複雑・ファジー小説

平凡な高校生【俺】と変な科学者
日時: 2015/07/23 11:22
名前: 桜んぼ

埃っぽい臭い、暗い部屋をたった一本でわずかに照らしているロウソク。奥の方に見える机の上にはプリントが乱雑にのっている。床は沢山のゴミや物で埋め尽くされ、ほとんど見えない。

―――ここはどこだ?

見覚えのない部屋。気づいたらこの部屋のソファの上で寝ていた。どうして俺はここにいるのか、そもそもここはどこなのか、全く思い出せない。『記憶喪失』とかではない。ちゃんと自分の名前は覚えているし、家族や友達のことも覚えている。只、この状況については何も分からないのだ。もしかして俺は誰かに連れ去られて監禁されているのだろうか。――いや、そんなことはないか。こんな地味な男子高校生を監禁する悪趣味なやつ、いるはずがない。いたとしたらかなりの変態だ。

ガタンッ

後ろで大きな音がした。

驚いて後ろを振り向くと、長い髪を前に垂らした男性らしき人がいた。痩せているが、骨ばった手や広い肩幅からして、女性ではないだろう。
とりあえず、この人に聞けば何かわかるかもしれない。
「あの…」
「ああ、起きたのか。体調はどうだ?」
男は大きな目でギョロリと俺を見る。その目は充血していて少し不気味だ。
「あ、はい…大丈夫です。」
少し顔色を窺うように答えると、男はくすりと笑って長い前髪を掻き上げた。目の下に隈ができているが、かなりの美形だ。綺麗な顔立ちをしているのに、それを髪で隠してしまうなんて勿体無い。
「なに怖い顔してるんだ。俺はお前の命の恩人だぞ?」
「…は?」
あまりに予想外の言葉に、しばらくの間俺は口をポカンと開けて固まっていた。
「どーした。お前、今すごく間抜けな顔してるぞ?」
「…恩人ってどういうことだ。」
男は大きく息をついて俺の目の前に立った。そしてそのまま俺の顎をくいっと上げて俺を睨みつけた。
「お前、年上には敬語を使うように、って教えてもらわなかったのか?」
「恩人ってどういうことですか。」
「生意気なガキだな…。いいだろう、教えてやる。」
男は俺から視線を外し、ドアの方を見た。ドア、というか男の目はドアの外を見ているようだった。
「お前、この建物の前で倒れてたんだぞ。しかも周りに人はいないし、こんな真夏だ。俺が見つけてなかったらお前熱中症で死んでたかもな。」
……そういえば、俺部活の途中だったな。確か学校周辺を走っていたような気がする。その時に倒れたんだろうか。
「ま、顔色も良くなったし、もう大丈夫だろう。気が済んだらここを出ていくんだな。」
男は俺の頭をポンとたたいた後、机の椅子に座り、何かの作業に取りかかった。この男は優しいのか、厳しいのか、全く掴めない。でも、頭をたたいたあの手からは、ほんの少しの暖かみを感じた。

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Re: 平凡な高校生【俺】と変な科学者 ( No.1 )
日時: 2015/07/30 15:57
名前: 桜んぼ

1日の始まりを教えてくれる音は人によって違うだろう。俺の場合は雀の鳴き声などという少し洒落たものではなく、普通の目覚まし時計だ。寝ぼけた頭で鳴り続ける時計を探し、ボタンを押してムクリと起き上がる。開いたカーテンからは眩しいほどの陽の光が差し込んでいる。
1階に降りるとふんわりといい匂いが漂っていた。朝食はいつも和食。母が言うには、白米が1番腹持ちが良いんだそうだ。
「おはよう、慎吾。眠たそうな顔して、また夜更かししてたの?」
「別に…。いただきます。」
母は少しため息をついてから、「はい、どうぞ。」と言った。
朝食を食べ終え、歯磨きと着替えを済ませて学校の準備をしていると、インターホンの音が鳴った。急いで鞄を持って外に出ると、幼馴染みの奈々美が不満そうな顔で立っていた。
「遅い!」
「遅いって…たった5分遅れただけだろ。」
「女子を待たせてる時点でアウトよ!昨日も約束破って勝手に帰っちゃうし…。」
「あ…忘れてた。」
昨日倒れてあの変な男に会ったあと、俺は奈々美との約束を忘れてそのまま家に帰ってしまったのだ。奈々美が怒っていても仕方ない。
「ごめん…。」
「ごめんじゃ済まないわよ!私ずっと待ってたのに…。」
今にも泣きだしそうな顔になる奈々美を見て内心焦りながら、俺は奈々美の頭を軽く撫でた。
「ほんとにごめん。今日は一緒に帰るから、それで許してくれないか?」
「…帰るついでに、パフェを奢ってくれるなら考えてあげる。」
金欠の俺には少しきついお願いだが、今回の件については全面的に俺のせいなので「わかった。」と返事をした。

Re: 平凡な高校生【俺】と変な科学者 ( No.2 )
日時: 2015/08/03 16:54
名前: 桜んぼ

放課後、約束通りに奈々美と帰るついでに学校近辺にある小さなカフェに寄った。奈々美は席に着いてすぐに渡されたメニュー表を開き、パフェの中で1番高いものを選んだ。仕方なく俺はこれ以上の出費を抑えるため、アイスコーヒーを1つ頼むことにした。
「お前、なんでそんな高いやつ選ぶんだよ。」
不満げに奈々美に問いかけると、奈々美はニヤリと笑って俺の顔を指差した。
「当然でしょ。折角あんたに奢ってもらうんだから、滅多に食べられないものを選ぶに決まってるじゃない。」
フフンと得意気に笑い、頬杖をついて座っている奈々美は今日は機嫌が良いらしく、まるでどこかの国の女王の様だ。
「お前、今日なんかいいことでもあったのか?」
「…え?」
先程の表情と一変して耳まで真っ赤になっていく奈々美。口をモゴモゴさせてから、フイッと視線を逸らして今度は机の上を指でトントンと叩きだした。
やっぱり、何かあったのだろうか。

「……なさいよ、馬鹿。」

――ポツリと、そう呟く。

「は?」
俺が聞き取れずにそう返すと、奈々美はキッと睨んでから、「もういいわ。」と言って、また視線を逸らされてしまった。

Re: 平凡な高校生【俺】と変な科学者 ( No.3 )
日時: 2015/08/19 14:14
名前: 桜んぼ

次の日の放課後。俺は図書室で本を探していた。何か新しい世界が開けるような、そんな本を。
俺はよく視野が狭い、と言われる。毎日勉強、食事、睡眠だけをして過ごすことがほとんどで、遊んだり趣味に没頭したりすることはほぼない。そもそも趣味を持ったことは1度もない。昔からこんな性格だから仕方がないのだが、そのせいで友人も少ないし、毎日が退屈だ。だから、そんな毎日を一変させてくれるような本を探しているのだ。
でもまあ、そんな本はそうそうないし、こんなことをしている自分にもくだらないと呆れてしまう。とりあえず今日の所は諦めて、適当に本を選んでカウンターの所まで持って行った。
「あら、今日も来てくれたのね、慎吾君。」
穏やかに微笑むこの女性は図書室の司書をしている愛美先生。俺の憧れの人だ。愛美先生とは図書室に通っているうちに仲良くなった。奈々美と違って優しくて物腰穏やかな先生は俺から見ると女神のようで、話す時は少し緊張感してしまう。
「はい。…あの、愛美先生はこの図書室にある本でオススメの本とかありますか?俺、最近本選びに迷っちゃってて…。」
「ん〜、そうねえ。『科学の世界』とかどうかしら。弟に勧められて読んだ本なんだけど、世界の不思議な現象とかを図を使って教えてくれるの。少し難しい本だけど、未知の世界を教えてくれる、とても面白い本よ。」
そう言ってパソコンのデータを開き、貸出本の一覧表を表示させた。どうやら、『科学の世界』は貸出中のようだ。
「残念ね。今は貸出中みたい。…あら、これ私の名前…?」
先生は『科学の世界』の貸出人が表示されているところを指差して首をかしげた。そこには確かに新垣愛美(愛美先生のフルネーム)と表示されている。
「おかしいわね。ちゃんと返したはずなのに…。」
「誰かが先生のバーコードを使った…とかないですかね。」
先生はハッとした表情で俺を見た。
「そうよ!きっとそれだわ。…弟ならやりかねない。」
先生が推測している犯人は弟らしい。ということはこの学校に先生の弟も勤務しているのだろうか。
「はぁ…、関係者以外は立ち入り禁止って言ったのに…。」
「えっ…。」
関係者じゃないって不法侵入になるじゃないか…。それに、姉の名前を使って勝手に本を借りるなんて、随分自由な弟さんだ。それにしても、不法侵入を許すなんてこの学校もユルすぎるだろ。突っ込むところが多すぎて思わずため息が出てしまう。
「ごめんなさいね。弟にはきちんと言っておくから。」
「はい…。」
「あと、これ。」
先生はポケットから何かを取り出し、俺の手のひらの上にのせた。
「先生からのお詫び。ふふ、少し子どもっぽいかしら。」
俺の手のひらにはいちご味のキャンディがのっている。
「ありがとうございます…。」
俺はそのキャンディをポケットにしまって、緩む口元を隠しながら「さようなら。」と言って図書室をあとにした。

下校中、先生から貰ったキャンディを舐めながら日の傾いた道をゆっくりと歩く。甘酸っぱいそれは口の中で少しずつ溶けて俺の中に染み込んでいった。

Re: 平凡な高校生【俺】と変な科学者 ( No.4 )
日時: 2015/10/02 15:59
名前: 桜んぼ

「…吾。……慎吾!」
先程までぼんやりと聞こえていた声が、今度は耳のすぐ側でハッキリと聞こえた。あまりに大きな声だったため、耳鳴りがしばらくの間続く。
「…耳元で叫ぶ必要はないだろ。」
そう言って隣に立つ奈々美を睨みつけてやると、眉間にシワを寄せて鬼の様な形相で睨み返された。
不機嫌な女子ほど面倒臭いものはないだろう。こっちは昨日の夢のような出来事に頬を緩ませているというのに、それを妨害して、挙句の果てには色々な愚痴を延々と垂れ流してくる。このやり取りは今まで度々繰り返してきたが、やはり煩わしいものだ。
「最近あんた勝手すぎよ。昨日も一人で帰っちゃうし、私の話は聞かないし…。」
奈々美はこちらを睨みつつぶつぶつと文句を言ったあと、俯いて深いため息をついた。
二回も勝手に帰ってしまったのは流石に俺が悪かった。でも、そこまで凹むようなことだろうか。いつも強気で女王様気取りの奈々美にしては珍しく、かなり落ち込んでいる。こんな暗い顔をした奈々美は初めて見た。
「奈々美、ごめん。」
俯いたままの顔を上げるように頬にゆっくりと手を触れると、ほんのりと熱を帯びている。

「…え、お前もしかして熱があるんじゃ」

そう言いかけた途端、奈々美の体がぐらりと傾いた。倒れかけて机にぶつかりそうになる体を慌てて支える。奈々美の顔は赤く火照っていて、ぐったりと俺の腕の中で気を失っていた。

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