複雑・ファジー小説

私だけの40日
日時: 2017/08/17 02:40
名前: でんぱ

才色兼備だと言われる高校三年生の古川悠里は悩んでいた。可愛いという言葉で掻き消されていく自分らしさを。ゆうちゃんは何でもできるんだから、という羨む声で自分の精神が押しつぶされそうなことを。
私は大抵ずるい人間である。気の強い人の前では平気で自分の意見を曲げるし、気を許した人には平気で悪態をつく。ただ、やりたくてやっている訳では無いのだ。これはどれも自分の在りたい姿を保つためにしているふるまいなのだ。なんて言い訳を誰が聞いてくれるわけでもないのだが。
そんな私には最近、想い人、好きな人ができた。杉浦雄二。名字が格好良いから興味を持ったなんて、私自身も肯定したくは無い事実だ。



これは私と彼との青春ストーリー。

なんて言ってみたかった、と今更私は最期の日記に書いている。

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Re: 私だけの40日 ( No.1 )
日時: 2017/08/17 03:14
名前: でんぱ

第1話「クラス代表の私」

私の朝は早い。5時50分には起きて、重い体を引きずりながら、6時過ぎには家を出る。朝ごはんなんて毎日の予定に組み込まれていない。そもそも毎日の予定なんてたてたこともない。そんなズボラ人間が私である。家を出てからは30分ほど自転車に乗って最寄り駅に向かう。手を繋いで歩くカップルや、イヤホンを片耳にさしたまま自転車に乗る男子高校生を抜かしながら、息を切らして走る。駅に付いてからは自由時間だ。これまた30分ほどかけて学校へ電車で近づく。6時43分発の快速列車はそれほど混んでいない。座れはしないが、隣の人と少しの距離を取れるだけの余裕がある。女子高生にはありがたい、のだろうか。

車内で揺られながら考えることは毎日違う。昨日はスマホで学校行事の業務連絡を取っていたし、その前は確か、私のことを好きだと言っていた人からの連絡を適当にあしらっていた。それは勿論、適当だと思われないように。私は人から嫌われるのが嫌いだから、1度告白を断った人とのくだらない会話も終わらせることができないでいた。今日はまだ返信が無いようだし、業務連絡も入っていなかったから、少しだけ浮かれたことを考えてみる。少しだけ気になってる人のこと。
彼は案外家が近い。この前私と同じ最寄り駅から電車に乗り込む彼を見たから間違いない。その日から私は毎日のように彼の姿を探してしまう。いつも灰色のリュックを背負っていて、オレンジ色の派手な靴を履いていて。そんな彼を足元からきょろきょろと探してしまう。こんなこと自分がされていたら嫌悪の対象なのだが、自分がしてみるとそんなことには全く気付かず、気持ち悪いことを何度も繰り返してしまう。学校に行けばすぐ会えるというのに。そうは言っても、たとえ姿を見つけたからといって話しかける訳ではない。私は常に待つ専だった。今までずっと可愛い、モテるね、と持て囃されたズボラ人間がそんなことできるはずがないのだ。だって誰でも話しかけてきたのだから。
しかしそれで勝ち残れる時代はもう終わったようで、いつのまにか周りでは、自分から行動できる子ばかりが次々と幸せを勝ち取っていく。私はその荒波の中で、高校生ごときが付き合うだのデートだのするべきではないのだ、とあからさまな負け犬の遠吠えをして見せて立ち止まっている。私は小学生の頃から、彼氏というものがいた時代があったくせに。何を今更。
いったいどこからこんなネガティブ思考に走り出したのか。そんなことを考えてるうちに、学校まで徒歩5分の駅に着いた。この5分もきっと彼のことと私の恋愛観のことで頭がいっぱいになるであろう。

Re: 私だけの40日 ( No.2 )
日時: 2017/08/17 23:44
名前: でんぱ

夏休み真っ最中の8月上旬。受験生の私がこんな時期にどうして学校に行くのかというと、9月に最後の文化祭を控えているためであった。私の通う学校では、毎年3年生全クラスが50分間の演劇を披露することになっている。どうしてこんな大事な時期に、と思うかもしれないが、私のクラスについていえば、大半の生徒が意欲的である。中でも私の劇に対する情熱は計り知れないものである。私はかつて小さな劇団に所属していたことがあり、そこで経験してきた歌とダンスと演技力を披露する唯一の場になるだろうと考えているからだ。簡単に言ってしまえば自己満足。誰かにすごいと讃えてほしいのだ。だから照れるふりをしながら人前で歌う。
そんな私がこのクラスの劇の代表者であるから、演技指導にもよりいっそう力が入る。

負けたくない。

本番が近づくにつれて、そんな思いが頭の片隅で常に自己主張している。クラス一丸となって取り組むことが大事だと、そこにこそ劇の意味があるのだということはわかっているのだが、やはりそれは体裁上のこととしか思えなくなってきた。教室に一番乗りした私は、誰もいないのを確認して、大きなため息をつく。

Re: 私だけの40日 ( No.3 )
日時: 2017/08/18 00:06
名前: でんぱ

突然開いた教室の扉は、私の重たい思考を閉じ込めた。私が扉の方を見ると、ほんの少しだけ間があって、それから
「おはよう。」
という男の声がした。
「おはよう。」
私は人前での明るさ取り戻した。満面の笑顔で挨拶を交わす。ああ、杉浦君だ。彼は非常に淡白な性格であるように思える。挨拶をした後はさっさと自分の席に腰掛けてしまってこっちを見る気配もなく、無表情のままカバンの中から荷物を取り出す。どうやら練習が始まるまでの20分間、勉強をするらしい。これは邪魔をしてはいけない、と私は視線を逸らした。もともと邪魔をするつもりは無かったが、なんだか視線が彼に留まったままだったから。
ここ数日間彼のことが気になる。気になって仕方がない、といういわゆる「恋煩い」とかではないのだと主張したがる私を押さえて、その気持ちは増していく。彼の無表情が、会話の中で見せる笑顔が、どうも心を引きつけるのだ。
私は自分のことを好きではない人間を好きになる。彼はきっと私のことをクラスメイトの1人としか思っていない。だがそれがかえって私の欲を満たしているのだ。彼の想像上には私は絶対に登場しない。彼は私をしつこく追うこともない。私は彼の前なら自由な私でいられるのだ。この安心感は、なんだろう。そして、自分のことを好いてくれる人をこんなにも憎たらしく思えるのは、どういうことなんだろうか。今さっき入っていた告白男からのメールを見ながら、そんなことを考えて暇を持て余した。

Re: 私だけの40日 ( No.4 )
日時: 2017/08/18 00:24
名前: でんぱ

『この前の模試、〇〇大学B判定だったんだよ。悔しすぎて辛い!!』
告白男、K君とでもしようか。彼からのメールはいつも勉強の話ばかりである。志望大学は同じで、私がE判定で燻っているなかこんなメールを送ってくるのだから、私からしてみれば嫌がらせとしか思えない。だが本人に悪気はないのだ。きっと彼は私を〇〇大学に余裕で受かるほど頭の良い奴とでも思っているのだ。だからこそ、なんて返信すればいいのかわからない。2日ほど放置してみるのだがやはり返さないわけにはいかず、彼からのメールを保留している期間はずっと気分が重い。
正直もうやめてしまいたい。メールの文字から滲み出る好意が私を縛り付ける。どうやったら鈍感な彼を傷つけずにこのメールを終わらせることができるのだろうか。誰に言えばいいのだろうか。やはり1番よく話す陽子だろうか。頼ったところで何も変わらないのはわかっているのだが、なんだかこのモヤモヤを沈めるには他人の力が必要なように思える。私がやろうとしている最低なことを肯定する誰かが欲しい。
今日の練習後にでも、相談してみようか。
そう思うだけで、少しだけ身体が軽くなる感じがした。

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