複雑・ファジー小説

光のどけき国、春のぞむ魔女
日時: 2018/05/27 17:59
名前: 星野 ◆a7opkU66I6 (ID: aruie.9C)

魔女や魔法使いって、いくつになってもわくわくしますよね。
気が向いた時に、好きなだけ書きます。

【1話】>>1 >>2
【2話】>>3 >>4
【3話】

*魔女とか、王様とかがでてくる話です。ハイファンタジー。

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Re: 光のどけき国、春のぞむ魔女 ( No.1 )
日時: 2017/08/31 21:46
名前: 星野 ◆a7opkU66I6 (ID: aruie.9C)

【小さな国、3人の魔女 1】

光のどけき国、春望む魔女

 いくつもの冬が積もり、同じくらいの春が降り注ぐ。ずっと昔、ここには小さな国があった。そこそこ豊かで、欠伸が出てしまうくらいに平和な国。今では深い緑が一帯を覆っていて、当時の面影なんて薄れてしまった。ある日を境に、すっかり人がいなくなってしまったのだ。では一体全体、どうして地図から消されてしまったのだろう。





 コトリは小さな国に仕えている魔女だ。ゆとりのある新緑のローブから貧相な手足をのぞかせて、今日も城内を駆け回る。自慢のはしばみ色の髪を無造作に結い上げて、両手にはたくさんの書物。少しだけ幼さを残した顔には、理知的な双眸が煌めいていた。

「これはこれは緑の魔女様!」

 恭しく呼び止める老人の声に、コトリは振り返る。右大臣のサイラスだ。今日もでっぷりとした分厚い肉の衣を身にまとっている。うさんくさい髭面には満面の笑みを浮かべていた。サイラスは一瞬、コトリの抱える書物を見やる。

「ごきげんよう、サイラス」
「今日もお忙しいようで」

 嫌味めいた話ぶりに、コトリはにこりともしない。いつもこのような調子なのだ。サイラスはコトリを嫌っている。緑の魔女とかいう大層な称号を与えられているのが気にくわないのだ。この国はいつだって、魔女を敬ってきた。たとえ、それがどんな役立たずだとしても。

「植物園に行くところです。ちょうど、しらつゆの花が咲き頃ですから」
「それは結構」
「それで、何か御用でも?」

 コトリは顔色一つ変えず、サイラスの顔を見据えた。

「いえ、今日の晩餐の後、国王陛下から召集がありまして、それをお伝えしようかと」
「わかりました、どうもありがとう」
「それではまた後ほど」

 サイラスは踏ん反り返って咳払いを一つすると、くるりと背を向け去って行く。コトリはその大きな背中に向けて、小さく舌を出した。
 コトリは魔女だ。魔女は魔法を使える。けれども、コトリができることといったら、植物を育てることと、薬草を煎じること。魔法なんてからきしで、唯一できるのは植物の成長を促す魔法くらいなのだ。サイラスか、それとも他の誰かだろうか、コトリを厄介者の魔女と呼ぶのは。それでもコトリはへこたれない。彼女の取り柄というのは、小さな頭に詰まった植物の知識と、生来の頑固さなのだ。

Re: 光のどけき国、春のぞむ魔女 ( No.2 )
日時: 2017/09/03 10:55
名前: 星野 ◆a7opkU66I6 (ID: aruie.9C)

【小さな国、3人の魔女 2】

 小さな国には3人の魔女がいる。それぞれに青の魔女、赤の魔女、緑の魔女なんて立派な呼び名が与えられ、この国に仕えているのだ。それは気が遠くなるくらい昔からの決まりごとだ。この国の王様は魔女を尊び、魔女は国を愛さなければならない。コトリもそうだ。この平和で素朴な小さな国が大好きなのだ。

「最後に西の森で異変が起きているとの報告が上がっておりまして」

 夜の帳が下り、星が天蓋を覆う頃。小さな国の主だった顔触れが、王城の一室に集まっていた。細長い純白のテーブルの奥には、王様が座っている。その両隣りを魔女達が囲み、右大臣、左大臣と位が高い者の順に席についていた。王様は上品に蓄えた髭を、やや年輪が刻まれた手で撫でながら、何かを思案しているふうだった。

「サイラス殿、異変というと?」

 サイラスの隣に座っていた、厳しい顔の老人が問いを投げかける。 彼はこの国の騎士団長だ。

「獣の動きが活発になっているとのことです。幸い、まだ被害はありませんが」
「それならば早いところ様子を見にいった方がよかろう。獣のことなら任せなさい、我が騎士団で調査隊を組もう」
「加えて雪解けの花が繁殖しているとの報告もあります。この時期にしては随分はやい」

 横から左大臣のサジェが口を挟む。サジェは品のある端正な顔をした青年だ。小さな国では珍しい、鮮やかな赤毛を持っている。騎士団長はサジェを一瞥すると、豪快に笑った。

「花よりも獣の方が大事だろう。確かにサジェ殿は、花を愛でることを好みそうだが」

 騎士団長は嫌味から言っているのではない、とても豪胆な気質の持ち主だった。コトリはこの2人のやりとりを眺め、ふむと首をかしげる。雪解けの花は薄いピンクの花びらで、冬になると雪の下から顔を覗かせる。けれども、冬はとうに過ぎており、今は暖かな春の季節だ。春に咲くなんて聞いたことがない。

「しかし万が一というのもありますよ。もしかしたら毒性を持つ新種の植物かもしれません、用心に越したことはないでしょう。何もないと言うのなら、それでいいのではないですか」
「ふうむ」

 サジェの意見に騎士団長が唸る。コトリはこっそりと頷いた。サジェの言う通り、毒を持つ花であったり、はたまた新しい効能を持つ薬が作れることもありえるのだ。

「そこでですが、調査隊に同行させる者として、緑の魔女様などはいかがでしょう。植物に関する造詣も深いでしょう」
「わたし、ですか」

 コトリは驚いて、まじまじとサジェを見つめた。サジェは薄く微笑みかける。その途端にサイラスから反論が槍のように飛んでくる。

「緑の魔女様も宜しいですがね、やはり青の魔女様が適任では? この国に昔からいらっしゃるのだから、森の異変にも詳しいはずだ!」

 そこからは侃侃諤諤、サジェが何かを言えばサイラスが口を挟み、そしてそれに続いて騎士団長の横槍が入る。慌ただしい有様だ。サイラスはどうしてもコトリに大役を任せたくないらしい。
 コトリはこっそりと隣に座っている青の魔女の様子を伺った。100年生きてると噂の美貌はけして衰えず、どこをどうひっくり返しても、妙齢の女性にしか見えない。月の色をした髪を綺麗に結い上げ、夜を切り取ったドレスは彼女のために仕立て上げられたものだ。コトリは感嘆の息をふうと吐く。

「王様、いかがなさいましょう!」

 議論がもつれにもつれ、息の上がったサイラスは力任せに叫んだ。王様は悩ましげに顎に手を置き、そうして青の魔女の方に顔を向けた。

「この任は騎士団とオフィーリアに与えよう。さて、夜影が一層色濃くなってきた。終いにするのに良い時分だろう」
「ありがたき幸せ」

 青の魔女、オフィーリアはしゃなりと立ち上がり、深く一礼をする。慌てて騎士団長もそれを真似た。サイラスは勝ち誇った表情で、一方のサジェはつんと澄まし顔。コトリは別段悔しいとは思わなかった。だって、オフィーリアは素晴らしい魔女なのだから。緑の魔女が忌むべき人なら、青の魔女は最も尊ばれるべき人だった。

Re: 光のどけき国、春のぞむ魔女 ( No.3 )
日時: 2017/10/01 17:06
名前: 星野 ◆a7opkU66I6 (ID: aruie.9C)

【魔女の庭で】
 
 コトリの1日は早い。空が白み始める頃、コトリは寝台から抜け出し、水瓶で顔を洗う。質素なドレスとローブに袖を通せば、染み付いた薬草の香りが鼻をくすぐった。次に榛色の髪を適当に編み込み、結い上げ、薄く化粧を施せば、大体の支度は終いだ。この決まり切った手順は、まじないのようなものだった。支度が終われば部屋から抜け出し、植物園に向かう。この国に住む魔女は、お城に部屋を与えられる。最上階の一番南にこしらえた部屋は、コトリだけのものだった。
 植物園への道筋は手慣れたもので、いくつもの廊下をわたり、階段を駆け抜ければ見えてくる。これは王様がコトリのために与えた中庭だ。植物園をきれいに保つことが、コトリの唯一の役目だった。植物園は一見乱雑そうに草花が植えられてるように見えるけれど、本当は違う。よく見れば誰しもが、植物園に秘められた、晴れやかな美しさに気付くはずだ。

「よし、今日も大丈夫そう」

 コトリは一つ一つの植物達を丁寧に見て回る。時に元気をなくしているものがあれば、歌を口ずさむ。少し調子外れな音程は、地にゆっくりと染み渡り、再び生命の輝きを与えた。これがコトリが扱える魔法だ。けれども、魔法は永遠ではない。人が歳をとるように、魔法も老いてゆく。コトリがしているのは、あくまで手助けなのだ。

「今日も調子が良さそうですね」
「サジェ」

 太陽が真上にやってきた頃、サジェが大きな籠を抱えてやってきた。籠の中からは、焼きたてのパンの匂い。朝ごはんもまともに食べてない、コトリの胃袋を刺激した。
 サジェは時折空いてる時間を見繕っては、植物園にやってくる。どうやら魔法に関心があるらしい。訪れてはコトリの唱える魔法を興味深そうに見守るのだ。

「こちらは厨房からの頂き物です。昼食をとりましょう」

 植物園の隅に据えられた、小さなテーブルの上にバスケットを下ろす。中から黒砂糖を使ったパンや、ミートパイが顔をのぞかせた。

「トレイル殿は一緒ではないのですね」

 ややくたびれたベンチに腰掛け、コトリは首をかしげた。トレイルは小さな国一番の考古学者で、サジェと連れだって植物園にやって来る。真白の長いヒゲを蓄え、人の良さそうな顔をしている。腰の曲がった体に杖をたずさえ、見かけだけならばトレイルの方が魔法使いらしい有様だった。

「ええ、なにか大発見をしたとか。誘ったのですが、断られました」

 サジェが苦笑を浮かべる。コトリもつられて笑った。互いにバスケットに手を伸ばし、パイをふた欠片ほど飲み込んだ頃だった。どこからともなく、ざわめきと重苦しい靴音が響いてきた。

「城の中が騒がしいようですね」
「今日の午後から、西の森へ調査隊が出立するせいでしょうね。ああ、ちょうどそこの窓から、騎士団の方々が見えますね」

 サジェが小さな窓を指し示すと、そこから城内の様子が窺えた。濃紺の外套を羽織った青年達が、列をなして歩いていく。先頭に立っているのは、まだ若い精悍な顔をした男だった。口を一文字に引き結び、真剣な表情できびきびと歩みを進める。軽薄な印象なんて、微塵も感じさせない。

「ロジーが気になりますか」

 コトリの視線に気づいたのか、サジェは面白そうに唇を緩めた。

「あの先陣を切っているのは、ロジーという若者ですよ。彼の一族は古くから王に忠誠を誓っているんです」
「王に、ですか」
「ああ、魔女はそうではありませんね」

 魔女は果てしない時を生きる。だから人に仕えず、国に仕えるのだ。コトリは奇妙な違和感を覚えた。

「まあ、彼は非常に優秀な騎士ですよ。剣技にかけては右に出る者は居ません」
「次期騎士団長の器ですね」

 コトリの言葉に、サジェは大ぶりな仕草で肩をすくめてみせた。なにやら芝居がかかった調子だ。コトリは首をかしげた。

「ところが、そうではないのですよ。騎士団も一枚岩ではありませんからね」
「大変なんですね」

 相槌を打つと、コトリは持っていたミートパイを口に放り込んだ。城に来て10年経つけれど、こういった類の話は苦手だった。一方のサジェは目を丸くして、コトリを見つめていた。サジェはゆったりとした動作で、コトリを指差した。

「他人事みたいにして。貴女だって、関わっているのですからね」

Re: 光のどけき国、春のぞむ魔女 ( No.4 )
日時: 2018/05/27 17:59
名前: 星野 (ID: aruie.9C)

 サジェの言い分はこうだ。王様は近頃容態が思わしくない。そこで後継者として、ひとり娘のお姫様が挙がる。けれどもまだ小さくか弱い姫が、いかにして国を導けるだろう。だから後見人が必要だ。才色兼備な青の魔女、遠からず王族の血を引く赤の魔女。この二人の間で、騎士団は派閥を作っているらしい。どちらが姫の後見人になるのか、どうやらサイラスもそれに一枚噛んでいるという。だから青の魔女を擁護するのだ。

「僕としては、コトリ、貴方を推しますよ」
「……冗談でしょう」
「いやいや、本心からです。赤の魔女は性格に少し難があるし、青の魔女は完璧すぎる」

 サジェの言葉に、コトリは首を傾げた。完璧の何が悪いというのだ。

「僕は少々、青の魔女が怖いんですよ。僕は人の考えに聡いんです、そのおかげでこの役職につけたといってもいい。でもね、あの人の考えだけは読めた試しがない」
「それにしたって、わたしを推薦する理由にはならないでしょう」

 コトリは半分に減ったバスケットに視線を落としながら呟いた。サジェはというと、いつものすまし顔を少しだけ綻ばせている。

「わたしは役立たずの魔女ですよ」
「そう言いますがね、貴女は存外周りから慕われていますよ。腰痛に効く薬を、城の者に煎じてあげたりしているでしょう」
「わたしができることなんて、これくらいですから」

 ふうむ、とサジェは腕を組みコトリを見定める。そして「とにかく」と話を結んだ。

「すぐにどうこう、という話にはならないでしょうね。ですが、気をつけてください」
「あの太っちょのサイラスにですか」
「おや、貴方にしてはひどい言い様だ」

 サジェは思わず吹き出す。そしてひとしきり笑った後、視線を小さな窓の方へ投げた。もう騎士団の姿は何処へやら。遠くへ行ってしまったようだ。

「違いますよ、あのロジーという男です。彼は筋金入りの魔女嫌いで有名ですから」

 嫌われることには慣れている。もうそんな心配も今更必要ないだろう。コトリはそう考えて、忠告に対する感謝を一言述べた。関心ごとは、もう別にあったのだ。西の森の異変。騎士団に同行できたら、どんなに良かっただろう。もしかしたら、新しい発見があるかもしれない。
 けれどどうして、異変なんて起こったのだろう。

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