複雑・ファジー小説

私は貴方たちを忘れない
日時: 2016/06/29 09:33
名前: 小鈴

小鈴です。『貴方たちを忘れない』の続きを書こうと思います。
時代背景は幕末で登場人物たちも前回と同じ人たちが出てきますので読まれる方は前回からお願いします。注意としましてできるだけ史実にそい書いていきますが途中で捏造も入りますのでよろしくお願いします。
初心者ですので書き間違いもあると思いますが流してください。

主人公 楠 楓〈くすのき かえで〉十七歳少女
    立川 紫衣〈たちかわ しい〉十七歳少女
この二人を視点にして書いていきます。
登場人物 大久保 利通。桂 小五郎。西郷 隆盛。新選組。土方 歳三。

他にもいろいろ出す予定ですので、楽しみに待っていてください。  時代は1867年のころからです。

追加 大久保利通〈三十七歳〉桂小五郎〈三十四歳〉  

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Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.120 )
日時: 2017/02/06 22:07
名前: 小鈴

「今日土方歳三は死んだことにしましょう。あなたはただ上官に命じられて戦っただけの一兵士です。名前は「相原誠」で」
楓は勝手に土方の偽名を決めてどや顔をしていた。【あいはら まこと】聞き誰それと言いたくなるも必死に耐える。三人だった。
「楓ちゃん名前の由来は?そい言えば斎藤さんの時も「一瀬伝八」ってつけていたよね」
「うん。由来は特にない。」
言いきった。とどめというようにこう言う。
「偽名だから適当でいいでしょ」
ふふんと言わんばかり腰に手を当てていた。適当か。やはりな。皆がそうだと思った。がくりと力が抜けた。流石は楓と呆れた目で見ていた。
「苗字は適当だけど名は本気で考えたんだよ」
伏せ目がちの視線を感じて耐えきれず言い訳を始める。『嘘だろ。それ』土方と紫衣は見抜いていたが陽菜は違った。感動していた。
「もしかして・・・新選組の旗の誠の字からとったの?」
ぱちくりしている。次に今閃きましたという顔をしてから真面目な顔をして頷く。
「そ、そう。うん。武士よりも武士らしくあろうとした。土方さんにぴったりでしょ」
どうだと言わんばかりに身をのけぞらせる。『どうせ、それも嘘だろ。今考えたことに違いない』と疑った。突然笑い始める土方にぎょっとした。
「へんなこと言いましたか?」
楓は恐れをなした。ついに頭がおかしくなったかと怯える。
「おい、失礼なこと考えてんだろ」
じろりと睨みつけられた。少しばかり殺気も向けられひっと怯える。
「俺は今から相原誠だな。」
「陽菜ちゃんのことは心配いりません。安心してください」
「ああ。頼んだ」
と言い陽菜を一度見てから苦笑する。
「他の人たちは黒田さんに任せるよりほかありません」
「わかった」
交渉成立した。彼らは気を緩めていた今ここは敵陣の中であることを忘れかけていた。敵がすぐそばに来ていることに気がつかなかった。


それに気が付いたのが土方だった。ふいに木を背中にして立ち上がる楓も土方の動きにばっと振り返る。陽菜は土方を支えるため立ち上がる。紫衣は楓の視線を追いかける。そこに誰もいない。しかし二人は気が付いていた。戦場に常に出ている土方と動物的感の働く楓は違った。意識を集めて鋭く睨んでいる。

Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.121 )
日時: 2017/02/07 21:30
名前: 小鈴

「どうかなさいましたか?」
陽菜が声をかけるとしっと静かにさせる。その動きにより紫衣も気が付く。
「囲まれている」
「五人だな」
土方がいった。こちらに向かってきている。足音がだんだんと大きくなってきていた。楓はすうっと片目を閉じ視線を投げかける。
「どうする?」とその目は言っていた。土方はすでに戦うつもりになっている。腰に差している刀に手を添えていた。刀を握ると地面に鞘ごと突き立てた。
「やるしかねぇだろ」
「ならこれを」
と言い楓は腰のベルトからピストルを取り出すと彼に突き付ける。
「これは」
眉間に皺を寄せる。肩にかついでいたカバンを土方にさらに突き付ける
「なんだこれは」
受け取らないので楓は不満な顔をして地面に下ろしてから蓋を開けた。そこから出てきたものは大量の弾丸たちに声を失う。
「どうしたんだこれ」
「これ?ちょっと武器庫から借りてきたの」
「また勝手に持ってきたの?黒田さんに怒られるよ」
じっと見られて慌てて言い直す。
「違う。言い間違えた。一応黒田さんには許可は出ているから」
前とは違い許しは得て持ってきたらしい。土方はぽかーんとしていたが次にはにやりと笑う。
「こいつはすげぇ。こんだけだけあれば十分だ」
と言いながら自分の腰にあるピストルを抜き取ると陽菜に渡す。
「同じ型だ。こいつに弾をこめてくれ」
「はい」
返事をし、きりと表情を引き締めた。弾丸を込め始める。
それぞれ準備をしていく。ここにいるのは戦場をか回っていた女たちだ。こんなことぐらいではくじけない。皆の気持ちは一致した。なんとしてでも生きると。土方は木を背中にしてピストルを真っすぐに向けている。楓は小刀を構えている。陽菜は土方のそばに立つ。紫衣は楓の隣に立った。

林の向こうから男たちが現れる。
「へぇー。こんなところに隠れていたとはなぁ」
「この逆賊どもめ」
にやにやしながら二人は銃を三人は刀を引き抜いてこちらににじり寄ってくる。
「逆賊だとっ」
ぎりりと土方は歯を噛みしめ苛立ちを込めたまま相手を睨みつける。忘れてはいけない。今は怪我をしているが元新選組副長の名前は伊達ではない。それだけでも男たちの殺気を軽く超える殺気を放てるのだ。
「なんだ。この殺気」
気押されそうになるが男たちも負けないように刀を向ける。
「私たちは逆賊ではない」
陽菜も強い苛立ちを感じて言いかえす。
「少なくともあなたたちに志を感じられない」
楓もそう言い小刀を腰に差して柄に右手をかけている。その構えは居合いのやるときの体制である。
「志だとっ」
「そんなもの今のご時世に必要なものか」
けたけたと笑っている男たちにさらに土方たちは怒りを覚える。
「私はあの人の名前を汚すやり方は許せない」
はっきりと紫衣も言い目つきを氷のような冷えたものに変えていた。珍しいことだ。彼女がこうまで怒ったことはなかった。ただ己の利益のために武器を手にして笑っている男たちに嫌悪しかわかないのだ。

Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.122 )
日時: 2017/02/09 15:27
名前: 小鈴

男たちはすぐに女がいることに気が付く。
「そこにいるのは」
にやぁと笑う。
「間違いねぇ」
「女だ。女がいる」
「俺たちついてんじゃねぇ」
にやにやしながらも近いてくるとリーダらしき男が口にした。
「女を置いていけ」
「そうすれば命は助けてやるぜ」
などと好き勝手にいってくる。なめるように視線を投げかけてくる。
気持ち悪っと楓は顔をしかめて軽蔑と言う目を即座に向ける。いやらしい目つきに何を考えているのかわかり震えたのは紫衣。
「震えてんのか。」
クックッと笑い手を伸ばしてくる。楓はその手を払いのけるぱちーんと音がした。
「ずいぶんといせいがいいな」
楽し気に余裕の態度を崩さない。獲物を狩る獣そのもの。
土方の視線はますます冷気を帯びていく。そんな彼の変化にも気が付けないほどの小物であった。陽菜をかばうため一歩前に出た。
楓は腰に差している小刀の柄に右手をそえる。
「いいですか」低い声で土方に問う。
「ああ、いいんじゃねぇか。ぶちのめせ」
土方の目が語る。全員切り捨てたいと。土方はピストルの引き金を二回引く森の中にその音が響き渡る。たったの二発で二人をしとめている。正面にいた男の胸に一発打ち込み即死させる。次に隣の男の太腿に命中させている。撃たれた男は地面に転がり呻いている。一瞬で二人をしとめた土方は次の男に狙いをさだめている。迷わず引き金を引く。それを刀ではじく。金属の音が鳴り響く。残り三人。楓は素早く抜刀する。次に風を切る音がする。それと同時に刀がぶつかり合う。
「居合い」
「・・・」
驚きを隠せないようになっていた。力では勝てないとふっと体の力を抜くと後ろに軽く反動をつけて飛ぶ。ぱちりとまた刀を鞘にしまう。そのかまえを見た途端さらに動揺をあらわす。
「なんでお前」
どうやらこのかまえを知っているらしい。
「それは」
再び合される刃に受け止めながらも口にする。
「薩摩の示現流」
使えるものは薩摩関係だけであった。がたがたと震え始めた。
「どうした?」
「女でこれを使えるものなど・・・・聞いたことがあるのはたった一人だけだ」
「死ぬ人に何を言っても無駄と思う」
男にとどめをさす。
「ある人に習った」
「それって」
「薩摩の中村半次郎さん」
名前を聞いたとたんにぶるぶる震え始めた。薩摩人斬りではないか。戦うどころではなかった。がくりと膝を降り地面にへたりこんでいた。


「私は楠楓」
さぁと真っ青になっていく。
「あなたは薩摩藩のゆかりの方か」
と言う。その名前を聞いたとたんに別の男もはっとなる。
「薩摩だと」
薩摩と聞いて閃いた。まさか楓を見てから後ろに目を向ける。
「あなたの後ろの方は」
「友人の紫衣。長州のゆかりのものだ」
力が抜けていく。魂が遠くに行きそうだ。薩摩と長州威力すごすぎる。
「どうか・・・内密に」
半泣きで訴えてきていた。やや引きそうになる。

これにて落着になる。なんてつまらない終わり方だ。


Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.123 )
日時: 2017/02/11 22:26
名前: 小鈴

情けなさすぎである。男たちのことはこの際無視をした。相手に何てしていられない。長いものに巻かれる連中に。
「ここからどこにいきますか」
土方に問いかけた。
地図を広げると皆に見せる。紫衣が明りを手にし地図が見えるようにした。軍師の顔になるとこういう。
「こことここは囲まれている」
五稜郭は囲まれて戻れなくなっている。残された道は一つ。
「土方さん。その陣羽織は脱いでください」
肩にはおるだけになっているそれを奪うように脱がせて荷物にしまう。しかも丸めて乱雑にカバンの中につっこまれる。
「おい」
「楓ちゃん」
二人に非難の目で見られた。時間がないのだからこの際目をつぶってほしい。血まみれの陣羽織なので斬られるものではない。紫衣は静かに地図を見ていた。どこかに抜けられる道はないかと。
「この林を抜け城下町にいけませんか」
と言われひょっこり地図をのぞきこんだ土方は思い出す。
「そう言えば裏道があったな」
四人は林の中を抜けて素早く辺りを見回すと走り出す。先に土方と陽菜が行きそのあとを楓たちが続く。銃声と怒鳴り声が響く。四人は兵士に紛れて歩いていく。
「まて」
声をかけられて立ち止まる。
「はい」
「どこに行く」
新政府軍に声をかけられ楓が恐る恐る振り返る。
「実は怪我をしてしまいこれから病院にいくところです」
肩に背負われた男を見せる。楓と紫衣は着ている軍服を見せる。
「そうか。気をつけろ」
のみ言われたほっとした。
「はい」
礼を言いその場から去る。
どのくらい走ったのか息も切れている。ようやく函館病院にたどり着く。入り口に立った四人は表情を引き締める。

すうっと息を吸った。
「ここに南方先生はおられませんか?」
中に入ると忙しく出歩いている軍医へ声をかけたら怪し気にみられて無視をされた。
「仕方ない。ここにいて」
荷物を預けて楓は一人で奥へ進んでいく。感でいくこの女はすごい。それもピタリと当てている。
「失礼いたします」
声高々に言う。しーんとしている。おかしい。


中で仕事をしている南方は激務におわれていた。聞き覚えのある声についに幻聴が聞こえるようになったかと頭をふる。

反応がないことに心配になってくる。勝手に入ることを決める。部屋の入り口に名札を確認した。扉を横に開いた。木の扉だった。がらりと。
「目までおかしくなったか?」
ごしごしこする。
「幻ではないですよ」
にこりと笑う。

Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.124 )
日時: 2017/02/14 15:17
名前: 小鈴

がたっと音がして立ち上がる。
「楓。本物か?」
転びそうになりながらそばにきた南方。
「危ない。寝ていないのですか」
慌てて体を支えて立たせる。
「ふん。寝ているひまなんてない。」
南方は楓に支えられた腕からほどき立ち上がる。ぼさぼさの髪をかきあげる。よれよれの白の軍医。そうとう疲れているらしいと判断した。
「今は再会の喜びよりも大切なことがあります」
簡単にこれまでの経緯を話をしてから人を連れて来る。

しばらくしてから友を連れて戻って来た。
「先生」
「紫衣。無事で何よりだ」
ふっと笑い頭を撫でてやる。

病院という施設は怪我や病気の人などが敵味方関係なく西洋のベッドに寝かされていた。そしてここは南方の仕事部屋だが・・・。
「あいかわらず」
「汚い」
「ん?仕方ないだろ。ひっきりなしに運ばれてくるんだ。かたしているひまないだろ」
どこか偉そうに口にしている。仕事部屋と呼べぬほど私物が散乱していた。西洋式になってはいるが見る影もなく本とか薬とか資料とか机のまわりにあふれていた。
「先生。怪我人を連れてきました」
「どういう意味だ」
二人に目を向ける。
「どうぞ」
その声に二人が入ってきた。男だった。その男に肩を貸しながら小柄な少年が歩いてくる。男の顔に見覚えがあった。新選組の土方。徐々に険しくなる顔つき。
「どういうことだ」
説明しろといわれた。鋭く切り返したは楓。
「あなたは医者だ」
と言われ目を丸くさせる。楓の言いたいことがわかりむすりとした。意味は?と目で問うてくる。
「「私欲を捨てなさい」とあなたは以前こう言った」
意表をつかれて何も言えなくなる。
「先生は優秀な蘭学の先生です」
真剣に伝えてくる弟子の言葉にお手上げと肩をすくめる。
次には医者の顔になる。元長州の南方の思いは痛いほどわかる。今は土方を助けたい。
「おい、いつまでそこに立っている。こっちにこい」
命令した。椅子をすすめられたが部屋の中に視線を投げかけて固まる。汚すぎる。声を失い見つめる。中の光景に何も言えない。
「「・・・・・」」
二人は無言でそこにいた。
「座る場所がありません」
紫衣が適切な突っ込みを入れたらうっとつまる。しかないというように散らかっている椅子の上から楓が荷物をどかす。座る場所を確保させていく。自分たちも座れる場所をも適当にわきにどかしていく。
「お待ち下さい」
「そんな適当にどかしては崩れ・・きゃぁぁ」
悲鳴が漏れる。土方たちは何も言わずにいた。
「すみません。腕は確かなのですが片付けができない人でして」
「うるさい。できないんじゃない。やらないだけだ」
ふんと鼻を鳴らす。ふてぶてしい態度だ。

Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.125 )
日時: 2017/02/16 17:25
名前: 小鈴

「威張れることですか」
「どういう理屈なのです」
続けて二人に非難された南方は黙りながらも適当に片づけ始める。ただ積み上げているだけだ。それでは雪崩が起きて崩れてしまうだろうに。
「手伝います」
見かねて陽菜は手を伸ばして目の前にある資料をとんとんとそろえてはじに寄せた。楓と紫衣もてきぱきと動き片付ける。ようやく座るところを確保した。綺麗になった部屋を見て嬉し気だった。
「ふむ。って・・君たちは外で待っていなさい」
気が付くと三人ともに真剣な目をして土方思しき男を凝視していた。
「まったく。肝心なことは抜けているのか。いいか・・・」
なだめすかすようにいってきかす。苦労が絶えない。
「着ているものをすべて脱がせて診なくちゃならないんだ」
そうしめくくると反応はそれぞれだ。
「私はそばにいます」
陽菜がそういうのだ。じろと見たら男は困ったようにしている。
「なぁ。どう言う関係なんだ。君ら・・・」
呆れた目で見た。
「いや。そうだな。」
「上官とその部下」
簡潔に伝えたは楓だった。くりと陽菜を見て説得することにした。
「君は女だ。女子が男の体をぶしつけにみるものではない」
ため息まじりに言ったとたんにぼっと赤く染まっていく。人のことになると全て忘れる。常識をかっとばして助けることを優先させるくせがある。
「なぁ。先生。応急処置ならいらねぇと思うぜ」
「おい、傷を甘く見るなよ」
南方が言うと首をふる。
「いいや。そうじゃなく・・あいつらが診てくれた」
と三人へと視線を向けふっと口元を緩ませる。信用しているらしいとわかり苦笑している。
「それはわかるが、それでも診させてもらう。」
もう一度顔を向けると口を開く。
「わかったら、席をはずせ」
返事をしたのは一人だ。
「気にするんじゃないのか。」
ぱちくりしていている二人。医者としての二人は全て忘れてしまう。
「大久保さんと木戸」
名前を言われてようやく気が付く。
「すみません。外に出ています」
慌てて紫衣は出ていく。勇敢な娘でも木戸に説教を受けるのだけは避けたい。長いのだとても。
「楓は」
「手伝いはいりませんんか」
「大久保さんに怒られても知らないぞ」
「あの人が怒っても怖くありません」
勇者と呼ぶべきか。あの人に食って掛かれるあたりすごいことだ。だが無謀と言う言葉を知っておくべきだ。
「周りの迷惑も考えてくれないか。被害が近くではなく広い範囲で・・・君がよくても八つ当たりされる兵士が気の毒だ」
きれた大久保に対応できるのは楓だけだ。機嫌が悪い時の大久保には誰一人近くによるものはいない。
「本当に面倒な人・・・あの人は」
ふうっとため息を大げさについて頭を振っている。
「そんな面倒な人を選んだのは君だろう。もういい、診察の邪魔だ」
案に出ていけといわれ返事をして出ていった。

騒がしい人がいなくなっただけで静まり返る。やれやれと息をついてから振り返る。
「先生・・・その、望月のことなんだが・・・」
土方は何というべきか思案に暮れている。瞳をあちこちにゆらめかせている。それでもこれだけは言わなくてはと正面に向ける。威風堂々と座り強い目をした。『覚悟を決めた、良い目だ』まだ年若い。三十代後半くらい。彼の頭に木戸と大久保の顔がよぎる。似ているのだ。その生き方が。いつだって人のために生きている。
「私にどうしろと?」
葛藤があるのかなかなか言わない。
「望月のこと。先生に頼みたい。俺はどうなってもいい。たまたま俺たちと行動を共にしていただけなんだ」
一気にいいきる。診察しながら口を開く。
「名を聞こう」
しばらく黙り偽名を口にした。
「相原」
「下の名は」
さらさら書いていき続きをうながす。
「誠」
その名も書いていく。
「偽名か」
くるりと向きを変えて鋭く問う。無言で睨み合いが続く。
「本名は・・・カルテにはのせない。あの娘を頼みたいなら素性をあかせ」
嘘など簡単に見抜く目をしている。土方は腹を決める。
「新選組副長土方歳三。陸軍奉行並みの肩書もある」
静かな声でそう言う土方を睨みつける。知るべきでないとわかってはいる。元長州としては許せないが医者という。弟子の言葉を思い出し必死に激情をやりすごす。
「あいつだけは頼む。助けてやってほしいんだよ」

頭まで下げてくる土方をただ見ている。過去の因縁は捨てるべきと。弟子二人がこいつらを助けようとしている。それだけでいいと思うようになった。
「わかった」
話はそれで終わりにさせ、続きをしていく。ほかに怪我らしいものはない。打ち身や切り傷はあるがたいしたことはない。布をほどき酒を用意してあるので容赦なく傷にぶちまける。痛みに呻くも無視をし新しい布で巻いていく。
「もう、いいぞ」
声をかけたら三人が駆け寄ってきた。
「土方さん」
泣きそうになりながら陽菜は手を握りしめてきた。
「楓。紫衣。この先生。容赦がねぇ」
ぐったりしてそう言う。


Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.126 )
日時: 2017/02/17 17:37
名前: 小鈴

「君はこのまま相原と名乗れ。土方歳三は死んだことにする。いいな」
つまりここにいるのは怪我をした患者。土方と言う男はいないということだ。カルテを書いていく南方に二人は背中に飛びつく。
「ぐっ」と声がしてベしゃと前の机につぶれる。
「流石は先生」
「話が分かる」
「おい、私の上から降りろ」
二人は慌てて飛び下りた。いかに優れた医者とはいえ二人分の体重は支えられなかった。ちなみに南方は元武士だ。筋肉もある。刀も扱える腕前はある。
「先生。ありがとうございます」
陽菜も涙ぐみながらもお礼を言う。しかしここは中立を保ってはいるが新政府軍がいつ来てもおかしくない。
「よかったです。あいはらさん?」
陽菜はなれない名前を口にしてベッドに横になっている彼に話しかけた。刀を枕元に立てかけてある。
「今から君は私の弟子だ。いいな。望月陽菜。」
決定事項だというように宣言をした。今一意味が分からない。
目をぱちくりさせている。
「あの、どうして・・・」
「ん?」楓が陽菜を見た。
「そのほうが都合がいいの」
「でも私はこの人のそばにいたいのです」
悲痛な声を上げる。
「わかるよ。陽菜ちゃんの言いたいことは、でもね。」
楓は厳しい現実を包み隠さず告げる。
「後ろ盾がなくてはあなたは無事ではすまない。」
「え?」
紫衣も続き声を低めてこういう。
「きっと投獄される。」
「覚悟の上です」
すると残酷な声が止めをさす。
「女と男では対応が違ってくるんだ。名前を偽ろうが旧幕府軍の人間には間違いない。とすれば捕虜にされることになる」
「はい」
真面目に話を聞く陽菜の姿に南方も隠さずに話す。土方はすべて任せるというように目を閉じている。狸寝入りだろう。
「まともな上官階級の人間ならうまくとりなして丁重にあつかってやるだろうが普通はそんな配慮はない。下手をすれば欲のはけ口にされる」
余りにもはっきり口にされて固まる。同じ女の楓と紫衣もだ。
「まさかそこまでするのか」というようにだ。ここまでは考えていなかったらしい。
「それは君たちも同じことだぞ。油断するなよ」
警告された。こくこくする三人。
「大変だな。保護者も」
くっくっくっと楽し気に喉を鳴らす男に恨み言を言う。
「人事か。君の同じだろうに」
「まったく肝心なことにはわかっていないんだ。陽菜は」
「相原さん・・・」
情けない声で男を呼ぶ。
「それはそこの二人も同じだ」
「先生。ひどい」
ぶうっと二人は頬を膨らませる。

紫衣はあの会津を思い出していた。八重の悲痛な声を・・・。
「いやです。私は尚之助様のそばにいたいのです」
川崎は冷ややかに妻である八重を置いていった。『きっと川崎様は八重様に生きていて欲しかった』だからどんなに泣かれようとも振り返らなかった。連れてはいけない。
そっと腕に触れる。ばっと陽菜は彼女を見た。

Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.127 )
日時: 2017/02/19 12:39
名前: 小鈴

小声で陽菜を呼ぶ。「こっちに」外へ促す。がらっと開け閉める。
廊下に出ると二人は向き合う。
「陽菜ちゃん。土方さんはあなたに生きて欲しいと思っている。先生に頼みたいと」
「そう思う」
楓が廊下に出てきている。
「先生の弟子として相原さんの世話をしていればいいんじゃない」
陽菜はその言葉に紫衣を見た。優しく頷かれる。こうして女たちは働くことを決める。

南方からふいに言われてた。
「風呂にいけ」
と言われた三人は仕方ないというように風呂場に向かう。
「先生もお風呂にいった方がいいですよ」
ずけずけものをいうのは楓。
「匂うか」
こくり皆が頷く。ちなみに土方は綺麗に手拭で体をふかれて今は休んでいる。
「先生。着替えるものはありますか」
そうだな言いながら南方は荷物の入っている扉を開けた。それは両手で持ち開けるものだった。しかしそこからが悲惨だった。物たちが上から降ってきたのだ。悲鳴がぎっやぁぁぁと漏れる。
「先生っ」半ば恨みがこもった声で物の下じきからはいでてくる。
「なにこれっ」
「どうして降ってくるの?」
「うーん。わからん」
首を捻るだけだった。とにかく埋もれている中から小柄な少年兵の服を漁り出す。
「これを使え。ないよりましだろう」
「あの・・これをどうするつもりですか」
無言で首を振る紫衣。楓はあきらめたような目でいた。
「陽菜ちゃん。たぶんこれ。先生にやらせると同じになるよ」
「おい。だから私はできないんじゃない。やらないだけだ」
「「「・・・・」」」無言で南方を見た。
「なんだ。その目は」
と言って怒りながら歩いていく。
「ついてこい」
歩きながらそう言うともう、背中を向けている。慌ててついていく。廊下に出ると南方が風呂場まで案内しながら口を開く。真面目な話だ。
「とりあえずそのまま男装を続けていろ。その方が都合がいい」
長い髪を頭の上でしばり軍服を着ているだけの陽菜。楓は体系を誤魔化すためさらしをまいて首の後ろに適当に一つに縛る髪。だが、楓だけはしっかりと男に見えるようにしている。紫衣は長い髪を左に一つにまとめている。それだけでは男に見えない。
「この髪はうっとおしいな」
楓が長い髪をまとめたままつかむ。ぶつぶつ言う。
「懐刀あるから切る?」
紫衣までもそんなこと言う。
「おい、やめろ。私が怒られるだろ」
顔をしかめると反転した。仁王立ちになる。
「だってこんな長い髪している男はいないよ。」
鋭い突っ込み。
「ね。そう思うでしょう」
同意を求めてくる。
「男に見えないかな」
陽菜は南方に目をやる。
「見えないが・・・だからといって」
見えないとはっきり言われてぐさっと刺さる言葉に二人は肩を落とす。
楓はそんなことは知らないとばかりに不敵に笑う。この顔は勝手にやるつもりだなと察し黙る。人の話など知らないと聞く耳持たない。
「どうなっても知らないぞ」
警告だけ伝えている。

Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.128 )
日時: 2017/02/21 19:42
名前: 小鈴

風呂場の前に立つと木の札を手にする。くぎが柱に刺さっている。そこに木札をかける。
「ここに木札を置いておく」
黒文字で【入浴中入るべからず】書いてある。南方は言うだけ言うと去っていく。
三人は脱衣所に入るとかごの中に着ている軍服をいれていく。髪をほどいてから体に湯をかけていく。手拭で汚れた体を綺麗にしている。すべての汚れを落とした姿は女だった。それぞれの個性が現れている。さっぱりできたみたいで嬉しそうだった。着替えをすませた三人は鏡の前に立つ。髪の雫をはらい一つにまとめると紫衣は懐刀で迷うことなく切り付ける。バッサリと長い髪に束は紙でつつみ髪紐でくるんで懐にしまう。目にした楓たちはあっけにとられている。
「先に切るなんて」
ふふと笑うと友の手から懐刀を受け取り楓が髪を切る。ばさりと首の後ろから下を切っていた。
「楓ちゃん。そんなに短く」
陽菜は驚きに口をぱくぱくとさせている。
「陽菜ちゃんはどうするの?」
しばらく迷いばっと面を上げると覚悟を決める。ばさりと次には切り落としていた。三人ともに短くなる髪型を気に入る。
「これでいいよね」
仕上げとばかりに湯で短くなった頭を洗い流す。手拭で髪をわしわしとふいていく。
「これから短い間かもしれないけどよろしくね」
楓が頭をふきながら空いた片手を差し出した。「?」よくわからずこてんと首をひねる。
「シェイクハンド。だよ知らない?」
と言うがイングリッシュがわからない陽菜は目を丸くさせている。
「こちらの言葉で握手と言うの」
紫衣が追加で説明をしていく。手と手を握り合わせるという。手と手を握ると言われ思い出す。両手をパンと合わせる。
「大鳥さんがあの人にしていた」
「うん。たぶんそれだと思う。大鳥さん?は知らないけどきっと西洋の知識があるんじゃないかな」
「うん。そうだと思うわ」
「陽菜ちゃん。言葉遣いは気をつけてね。」
忠告をしてくるのは紫衣だった。必要な言葉は必ず伝えてくる。
「ほら同じようにして」
左の手を差し出して待っている。おずおず片手を差し出すとぎゅと握り合い上下に動かす。

三人ともに着替えを終えて南方が待つ部屋に向かう。だんだんと近くによるうちに声が聞こえてくる。それも南方による地獄の特訓が行われていたのだ。彼は遠慮も容赦もしない。勉強ばかりはできようが実践で使えなければ意味がないと毒を吐く。

Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.129 )
日時: 2017/02/23 17:28
名前: 小鈴

戻ってきたらそこは地獄だった。新人医師たちへの訓練が行われていた。
「おら、ぼさっとしてんじゃねぇよ。できねぇならすっこんでいろ。でくの坊」
容赦ない罵詈雑言が飛ぶ。
「新人。そこの使えねぇ奴を廊下に捨てて来い」
初めて血を見た新人は貧血になり倒れた。他の仲間が腕を持ち引きずっていく本当に廊下に捨てにいく。鬼かと思った。医者となった南方医師のしごきは本物であった。遠慮はしない。使えないと判断したら落第の烙印をペンと額に押す。そう言うところは木戸と同じ。
「命がかかってんだよ。勉強のできる奴なんていらねぇ。役立たずはすっこんでいろ」
怒鳴りつけられてびくびくしている新人たち。

気合いを込めて三人は現場に突入していく。白い軍服を身につけ自分のできることをする。
「先生。手伝います」
「こいつらの方がよほど使える」
三人を見てそう言う。南方は能力はあるものは認める。ないものは見捨てる。その中に必死にくいついていく新人もいた。振り向いた南方の目に飛び込んできたのは散切り頭になった三人の頭に固まる。
「なんだ。それは」
次には「その頭はなんだっ」と叫んだ。
「こんなに切ったら元に戻るのに時間がかかるだろう」
「「「はい」」」」正座をさせられて怒られていた。うなだれて話を聞いている。

その後の話。寝ている土方のお見舞いに来た三人は・・・。
「どうですか。体は」
ベッドに横になっていて薄っすらと目を開けていく。かっと目を開けた。飛び起きる。絶句した。次には鬼の形相になる。
「なんだその頭は」
怒鳴りつけられる。
「あの、その」
「言い訳はいらねぇ。どうすんだよ」
「すみません」
陽菜は素直に謝る。
「ここにいるにはこれが調度いいのです」
ぶすくれた楓は膨らませる。ぷうっと。すうっと息が吸う。
「バカか。」
予想をはるか超える大音量。きーんとなり慌てて両耳をふさいだ。うるさいというように。紫衣は大人しく怒られている。
「自分で切った?」
理解できねぇと目で見られた。陽菜は肩をしゅんとした。
必死に説明をして納得させた。疲れたように沈む。がくりと額に片手をあてている。
「すみません。相原さん」
「その名はなれねぇな」
小さく呟く。額から手をはずし苦笑した。

これより数日は穏やかに過ごせていた陽菜と土方は共にいるようになる。世話をしていた。だいぶ体調がよくなりつつあるが無理は禁物だ。

「相原さん。食事を持ってきました」
「ありがとう」
穏やかに笑い陽菜に目を向ける。途端に眉を寄せた。トレイにのせて膝の上にゆっくり置いた。
「あの、なにか」
嫌いなものでもあっただろうかと不安な顔をした。
「陽菜。お前寝ているのか」
目の下にくまができている。手を伸ばし陽菜の頬を撫でていく。それだけで赤くなる。その手から逃げるように顔をそらす。
「私だけではありません」
と言う。そのままめまいをおこしてぐらっと後ろに倒れていく。
「おい」土方がベッドからおりて腕をつかんだ。そのまま気絶した。


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