複雑・ファジー小説

彼女は、自分の事を承認欲求の塊と言った。
日時: 2017/11/15 01:13
名前: るんるん




 ――どうして私は死んだのか……花里市中三自殺事件の真実。


 
 それが僕のもとに届けられた理由。
 彼女が死のうとした理由。
 
 

 「 僕が悪いんです 」
 「 だってほんまやん、皆思っとったやろ 」
 「 どいつもこいつも、馬鹿ばっかり 」


 ――私はとても最低で最悪な人間でした。

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彼女は、自分の事を承認欲求の塊と言った。 ( No.1 )
日時: 2017/11/15 01:51
名前: るんるん

序章 角野ちひろの男遍歴漁りくらいしか、僕に仕事はない。


 
 どうして僕はこんなところで仕事をしているんだろうなあ、とぼんやりと思った。編集長は駄目なおじさんだし、ネットでは「また憶測記事ww」とか「嘘乙wwwwww」とか、大量に草を生やされている様な月刊誌に、芸能人のお泊りニュースを推測で書いている。我ながら、ゲスい事をしているなあ、自分。


 「さいとー」
 

 だらしなくカップラーメンを口に突っ込んだ同僚が、僕の名前を呼んだ。同僚の名前は森田菜摘という、二十七歳、現在不倫中。明るい茶髪と無駄に装飾された爪が彼女の内面をだいたい物語っている。
 彼女のパソコンには、情報提供受付の画面が浮かんでいて、そのうち九割以上はくだらないもので占められているのだけれど(明らかに虚偽の情報や、記事に対する駄目出しなんてものも……結構多い)ごく稀に興味深いものがあったりする――本当にごく稀に、だけれど。

 「なに、今忙しいんだけど」
 「嘘つけ、どーせ芸能人の適当な画像探してきて熱愛記事書いてるくせに」
 「違いますー角野ちひろの学生時代の男遍歴についてですー」
 「情報源は?」
 「某サイトに出現した自称同級生による証言と、お前が今見てるそこにあった奴かな」
 「んで、どんな感じ?」
 「初体験は中学一年生、友達の彼氏及び好きな人を何度も略奪、教師に対する不純な行為ってとこ」

 よくやるねえ、と森田は笑った。そういう自分だってどうせまた角野ちひろのネタを漁ってるくせに、と僕は思う。現役女子高生で多数のアンチとファンを抱える彼女は良くも悪くも注目の的だ、同世代のアイドル女優よりは数段演技が上手で容姿も整っている。度重なる失言や自称同級生の大量発生はアンチの美味い餌だ。――もっとも、自称同級生ネタのうちの九割はガセなんだけど。


 「あ、そーじゃなくて。角野よりよっぽどいいネタ入ってんだよね、見る?」
 「信ぴょう性は?」
 「大アリ、だって張本人からの情報提供だもん」

 森田は怪しげな表情で、僕を手招きした。

彼女は、自分の事を承認欲求の塊と言った。 ( No.2 )
日時: 2017/11/15 02:18
名前: るんるん

第一話 今思えば、あの時の僕も彼女もとても愚かで。


 「西牧バス事故……あー、何かあったなそれ」

 それでも報道関係者?と森田が呆れるのを横目に、僕は最近巷を賑わせている事件の概要を思い出そうとせいぜい努力する。
 ――たしか、運転手が飲酒直後でガードレールに突っ込んで大クラッシュ……高速道路を走っていた他の車両も巻き込まれて死亡者、意識不明者、重軽傷者が大量で、運が良いのか悪いのか運転手は重傷だが命に別条はないとか、そんな事件だった。

 「運転手がクズ過ぎて話題のやつ。飲酒運転のくせにね、ロクなやつじゃねぇわ」
 「犠牲者には中学生二人いたって。可愛くて話題になってたような……」
 「犠牲者っていうか、正確には意識不明の重体、かな。岡山県在住の中三二人、男の子と女の子で同級生。女の子の方は何故かネットに顔写真晒されてる、確かにあの子は可愛い……男の子は骨折くらいですぐに退院してて、顔写真はネットには載ってない」
 「三連休だから旅行にしても、同級生男女二人?親もいなくて?駆け落ちかー、いいなあ青春。んで、それがどうかした?運転手の方ならまだしも、まさか乗客についての記事なんか世論もあるし、」
 
 いくら報道の自由って言ったってさ、僕らはそれを振りかざせるほどの媒体じゃなくて……と情けなく言う僕を彼女は笑った――「あんた、それでも記者?」
 貪欲さがない。他の奴らに便乗して、今なら訴えられないだろうって角野ちひろの男遍歴の記事書いてるくらいで満足してちゃ駄目じゃん。しかも定期的にアゲ記事書いて事務所のご機嫌とるレベルで、情けないよ。そんなの耳にタコが出来るくらい聞いてて、もう慣れっこだよ森田。

 「……で、その情報提供がなんて」
 「あー、そういや本題入ってないね。その中三、可愛い子ね、自殺しようとしてたっぽくて」
 「でもその子が死ぬとしたら死因は事故死だ」
 「まあそうなんだけど。多分、バス事故の時の旅行を計画する前に送ってきてたっぽいなあ、これ……なんかこの子、自殺する予定で、でも何にも無しに自殺するのが嫌だったっぽくて。いろんな面白い事喚き散らしていろんな人間後悔させるつもりで送ってたんだろーなー」

 ニヤニヤする森田のパソコン画面をのぞくと、そこには『――どうして私は死んだのか……花里市中三自殺事件の真実』そう書いてあった。

 「くだんないって思ってたんだけどさあ、キープしてて正解だったわこれ」

彼女は、自分の事を承認欲求の塊と言った。 ( No.3 )
日時: 2017/11/20 11:48
名前: るんるん

第二話 花里市中三自殺事件の真実


 私はとんでもない嘘つきでした。


 情報提供は、そんな文から始まっている。情報提供者の名前は潮田奏菜、中学三年生で、情報提供によるとそこそこ成績は優秀で県主催の弁論大会では入賞していたりする。四人家族で、両親と姉が一人いる。
 クラスでは生活委員を務めていた事、体育祭の二百メートル走では歴代最高記録を更新をした事、修学旅行で行った長崎では被爆者の話を聞く時挨拶の役割を任された事、普通の中学三年生らしい日々が、パソコンの画面には映し出されている。

 「 しかし、それは全てかりそめでした 」

 弁論大会(岡山県主催「『今の私』を語る」青少年夢と希望弁論大会)で語った話は全て嘘。私の従妹は別に事故によって記憶障害になったわけではなかった。母親に語っていた楽しい学校生活は全て嘘。学校生活は楽しくはあったけれど、片山と紗都子は付き合っていなかったし、それ以外にもいろいろ。友達に話していた姉の話は全て嘘。姉は障がい者で、国立大学に通う秀才などではなかった。
 そのような事を、潮田奏菜は丁寧な文章で語っていた。

 「 この嘘がバレたら、私はどうなってしまうのだろう 」

 恐怖に押しつぶされそうになりながらも、嘘をつくのをやめられない。虚言癖と言う言葉を最近知り、自分は精神の病気なのだという自己嫌悪が湧きあがってきて障がい者の姉を見下す事で保ってきた心のバランスが一気に崩れた。

 「 だからもう、耐えられなかった 」

 母はいつも潮田奏菜に暴言を吐き、父は怪しげな民間療法にのめり込んでいて、しかも政治活動を言いながらくだらない政治家叩きをネットでしていて、その思想を潮田奏菜に強要していた。
 

 「これ、病んでも仕方ないような……同級生からのいじめのくだりとか読んでられないし」
 「いじめっていうか、嫉妬と悪口。ガチもんのいじめじゃないよ、本人は辛いだろうけど」

 兎に角さ、面白そうだし記事にしてみない?と森田は言う。同級生と二人きりで夜行バスで大阪なんて臭う上に『これ』だよ。

 「斎藤はさ、角野ちひろの男遍歴とか『芸能関係者』の五文字を使って推測をネットや本屋に垂れ流すだけでいいの?――せっかく記者になったんなら、記事書こうよ」

Re: 彼女は、自分の事を承認欲求の塊と言った。 ( No.4 )
日時: 2017/11/18 00:29
名前: るんるん

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