ダーク・ファンタジー小説

Orbit/ZERO(βテスト版)
日時: 2019/11/29 16:23
名前: 祝福の仮面屋
参照: http://top2625#ddd@26om

あの日、女王は怒りに震えた。

2200年、東京によりサービスが開始した【次世代型VR】を使用したバーチャルゲーム《IRIS》、瞬く間に全世界へと広がったこれは、全人類の新たな【現実(リアル)】となった。

さぁ、己を賭けて戦え。

【その右手に、皆の命を背負い】

陰謀と才能の交錯するファンタジー、始まる

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Re: Orbit/ZERO(βテスト版) ( No.1 )
日時: 2019/11/28 15:51
名前: 祝福の仮面屋

「さて、明日から夏休みな訳だが…お前らも来年からは高校生なんだ、遊ぶばかりではなく勉強もしろよ?」
「「「うーす」」」

2200年/5月/3日/AM11:30
東京・原宿

ここは、原宿にある何の変哲も無い極々普通の中学校だ。電子工学技術が異様に発展した現代社会において紙幣や硬貨、紙書籍などは既に過去の遺物となっていた。
各校でのオール電化が進む中、ここだけ何故か「古き良き文化」として書籍の教科書などを扱っている。正直言って、スマホとか開けば情報がすぐ出て来てアシストもしてくれるのに、わざわざ嵩張る挙句どのページを開くか話しを聞いていないと分からなくなる上にアシストも無い教科書を使う意味が分からない。

「…つっても、俺達は後で東京ゲームショー行くんだけどな」

教室の隅でボソリと呟く少年、黒髪に眼鏡を掛けた知的な顔付き、そして彼自身は否定こそしているがかなりのイケメンである。
その少年の隣の席の少年が、彼に皮肉に近い事言ってくる。

「櫻井は良いよな、大して興味もなかった癖に抽選当たるんだからよ」
「皮肉のつもりか?…まぁ、当てる気満々の奴に当たらなくて、どうでも良い奴に当たるのは皮肉だよな」
「お前の方が皮肉じゃねーか…」

少し厳つい顔付きの少年、五反田 武は眼鏡の少年…櫻井 一真にツッコミを入れる。五反田の言う『抽選』についてだが、2200年年現在において全人類のもう一つの【現実(リアル)】が存在した、それが『次世代型VR』…通称【IRIS】だ。
一応【IRIS】は2160年時点ででは、既に企画されており実践状態まで持って行けてたらしいが途中で開発チームのリーダーが行方不明になり、日本全国の47都道府県の中の15億人もいると言う人達から老若男女問わず、運営から抽選されたテストユーザーがβテストを通す事で、新たな問題や修繕点を改善した後で正式リリースを予定しているらしい。

「よし!ホームルームはこれで終わりだ、帰りに寄り道とかせずに家に帰るんだぞ?」
「「「はぁ〜い」」」

何て考えている内に、3年А組の担任の話が終わった。生徒達の話に少し耳を潜めてみると、どうやら別のクラスはまだホームルームが終わっていないらしい、帰りにどこかゲーセンとかにでも行くつもりだろう。
男子達はゲーセンへ行く仲間を探し、女子は帰りにどこに寄って行くか話し合っている、さっき先生に寄り道するなよと言われた筈だが…と考えながら静かに席を立つと、五反田が話しかけて来た。

「俺達も女子を見習って、タピオカの店にでも行くか?」
「冗談でも止してくれ、てかβテストの開始時間に遅れると参加出来なくなるから嫌だ」

本来、ゲームとかのイベントで仲間が来れなくなっ時は他人を誘ったりするものだが、【IRIS】に関しては暴動等を防ぐ為に穴埋めなどは行なっていない。
『なら遅れても問題無いのでは?』となるだろうがそんな事は無い、βテストに1分とかならまだ許されるがこの学校からゲームショー会場まで30分【も】掛かり、逆の方向にある歩いて40分のタピオカの店になんて行っていたら…想像するだけで恐ろしい、故に今回は直行するしか術が無いのだ。
それに何より、βテストに参加出来ないと不都合があるのは一真では無く…

「βテストには先着1万名限定、そうだろ?」

と、五反田に言ってやる。だが一真を誘ったのは五反田だ、彼なら冗談のつもりで言ったのだろうと思い、そう言ったのだがーーー

「え!?そうだったのか!?」
「マジかよ…」

どうやら知らなかったらしい、正直教えなかったらマジでタピオカ行ってたな…と一真は思う、正直教えてよかった。

「誘って来たのお前だろうが」
「悪りぃ悪りぃ、早く行こうぜ、時間に遅れちまうよ」
「誰のおかげでこうなったと思ってんだ」

「ほら、さっさと行くぞ」と言う声と「おうよ!」と言う声、二人は東京ゲームショー会場へと足を運ぶ、この後二人に降りかかる事故に気付くものは、誰もいない。




Program1
「Singularly/βTester」











〜〜〜東京ゲームショー・会場〜〜〜

『さぁ!こちらはモンスターハンター最新作!試遊会へどうぞご参加下さい!』
『ポケモン最新作あんじゃん!よし、買ってこうぜ!』
『おいおい、そこはモンハンだろ!』
「うおおおお!」
「すっげぇ人集りだな」

色々改築および増築がなされ、今や会場はその気になれば総人口の約半分は収容出来るほど大きく、そして広くなっていた。
五反田と一真はとある一角を目指す、そここそが、今日ゲームショーに来た理由なのだ。

「さて、皆様本日はβテスト試遊会にご来場頂き誠に有難うございます!司会は私!絵羽 明彦と!」
『皆さん初めまして、僕はヘンペル。【IRIS】の立法機関《イージス》の者です』

どこぞのテレビショッピングの司会に似た風貌の男と眼鏡をかけ、パーカーを着こなした長身の美男子…ヘンペルが会場の面々と挨拶を交わす。【IRIS】では、天候や行政、司法などを担当するのは《AI》…つまり人工知能であり、ユーザーはあくまでも一般市民…《アバター》として存在している。
とは言え、昔はバーチャルYouTuberとかあったみたいだし、AIの技術は当時でもそれなりに進歩していたのだろう。だがしかし、【IRIS】に登録されているAIの名は全て神話の神や、歴史上の偉人の名が使われている事が多い。因みに、ヘンペルの由来は恐らくだが被覆法則で有名な哲学者、カール・ヘンペルだろう。

「あれ?櫻井君?」
「おい櫻井!あれ…廻音さんじゃね?」
「ん?…あぁ、そうだな」
「やっぱり櫻井君だ!君も抽選に当たったの?」
「うん…まぁ、廻音さんも?」
「うん!一人じゃ心細いから…一緒に居ても良いかな…?」

そう言って、一真の腕に抱きついて来た少女の名は廻音 沙耶、一真達のクラス3年А組のマドンナ的存在にして他校からもファンが居る現役アイドルでもある。童顔・160cmの低身長・そして可愛くて気さくで『弱点ねぇわコイツ』なフィクションの住人に近い存在だ。
(学生がアイドル?ほら、ここ二次元だから)
話を聞く限り、どうやら彼女も抽選に当たったらしい、当たらなかった五反田に同情したくなって来た。チラッ、と五反田の方に目をやると五反田が「チッ」と舌打ちをして、こちらを殺さんばかりの勢いで睨んで来た。
怖いけど僻むなよ、みっともない。

『さて司会さん』
「何だい?ヘンペル君」
『そろそろテストを開始した方が良いんじゃないですか?皆も楽しみでしょうから』
「そうですね、では!改めてβテストを開始したいと思います!抽選で当たった皆様、リンクデバイスの準備は出来ましたか!?」

当選者達は、リンクデバイス…右腕の腕輪型のデバイスを掲げる、これを通す事で意識をバーチャル世界とリンクさせ、アバターを自身の体と何ら遜色ない形で動かせるのだ。そして準備完了と見た司会…絵羽が、リンク開始の合図を叫ぼうとした瞬間ーーー!

「るぇ?」

パァンッ!と、会場に鳴り響く1発の銃声と血を流しながら地面に倒れ伏す絵羽、無論この状況を見て群衆がパニックにならない筈も無く

「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」
「どけよガキ!」
「あうっ!」
「真司!」
「お母さぁん!お母…」
「真司…?嫌ぁぁぁぁぁぁぁ!」

グチャリ、と頭を踏み潰される子供。
踏み潰され、脳漿が零れ落ちる息子だった物を見て絶叫する母。
パニックになった群衆が、溢れんばかりの勢いでゲームショー会場の外を目指した。我先にと行く為。もちろん体の小さな子供や身重な子連れの妊婦などは逃げ遅れ、押し倒され、そして逃げ惑う群衆に踏み潰される。
なら、何故一真はパニックに陥らないのか?彼は人が死ぬ所を嫌と言う程見て来たのだ、今更強盗程度でパニックに陥る筈も無い。

「ヤベェ…おいヤベェぞ!」
「どうしよう…早く逃げなきゃ…!」
「二人共落ち着いて、パニックに陥ってはダメだ。深呼吸して」

そう一真に促され深呼吸をする二人、どうやら落ち着いたらしく一真の方を見て来た、これからどうすべきか彼の判断にかかっている。

「どうするの?櫻井君」
「とりあえず、俺が囮になるから二人は逃げて、ただ群衆がある程度逃げたらね?」
「バッ…お前を置いて逃げられるか!」
「でも、このままじゃ皆死ぬよ?」

唇を噛み締める五反田、現に強盗は拳銃以外にもアサルトライフルだかマシンガンだかを持っている、機銃掃射により逃げ惑う人達が皆、挽肉へと変わっていく。
幸い、3人はしゃがんでいた為巻き込まれる事は無かったが、強盗に見つかるのも時間の問題だろう。

「任せて…良いのか?」
「あぁ」
「死なないでね…?」
「わーってるよ、二人も…死ぬなよ」

煙と銃声が止み強盗の銃口がこちらを捉える。走り出す一真、殺到する銃弾、貫かれる体、そして次の瞬間ーーー

『君はまだ、死んではいけないよ』

ヘンペルの映るモニターから光が放たれ、一真と沙耶が吸い込まれ、2人の意識は闇の中へと落ちて行った。










「くっ…」

瞼がやけに重い、まるで麻酔を打たれたかの様に力が入らない、重い瞼をこじ開け視界を広げる。するとそこには、信じられない光景が広がっていた。

「何だ…?ここ…」

白黒、最初の印象はそんな感じだった。
おそらく東京では無い、まずこんなモノクロじゃないし建物も未来的じゃないし、何より中央の塔の展望台と思わしき部分の周りに本棚だななんだのよく分からないデブリが浮いてる物騒な建築物は無い。

「いや、それより廻音さんだ…あの子は無事なのか…?」

一応、自分の体を見たところ大した傷はなかった、まるで傷そのものが付かなかったかの様に血の雫一滴も付いていなかった。
問題は廻音 沙耶だ、彼女はおそらく五反田と共に流れ弾に当たった、自分が何故ここに居るのかは分からないが、とにかく戻る事が最優先だった。だが地形のよく分からないこの地は、まるで迷路の様に複雑になっていた。あの巨大な塔を目指せば何とかなると思ったが、『こりゃ無理だな』と頭打ちになろうとしたが

「よく来たね」

声が聞こえた、ゲームショーで聞いた事のある透明感のある男の声だ。後ろを振り向くと、その声の主ーーー

「やぁ、カズマ君」
「お前は…、ヘンペル…!」
「ようこそ、βテスト版の【IRIS】へ。少しバグが残った状態でね、正式リリースと同時に改善される筈さ」
「はぁ…」

ヘンペルが一真の後ろに立っていた、どうやらここはβテスト版の【IRIS】の世界らしく、本来とは少しだけ様子が違うらしい。
正式リリースを開始すると同時に、この色彩バグは改善されるらしいが、今はそんな事どうでも良かった。

「いやそんな事は良い、アイツは…沙耶は無事なのか?」
「沙耶?あぁ、あの子の事かい?大丈夫、すぐに来るよ」
「すぐに来るってどう言う…」
「カズマ…?」

後ろを振り向くと、沙耶が居た。
いや、沙耶なのだが何かが違う。彼女の服装や顔立ちは同じなのだが…服装が白いワンピースからベージュのブレザーに変わっており、彼女は自分を知らない様な顔をしていた。

「えっと…どう言う事だ?」
「あ〜…メビウス?」

まだ言ってなかったの?とでも言いたげなヘンペルが、メビウス(沙耶?)に視線を向ける。すると、メビウスと呼ばれた沙耶は少々おどおどした感じで、自己紹介を始めた。

「えっと…私の名前はメビウスです。カズマ、貴方の事はヘンペルから聞いています」
「いや待て!お前は沙耶じゃ無いのか?沙耶はどこだよ!?」
「まぁ、その話は…隠れるんだ二人共!」

ヘンペルに物陰に突き飛ばされるメビウスと一真。

「ってぇ…何だよ…!」
「しっ!あれを見るんだ」
「…!何だよアレ…」

ヘンペルが促した方向に目を向けると、ガスマスクとショーテルを装備し、機動防護服に身を包んだ男達が居た。男達は何かを話している様だが、ここからの距離では、その会話の内容を聞く事は叶わなかった。
説明して欲し気な一真に、ヘンペルは説明を入れる。

「アレは【掃除屋】、ちょっとレイドバトルの調整で生まれたバグでね、戦闘力が高く下手なAIでは敵わない」
「お前らも下手なAIって事か?」
「馬鹿な、僕達は【IRIS】最古参メンバーだよ?その気になれば訳ないさ」

この状況を見て一真は察する、どうやらβテスト版【IRIS】では謎の不具合が発生しており、それを解消or改善する為の実験台として抽選が行われた。

「俺は…どうすれば良い」
「簡単さ、僕達《イージス》と共に混乱の根源である【女王】を追放する」
「そんな事…」
「出来るさ、他の皆も集結しつつある。僕達が勝てば晴れて正式リリースが出来て、【女王】が勝てばゲームオーバー、簡単だろ?」

つまりはこう言う事だ、【IRIS】正式リリースの為に、諸悪の根源たる【女王】を追放し全【IRIS】ユーザーに、平和で平穏な生活を送る保証を手に入れる。他のβテスターも【IRIS】へ入っているだろう、もしくは強盗襲撃の時に全員死んだか、だがやる事は決まった。

全ての【IRIS】ユーザーの為に、【女王】を【永久追放する】
それがやるべき事だ。

「分かった、やってやるよ」
「ありがとう」




始まる、【人類】と【女王】の決戦が。
己の存在を賭け、戦え。
そして

【その右手に、全ての命を背負い】










次回 Program2
「Battle/Enemy」

Re: Orbit/ZERO(βテスト版) ( No.2 )
日時: 2019/11/28 20:37
名前: 祝福の仮面屋

「…で?これからどうすんだよ」

眼鏡を掛けた少年…櫻井 一真は、同じく眼鏡を掛けた美男子…ヘンペルに質問する、ここは『【IRIS】娯楽エリア』の一角。ここは元々、【IRIS】1の大型ショッピングセンターとして機能するエリアだったらしいが、まだβテスト版と言うのもあるのだろうが女王の影響により地上階は、【掃除屋】の巣窟となっていた。
今、一真はヘンペルとメビウスの二人と共に大型ショッピングセンター(仮)の地下ルートを進んでいる、地上階は先述の通り【掃除屋】がわんさか居るからだ。

「とりあえず、僕達《イージス》の拠点に行こう。そこで仲間も紹介するよ」
「何人くらい居るんだ?」
「ざっと7人」
「案外少ないな…」

いや、実際にはかなりの人数が居るのだろう。固まっていると敵に捕捉される可能性が高いから、そういったリスクを避ける為に別行動中か、それとも何か別の用事でもあるのか。
すると、セーラー服の少女…メビウスが口を開いた。

「二人共、隠れて下さい」
「地下にも居るのか…!」
「強行突破するしかないか?」
「別ルートを模索しましょう」

メビウスが提案する、この3人の今の行動方針は《最小限の被害》だ、ならばそれらを避けて行くに限る…そう思っていたのだが…

「いや、あれを見てくれ」
「!あの子達…!」
「迷い込んだか…、マズいな…!」

ヘンペルに促す方向を見てみると、二人の子供達が居た。恐らく姉妹だろう、二人は身を寄せ合いながらお互いを暖め合っている。地下は地上より幾らかは温暖だろうが、その二人の元へ近づいて来る【掃除屋】、子供達はまだ気付いていない。
一真はヘンペルの方を見るが、ヘンペルは唇から血が出ん程に噛み締めていた、ヘンペルが取ろうとした決断を一真は察する。

「おい、まさか見殺しにする気か?」
「あぁ、被害を最小限に抑える以上、無駄な労力を消費する訳には行かない。だからここは別ルートを…」
「ふざけんな!俺はあの子達を助ける!お前らは先に行け!」

ヘンペルの指示を無視し一真は【掃除屋】達に立ち向かって行く、不意を突かれた【掃除屋】達は、一真の体重と加速を乗せた拳をモロに喰らった。

「あの馬鹿…!行くよメビウス!」
「は、はい!」

ヘンペルは苦虫を噛み潰したような顔をする。一真のおかげで台無しだ、だが彼の言う通り子供達を見殺しにする訳にも行かない、ならば自分達は一真のサポートをする事に徹底すれば良い。ヘンペルがエネルギーで出来た鴉を数羽放つ、鴉達は【掃除屋】に殺到する。

『ナンダコレハ!?』
『ワカラン!タイセイヲタテナオセ!』
「余所見してんじゃねぇ!」
『グオッ!』

一真の回し蹴りが【掃除屋】の一人の首をヘシ折るが、強固な防護服に護られていた首をヘシ折った時の鈍痛に顔を顰める。
そして、彼らも伊達に【掃除屋】を名乗っている訳では無く、直ぐに一真の動きに対して対応してくる。

『ガキガ!』
「うおっと!」

一真の立っていた場所を【掃除屋】の装備していたショーテルが抉る。相当な硬度を持つであろう床材、それをまるでバターやマーガリンの様に軽々と斬り裂くショーテル、ゲーム世界内とは言え一真の様な一般人が受ければひとたまりもないだろう。
しかし、一真とてナイフを持った不良や族とは何度かやり合った事もある、しかしショーテルとて武器、当然決まった型がある!

「よっと!」
『グウッ!』

ショーテルの横薙ぎを回避した一真は引き戻しの動きに合わせて蹴り上げを叩き込む、そして一真の爪先は【掃除屋】の顎にクリーンヒットし、相手の脳を的確に揺らす。脳を揺さぶられた【掃除屋】は、両手のショーテルを手放し地面に落としながら倒れ伏した。
幸い、子供達に危害は加えられていなかった様で、目立った怪我は無かった。

「大丈夫か?お前ら…」
「お兄ちゃん!後ろ!」
『シネ!クソガキ!』

後ろを振り向くと、物陰に潜んでいた三人目の【掃除屋】が、一真にショーテルを振りかぶっていた。一真の脳天を的確に狙った振り下ろし、回避は出来ない。なら防御は?地面を軽々と斬り裂くレベルだ、豆腐装甲の人間の皮膚程度何の意味も無い。
一真は、目の前まで迫った凶刃に『自身の死』を覚悟したーーー

「ッ!(ヤベェ、避けきれねぇ…!)」
「伏せて下さい!」
『グオオオァァァァァ!』

一真が伏せたと同時に、三人目の【掃除屋】が感電したかの様に倒れた、【掃除屋】に纏わり付く青白い稲妻。その使い手は?そう、先程まで溜めを行なっていたメビウスだ。
一真とヘンペル、そして子供達二人の安全と【掃除屋】の鎮圧を確認したメビウスは、『ほっと』安堵の声を出した。

「皆さん!大丈夫ですか!?」
「あぁ、ありがとうメビウス。助かったよ」
「ありがとな」
「ありがとうお姉ちゃん!」
「もう一人のお兄ちゃんもありがとう!」

一真達は少女二人に名を訪ねる、金髪の方が姉の「ガリレオ」で銀髪の方を妹の「ガリレイ」と言うらしい。どうやらこの二人は最近誕生したAIらしく、恐らくだが、二人はかなりの実力者だろう。
二人はこちらをジッと見つめてくる、仲間にでもなりたいのだろうか、女王打倒も一筋縄では行かないし危険も伴うが、子供達を今見捨てて見殺しにするのはもっと後味が悪い。
なら、やるべき事は一つだ。

「ヘンペル…」
「そうだね、こんな所で見殺しにするのも嫌だし、僕達と来るかい?あ、メビウスは問題ないよね?」
「はい、人は多い方が楽しいですから!」

刹那、二人の顔は花が咲いたかの如くパッと笑顔になる。一真自身にロリコンの気は特に無いのだが、純粋な少女の笑顔を見て場が和まない、と言うのは嘘になるだろう。

「ありがとうございます!」
「ございます」
「一真、メビウス、そろそろ行こうか」
「あぁ、二人も行こうぜ」
「はぐれないように気を付けて下さいね」

女王打倒に向けてまた一歩と進み行く、世界の平穏を取り戻す為、そしてこの様な世界を作らない為に。






Program2
「Battle/Enemy」





一真一行は、ヘンペル達《イージス》の拠点へと来ていた、扉をヘンペルがノックすると
扉がガチャリと開きーーー

「ただいま」
「お、遅かったじゃないっすか!」

中から、和服っぽい振袖パーカーに身を包んだ少年が、ヒョッコリ現れた。顔は隠されておりよく見えないが、かなり中性的な顔立ちなんだろうな、と勝手に予想してみる。
すると少年が、こちらを品定めする様に見て来た、正直少し緊張する。

「お宅がカズマ氏っすね?」
「あ…あぁ、良く分かったな」
「自分、これでも人を見抜くの得意なんで」
「紹介しよう、彼はクマグス。僕達《イージス》の最古参、【セクターセブン】の一人だ」

「どうもっす」と、礼儀正しく挨拶して握手まで求めて来たクマグス、 ここで否定してしまっては不相応だし無礼だろう。
ここはこちらなりの誠意も表しておく。

「櫻井 一真だ、カズマで構わない」
「えぇ、よろしくお願いします」

握手を交わすと、クマグスは顔こそ見えないがニッコリと笑って来る、雰囲気的に分かるのだがかなり良好な関係は築けてると思いたい。
ヘンペルが言うには、彼は主に情報調査や戦闘を行っており、一度だけだが【女王】と刃を交えた事もあると言う。それでもって、【女王】に一撃とはいえダメージ与えているのだから、この男は的に回せば厄介になるだろう。

「ピタゴラスさーん、客人っすよー」
「あー!ちょっと待ってて!」
「えっと…?」
「あぁ、自分ら【セクターセブン】のメンバーの一人、ピタゴラスさんっすよ」

クマグスがそう言うと、階段から少女が走りながら降りて来た、どこか大人びた雰囲気のクマグスに対し、ピタゴラスと呼ばれた少女は元気真っ盛りな中学生っぽい感じだった。
少女…ピタゴラスは「えへへ」と、はにかみ笑顔を漏らす。そしてピタゴラスはクマグスと同様に挨拶をして来る、意外と肌面積の多い服装だった。

「あたしピタゴラス!貴方がカズマ サクライね!よろしく!」
「あぁ、よろしく」

先程のクマグスは、力強くも優しい握手なのに対してピタゴラスはギュッ!と子供特有の力強い握手をして来る。多分だが、クマグスとピタゴラスは相性かなり悪そうだなって思う。
すると、ヘンペルがゴホンと空咳を飛ばす、そろそろ本題に入ると言う意味だろう。

「で?クマグス、【女王】の現状は?」
「今しがた調査して来た感じ、結構活発になって来てますね、自分らもかなり警戒した方がいい感じっす」
「本格的な戦闘もそろそろですね…」



三人は、これからの作戦を進める為の会議をしている。ヘンペルは「ダ・ヴィンチさえ〜」と言っていたが、それに比べてメビウスやクマグスは「現状維持を優先するべきでは無いか?」と議論している。
これから、何が起こるかは分からない。
だが、自分はいつまでも逃げ回っている訳には行かないだろう、彼らばかりに負担はかけてられないし、自分も自分で出来る事はやらなければならない。
と、考えていたら話は終わったらしい。考えが決まった様な顔付きのヘンペル、そして顔がフードで隠れており顔が見えないクマグス、瞳を静かに閉じたメビウスが立ち並ぶ。

「僕達《イージス》は、三日後に【女王】に対して奇襲を行う!」
「戦闘は自分が務めるっす、付いて来たい人は来て下さい」
「援護は私が努めます、生きて帰るのではなく勝って帰りましょう!」

三人の弁舌に、周囲から滝の様な歓声が爆発の如く巻き上がる、この感じを見る限りこの三人はかなり信頼されているのだろう。
彼らに負けてはいられない、行方不明の沙耶を探す為に来たのに【IRIS】の命運を賭けられた一真だが、彼も腹は決まったらしい。

「俺も頑張らねぇとな…!」

少年は覚悟を決める、世界を救い【女王】を打倒する覚悟を。














「ヒヒヒッwww」

何かは笑っていた。
人でもなければAIでもないし、CPUでもなければ【アバター】でもない。そんな【何か】は、声を上げながら笑っていた、まるで全てを嘲笑うかの様に。

「楽しみだなぁwwwカズマ君www君がどんな感じで、闇に堕ちて来るのかwww」



その【何か】の名は【ケテル】、かつての【IRIS】にて大罪を犯し、全てを喪い追放された彼は静かに、だが壮大に笑った。
まるでこの世界の先を暗示するかの様に、はたまた、何も学ばず新たな罪を犯そうとしている者達を嘲笑うかの様に。

「さぁwww【女王】と【セクターセブン】の戦争までwww後、三日ダヨwww」




【女王】との戦争開始まで、後【72時間】





次回Program3
「Irregular/Queen」

βテスト版だから長くは続かないので
そこんところ注意してね☆

Re: Orbit/ZERO(βテスト版) ( No.3 )
日時: 2019/11/29 15:18
名前: 祝福の仮面屋

「【ケテル】、準備は整った?」

【女王】は目の前にいる《何か》、【ケテル】にそう問うた。すると【ケテル】は答える、真面目そうな態度でありながら、それはそれはとてもおちゃらけて見える。
【ケテル】は答える
「ニュートンに行かせようwww彼らにとって彼女ほど厄介な相手は居ないよwww」
と。
それを聞いた【女王】はーーー

「貴方はふざけているの?」

【怒り】を露わにした。
ここは、【女王】が統治する四つの塔の一角。【女王】の名を《ボナンザ》、塔の名を【アバルシア】、激昂寸前の【怒りの女王】を前に危機を感じたのか【ケテル】が弁解しようと言いかたを変える。

「おぉ怖wwwそう怒らないでよ【女王】さんwww小皺増えるよ?www」
「消し炭にされたい様ね」
「おっと間違えた、だけどさwwwザギは拘束具こそ付いてるけどwww戦闘に関しては最強のAIだwww次にメフィストだけどwwwこの二体を送り込めば大丈夫だよwww」

すると【ケテル】は、【女王の間】に一つの檻を出現させた。中に入っているのは、金属質の装甲に紅い格子状の瞳、そして血の様なドス黒い赤の拘束具を身に付けていた。
恐らく、これが【ザギ】だろうと【ボナンザ】は確信する。そして【ボナンザ】と目を合わせた【ザギ】が、【ボナンザ】に向かって飛び掛かろうと雄叫びを上げた。

『ヴォ"アア"ァア"ア"ア"ァァ"ア"アア"!』
「あら、随分な挨拶ね…腹立たしいわ」

【ボナンザ】は所持していた杖を【ザギ】に向ける、すると【ザギ】は本能的に危機を感じたのか、雄叫びを止める。暴走AIでさえ、従わざるを得ない【女王】の実力に【ケテル】は褒め称えると同時に、警戒する。

【この女は、今の自分で殺しきれるか?】
と。

狂えるAI【ザギ】を従えた【ボナンザ】は、【ケテル】に眼光を向ける。

「《イージス》が動き出したのは本当?」
「うんwww本当ダヨwww」
「あくまでも私を倒せる算段ね、全くもって腹立たしいわ…、【調律者】を向わせなさい」

すると、【ボナンザ】の後ろにコートを羽織った男が現れる。この男が【調律者】であり名を【ファウスト】、対象を血の果てまで追い詰め確実に葬る闇の【殺し屋】。
【ボナンザ】は【ファウスト】に命令を下す、自分に仇なす者を、一人残らず皆殺しにする様にと。

「頼んだわよ?」
「承知」

瞬間、【ファウスト】の姿が消えた。
否、瞬間移動の類だろう、【ボナンザ】は天を見上げ呟く。

「もう少し、もう少しだけ待ってて」

かつて、互いを愛し合った者に向けて






戦争まで後【60時間】





Program3
「Irregular/Queen」









「なぁ、ヘンペル」

少年、一真は現在風呂に入っている。
隣に座るのは、《イージス》のメンバーであり【セクターセブン】の構成員ヘンペル、その隣には同じく【S7】構成員のクマグスが居る。ヘンペルはどうやら半分のぼせていたらしく、クマグスが「ヘンペル氏?」と声をかけた事で、やっとこちらを向いた。

「何だい?カズマ」
「お前、風呂苦手なのか?」
「あぁ、湯当たりが凄くてね」
「じゃあ何でまだ入ってるんすか…?」

クマグスの疑問は最もだった、湯当たり酷いなら何故今なお入っているのだろう、それに比べてクマグスは意外と大丈夫らしく、本を読む有様だった。
一真の視線を感じ取ったのか、それともそろそろ本題に切り込むべきか判断したクマグスが、話を本題に切り替えた。
新たな情報も手にして

「さっき【女王】勢力の盗聴したんすけど、やばい奴が来たっすね…」
「ヤバい奴?」
「【ファウスト】と言えばわかりますか?」

刹那、ヘンペルの顔が硬直する。
「誰だ、それ」と聞いて来る一真に、ヘンペルは説明する。

「【ファウスト】って言うのは、所謂【掃除屋】達の頂点に立つ者と考えて良い。少なくとも僕達では勝てない」
「ヘンペルでも勝てない相手か…」

ヘンペルは【S7】に於いてもかなりの実力者だろう、そんな彼ですら勝てない相手…想像が難しく、そもそもヘンペルが誰かに負けるイメージが無さ過ぎる。
情報不足だ。
他にも聞くべき事がある為、ヘンペルに質問しようとした瞬間、
ちゃぷんーーー
と、浴槽の水に波紋が広がりーーー

「見つけたぞ【特異点】」
「な!」
「【ファウスト】…!?」
「………カズマ!」

水の上に、【ファウスト】が立っていた。
そして次の瞬間、クマグスが【ファウスト】の首を刈らんと風呂場にある自身の刀を引き寄せ抜刀、真紅のヤイバが【ファウスト】の首を斬り落とそうとしたがーーー

「あまいな」
「くっ!?」

クマグスの刀が別の金属とかち合う、誰の物か?【ファウスト】は手を手刀へと変形させ、クマグスの一閃を防いだのだ。自身の斬撃を防がれたクマグスは絶句する、彼は【S7】随一の剣士、剣術…それも居合ともなれば彼に敵う者は二人と居ないのだ。
だがそこはクマグス、刀を下に滑らせ手刀を弾き飛ばす。
逆に絶句する【ファウスト】、援護しようと構えるヘンペルにクマグスは言い渡す。

「クマグス!僕もーーー」
「ヘンペル氏はみんなと逃げて下さい!僕が囮になるっす!」
「ーーー逃すと思うか?」

再度振るわれる【ファウスト】の手刀の一閃、そしてそれを器用に防ぐクマグス。大浴場は今、この二人以外の人間のの介入を許さない戦場と化していた。
とは言え戦況は変わっておらず、【ファウスト】の荒々しく正確無比な一撃一撃を、クマグスは防ぐのに精一杯な防戦一方の状況が続いている。
そして、数撃防いだ後にクマグスの防御が崩され、遂に【ファウスト】の凶手を肩口に深々と喰らい、クマグスから苦悶の声が響く

「ぐあああああああ!」
「クマグス!」

響き渡るクマグスの声、【メフィスト】の鉤爪はかなり深く突き刺さっており、クマグスが壁に押し付けられる度にグチャグチャと嫌な音を立てて入って行く。
【ファウスト】は心底呆れた様に、クマグスに語り掛ける。

「もう諦めろ、お前は動けん。それによしんば動けたとしても何が出来る?」
「そんな事…ないっすよ…!死に損ないにしか…出来ない事だって…ある…!」
「ほう、なら何が出来る」
「例えば…時間稼ぎ…!」

【ファウスト】が目を見開く、すると浴場の扉が破壊され、一人男と二人の女性がやって来た。
その三人を見てクマグスは安堵の息を漏らす。

「よくやったクマグス、後は当方達に任せて休んでいろ」
「無事か?無事なら退避していろ」
「貴方には、私達の仲間を痛め付けてくれた借りを返さ無いといけませんね」
「遅いっすよ…三人共…」

ローゼン、ニュートン、ダ・ヴィンチ
この三人こそ、【S7】のスリートップにして《イージス》の指導者、ダ・ヴィンチが振り上げた右腕を、優しくゆっくりと振り下ろす。だが【ファウスト】に目立ったダメージは見られなかった。勝利を確信した【ファウスト】はニヤリと口角を上げる。

「攻撃のつもりか?残念だったが俺の命を刈り取るまではーーー」
「貴様は何を言っている?当方はとうの昔に攻撃したぞ?」
「貴様こそ何を言ってーーー!?」

刹那、【メフィスト】の肩口から血飛沫が上がる、驚愕のあまり目を白黒させる【ファウスト】、そして彼の反応に「やれやれ」と言った感じで口を開くダ・ヴィンチ。

「なんだ貴様、動体視力には自信があるんじゃなかったのか?この程度も見破れんとは拍子抜けだな」
「黙れ!」

ダ・ヴィンチの両目を狙った手刀の突き、その凶拳は正確にダ・ヴィンチの両の瞳を穿つはずだったーーー

「遅い、単純過ぎるわ」
「ぐっ…おおおおおおお!」

カウンターを喰らいよろける【メフィスト】、しかし最後の意地とでも言うべきか【メフィスト】は手刀を地面に突き立て、衝撃波を起こし床材を粉砕した。
舞い上がる土埃、不意を突かれダ・ヴィンチ達は一瞬だが動きが止まってしまう。

「小細工を…」

煙を払うが、煙が晴れたその場所にメフィストは居なかった。
しかし、メフィストのいた場所には、一通の手紙が置いてあった。ダ・ヴィンチはその手紙を手に取り、中の文章を読む。
そこには、新たな情報が記されていた。

「何と…!」
「どうしました?ダ・ヴィンチ」
「これは…【女王】との決戦の日が、近まるかも知れんな」
「「「!?」」」
「二日後、【女王】に奇襲を仕掛ける!皆の者、我らの大義の旗の下、【IRIS】の平和を手に入れる為武器を取れ!」

ダ・ヴィンチの掛け声と共に、多くの者達が声を上げる。





【女王】との戦争まで後、【48時間】








次回Program4
「Decisive Battle/Tower Of The Queen」

Re: Orbit/ZERO(βテスト版) ( No.4 )
日時: 2019/11/29 19:57
名前: 祝福の仮面屋

「くっ…!」
「おーおー、こりゃまた手酷くやられたなぁ?【ファウスト】よ」

聞き覚えのある声が聞こえる、人を小馬鹿にした感じであり人の心を見透かす様な声、ファウストは不機嫌な顔をして声の方に目を向ける。するとそこには、一人の男が立っていた。
その男はマントを羽織り、鳥の頭蓋骨の様な形状の肩当てをしていた、死神の様な風貌の男だった。

「貴様も、随分と様変わりしたじゃ無いか…【メフィスト】」
「そう言うなよ、こうでもしないと【調律者】は生活が面倒なんだぜ?」

【メフィスト】と呼ばれた男は、半ば愚痴をこぼす様に口走る。この男【メフィスト】は、ファウストの主である【ボナンザ】とはまた別の【女王】である【エルフラム】を統括している【女王】、【ローズ】の使いの者だ。
【ボナンザ】と【ローズ】、お互いの仲は物凄く険悪な為、情報を交換する際はいつもこうやって使いの者を派遣する。だからこそ、仕事柄もあるのだが共に行動する機会が多いこの二人は、【女王】二人とは相対的に結構良好な仲だったりする。

「【メフィスト】…お前の力を貸せ、【セクターセヴン】の連中を皆殺しにする」
「おいおい、それやったら俺がお嬢にブチ殺されちまうから」

そう苦笑いしながら、【メフィスト】はこちらに歩いて近づいて来る、『この男はやはり底が見えない』ーーーと考えていた刹那

「ッ!?」

ドスッ、と何かがファウストの心臓を貫いた。ファウストは現状を把握する為に胸元を見ると、【メフィスト】がファウストの胸部を貫き、彼の心臓を手に持っている。
ガフッと零れ落ちる、意識していないのに止め処なく口から溢れ出て、胸元に留まらず足元も真っ赤に染め上げる赫い赫い鮮血。

「【メフィスト】…貴様…!」
「悪りぃね、お嬢がこうしろって言ってたもんでね」

心臓を持った手を胸部から引き抜く【メフィスト】、ファウストの体がまるで糸の切れた人形の様に床に崩れ落ちる、一歩でも逃げ、【ボナンザ】に事を知らせようとしたファウストの後頭部に、変形し鋭利な鉤爪となった【メフィスト】の手甲が押し付けられる。
拘束を解きたいが動けない、【メフィスト】は腕を振り上げ刺突の構えに入る、ファウストは弱々しく上を向き、【メフィスト】に最後の抵抗と言わんばかりに命乞いをする。

「待て…本当に【ローズ】の意思か…!?」
「当然、あと【ボナンザ】嬢も言ってたぜ?『あの役立たずはもう殺して良い』ってさ」
「嘘だ…うそーーー!」

グチャリ、と躊躇無く握り潰される心臓と頭を突き砕かれるファウスト、どこに拘っているのか脳漿と骨片、そして赫い血液が飛散した。
【メフィスト】は、心底嫌なものを見たと言わんばかりに不機嫌な顔をしてファウストの死体を蹴り上げる、そして蹴り上げたファウストの死体を細かく斬り刻む。【メフィスト】の周りには、《元》ファウストだったよく分からない肉片が散乱していた。

「お嬢は快楽的サイコパスでね、もう行っちまったよ」

彼女は、【何かを壊す】事に喜びを感じている傾向にある、無論AIだってその対象の一つだ。皮肉と悲哀を込めて、ファウストだった肉片に【メフィスト】は声を掛ける。

「可哀想に」

と。




【IRIS崩壊】まで後、【36時間】





Program4
「Decisive Battle/Tower Of The Queen」





「まず、皆にはこれを見て欲しい」
「これは…?」
「【Keter】と名乗る者からだ」

ダ・ヴィンチが、とあるメッセージの発信者の名を告げると、集まっていた【S7】メンバーのざわめきが聞こえて来た。だが、ダ・ヴィンチも話を滾るわけにもいかず、【S7】の面々を静かにさせる。
皆が静かになった事を見計らって、ダ・ヴィンチは話を続けた。

「おそらくだが、この【Keter】と言う者の名が本当ならば、今すぐここに【女王】が来る可能性もある」
「その【女王】が、【ボナンザ】か【ローズ】か【エリー】か【ソフィア】かが分からない、ってとこですかね」
「そう言う事だ」
「話遮って悪いんだけどよ、その【Keter】って誰なんだ?」

【Keter】と言う名は聞いた事が無い、いや一真は【IRIS】の開発に携わっていないから当たり前なのだが、何処か引っ掛かる疑問に耐え切れなかった。その一真の質問に答える様に、ダ・ヴィンチは話を始めた。

「まず端的に言おう、【Keter】は…【IRIS】を追放された者だ」
「【IRIS】を追放された者…!?」

一真には思い当たる…、というか思い当たる節があり過ぎて絶句した、何を言おう
【次世代型VR《IRIS》】
このゲームの内容が、かつて友人の見せてくれた小説の内容に似ていたのだ、少年はその小説を機に小説家デビューを果たし、しかも一説では【IRIS】開発にも携わったと言う噂もある程だった。

「聞いてくれ、皆」

この事を、皆に言うべきだと判断した一真は口を開く、あたかも一つの物語を淡々と読み上げて行く様に。

「まず、この【IRIS】の世界観についてなんだが、俺の友人の書いた小説にソックリなんだ。しかも、世界観から何やらがめちゃくちゃ似てる、その【Keter】って奴も居た」
「本当か?序章から話してみてくれ」
「あぁ、その小説の主人公は男と女2人なんだ、そしてその2人は強盗に襲われここに逃げ込む、そして迫り来る【女王】を追放する。そんな物語だ」

刹那、一真にゾッと悪寒が走る。
【IRIS】から追放された挙句に抹消された筈の【Keter】の存在、そして【女王】の進撃、強盗の襲撃で【IRIS】へと侵入、何から何までがあの小説と合致している。みんなは話に戻っているが、物語が急展開を迎えるのはここからの筈だ、この会議の途中に【女王】がここを襲撃して来る。
これも言うべきか?いや、無理にプレッシャーを掛ける訳には行かない、それにあの小説では【女王】はあまり強くなかった筈だ。たとえ来ても問題ないだろうーーー



コンコン、とドアがノックされる。
接待に行くピタゴラス、止めるべきだったのに止められなかった愚かな自分を、一真は心から呪った。

「ハ〜イ、お邪魔〜☆」

そう陽気な挨拶をしながら、ピタゴラスを投げ捨て少女…【女王】は現れた。

「な!?【女王】だと!?」
「そ、アタシは【ローズ】って言うの!それでね?貴方達にとってさー、一番楽しい事って…なぁに?」
「ッ!」

【女王】…【ローズ】の無邪気とも言える笑顔に、【S7】の面々が硬直する。
顔をしかめたままの【S7】の面々を見た【ローズ】は、明らかに機嫌を悪くした。



その無垢な瞳に、明かな殺意を宿して



「アタシの好きな事はね?【何かを悉くぶっ壊す】事なの!」

瞬間、ローズが引き連れていたビットから次々と光線が放たれる、光線は貫通力よりも質量に偏っていたらしく、当たった者達が次々と肉片に変わって行く。

「やめろ…、やめてくれ…!」

脚をやられたのか、動けないダ・ヴィンチが弱々しく腕を伸ばすが、一人一人と潰され、消し飛び、死んで行く。誰一人と助けられないまま、仲間が死ぬ様を見届けている、ダ・ヴィンチの瞳には涙が溜まり。

滝の様に零れ落ちた。
そしてーーー



「やぁ、大変そうだねwww」
「お前は………!」

そこには、【ケテル】が居た。
全てを嘲笑う猫の様な真っ黒いアバターは、ダ・ヴィンチと向き合った。
驚愕の表情のダ・ヴィンチと笑っている【ケテル】、そして残るは一真の三人。

「あれ?もう壊れちゃったの?」

【女王】は…ローズは笑っている、弱き者を、亡者を、全てを。

「【ケテル】………」
「何かな?www」
「どうすれば…勝てる…?」

ダ・ヴィンチは【ケテル】に質問する、どうすれば【女王】に勝てるか、どうすれば、この世界の平穏を手に入れられるか。
【ケテル】は、一真を指差しこう言った。

「簡単さwwwカズマ君、いや【特異点】がwww2代目の僕になれば良いノサ!www」

つまりはそう言う事だ、平穏を手に入れる代償として、人間を辞めろ。

簡単だ、この世界には特に思い出がある訳では無いが、思い入れはある。たった三日しか居なかったのに、だ。
ヘンペルやメビウス、そして【S7】の皆。彼らは余所者である自分に、分け隔てなく接してくれた、だが自分はどうだ。
皆が戦っていたのに、自分だけこの有様だ。恥ずかし過ぎて、愚か過ぎて目も当てられないし、何より穴があったら入りたい。
だが、やっと自分にも戦える力が手に入るのだ、世界の平穏を手に入れる為なら、薄っぺらい人間の命一つ位…神にくれてやる。



「お前を受け入れれば…勝てるんだな?」
「勿論さwwwただwww君は人間を辞めるけどwww本当に良いのかい?www」
「構わねぇよ」



手を伸ばす、【ケテル】に触れる、真っ黒い波動が溢れ出す。



最終決戦、開幕














次回Program Final
「Re start/For IRIS」

Re: Orbit/ZERO(βテスト版) ( No.5 )
日時: 2019/12/02 19:29
名前: 祝福の仮面屋

「か、カズマ…」
「なになに?今度は一体、どんな面白いの見せてくれるの?」

困惑するダ・ヴィンチと、興奮を抑え切れずに笑みを漏らすエルフラムの女王【ローズ】。あの冷静なダ・ヴィンチが、ここまで困惑する程なのだから今の自分はかなり元の外見とは掛け離れた姿なのだろう。
『大丈夫かい?www』と、今なお笑っている【ケテル】の声が、直接脳内に響いて来る。

「問題ねぇ」
『そっかwwwなら良かったよwww』
「さて【ケテル】よ、どうすればあの【女王】を倒せる?」
『あの状況じゃあwww追放以前に削除するしか無さそうだねwww出来るかい?』
「やれる限りは」
「さっきからブツブツと…貴方もぶっ壊れちゃえ!」

【ローズ】の引き連れるビットから放たれる殺戮の光弾、己の勝利を確信した【ローズ】から笑みが零れるが、その表情は直後に驚愕の表情へと変わって行く。
何故か?
【ケテル】を受け入れる事で、アバターもAIもCPUも…果てには【女王】すらも超えた存在となった一真に、悉く打ち払われたからだ。
驚愕に染まった【ローズ】は叫ぶ。

「待ってよ【ケテル】!そんなの聞いてないじゃん!」
「そりゃ君達には言ってなかったからねwww君達【女王】が、暴走した時の為に隠しておいた【奥の手】であり【ジョーカー】、楽しんで貰えるかな?www」

【ローズ】の少し怒りの混じった叫びに、【ケテル】は嘲笑うかの様な声を上げ彼女を小馬鹿にした様に返す。
そしてローズは、怒るでもなく取り乱すのでもなく少しの硬直の後、天を仰ぎ高らかに笑い出した。

「…ふふっ、あはは…あははははははは!流石【ケテル】!やっぱり一筋縄には行かないよね!良いよ…貴方の【奥の手も】私がぶち壊してあげる!」

彼女の笑い声はまるで天からの祝福の様に美しく、そして全てを崩壊させる破滅のラッパの様に恐ろしく、鈴の音の様な声で、彼女は笑い一真は駆け出す。

この戦いを、終わらせる為に

【IRIS崩壊】まで
後ーーーーー【24時間】





「くっ…!」
「あはははっ!どうしたの!?その程度!?ならつまんないから壊れてよ!」

一真は、笑いながら猛攻を仕掛けて来る【ローズ】のスピードに追い付けず最初こそ防御出来はていたが、次第に彼女の攻撃に被弾していく様になっていた。
十撃に零、九撃に一、五撃に三と徐々に被弾回数を増やして行く一真、彼は確信する。
【女王は、手駒に頼らず自ら戦った方が確実に相手を葬れる。】
と。
【女王】の猛攻の前に力尽きたのか、一真は地面に膝を付いた。

「カズマ!」
「あはっ♪、チャンス到来!」

ダ・ヴィンチの悲痛な叫びと、一真が膝を付いた隙を見逃さず追撃を加える【ローズ】、彼女が一真の頭を砕き割ろうと拳を振りかぶった瞬間ーーー!

「舐めんな…!」
「ッ!」

本能的に危機を感じ取ったのか、バックステップで一真から距離を取る【ローズ】。そして先程【ローズ】の居た場所には、一真を中心として範囲数メートルに黒い棘が剣山の様に生え地面を貫いていた。
「…チッ」と、仕留めきれなかった事に舌打ちをする一真と久方振りの遊び甲斐のある相手の登場により、さらに興奮と歓喜を高める【ローズ】。【ローズ】は、満身創痍一真に賞賛の言葉を与える。

「中々やるね、今までの相手で貴方は一番強い、こんなクレバーな戦い方をする奴なんて君くらいだよ!」
「なら……油断しねぇこったな……!」
「あっそ、油断なんて………ッ!?!?」

刹那、【ローズ】の体を貫く無数の棘。
【ローズ】は原因を確定させる為に目を向けると、足元に黒い紋章が描かれていた。【ローズ】はガフッ、と血の塊を吐き倒れ臥す。
この戦いは終わった、だが【IRIS】の崩壊が止まらない、何故かと思って時計を見てみると…時計の針は【24】に迫っていた。
一気に【塔】まで行こうと力を込めるが、一真の体は勝手に倒れてしまう。

「くそぉッ!早く…行かねぇと…!」

必死に這うが、時間に追いつかない。
【IRIS崩壊】まで、あと【10秒】

「はぁ…はぁ…待ってくれよ…!」

【9秒】

「やぁ、カズマ君www」
「【ケテル】…何の用だ…!」

一真の目の前に【ケテル】が現れる、彼の横にはカギ型のオブジェクトが浮いていた。
後ーーー【6秒】

「これはPrime Reboot Code、間に合わないならwww最初っから世界を変えちゃえば良いんだよwww」

【5】

「そいつを…使えば…世界が…歴史が、変わるんだな…?」
「あぁwww君にしか任せられない事さwwwやってくれるよね?www」

【4】

「……たせ」

【3】

「鍵を………寄越せ!」

【2】

「言うと思ってたよwww」

【1】

「Prime Reboot Code…起動!」

【0】
になった瞬間、【IRIS】が眩い純白の光に包まれる。それは、【IRIS】の新たな誕生を告げる鐘の音で【IRIS】の破壊と再生を司る【根幹】でもあり、【女王の暴走しなかった】世界へと【IRIS】を書き換える。












【1年後】

「さぁ!皆さまお待ちかね【IRIS】の正式リリースが開始となりました!」

ワッと周囲から歓声が上がる。
あの日から一真は、人間では無く【IRIS】を統括する【唯一者】となった、実はあの日からかなり月日が進んでいたらしく強盗は逮捕され、沙耶…メビウスも今は隣にいる。

「あの日から、もう1年ですか…」

「月日が経つのは早いですね」と、メビウスは言ってくる、とは言えど今の一真
【新IRIS統合者《カイル》】
には、全く関係ない話だ。
何せメビウスとカイルはもう既に、年齢という概念などとうに超越しているのだから。

「行きましょうか、カイル」
「あぁ、行こう」















Program,Final
【RE start/For IRIS】

Page:1



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