二次創作小説(紙ほか)

ill at ease
日時: 2018/08/08 05:56
名前: まるき

白石蔵ノ介

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Re: ill at ease ( No.9 )
日時: 2018/08/11 23:15
名前: まるき

白石は街に大きく飾られた広告の看板を目にした。清涼飲料水のコマーシャルには今をときめく若手俳優·財前光の横顔があった。

「先輩」

肩を誰かに叩かれて振り返ると、財前光がいた。大きな縁の着いた帽子にマスクを被り、夏なのにロングカーディガンで高そうなスニーカーを履いている。上京しているとは聞いていたがここまでとは。

「久しぶりやな」
「今、撮影中で2時間の休憩なんすわ」
「飯でも食い行くか」

財前の方が都内にいる時間としては長い。テニス部を引退した中3の秋、難波でスカウトされた。財前は当初興味がなかったが、ブログの知名度が上がると言われて俳優デビューを果たした。可愛らしい顔立ちに反した派手なピアスや服装、また毒舌で「ツンデレ」なところがファンにはたまらないらしい。

「やっぱおしゃれなカフェより丼や」
「そないな格好してよく言うな」

白石は珍しく笑った。若干小汚いが賑わいのある店内は、中学の部活帰りを彷彿とさせる。洒落た見た目に似合わずカツ丼に食いつく財前を見て、なんだか懐かしい気持ちになった。1番無口でロクなことを言わないやつだけど、行動力と技術がある。おさむちゃんが言っとった。

「先輩はどうなんですか」
「楽しくあらへん、学校は無駄や」

白石の口から無駄というワードが聞けて、財前もホッとしたような気がした。テレビからはあのニュースが流れてきた。財前は目をやる。

「あ、これ襲われた女の子、先輩の学校の人やないんですか」
「ほーなん?」
「ホンマらしいです、ソースは掲示板なんですけど」

誰やろ。白石は心当たりのある人物を探ってみた。クラスメイトさえも認識してないことに気がついた。あ、2日間休みの奴おる。名前はわからんけど、ポニーテールだった気がする。

「あんまり広めると可愛そうですから、言わんですけど」

白石は頷いた。

「あ、先輩。東京でもやってるんですか」

財前は目を輝かせた。

「もうやらへん」
「かっこよかったのに」

どうやらテニスの話ではないようだ。その後は昔話で盛り上がり、2時間はあっという間だった。白石は財前の分まで食事代を払い、1500円で済ませた。

「頑張り」
「あざす」

財前と白石はそれぞれの方向に別れた。

Re: ill at ease ( No.10 )
日時: 2018/08/13 22:07
名前: まるき

梓が病室のベッドで身を起こしていると、ガラガラっとカーテンが開いた。

「来ちゃった」

同じバスケ部の末田莉沙。莉沙は短い髪を縛っている。病院に皆来たら病状の嘘がつきようがない。ましてや、男性に襲われかけてそれが怖くて、トラウマで、怖くて、普段の生活に支障が出てるなんて言えない。莉沙は一体どこで知ったのか、わからない。

「梓のお母さんに聞いたの…ごめん、梓に何回も電話かけたりLINEしたりしたんだけど。やっぱり気になって、梓のお母さんに家電かけて聞いちゃった」

折角、お見舞いに来てくれたのに莉沙は私より俯いていた。

「ううん。ありがとう、ごめんね」

ただ、ありがとうとごめんねとしか言えなかった。1番一緒にいる友人である莉沙には…返事をした方がよかったのか。

「…大丈夫なの?、なわけないよね」
「大丈夫だよ。莉沙が来てくれたから」

莉沙は顔を上げて、梓に安堵した表情で微笑んだ。私はこの顔をよく知っている、辛いことがあったとき励まし合うと最後はこの顔で笑ってくれる。

「なんか、詳しくは梓のお母さんからは聞けなかったんだけど…理由聞いてもいい?」

梓は悩んだ。引かれたり、莉沙の自分を見る目が変わったり、莉沙を信頼してないとか他人だからで判断してる訳じゃない。言い出しにくいんだ。私が。

「言えない理由とかだったら全然言わなくていいよ」
「…ごめん」
「梓、痩せた?」
「え?」
「うん。クマとニキビすごいよ」

寝不足と栄養を取ってないことでかなり体の調子が乱れている。莉沙に鏡を貸してもらうと、たしかに自分はひどい顔をしていた。まさに病人の顔とは梓のかおである。

「食べないと、梓あんなにいっぱい食べるんだから」
「じゃあ…今度食べ放題付き合ってくれる?」
「もち!私はいつでも、梓といるから」

そう言って莉沙はリュックから飲むヨーグルトやらチョコやらお菓子を取り出した。いきなり胃に入るか分からないけど、梓はとりあえずチョコボールを口に含んだ。カラカラと渇いた口の中にチョコが溶けだした。

「甘いね」

ただそれだけ。莉沙といるとやっぱり落ち着く。

「いつまで入院するの?」
「多分今月中には」
「じゃあもうすぐじゃん!」

そしたら莉沙は学校であったことをすごく饒舌に話してくれた。イケメンの転校生の話が大概だった。

「白石くんって言うんだけど、いつも窓の外をぼーっと眺めてるんだけどね。横顔のEラインが超綺麗なの!しかも、体育でサッカーやってめちゃめちゃ瞬足でドリブル速くてシュートバンバン決めるし!授業で当てられると、関西弁でちょっと答える感じもギャップ萌えだし!やばくない!?」
「う、うん。白石くんすごい人なんだね」
「でもね隣のクラスの小早川咲奈が白石くん狙ってるんだって」

あぁ、あの読者モデルの子か。なんだか女子小中学生向けの雑誌のモデルやってたらしい。顔が小さくてお人形さんみたいな子。

「咲奈ちゃんぐらい可愛いかったら、白石くんとお似合いだよ」
「白石くんはみんなのものだよ…?」

莉沙があまりに泣きそうな顔をするのが面白くて、久々に笑った。

Re: ill at ease ( No.11 )
日時: 2018/08/14 08:42
名前: まるき

深夜、繁華街の細い路地に入ると危なそうな人がわらわらいる。細い路地をずっと辿っていくと港に出る。使われていない工場の倉庫がいくつかあり、そこはたち入れないようになっている。

「早く殺せよ」

50代くらいの髪の毛が薄くちょっとズボンの上に腹の肉が乗るような男性が、片方の目が潰れてもはや血が出ないくらい身体中あざだらけである。仕事帰りだろうか、スーツと無残に破けたカバンがあった。男は拳銃を握らされており、暗い中で誰かに向かって構えさせられている。それを囲むように、長身の男性たちが見ている。

「まだ殺さねーの?」
「わ、私の妻、なん、だ」

50代くらいの男性が横たわる女に銃を向けている。銃は小刻みに震える。

「ばーか、サラリーマン狩りの醍醐味なんだよ」

男たちは手を叩いて笑い始めた。気味が悪い。巷で有名になっている「サラリーマン狩り」、何故か身なりは普通の若い男たちが、深夜に仕事帰りサラリーマンを狙って暴行事件を起こしたり射殺したりするらしい。警察も行方を追っているが、張り込みには来ていないようだ。

「じゃあお前ら2人とも死ね!」

銃を握ったとき、上から誰かが銃を持った男に飛び乗ってきた。銃を男から取り上げると、他の男に飛び移る。銃を取られた男は飛び移る際に首を勢いよく蹴られ、その場にドサッと倒れ動くことはなかった。全身黒の誰かが素手で次々に男らが立ち上がれなくなっていく様を、サラリーマンの男性は見ていた。

「逃げて」

サラリーマンは慌てて頷き、目を覚まさない妻を抱えて倉庫を出た。5人いて残る相手は、2人である。2人はゆっくりと近づいてくる全身黒に、後ずさりしている。二人とも同じタイミングで腰を抜かしたので、全身黒は銃を構えた。2発の銃声と共に2人の男のこめかみには銃弾が埋め込まれ、5人は即死である。全身黒は拳銃を起き、素早く去った。しばらくして、警官とあざだらけの男が倉庫にやって来たが、残っているのは5人の死体だけであった。

Re: ill at ease ( No.12 )
日時: 2018/08/14 15:43
名前: まるき

「あの、娘にだけは話は聞かないでください。そっとしておいてあげてください…」

病室の前で、笹木と新道が梓の母親に足止めをされている。

「ですが危うく娘さんは…」
「娘を助けたのは、警察じゃないじゃないですか!」

今日は梓の友人の莉沙が訪ねてきた。家に電話がかかってきたとき、莉沙にはちょっと体調を崩したとだけ伝えておいた。

「新道さん、どうします」

若い警部補の笹木は無理やり立ち入ろうとする新道を少し遮るように割って入った。

「立花さんの知っている範囲でお話を伺いましたが、全く事件の手掛かりにはならんのですよ。犯人を一刻も早く捕まえるため…」
「梓を酷い目に合わせた奴らは殺されたんだから、それでいいでしょう?」
「…わかりました」

新道は無言で礼をして立ち去る。笹木も後ろについて梓の母親に礼をして歩いていった。

「母親の言うことにも一理ありそうですね」
「確かにな。だが、人が殺されている以上犯人は見つけないとな」
「はい」

2人は車に乗り込んだ。エンジンを掛けて、車を発進させしばらく走らせていると高校の前を通った。部活やら下校やらで同じ制服を身にまとった学生がわらわらといる。

Re: ill at ease ( No.13 )
日時: 2018/08/14 21:23
名前: まるき

診察室に入ると、梓は椅子に座った。

「薬の副作用なんだけど、貧血が起こりやすかったり、合わない場合は動悸が激しくなったりするの。大抵の人ならあんまり副作用は起きないんだけど、とりあえず試してみようか?」
「…はい」

精神科というものは、患者の話を聞く場でないことがわかった。どうやら私は不安障害と軽度のうつ病らしい。私にもよくわからないけど、あれから不眠やめまい、吐き気などに襲われている。自分、何かおかしいかな?わからない。

「カウンセリングのお時間はいかがなさる?」
「えっと…」
「あの先生、この子いつ治りますか?」
「精神病はそのラインが分かりにくい部分があります。でも、梓ちゃんが退院後すぐに学校に行けると言うならひとまずうつ病は良くなると思います。梓ちゃん」

先生は梓の手を取って顔を覗き込んだ。

「辛いことがあったら、体が辛くなったら、いつでもいらっしゃいね」
「ありがとうございます」

先生はカウンセリングというか、話も聞いてくれる。日常生活に戻る怖さがあるけど、前を向かなきゃいけない。母親と病室に戻った。

「お母さん、色々心配かけてごめんね」
「…梓は悪くないからね?」
「あのさ…私のこと助けてくれた人って犯罪者なの?」

母親は上手く答えられなくて俯いてしまった。梓の素朴な疑問が社会には全く持って通じないからだ。

「捕まっても、警察に行くことなんかないわよ」

そうだよね。会って一言でも礼を言いたい。

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