複雑・ファジー小説

君を、撃ちます。 
日時: 2018/09/13 16:37
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ

     


                君の手は、とてもとても暖かいね。
         もう疲れたっていったら、君は怒ったりするかな。
               大好きだよ、とってもとっても。


                 だから、ね。

                  僕の、最後のお願いを聞いて欲しい。



―――――――

 ■二年が経ちました。(>>59)
  改めて、更新を開始していこうと思います。ゆったりとした更新ですが、よろしくお願いします。


 □どうも、柚子といいます。普段は別名義です。


 □
 第一話『僕』 >>01-44
 >>01 >>04 >>08 >>09 >>12 >>13 >>14 >>15 >>20 >>23 
 >>24 >>25 >>26 >>27 >>28 >>31 >>32 >>33 >>36 >>37
 >>38 >>39 >>40 >>41 >>42 >>43

 第二話『私』 >>44-66
 >>44 >>45 >>48 >>49 >>50 >>51 >>52 >>53 >>54 >>62
 >>63 >>64 >>65 >>66



 □お客様
 ゆぅさん/風死さん/朔良さん/千鶴さん
 憂紗さん/日向さん/悠幻さん/涼さん
 エリックさん/環奈さん/Orfevreさん
 キコリさん



 □since.20130318〜


―――――――


( 虚空に投げたコトノハ )
( オオカミは笑わない )
( さみしそうなけものさん )

ふわりとかすった花の香 /餡子

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Re: 君を、撃ちます。 ( No.52 )
日時: 2014/01/29 21:20
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ



 また同じように手を繋いで、通学路を進む。ひんやりとした風だけど、まだ厚着をするほどじゃない。真浩から伝わる手の温もりが、私の体温全体を暖かく保っていてくれている。
 道を通り過ぎる、同じマンションの人達には嫌そうな目で見られた。同じマンションで殺人事件となれば、仕方が無いことかもしれないけれど、まだ少し心に刺さる。最初は同情とか、非難する声と視線が多かった。

「椿、あんなん気にすんなよ。絶対守ってやっから」

 そう言った真浩が、私の手をぎゅっと握る。それがとても嬉しくて、私も強く真浩の手を握った。何だかお兄ちゃんと一緒に歩いているようで、兄を持つ子の気持ちが分かった気がする。
 そうして二十分ほど、ゆっくり歩いた。美優と春と分かれた十字路を、向かって右に曲がる。少し進んだところにある、角に建つ大きな家が春の家だった。春の両親は、優しくて、どちらも端正な顔立ちをしている。

 真浩が手を離し、インターフォンを押す。マンションの音声とは違う、深みのある音が外と内に響いたようだった。

『はい、神野谷』

 機械越しの春の声に、真浩が「椿と、真浩」と応える。すると、少し神経質そうだった春の声が柔らかくなった。

「いらっしゃい、もう美優来てるよ」

 重たそうに扉を開けて出てきた春に、真浩は笑顔で歩んで行った。私も真浩に続いて、春の家に吸い込まれていく。白とダークブラウンのコントラストが美しい、欧風な家のつくり。優しいオレンジの香りがした。
 玄関からリビングまでの長い廊下を、春について歩く。長い廊下も暖かくて、普通の家庭とは違った。春がリビングへの扉を開けると、併設されたキッチンからはいい香りがする。

「大皿って考えたら面倒だったから、パスタにしたんだ。真浩はナポリタンで、椿はカルボナーラだったよね?」

 確認するように春は私達を振り返る。春の記憶力は完璧で、私と真浩は頷いた。小さい頃から、料理人のお父さんと作っていた料理は、驚くくらい美味しい。そのことは、美優と私に、真浩しか知らないこと。
 リビングにある白い革張りのソファに、荷物を置いてキッチンのほうへ向かう。皿に盛られたパスタを、リビングのテーブルまで持っていく。美優はサラダを作ることに集中していて、私達が来たことを気付いていないみたいだ。

「美優、二人とも来たよ」

 美優の肩に、ぽんと春が手を置く。美優は驚いて「ひあぁあ!?」と声を上げた。少しだけ訪れた静寂を壊すように、美優以外の笑い声が響く。春は口元に手を当てて、笑いをこらえるようにしながら「大丈夫?」と言っていた。
 真浩は笑いを隠すことなんかなく、大きく口を開けて、目元には涙も見せている。私も、そんな二人を見てると面白くなってきて、思わず声を出して笑った。
 
「もおおお!! 春のばかっ! 真浩も、椿も笑うなあっ!」

 恥ずかしさで目に涙を滲ませたまま、美優が怒る。それがとても可愛らしくて、私は小さく微笑んだ。

「いやっ、ごめん。面白くてさ、そこまで驚くと思わなくて」

 ふふっと笑う春と怒った美優の掛け合いをBGMに、私と真浩で飲み物などをテーブルに運ぶ。一通り運び終わって、座って待てば、少しして美優がサラダを持ってきた。まだ少し怒っているみたいで、頬が膨らんだまま。

「美優、そんな顔してっと幸せにげんぞー?」
「誰がさせたの! 真浩もでしょーがっ!」
「ほら、折角作ったのに冷めるから食べようよ」
「そうだね。真浩なんかほっといて良いから、横で一緒に食べよ?」
「椿がそういうなら……食べる」
「一応解決っつーことで、いたあっきやーす!」
「いただきまーす」
「いただきます」
「どうぞ、召し上がれー」

 用意されたフォークとスプーンを使い、パスタを食べる。どこかの料理店に出ても可笑しくないくらい、美味しい。

「やっぱうめーな、春の手料理。俺んとこ、嫁に来ねぇ?」

 大好物のナポリタンを食べながら、真浩が春を口説く。春は苦笑交じりにそれを受け流し、お茶を飲む。

「春がお嫁さんに来るなら、いいね」
「毎日ご飯作ってもらえるってさいこーだよねー」

 くすくす笑いながらご飯を食べる。

「二人とも……。僕は作ってもらったほうが嬉しいんだけどな」
「春に勝てる料理つくれる女、椿以外いなくね?」

 そんな風にくだらない事を笑い合いながらご飯を食べた。これから、長い長い夜が始まる。


Re: 君を、撃ちます。 ( No.53 )
日時: 2014/02/16 11:49
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ




 ご飯を食べて、お皿を洗って、春の部屋に移動した。小柄な春には大きすぎる、殺風景な部屋。春は月の大半を一人で過ごして、それも家自体が大きな場所で、一人ぼっちで。そう考えると、私と春は少しだけ似ている気がした。
 親が殺された子どもと、親とあまり会わない子ども。一緒にするな、なんて怒られるかもしれないけれど、私は同じだと思った。抱えた辛さは種類が違っても、きっと同じ。春の見せる笑顔には、きっと私も、美優も真浩も知らない深い深い闇がある。

「椿、僕の顔に何か付いてる?」

 不思議そうに言う春に、私は慌てて首を横に振った。お父さんとお母さんが殺されてから、誰かの心の闇を探している自分を、改めて確認した。
 私と同じ重さを、私と同じ辛さを、誰か誰か。

「どーかしたのか、椿」

 頬を、真浩の指で押される。ふに、とした感覚が生まれたほうを見れば、真浩が私をじっと見ていた。

「暗い話でも、別にいーぞ? 思ってること、話してみろよ」

 にっと笑う真浩に、春と美優も頷いた。広い部屋の一部分が、驚くほど暖かい空気で包まれる。頬に刺されたままの真浩の指をどかし、一度三人の顔を順に見た。
 頼もしい表情ばかりで、躊躇うことを、少しだけやめて、口を開く。言葉にするのは難しくて、俯いた瞳が泳ぐ。開いた口は、なんどかパクパクしたあとに、一度閉じた。


「……皆は、どんな、心の闇を、持ってるのかなって」

 そうか細く、ゆっくりと呟く。周りの世界が、凍った気がした。数分の沈黙。最初に沈黙を壊したのは、美優で、私は意外だった。美優はいつも、誰かの話しに便乗する子だったから、自ら話を始めるとは思わなかった。

「私はさ、みんな知ってると思うけど、おばあちゃんとおじいちゃんと暮らしてるじゃん? それでね、初めて会った子とかに毎回、“どうしてお母さんとお父さんがいないの?”って言われるの」

 其処まで少し言葉を詰まらせながら、美優は言う。

「私ね、お父さんとお母さん、仲悪かったんだよね。お父さんは、家に全然帰ってこないし、お母さんは覚せい剤にはまちゃって。だから、私のこと引き取ってくれたの。おじいちゃん達が」

 あははと笑いながら言った美優に、春も真浩も、申し訳なさそうな顔をして、だんまりとしていた。この話を聞いたことがあるのは、三人の中で誰も居ない。私も、真浩と春も、いつも笑顔で天真爛漫な美優しか知らなかった。
 気付いてあげられなかった。そんな悔しさと、聞いてしまった罪悪感に襲われている。

「はい! 私の話はおわりーっ! 次は、真浩と春のどっち?」

 普段と変わらないで言う美優だったけど、声色は少し、曇っていた。選手交代と、春が口を開いた。


「僕は、一人っ子で美優や椿と一緒。だけど、美優の家みたいに父さんと母さんの仲は悪くない。椿の家みたいに、誰にも殺されてなんかない」

 そこまで春が言った所で、私達三人は今から始まる話が、三人の誰よりも深く暗いことを悟った。

Re: 君を、撃ちます。 ( No.54 )
日時: 2014/03/03 11:06
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ



「僕には真浩みたいに、兄妹はいない。美優と椿のように、明確な恐怖があるわけでもないんだ」

 其処まで言って、テーブルの上においていた麦茶を、一口飲む。

「今、父さんは仕事で東京に単身赴任してる。母さんは、仕事で外国。何時からだったか忘れたけど、月の半分以上は一人で過ごしてるんだ」
「まじ? んなら、俺に言ってくれりゃー、俺の家に泊まってってくれても、いーんだぞ?」

 胡坐をしながら、真浩が春に言った。春は小さく首を振る。その表情は、どこか寂しげで触れたら壊れてしまいそうなものだった。



 それから大体二十分くらい、私達は春の話を聞いていた。時々怒気を含ませたり、悲しそうな表情で話したり。私と美優とは違う、深く重たい悲しみが、春の口から出てきて部屋中に充満する。重たいけれど、逃げることを拒まない優しさが残っていた。

「――っていう話」

 その言葉で、一気に室内を充満していた空気が消えた気がする。何処となく部屋の照明も、明るく変わったような、そんな感じがした。春は少しすっきりした顔をしていて、正反対に私達はもやもやした感情が生まれていた。
 
「僕の話は終わりだから、そんな怖い顔しないでよ。三人とも」

 いつものような柔らかい笑顔で、春は私達に言う。温かい笑顔は、何時もと変わらない。優しくて、ほんのり温かい、春の笑顔。私もつられて少し優しく笑顔になった。けれど、美優と真浩は少しだけ難しい顔をして、俯く。
 
「真浩、美優。そんな暗い顔しないでよ。……なんだか、申し訳なくなっちゃうじゃないか」

 眉尻を下げて、控えめに言った春に二人は顔を上げた。何かを決意したような真浩の表情に、春も私も驚くいた。

「抱え込む必要なんかねーんだからな! お前のことも、椿のことも美優のことも、全部ひっくるめて守ってやっから! 三人兄弟の長男のこと、なめんなよ」

 言葉を紡ぎながら、真浩は私達三人の顔をしっかり見ていく。私は真浩と目を合わせて、美優とも、春とも目を合わせた。美優と目を合わせたとき、なんだか可笑しくなってきて、声をあげて笑う。
 それを見てた春も、堪えきれないという風に笑い出した。

「なっ! ちょ、お前等な! 人が折角かっこつけてるときに笑ってんじゃねーよ!」

 恥ずかしそうに顔を朱に染めながら、真浩が抗議の声を上げる。それも面白くて、笑えば、なんだか、今までの話も軽い悩みのように思えてきた。やっぱり真浩は凄いなあ、なんて心のどこかでポツリと思う。
 
「真浩が僕らの兄さんだったら、絶対面白くなりそう」

 そういって春はクスクスと笑い続ける。ツボにはいったのか、真浩が何かを言うたびに春は身体を震わせた。

「いやー、真浩面白いねー! もう面白すぎだよ」
「あーもう、っせえな!! 寝るぞ! ほら春さっさと立てって! 美優、椿、おやすみな!」

 そういって春の腕を引っ張り、足早に真浩は部屋から出て行った。扉が閉まる寸前に「おやすみー」と、くすぐったそうな声で春が言う。それに私達も返し、春のベッドにもぐった。
 電気を消して、春が一人で使うにはあまりにも大きな、クイーンサイズのベッドに。ベッドの中で手を繋いで、お互いの顔を見合った。どちらからともなく、会話が始まった。

「椿ってさー、好きな人いる?」
「いると思う?」
「えーっとねー。真浩かなーって」
「ええっ、違うよ」

 くすくすと、私は笑う。

「美優は、春のこと好きなの?」

 もぞもぞと美優が動いた。

「好きなのかは分かんないけど、気になったり? みたいな」

 そう言って、けらけら笑う。私も薄く微笑んで、ゆっくりと睡魔に身を委ねた。









「お前ってさ、好きな人いる?」

 春と同じベッドにもぐりながら、真浩は言う。春は少し意外そうな顔をして、「うん」と言った。

「えっ、誰誰!? 春から好きな女子の話聞くとかねーから、すっげー気になる!」

 上半身を起こし、驚きを隠さない口調で春に言う。横になったまま、春は落ち着いた口調で言った。

「美優。詳しいことは、また今度二人で遊んだときにね。それじゃあ、おやすみ」
「えっ、あっ、おう……。おやすみ」

 直ぐに寝息を立てた春の頬を、真浩の人差し指がふにふにと触る。規則正しい寝息だけが返ってきたのに諦め、真浩も同じようにベッドにもぐった。
 それから直ぐに、室内には二つの寝息が聞こえるだけになる。小さく聞こえた足音に、誰一人として気づくことはなかった。

Re: 君を、撃ちます。 ( No.55 )
日時: 2014/03/03 16:20
名前: 環奈 ◆8DJG7S.Zq.

すごいです!!

人の気持ちとか表情とか、そういうのや情景がたくさん書いてあって・・・!
題名も印象的ですよね。

君を、撃ちます→(え、なんで?)→見る。って繋がりますし、
えーと。駄作者の私が言うのもなんなんですが、最初の部分の「××」これは、「――」のが良いのでは?

「――くん」
のように!!あ、あくまでわたしの意見なんですけどね汗 ××のほうがわかりやすさはあると思います。

Re: 君を、撃ちます。 ( No.56 )
日時: 2014/03/03 22:00
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ


環奈さん

シリダクの作者様でしたよね、お名前は一度見たことあります。
コメント有り難う御座います。作者の柚子です。

描写、もとい地の文が少ない小説は読みごたえ少ないですからね。
そういった点は気をつけています。

案、有り難う御座います。
『××くん!』と表記して『――くん!』と表記しないのには理由がありまして。
僕の持論なのですが。
『――』というのは、『……』とは違い、『何かをもったいぶっていう時に使うもの』という認識をしています。
ですので、『――』というのは、基本的に使用しません。
『××』と表記しているのには、様々理由が存在します。

コメント有り難う御座いました。

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