ダーク・ファンタジー小説

なぜ彼が誰にも見えないのか
日時: 2018/12/30 17:35
名前: 水柿つるば


 理解されなくていい、わかったフリなんかしなくていい。
 これは私だけのものなの。

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Re: なぜ彼が誰にも見えないのか ( No.1 )
日時: 2018/12/30 20:00
名前: 水柿つるば


 こういうのを、土砂降りと表現するのだろう。私は外の景色を眺めて自然とそう思った。窓ガラスのガタガタ揺れる音と地面を打ち付ける雨の低い音が合わさって、どこかで車が沈没したり、不吉な事が起きているように聞こえる。

 「ママまだかなー」

 遠い後ろの方で、そう言う女の子の声がした。その女の子と私を含め、いまだに学校の体育館で残って迎えを待っている生徒はもう随分と少ない。
 友達も皆帰って仲の良い子が側に居なくなった私は独りぼっちだった。だからナイーブになっていたんだろう。心を掻き乱すような天気も合わさって、側に置いたランドセルが雨で滲んだ血の色に見えた。

 「はあ…」

 体育館の床は酷く冷たい。時の流れがどうしようもなくのろまに感じる。早く迎えに来てよ、早く。


 「おっそいなあ!」
 

 私は目を見開く。後ろを振り向くと、そこには彼がいた。薔薇の香りがする。彼は水溜まりに映った姿みたいで、現実味がない。ふわふわと今にも空気に滲んで消えてしまいそうだ。

 「…いきなりおっきな声で「ママー!」
 
 私が彼をじとっと睨み付けると、どこかで女性と女の子の声がした。横目でちらりとその様子を見ると、母親らしき女性と女の子が手を繋いでドアの方へ歩いていた。体育館に残っている私以外の子では、その子が最後だった。

 「行っちゃったねえ?」
 「…なに、よ」
 
 すると彼はンフフと気持ち悪い笑みを浮かべて消えた。その直後。

 「透子」

 体がぴくんと反応する。お母さんの声だ。私は立ち上がってランドセルを背負いながらお母さんの方へ駆け寄った。もう薔薇の香りはしなかった。

 

Re: なぜ彼が誰にも見えないのか ( No.2 )
日時: 2018/12/30 19:58
名前: 水柿つるば


 「ふわぁ…」

 欠伸をしながら窓を見るとカラリと晴れた雲ひとつない青空があった。昨日の大雨が今日も続いて学校が休みになることをちょっと期待していたのに。ああ、今日も学校に行かなければならない。私はのそのそと目を擦りながらベッドを降りる。
 瞬間、足の裏に生暖かい感触を感じる。まるで生き物を踏んだ時のような。

 「ぎにゃっ!?」

 私は驚きのあまり奇妙な声をあげて足を離す。すると下からプっと笑いを堪えきれなくて吹いた音がした。下を向くと、そこには彼がフローリングの上で横になって笑っていた。最初は小さかったものの、だんだん大声で笑い始める。

 「ぎにゃってwwwwww」
 「だ、だって、いきなり変な感触したから!」
 「いやでもぎにゃってwwwwww」

 おかしい。だって、寝る前も起きた直後もベッドの下で彼が寝ているのなんて見えなかった。私が彼を踏んだ瞬間、彼の姿が見えたのだ。これはたぶん、いや絶対。

 「もう!能力使ったでしょ!」

 私が大声を張り上げると、彼はニッシシと、してやったとでも言いたげに笑った。

 「そうだけど、それが何か?」

 ふつふつと怒りが沸き上がる。彼の行為も、態度も、自分の失態にも。

 「あんたねえ、いい加減…」

 しかし私は途中で怒りの声を止めてしまう。なぜなら、私も彼と同じような事を、いいや、それ以上のことを、しているからだ。自分が言おうとしていた言葉は、自分が最も言われるべき言葉だ。

 「ねえ、何?いい加減、なんなの?」
 
 彼は気持ち悪い笑みを浮かべて私に訪ねる。愉しくて堪らない。そんな顔だ。

 「うるっさいわね、消えなさいよ」

 私はそう言ってハンガーに掛けられた制服を手に取る。

 「いーっつもそればっかり。いい加減、飽きないの?」 
 「…飽きるとか、飽きないとか、そういうのじゃないから」
 「じゃあ、なに?」
 「なにって…」

 簡単に言ってしまえば、復讐だ。でも口に出すのはあまりにも恐ろしい。だから、私は言い換えた。

 「天罰よ」
 「ぷっ、アハハハハハハ!!!」
 
 彼の声は妙に甲高くて耳に残る、気味悪い声だ。そんな声でよく喋ってよく笑って、本当に煩くて仕方ない。それに喋る内容の大半がくだらなくてムカつく。

 「君は、神様にでもなったつもりかい?」

 きっと彼の瞳には私が可笑しくて仕方がないように写っているんだろう。ムカつく。本当にムカつく。耳障りな声も、馬鹿にした喋り方も、いちいち勘に障る態度も、全部全部、嫌いだ。そしてどれだけ嫌いでもどれだけ馬鹿にされようとも、彼を手離せない自分も…

 「まあ、天罰ってのも、あながち間違ってはいないのかもねえ。なんて!アハハハ!」
 

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