複雑・ファジー小説

懐柔がやってくる
日時: 2018/03/14 11:10
名前: さっちゃん

悲しさも悔しさも、愛しささえも忘れてしまった。君という暴力に打ち勝てず、僕は青空に住むことにした。さよなら、懐柔。こんにちは、僕の死と終末。

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はじめまして、さっちゃんです。
青春小説です。不快な描写が多々ありますので苦手な方は注意してください。アク禁にならないよう懺悔しながら書きます。

さっちゃんのプロフィール
学生 好きな食べ物はラーメン バカリズムが好き
Twitter【@KAIJU_sattyan】

2/23 本編開始
2/24 参照100突破
2/27 参照200突破
3/13 参照300突破

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Re: 懐柔がやってくる ( No.3 )
日時: 2018/02/26 19:13
名前: さっちゃん

保健室から先生が出てきた。
「ごめん、今から職員会議で」
「ああ、大丈夫ですよ。ちょっと、こいつが休みたいらしくて」
「あ、そうなの。じゃあ、サクラバくん、ちょっとだけ見ててもらっていい?」
「了解でーす」
先生が階段を上っていくのを確認してからサクラバが僕の手を引っ張って、保健室に入っていく。効きすぎた冷房にぶるりと身震いする。
「そこ、座って」
サクラバに言われたまま丸椅子に座った。
何度繰り返しても、慣れないし、キモいよ、サクラバ。扇風機の緩やかな風が艶やかな黒髪を揺らして逃げ去っていくのを、眺めている。大嫌いな夏を、感じていた。サクラバは救急セットを机に置いて、気を使うこともなく、僕のカッターシャツをめくった。
「痛い?ここ」
サクラバが腹部から肋骨にかけて出来ているだろうあざを、ゆっくりと指でたどる。悪寒。背筋に這い寄る怪獣。捕まった、逃げられない。気持ちが悪い、吐きそう。けど、どうしようもなく、好きだった。好きと嫌悪を合成させられている、もう、どうしようもない。
「…い、痛い。いたいよ」
「…ごめんなさい。でも俺、また、こんなことするなんて思わなかったんだ。でも、あいつが、あいつが」
サクラバが僕に抱きつく。鼻水をすする音が背後から聞こえてくる、とても惨め、可哀想。だから、好き。嫌い。お前はずっと、怪獣だ。だけど、可哀想。お前が僕を食い殺すたび、僕は好きになる。捕食された僕は溺れている、君の腹の中を。好きの暴力には、勝てない。
「塗りつぶさなきゃ」
君の声がしたけど、窓も、扉もあいていない。あるのは可哀想な怪獣と、キモい好きだけ。

Re: 懐柔がやってくる ( No.4 )
日時: 2018/03/01 07:01
名前: さっちゃん


**

眩しい夕焼け空の下をサクラバの手を握って帰っている。あれだけうるさかった蝉の声は、もう少ししか聞こえてこない。
「おれ、お前に何すればいい?何すれば、許してもらえるんだろう…」
許して欲しいのは、僕じゃないだろう。鼻水を啜る無様で、綺麗なお前に、そう言うのはやはり、可哀想で僕は黙ったまま。僕の手を強く握るから、僕も握り返してやった。
特撮映画に出てくる怪獣は建物や人を平気で襲うし、その後はルールだから死んでゆく。しかしサクラバは、自分を自分から守るために僕の体を痣が出来るまで殴り、嘔吐させる。誰かよりも優位にたっている、証拠が欲しい。なのにお前は誰かに嫌われることを恐れている。捨てられた怪獣のおもちゃをいつも思い出す。
「サクラバ、家、着いたよ。鞄持って」
「…」
「誰もお前のこと、殺したりしないから。大丈夫だよ、大丈夫」
ゆっくりと手を離す。フラフラとした足取りで、大きな扉の向こうへ消えていくサクラバを確認してから、僕はその場に座り込む。胃液がまた喉まで登りつめたけど、それを飲み込む。
嫌悪と好きが混ざりあって、とにかく気持ち悪い。何もかもを捨てて、天国へ行きたい。死にたい。こうしてあいつを懐柔することに、疲れているのは紛れもない事実だった。死がそこまで近づいている感覚。天国に行けないほどに、君に向ける好きという感情は、重い。僕を押しつぶして、お前のために生きている。サイテーな殺人者のお前なんかより、君にすべてを捧げた方が、きっと幸せなんだろう。ルゥルゥ星に帰らなきゃ行けないのに、好きが僕を離してくれない。だからやはり、君の懐柔を受け入れ続けなければならないのだ。

Re: 懐柔がやってくる ( No.5 )
日時: 2018/03/03 01:19
名前: さっちゃん

電柱に手をかけて、僕はゆっくりと立ち上がる。1mほど先のからすと目が合って、僕は目をそらした。すると、からすはあっさりとどこかへ飛び立ってしまった。僕には興味が無いらしい。
大きく深呼吸をして、アスファルトの上を歩いていく。
僕の家は、サクラバの家と目と鼻の先にある。幼い頃から、交流を続けていたものだから、僕は奴と会話をすることが出来ている。サクラバは、かっこよくて、明るくて、面白くて、責任感があって、優しい。ずっとそういうやつであり続けているあいつと、根暗で地味な僕なんかとでは、まるで接点がない。傍から見れば、奴が僕に構ってあげているようにしか思えないだろう。世界は薄っぺらい皮膚だけしか見てないのだ。同情と、嫉妬と死んだ猫でも見るような目には、もう慣れた。
だけど、人間共は、奴の何もわかっていない。
やけに重たく感じる扉を引っ張って、ただいまと小さく声を出す。
「おかえりー」
「ただいま。…マリ、帰ってきてたんだ」
「あー、うん。ケーサツに連絡されたら、まあ、ねえ。あ、あと、ご飯作っといたよ。適当に食べといてよ。いつもの如く、カレーだけど」
ケラケラ笑ったマリは、ソファーに寝転んでテレビを眺め始めた。また増えたピアスを横目に、僕は冷蔵庫からやかん、食器棚からコップを取り出して麦茶を注ぎ込む。それを一気喉に流し込んだ。
「しゅーくん、ねーちゃんのなっちゃんも」
「ん」
「サンキュー」

Re: 懐柔がやってくる ( No.6 )
日時: 2018/03/06 22:55
名前: さっちゃん

僕もマリの隣に座って、ふうとようやく一息つく。
「しゅーくんさあ、学校楽しい?」
「別に。いきなりなんだよ」
「いやあ?ねーちゃんとして、弟くんの事を気にかけるのは当然でしょ」
「ねーちゃんつったって、僕ら双子だろ。それにねーちゃんぶるなら、夜通し出歩くなよ」
「あは、言えてる」
とは言うものの、マリはいい姉というわけではなかったけど、昔から、僕は彼女が好きだった。自由気ままで、楽しそうで、羨ましかった。マリは、どこにでも一人で行けた。何にだってなれた。なのに、時間や自分を潰している、今の彼女が憎い。だけど、やっぱり、嫌いにはなれなかった、彼女からはなにか特殊な物質が出ているに違いない。洗脳されている、彼女は宇宙人なのか?
「あとさあ、サクラバ、彼女いるんだね。まああいつの見た目とか性格とかからしたら、当然か」
「は?いねーよ、そんなの、いるわけない」
「そうなの?でも昨日、あそこの前で、女の子といるのみたよ。『ラブコール』だっけ」
ラブコールは、近くの、ネオン管が特徴的なラブホテルのことだ。まさか、サクラバに限ってそんなことはないだろう。あいつは僕以外に、頼れない。頼らない。でももし、もしそうならどうしたらいいんだろう。あの、砕け散ったガラスのような瞳も、弱々しくて惨めな泣き声も全部僕だけの、ものなのに。
「…気のせいだろ。僕、疲れたから、寝る」
「ふい。おやすみー」
どたばたと階段を駆け上がって、自室に入る。ベッドに倒れ込んでも、聞こえるのは時計の針が進む音だけである。

Re: 懐柔がやってくる ( No.7 )
日時: 2018/03/13 19:09
名前: さっちゃん

「可哀想だね。可哀想、可哀想」
君が、僕をのぞき込む。誰にでも笑っている君だけど、今だけ、その笑顔は僕のものなのだ。
「やっぱり奴は君なんか見てないよ、ボクだけだ、君のことが好きなのは。君が大好きだよ」
「…」
なにかを言いかけて、僕は押し黙ってしまう。口に出したら、すべてが終わる気がした。ルゥルゥ星がなくなって、君もいなくなって、この星に、僕一人だけが残されていく。それは絶対に嫌だった、駄目だ、駄目。
君は気づいていないのか、そうなのか、分からないけど、相変わらず笑ったままなのだ。長い髪の毛が、ふわふわと宙を舞っている。
「ねえ、だからほら、塗りつぶさなきゃ、ね」
机の上のペン立て中、カッターを指さした。操られているように、僕はふらふら、ふらふら、立ち上がってそれを手にする。
「ふふ、ふふ」
それを手首に押し付けなきゃいけない。君の懐柔は、痛くては甘い。サイダーが、喉を通り抜けていく、感覚。刃を出して、薄く手首を切った。何度も重ねて切る。痛い、痛い。でも確実に、痛みを消していた。君だけが僕の守護天使。
「君が大好きだよ」
それだけ言って、ベランダからふわりと飛び降りた。自分の鼓動より聞いたその言葉だけが僕を懐柔する。壁に貼り付けてある、大きな写真のなかの君の肌を撫でた。

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