複雑・ファジー小説

目玉焼きは半熟
日時: 2015/12/08 17:16
名前: とりそぼろ ◆.T8yFx5W5E (ID: r1a3B0XH)

初めまして、とりそぼろと申します。

目玉焼きは半熟に塩胡椒をかけて食べるのが好きです。

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Re: 目玉焼きは半熟 ( No.1 )
日時: 2015/12/08 17:21
名前: とりそぼろ ◆.T8yFx5W5E (ID: r1a3B0XH)

はじめに:僕



目玉焼きは半熟。

紅茶には砂糖を5つ入れてあげなければならないし、熱すぎても冷たすぎてもいけない。
カッターシャツは袖口までしっかりとアイロンをかけて、ひとつの皺も残してはならない。
家を出るのは7時46分。1分でも遅くなってはいけない。
僕と同時に右足から踏み出して外へ出ること、これも絶対。

彼女には決まりがある。
少しでも彼女の決まりから外れると、彼女はひどい癇癪を起こしてしまう。癇癪を起こした彼女は何をしでかすか分からない。

彼女がそうならないように、彼女の隣で彼女の作った決まりを守り続けることが、僕の役目。


今日も僕は、彼女の決まりに従って息をする。


Re: 目玉焼きは半熟 ( No.2 )
日時: 2015/12/08 18:07
名前: とりそぼろ ◆.T8yFx5W5E (ID: r1a3B0XH)

ひとつめ、朝ごはんは半熟の目玉焼き:僕



双子の妹である彼女は、少し変わっている。

自分で決めた決まりごとに当てはまった行動しかしないし、周囲の人間にも決まりごとを守って過ごすことを強要する。

大抵の人間は、そんな彼女を面倒臭がって離れていった。
両親も同じ。彼女とはどこか距離を置いている感じがある。

彼女を見捨てない人間なんて、きっと僕くらいのものだろう。


朝、僕は彼女より早く起きて、二段ベッドの下の段で眠る彼女に声をかける。
「朝だよ、起きて。学校へ行こう。」
三度同じことを言ったところで、彼女がうっすらと目を開けた。
彼女が再び夢の世界に沈んでしまう前に、手を引いて、立ち上がらせる。
着替えて顔を洗うよう言って、僕は台所へ。
真冬の早朝、氷のように冷たくなったフローリングの上をつま先立ちになりながら素足で歩く。
どんなに寒くても、どんなに気怠くても、僕は彼女のために朝ご飯を作らなければならない。

それが、彼女との決まりだから。

メニューにも決まりがある。
とろけるタイプのチーズを乗せたトースト、カリカリに焼いたベーコン三枚、そして目玉焼き。
目玉焼きは、フォークで刺したとき中からとろりと黄身が溢れるくらいの半熟でなければならない。
トーストにチーズを乗せ忘れたり、ベーコンがカリカリになっていなかったり、目玉焼きに火を通し過ぎていたり、そういう失敗を彼女は許してくれない。
どんなに急いでいる朝でも、体調を崩した日でも、すべて守って当たり前。
彼女の決まりは絶対なのだ。

朝ご飯が出来上がったタイミングで、制服姿になった彼女が現れた。
彼女が着ているカッターシャツやブレザー、スカートは、昨日の晩に僕が丁寧にアイロンをかけておいたから皺ひとつない。
これも、彼女の作った決まりのひとつ。『前日の夜に、彼女の制服をアイロンがけして綺麗な状態にしておくこと』。
未だ眠たげに目元を擦る彼女をテーブルにつかせて、目の前に出来上がったばかりの朝ご飯を置く。
彼女はしばらく目の前の食べ物ひとつひとつをじっと眺めて、それから、満足そうに両手をぱちんと合わせた。
「いただきます。」
その様子に、ほっと安堵する。今日は失敗しなかったらしい。
黙々と食べる彼女の隣の椅子に座って、僕は自分用の焼いてすらいない食パンを齧る。
彼女のご飯にすべての神経を注ぐので、僕の朝ご飯はいつもこんな感じ。適当だ。でもそれでいい。
彼女の決まりが守れるなら、何だっていい。

朝ご飯を済ませると、僕は僕自身の身支度にやっととりかかることができる。
急いで着替えて、顔を洗って歯も磨いて。しまった、そういえば昨日準備しておいた彼女と僕のお弁当をまだ包んでいない。
ばたばたと慌ただしく家中を駆け回る。まずい、7時44分。もう時間がない。
髪がところどころ寝癖で跳ねたままだけれど、そんなことに構っている余裕はなかった。
お弁当とカバンをひっ掴んで、彼女のもとへ。
彼女は既に玄関で靴を履き始めていた。
「お待たせ。」
僕も履き古したスニーカーに足を通す。
7時46分になった瞬間、決まり通り二人同時に右足から外へ踏み出した。

「「 いってきます。 」」

Re: 目玉焼きは半熟 ( No.3 )
日時: 2015/12/09 18:43
名前: とりそぼろ ◆.T8yFx5W5E (ID: r1a3B0XH)

ふたつめ、休み時間はすべて私のために使うこと:委員長



うちの高校には、奇妙な双子がいる。

保健室に登校し、保健室で過ごし、保健室から家へと帰っていく妹と、
その妹のために、授業の合間の十分間の小休憩にも昼休みにも保健室へ通う兄。
とても仲の良い双子のようにも聞こえるが、実際ははっきり言って気味が悪い。

異様なのだ。あの双子は。

登校はしていても、人前にほとんど姿を現さない妹。
保健室へ行ってみても、確かにそこにいたという痕跡は残されているのに本人がいない。
どうやら誰かと遭遇しそうだと分かった途端に保健室から逃げ出しているらしい。
まあ姿を現さない程度で害は無いから妹の方はまだいいだろう。

問題はあの兄だ。

容姿端麗で成績優秀、運動神経も抜群の、絵に描いたような完璧人間。
普段は人当たりもよく、物腰も柔らかで優しげな印象。
しかし、妹のことが絡むと奴はすぐにおかしくなる。
妹から呼び出しがあれば、先生からの質問に答えている最中でも教室を飛び出すし、邪魔をする者があれば立場がどれだけ上の人間であっても容赦しない。
普段の温厚さが嘘のように邪魔をした相手を口汚く罵って責め立てたり、殴ったり、酷い時はペンケースの中に入れていたらしいカッターを持ち出して邪魔した相手を脅したりもしていた。
どんな状況どんな瞬間でも奴は妹を優先する。奴の世界はきっと妹を中心に回っている。
入学当初クラスの人気者だった彼は、今やクラスの腫れもの扱いだ。

そんな彼相手にも、私は毎朝挨拶をする。

出逢えば「おはよう」と声をかけ、時々くだらない世間話なんかもしたりして。
彼とは同じクラスだから、一緒に教室へ向かうこともある。
なぜ私は、皆が避ける彼に対しても皆と平等な接し方をするのか。

答えは単純。私はこのクラスの学級委員長だからだ。

学級委員長である私には、クラスを取りまとめる義務がある。
クラスの人間全員が毎日学校に通えるようにあらゆる方向からサポートし、クラスの平穏を保つ義務。
私が学級委員長を務めるからには、完璧なクラスであり続けてもらわなくては困る。
彼のように浮いた人間がクラスにひとりでもいれば、その人間たった一人のせいで私の評価が一気に下がるのだ。
本当は問題児である彼のことなんて大嫌いだし、姿を見るだけでも教師やクラスの人間からの評価のことが頭を過ぎってストレスから吐きそうになる。
いっそ学校を辞めてくれれば悩みの種が消え失せて良いとさえ思うが、そんな思いは一切顔にも口にも出さない。
例え大嫌いな人間でも、私のクラスにいる以上は態度を変えたり避けたりしない。私のクラスの人間である内は、どんなに最低最悪な糞野郎でも守り通してやる。それが私の義務だから。

今朝も登校してきやがった彼と、教室の前でばったり遭遇。
呑気にへらりと笑って「おはよう、委員長。」なんて声をかけてくるから、私も完璧な作り笑いで「おはよう」と返し、一緒に教室へ入った。
ふと視界に入った彼の右手には、携帯電話がしっかりと握り締められている。
その携帯に妹から呼び出しがかかった時、すぐに気付けるようにということだろう。
本当に、気色悪い。

「妹さん、今日も元気?」と尋ねると、一層嬉しそうにふにゃりと笑って大きく頷かれた。
どうやら朝礼後に早速保健室へ行くらしい。


「一限、教室移動だから。遅れないようにね。」

「分かった。ありがとう委員長。」

Re: 目玉焼きは半熟 ( No.4 )
日時: 2015/12/13 00:42
名前: とりそぼろ ◆.T8yFx5W5E (ID: r1a3B0XH)

みっつめ、私に逆らわないこと:私



「 遅い。 」

右手で兄の頬を打つ。
パン、と乾いた音。
兄は少し赤くなった片頬を押さえながら、へらりと笑った。
「ごめん。」

下駄箱で兄に「すぐ保健室へ来るように」と伝えてから、既に7分が経過している。
いくら兄が「とても急いで来ました」とでも言うかのように息を切らせ、肩を上下させながら保健室に現れたとしても、容赦はしない。
私に来いと言われたなら、すべて放り出して3分もかけずに来るべきだ。
「何してたの。」
余程の理由がない限り許してやるつもりはないし私の怒りは収まらない。余程の理由があったとしても、たぶん収まらない。
収まらないと思う、けど、それでも一応理由を聞いてあげる。だって私はとても優しい妹だから。
兄は申し訳なさそうに眉を下げて、「クラスメイトと話をしてたんだ。」と説明する。「僕のクラスの学級委員長なんだけど。ほら、知ってるだろ?二つ結びで眼鏡の女の子。」

それを聞いて、私はもう一度、今度は兄の反対の頬を強く打った。

「いった、ぁ」
「兄さまのことだから、どうせ振り切れずにへらへら気色悪い笑い方して気色悪い話してたんでしょ。気色悪い。それで私を待たせたの。気色悪い。気色悪い気色悪い。」
想像するだけで気色悪い。
私の呼び出しよりそんなだっさい女とのお喋りを優先したのか、こいつは。最悪。
「ご、ごめん。でも、折角挨拶をしてくれたのに、無視するなんて失礼だろ。」
両頬を押さえながら益々眉を下げる兄が憎たらしい。
「私を待たせるほうがもっと最低。」
兄の方へずかずかと近寄り、兄の、無駄に手触りの良い綺麗な髪を掴む。
痛みに僅かに顔を歪めるその様にすら腹が立つ。
「偉そうに二本足で直立しないで。謝る姿勢はそうじゃないでしょ。」
掴んだ髪を放すと、兄は私の目の前に這いつくばって、誰がトイレ帰りの靴のまま歩いたかも分からない汚い地面に額を押し付けた。
「君に呼び出されていたのに、委員長と必要のない世間話をして、そのせいで君の元へ来るのが遅くなってしまって、本当にごめん。」
「それから?」
「もう、もうこれからは、こんなふうに君を困らせたり、君を怒らせたりしない。呼び出されたら誰の挨拶を無視してでも君の元へ駆けつける。だから、許してほしい。」
必死になって謝る兄。
妹の私にこんなふうに土下座して謝るなんて、みじめな気持ちになったりしないのかな。どうでもいいけど。
「兄さま、顔を上げて。」
土下座する姿まで美しい兄を見下ろしながら言う。

言われたとおり顔を上げる兄の口に、右足のつま先を突っ込んだ。

「っ、!」
驚いたように見開かれる兄の瞳。ああ、睫毛長いな。羨ましい。
「ちゃんとごめんなさいできたのは偉かったと思うよ。でも、これからはごめんなさいしなきゃいけない状態にならないで。なっちゃだめ。」
右足の上履きが、兄の口内で兄の唾液に濡らされていく。
「ね。上履きおいしい?」
尋ねると、兄は小さく首を横に振った。
「今食べてるのは私の上履きなんだからおいしいって言えよ。」
ぐりぐりと更に深くつま先を捩じ込むと、兄はえずきながらこくんと頷く。
あまりにも哀れなその姿を見て満足したので、兄の口から右足を抜いてやった。うんうん、優しい私。お利口な私。
げほげほと咽る兄。ただ蹲って咽るだけで、抵抗も反抗もしない。
だってそういう決まりだから。
私に逆らわないこと。この決まりがあるから、兄は私に何をされても逆らえない。逆らわない。

「兄さま、そろそろ戻らないとじゃない?私はもっと兄さまとお話していたいけど、兄さまが遅れて来たせいでその時間も無さそうだし。」
兄は私の言葉に再びへらりと笑顔を浮かべる。
「そう、だね。そうするよ、ありがとう。ごめん、1限が終わったらまた来るから。」
ズボンについた埃を払って立ち上がる兄に、私も笑顔を返す。
「今度はちゃんと急いで来てね。いってらっしゃい。」

兄は嬉しそうに大きく頷いて、私に背を向けた。

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