複雑・ファジー小説

さみしいかみさま【完結】
日時: 2018/08/31 10:46
名前: 小夜 鳴子 ◆1zvsspphqY
参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=776.jpg

 
 
 空も湖もね、偽物なんだよ。
 誰も神様になんて、なれやしないんだ。






 


☆星野 瑞樹ホシノ ミズキ
…美少年。金髪碧眼だが、それを隠して生活している。

○相川 みおアイカワ ミオ
…瑞樹と昼食を食べるようになる。美しいものが好き。弟がいた。

。鈴村 廉造スズムラ レンゾウ
…フリーライター。ナルシスト。『青花会』についての事件を調べる。

◎橋木 研介ハシキ ケンスケ
…医者。拾った少年と共に暮らす。

★少年
…性別不詳。鈴村の前に現れた、『青花会』を知る人物。






 同名の歌がありますが、イメージソングはこちら。
【Green a.live/YUI】
 




2018.08.31

 
 
 

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Re: さみしいかみさま ( No.6 )
日時: 2018/08/23 11:15
名前: 小夜 鳴子 ◆1zvsspphqY

 
 




 

 文化祭も体育祭も終わって、始まるのは怠惰な夏休みだった。終業式も終わって、教室はもう夏休みムードだ。花火とか夏祭りとかかき氷だとか、そんな言葉ばかりが聞こえてくる。
 それはもちろん私も例外ではなく、友人と「カラオケに行こうね」なんて笑い合う。多分行かないだろうけれど。
 そういえば、瑞樹くんはどんな声で歌うのだろう。自らを神様だと言うからには、きっとそれはそれはもう美しい声で歌うのに違いない。常でさえも耳触りのよい声だから、まるで芸術みたいな歌声になりそうな気もする。一度聴いてみたいな、と思った。
 ちらり、と窓の方を窺うと、彼は真っ白で華奢な手を顎に当てながら、今日も空を見ていた。長い睫毛が雲を追っている。この喧騒の中、やっぱり彼は一人きりだ。
 友人との会話が一段落したところで、私はスマホを取り出し、トーク画面に「夏休み、会いたいな」と打ち込んだ。
 すると、ぼーっとつまらなさそうにしていた彼が突然ふっ、と目を見開き、ポケットからスマホを取り出した。文化祭まで、私は彼が携帯とかスマホとかいう電子機器を持っていないものだと思っていた。しかし、最近の神様はそちらの方面にも明るいようで、「持ってるよ」と不思議そうにスマホを取り出したときは大層驚いた。そんなこんなで私は彼と連絡先を交換し、時々文章を送りあったりしていた。
 細い指先で、彼は何かを打ち込んでゆく。こちらからは、彼が何を打っているのか窺い知ることが出来ないので、私は裁判で判決を待つ犯罪者のようにどきどき、わくわく、ぞくぞくとしていた。嫌だ、なんて返ってきたらどうしよう。彼はそんなアウトドアな人では人ではないだろうし、私はただの、昼食を一緒に食べて、文化祭を共に過ごしてみただけの奴だから、一緒に出かける理由もないのだ。
 ぶるぶる、と私のスマホが震えて、恐る恐るスマホの画面を見ると、「いいよ」という文字。胸がぎゅーーーんとなって、私は思わず「いつがいい?」と打ち込んだ。「いつでもいいよ」と、一番困る返答が返ってきたけど、私は満足だっはた。
 ちなみに、彼が登録している連絡先は家の電話番号と、このトークアプリでは私だけだ。それを知ったとき、私の胸がぎゅーーーんとなったのは、言うまでもない。



 美少年の制服の夏服は最高だと思う。半袖カッターシャツの瑞樹くんもそれに違わず素敵で、中学の頃も最高だった。でも、私服を見たのは初めてだった。
 公園に現れた彼は、清潔なシャツに薄手のカーディガン、といった出で立ちで、少し秋っぽい装いだった。肌をさらけ出さないところがまた禁欲的で、こういうことを言っていいのかわからないけれど……そそる。やだ、私ってば変態。
 本当はカラオケに行きたかったのだけど、瑞樹くんがカラオケに行く画がどうしても思い浮かばなかったので、結局ピクニックまがいのことをすることにした。夏休みの間、私たちは一緒にお昼ご飯を食べることができない。それなら、今日1日だけでも、ゆっくりお昼ご飯を食べようと思った。
 毎日会わないのは、私の遠慮のためだった。うちの学校は課題が多くて、かなり全力で取り組まないと終わらない。彼の勉強の邪魔をしたくないし、何より、やっぱり誘いにくい、というのもあった。彼と長いこと一緒にいるのは、なんと言うか……疲れるのだった。
 心地よいけど、沈黙が多いので、その静けさが苦になることも多い。そんな関係ではきっと、私と彼は完全なる友だちにはなれない。もちろん、恋人にも。
 街の中心部から離れたその公園の芝生の上に青色のレジャーシートを広げて、私はお弁当箱を並べた。といっても、中に入っているのはただのサンドイッチだ。簡単に作れるし、何よりこんな晴れた日にぴったりだと思ったのだ。
 座り込んで弁当箱の蓋を開くと、彼は「わぁ」と歓声を挙げた。

「僕、サンドイッチ好きなんだ」
「よかった! 瑞樹くん、いつもパンばっかり食べてるからお昼はパンの方が食べやすいかなって思って。喜んでもらえて嬉しいな」
「家でもパンだよ。それに、このぶどうジュース」

 彼は、弁当箱と一緒に置いた紙パックのぶどうジュースをきらきらとした瞳で見つめている。

「ぶどうジュースは、神様の飲み物なんだ」

 ストローをぶっ刺し、そのぶどうジュースを飲みながら、彼は呟いた。

「大袈裟ね。確か、最後の晩餐だったっけ。昔読んだ聖書に、『ぶどう酒』みたいなものが出てきた気がする」
「聖書? それはどこの宗教の?」
「え、キリスト教に決まってるじゃない」
「嗚呼、世界史で習ったやつね」

 いただきます、とたまごサンドを手に取って、彼は不思議そうに頷く。……普通、聖書といえばキリスト教ではないだろうか。ハンムラビ法典や、コーランだとでも思ったのかな。そっちの方が一般的ではないだろうに。

「美味しい」
「よかった」

 私もサンドイッチを手に取って、口いっぱいに頬張る。うん、美味しい。私が食べたのはカツサンドだった。カツのサイズが大きすぎて、詰め込むのに苦労したのを思い出す。そこら辺はまだまだ研究しなければならないな、と思った。

「……神様の飲み物は、神様が飲むから、神様の飲み物と呼ばれていたんだ」
「……どういうこと?」

 どこの宗教にも無さそうな話だな、と思って、聞き返す。

「神様しか飲んじゃいけなかった。贅沢品で、何より身体を清めるためのものだと言われていたから」
「……それはどこの宗教の聖書に書いてあったの?」
「さあ」

 なにそれ、と笑って、私もぶどうジュースを手に取る。ぎゅぽっ、と差し込んだストローから紫の液体を吸い上げると、その酸味が何故か尊く思えた。彼の話を聞いたせいだろう。

「何言ってるの。ぶどうジュースなんて、スーパーで100円以内で買えちゃうじゃない」
「……そうだったんだね」

 彼は神妙に頷いた。

「そんなことも知らなかったんだよ。あの頃の僕は」

 あ、このサンドイッチも美味しいね。カツサンドを手に取り、頬張った形の良い彼の唇が、言葉を紡ぐ。
 彼は不思議だ、と思う。身に纏う空気、容姿。こうして話してみると、彼は妙なところで世界を知らない。知識はあるのに、年齢がそれに伴っていない。そんなちぐはぐな印象を受けるのだ。
 一体、どんな環境が、彼という人間を生み出したのだろう。
 
 

Re: さみしいかみさま ( No.7 )
日時: 2018/08/24 09:17
名前: 小夜 鳴子 ◆1zvsspphqY

 
 




 

 あの後連れて行かれた場所は、ホテルだった。そいつ、もといほしのは、慣れた様子で部屋に入り、けばけばしい色をしたベッドに腰を下ろした。

「どうしたの? 早く入ってきなよ」
「あ、あぁ……」

 ドアの前で突っ立ったまま動かない俺を、その細い腕で隣に招き寄せる。目を伏せて座るほしのは、帽子を取って顔がよく見えるようになったのにも関わらず、いまだに男か女か、見分けがつかなかった。身体付きも華奢だが、少年と呼んでも違和感がない。せめてパーカーを脱いでくれたら、なんてことを思った。

「で、青花会のことだったっけ?」
「ああ、そうだ。青花会がまだ残っているとはどういうことなんだ?」

 ほしのから漂ってくるいい匂いを頭から振り払いながら、俺は頷く。

「青花会はね、元々は宗教じゃなかった。研究施設だったんだ。まあ、何の研究をしていたかというと、簡単に言えば不老不死、かな」
「不老不死?!」
「そう。人類の悲願。いつまでも若くありたい、生き続けたい、死にたくないっていう醜い欲望だね」

 はっ、と鼻で笑って、ほしのは続ける。

「その被験者を集めるために、宗教紛いのこともやり始めたっていうのが真実かな。非正規な実験だし、ダイレクトに人体実験だから、装った方が都合がよかったってわけ」
「なるほど。つまり、信仰は名目で、実験体を集めていた、というわけか」
「そうそう。あなたは理解が早くて助かるよ」

 にっこり、と整った顔で微笑まれて、俺の心臓がおかしなリズムを奏で始めた。落ち着け、鈴村。こいつは男かもしれないんだぞ。だからといって、女だったらいいという訳でも……ないのだが。

「それで、宗教としての活動も始めたんだけど、司教に任命された人がけっこうのめり込んじゃってね。『混じりものは駄目だ!』とか言い始めたらしくって」
「それで、日本人以外は入信できなかったのか」
「ご名答」

 笑みを浮かべたまま、ほしのが俺の手を握りしめる。ばっくんばっくん。大丈夫だ。まだ俺の頭は冷静に働いている。

「そしてね、青花会が宗教として機能し始めたのは、もう1つの要因があるんだ。何だと思う?」
「……何って」
「賢いあなたなら、わかるでしょう?」

 耳元で、ほしのが囁いた。ぞくぞくぞく、と、背筋を何かが這いずり回る。感電したかのように自由に動かなくなった体とは正反対に、俺の頭は回転を続けていた。
 宗教というものは、崇拝するものが必要だ。それは、動物、植物、そして人間であったり。

「……神様の、出現」
「そう。青い瞳の、私の神様」
 
 

Re: さみしいかみさま ( No.8 )
日時: 2018/08/25 00:19
名前: 小夜 鳴子 ◆1zvsspphqY

 
 



 


 近所の駄菓子屋のかき氷を食べながら、僕は空を見上げていた。顔馴染みになったおばちゃんが「グレープね」と笑うのが恥ずかしくって、その場で食べず、家まで持ち帰ってきてしまった。少し溶けたかき氷はそれはそれで美味しくて、まあいいか、と思った。
 不思議なことに、甘いものは食べられるのだ。本も読めないし、パン以外のものは食べられないけれど。特に、ぶどう味のものが大好きだった。
 ぶどうジュースを飲んたときは驚いた。それは、僕がいつも「神様の飲み物」だと言われて飲まされてきたものと似ていたからだ。甘くて、でも酸っぱい不思議な飲み物。僕はその飲み物が今でも大好きだ。
『これは貴重なものなのです。神様である、貴方様しか飲むことができないのです』
 そう言って、彼らは僕にこの紫色の液体を飲ませていたけれど、こうやって人間になってみれば、この飲み物は何の変哲もない、紙パックで100円以下のただのぶどうジュースだ。
 強いていえば、あの頃飲んでいたこれに似た飲み物には、何か薬が入っていた。今にして思えば、その薬がこそが、このぶどうジュースを神様の飲み物たらしめていたものなのかもしれない。
 だとしたら、ぶどうジュースに混ぜたのは、キリスト教を真似たのだろうか。僕はまだ子供だったからお酒は飲んではいけないから、ぶどうジュースを代々品にして。
 そういえば、世界史で色々な宗教を習ったけれど、僕のところの宗教はなかった。つまるところ、かつて世間を騒がせたとある宗教と、同じような扱いなのだろう。
 僕のいたところもまあまあ有名だけれども、小さな事件だったから、もう蒸し返す者もいないだろう。
 人という生き物は、移ろいやすいのだと彼らが言っていた。神と違って、せいぜい80年ほどしか生きられない僕らは、その短い生の中で神の真似事をする。物を創り、壊す。違うのは、神は無から有を創り出すことができ、人にはそれができない、ということだけだ。
 だとしたら僕は、今も昔も神様ではなかった。だって、僕も無いものを生み出すことは、できなかったのだから。



 今でも時々夢に見る。綺麗な服を着せられて、キャラメル色の沢山の瞳に見つめられていたこと。僕の瞳を抉ろうとした女の子のこと。ある朝起きたとき、何故だかとても不快で、起こしに来た人が慌てていたこと。
 僕が神様であったときの記憶は、誰か別の人の物語を見ているようで、本を読んでいるときみたいだった。思い出そうとすると、途中で拒絶反応が起こる。そうして、朝起きたときには、ほとんど忘れてしまっているのだ。
 ぱっ、と目を開けると、青い花が咲いていた。嗚呼、これは夢の中だな、と気づく。僕の身の回りの世話をしていた人たちは、それを「神の花」だと呼んでいた気がする。青い薔薇は自然界には咲きえないものなのだと知ったのは最近だけど、それとはまた形が違うので、別に普通の花だったのだろう。
 ミサのとき以外、僕は大抵部屋にいるか、聖堂の裏の花畑にいた。僕はずっとずっと孤独だったけれど、青い花に囲まれていると、まるで暖かいものに包まれているようで、とても落ち着いた。
 そっと、青い花に触れてみる。夢だというのはわかっていたけれど、不思議なことに、それは感触があった。ふわり、と甘い香りも漂ってくる。まるで、懐かしい、記憶の中の母に抱かれているような、そんな気分だった。
 次に目が醒めるとき、この記憶はあらかた忘れてしまっているのだろう。だけど、もう少し、このままで。

 夢見たのは、青い花が咲き乱れる楽園だったのだ。
 
 

Re: さみしいかみさま ( No.9 )
日時: 2018/08/25 10:12
名前: 小夜 鳴子 ◆1zvsspphqY

 
 




 

 それが夢だったのだと気づいたのは、かなり後だった。目覚めてからも、しばらく気がつかなかった。むしろ、目覚めてからが夢だと思っていた。
 彼女が帰ってきて初めて、あれは夢だったのだと気づいたのだ。

「どうしたの」

 ベッドの上で呆然としていた私の瞳を、少年は不思議そうに覗き込む。

「何か、怖い夢でも見たの」

 隣に座り込んで、少年は私の肩をとんとん、と叩いた。その仕草からは、私の喉に指を突っ込んでいたときのような狂気はなく、ただただ慈愛があるだけで、私は時々、そして今も、少年のことがよくわからなかった。

「……息子が、いたんだ。まだ小学生だった。……私が執刀したんだ。だから、私が殺した」

 声が震えていた。思わず両手で顔を覆う。そうでもしないと、表情が一定に保てないのだ。痙攣する顔中の筋肉を必死に押さえつけながら、私は呻いた。

「妻も娘も、許してはくれなかった。……当然だ。私が殺したのだから。離婚して、離れ離れだ。妻は言った。『あなたにとって、償わせないことが、1番の罰だと思う。だから、お金なんていらない』と」

 夢の中で、妻は無表情に、娘は憎しみの篭もった目で私を延々と睨み続けていた。私はその目に、耐えきれなかった。

「娘の将来への投資もできないんだ。これ以上の、罰が、不幸があるもんか。私は、俺は、許されないことをした。許してくれ。どうか。許して許して許して許して許して、許して、くれ、神様!!!!!!」

 顔だけでなく、体全体が震えていた。口は「許して」と「神様」としか動いてくれなくなり、頭の片隅の俺は、嗚呼、また発作が始まった、とため息をついていた。わかっているのだ。こうやってただ呟いたって、誰も許してはくれないことくらい。

「大丈夫だよ」

 ふわり、と温かい熱が俺を包み込んだ。ぼやけた視界には、少年の白い腕が映っている。

「神様は、きっとあなたを救ってくださるよ」

 穏やかな声で、耳元に囁きかけた。涙が頬を伝ってゆく。俺は、少年の細い肩を強く抱き抱えた。

「許されても、いいのだろうか俺は」
「許されてはいけない人間なんていないよ。大丈夫。あなたはもうすぐ、救われるから」

 少年の身体は温かい。その温もり、そして与える痛み、その全てが、私の傷ついた心を癒してくれる。
 涙でぐしゃぐしゃの顔で、私は喘ぐように呟いた。

「嗚呼。私の、神様」
 
 

Re: さみしいかみさま ( No.10 )
日時: 2018/08/25 14:33
名前: とりけらとぷす


初めまして、普段ダークファンタジー小説で活動をしております、とりけらとぷすと申します。
あまりこちらには来ないのですが、久しぶりに来て気になる題名(小夜さんの作品)を見てみると…
何これ面白い!と衝撃を受けたので、コメントさせていただきます(*´-`)
大体地の文が多いものは携帯小説ではあまり好まれないものが多いですが、どんどん物語が入って来て、一気に読んでしまいました。
凄い、魅せる文章だなと思いました。地の文が多めでここまで惹きつけられるものはカキコの中ではそうそうないものだと思います。
読み終わって思ったのは、巧い、という一言でした。

神様と呼ばれた少年は一体何者なのでしょうか?青花会の真相とは!?
続きが気になって仕方がありません。
青花会事件の重苦しとさは対照的に、みおちゃんと星野くんの昼食シーンは、読んでいてとてもほっこりしました。
星野くんとやりとりをしていてはしゃいでいるみおちゃんがとても可愛いです。

YUIのGreen a.liveがイメージソングなんですね。
私はこの小説を見ながらYUIのBlueWindを思い出してました。神様が出てくるからですかね?(笑)

長文失礼しました。これからも楽しみにしています。

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