社会問題小説・評論板

終幕への挽歌
日時: 2020/02/06 16:28
名前: 野口達也  (rekageninden@gmail.com

 これは思考伝搬と言う自身の思考が他者に筒抜け状態になり、相手の本心が読み取れると言う難病に掛かった被験者となったモノの最後の挽歌です。思考伝搬シリーズの最終巻です。
実家に住む弟嫁による姦計によって冤罪を着せられて家族に命を狙われそうになった私だが収穫はあった。弟嫁とリンクした事だ。遂に念願の私と思考伝搬で繋がった相手と出会えたのである。
 私は何としても思考伝播の実態を証明したかった。これまでずっと探し求めて来たその為の証人が目の前にいる。夢でも幻しでもない、住所も名前も把握している実在の人物が、実際に私と思考伝播で繋がって交信を何度も交わした生証人が存在しているのだ。折角の手掛かりなのだ。もう絶対に逃がしたくはない。それが勇気を振り絞って残留を決意した理由である。後はどうやって吐露させるかである。彼女はこれまで苦渋を舐めて来たであろう数多の被験者達の希望なのだ。その生証人に証言させて思考伝播の実在を確立させる事、それが何よりも優先すべき崇高なる私の使命なのである。だがしかし、例えそれがどんな崇高な使命でも自分の目で見て、考えて、自分で決める。思考伝搬になったせいで人の持つ真実の悪を知った私だからこそ本当の敵が一体何なのか解るような気がするのだ。思考伝播で本音で語り合うと殺人に発展しかねる、殺意に支配された心弱き者が罪を犯す。その心弱き者達こそが真なる敵なのだ。真実は確かめた、だがまだ確証はない。圧倒的に物的証拠が不足しているのだ。だが諦めない、今の私はもう独りぼっちではないのだ。そして、使命感に突き動かされた私は諦めが悪いのだ。この世の真理を確かめるまでは終わらない。終わらせる訳にはいかない。
親友は言った、「そんな恐ろしい目に遭って何故実家で暮らすのかと。弟嫁がお前を追い出したいのなら自分から出て行って誰も知らない場所で一人で生きていけばいいんじゃないかと。」しかし、それは真実から目を背けて逃げ出したのと同じだ。あの女は私に冤罪を掛けた!証拠もなく自分の憶測だけで私を犯罪者に仕立て上げようとしたのだ!許せる筈が無い!!裁判でも勝つ自信がある!逆に私の殺害未遂で立場が危ういのは彼女の方だ。あの殺害計画の晩、私の携帯を止めた証拠さえ掴めれば今の彼女に多重罪状を着させる事は簡単なのだ。此処で逃げ出したら奴等の言い分を認めた事になってしまうのだ!それだけは絶対に赦せない!!犯罪者に認定されるのは純度の問題なのである!推測で嘘を吐き夫に私への殺意を抱かせるなど以ての外である。私にも人並みの誇りがある!信じていた者に石を投げ付けられれば二度と信用はしない気高さもある野良犬なのである。
 人間としての誇りを棄てた時こそが、奴への敗北を認める事になる。つまり人間でないのを認める事だと考えたからだ。一度はその使命から逃げようとした事もあった。普通の人として生きる、最愛の人が現われたらその人の為に命を投げ出す事。私は怖かった、見たことも会った事もない誰かの為に生きる、その使命が。だから逃げようと考えた事もあった。誰もいない島でひっそりと自然と共に生き、そして朽ちていこうと。だけど、思考伝搬になった被験者達は皆戦っていた。それで自分の目が覚めたのだ、その時やっと自分の生きる意味を見付けた気がした。その時初めて歩き出せた、押し付けられた使命じゃなく、自分の意志でこの不幸に抗おうとしたのだ。心から守りたい、この命に代えても良いと思える女性と巡り合う為に私は生きる。
確かに私は思考伝播で人の心を読む化け物で咎達人に命を狙われる被害者だが、ただの復讐者にはなりたくはない、怒り、悲しみ、報復、その先にあるのは滅びだけだ。人はどのような不幸も受け入れ、許す事が出来るのだ。その先に進む事も。彼女を裁いても私の不幸は終わらない。人としての自由と尊厳を、目的は違えど望むべき願いが同じなら同じ思考伝搬になった被験者達ならば同志として協力出来るだろうか?知って欲しかっただの、分かり合いたかっただの、良い人ぶってたのも全部打算じゃなく利用するだけじゃなく共感者として、運命共同体となりたいのだ。自衛の為、どんな理不尽や不条理にも立ち向かい、如何なる過酷な運命にも抗う為に一生涯戦い続けなければならないのだから。真実はいつも一つなのだから。
矢張り弟嫁が警察に捕まって貰い(冤罪と殺人計画を)も自白剤か嘘発見器に掛けるしかないのだろうか?今に至っては最早話し合いの場は設けられない、元嫁が事実を認めない以上和解は不可能なのだ。あの夜の事は全部なかった事にしたいらしいが、殺害未遂で殺されかけた忌むべき記憶は消えてくれない。私が死ぬまで思考伝播である以上、例え私が彼女の罪を許しても何も解決しないのは確かなのだ。私の抱える難問を解決する方法はただ一つ、思考伝播の実証なのである。そして真相を解明し真実にたどり着く事なのだ。その鍵は証人でもある弟夫婦なのも事実である。このまま真相を闇に葬って何もかも忘れて統合失調症患者として一生生きて行く方が楽な生き方かもしれないが、現代の薬では根治治療は極めて困難でこの体質が治らない以上真実に目を背けて生きて行く方がもっと辛いのだ。結論から述べると狩人と獲物での和解の道は果てしなく遠く険しいと思われる。だが我々は獣ではなく言葉の通じる人間同士なのだ。話し合いの場さえ設ける事が出来れば諍いとなった原因を究明し、誤解を解く事も出来るかもしれないし殺人事件にまで発展する前に和解出来たかもしれないのだ。しかし化け物である私には恐怖の対象だった為に、何度も謝罪や会見の場を求めてもその機会さえ与えて貰えなかったのである。誤解が誤解を呼び相手を畏怖し敬遠しお互いに面と向かって対話する事も実現不可能だったのだ。しかし、心通じ合った相手とテレパシーで繋がったのなら案外便利かも知れないとも思う。後に母は弟嫁の虚言よりも私の事を信じて父を説教してくれたらしい。流石に母は弟嫁が虚言壁のある性悪女だと知っていたようだ。私が死んで誰が一番得をするのか?父が嫌いで家を出て、またしても邪魔者の私まで消し去ろうとしたのは誰なのか?動機は十分である。野口家の財産目当てでこの家に入り浸っている魔性の女が全ての元凶なのだ。殺害する気がなかったのなら何故私の携帯を利用停止したのだろうか?病院での先生を交えた面会で止めていないと家族で嘘を吐いたのは何故なのか?これで実際に私の携帯を止めていたとしたら言い逃れ出来ないだろう、答えは一つである。犯人は彼女しかいない。彼女の罪を暴くのは簡単だ、しかしそれでは悲しむ人を生んでしまうのも事実だ。この世に一人でも悲しんでくれる人がいるのなら、やり直す機会を与えてあげても良いとも思うし、己の過ちを悔み心から反省し謝罪する気があるのなら可愛いものだが、人を虚言で陥れ、その計画が露呈し失敗すると隠蔽し、都合が悪いと沈黙し全てなかった事にしようとする根性のひん曲がった奴は許せない。
加須Gの時もそうだった。思考伝搬で知った事なのだが、たった一人をアパートから追い出す為に大勢で徒党を組んだ同じアパートの住人達が許せなかった。彼らを悪と断じたのだ。だから警察に通報し注意を促したのだ。その結果は無残だったけれど意味はあった。思考伝搬ではなく実際に抱いていたらしい人の持つ負の感情を身を以て知る事が出来たのだから。この後、私は確信した。この世に思考伝搬は確実に存在すると。
友人に話したら「お前、早や死にするタイプだな。」と笑われてしまった。
確かに私は思考伝搬で相手を軽んじたり相手の事を悪く言ったり挑発するような言葉を吐いたかも知れない。昔から口が悪く人を怒らせてばかりだった。それは多分自傷行為みたいなもので他人を傷付ける事で自分が傷つきたいのかも知れない。特撮モノでは悪は倒されるべき敵として登場する。だから私は心の何処かで自分の正義を行使する事が出来る敵が欲しかったのかも知れない。子供の頃から間違った事や曲った事が大嫌いで人一倍正義心が強かったのも事実である。その偏った偏見で敵とみなした相手に優しくなれないのだ。私は聖人君子ではないので、罪を憎んで人を憎まずの領域まで行けなかったのだ。だからと言って相手の事を全く考えない訳ではない、誰にでも守りたいものがある。その幸せを奪う事は躊躇われるのだ。その迷いが行動を鈍らせる。でも誰かの幸福を壊す勇気も無いのも事実だ。特撮ヒーロで敵に同情した事で命を落としたヒーローがいた。小さい頃はそんな理不尽な死が許せなかったが、今なら彼はあれで本望だったと分かるような気がする。例えそれで命を落とす運命をたどる私は優しい臆病者になりたかった。だから迷うのだ、自分から家族の幸せを奪う事を。 確かに臆病者なら加須Gの陰謀を知った時点で恐ろしくなって尻尾を巻いて逃げ出すのが賢い人間だろう。まさに藪から蛇である。だが、私は子供の頃から弱肉強食が大嫌いで弱い者イジメする連中を見るとほおって置けない質なのだ。子供の頃はガキ大将にも負けずに正義を行使し、助けた相手と友達にもなれた自分の事を格好良いと酔っていた時期もあった。しかし、ある時知ってしまったのだ。力で目の前の強者を組み伏しても、その後からそれ以上の強者が立ち塞がって来る事を。簡単に言えば同級生のガキ大将を倒したら自分よりも身体の大きいく強面の兄貴を連れて来られて脅されて、それに屈してしまったのだ。過信していた自分の力(正義)は更なる大いなる力(巨悪)の前に屈する事もあるのだと子供ながらに理解してしまったのだ。
私は何度も同じ過ちを繰り返して来た。加須Gの102号室の夫婦の時も三男夫婦の時も、私が悪と断じて嫁さんを危機に陥れようとすると夫が凄まじい剣幕で激怒する、それが人間の本能なのだという事を思い知らされた。だがしかし、思考伝搬で繋がるのが女性優先なのでこれも仕方がないのかも知れない。 
兎に角私は思考伝搬による嘘に何度も何度も踊らされて自分が如何に無知で大馬鹿なのかも痛感した。実は私は昔からお化けや超能力の存在を否定する側で「そんなオカルトあり得ない」と信じていなかったのだが、まさか自分がその領域に来てしまうなどと思ってもみなかったのである。
この荒んだ世界を生き残るには臆病なくらいが丁度良いのだ。例え時には正義が悪に屈するとしても、最後まで自分の信念だけは曲げたくはないのだ。バカはバカでも正義の味方バカなのである。加須Gとの思考伝搬で彼等の言葉を信じてしまったのは、嘘が見抜けなかったからである。心からそう言うと騙されてしまうのだ。テレパシーで殺る殺る言われると本気ではないと見抜けずに信じてしまうのだ。他者からの激しい憎悪を受けたのはこれが初めてだったのもあり、本来ならば無視すれば良いのにどうしても脳内に響く声に耳を傾けてしまうのだった。最初は加須Gも何が起きているのか理解出来ずに気付かずに本音を吐露しまくっていたが、もしも私があの時に思考伝搬の仕組みを知っていれば、警察に通報せずに「思い遣りと察し」で身を引いて自らあのアパートから出て行っただろうか?それともあのまま無視してアパートに居続けていたら私はアパートの住人達に殺害されていたかも知れない。
 何度も加須Gの虚言に騙されていたのも事実だが、敵意を向けられるのも珍しく殺意や敵意には敏感になっていたのだ。皮肉にも私は思考伝搬のせいで敵を作り、臆病者が故に思考伝搬のお陰で命拾いして来たのだ。情と使命感の板挟みである。正に「ヤマアラシのジレンマ」である。私はただ純粋に己の罪を認めて謝罪して貰いつつ、思考伝搬の有無を立証したいだけなのだ。使命を果たせればそれで満足だし、これからの人生にも生きる糧が生まれるのだ。彼女はそれすら拒否するのだろう。その頑なさが許せない点なのだ。
相手は神でも悪魔でもない何も恐れる事はない、皆ただの人間である。自分の幸せが何より大事な何処にでもいる普通の人間なのである。皆自分達が幸せである事を望みそれを阻害する邪魔者は排除する対象となるのである。自分達だけが幸せなら他者はどうなっても良いのだ。何て身勝手な人間達なのだろうか?否それが人間なのだ。自分もそうなのだ。でも皆がそうな訳ではない一部の人間は心優しい人達もいるのも事実なのだ。だがしかし、彼等に迷惑を掛けた私にも咎はあるのは否定出来ない。しかし、当時は思考伝搬など知らなかったのである。この世にそんな能力(病)があるなんて想像もしていなかったのだ。だから誰も親切に精神科へ診察に行けとは言ってくれなかったのだ。正に加須Gにとっても未知の領域だったのだろう。一番悪いのは無知な私だったのかも知れない。だがしかし、好き好んで思考伝搬になった訳ではないのだ。野口家と思考伝搬で繋がったと判明した時、すぐに病院に行けば殺人未遂事件に発展する前に逃げられたのだろうか?しかし、それでは何も解決しないのだ。真実からは正面から向き合い立ち向かわなければ気が済まないのだ。黙ったままでは相手に伝わる筈もなく、衝突して初めて分かり合える時もあるのだ。小賢しい自分の思考伝搬が恨めしいと思う時もある。本音に気付かなければ命を狙われる事もなかっただろうに。(正に雉も鳴かずば撃たれまい)である。だがしかし、加須でも野口家でもSOSを出さなければ殺されずに済んでいただろうか?否確実に殺害される未来があっただろう。今、こうして生きている奇跡。それも思考伝搬の力のお陰なのは間違いないのだ。思考伝搬さえ発症しなければ、こんな辛い思いをせずに済んだかも知れないのに。今更だがこの思考伝搬の恐ろしさを身に染みて理解出来た気がしたのだった。

一人立ちしたいのが本音なのだが、加須Gが気になって出ていけないにも事実なのです。私は未だに生に執着があるようだ。殺される覚悟が足りないのかも知れない。いつの日にかこんな状態に嫌気がさして自殺しようとするかも知れないが使命を果たすまではと、死にきれないのも事実なのだ。私の中にあるたった一つの望み、そして完璧なる理想の死に様、それは私が思考伝搬の被験者としてこの世にリアル思考伝搬が実在している事を証明してから殺されたい。それが私の願いでありその為の死ならばどのような試練でも受け入れる覚悟はある。思考伝搬になった人間がどれだけ他者に虐げられて邪険に扱われて来たのか。その最悪の末路を世界中の人に知って貰いたい。だから、私の死が悲劇的ならば悲劇的な程世界中の心を揺り動かす事に繋がるのだ。そして、いつの日にか必ず思考伝搬の有無を実証して、その時こそ私は思考伝搬の被験者達のメシアになって永遠に語り継がれるであろう。例えその生き様が道化だと思われようとも構わない、それが私の一番の望みなのかも知れないのだから。
兎に角今回、私は不本意ながら真相の解明に蓋をし口を噤んだ。それが唯一の妥協と解決策だと考えたからだ。テレパシーとか超常現象の類は一般人には何を言っても無駄で言葉は無意味らしい。だから現状、今は結論を先延ばしにしただけで膠着状態のまま保留状態なのだ。薬を止めない限り思考伝播は治まり諍いを起きないと信じて実
後は皆の意見に頼ろうと思う。私は愚か者だから何度も騙されて来たではないか!頼れる仲間を信じるしかない!正直に言えば死にたくはない、生きていてこそ無実を証明する事も出来るのだ。殺されたら後は残された者たちに託すしかないのだから。その事の顛末を見られずに死んでいくのは矢張り無念だろう。
 最悪、私は思考伝搬の被験者達の礎として殺されてもいい覚悟は出来ている。ようするに開き直ったのだ。今後生きて行く上で問題は山積みだが、それでも私はあらゆる困難に負ける事なく絶望せずにささやかな幸せを求めて生きて行こうと思う。
ほんの一握りでも存在する良心的な人がいる事を信じて、どんなに追いやられてもひっそりと寄り添いたいのだ。
結局のところ私はこれまで周囲の人間からこれほどまでに酷い目に遭いながらも人間を嫌いになり切れないのである。絶望のドン底に落とされても尚微かな希望に縋りたいのである。危機的状況に陥った時に親身になって力になってくれて思い知らされた美しい友情をもった美徳ある人間と醜い本性を隠し持った悪意に満ちた人間という、相反する不完全なサガを持った愛すべき人間をどうしても見限れないのである。
 兎に角、こんな私にもまだ親友と言う心の拠り所がある以上、残された人生を強く生きて行こうと思う。思考伝播と言う最悪な体質を背負いながら再度社会復帰するに当たって、薬の副作用とか家族の動向とか加須グループの報復とか一体どこまでインベガ薬による思考伝搬の症状抑制の効果があるのか何度も検証しなければ分からないし、その度にトラブルが起こる可能性は否定出来ずに、数多の不安要素があり未来は決して明るいものではないだろうが、異端者としての呪いを背負いながら辛い過去は過去と割り切り開き直って前向きに逞しく生きて行くしかないのだと覚悟したのだ。







 

Page:1



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


E-Mail


URL


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大7000文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。