BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

紅い糸、白い花。
日時: 2019/10/20 23:02
名前: 千葉サトエ

 塀の外から屋敷の中をちらちらと除いている男が居る。偶々目が合ったから、手を振って微笑んでみると男は走って行ってしまった。
「君の知り合いかい?」
 後ろから声を掛けられた。目の端に紺色の着物が映る。振り替えると仲間の一人、忠成が後ろに立っていた。
「さぁ、誰でしょうね。知らない人です。偶に見かけるんですよ」
「ふぅん。雪光君は本当に人気者だね」
「……貴方に言われても嬉しくないですよ、色男」
 この男に言われても本当に嬉しくない。昔の戦で傷付いた片目に眼帯が掛かっていても伝わるほどの美形。
 街に買い物に出れば、娘たちがおまけと称して、いろいろただでくれるらしい。
 この男のお陰でこの屋敷は食べ物に困ったことは今のところ、一度もない。
「そう?ごめんね。……でも、君は僕と違って外に出たりしないのに、凄い人気だよ。女にも男にも。流石だよ」
 別に、どうでも良かった。人気だろうと、そうじゃなかろうと、僕には関係無い。
「そうですか。でも、人気だとしても僕があの人や他の人と話す事はないですから」
 そう、僕が話すのはこの屋敷に住んでいる仲間とだけ。外の人とは話すことなんてない。

そう、思っていた。

「おかえりなさい、雪光さん」
 部屋にあの男が居る。着物は前と違うが、長い前髪であの男だとわかった。
「貴方、どうして此処に?」
 一瞬不審に思いそう尋ねると、男は微笑みながら答えた。
「いえ、お屋敷の主様が下働きをお探しとのことでしたので。是非、私を雇ってくださいと申し上げたのです。そうしたら、すぐにでも働きに来なさいと言われた次第です」
 新しい下働き。前任の子を思い出そうとしたが、正直顔もよく覚えていない。暫く顔を思い出してみようとしていると、中から「お部屋にお入りにならないのですか?」と言われた。
 確かにずっと廊下に立っている訳にもいかないので部屋の中に入る。
 すると床に飾られた花に目がいった。白い花……。
「あの綺麗な花も貴方が生けたんですか?」
 花に目を遣りながら男に訊くと、少し誇らしげな声で「はい」と返事をした。
「水仙です。お庭に生えていたので、生けさせて頂きました。気に入って貰えてよかった」
 毎日、庭で見かける花が部屋にあると不思議な感じがする。けれど白い花のお陰で部屋が華やいだのも確かで、嬉しい思いもあった。
「綺麗な花……。有り難う。僕、この花とても好きなんです」
 そう言って笑いかけると、男は何故か耳まで真っ赤に染めながらうつむいてしまった。
 何故だろうと一瞬思いもしたが、その後すぐに用事を思い出した。この後、忠成達とお茶をする約束があったことをすっかり忘れていた。
 慌てて部屋をあとにして、廊下を少し急いで歩く。
 後ろから男の声が聞こえた気がしたけれど、急いでいるから何を言っているのかよくわからない。とりあえず「はい」と適当に返事をして、皆のもとへと向かった。

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Re: 紅い糸、白い花。 ( No.3 )
日時: 2019/10/20 23:22
名前: 千葉サトエ

 あの下働きの男は相変わらず僕の部屋に水仙を生けている。
 ある日、男が指を怪我していたのでどうしたのか尋ねると「棚の隙間に挟まっていた刃物で切ってしまいました」と恥ずかしそうに言っていた。
 棚の隙間に刃物があったのを「うっかり」の一言で片付けてしまうあの男は少し鈍感過ぎるような気もする。
 男はそれからも毎日の様に体に傷を作ってきた。
 貞義も同じ様に体に傷が増えている。最近は戦も無かったというのに。
 あの男が傷を作る度に僕は手当てをしている。
 貞義にも手当てをしようとするのだが「俺に構うな」とすげなく言われてしまう。
 貞義にとってはあれくらいの傷は何てことないのかもしれないが、日に日に傷が増えることが僕には辛い。
 貞義が傷を作るのは戦だけでいいのに。
「雪光さん。有り難うございます。手当てをしてくださって」
「いいえ、下働きといえど貴方もこの屋敷の一員ですからね」
 ちゃんと気を付けてくださいね、と声を掛けて男を仕事に向かわせる。
 嗚呼、可哀想に。

Re: 紅い糸、白い花。 ( No.4 )
日時: 2019/10/21 03:23
名前: 千葉サトエ

 やはり、雪光さんは優しい。あの男、貞義の言うことなんて信じなくて良かった。
 雪光さんは私が思っていた通りの人だ。
 淡い色の髪と瞳。少し癖のある長い髪はいつも綺麗に結われている。
 長い睫がたれ目気味の目を縁取っていてとても美しい。
 桃色の唇は薄く、小さい。
 体はまるで折れてしまいそうに細く、肌は白く柔らかそうだ。
 何時も淡い色のお着物を着られているがそれがよく似合っている。
 まるで女人の様に美しいお人だ、とずっと思っていた。初めて見掛けたときからずっと恋慕っていたのだ。
 嗚呼、綺麗な雪光さん。僕は貴方を悪く言ったりしない。
 優しく美しい貴方をわかっている。
 でも、これ、棚の掃除をしながら考えることではないな。
 でも、雪光さんが僕の怪我を見つける度に手当てをしてくれるのが嬉しくてつい……。
 僕だけが、雪光さんに手当てをしてもらっていると思うと嬉しくて、棚の整理中もずっと考えていたい。
 きっと貞義も僕と雪光さんが思ってたより親しくなっていて、焦ってあんなことを言ったのに違いない。
 愚かな奴だ。

__ガシャン

 痛い。痛い。何だ。頭が痛い。

Re: 紅い糸、白い花。 ( No.5 )
日時: 2019/10/21 04:17
名前: 千葉サトエ

 雪光が部屋で一人で茶を飲んでいるとき、部屋の障子が開いた。
 そこには下働きの男が立っている。
 その男の体は包帯だらけで、頭にもぐるぐると包帯が巻かれている。
「その傷……どうしたんですか?」
 雪光が新しい額の傷に気がつき、そう尋ねると男は照れた様に笑いながら答えた。
「心配を掛けてしまいましたか。いえ、棚の片付けをしているときに上から壺が落ちてきて避けられず怪我してしまいました。落ちやすい縁に置いてあったので、きっと誰かの嫌がらせだと思うのですが」
「嫌がらせ……ですか。嗚呼、そんな傷が出来ては気も落ち着かないでしょう?僕が茶でも淹れてあげますから、どうぞ中に入ってください」
 雪光が優しげな声でそう誘うと、男は嬉しそうにそわそわとしながら部屋に入ってくる。
 湯呑みをもう一つ用意して、茶を男の前にとん、と置くなり男は幸せそうに茶を飲み干した。
 男が茶を飲み終わったところに雪光がずいっとにじり寄り、頬に手をやる。
「嗚呼、君は可哀想に……」
 そう言って雪光が頬を優しい手つきで撫でると男がいきなり雪光の方に向き直り、手を握ってきた。
「雪光さんっ」
 勢い込んで話すから唾が少し男の口からは飛んでいる。
「はい、何でしょう」
「貴方はやはり私の思っていた通りのお人だ。美しく、慈悲深い。お願いです、私と共に逃げましょう!」
「逃げる……一体何から?」
 必死の形相の男に雪光は何時もと変わらない表情で返す。
「あの男ですよ!貞義!彼奴は貴方に似合わない。貴方はあの貞義と主とかいう男に此処に閉じ込められているのでしょう?私は貴方を助けに此処まで来たのですっ」
「助ける……ですか」
「はい、そうです!貴方は私が初めて屋敷に来た日に確かに貞義が好きだ、と言った。でも、貴方はあやつられていたんです!ね!私と一緒に逃げましょ……うっ」
 男は最後まで言い終わらないうちに急に床に倒れ込み苦しみだした。
「嗚呼、君は本当に可哀想ですね」
 そう言って雪光はうつ伏せに倒れている男の体を足で仰向けにごろん、と動かした。
「ゆ、きみつ……さ、ん」

Re: 紅い糸、白い花。 ( No.6 )
日時: 2019/10/21 04:42
名前: 千葉サトエ

「可哀想に……毒にも気付かないなんて」
 雪光は男の目線に合わせるように隣にしゃがみ込んだ。
「君が僕のために毎日せっせと生けてくれていた水仙の水をお茶に混ぜておいたんです」
 雪光は男の髪を優しく撫で付けながら話す。
「棚の隙間の刃だって、落ちてきた壺だって、全部僕がやりました。まぁ、こんなに上手く掛かってくれるとは思ってなかったのだけれど……」
 髪を撫で付ける手は止めず、男の顔をじっと見つめる雪光は何時も何も変わらない顔をしている。
「君があんまりどんくさいあら、こんなに傷付いて……可哀想」
「ゆき、みつさ、ん……どう、して」
 男が苦しみながら雪光に尋ねる。
「喋れるんですか、凄いですね。……どうしてって、君が僕の貞義に酷いことをするからじゃないですか」
 傷付いた貞義を想像した雪光の顔が一瞬苦悶に歪む。
 だが、もとの表情にすぐ戻ると、今度は足で男の喉を締め付け始めた。
「……めんな……さい…。ゆる……して……」
 毒も廻り、喉を絞められた男が苦しそうに謝罪の言葉を並べる。
 けれど、そんな言葉なんて聞こえていない様に雪光は足に力を込め続ける。
「おいっ……!何をしているっ!」
 不意に後ろから聞き慣れた声がして雪光はぱっと振り返った。
 そこには怒った様な表情を浮かべた貞義が立っていた。

Re: 紅い糸、白い花。 ( No.7 )
日時: 2019/11/06 11:34
名前: 千葉サトエ

 貞義に気がつくと雪光の表情が一気に明るくなった。嬉しそうに笑うその表情は惹き込まれてしまいそうなほどに美しい。
「貞義。聞いてください、貴方に意地悪をしていた奴は僕が捕まえて仕置きをしておきました」
 「惚れ直しました?」と尋ねてくる瞳は汚れ一つない。
 暫くその瞳を見つめて雪光の話を聞いていた貞義だが、話の途中で雪光の体を強く壁に押し当てると悲痛な面持ちでうつむきながら声を上げた。
「誰が……誰がそんなことをしろと頼んだっ!嫌がらせを受けようと俺は一向に構わなかった。あの程度の傷すぐに治るからな。それに、たとえ嫌がらせをしていても、アイツは主様の下働きだ。俺達と同じ主君に仕える身だっ!それを……」
 大声で怒りを表す貞義を雪光は不思議そうな顔で見つめている。
「何故そんなに起こるんですか……別に死なせてはいないというのに」
 悪びれもせず、心底不思議そうに言う雪光を見て貞義は少し落ち着きを取り戻した。そして、雪光の疑問に答えることなく話を続ける。
「どうしてお前は何時もそうなんだ。何故命を大事に出来ない。何故好意を向けてくれている他者にその様な対応が出来る。この前屋敷に敵が押し入って来たときも子供のいる前で四肢をばらばらに切り刻んで奥方様に怒られたばかりではないか」
 その時のことを思い出したのか、雪光は色の白い頬を拗ねた様に膨らませる。
「あれ、どうして怒られたのか僕わからないんですよ。悪いことはしていないのに」
 そう口にする雪光を見て貞義は何を言っても駄目だと感じたのだろう体から手を離すと、一つずっと聞きたかった疑問を口にした。
「お前は戦になると相手を一撃で仕留めた後に何度も切り刻むが、あれは何故だ。血が好きなのか?お前は血よりも、白とかそんな感じの色の花が似合いそうな見た目をしているのに」
 その質問に雪光はくすりと笑うと、首を横に振った。
「別に血は好きじゃありませんよ。そんなに悪趣味じゃない。でも、刀を振るった一瞬だけ血が細く糸の様に見えるんです。それが綺麗で。まるで……」
「……十分悪趣味じゃないか。まるで、なんだ?」
「……いいえ、何でもありません」
 そう言って雪光は少し前を歩き始めている貞義に駆け寄ると腕を絡ませた。着物の上からでも伝わってくるこの男の細さに少し頼りなさと、消えてしまいそうな危うさを感じながら貞義も少し腕に力を入れる。
「はぁ……。お前が何をやらかすか不安で、俺はろくに安眠も出来ないんだからな?」
「……では、一日中僕を監視していれば?僕、夜伽の相手なら出来ますよ」
 悪戯っぽく笑いながら言う雪光に、貞義も苦笑しながら返事をする。
「嫌に決まっているだろう。そんなことより、あの下働きを医者に見せてから主様に報告だ」


 刀を振るった一瞬だけ血が細く糸の様に見えるんです。それが綺麗で。まるで、紅い糸の様で……
 この紅い糸がある間は、僕が紅い糸を貴方に見せている間は貴方は僕のことを見ていてくれるでしょう?
 ……白い花が似合う僕では貴方は振り向いてくれないでしょう。
 でもね、僕は貴方に嫌いな人から出た紅い糸は少しだって見せたくない。我が儘ですけれど、貴方が振り向かない白い花で十分。
 ねぇ、貞義……。貴方が振り向いてくれるなら僕は

 白い花より紅い糸をとります。

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