複雑・ファジー小説

Utopia-01
日時: 2016/01/25 21:36
名前: Villit (ID: bmJ5BkM0)

プロローグ『墜落』

2024年 6月20日 深夜
リビル国 ウエストペール

誰もが部屋の明かりを落とし、眠りについているはずの時間。
僕は、二階のベッドに横たわっていた。
僕が感じていたのは、今までにない程の違和感。
僕には、僅かな音でも聞き取れる能力がある。
「上空……3000m辺りか?」
何かが上空を横切っている。
人々の話し声、巨大な何かが風を切る音が、確かに聞こえる。

僕はベッドから飛び出すと、屋上のテラスへ向かった。
柵に備え付けられた望遠鏡。既に他界した父のものだ。
僅かな音を頼りに、位置を把握し、望遠鏡を覗き込む。
だが、厚い雲に阻まれ、何も見えない。
…その時。
突然、なり響いた大きな音。
ジェットエンジンの稼働音だ。
普通の人でもうるさく感じる音量。
町を見ると、家の明かりが少しずつ付き、
住民たちは争うように愚痴を溢した。

その音はこちらに迫ってきているようだ。
それを聞き分けられたのは僕だけだが。
でも、確かにその巨大な何かは、地上へ近づいている。
速度からして、墜落しかけている。
市街地に落ちれば、ただではすまないだろう。
だが、その音は街から少し外れた場所から聞こえるようになった。
パイロットの判断が良かったのだろう。
だが、案の定、「街の郊外で」墜落事故が発生した。
「明日、墜落したものが何か、確かめよう。」
僕はそう決心して、ベッドに戻った。

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Utopia-01 ( No.2 )
日時: 2016/01/26 18:11
名前: Villit (ID: bmJ5BkM0)

Chapter.01『探検』

墜落事故から一日。
僕は装備を固め、昨日聞こえた音の方へ向かった。
現場に向かうには、山を越えなきゃならないから、
それなりの登山用具が必要だった。
それと、扉やフェンスを開けるための工具セット。
いざとなったら、武器にもなる。
護身用のドライバーを右手に、
その他は全部リュックに詰め込んで、僕は家を出た。

登山道へ向かう道は、滅多に使われないため、草木が生い茂っている。
それを掻き分けながら進み、山へ入った。
バラック山。標高は1700mで、登山家が集う訳じゃない。
しかも、僕はこの山を何度も登頂していた。
全く問題なく、僕は登山を続けた。

そして、山頂についた。
僕は真っ先に景色を見渡す。
遠くに見えるのは、ボーダーペール・フォレスト。
僕たちの住むウエストペールと、隣町のイーストペールの境界に位置する森だ。
通称『ライト・フォレスト(灯火の森)』。
気象条件にもよるが、蒼白い光が飛び交う現象が見られる。
実はこの現象の原因は分かっていないらしい。
…そんなことより、本題だ。
「…………ない…?」
何処を見ても、墜落した物はおろか、墜落の痕跡さえ見られない。
「一体どういうことだ…?」
多少残念だったが、結局モヤモヤしたまま下山した。
途中、誰かの視線を感じたが、気にしないことにした。

Utopia-01 ( No.3 )
日時: 2016/01/27 23:30
名前: Villit (ID: bmJ5BkM0)

Chapter.02『追求』

墜落…と思われる音から3日後。
僕はどうしてもあの音が気がかりだった。
外に出てみようと、家のドアを開けた、ちょうどその時。

「痛っ!!」

何かが激突した。
というより、誰かが突進してきた。
…目の前に、見知らぬ人が立っていた。
彼は僕の方を見ると、驚いたように走り去った。
僕はすぐさま彼の後を追った。
勿論、あの工具セットを持って。

逃げていく男は、土地勘があるみたいで、全てを知り尽くしたルートを走っている。

僕は必死に彼を追った。



ボーダーペール・フォレストに差し掛かると、彼は哀しげな表情で立ち止まった。
だが、またすぐに走り始めた。



かれこれ10kmほど走り続けている。お互い疲れているようだ。

僕は工具セットを開くと、中から鉄の塊を取り出した。
その塊を地面に投げ付ける。
すると、鉄の塊は、小型の自動車に変形した。
これなら追い付ける。
だが、彼も同じことを考えたようで、カーチェイスに突入した。

樹木の隙間を縫って、華麗に走り抜けていく。
双方譲らない戦い、といったところか。
僕はかなり飛ばして走っていたが、追い付けない。
ならば、彼の目的地まで尾行だ。何か分かるかもしれない。
そのためには、諦めて帰るフリをしてから、隠れながら追跡するしかない。
幸いにも、この時代の車からは、音は出ない。
僕は彼を影から追った。



しばらく走ると、建物が見えてきた。
清潔感がありすぎて、逆に怪しい雰囲気の建物。
入り口の上には『JACK COMPANY』の文字が見える。
会社… ということだろうか。
だが、こんなところに会社があるなんて、聞いたことがない。

ならばやることは一つ、侵入だ。
侵入経路を探そう。僕は建物の周りを歩きはじめた。

Utopia-01 ( No.4 )
日時: 2016/01/29 18:20
名前: Villit (ID: bmJ5BkM0)

Chapter.03『侵入』

建物の裏手に回ると、通気孔を見つけた。
プラスのネジで固定されている。これなら問題ない。
工具セットからプラスドライバーを取りだし、蓋をはずす。
幅も高さもかなり大きい。これなら通過可能だろう。
僕は建物に忍び込んだ。

しばらく進むと、鉄格子が見えた。出口だ。
人がいる気配は全くしない。静寂に包まれている。
だが、鉄格子が開かない。
あちら側から固定されているようだ。
電動ドリル。バッテリーは十分に溜まっている。
僕は壁を切り崩し、鉄格子を破壊した。
「さて…」
ロッカールームのようだ。
…たくさんのロッカーが並んでいる。個人用だ。
ざっと見て120人…かなり大きい会社だろう。
ロッカーについたネームプレートの下。
緑色のパネルに、『OK』と彫られている。
出社確認済みの印だろう。
『NG』と書かれた赤いパネルがいくつか見える。
鍵は…開いているようだ。
中には従業員用の制服がある。僕は迷わずそれを着た。
すると…
「なあ、アイツが言ってた計画、何か知ってるか?」
「知らないよ。上層部の機密情報なんだとよ。」
「そうか…」
社員らしき二人の男の話し声だ。
僕は勇気を出して、ロッカールームから出た。

「やあ。」
二人が声を揃えて言った。これなら恐らく…
「やあ。」
僕も平然と返す。
下層部の社員にはひとまずバレない事が分かった。
長い廊下を進み、二階に上がった。
すると、何か聞こえてきた。
モザイクガラスの窓が見える。
この奥で何かやっているに違いない。
「前回の試験飛行は失敗した。
 だが、ラボの方の管理員がうまくやって、無傷で飛行場に帰還させた。
 それから少し調整をしてみたんだ。試験飛行をもう一度行う。」
リーダーらしき人物が、そう語った。
数名の社員が小声で何かを言い合っている。
「もう準備は出来ている。モニター接続よろしく。」
「はい。」
モニターに何かが映っているようだ。
モザイクガラス越しでは、ハッキリとは見えない。
ただ、映像が変化したことくらいは確認できた。

「えーっと、あっちの管理室と繋げてくれる?」

無線接続が繋がったみたいだ。
音質は悪くない。はっきり聞こえる。

「こちらUtopia-01管理室。
 飛行準備は整ってる。いつでも行けるぞ。」

『Utopia-01』…?
あの時空を飛んでいたものだろうか?

「オーケー、それじゃあっちにも伝えておくよ。
 ラボとも接続して。」

また新しい声が聞こえた。
『ラボ』と呼ばれる施設に居る人物のようだ。

「はい、こちらグラビティラボ指令室、イデアです。」
「飛行の準備が整った。
 そっちも準備は出来てる?」
「ええ、問題ありません。」

『グラビティラボ』なんて名前の研究所、聞いたことがない。
ラボのスタッフは、イデアと名乗っている女性だ。
その声は恐らく合成音声。
しかし、どこか人間らしさを感じる。

そろそろ退散してしまおう。
ここに長居すると、怪しまれるかもしれない。
しかも、屋内に居れば『Utopia-01』を見逃してしまう。
僕は急いでロッカールームに戻り、
制服を元通りにし、通気孔から脱出した。

…その時。
外壁に、何かパネルがついているのを見付けた。

『創立者 Jack=Nail』

ジャック・ネイル。
それがこの会社の創立者のようだ。
僕は、今まで得た情報を、頭の中で繰り返しながら、家に戻った。

Utopia-01 ( No.5 )
日時: 2016/02/11 21:19
名前: Villit (ID: bmJ5BkM0)

Chapter.04『上陸』


もうすぐUtopia-01とやらの飛行が始まるだろう。
僕は薄い鉄の扉を開き、ガレージに向かった。

ガレージの端に、見慣れた鉄の固まりがおいてある。
数年前に僕自身が開発した、小型飛行装置。
注目を浴びたくはないから、ずっとここに隠していた。
だが、遂にこの装置が表に出る時が来た。
僕は装置の電源を入れ、上空へ向かった。





かなりの時間が過ぎた。どこからか、微かだが、昨日と同じ音がする。

じっと目を凝らし、周囲を見渡す。
…北西の方角に何か見える。

その物体は、どんどん近寄ってきて、もう肉眼でも細かいところまで見える距離になった。

青白い半透明の球体。
その中に、一つの島が浮かんでいる。
島には高層ビルが建っているが、人がいる気配はない。

これだけの物を浮遊させるのは至難の技だ。
僕はUtopia-01に興味を持ってきた。
僕は飛行装置のハンドルをにぎり、目の前の浮遊都市に向かった。


僕はUtopia-01に上陸した。
空中にあると言うだけで、見た目は地上の都市と全く変わりない。
島の中央には、怪しげな塔が建っている。
恐らくあの場所がこの都市の最高地点、支配者がいる場所だろう。

だとすれば、そこに向かえば何か情報が手に入るだろう。
僕は迷わず塔に向かった。
飛行装置をその場に残したまま…。



塔のエントランスに着いた。
僕は足音を忍ばせて中に入った。
エレベーターと階段があるが、エレベーターは密室だ。
迷わず階段を選び、とりあえず最上階へ向かった。



無事に最上階にたどり着き、扉の前に張り込んだ。

「…今回は順調だ。うまくいきそうだ。そう思わないか、イデア?」
「現状、問題は特にないですし、成功することを祈るしかありませんね。」

またイデアだ。ということは、ラボと交信中なのだろうか。

「ところで、そっちの調査は進んでるのかい?」

この一言で、突然その部屋は沈黙に包まれた。
僕はその瞬間、今までにないほどの違和感を感じた。
きっと今の発言の矛先は…

「そこにいるんだろう?」

まずい、ここにいるのがバレた!
僕は急いで引き返えそうとした。
だが、階段はシャッターで閉められ、エレベーターは停止していた。
完全に追い込まれた。
ここから飛び降りでもしないと、確実に見つかる。

「早く出てきなよ。交信は切ってあるからさ。」

とにかく逃げ道を探さなければ。
…そうだ、工具セット!
鉄格子と同じようにシャッターを壊せばいい!

…だが、どれだけ力を込めても、シャッターは壊れない。

「くそ…どうなってるんだ!」
「早く出てきなよ!いつまで待たせる気?」

まずい、もうダメだ。
そう思った瞬間だった。

「予想通りだった。待ってたよ。」

「…どういうことだ?」

「君が此処に来ることは、想定済みだったよ。
 ようこそ、Utopia-01へ。まだ試作品だけどね。」
「……?」
「まだ状況が分かってないみたいだね?僕の名前はJack=Nail。」
「……ってことはつまり…?」
「あちゃー、そこまで把握してたか。そうだよ、僕があの会社の創始者。」
「うーん…いろいろ聞きたいんだけどさ。
 まず、仲間はどうしたの?」
「仲間?彼らは別室で操縦とか管理とかやってるよ。
 僕が臨時でここに来ただけ。」
「………ああ、そう……。」

正直どうでもよくなってきた。
もっとこう、スリルのある何かがあると思ってたけど。

と、思ったその瞬間だった。

『管理塔 フロア12 配電室にて爆発。避難用プレーンを解放。直ちに避難してください。』

「あちゃー、こりゃまずいな… 緊急離脱するしかないか…。」
「緊急離脱…って言っても、どうすんだよ!?まさか飛び降りる訳じゃ…」
「そのまさかだよ!」

そう言うと彼は、右ポケットから謎の装置を取り出すと、僕の方に走ってきた。

「しっかり掴まってて!じゃないと死ぬよ!」

あまりにノリが軽い。こいつ一体何者なんだ…?
でも今は彼を信用するしかない。彼の左腕を強くつかんだ。

「いくよ…!」

勢いよく窓を割り、管理塔から飛び出た。

「うわっ!」

空中に慣れてる訳じゃない。かなり不安だ。
というかそもそも、どうやって着地するつもりなんだ…?

「えーっと…こうだ!」

彼は右手にはめた謎の黒い手袋を、地面のどこかへかざした。
その時、地面から、柱のようなものが数本飛び出た。

「よし、あとは…」

彼は右手の装置のボタンを押した。
すると、ボタンから細いワイヤーが飛び出て、ポールに巻き付いた。

「よし、成功!」

僕たち二人は、ワイヤーにぶらさがる形で、地面すれすれで停止した。

「大成功…?」
彼がそう言い終わった丁度その時…。

辺りにいくつもの爆音が響いた。

「あちゃー…こりゃダメだ。管理塔が崩れる。
 …あとその辺のビルもね。」
「ってことは…」
「うん、かなりまずいよ。早く避難しないとね。
 避難用プレーンを探そう。どこかに停泊してるはずだ。」

僕たち二人は、崩れ行く島を走り始めた。

Utopia-01 ( No.6 )
日時: 2016/02/19 01:24
名前: Villit (ID: bmJ5BkM0)

Chapter.05『決断』



数分くらい走っただろうか。

「おい、その避難用プレーンってやつは何処にあるんだ?」
「もうすぐ見えるはずだよ。」



「………………おい、話が違うぞ…」
「あーあ、やられちゃってるね。」

そこにあったのは、既に炎が燃え立つ避難用プレーンだった。

「うん、プレーンの数からして、ここに残ってるのは僕たちだけのようだね。」
「何冷静なこといってんだよ!」

避難するための物資はもう尽きている。
かといって、こんな高さから飛び降りればただでは済まないだろう。

「くっそ、スペアはないのか?」
「ないよ。全滅。どうする?」
「どうするっつったって、装置がないんじゃどうにも…」
「待って。」
「え?」
「君はこの島に乗り込んで来たんだよね?」
「ああ。」
「どこから?」
「…ここから管理塔を挟んで真反対だな…」
「…飛行装置はどこへ?」
「置いてきた。」
「…あっちの方はもう崩れちゃってるし、装置を見つけるのは不可能に近いだろうね…」
「嘘だろ?」
「本当だよ。どうしようか…」
「なんでそんなに反応が薄いんだ…命の危機だぞ?」
「ふーん。あっそ。分かったから来て!」
「来てってどこにだよ!」
「こっち!早く!」

そういうと、彼は一気に走り出した。
島は、あちこちが炎に包まれ、黒煙が立ち込めていた。
市街地の各所で爆発が起き、いつ巻き込まれてもおかしくない。
床が抜け落ちて、地上が見通せるような爆発跡もあった。

限りないほどの変人であり、この島を建てた張本人である彼に、僕はついていった。

「よっ!」

落ちたら即死どころでは済まない程の穴を、彼は軽々飛び越えていく。
僕も必死になって後を追った。

「よし、ついた!」
「何もないじゃないか…」

たどり着いたのは、島の一番端だった。

「何もないことはないよ。あそこ、見える?」

彼が指差したのは、地上の湖だった。

「今は雲もそんなに掛かってない。絶好のチャンスだ。」
「チャンス…って、まさか…あの湖に飛び降りるのか!?」
「うん。」
「まてまて!それは流石に無理があるだろ!」
「ずっと此処で待って焼け死ぬよりはマシでしょ?」
「…分かったよ、分かった…。」
「オーケー、僕が指示をするよ。君はその通りに動けばいい。」
「分かった。」
「スリーカウントで飛ぶよ。3… 2… 1…」

その瞬間、僕は宙に浮いた。

「姿勢を低く保って!なるべく体を水平に!」

彼の指示は比較的分かりやすいものだった。
ただ一つを除いては…

「12°前に傾いて!」
「はあ!?」
「行きすぎ!3°戻って!」
「知るかよ、そんなもん!」
「…これでオーケーかな。それじゃ!」
「は!?」
「僕にはまだやることがあるからね!あの島の後処理とか?」
「どう考えても今やることじゃないだろ!」
「今やっても大丈夫だから今やるんだ!それじゃ!」
「…どうやって島に戻る気なんだアイツ…」



しばらくすると、湖が近くなっていた。
これが彼の計算のうちなのかは全くの謎だが、僕は真っ直ぐ湖に落ちた。

そこからほとんど何も覚えていないが、どうやら数日間気絶していたらしい。
少なくとも、僕は生還していたのだが…

『先日起きた浮遊都市の墜落事故で、Jack-companyの社長、Jack=Nail氏が、行方不明となっています。』

報道されてるのはこんなニュースばっかり。
正直なんとなくだが、彼なら生きてる気がするが、それはまだ謎のままだ。
少なくとも、あれで僕が生きてたことが、そもそも奇跡だ。
僕はいつもと同じようにベッドに入った。

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