複雑・ファジー小説

月のみえる夜だけ、美しい君と
日時: 2017/08/05 00:33
名前: 最終列車


澱んだ藍色の夜に、身勝手に流れる 昼に浮かべなかった雲たち。そんなことも気にせず光る、星がひとつ ふたつ、、
僕は手鏡を取り出して自分の顔を見る。夜闇に包まれた、僕の顔。
神経質そうな鋭い鼻筋と、しっとり青白い肌、哀しい切れ長の目。
月が、ゆっくりと発光しながら雲から出てくる。僕の鼓動は高鳴った。
彼に会える。
月明かりは鏡に反射し、ゆっくりと僕の顔を包み込む。真っ白に、冷たく。
つい目を閉じる。再び目を開けると、、
自信と正義感に溢れた、けれども冷静な深い瞳。僕よりもずっと高い、完璧な鼻梁。きっと結ばれた色っぽい唇。男らしい首筋、顎。癖のある黒髪はスッキリ纏めてある。
美しい。
「やぁ、こんばんは。気分はいかがでしょうか。」
僕は言う。
「それなりだぜ。」
彼の返答はいつも短い。
「君、今日は何の日か知っているか?今日は、、
僕だけの甘い、美しい時間。彼といると、その場の空気がゆったりとまどろみ、僕の脳髄が心地よい麻痺状態になる。

彼は何者なのか、僕は、知らない。

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Re: 月のみえる夜だけ、美しい君と ( No.1 )
日時: 2017/08/05 08:46
名前: 最終列車

人物紹介

遊佐 博之 / 中学三年生の少年。体が弱く、ほとんど寝たきり。別荘地で療養中に
古びた手鏡を見つける。
吉嶋さん / 博之の世話をしている雇われのメイド。お菓子づくりや占いが得意。
ハルくん /隣の家の子供。博之に懐いている、おとなしい小学生。
ミカエル / 本名は御影 大(みかげ ひろし)。博之の1つ下の中学2年生。不良っぽ
い見た目だが、温厚で優しい。
鏡の男 /美しい見た目の正体不明の男。月のみえる夜だけ、鏡の中に現れる。

Re: 月のみえる夜だけ、美しい君と ( No.2 )
日時: 2017/08/05 19:46
名前: 最終列車

中学三年生の春、僕はこの別荘地へ住むことになった。理由は重い喘息と、貧血だ。空気が綺麗なところで少し休んだ方が、身体的にも精神的にも安定するのだそうだ。
海の見える、大きな窓の他にはベッドと本棚、勉強机しか無いこの部屋が、僕の城だ。僕はこの部屋を気に入っている。
20代頃の、朗らかなメイドの吉嶋さんぐらいしかこの部屋には入ってこない。この殺風景な部屋は僕のテリトリーなのだ。他人と関わらなくて済む。
僕は幼い頃から神経質で、打ち解けられる人間は居なかった。兄弟、両親でさえも、僕を気味悪がった。僕は自分があまり好きではない。愛されない僕には、何の価値も無いのだ。

ある日、窓辺で潮風に吹かれながら本を読んでいると、カーテンの裏側に何かあるのを見つけた。そっと手を伸ばして触った。冷たく、硬い。自分の方に引き寄せてみると、それは手鏡だということがわかった。いやに重く、かなり古いが、繊細で優美な装飾がされたものだ。ひっくり返して、僕は目を疑った。この別荘は高祖父から代々受け継いだもので、僕が来るまでの三代は、誰もここを使って居なかったと聞いた。清掃業者こそ、この部屋には入ったかもしれないが…
奇妙なことに、その鏡は一点の曇り、塵ひとつなくぴかぴかに磨き上げられていた。
吉嶋さんか?いや、彼女はいい人だが大雑把だ。鏡をここまで磨ける腕は持っていないはず。それに…
窓の近くを指でなぞる。埃まみれ。この鏡だけ、宝物の様に磨かれている。
僕は首を捻ったが、猛烈に眠気に襲われ、そのまま夜が来るまで目は覚めなかった。

Re: 月のみえる夜だけ、美しい君と ( No.3 )
日時: 2017/08/06 15:10
名前: 最終列車

ゆらり。瞼の向こう側で光っている、何かが。意識はまだ朦朧としている。ゆらり。ゆらり。薄っすらと目を開けた。光が僕の眼球を刺すように入り込んだ。
月の光だった。一回深呼吸をゆっくりとし、もう夜なのか、吉嶋さんは僕を起こさなかったのだな、とぼんやり思った。のろりと体を起こし、また月を見た。眩しすぎて頭までズキズキと痛い。着替えて寝てしまおうと、立ち上がろうとした時、ひっと息を呑んだ。
視線の先の鏡、昼間見つけたそれには本来ならば僕の引きつった顔が映るはずだろう。しかし。映って、いや、鏡の中に居たのは僕では無かった。
「よう」
鏡の男は僕の目を見て話しかけて来た。ちらりと動く、宇宙のように藍色の瞳…
「うぁあああ!いやだぁぁ!」
僕らしくない情け無い叫び声。信じられない。怖い。幽霊?そんなバカな!じゃあ何だよ!パニックになって、自然と涙が出てきた。呼吸のリズムが、どんどん、速くなって、ひっ、ひっ、ひっひっひ、はぁ、すっ、ぁああ!
「落ち着け。ゆっくり息を吸うんだ。」
はぁ、すうぅ
「全部出し切るように吐け。大丈夫だ。」
はぁぁ、っあっ、はぁ、、
やっと落ち着き、涙を拭いながら男の顔を見た。呼吸はまだ荒れているが、今はもう冷静だ。
「何もそんな怖がることは無ぇだろう。傷つくぜ。」
とてつもなく整った、綺麗な顔の男だった。表情は無に等しいが、心配してくれているように見えた。
「す、すまない…取り乱してしまいました。申し訳無い。」
僕は鏡の中に確かにいる男に向かって言った。なるべく、落ち着いて、冷静な態度で。絢爛たる美貌に、緊張していた。
「名前は何ていうんだ?」男が言った
「遊佐、博之です。貴方は…「博之。おめぇ…
遮られた。
「着替えたほうがいいぜ。」
そう言って男は目を伏せた。ほんの少し、顔を赤らめている。
なぜ、と聞く前に気付いてしまった。最悪だ。こんな歳にもなって…股間から尿が溢れ出し、太ももの内側を伝ってぽたぽたと床を濡らしていた。ひどく赤面し、僕は急いで部屋を出た。
びしょ濡れのズボンと下着を脱いで、シャワーで下半身を流した。恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい!
タオルで拭って、新しい下着を履いている間、どんな顔をして彼に会えばいいかと真っ赤な顔で困った。

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