ダーク・ファンタジー小説

ゴーストトレイス
日時: 2019/11/09 15:53
名前: 春先雪華。

前代未聞、現実離れした霊障事件発生。

多くの後輩、先輩に囲まれる女刑事、神導エト。
霊能力を持った刑事たちは今日も霊を追いかけて事件を解決に導く。
彼らの元に届く事件は霊能力関連、そして霊関係のモノだけである。

序.「霊能力を持たない刑事エト」>>01
霊障1.「通行止め橋」>>02 >>03
閑話「鬼神を宿す者」>>04 >>05
霊障2.「知らされなかった知らせ」>>06>>08
「鬼神を知る住職様」>>07
霊障3.「古き劇場の炎舞」>>09>>10>>11

「一段落した」>>12

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Re: ゴーストトレイス ( No.8 )
日時: 2019/10/16 20:58
名前: 春先雪華。

大きな鬼神はエトを見下ろす。エトは呆然と鬼神を見つめていた。最早夜叉丸の
面影は残っていない。これが槐。

「じゃあ危なくなったら助けるんで」

そう言って離れた興信。もう一度、エトは槐に乗っ取られた夜叉丸を見つめる。
そして手を伸ばす。

「早く、来て。戻ってきて」

微かに聞こえる、唸り声と共に小さな声「逃げてください」という声。その言葉をエトは
拒絶する。下手すれば本当に取り返しがつかないことになる。殺さなければならなくなる。
それだけは避けるために来た。

「それは…出来ないよ。逃げるなんて…それは先輩として許さない。私を逃がして
どうするの?その先は…一生ここで隠れてるつもり?ここで自害するつもり?折角
一回、呪いから救ってもらったのに…その命、捨てるつもり?」

険しいエトの表情は優しい顔に変わった。

「私は霊能力を持たないから凄いことは出来ない。それこそ助けるなんて出来ないかも
しれないから…私は信じるだけだよ」
『人間の、娘よ…非力なお前が何故そこまでする』

低い声、槐本人の声だ。

「私、霊能力が無いから戦闘があるだろうって予想される霊障に向かう時はいつも
誰かが付き添う…夜叉丸君もいつも私についてきてくれて慕ってくれたから…
答えなきゃね」
『心の強い女だ…それならば、返してやろう』
「うわっ!?」

強い熱風に煽られ、腰が抜ける。興信に支えられどうにか立っていた。消えた槐は恐らく
夜叉丸の体の中に戻ったのだろう。ここからはエトの仕事だ。彼を寺まで連れて行った。

「…先輩」

Re: ゴーストトレイス ( No.9 )
日時: 2019/11/05 17:38
名前: 春先雪華。

無線機から突然声が流れた。その声は久能麗だった。

『緊急事態よ、今すぐ旧帝国劇場に来て霊障事件よ。霊能課職員が霊障化した。
今回は国枝律子さんよ…エトちゃんのラインに資料は送るから目を通して頂戴。それと
そっちには夜叉丸君もいるわね?体調はどう?無理しなくても良いから』
「いいえ大丈夫です」

きっぱりと返す。無線機から麗の微かな笑い声が聞こえた。

『大丈夫そうね。エトちゃんの事、頼んだわよ。それとついさっき律子さんの部屋を色々
探してみたんだけどちょっとヤバい話よ…エトちゃん、貴方彼女に狙われてたみたい』
「え?あ…でもそんな感じがしなかったわけもなかったような…」
『裏で霊障を開放して暴れさせた。それをエトちゃんに解決させるように仕向け、あわよくば
殉職で済まそうとしてたみたい。あの人も馬鹿ね、エトちゃんの周りは恐ろしい程堅い壁で
守られてるっていうのに…後は資料を見て頂戴』

無線が切れた。車の速度を上げ目的地へ急ぐ。国枝律子、その女刑事は既に殉職した
はずだった。だが強力な生霊として現世を彷徨い再び刑事として活躍していた。
霊能対策課も出来上がり、そこで彼女は神導イザナに一目惚れ。だが彼には既に
子どもがいた。それがエトである。彼から沢山の愛を注がれた彼女に嫉妬していたようだ。
そして今日、霊障事件に向かい行方不明に爆破事件で霊障化したことが明らかになった。

「じゃあ俺たち、ずっと霊を視てたってことか」
「そうなるね。そう考えたら本当に怖いわ…でももっとびっくりしたのはあの人が私に
嫉妬してたってところかな?うちのお父さんと結婚したかったのかも、私に嫉妬したんじゃなくて
私のお母さんに嫉妬したの間違いでしょ」

ラインの画面を閉じバッグに携帯をしまう。標識に旧帝国劇場の名前が見えて来た。交通規制が
張られているため見張っている警備員に警察だという証明書を見せ中に入る。まだ爆破は
していないらしい。中に入り異常に暑い事に気付いた。確か律子は火を操る霊能力者。この
暑さは恐らく律子が関係しているのだろう。

Re: ゴーストトレイス ( No.10 )
日時: 2019/11/05 18:47
名前: 春先雪華。

いち早く危機を察知した夜叉丸はエトを突き飛ばす。後方に押し倒されたエトは目前に
広がる火柱を見た。彼がいなければ焼き消されていたかもしれない。礼を述べると夜叉丸は
「礼なんていりません」と答える。

「この辺だな…準備は出来てるな?入るぞ」

扉を開くとステージの方に炎に包まれた女がいた。変わり果てた炎の魔女、あれが自身の
死を知った国枝律子の姿である。

「来たんだねエト…で?霊障退治かい。いい加減、身の程をわきまえな。アンタは課の中でも
最低ライン、底辺だよ。この仕事で生き残れるなんて無理な話さ」
「聞き捨てならねえな律子先輩。全員がそう考えてんなら今頃、エト先輩はいねえよ」

いつの間にかいる不動明王、それは興信の式神である。否、神卸といってもいいだろう。
そのまま彼は殴り掛かる。炎の中に突撃してもへっちゃららしい。

「血気盛んだね。だけどアタシも武術に精通していてね」
「かはっ!?」

カウンターの膝蹴りは興信の腹を捕らえた。防御がスカスカだった。興信は攻撃に徹している。
一方律子は防御に徹している。

「神導エト、アンタを妬み恨む理由は特にないよ。所謂八つ当たりって奴さ。どうせ
短い時間さ…ゆっくり楽しもうじゃないか!」

さっきまでよりも大きな火柱があちこちから上がる。同時刻、別口から入った刑事たちがいた。

「…恐らく中にいるわね。急ぐわよ八咫野君」

久能麗はヒールを鳴らし急ぎ足で進む。彼女に付き添っているのは八咫野幽(やたのかすか)だ。
彼も夜叉丸ら同様にエトを慕う後輩の一人。最初こそ彼女を認めなかったがエトの器の
大きさに惹かれていった。

「あの人は舐めてるのね。あの子は決して底辺じゃない。あの子は理想の上司って奴よ」

Re: ゴーストトレイス ( No.11 )
日時: 2019/11/06 18:56
名前: 春先雪華。

火柱が上がっていたであろう場所に足を置くと軋み片脚が下へ沈む。その穴はエトの
体重で大きくなり彼女を呑み込んだ。声も上げずに落ちていった彼女に気付いたのは
数分後、夜叉丸が声を掛けた時だった。返事が無かった。

「あらら…落ちちゃったみたいだね。その下はコンクリートのはずだ、無事じゃすまないだろうね」
「テメェ…俺らの上司だったからって調子に乗るなよ?それにアンタ、無線機も持ってねえらしいな」

興信が不敵な笑みを浮かべた。

「聞こえねえのかババア。応援隊の声がよぉ!」

背中を下に向けて落ちていくエトの耳に誰かの声が聞こえた。エトの体は誰かに支えられ
ゆっくりと地面に足を付けた。

「グッドタイミングだったみたいねエトちゃん。ラッキーよ」

八咫野が小さく微笑み頷いた。エトも胸を撫でおろし彼らに礼を述べた。周りに目を向けると
そこには粗末な墓があった。線香も無ければ花も無い。墓石には国木田律子と名前が
彫られている。

「律子さんの旧名ね。結構古い墓だと思うわ」

麗は肩に掛けていたバッグから線香を取り出し火をつける。辺りに線香の独特な匂いが
漂っている。

「花は持ってこれなかったけど線香だけでもあげましょう。あの人を倒すのは正直難しいわ。
なら弔って成仏させるしかない。そうすれば多少は弱まるはずよ」

麗、八咫野、エトはそれぞれ線香をあげた。そして手を合わせる。そしてエトに向き変る。

「で、上から落ちて来たけど…もしかしてあの人は上にいるの?」
「今は夜叉丸君と興信君が相手しているはずです。急ぎましょう!」
「そうね…最後ぐらいしっかり目に焼き付けておきましょう」

上の階へ急ぐ。階段を駆け上がると悲鳴が聞こえた。二人がいる部屋に来ると原型の無い
炎がいた。

「最後…」

八咫野が小さく呟いた。炎は段々と弱まりやがて何もなかったかのように消えていった。

「成仏したみたいね。さてと報告書を書かないと…」

国枝律子、霊障化。成仏完了。

Re: ゴーストトレイス ( No.12 )
日時: 2019/11/09 14:31
名前: 春先雪華。

霊障特別課は上層部では登録されているが表向きには発表されていない幻のような
課である。霊障特別課の存在を知る警察はごく少数に限られている。

「さて、本題に入ろうか。霊障特別課、新課長の草凪菫」
「はい。警視総監」

長い黒髪をした女刑事、草凪菫は真剣な表情で目の前の男を見た。

「話に聞いたよ、これからも霊障特別課の活躍を期待している」

霊障特別課のオフィス。事件の報告書を書き終えたエトは大きく伸びをした。

「お疲れだねエトくん」
「あ、灰崎さん」

いつの間にか後ろに来ていた男、灰崎憶久はスッと微笑む。何かと怖い噂が立つ
男だが穏やかな性格だ。そしてエトの上司の一人である。彼の持つカンテラの中には
黄色っぽい炎が灯っている。ただの炎ではない、それは「悪魔」である。

「最近は事件が連続していたから疲れるのも無理はない。もう休憩の時間だ。
休んだらどうかな?」
「じゃあそうします。お先に失礼します」

最近、営業停止中だった食堂がリニューアルしたという話を聞いた。エトはそこに
足を運ぶ。

「おぉ、なんか久し振りに見た気がしますね」

後輩の一人、雛野斎(ひなのいつき)だ。年齢はエトより上だが入って来たのはエトより後なので
彼はエトを先輩として認識している。

「つーか今の今まで気づいてなかったけど先輩、霊能力は使えないんすね。そんだけ
力があるのに使えないとか勿体無いと思うけど」
「そう言われましてもね?無いものは無い」

昼食を食べながら二人は話す。どうやら彼女の霊力はかなり高い方らしい。なのに霊能力を
持たないことは他人も本人も謎である。

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