複雑・ファジー小説

君を、撃ちます。 
日時: 2018/09/13 16:37
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ

     


                君の手は、とてもとても暖かいね。
         もう疲れたっていったら、君は怒ったりするかな。
               大好きだよ、とってもとっても。


                 だから、ね。

                  僕の、最後のお願いを聞いて欲しい。



―――――――

 ■二年が経ちました。(>>59)
  改めて、更新を開始していこうと思います。ゆったりとした更新ですが、よろしくお願いします。


 □どうも、柚子といいます。普段は別名義です。


 □
 第一話『僕』 >>01-44
 >>01 >>04 >>08 >>09 >>12 >>13 >>14 >>15 >>20 >>23 
 >>24 >>25 >>26 >>27 >>28 >>31 >>32 >>33 >>36 >>37
 >>38 >>39 >>40 >>41 >>42 >>43

 第二話『私』 >>44-66
 >>44 >>45 >>48 >>49 >>50 >>51 >>52 >>53 >>54 >>62
 >>63 >>64 >>65 >>66



 □お客様
 ゆぅさん/風死さん/朔良さん/千鶴さん
 憂紗さん/日向さん/悠幻さん/涼さん
 エリックさん/環奈さん/Orfevreさん
 キコリさん



 □since.20130318〜


―――――――


( 虚空に投げたコトノハ )
( オオカミは笑わない )
( さみしそうなけものさん )

ふわりとかすった花の香 /餡子

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Re: 君を、撃ちます。 ( No.42 )
日時: 2013/12/08 19:39
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ

 車に揺られ、景色が流れていく。ビル、ヒト、キ。曇った空から少しずつ少しずつ雨が落ちてき始めた。空が泣いてしまっている。一度だけ読んだ、蟻という作者の『オオカミは笑わない』という文庫本の一部分を思い出した。

『ねぇ、オオカミさん。お空が曇っているよ。
 ねぇ、オオカミさん。オオカミさん、泣きそうなの?』

 ヒツジとオオカミの物語だった。ほのぼのとした日常の話だったけれど、だんだんと移り変わり、オオカミはヒツジを庇って死んでしまう。ヒツジは大好きだったオオカミを亡くし、いつも空を眺めてオオカミのことを思い出していた。相容れないモノが詰まっている。その本は、物語として最高のものであった。
 今は、まさにその部分のようであった。僕がヒツジで「彼」はオオカミ。「彼」の実態も何も分からないまま、「彼」は空へと昇り、乗り移った感じだ。

 ――僕が、見えるかい。

 頭の中で、空に語り掛ける。もしかしたら「彼」が反応してくれるかもしれないと、どこかで期待していた。もう一度だけ、「彼」と話をしたいと、心から思っていた。
 僕が知らない世界を、「彼」は体験している。喜怒哀楽を思ったままに出して、声を上げて笑い、たくさんのことを話している「彼」をもっともっと知りたい。僕の知らない「僕」を見せてくれた「彼」が、脳裏にしっかりと焼きついて離れないのだ。

「ねえ、××。今日の晩御飯、椿木ちゃんが作ってくれるみたいなの。スーパー寄らなくてもいいんだけど、何か食べたいものある? あるなら、寄るわ」

 ルームミラー越しに僕と視線を交えようとした「母親」と視線を交えずに、僕は小さく横に首を振る。「椿木」が晩御飯を作ってくれると聞いただけで、空腹に近かった胃の中は一気に満腹感に襲われた。

「そう、それじゃあ真っ直ぐ家に帰るわね」

 此処から遠いのよーと「母親」苦笑交じりに言う。この病院にきたときのことは覚えていないから、どれくらいの時間がかかるのかは分からない。僕は珍しく、その言葉に小さく頷いて窓に頭の重みを預けた。




「ついたわよ、××」

 「母親」の声に、僕はパッと目を覚ます。いつ寝たのか、全く覚えていなかった。寝起きで少しだるい体に鞭を打ち、ゆっくりと車から降りる。相変わらず足の筋力は少なく、力が入らずに、立つことができないまま芝生に倒れこんだ。
 
「××!? 大丈夫? ゆっくりでいいから。ほら、肩貸してあげる!」

 驚いた「母親」の声が聞こえてから、車のドアが閉まる音がした。僕の視界に広がっているのは、まだ青い芝生の色。感じたのはぽつりと降っている雨。
 車の冷房で少し冷えていた体は、雨の冷たさに負け体温が下がっていっていく。風が吹いていないのだけが、幸いだ。「母親」に、肩を貸してもらい、ゆっくりと立ち上がる。穿いていたズボンと呼ぶには貧相なものは、雨粒にぬれて色が濃くなっていた。

 僕の歩く速度にあわせて歩いていくれる「母親」に、普段なら考えられない感謝の気持ちが僕の心に溢れている。なんだか温かい気持ちで、不思議だった。奥からぽかぽかと暖かくなってくるような、感じがする。
 気付いたら目尻から感じなれた涙が、流れていた。ありがとうを伝えられない代わりに、そっと流れていく。今までの冷たい涙とは、まったく違う温かいそれ。少しずつ強くなる雨のおかげで、「母親」には気付かれなかった。

 解錠し、扉を開けて、家に入る。かぎ慣れた淡いラベンダーの香りが、ひどく懐かしく、綺麗だと感じた。何も感じていなかった匂いは、知らないうちに僕の記憶の中に刻み込まれている。この事実に、とても安心した。
 僕の知っている世界に、ようやく帰って来る事が出来た。心からそう感じている。

 ――ただいま、僕の、小さな世界に。

 いつもより時間をかけて、ゆっくりと瞬きをする。
 いつもと違う、僕の世界は美しかった。

Re: 君を、撃ちます。 ( No.43 )
日時: 2013/12/11 21:46
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ

 靴を脱ぎ、「母親」の肩を借りてゆっくりとリビングまで歩いていく。一歩、リビングに入るとごま油の良い香りが僕の鼻腔に充満した。
 ぱちぱちと、キッチンから弾ける音が聞こえる。ソファに座らせてもらい、キッチンを見るとエプロン姿の「椿木」がいた。

「あ、××君おかえり! 退院おめでとうっ。今日は、××君の退院祝いでからあげにしたんだよー」

 無邪気な笑顔で「椿木」は僕に言う。僕は心の中でそっと「椿木」に微笑み、小さく「椿木」に向かって頷いた。傍から見れば感じの悪い子どもなのだろうが、僕に出来る精一杯なのだから仕方がない。
 僕は全ての体重をソファに預け、ゆっくりと目を閉じる。非情で気味の悪い世界を、思い出すために。
 淡いLED電灯を視界からゆっくり消していく。白の視界は、まつげが合うと同時に黒く染まった。

 小さな僕と、名前も知らない「誰か」。今まで思い出したときは、二人だけだったのに、今回は違った。僕も「誰か」も意識していなかった「誰か」の背中側にある扉から、あの頃の僕とあまり身長の変わらない「子ども」がいた。
 息を喘がして苦しむ僕を見て恐怖している。そう、僕には見てとれた。次は自分の番なのかも知れないと、「誰か」をひどく恐れている雰囲気がする。
 それから間もなく、僕の司会は黒く塗りつぶされた。



 ゆっくり、目を開く。白い白い光が、僕の視界を明るく照らす。覚醒し始めた僕の脳内は、普段では有り得ないほどよく回っていた。僕の記憶と、憶測でつくられた論理をくみ上げるためだ。
 今まで思い込んでいたかもしれないことを、僕は少しずつ脳内で消していく。
 僕と「誰か」が居たはずの廃ビルは、もしかしたら違うのかもしれない。あの「子ども」は「誰か」の子どもだった可能性も否定は出来ない。子どもがいれば、きっと同じような年代の子は相手にしないだろうからだ。

 でも、と。普段から「誰か」は、あの「子ども」に暴力を振るっていたかもしれない。もしかしたら日常的に行っているのかも。そうして霞んだ「子ども」の深い深い瞳を思い出す。
 ふと、頭にとある人が思い浮かんだ。幼い頃に少し遊んだことがあるだけで、その顔はしっかりと思い出すことは出来ない。
 遠い昔の記憶だけれどその「子」は、苦しむ僕を見ていた「子ども」と同じように、深い悲しみと憎しみがつまった瞳をしていた。

 懐かしい。

 きっと今思い出した「子」と、あの場所に居た「子ども」は、一緒の人物なのだろう。


Re: 君を、撃ちます。 ( No.44 )
日時: 2013/12/14 22:10
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ


第二話 『私』

 
 小さな世界が嫌いだった。空っぽの自分自身が、嫌いだった。私を取り巻いている環境は、小さい頃から何も変わっていない。息苦しい煙草のにおいとアルコールの混じった、汚い空気。
 私の周りにはそれしかない。そっと、顔に出来た痣に触れる。ぼうっと痣を撫でながら、自分の部屋に戻る。安いマンションで、リビング以外の部屋は二つしかない。その中の物置部屋が、私の部屋。

「おい、椿。ッ、煙草買って来い」

 扉の奥から、酔った父親の声が聞こえる。静かに立ち上がり、痣を隠すようにマスクをつけて、部屋からでると床にお金が置いてあった。煙草購入用のICカードもある。
 それらを拾って玄関に行く途中で、仕事から帰って来たお母さんにあった。口パクで「ごめんね」と言われ、ふいっと視線を下に向ける。お母さんも、お父さんも、大嫌い。誰からも、何からも守ってくれないこの家族が大嫌いだ。

「……行ってきます」

 重たい扉が閉まってから、廊下に出て言う。家とは違う新鮮な空気を目一杯吸い込んだ。たまには換気をしよう。そう思って、外を歩いていく。少し蒸し暑い日にマスクをつけている私を、近所の人は不思議がらない。私の親が、どんな人なのか知っているから。
 会釈してくるご近所さんは、いない。井戸端会議をしながら遠巻きに私のことを話す人ばかり。本当に、嫌になる。靴の踵が磨り減るのは気にせず、踵をすって歩いていく。

 近くの公園から小さな子達の話し声が聞こえた。何も辛いことを知らないんだ。私と同じような環境で、過ごせばいいのに。そう思うと、目頭が熱くなってくるのが分かった。
 涙を流さないように、ぎゅっと歯を食いしばりながら、少し遠くの煙草屋を目指す。数分ほど歩いて、煙草、の看板が見えた。此処の自動販売機で煙草を買って帰れば、それで終わる。少しだけまた、気持ちが沈んだ。

 帰りたくない。

 ぎゅっと着替えないままだった制服の胸元を、強く握る。親に反発する恐怖が、足元から這い上がる感覚がした。一回目は顔を思い切り殴られた。二回目は、やっぱり殴られて、蹴られて、家の外に放って置かれた。
 当てもなく歩いて、一人だけ私を見てくれた女の人がいた。優しく声をかけてくれて、家に招いてくれた人。その面影と、ぼやけた景色だけえを頼りにとぼとぼと歩いていく。

 夕焼けは、家を出たときよりも西に傾いていた。だけどまだ日は長くて、私の影法師をずうっと長く長くしている。煙草屋を過ぎてからも、ずっとずっと歩く。
 もう、いつ帰ったとしてもお父さんに殴られる。それなら探されても分からないくらい遠くに行きたかった。息苦しくなり、マスクをはずす。すれ違った知らない人に、頬にできた痣を見られても気にしていられなかった。

 どれくらい歩いたか、分からない。街灯はぽつぽつとつき始め、私の歩いている道もだんだんと住宅が少なくなってきた。ぼやけた景色と、今見ている景色は、ほぼ同じ。
 きっと、合ってる。
 そう信じながら、曲がり角を曲がる。暗くうっそうとして見える林の中に、一軒だけぽつりと明かりのともっている家があった。きっと、あれだ。少しだけ心の中で喜びがこみ上げる。ゆっくりとゆっくりと歩いて、その家へと向かう。



 玄関扉の前に立ち、大きく深呼吸をする。少し震えた指で、チャイムをぐっと押し込む。無機質なチャイム音が扉の奥に響く。少ししてから、がちゃ、と音がした。その音で、体に力が入る。何を言ったらいいのか分からないほど、緊張していた。
 
「社木ですが、どちら様ですか?」

 優しそうな女の人の声。ゆっくりと、言葉を出していく。

「こ、こんばんわ。えっと……時雨、椿です。少し前に、その、夜に道歩いていたときの……」
「しぐれ、つばき? 夜歩いてたって……。もしかして、おうちから出されちゃった子?」

 家から出された。その言葉を聞いて、からからの喉に僅かな唾液を送り込む。

「はい。そのときの、です」

 そう言ってからの少しの沈黙が、とても長く感じられた。また、先ほどのようにがちゃ、と音がする。ぱたぱたと音が聞こえてすぐに、重たそうな玄関の扉が開いた。
 暖かな光の中から、顔が出てくる。

「つばきちゃん、よね。あの時の。もう遅いから、ほら、入って入って」

 優しそうな笑顔に迎えられ、頬を涙が伝った。

Re: 君を、撃ちます。 ( No.45 )
日時: 2013/12/26 21:28
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ

 止まらない涙を拭うことも出来ないまま、ぽろぽろと玄関の床に涙の痕を落としていく。この家の女性は「ちょっと待ってて」といい、慌て気味に家の中へと戻っていった。止まらない涙を、蹲りスカートでぬぐう。
 
「つばきちゃん、家に、入れないの?」

 ゆっくりと赤子をあやす様な優しい口調で問われ、弱く横に首を振った。入ろうと思えば、きっと入れる。だけど、家には帰りたくない。今、家に帰ったところで何をされるかは全く分からないのだ。殴られるだけで済むか、分からない。
 ぽん、と頭におかれた手に、びくりと過剰に反応する。だんだんと呼吸が荒くなり、肩が震えた。叫びだしそうになるのを、いつものように抑える。声を大きくすると怒られていたから、涙はスカートだけで拭い、あいていた両手で口をふさぐ。

「つばきちゃん、大丈夫よ。つばきちゃんのお父さんもお母さんも、このおうちには居ないからね。自分の家には、戻りたくないの?」

 何度も何度も、頷いた。震えも嗚咽も止まらないまま、何度も。優しくしてくれる誰かに、初めて出会った喜びも手伝っているのか、涙は全く止まらない。
 普段なら耐えられていた涙が、いっぱいいっぱいになってしまったみたいだ。辛くて、苦しくて。だけど手を差し伸べてくれた。それだけで、私を壊すには十分だったらしい。

「つばきちゃん、ほら、涙を止めて。お父さんとお母さんに会う決心が付くまで、この家にいていいわよ」

 背中を優しくさすりながら掛けられた、温かい言葉。嬉しくてしょうがなかった。けれど、私は首を横に振る。今日は、ちゃんと家に帰ろうと少しだけ思った。
 もしかしたら、なんて思いが浮かんできたのだ。もしかしたら、お母さんもお父さんも、私がいなくなったことを心配してくれているかもしれない。

 私のことを嫌がらないで、受け入れてくれるかもしれないと思った。ゆっくりと止まってきた涙を、袖で乱暴にぬぐい私は立ち上がる。心配そうな女の人の顔が、目に入った。静かに「ごめんなさい」と言い、頭を下げ、逃げるようにして玄関から外に逃げ出す。
 後ろから呼び止められた声には、何も反応できなかった。これ以上甘えてしまったら、もう、あの場所には戻れなくなってしまうと思ったから。沢山走った。息が苦しくなっても、足がだるくなっても、一心不乱に走り続けた。視界の端に見えた「たばこ」の文字に、初めて立ち止まった。

 肺の辺りを、ぎゅうっと締め付けられているような感覚がする。息が整うまでが長くて、その場にしゃがみこんだ。背中も首周りも汗でびちゃびちゃ。一度大きく息を吸って、吐いた。まだ明かりのともるそこで、お父さんがよく吸っている煙草をカートンで二つ買う。

 脇に抱えて、また家への道を走る。走って走って、いつもの風景に戻った。殺風景な公園を通り過ぎれば、もう、私の住んでいるマンションがある。私の家の場所は薄いカーテンが一枚あるだけで、内側の光は駄々漏れだ。きっとお父さんがお母さんを痛めつけている声も、扉の外に、壁の向こうに、駄々漏れなんだろう。
 次は、私の番――。そう思うと、膝が笑い始めて、呼吸も乱れてきた。ぎゅっと拳を握り、深呼吸をし、マンションへと入る。階段を上る最中、家が近づくにつれて心臓はどくんどくんと、強く脈打っていった。怖くて、どうしようもない。

 もしかしたら、なんて淡い期待はもうなくなっていた。どこを殴られるのか、どこに煙草の痕をつけられるのか、心配だった。お母さんに、どのようにして私の心を壊されるのか。
 震える手で、ゆっくりと家のドアノブに手をかけた。手首をひねる前に、ドアに耳をつける。不自然なくらい、静かだった。いつもならお母さんのすすり泣く声、お父さんの苛立った声がずっと聞こえているのに。

「……た、ただいま」

 小さな声で言い、扉を開く。なんだか鼻を刺激するようなにおいがして、私は顔を歪ませた。煙草は靴箱の上に置き、静かにリビングへと向かう。

Re: 君を、撃ちます。 ( No.46 )
日時: 2013/12/27 23:15
名前: エリック ◆6X.MNMRYLI

やっと追いついたのでコメントさせていただきます。

もう一人の「伊吹」が出てくるところ、最後にいい意味で裏切られた感じがしました(夢と言うオチ)。
読んでいく過程でハッとさせられて、このような技法(?)はとても好きです。

やっぱり柚子さんは言葉の紡ぎ方が綺麗だと思います!
目が先を先を行きたがるような文の運びでとても読みやすいです^^

応援しています。
そして更新を待っています。

では、失礼しますね^^

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