二次創作小説(紙ほか)

一松の彼女になりたい人、お越しください!
日時: 2016/05/26 00:20
名前: 白雨

 白雨です。
 普段はイチルキの二次小説ばかり書いていますが、今回は『おそ松さん』関連を書いてみました。
 私は一松が一番好きで、小説のジャンルとしてはNLが好きなのですが、おそ松さんの女性キャラは少ない…。
 というわけで、ヒロインは『これを読んでいる貴方』という事にします。
それでは、どうぞ。

第一話『出会い』

 彼との出会いは、12月の、カレンダーの通りに寒い日だった。
 バイトを終えて家路につき、曲がり角を曲ると、すぐ目の前に何かやけに黒いものがあった。ふさふさの毛と長い尻尾、三角形に近い形の耳が確認できる。

 猫だ。

 道路の隅で私に背を向けながら、何かを一心不乱に貪っている。食事の邪魔にならないよう、足音を立てぬように猫の死角に移動し、猫をそっと見守った。
 私は猫が好きで、子供の頃からずっと『飼ってみたい』と思っていた。
 けれど母親が猫アレルギーなので、一緒に暮らしている私も猫を飼えず、こうして、見かけた野良猫を観察するくらいの事しか出来ない。

 食事を終えたらしく、猫が歩き出す。この道は車があまり通らないから、堂々と横切っても平気だという事を理解しているかのような素振りだった。猫のクセに。

…なんて、感心していたら。

 近付いて来たエンジン音。こちらに曲がってくる車は少ないから大丈夫、なんて油断している場合じゃなかった。
 車の、猫が居る側のウィンカーは点滅していた。猫が車に気付いたのは、ちょうど、道路の真ん中。
 走って渡りきってしまえば間に合うかもしれないのに、足がすくんでしまったのか、猫はカチン、と固まり、動きを止めてしまった。





 気付いた時には、体が動いていた。























 耳障りなクラクションの音が静かな道に響く。私はそっと目を開けて、自分の胸元を見た。
 あの瞬間、咄嗟に抱きかかえて一緒に車を避けた猫は無事だった。私は安堵の息を漏らし、猫を放して立ち上がった。

「……いたっ!?」
 ハイヒールを履いているというのに勢いよく立ち上がったのが良くなかった。ばたん、とお尻から自分の体をアスファルトに打つ。思いっきり足を捻ってしまった。
 猫を助けた時に、というのならもう少し格好良く見えただろう。何も関係ないところで足を捻って尻餠だなんて。色んな意味で、痛い。
 はーあ、という盛大な溜息と、背後から聞こえてきた「…ねえ」という、男性特有の低い声が重なる。
「ひゃあっ!?」
 驚いて悲鳴を上げながら振り返ると、「ああ…ごめん。脅かすつもりじゃなかったんだ」と、少し狼狽の混ざった声で謝ってきたので、こちらこそ大声出してすみません、と謝っておいた。
「あの…」
「はい?」
「その…さっきの、見てた」
 さっきの、というのは私の救出劇の事だろう。それがどうしたのだろうか。
「あの猫、俺の友達なんだ。
だから、その…助けてくれて、ありがと」
 そう言うと彼は私の目の前に来て、背中を向けてしゃがんだ。私が首を傾げていると、彼が口を開く。
「今から俺の家で手当てするから。
お袋もいるし、やましい事は考えてないから、大丈夫」
 つまり、おぶされ、という事だろうか。相手が知らない男性という事もあったので、一瞬どうするか迷ったが、この状態で無事に家に帰れるとは思えなかったし、自宅に電話したところで、父はまだ仕事をしているし、車を持っていない母が私を抱えて帰るなんて多分無理だ。
「じゃあ…失礼します」
 私は彼の背に、そっと身を預けた。う、と小さな呻き声が聞こえる。
「重いですか…?」
 返答次第では家にあるポテチをどうにかしなければ、と思いつつ訊く。
「いや…平気」
 彼はそう言うと、私を背負ったまま立ち上がって、フラフラと歩き出した。
「あの…ありがとうございます」
「…いいって」

 それが、私と彼の出会いだった。
〈続〉

ストーリー、形式等を大幅に変更しました。(2016年4月5日)

後書き
第一話『出会い』、いかがでしたか?
今回は一松があまり出てきませんでしたが、第二話以降はガンガン出す予定です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
                         白雨












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Re: 一松の彼女になりたい人、お越しください! ( No.9 )
日時: 2016/05/08 14:07
名前: 白雨

白雨です。前回、思いっきり話を暗くしてしまいましたが、今回は安心してください。
一松が逆作画崩壊ならぬ逆キャラ崩壊気味なので、苦手な方はご注意ください。


第5話『月』


「一松…さん?」
 私が、おそ松さんの時と同じように言うと一松さんは「ん」とだけ言って頷いた。
 そして、2人で黙り込む。
「「……」」
 沈黙が空気を支配し、微弱なそよ風と共に流れる時間と、心の痛みが比例する。


「…あ」
 不意に、一松さんが小さく口を開く。どうしたのだろう、と思って少し目を大きく見開くと、ぼろっと熱いものが零れ落ちた。
「…え…?あれ…?」
 拭っても拭っても、止まらない。ブラウスの袖が濡れ切って涙を含めなくなった頃に、一松さんが口を開いた。
「…何か、あったの?」
「…いえ…」
 大嘘だ。けど、もう貴方には関係ない。
 そういう意味を込めて、そう返事したのに。
「…じゃあ、そんな顔、しないで。
その…笑ってる方が…似合ってる、と思うから。俺…」
 何で。
「何で、そんな事を…?」
 私の事はどうだって良いでしょう?貴方には、もっと大事な人が居る筈なのに。
 何故、そんな事を私に言えるの…?
 しゃくり上げる私に、一松さんは俯いて少しの沈黙をよこした後、顔を上げて告げた。

























「…好き、だから」
「……え?」
「アンタの事、好きだから。だから…その…出来れば笑ってて欲しい、っていうか…」

 嘘だ。

 私の脳裏に、あの日の一松さんと、女性の姿が蘇る。
「…じゃあ、あの時一緒に居た人は…」
勇気を出して聞いてみる。僅かな希望を懸けて。
「…あの時?」
「2週間くらい前…ここで一松さんと一緒に猫を見ていた、茶色い髪の女の人です…」
 そう言うと、一松さんは「ああ」と納得したように零した。
「…あれ、ただの幼馴染」
「え?」
「知り合いん家に遊びに行ったら、そこで飼われてた猫が可愛かったらしくて、自分も飼いたくなったって言ってて。それで、何匹か紹介してただけ。
…もし、そのこと気にしてたんなら…その…ごめん」
「…そう、だったんですか…」
 不安になっていた自分が馬鹿らしくて、また涙が溢れ出した。
さっきとは違う、悲しみを理由にしない涙が。
「うっ……く……」
 ブラウスの袖は、乾かない。

























 嗚咽も涙も止まり始めた頃、一松さんが口を開いた。
「…で、どうなの」
「…え?」
「アンタの答え、まだ聞いてない。
俺と…その…」
 付き合ってくれるのか、という旨の事を問いたいのだろうが、続きを紡げずにいる彼の瞳を真っ直ぐに見つめると、一つ深呼吸して、言った。
「…私も、好き…です」
 多分、真っ赤だ。私の顔。だって、彼がそうだから。
「……ありがと」
 ぼそっと言って、一松さんは背を向けてそそくさと立ち去ろうとする。私は慌てて彼の後を追い、先端がポケットに差し込まれている彼の腕をがし、と掴んだ。
「…何?」
 一松さんが気まずそうに言う。私を見つめる彼の目が苛立ちを孕んでいない事に安堵した後、私は口を開いた。
「その…お時間ありましたら、ここで少し、猫を見ていきませんか?」
「…今から?」
 彼がそう反応するのも当然だ。空は黒く塗り潰され、月をメインに幾つかの星が輝いている。
「本当に、申し訳ありません。
…でも、私…猫を見てる時の貴方が、一番好きだから」
 一松さんが、半開きにしていた口を一旦閉じてそっぽを向き、再び口を開いた。
「…良いよ。アンタが、好きだって言ってくれるなら」
 でも、アンタは大丈夫なの?という彼の問いに、小さくかぶりを振った。
「良いんです。だって、今日は…」

























 
 月が、綺麗だから。
〈続〉





後書き
やっとここまで来れました。
次回は第6話…ではなく、一松視点の話を番外編として書こうかな、と考えています。色々、書きたかったことが抜けてしまったので。
最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。

Re: 一松の彼女になりたい人、お越しください! ( No.10 )
日時: 2016/11/28 14:44
名前: 白雨

白雨です。
予告通り、番外編を書きました…が、あくまで一松視点であってナレーション?は一松ではないのでご注意ください。


番外編『言霊』


 それは、一松が彼女と出会ってから、5ヶ月程後の事だった。
「…一松さ。好きでしょ、あの娘の事」
 唐突で、かつ答えがイエスであるおそ松の問いに、一松は何も返さなかった。
 他の兄弟達は思い思いの場所にそれぞれ出掛けていて、部屋には一松とおそ松しか居なかったので、この会話を聞かれることはなかったが、だからといって口を挟まれるのも嬉しい事ではない。だから、黙秘権を行使させてもらったのだ。が、おそ松は構わずに続ける。
「一目惚れだったんだろ?まあそうだよね。ただでさえ美人だってのに、カッコよく友達助けてもらっちゃって嬉しかったんだろ?そりゃ、一目惚れもするよ」
「…………」
 図星。でも、無視。
「『…………』じゃなくてさ、何か言いなよ」
「…そんなに好きなら告白すればいいだろ」
 告白されたら困る。のに、虚勢を張る。
「まさか。弟の好きな人を横取りしようなんて思わないよ」
それに俺はトト子ちゃん一筋だしー、とおそ松が言った事で、一松の心に僅かな安心が生まれる。が、その寿命は10秒にも満たなかった。
「で、どうするの?」
「は?」
「『は?』じゃなくて。告るの?告らないの?」
 彼女と出会ってから、ずっと自分自身に問いかけてきた事と同じことを問うおそ松に、一松は自分の時と同じように首を横に振った。しかしおそ松は芳しい反応をしない。
「…何だよ。もう良いだろ」
 そう言って立ち上がり、『出掛けてくる』と言って部屋のドアに手を掛ける。おそ松はそれを引き留めはせず、代わりに1つの言葉を一松に投げ掛けた。
「嘘つくなよ。自分にだけは」
「……」
 一松は、静かにドアを閉めた。





























「…わかってるよ」
 閉じたドアの前で、一松はぼそっとそう零した。
「でも…でも、あの娘が俺の事なんか好きになってくれるワケない。
例えなってくれたとしても、勿体無い。あの娘は俺なんかより、もっと良い奴と一緒に居た方が…」
「関係ないだろ、そんなの」
 一松の声を遮って、おそ松は強く言う。
「うちの父さんと母さんだって、この間離婚寸前までいって…でも、最後には仲直りしたじゃん。そういう切っても切れない仲っていうか…運命の赤い糸?みたいなのだと思うよ。恋愛って。
まあ要するに、大事なのは『どんな奴か』じゃなくて『誰なのか』なんじゃないかな、って事だよ」
「……」
「だから自信持てよ。失敗しても長続きしなくても、別にどうってことないから。鮭のおにぎり作ろうとして、間違ってタラコ入れちゃったようなもんだろ」
 最後の喩えは、おそ松が下手なのかはたまた自分が馬鹿なのか、とにかく一松は意味を理解するには至らなかった。
 しかし、それ以外の言葉は、一松の猫背を蹴飛ばすには十分すぎる力を持っていた。
「……ん」
 部屋の前から遠ざかっていく足音を聞いて、おそ松は満足気に微笑むと、大きな欠伸をして横になった。
 
























「……」
 ここに来るまで、そして来た後も全身に緊張の汗をにじませながら、一松は猫じゃらしを持って、彼女が来るのを待った。
「あ、やっぱりいた!」
 女性の高い声。だが、それは比較的最近知り合った彼女のそれではなく、もっと、ずっと昔から聞いてきた声。
「……トト子ちゃん」
何の用?という一松の細々とした声は、トト子の「あのねー!今日は一松君に用があってー!」という、良く言えば元気な、悪く言えば喧しい声に声に掻き消された。
「こないだ行った知り合いの家の猫がねー、すっごく可愛くて、それで私も飼いたいなー、って思って。でも、ペットショップのだと高いから、野良猫拾おうかなと思って。それで、一松君に相談しに来たの」
「ああ…うん」
 以前の一松であれば、こうして自分だけがトト子に話し掛けられたというだけでも有頂天になっていただろう。が、既にトト子への認識を『只の幼馴染』にしていた今の彼にとって、こんなことは大きなリアクションをするには値しない事だった。
「どの猫が来るかは分かんないけど…気に入った奴が居たら言ってよ」
「うん!」


 こうして一松はトト子と2人、隣り合って座って暫く猫を見ていた。
 その時、ここに近付いてすぐに立ち去った人影があったのだが、それに気付いたのは黄色い目の黒猫だけだった。

























 次の日、彼女は来なかった。
 バイトをしているらしく来ない日も勿論あったのだが、今日と同じ曜日の日はいつも来ていたので、一松は少し違和感を感じたものの、特に気には留めなかった。



 1週間後。
「ねえ、一松兄さん、もういい加減諦めたら?」
「そうだよ、もう1週間も来てないんでしょ?」
 あの後おそ松がその軽い口を見事に滑らせた所為で彼女の事を知っているトド松とチョロ松の制止を無視して、一松はサンダルを履いた。
「彼氏ができたとか、猫に飽きたとかに決まってるよ」
 しつこいチョロ松に「五月蝿い」と吐き捨てると、一松は玄関のドアを開けた。



 ポケットに手を突っ込んで歩き、目的地に着く。彼女の姿は勿論無かったが、それ以外の『友達』は何匹か居て、その中には彼女に助けられた黒猫も居た。
 一松は黒猫に歩み寄ると、その目の前にしゃがみ、頭を撫でながら静かに話し掛けた。
「ねえ…何であの娘が来なくなったか…お前、わかる?」
 返事のつもりなのか、単に自分がそうしたかっただけなのか、猫はただ「ニャア」と鳴いた。
「…ニャア、じゃ分かんないよ…」


 傷付きたくない。


 そんな事を考えないで、もっと彼女と話せば良かった。どんなに簡単な事でも良いから、もっと何か知っておけば良かった。
 一松が、後悔の念を拳に込めて地面を殴り付けようとした時、背後から、草を踏みしめる小さな音が聞こえた。
 振り向くと、待ち焦がれていた相手の顔が街灯に照らされて、一松の瞳の中に映し出される。

「一松…さん?」
「……ん」

 その日、彼はありったけの勇気を、言霊に乗せる。
〈続〉





後書き
はい。おそ松、完全に違う人でした。
次回は普通に6話です。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。


Re: 一松の彼女になりたい人、お越しください! ( No.11 )
日時: 2016/07/28 20:01
名前: 白雨

6話を書いたのでupします。
デートの話ですが、甘くないので、ここで土下座しておきます。



第6話『流儀』


 彼と、所謂「恋人同士」になってから、2ヶ月ほどが過ぎた。
 告白された少し後、私は彼の事を両親や数人の友人に話した。両親は快く受け入れてくれて、友人達も自分の事のように大喜びし、アイダに至っては抱き付いてきた。


 私達自身はというと、ぱっと見はそんなに変わっていない。いつも同じ場所で会って、猫と遊んでいるだけ。
 けど、そこに前のような沈黙は無い。彼は少しずつ私に話し掛けてくれるようになり、私もその分、彼に話し掛けやすくなった。
 変わった所は他にも沢山あるけれど、一番変わったのは、私の話し方だろう。



 彼の告白の後、一緒に猫を見ていた時、不意に彼が言った。
「…あのさ。
俺達、その…もう、恋人同士、だからさ。
…もう、敬語とかさん付けとか、いいから」



 今でも間違って咄嗟に敬語を遣ってしまう事はあるけれど、それを除けばそこそこ自然に常体で話せるようになった。



 これは、そんな幸せが、『当たり前』になりかけていた頃のこと。



























 私はこの上無いくらいにウキウキしながら歩いていた。向かう先は、いつもの場所ではなく、まず松野家。
 私達の、初デートの待ち合わせ場所だ。



 先週から一松くんと2人で計画し、今すぐにでも行きたい気持ちを抑えて抑えて、待ちに待った今日がやっと来た。
 これから始まるデートの事を考えると、自然と顔がにやけてしまう。松野家に近付いて、一松くんらしき人が立っているのを見ると、顔の綻びがさらに大きくなって、思わず、
「おーい!!!一松くーん!!!」
と、ガラにもなく叫んでしまった。振り向いた彼は少し驚いたような顔をして、でも、次の瞬間には微笑みを見せて、駆け寄ってきてくれた。
「おはよう。じゃあ、行こうか」
 そう言って、私の手をぱっ、と取る。普段の彼からは考えられない行動に、自分の顔が反射的に赤くなったのがわかった。
「で、どこ行く?遊園地?」
 ……え?
「えっと…この前、行く場所は決めたと思うんだけど…」
私が言うと、彼は一瞬顔に動揺を浮かべ、すぐにまた微笑んだ。
「あー、そうだっけ?忘れてた!
…で、どこだっけ?」
「えっと…」
 私が答えを口にする前に、彼は背後から一松くんに拳骨で殴られた。



……ん?



「何をやってんだクソ松テメェ…」
 地を這うような低い声で言って、相手の胸倉を掴む。どうやら私が今まで話していた彼は、一松くんではなくその兄弟―口調からして、『おそ松』さんか『トド松』さんだろうか。
「ゴメンゴメン!一松の彼女さんをとろうとした訳じゃなくて、ちょっとした悪戯のつもりだったんだけど、この娘思いっきり信じ込んじゃったから、それでつい出来心で…痛い痛いギブギブ!」
 一松くんが、おそ松さん(一松くんを呼び捨てにしていたから多分そう)にプロレス技をかける。おそ松さんのギブの声が届いていないのか、届いているけど無視しているのかは、一松くんのみぞ知るところだった。



































 その後、一松くんは外の騒ぎに気付いて出て来たチョロ松(とおそ松さんが呼んでいた)さんに止められ、改めて私達はデートの場所へ歩き出した。
「ごめん…本当に分からなくて…」
「……いいって」
 そう言いつつも、彼は不機嫌そうだった。でも、一松くんの紫色のトレーナーを着ていたおそ松さんだって、私が騙される程度には悪質だったという私の言い分も分かって欲しい。
 一松くんは、寄せた眉をなかなか離してくれない。こうなったら。
「じゃあ」
一松くんのジャージのポケットに手を突っ込んで、中にある彼の手を引っ張り出しながらぎゅっと握ってやる。一松くんの体が、びくっと跳ねたのが分かった。
「…これで、許してくれない?」
 必殺技『上目遣い』も使う。ブリッ子臭いから、あまり使いたくはなかったけど。
「うぅ…分かった、から…」
 観念したのか、一松くんは真っ赤な顔をそっぽに向けると、『かっちかち』という表現が大袈裟に聞こえなくなるくらい硬直した手で、ぶっきらぼうに私の手を握り返した。





























 そうやって歩くうちに、いつもの場所に着く。
「じゃあ、始めよっか。『デート』」
 そう言って微笑みかけると、一松くんはいつものようにぼそっとした声で「…うん」と言い、ポケットから猫じゃらしを2本取り出して、そのうちの1本を私に差し出した。


 そう。私達の初デートの舞台は、ここだ。


 普通の人なら、デートと聞けば遊園地とかを思い浮かべるだろう。私も、最初にそこを提案した。
 しかし、その時の彼の反応は「頬に嫌な汗を浮かべる」というもので、お世辞にも「芳しい」なんて言えなかった。
 彼はどこか猫に似ている。だから、人の多い場所や自分のペースで行動できない場所は苦手だろう。そう思った私は、頭に思い浮かべていた候補をほぼ消すことになった。
 その後も2人で慎重に(?)議論し、残ったのが、ここだ。
 アイダやサチコも目を丸くしていたし、一松くんも弟の1人に「何で初デートにそんな所選ぶの?馬鹿なの!?」とツッコミを受けたらしい。確かにこれは、寿司屋に行っていきなりデザートのチョコケーキを頼みだすのと同じかもしれない。でも、それは法律や規則で禁止されてはいない。それに、視点を変えれば、「自分達の好きな場所で初デート」という事にだってなるのだから、アリだといえばアリだろう、と思えた。


























 いつものようにしゃがんで猫じゃらしを動かす。ただそれだけだというのに、猫じゃらしを握る手がいつもより速く動いてしまうのは、たとえここがいつも来ている場所だとしても、「デート」という目的が空気中にふわりと存在しているからだろう。
 暫くそうしていると、一松くんが不意に口を開いた。
「ねえ」
「はい!…じゃなくて、何?」
 咄嗟に敬語を遣ってしまったので、訂正する。
「見なくていいの?」
「…え?」
「いや、だからその…好き、なんでしょ?
…猫、見てる時の顔」
 照れの所為か、一松くんが急にトーンダウンする。そんな所にも、またキュンとしてしまう。
「はいはい。これから見せて貰うよ」
「…べっ…別にっ、無理に見なくたって良いし!」
 口だけは強気にそう言って、一松くんはぐるん、と私に背中を向けた。
 その手の中の猫じゃらしは、いつもより速く動いて、猫の手を置いてけぼりにしていた。

























 腕時計をちら、と見ると、針は11時45分を差していた。
「そろそろお昼にしない?」
 一松くんの背中に声を掛けると、彼は「そうだね」と言って、顔をこちらに向けた。その目は、いつもより輝いている気がする。
 その理由を察した私は、微笑んでバッグから2人分の弁当を取り出し、片方を一松くんに差し出した。
「ありがと」
 そう、今日は、私が2人分のお弁当を作ってきたのだ。話すようになったとはいえ、好みの味付けだとか、そんな細かい事まで話したことはないので、お気に召すかどうかは微妙なのだが。
「美味しくなかったらごめんね」
 一松くんにそう言いながら、私も自分の弁当箱の蓋を開ける。
「…美味い」
 その言葉を聞いた瞬間に、顔が綻んだのが自分でもわかって、思わずついた安堵の溜め息と共に「良かった」という言葉が口から漏れ出た。
「アンタも食べたら?」
 一松くんの言葉に頷いて、それと同時にある事に気付いた。
「…どしたの?」
 私の手が止まったのに気付いた一松くんが、卵焼きを頬張りながら言う。私はありのまま、手を止めた理由を答えた。
「自分用の箸…忘れちゃった」
 どうしよう、と言おうとして一松くんの方に顔を向けると、目の前にミートボールがあった。
「箸が無いならこうすれば良い」
 一松くんが真っ赤になって言う。その声と箸を持つ手は震えていた。
 
 つまり、直訳すると、『俺と間接キスしてください』という事になるのだろう。一気に顔が火照った。
「…嫌なら、いいけど」
 深海のような色のオーラを出しながら、ぼそっと一松くんが言う。
(これは断ったらマズいやつだ)
 そう思った私は目を強く瞑ると、ミートボールに食いついた。人の一生で、心臓の動く回数が決まっているのだとしたら、私の寿命は今の一瞬で何年縮んだのだろう。
 そんな事を考えたのは一瞬だった。彼が、かつてないほど幸せそうな顔で微笑んでくれたから。

























 2つのお弁当を2人で分け合って、来ていた猫達にキャットフードを与えて、2人で並んで座ってそれを見ていた時、急に一松くんが私に寄り掛かってきた。
「ひぇっ!?」
 私が小さな悲鳴を上げると、彼はばっ、と目を見開いて「ごめん」と言った。が、その目はだんだんと普段の半目に、やがて薄目同然になった。
「ごめん…ちょっと寝かせて…」
 一松くんはそれだけ言うと、私の返事を待たずに目を閉じて、ぱたんと倒れ込んだ。ぼさぼさの髪を乗せた頭は、正座を少し崩したような座り方をしていた私の膝の上に丁度良く乗っかっている。
 その寝顔は、彼が普段見せている表情よりずっと穏やかで。
「…かわいい」
 いつもの彼のように『ぼそっと』、そう零したくなってしまった。

























 日が西に傾き始めた頃に、ようやく一松くんは目を覚ました。
「おはよう」
「…ん」
 一松くんが起き上がって、欠伸と背伸びを同時にする。その直後に私の携帯のアラームが鳴る。
「…ごめん。もうバイトに行かないと」
「…あ、そっか…うん」
 一松くんが残念そうに言う。
「また、やろうね。デート」
 私がそう言うと、「今度は寝ない」という返事が返ってきて、思わず吹き出してしまった。
「ちょっ…マジメに言ってるんだけど」
 むうっ、という効果音が似合いそうな顔をして、一松くんが言う。
「わかってるよ。ごめんね。
…じゃあ、また今度」
「…ん」
 そうやって、お互い手を振って別れた。


 そのすぐ先に、大きなジェットコースターがある事なんて、この時の私達には予想のしようも無かった。
〈続〉




後書き
 はい。糖分0のノンカロリーですね。健康にいいですよ。
 とりあえず、「一松にキスとかハグとかは無理があるかなあ」なんて考えたらこんなことになりました。
 画面の向こうで土下座しているので許してください。

 次回で最終回です。
 今回は最後なんか薄暗い感じになってますが、最終回はハッピーエンドなので、どうか見捨てないでください(このフレーズ前にも…)。
                             白雨

Re: 一松の彼女になりたい人、お越しください! ( No.12 )
日時: 2016/09/27 17:58
名前: 安ちゃん

神作です!!!!!!!
次回で最終回なのがちょっと残念ですが…。
でも!!次回も期待してます!!(プッレシャーとかになってたらすみません…。)

Re: 一松の彼女になりたい人、お越しください! ( No.13 )
日時: 2016/11/28 14:50
名前: 白雨

>>12
コメントありがとうございます!
全然プレッシャーとかじゃないです!むしろそう言っていただけると励みになります!
こちらこそ楽しみにしていただいているのに長期放置すみません<(_ _)>
今テスト期間中なので、終わったらいよいよ最終回いきます!

Re: 一松の彼女になりたい人、お越しください! ( No.14 )
日時: 2016/12/29 00:23
名前: 風愛夜白雨

白雨改め、風愛夜白雨です。
Twitter始めたので名前合わせました。
予告通り最終話です。
いきなり時間飛んでますが突っ込まないでください。



第7話『天の川』


一松くんと、所謂「恋人同士」になってから、4年と少し。
たくさん話をして、デートもして…でも、キス以上のことは、まだ。
これから話すのは、そんな、私達らしい、消極性を含んだ関係を築いていた頃のこと。

















いつものように、彼の隣で猫と戯れていた時、急にポケットのスマホが震えた。
「ごめん」
彼に一言そう言って、スマホの画面を見る。母からの着信だった。
「もしもし?」
ごく普通にそう言うと、母はすぐに来てほしい、と言った。
「どうしたの?急な用事?」
こちらは恋人様と一緒にいるのに「来てくれ」と言ったのなら、多分そういうことなのだろう。一体どうしたのだろうか、と思っていると、母の言葉が暗く発せられた。
「…!?」








病院のベッドで家族に囲まれていた祖母は、思っていたよりは軽傷だったけれど、重傷には変わりなかった。

『おばあちゃんが、階段で転んでしまって…』

まるでドラマを観ているような感覚だった。お年寄りの事故はよくある事だが、まさか自分の祖母がそんな事になるなんて、と。
階段、と言っても下の方の段から転落したこと、それによって大した勢いが出なかったこと、前のめりに転んだ為か脳に影響が出なかったこと。運が良かった、不幸中の幸いだった、とほっとしていられたのも束の間だった。
命に別状は無かったものの、祖母の足の怪我は酷く、これからは介護が必要になるらしい。
しかし、元から祖母と暮らしている私の叔母は、認知症である祖父の介護もしなければならず、祖母にまで手が回らないのだそうだ。
かといって介護士を雇ったり老人ホームに入れたりすればお金がかかる。そう考えれば、残された手は1つ。
私、母、父のうちの誰かが、遠く離れた祖母の家まで行って彼女の介護を行うことだ。
そして、父が会社に通勤してお金を稼ぎ、母が近所の沢山の人に慕われる今、誰が介護をしに行くべきなのかは言うまでもない。
「彼氏さんのこともあるんだし…私が行ってもいいのよ。家事なら出来るでしょ?」
帰り道で母はそう言ってくれたけれど、私は「考えさせて」としか言えなかった。

















戻って来るなり涙をぼろぼろ零して、嗚咽に消えかけた声で事情を話す私に、一松くんはかなり困惑しつつも最後まで話を聞いてくれた。
「私…どうしたらいいかな…?」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔で見上げる。どんなに不細工に見えようと気になんてならなかった。
「…行きなよ」

即答だった。

「…え?」

…引き留めないの?

「…行きなよ。おばあさんのとこ」
一松くんが繰り返す。同時に、空耳でなかったことが証明された。
「でも…私…」
一松くんと、離れたくない。続きを紡ごうとした私の手を、一松くんが両手でぎゅっと握った。すると、彼の手の温もりと同じ温度の、固くて円いものがそこにあって、解放された掌の中をそっと覗いてみた。







ぶわっ、と涙がまた溢れ出す。
私の手にあったもの、それは、銀色の輪の形をした、彼の想いだった。
「あんまり高いものじゃないんだけど…どうしても渡したかったんだ。
好き…だから…」
不器用な彼の「好き」を聞いたのは、これが2度目だった。けど、そんなことはどうでもよくて。
「今はまだ、こんなものしか渡せないけど…でも、いつか絶対に、本物が渡せるようになるから!」
一松くんが声を張り上げる。その目は決意に満ちていた。
「だから、もう泣かないで」
一松くんはそう言ってくれたのに、涙腺は言う事をきかない。涙を止められない私に、一松くんはもう一つ、贈り物をくれた。

















それまでそこで黙って座っていたプラスが、0になった。

















それから数年後のある日、1組のカップルが街中を並んで歩いていた。
男性の方は猫背を紫のパーカーで覆い、女性は左手の薬指と右手の中指に、ひとつずつ指輪を付けている。
時折言葉を交わし、ふざけ合い、笑顔を見せて。
2人は、歩いてゆく。
<了>

Re: 一松の彼女になりたい人、お越しください! ( No.15 )
日時: 2016/12/04 23:45
名前: 風愛夜白雨

後書き
第7話(最終話)『天の川』いかがでしたか?
無断長期放置してしまいましたが、無事最終話まで書けて嬉しいです。
読んでくださった皆様、コメントしてくださった臨雄那さん、ききちゃん、安ちゃんさん。
ここまで書くことができたのは皆さんのお陰です。本当にありがとうございました。

これからは別の連載をしようと思いますが、後日談とか番外編とかもリクエストがあれば書きますので、どうぞご遠慮なくщ(゚д゚щ)カモーン
それでは、ここらで失礼致します!
またお会いしましょう!


ps:TwitterのID乗っけときます。
こちらでは主にイラスト乗せてます。
→@hakuu0114

Re: 一松の彼女になりたい人、お越しください! ( No.16 )
日時: 2016/12/05 00:38
名前: みみーに

面白かったです。場面の切り替わりがすんなりしていてとても読み応えがありました。三人称視点が多めなので若干一人称視点だとか二人称視点も組み入れてみたら想像を膨らましやすくなると思いますよ。

Re: 一松の彼女になりたい人、お越しください! ( No.17 )
日時: 2016/12/05 07:58
名前: 風愛夜白雨

>>16
コメント+アドバイスありがとうございます!
次作を書くとき気をつけてみますね!

Re: 一松の彼女になりたい人、お越しください! ( No.18 )
日時: 2017/02/18 01:17
名前: 風愛夜白雨

あげます。

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