シリアス・ダーク小説

ロベルト大統領の日常
日時: 2018/06/15 13:47
名前: matsu (ID: Ryt8vfyf)

1993年、事態は急変した。札幌に遠征に行く途中に、高速道路の玉突き事故により、突如穏健な時間が、一瞬にして地獄に変わってしまった。気がつくと、辺りは血の海だった。
事故を起こしたのは、2台前を走っていた大型トラックだ。後になって知るのだが、運転手は酒を飲み、大いに酔っていたらしい。それも仕事を先月辞め、万引きを繰り返していた。精神状態も錯乱していた最中での事故だった。トラックは横転、すぐ前にいた車がトラックに衝突、そして俺たちが乗っていた車も、その車に衝突した。
5人中3人、意識不明の重体。病人の待合室で運転をしていた3人のうち一人の父親と一緒に待っていた。まさか、こんなことが自分の身に降りかかるなんて、とまだ現実を受け容れられていなかったが、重い顔をしながら待合室に現れた医師の言葉が、これは現実なのだと受け止めなければならない悲劇だと痛感した。
「全員死亡しました」
それからのことは、どうやって家に帰ったのかとか、よく覚えていない。


桜が散るころ、卒業式を間近に控えた3年生たちは、至って普通の日常を送っていた。もちろん中には悲しさを表に出す者もいたかもしれない。平静をよそっているが、実は内心一日一日を大切に過ごしていた者もいただろう。それほどに、この時期は何故か前向きな気持ちと後ろ向きな気持ちが交錯する瞬間だ。俺もその中の一人だった。もうすぐ、この見慣れた校舎には来なくなり、別の場所で新たな生活をスタートさせる。中学生も最後だ。

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Re: ロベルト大統領の日常 ( No.1 )
日時: 2018/06/16 17:06
名前: matsu (ID: Ryt8vfyf)


「もうすぐ卒業か。あと1週間か。早いよな」
そう声をかけてきたのは、リダ。
「早いよな。もう高校生だ。リダはどの高校へ行くんだっけ?」
「俺は東京の高校さ」
しっとりとした風が波打ち際の如く顔に直撃する。屋上の風ほど強いものはない。昼休みの最中、いつも屋上の隅にある机に座り、ゲームボーイをしているリダが、この1年で初めて俺に声をかけてきた。俺と一緒に弁当を食べていた安田も、リダと会話をする。
「安田は?どこの高校?」
「俺は推薦で陽岡高校だよ。佐藤だけか、まだ合否が決まってないのは」
「そうだな。俺だけか、もう二人とも推薦で決まってるんだろ?いいよな、卒業式のあとだもんな、合格発表は」
リダがゲームボーイを手に俺の横に腰かけた。雲間から出る太陽の光が、少しだけ強くなる。リダは学ランを脱ぎ、地べたに丸めて置いた。
「受かっててほしいよな。まあ、落ちたらお前も東京へ来いよ」
そう肩を叩かれながら、辺りに笑い声が重なり合う。じゃあな、と言うと、リダは屋上から去った。木曜日の午後、晴天の中、次の授業のことを考えた。

1週間後、曇り空の中、体育館で卒業式が執り行われた。厳粛な会場では、親御、在校生、そして卒業生らが無言のまま式に参加している。卒業証書も無事卒業生に渡されると、そろそろプログラムも終盤に差し掛かる。壇上に、校長先生が上がった。
「えー、では、式の最中ではありますが、このたび、1年前に起こりました、サッカー部の3名がこの世を去った、痛ましい事故の件で、今回卒業する予定であった、3名の遺族の方々も、式に参加してもらっています。えー、国枝マサキさん、野元リョウさん、松重タクトさん。この3名のご父兄です。この場をお借りしまして、3名に、黙とうをしましょう。それでは、黙とう」

Re: ロベルト大統領の日常 ( No.2 )
日時: 2018/06/16 17:20
名前: matsu (ID: Ryt8vfyf)


3人のことを思い返せば、思い出は尽きない。
サッカー部で育まれたのは、一体何だったのだろうか。今では、悲惨な感情しか残っていない。中学でサッカー部に入部さえしなければ、こんな気持ちになることもなかっただろう。しかし、起こってしまった以上、現実は受け止めなければならない。皆一様に俺に対して言葉を投げかけてきたが、「前に進もう」それが圧倒的に多かった。
しかし、3人は死んでいる。
「黙とう終了。それでは、3名のご冥福を改めてお祈りするとともに、卒業式に参加してくださったご遺族の方々に感謝したいと思います。本当にありがとうございました」
体育館に拍手の音が響く。その音は、今まで聞いた拍手音の中でも、最も感情が分からない拍手だった。一体この音は、誰に対して、誰が喜び、誰にとって意味があるものなのだろうか。

数分後、体育館の外で、在校生の見送りの中、最後の祝福を受けた。花道を通れば、校門周辺には親御らが羅列し、皆一様に写真を撮ったり、涙で抱き合う女子などがいた。男子は既に校門を通り過ぎたりしている。俺も帰ろうか。そう思ったとき、後ろから肩を叩かれた。
「こんにちは。佐藤君、私の事わかりますか?」
声をかけてきたのは、女子だった。ショートヘアーのその子は、顔も見た事もないし、何年生なのかも皆無だった。一体、誰だろう。
「えーっと、すみません、誰ですか?」
「私は、2年生の橋本といいます。卒業おめでとうございます」
ところで、一体何が目的だ?
「これから、時間空いてますか?ちょっと付き合ってもらえませんか?話をしたいことがあるんです」
冷ややかな風、枯れ木のような桜がしなっている校庭の側で、俺はこれからどうするべきなのか、考えた。

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