複雑・ファジー小説

旅《短編》
日時: 2016/09/03 01:54
名前: 牟川 ◆mgGfGI6Kaw

 かなり前に、色々書いていたました牟川です。
ほとんどの方は初めましての方でしょう。
 今回は、久しぶりの投稿です。
 よろしくお願いします。

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Re: 旅 ( No.1 )
日時: 2016/01/16 03:38
名前: 牟川 ◆mgGfGI6Kaw

 
 私は現代的なビルが立ち並ぶ大都市や、中世の時代を思わせる大都市よりも、いろんな国の田舎に訪れることが多い。何故と言われても論理的に答えることはできないが、まあ、私の趣味とでも言っておくのが妥当であろうか。しかし、旅の具体的な計画も立てずに、気ままに行くものだからよく、財布を盗まれたり、パスポートを盗まれそうになったり、いろいろあるものだ。とは言っても、それも旅の楽しみ方の一つであると私は思っているよ。先月、メキシコで小さな穴を見つけて中に入ってみたらトンネルになっていて、先に進んだら、出口があって外へ出たところ実は国境を越えてアメリカ領内だった。どうもそのトンネルは、メキシコからアメリカへ麻薬を密輸入させるためのものだったらしい。
 こんな感じで、一体何をしてるのかと聞かれるかもしれないが、これが私だね・・・・・・ありのままの。自由で良いだろ?
 それはともかく、今回私は一人で気ままにヨーロッパを巡ることにした。
 ベルギーのブリュッセル空港に到着した私は、そこから適当にバスなり鉄道なりを利用して、いろいろな町を巡っては新鮮な体験をしていたのだが、気づいたら国境を越えてフランスに入国していた。まあ、ベルギーもフランスもEUの一部であるからパスポートを提示するなど入国審査は必要ないのため私はそのまま何もすることなく、鉄道に乗りながら国境を越えることができたのだけれどね。ちなみにこの時、すでにブリュッセルの空港を出て、8日は過ぎていたよ。
 ここまでは、ブリュッセルを出て、気づいたらフランスに来たよ、という話しさ。それと、先に言っておくけれど今回は財布を盗まれなかったよ。今回のヨーロッパの旅では、財布が盗まれるのではなく、不思議な体験をしたのさ。

 私はせっかくフランスまで来たものだから、取りあえず、とある小さな町に寄ることにした。そのとある小さな町の外観を簡潔に説明すると、建物はレンガの建物が多いことと、道路が日本のようなアスファルトではなく石畳みであることだ。特に何か特徴的なものは見当たらなかった。そして、時刻はすでに現地時間で15時を回っており、鉄道駅のすぐ近くに看板が出してある喫茶店があったので、私はそこでコーヒーでも注文して休憩することにしようと考えた。その喫茶店はこじんまりとした小さな店だった。
 私がその喫茶店の中に入り、真っ先に目に入ってきたのはヴェルダンの英雄といわれる人物のでかい肖像画だった。ヴェルダンの英雄のその名は、フィリップ・ペタンという。彼は、フランスの軍人であり第一次世界大戦のヴェルダンの戦いで活躍したことから、ヴェルダンの英雄と言われている。しかし、第2次世界大戦初期にフランスはナチス・ドイツに敗北し、彼がそのドイツとの講和を主導したことやその後の親独政権であるヴィシー・フランス(またはヴィシー政権)の国家元首を務めたという理由からあまり彼はフランス人から好まれてないのだ。

「あなた日本人?」
「はい?・・・・・・あっ、はい私は日本人です」

 ヴェルダンの英雄の肖像画に見とれていたら、私は店の男性の店主に日本語で話しをかけられた。失礼な表現かもしれないが、私はその店主に対して死人のように元気のなさそうな老人に感じた。さらに大胆に言えば、影が薄いというのが良いのか、よく注意を払わなければその存在を物理的に目で見ることができないといった雰囲気がその店主から感じられる。しかし、もの優しそうな雰囲気も感じられた。
 また、今更だが店内には客は私以外誰も居ないことに気づいた。
 要は、その影の薄すい優しそうな老人店主と私だけしか、この店内には居ないのだ。

「その英雄の肖像に見とれるなんて、ずいぶん変わった人だね」
 
 と、私に言ってきたのだ。私も最初はぎこちなく店主に話し返す。

「フランスの方からみれば、ペタン元帥はあまり好まれてませんからね。ただ日本人の中でも私は珍しいかもしれませんね」
「珍しいだろうね。あなたを珍しいとは言ったが、実は俺は個人的に崇拝してるよ。その英雄をね」

 あなたも珍しいフランス人だな、と心の中でつっこみを入れた私だった。彼がフランス人かはわからないから、あくまでこの店主がフランス人だったらのつっこみだが。

「さて、ここへ来たということは何か頼むのだろ? 残念なことにお勧めはないけれどコーヒーはただで一杯ごちそうするよ」
「良いのですか?」
「構わんさ、なにしろあんたは珍しい客だからな」
「ありがとうございます」

 と言うことで、私はコーヒーをただで出してもらい、ついでにサンドイッチを注文した。コーヒーも、サンドイッチも味は至って普通で、日本で飲むコーヒーやサンドイッチとは一味違うといったことはない。そして、こうして食している間も、店主とヴェルダンの英雄について語りあい、ちょっとした楽しいひと時を得た。
 こう、あらかじめ計画など立てず、偶然出会う楽しみを感じる幸せこそ私の趣味といったら良いだろうか?
 先ほど、私は店主を死人のようだと思ったわけだが、それと楽しめたことは関係ない。
「ありがとうございます。この旅で一番リラックスした時間でしたよ」
「いやいや、こちらこそ楽しい時間だったよ。ではさようなら」

 そして、私は会計を済ませて、この店を後にした。


《次に続く》


Re: 旅 ( No.2 )
日時: 2016/01/16 03:40
名前: 牟川 ◆mgGfGI6Kaw

 店を出た後は、この町の至るところを見て回ろうと、適当にぶらぶらと町の中を歩いた。    町のメイン通りと思われる通りにはいろいろな商店が軒を構えており、そして、日本の都市部に比べたらはるかに少ないのはわかるが、そのメイン通りは結構な数の人が行き来している。さらに、脇道に入れば子供たちが集まって何かを楽しんでいる光景もあった。
 まあ、結局のところ、ベルギーからここまで来る間に数々の町で私の気分やら経験したものと平均的なところは同じといったころだ。もちろん、この町がつまらないわけではなく、先ほどの喫茶店での出来事も入れれば、それは本当に十分に楽しい旅だ。本当に。
 ただそれは、ちょっとした問題を除けばの話しになりつつあった。
 そのちょっとした問題とは、喫茶店を出た辺りから薄々感じてはいたのだが、私は誰かにつけられているということだ。もちろん私の気のせいであると片付けることもできるのだが、私は誰かにつけられていると推定し、それに基づいて行動することにした。
 そのため、私はあえて人があまりいない場所へと向かった。私はひと気のない場所を見つけながら、もし相手が拳銃でも持っていたらどう対応しようか、金でも払おうかな、最初に日本円で計算して、3万円ぐらい払うといって駄目なら少しずつ上乗せして、最高で10万円くらいまでは交渉しようと、アホなことを考えていた。
 私が誰かに後をつけられていると推定してから、20分ほど歩き周った私は、ようやくひと気のない場所を見つけた。そこで私は立ち止まり後ろを振り返ると、ゆっくりと近づいてくる老人を発見した。やはり、私はつけられていたようだ。

「やあ、ごきげんよう」

 私は勇気をだして,日本語でその老人に挨拶をした。
 すると老人も日本語で、

「ごきげんよう」

 と、丁寧に挨拶を返してきた。
 その老人の格好は黒いロングコートを身にまとい、頭にはハットの帽子を被っていた。そのような服装から、マフィアだったり、秘密警察などが私の頭の中で連想された。いかにも拳銃を隠していそうな雰囲気なのだ。

「あんたは、さっき駅前の建物に入ったね? 一体何の用で入ったんだ」

 老人は私にそう尋ねた。
 建物・・・・・・確かに私は駅前の喫茶店の中に入った。しかし、なぜと言われても、単に私は客として店に入っただけである。私はとりあえず、老人のいう建物とは私が先ほど寄った喫茶店のことかと聞いた。
 すると老人は、

「なんだって・・・・・・き、喫茶店だと?」

 と、驚いたような意外な反応を見せたのであった。

「いや、看板とか置いてありましたからね。店の中も雰囲気的に、喫茶店やそういう類のものでしたよ」

 すると、今度は老人が少しこちらを疑う感じで私の顔を窺った。何か、まずいことでも私は言ったであろうか?

「あんたは、前にもこの町へ来たのか」
「いえ。初めてです」
 
 私は即答した。

「それはありえない。確かに今日あんたが入った建物は喫茶店だったさ」
「ええ、ですから喫茶店でしたよ」

 実際、私はそこでコーヒーをご馳走してもらった。

「しかし、その喫茶店の店主はすでに他界している。五年も前にな」
「それはどういう・・・・・・? 」
「末期の癌だったのだ。けれどもあいつは最期まで店を開いていたのだよ」

 そして、次第に老人は旧友の話について語り出した。
 なら、あの店主は何だったであろうか? 
 この老人が言うには、その亡くなった店主は店を切盛りすることが生甲斐だったのらしい。また彼は第2次世界大戦中はフランスの軍人としてずっと有名な温泉街であり、またその町が産地の水も商品として有名なヴィシーで警備をしていたとのことだ。ヴィシーという町は、ヴィシーフランスと言われる由来となったヴィシー政権の首都的な町でもある。
彼はその地で彼の英雄とも対面していたのかも知れない。
 そうなると、ヴェルダンの英雄を崇拝したあの店主は・・・・・・。

「今夜は私の家に来ると良い。寝床と夕食くらいは提供してやる」

 さっきまで人を疑っていた老人はそう切り出した。

「良いのですか? 」
「ああ」

 そして私は、この老人の家で泊めてもらい、夕食時に偶然にヴェルダンの英雄を話題に出すと、彼もまた当時のフランスを懐かしそうに語りだしたのである。話しは長く続き、夜遅くまで彼の話を聞くことになったのである。
 次に日、私は彼からお土産としてヴィシー水を頂いて、この町を後にした。
 今回の旅はいつものとは違い、とても不思議な旅だった。
 さて、今度の旅はどんな旅なのだろう。
 
 

完。

Re: 旅 ( No.3 )
日時: 2016/09/03 01:55
名前: 牟川 ◆mgGfGI6Kaw

と言うことで、完結しました。
今回は超短編小説であり、そして、初めて私が完結させることができた小説です。
今度また、長篇を書いてみたいと思います。


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