちゃ昔じゃん、会ったばっかの時はわたし、中学一年生だよ?」
「中一の割には、態度デカかったなーマキ」
「うるさい。同い年なんだから態度でかかろうが関係ないじゃん」

 スカートをはいたあの時の少年が、俺のすねを勢いよく蹴る。高校が同じになってから、マキの機嫌がすこぶる悪い。多分、俺がこの前に告白したからだろう。

「マキ、なんで怒ってんの?」
「御門がわたしに好きとか変なこと言うから」

 変なことじゃないじゃん。心の中で反抗するものの、声には出さない。きっとマキに言ったら、もっと機嫌が悪くなるから。
 窓から外を見つめるマキは、俺の方なんか全然見ずに適当に相槌を打つ。俺の恋愛感情を偽物だと勝手に否定する。

「好きだよ。マキ」
「そんなの嘘だ。勘違いだ」

 風で彼女の髪がふわりと靡いた。あの時の男の短い髪がここまで伸びたかと思うと、それだけ年月が経ったんだなと思いしらされる。



『ふーん。でも、御門は御門でしょ。お兄さんと同じになる必要はないと思うけど』



 あの時、自分の中で一番葛藤していた感情を、いともあっさり壊された。
 マキは俺の悩んでることは馬鹿らしいほどちっぽけなことだと教えてくれた。
 俺を救ってくれたマキに、ただ純粋に恋をした。

「好きなんだ。マキ」

 高一の春、君に好きと伝えた。出会いから、三年。一度も君は自分のことを語ってくれない。


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