BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

それは死ではない
日時: 2019/10/29 23:57
名前: 岬

書きたい時に短編書くだけ
読者はいないと想定して好き勝手やる
タイトルは適当

Page:1



Re: それは死ではない ( No.1 )
日時: 2019/10/30 00:50
名前: 岬


■拗じる


あれは確か、夏休み中の曇りの日。受験を控えた高校3年生は、その日も朝から学校だった。午後の受験対策講座が終わって、いつものように佐野と2人で生徒玄関に向かって歩いていたのだ。部活生がたまに通るくらいで、校舎は随分と閑散していたのをよく覚えている。講座の受講は必須ではなかったので、午後まできっちり残っている受験生もまばらだ。
他愛のない会話をしながら階段を降り、そのまま流れるように玄関とは反対側に進んだ。勉強漬けで鬱憤が溜まっている俺たちは、帰宅前のわずかな時間、玄関向かいにあるベンチで駄弁って過ごすのが決まりだった。

「理系クラスはちゃんと受講してる奴多いよな、さすがだよ。うちなんて俺合わせて7人だけなのに」

文系クラスの俺は、皆と違って志望大学合格に向けて励んでいるわけでもなく、ただ惰性で学校に来て椅子に座っているだけのようなものだった。そう言っても佐野はいつも「またそんな冗談を」と、幻想の中の勤勉で優秀な俺を笑う。

「そうかな、ガッコに来てるからって言っても、みんなちゃんと先生の話聞いてるかなんて、案外分かんないよ?ほら、内職してるヤツとかもいるし」

佐野は困ったように笑いながら、いつものベンチに腰掛けた。座り心地が最悪で、俺たち以外がここを使ってるところなんて見たことがない。「何しに来てんだかわかんねえな、わざわざ夏休みに学校きて内職なんて」そう言って、俺も佐野の隣に座った。

「あっそういや今日、三上は?佐野と同じクラスで、いつも一緒にいるのに」
「ああ、あいつはサボり。でもあと少ししたら来るよ」
「なんで?講座もう終わってんのに」

俺が不思議そうに佐野の顔を見つめると、佐野は困ったように視線を泳がせて、そのあと自分の細い指先を見つめながら俯いた。

「......俺を迎えに来てくれるんだって」
「なーーーんだそれ!彼氏か!」

あまりの斜め上の回答に、俺は笑いながら佐野の小さな背中をバシバシ叩いた。
三上は2年の時から佐野と同じ理系クラスで、テニス部の元気なやつだ。佐野とは根本からタイプが違うように見えるが、どうやら波長が合うらしく、2年の後半からはずっと佐野にくっついている。確か進路も佐野と三上で同じだった覚えがある。
俺の笑い声に混じって、佐野は小さな声で「はは、ほんとに。おかしいよね」と自嘲した。

「いやあ、理系クラスのやつらから佐野と三上の仲良し伝説はよく聞くんだけどよ、まさかわざわざ迎えに来るほどまでとはなあ。アイツの家って確かバスと電車乗り継いで1時間くらいだろ?」
「仲良し伝説って、なんだよそれ」

ひとしきり笑い終わったあと、佐野はまだ俯いたままで、「恥ずかしいこと言うけど、俺、正直おまえのこと1番の友達だと思ってるんだけど」と前置きした。

「急になんだよ?」
「いや、1番の友達だと思ってるから、そろそろ言わなきゃかなと思ってて、それで......」

急に歯切れの悪くなった佐野に違和感を覚えながらも、実は『1番の友達』というワードに胸が高鳴る俺である。恥ずかしさを隠すために、その後に続く言葉を急かしながらも、正直頭の中はそのワードでいっぱいだった。俺も佐野が1番の友達だと思っている、とは、恥ずかしすぎて返せない。

「だから、なんだよその前置き!で?続きは?なに言わなきゃなの?」

佐野の唾を飲み込む音が聞こえるようだ。

「おれ、三上と付き合ってる」

俺は目を剥いて、俯く佐野をしばらく無言で見つめた。言葉が出なかったのである。「え?」とか「ん?」とかは出てきた。混乱している。すごく。
ひどく混乱している様子の俺の顔を、佐野は不安そうな表情で覗いている。

付き合ってる。三上と。佐野が。

やっと頭の中でストンと飲み込めた気がする。一度整理してしまえばなんてことはない。驚愕よりもむしろ納得だ。だって2人の仲の良さは、男友達としては度を超えていた。なんとなくその可能性が既に俺の頭の片隅の片隅の片隅に、予め用意されていたのだから。お久しぶり、出番ですよ。

そして俺の第一声は「まじで?おめでとう」だった。

佐野はさらに不安そうな顔で、「気持ち悪いとか、引いたとか、そういうのは、大丈夫なの?」としどろもどろで尋ねてきた。

今回はスっと答えられる。俺は佐野の猫毛を見つめながら「そんなんねーよ」と笑った。本当にないのだ。

Re: それは死ではない ( No.2 )
日時: 2020/01/09 21:29
名前: 岬


■蜜柑


僕は無重力人間だ。

初めてそれに気が付いたのは小学校4年生のとき、2つ離れた兄の卒業式でのことだった。卒業生代表として答辞を述べる兄の姿を無感情に眺めていたら、急に足を踏み外した。否、ぼくは在校生の塊の中で大人しく椅子に腰掛けていたのだから、「足を踏み外す」という表現は適当でないだろう。ともかくぼくは椅子をすり抜けて、体育館の床をすり抜けて、マイクにのった兄の声が聞こえなくなるほど真下に滑り落ちていったのだ。身を包む浮遊感と曖昧な重力が恐ろしくて、ぼくは目を瞑って必死に奥歯を噛み締めた。すごい勢いで落ちていくくせに、ぼくの体は妙にフワフワとしていたのだ。これが一体何なのか、当時10歳のぼくにはわかるわけがない。だって今のぼくにも皆目見当もつかない現象なのだから。


「それで、どうやって体育館に戻ってきたんだ?」

ぼくが剥いた蜜柑をかっぱらって、スグルはひょいと口の中に放り込んだ。

「あーあーもう、喉につっかえないように、よく噛みなね。もうおじいちゃんなんだから」などと苦笑しながらコップにお茶を注ぐ。スグルは口をもごつかせながら、何やらぼくに罵声を浴びせている。

「まったく!46歳はまだおじいちゃんなんて歳じゃねえぞバカ弟が!」
スグルの眉間にいっそう皺が寄る。




あれから少しして目を開けると、ぼくはそれまでと同じように在校生の塊の中で、椅子の上に良い子に座っていた。兄の答辞は既に終わって、拍手のなか卒業生たちが退場しているところだった。ハッとして兄の姿を探したが、もう退場し終わっていたようだ。ぼくはしばらく目を剥いたまま惚けていたが、卒業式という特異な場所でぼくが変に思われることはなかった。


話終える頃にはスグルは蜜柑をすべて食べ尽くして、お茶を啜っていた。肌はいやに生白くて、頬も少しこけているが、艶やかな短い黒髪は昔と変わらず柔らかそうだ。

「フーン、じゃあなんだ、おまえ、俺の卒業生代表の答辞はぜんっっっっぜん聞いてなかったわけだ?」
「聞いてたとしても、そんな昔のこと覚えてるわけないじゃないか」
「べっっつにいいけどね、そんなもんかよ俺の答辞は。んで?今も変わらず無重力人間なのか?」

スグルは口をへの字に曲げて視線だけこちらに寄越す。

「......いや?最後に“落ちた”のは大学生の時かな。どうやら、もうただのオッサンになっちゃったみたいだよ」
「なーーーんだ、現在進行形なら俺のことも無重力にして、どっか違うところに飛ばしてほしかったのに」

スグルの声は明るかったが、ぼくは一瞬血の気が引いて、息を飲んだ。

「べつにそういう特殊能力じゃないし」

思わず目を逸らしてしまった。あ、ゴミ箱に蜜柑の皮がすごい溜まってるや。後で片さないと。

「バッカおまえ、夢見たっていーだろ?......っと、もうすぐ時間だ。看護士さんくるからベッド周りのきったねえの隠さなきゃな」
「ああ、うん。まったくよくこんなに散らかしたもんだねえ、うちのバカ兄貴は」

小言を挟みながら、蜜柑の皮を片付けた。


ごめん兄さん、嘘ついてることが2つある。

1つは、今でもまだ、ぼくは無重力人間だということ。

もう1つは、さっき「今の僕にも“落ちる”理由は皆目見当もつかない」って言ったけど、本当は高校生の頃に既に原因にたどり着いてしまっている、ということだ。


スグルはぶつぶつと文句を言いながら、ウエットティッシュで指を拭いている。ぼくはゴミ袋を縛り、手を洗い終えると、ベッドの上の兄を見つめた。

「......兄さん」

ふと声を掛けると、スグルはまだ不満そうな顔で「なんだよ」とこちらを振り返る。

「......蜜柑、家にまだいっぱい余ってるんだ。剥いてあげるから兄さん全部食べてよ」
「蜜柑好きだし別にいいけど、あとどんぐらいあんの?」
「......あと50年分くらい、かな」

スグルは目を丸くして固まったあと、しばらくしてふっと息を吐くと、「この蜜柑人間に任せとけよ!」と破顔した。
その笑顔が儚げで、ともすれば瞬きの隙に消えて無くなってしまいそうな、そんな恐ろしさがある。ぼくは「よろしく」と呟くと、また床から足を踏み外し、無重力の闇へ落下して行くのだった。


ぼくが無重力人間になるのはいつだって、兄に置いていかれてしまうと無意識に恐れた時のみだった。

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