複雑・ファジー小説

お菓子
日時: 2018/03/24 10:57
名前: 流聖

 これはお菓子の世界。

 お菓子の世界は主にチョコレート国とガム国とクッキー国の3つに別れていた。あとは小さな国ばかり。
 寿命は消費期限。
 強さは美味しさ。美味しさにはレベルがあり、味、食感、香りの3つに分けられる。賞味期限が過ぎたお菓子は弱い。

 例えばガム。ガムは他のお菓子にはない食感と、味の持久力が長いため、体力に秀でている。しかし、アレンジの仕様がなく、単品の場合が多いので、他の国と同盟を結べずにいる。 

 例えばチョコレート。味、食感、香り全てに優れたこのお菓子は最強といっても過言ではない。しかし、お菓子の国にも、四季はあり、チョコレートは熱に弱いため、夏は多くの死者がでる。だが、夏に死んだものは冬に生き返るという独特な生命の形をしているのがチョコレートである。昔、ホワイトチョコレートと、黒人対白人の戦争があったが、今は仲も良く、良好な関係を気づいている。多くのアレンジができるので、同盟国が多い。

 例えばクッキー。サクサクの食感で、食感のレベルは高い。焼きたての香ばしい香りは生まれてきた直後が一番香りのレベルが高いとされている。アレンジなしのままではレベルは低く、同盟を結ばなければ強いとは言えないだろう。

 そして、だれにも知られず、国にすらなっていない、数も大変少ない種族がいた。何故ならお菓子の世界という場所にいることすら難しい、お菓子であってお菓子ではないものだったから。それは・・・砂糖。果たしてお菓子と呼べるのか。砂糖だけでお菓子と呼べるのだろうか。ほとんどのお菓子に入っていながら砂糖だけでお菓子と呼ばれたことは全くないであろう種族。しかし、一部には砂糖依存症ということばができるほど、支持が強いという説もあった。砂糖は美味しいのか。強いのか。それは誰も知らない。

 これはそんな世界の話。



 閲覧有り難うございます。亀更新ですがよろしくお願いいたします。

 私が作ったもう一つの作品に、コメディ・ライトに「好きと嫌いは紙一重」があります。
 そちらもどうぞよろしくお願いいたします。

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Re: お菓子 ( No.5 )
日時: 2018/04/09 19:26
名前: 流聖

 お嬢様に全統括主になってほしいと告げた晩、夢を見た。

 「凄い‼これ、アガペーがつくったの⁉」

 「えへへ、うん。」

 5人に渡されたのは刺繍が施されたキーホルダー。それぞれ持ち主のイニシャルが入っている。緑の野原でオレンジの花が咲き、蝶が舞うなか、茶色で、クリーム色の鼻の針ネズミが遊んでいる刺繍だ。特にイディオフィイアは凄く驚いてぴょんぴょん跳ねている。

 懐かしい声と、甘いにおい、愛おしい光と温度。とても甘やかで、心地い。そんな夢。

 確かこのときからアガペー様のあだ名はママになったんだ。

 可愛い刺繍ができて、甘い卵焼きが上手に作れるアガペー様。

 誕生花とか、花言葉が好きで、よく教えてくれた。

 髪が長かったからかな、三つ編みとか、髪が綺麗になる方法とか、よく知っていた。髪を結っていたリボンは自分で編んだんだとか。クリーム色のリボンで暖かみが感じられた。

 紅茶も凄く美味しく淹れていた。アガペー様はグリーンティーが好きだったなぁ。

 なのにサイレントってあだ名が付くぐらい、音も無く近づいてくるから怖かったなぁ。

 そういえばいつも桔梗の香りがした。通りすぎたあととか、ふわっととてもいい匂いがした。

 眼鏡を掛けていてわかりづらいけれど、よく見ると、ビックリするぐらい整っている顔立ちだった。まるで、綺麗になんて見られたくないって言ってるみたいだった。

 優しい口調で、暖かい声で、心地いペースでしゃべっていた。聞き上手で、頭もよくて、相談しやすく、解決策をだしてくれるから頼りになった。あまりしゃべる方ではないけれど、話しかければ、ちゃんと答えてくれる。

 素敵な人だったなぁ。

 なのに・・・何で・・・



 「で、本当の用はなんだ?」

 電話で会食をしないかとチョコレート国から言われたときからおかしいと思っていた。何かの記念日でもないのに会食だなんてそれなりの理由じゃなきゃしない。
 レアのステーキをナイフで切りながら、目の前に座っているイディオフィイアに問う。

 「その・・・クッキー国と・・・」

 イディオフィイアは悲しそうな顔で話す。
 クッキー国は今のところ特に大したことはなかったはずだ。イディオフィイアが悲しむようなこと・・・

 「戦争だ。」

 ステーキを切る手が止まる。
 なぜ?きっかけは?クッキー国は平和で、皇帝のアガペーの父や次期皇帝のアガペーも穏やかで争い事を好まず、とても戦争するような性格ではない。

 「今の情報はこれが全てだ。」

 そう言ってイディオフィイアは1枚の紙を差し出す。受け取ってなかを見ると、俺は唖然とするしかなかった。
 楽しそうだから?ふざけるな。アガペーはこんなことは言わない。でも、そう思うのは相手も同じこと。クッキー国じゃない事を、間違いだということを信じたくて、きっとあらゆる可能性を確認したはずだ。その上で、戦争だと言っている。それはどうしようもない事実だということを告げていた。

 「今日、会食した目的は、協力要請だ。」

 「・・・もちろん協力するさ。」

 チョコレート国は長い間同盟を結べずにいたガム国と同盟を結んでくれた。その恩は返しても返しきれない。そして、国関係なく、友が困っている。協力する理由はそれで十分だ。
 しかし、少し腑に落ちないところがある。

 「お前が、全統括主なのか。」

 「ああ、そこに書いてある通りだ。」

 小さい頃からイディオフィイアはバカだった。小さな小さなその体で、大きな大きな荷物を持とうとして、体を大きく見せようとする。
 わずか十歳の子供が、大人の上に立ち、その手に、玩具でもお菓子でもなく、武器を持つ。ドレスではなく、軍服を着る。花畑ではなく、死体が広がる戦場にいる。
 そんなことがあっていいのか。
 友よ。お菓子が好きで、小さな小さな友よ。
 必ずその手も、着る服も、いる場所も、本来あるべき姿に戻して見せる。


 _クッキー国にて_

 「ちっ、チョコレート国についたかガム国め・・・」

 アガペーは腕をくみ、忌々しそうに呟いた。

* * * * * * *

片道一時間。ガム国からチョコレート国まで馬車に揺らされながら、イディオフィイアに強化訓練に誘われ、お土産のチョコレートケーキ片手にやって来た。
 訓練専用の場所があり、そこまで柚が案内してくれた。宮廷のかなり裏の方を通り、やっと着いたかと思えば

 「おーい!イディオフィイア!来たぞ…って…」

 そこには予想もしなかった光景。

 アスファルトと砂の地面にイディオフィイアは身体中に傷をつけながら倒れていた。
 所々クレーターのように地面はえぐれ、血が残っている。

 「お、おい!イディオフィイア!大丈夫か!?」

 俺はとっさにイディオフィイアの側に駆け寄り、体を起こす。
 息はしている。でも目を覚まさない。気絶しているようだ。

 「どけ。巻き添えになりたくなければな。そいつははこの程度で逝くような柔な女じゃない。」

 そういいながら真澄はこちらに近づいてきた。手には木刀が握られている。
 真澄が木刀を振り上げ、一直線に振り下ろす。

 っ…やられる!

 しかし、その瞬間─

 「うわぁ!?」

 襟を捕まれ、いきなり後方に投げ飛ばされた。目の前には小さな背中。それはイディオフィイアだった。イディオフィイアが自分を投げ飛ばさなければ、真澄の木刀が当たっていただろう。

 するとイディオフィイアは立ち上がり、いったいどこからそんな声がでるんだと思うくらい、少女に似つかわしくない獣のような雄叫びをあげながら真澄に木刀を構え突進していった。
 
 まるで火花が散りそうなくらい鋭い視線をぶつけながら二人は木刀を押し付け合う。
 すると真澄が片手を離し、イディオフィイアの腹に拳をめり込ませた。

 「…かはっ」

 イディオフィイアは血を吐きながら後方に吹き飛び、転がる。すると真澄がイディオフィイアに近寄り、イディオフィイアを軽く足でつついた。

 「立て、イディオフィイア。お前はその程度か。」
 「ちょ、ど、どういうことだ!やめろ!今すぐやめるんだ真澄!」

 俺が制止の声をあげると、真澄は先程の殺気漂う顔とは打って変わり、満面の笑みになり、歓迎の挨拶をした。

 「ようこそ、おいでくださいました、カロス様!」
 「は…は?」

 俺があまりの変わりように、今の状況に、混乱していると、柚が顔を出してきた。

 「『白い鬼』は未だ健在か、真澄。」
 「えっへへー、それほどでもー。」
 「『白い鬼』?」
 「白黒戦争の時、真澄を見た兵があまりの相貌に驚いて、畏怖の念を込めてつけたあだ名です。」

 なるほどな、と俺は思わず納得してしまった。あれが戦争時の真澄の相貌だと言うのなら、まさにあれは鬼だ白い鬼だ。伊達にレベル100ではない。

 「う…」
 「イディオフィイア!大丈夫か!?」
 
 イディオフィイアの声がして振り向くと、イディオフィイアは目を開け、上体を起こしていた。すぐに駆け寄り、体を支えると、イディオフィイアは今気づいたのか、俺が来たことに喜んだ。

 「カロス!来たのか!さあ、訓練を始めるぞ!」

 あの鬼を相手に?

 思わず聞きたくなってしまった。冷や汗が流れる。今見た酷状を今度は自分の立場になるのだと思うと、寒気がした。
 
 こうして、『白い鬼』を相手に強化訓練という名の地獄が始まった。

Re: お菓子 ( No.6 )
日時: 2018/03/18 07:09
名前: 流聖

 「似合ってないな」

 軍服姿のイディオフィイアを見てカロスは言った。
 茶色と白を基調とした軍服を身に纏い、デザインの一つであるマントは背中一面と左肩だけに羽織る形になっている。イディオフィイアの右胸にはショコラ家の紋章、チョコレート国の皇族としての証である、黄金に輝くバッジがついている。

 「お前こそなんだそのサングラスは」

 サングラスを掛けたカロスを見てイディオフィイアは言った。
 真っ黒なコート状の軍服を身に纏い、茶色のサングラスを掛けているカロスはどこかのヤクザかマフィアのようだった。右胸にはイディオフィイアと同様にガム国の紋章が描かれた黄金に輝くバッジがついていた。

 「カッコいいんだよ。まぁ、お子様にはまだわからな」
 「お嬢様素敵ですぅ〜‼はぁんっ、かっわいいいいっ!」

 カロスがサングラスを掛けることについて語っていると、それを遮り、真澄がイディオフィイアにもう突進し抱きついた。
 真澄は今回の戦争では医療班である。前回の白黒戦争では総合レベル100という圧倒的強さで全統括主になり、生きる伝説とも呼ばれた程だった。その成績を称え好きな職についていいということで真澄はイディオフィイアの執事を推薦したため、今の職についている。医療班についたのは医療班は大変人員が少く、希少だからである。真澄は医療面でもスペシャリストであり、神の手と言われている。

 「・・・来ねぇな。」

 今日はようやく戦争の準備が終わり、初出陣の日であった。今いるのはチョコレート国とクッキー国の境目に近い場所であり、ここでチョコレート国、ガム国、クッキー国が集合する予定だった。いわば待ち合わせ場所である。集合時間は午後3時、しかし、現在時刻は3時半であった。
 クッキー国の皇帝、そして幼馴染みでもあるアガペーは集合時間に遅れるようなことをする性格ではなかった。むしろ、皆より必ず早く来ていた。
 クッキー国が来るまでの間、他愛のない話をしながら時間を潰していた。本当はこんなことをしている場合ではないことぐらい皆わかっていた。戦場で談笑など油断にも程がある。しかし、そうでもしなければ彼らの心は持たなかった。幼馴染みが戦争を起こすなどあり得ないとまだ信じているのだ。
 
 しばらくして、軍隊の行進の足音が聞こえてきた。ついに来たのだ。クッキー国が。チョコレート国とガム国を合わせた軍隊と比べると、決して多くはない軍隊は黄土色、またはきつね色とも言う色の軍服を身に纏っていた。その先頭に立つ者こそクッキー国の皇帝、そしてイディオフィイア達の幼馴染みである、アガペーだった。しかし、

 「誰だあれ。」

 その容姿は今までのアガペーとは全く違っていた。
 黄緑色の長く、美しい髪は、まるで燃え盛る炎のような真っ赤な血のような色になり、短く切られていた。眼鏡を外し、目の下にできた深い隈は不健康そうなイメージを持たせている。
 そんなアガペーを見て、イディオフィイア達は唖然とするしかなかった。アガペーはアガペーであり、アガペーではないのだ。アガペーという幼馴染みが戦争を起こしたという悲しみ、虚しさ、悔しさ。もう今までの幼馴染みではないアガペーという人物になった姿。しかし、もっと衝撃的なことが起こるのだった。

 「何ボーッとしてんだよ。もしかしてチビっちまったかぁ?」

 下品で下衆びた言い方。それを発したのは変わり果てたアガペーだった。物腰の柔らかいしゃべり方とは全く違い、挑発的で汚い言葉遣いはアガペーだとは思えなかった。暖かく清んだ声は、低く掠れた声へと変わり、相手は不快感を感じそうだ。

 「っ・・き、気を取り直せ皆」
 「あ、ああ」

 カロスの声で我に帰ったイディオフィイアは深呼吸をし、チョコレート国の軍隊の方を向くと、皆に呼び掛けた。

 「諸君!さあ、おやつの時間だ!全てを喰らえ、喰らい尽くせ!安心しろ、我らの方が強い‼」
 「お、応ォォォォォォォォォ!」

 大地が震え、空間がはち切れそうな雄叫び。それは紛れもなく戦場に行く者の覚悟を決めた咆哮だった。
 



 



 

Re: お菓子 ( No.7 )
日時: 2018/03/23 20:57
名前: 流聖

 
 室内にはカチャカチャと食器と食器が触れ合う音だけが響いている。
 カロスの今日の晩御飯は魚のソテーであった。長テーブルに美しく盛り付けられた皿が並べられている。
 すぐそばには、執事の柚が立っている。晩御飯の時でさえ、護衛のために、常に皇族には側近がいるようになっていた。
 
 カロスは先日のことがありありと蘇ってきた。

 血で埋め尽くされた地面。あらゆる場所にもう息をしていない体が横たわっている。
 発砲音、雄叫び、悲鳴が音楽となり、兵が躍り狂う。それは死に至る舞であり、狂演していた。

 するとカロスは突然胃から食べ物が逆流してくる感覚に襲われた。

 「うっ」
 「ど、どうなされたのですかかカロス様!」

 カロスは席を立ち、すぐさまトイレへと駆け込む。後ろで柚の声が聞こえた。
 床に膝をつき、顔を便器に近づけ、一度胃に入った食べ物を戻す。
 あとに残ったのは疲労感と虚無感。

 「だっ、大丈夫ですか⁉」

 柚がそばに駆け寄ってきて水を差し出す。
 カロスはその水を受け取り、飲んだ。
 吐き気は収まったが、まだあの光景が鮮明に思い浮かぶ。結局あの戦争はクッキー国が退散し、決着はつかなかった。ただ己に深く、一生忘れないであろう記憶を刻み付けた。
 そしてすぐに自分と歳が五つ離れている柚と、自分と変わらないイディオフィイアは大丈夫なのかと思う。
 弱いところを見せようとしない二人が、カロスは只々心配であった。


 
 *  *  *  *  *  *  *



 僕はあの晩、変わった。

 腰まであった長い髪を男の子みたいに(僕は男の子なんだけど)耳に少しかかるくらいまで切った。

 黄緑色の若葉みたいな色を真っ赤な炎みたいな、血みたいな色に染めた。なんだか葉っぱが炎に燃やされるみたいだなって染めてる最中思った。

 艶があって、僕のちょっとした自慢できる唯一の部位というか、自信をもてる源というか、そういう風に思っていたその髪は今はパサパサになっていた。

 黒縁眼鏡を外してコンタクトにした。コンタクトは初めてで、入れるのに小一時間程かかった気がする。目玉の裏にいったりしないよねと、不安になりながら入れた。

 鏡を見ると自分でもこれ誰って言いそうになるくらい変わった自分がいてビックリした。鏡の前で「俺」って言ってみる。うーん、合わない。

 執事の優香に「どう?」って聞いてみたら、軽蔑するような目で見られながら、

 「きもっ」

って言われた。

 何もそこまで言う必要ないと思う。もっとオブラートに包んでくれたらいいのに。男のくせに名前が優香だなんてそっちの方がずっと変なのにと、案外気に入っている自分の執事の名前を僕は思っていた。

 僕は…否、俺は、変わった。変わるんだ。変わらなきゃ。

 ガム国に暗殺を仕掛けようと思う。


*  *  *  *  *  *  *


 「体調はどうですか、カロス様。」
 「大丈夫だ。」

 お前はどうなんだ。
 その思いは口に出せず、胸に溶けていく。彼女は、無理をしているんじゃないだろうか。それとも、15才って言うのはこれくらい受け止めきれるのだろうか。少なくとも、イディオフィイアはダメだなとカロスは思う。

 二人はカロスの寝室にいた。カロスはベッドに座り、柚は膝間付く形でそばにいる。風呂を済ませ、眠りにつこうとしていたカロスの様子が心配で、柚が寝室に押し掛けてきていた。

 するといきなり、カロスの視界から光がなくなった。電気が消えたのだ。
 停電?否、外はカラリと晴れた風の吹かない月がよく見える天気だ。
 では故障?しかし勝手に電気が消えたとは考えづらい。設備は整っているし、故障もない。
 なら誰かが消したのか。柚もカロスも消していない。電気を消すスイッチは二人からは正反対の位置にあり、間違って押してしまったとも考えられない。
 つまり、二人以外の人物が、二人に許可もなく、消したのだ。戦争中にサプライズはあり得ない。許可を取らないような不敬をする奴は宮廷内にいない。
 電気を消すなど、目的は見られたくないようなこと、そして二人がいる場所でやることといえば

 暗殺─すぐに柚とカロスは立ち上がり、常に所持している銃を構える。

 「誰だ‼」

 柚が叫ぶ。しかし返答はない。広がる沈黙。張り詰めた空気。

 「カチャッ」

 銃を準備するときの音がカロスの後ろから鳴った。敵が後ろにいるということだ。

 カロスの前にいた柚は後ろに移動する。カロスと背中合わせの状態になる。
 
 すると今度は視界が光で埋め尽くされた。電気がついたのだ。

 しばらく光がなかったので急な光に目への刺激が強すぎた二人は目を細めるが相手を確認するために、辺りを見回した。柚が後ろを振り向くと相手が見えた。

 相手はアガペーだった。

 アガペーは銃を構えている。引き金に掛けられた指が動く。

 撃たれる─そう思った瞬間、体は動いていた。

 「カロス様!」

 カロスの目の前にいたアガペーが撃つよりも先に、後ろにいる柚は前にでて守ろうとしてカロスの目の前に飛び込む。


*  *  *  *  *  *  *

 「柚‼」

 彼女の細い体が視界に入ってくる。
 
 その瞬間、思った。
    ・・・・・
 なんで音が鳴った?

 「パンッ」

 室内に響く乾いた発砲音。

 視界の隅に見えたアガペーの口は弧を描き、笑っていた。まるで予想通りとでも言うように。

 最初からこれが目的だったのだ。自分ではなく、彼女が。彼女が庇うことをアガペー知っていた。

 彼女の細い体が崩れ落ちる。胸からは真っ赤な血がでて、彼女の着ている白いシャツにシミを広げていく。

 もう息をしていない。どんどん体温が下がっていく。

 昨日の兵からでる地面に広がった血の光景と重なり、今日二度目の吐き気がした。

 その場で吐いてしまったカロスを見ながら、先の尖った革靴を履いたアガペーはこちらに向かってくる。

 コツ、コツ、コツと、足音をさせながらアガペーは口を開く。

 「なあ、知ってるか。甘いものには幸せだと感じる効果がある成分があるんだってよ。俺たちは甘いものを食ってるどころか体が甘いものなんだよなぁ。」

 この場に合わない全く関係のない話をするアガペーの瞳は混沌とした底無しの黒い瞳だった。

 「…僕達、幸せになれるといいね。」

 その言葉だけ、昔のような、声で、口調で、言っていた。
 その言葉はまるで祈りにも似ていて。思い、想い、願い、祈る。その祈りは誰に向かって、誰が叶えるのかもわからない。だが、その意思は強く、増していく。

 なれば己の血潮全てをその祈りのために捧げる。
 その祈りよりも大事な正義も論理も存在しない。義務や正しさ、エゴ、モラル、道徳観なんてその祈りを前にすれば意味を為さない。

 まるで呪いのようなその祈りは、淡く、儚く、溶けていった。

Re: お菓子 ( No.8 )
日時: 2018/03/30 16:01
名前: 流聖

 足音と衣擦ればかりが耳についた。
 誰も音は立ててはならぬとばかりに、口を開くものはなく、言葉を紡ぐ人もいない。
 ただ耳をそばだてるように、ただただ密やかな嗚咽を噛み締めるように。
 夜の静寂だけが広がっていた。
 この静寂は、一人の喪失を悼む黙祷であった。

 「カロスはどこだ。」
 「自室に居られます。」

 皆が黙祷している部屋とは別に、イディオフィイアはガム国の従者の一人にカロスの居場所を聞いた。
 カロスは黙祷をせず、部屋に籠っているらしい。

 「入るぞ。」

 カロスの自室まで来て、イディオフィイアはドアノブを回しながら言った。ダメといわれても入るつもりなので、あまり意味はないが。鍵は掛かっていなかった。

 部屋にはいると、窓から夕焼けの光が入り込み、中が見えた。

 一部だけ赤く染まったカーペット。その近くにカロスはうずくまっていた。

 「立て。」 

 返事はない。カロスは背中が上下に動いているので、呼吸をしていることがわかる。握られた拳は、強く、肌に血管が浮き上がるほど握られていることから、眠っている訳でもないようだ。

 「立て!ガム国皇帝、ガム国軍隊全統括主、カロス!」

 イディオフィイアは大声で怒鳴るが、またしても返事はない。

 「たかが一人死んだくらいでなに泣いてるんだ?」
 「っ…たかが一人だと!?お前にとっては一人だったのか!?数字だったのか!?例えそうだとしても、俺は違う!俺は…俺は…」

 カロスがいきなり立ち上がり、イディオフィイアの胸ぐらを掴んだ。

 「死を悼んだなら前を向け!我等は戦争をしているのだ!死者がでない戦争が在るわけがないだろう!我等は戦争を告げられた日から、その覚悟をしていたはずだ!忘れるな!その覚悟を!我等が戦争をしているということを!我等が歩む道は、血溜まりのなかの死体の上だということを!」

 「そんな覚悟…ない…」

 戦争の残酷さを、酷さを、身をもって二人は痛いほどに、知ったのだった。

 「愚かだな…失って初めて気付くなど…私も、お前も。」

* * * * * * *

 「真澄、何処だ此処は?」
 「うふふ、もうはずしてもいいですよ。」

 真澄に目隠しをされていたはちまきを取ると、そこは、教会だった。

 おそらくもう使われていないのだろう、所々崩れていた。

 聖母マリアとイエス・キリストを催したステンドグラス。大きな十字架。参拝者が座る席の間に通るレッドカーペット。

 するといきなり真澄は膝まずいた。

 「身をもって知りました。戦争の残酷さを。大切な人が、理不尽に、簡単に、己を置いていく事を。だから、お嬢様が生き、私が生きている内に、私は、誓いたいのです。」

 真澄はイディオフィイアの手をとり、熱っぽい視線を送る。

 「病めるときも、健やかなるときも、死が二人を分かつ時まで、未来永劫、お側に居ることを誓い、御身のために、己の皮肉骨髄、血潮の全てに至るまで捧げます。」

 そう言い、真澄はイディオフィイアの小さな手にキスを一つ落とした。

 「ならば私も誓おう。未来永劫、お前の主であり、何処までも何時までも、お前を下僕に居させてやる。」

 イディオフィイアは真澄の胸ぐらを掴み、己の方へと引き上げる。そして真澄の唇に口付けた。
 艶やかに微笑むその姿は、夕焼けに照らされ、美しく輝いていた。

 「私を置いていくくらいなら、私がお嬢様を置いていきますからね。」
 「……当然だ。」

*  *  *  *  *  *  *  

 「ザシュッ」

 血飛沫が上がり、床には血溜まりができていた。

 イディオフィイアと真澄はクッキー国の秘密資料保管所に来ていた。

 門番や立ちはだかる敵を殺し、進んでいく監視カメラは事前にハッカーに任せていた。。秘密資料保管所は当然ながら重厚なロックがされており、簡単には開けられる仕組みではない。

 「開けられるか?」
 「私をなめないでくださいよぉ。これくらいへっちゃらです!」

 真澄は意図も簡単に、扉を開けた。扉の先にも扉があり、その扉も易々と開けていく真澄。

 扉を少し開けると、かすかに冷気が出てきた。中は冷凍庫状態にあるらしく、寒い。扉を全て開けた先には驚きの光景が待っていた。

 そこにはアガペーが居た。真っ赤な炎のような血のような色の髪にくまができた目。

 しかし、それ以前にもっと衝撃の光景が広がっていた。

 それは死体。何千何万もの死体。死体を、保管していたのだ。柚もそのなかに入っていた。しかし、お菓子なので腐敗臭はしない。

 「どういうことだ!?」

 イディオフィイアと真澄はすぐさま銃を構える。先程は、発砲音をさけるため使わなかったので、玉は満タンだ。

 「驚いたよなぁ。こんな光景見せられちゃ。あ、カロスはうずくまっていた元気か?まあ、柚が居なくなって弱ったか。」
 「どういうことだアガペー。この死体はなんだ?」
 「これはなぁ、食料だよ。」
 「パンッ」

 いきなり真澄が銃を打った。玉はアガペーの心臓部に当たった。

 「うっ…」
 「いきなり何をする真澄!?」

 2対1なら脅して情報を手に入れられたはずだ。それがわからない真澄ではない。

 「さあ、帰りましょうお嬢様」
 「答えろ真澄ぃ!」

 もはや敵か味方かわからない。一瞬でも疑いがかかればもうもとには戻れない。

 『食料』

 果たして真実はどこに…

 

 
 

Re: お菓子 ( No.9 )
日時: 2018/04/09 20:57
名前: 流聖

 蝉の声。燦々と照らす太陽。生き生きとした若葉。川のせせらぎ。…これは…小さき頃の…

 「ふふふ、川のお水冷たくて気持ちいいね。」
 「うん。」

 子供二人分くらいの岩に座り、足を川に浸けているぼくと君。
 焦げ茶色の艶やかな、軽くウェーブのかかった髪と、真っ白な肌。ブラックチョコレートとホワイトチョコレートの間に生まれただけあって、君は二色だ。
 もうこうしてかれこれ30分くらいたっている気がする。
 皆には内緒で二人っきりで外に出た夏の日。いつもは外に出たいって言うと、溶けるから行けません!って言われるから、何も言わないで来ちゃった。
 でも君が全く溶けていないのは何でだろうね?

* * * * * * *

 かかる疑い。深まる疑問。消え行く真実。
 静かな一室で、イディオフィイアと真澄は視線をぶつけていた。

 「うっ…」
 「アガペー!」

 イディオフィイアは死んだかと思われたアガペーの声を聞き、駆け寄る。

 「だ、大丈夫かアガペー。待ってろ、今すぐに回復能力を…」
 「っ…何バカな事言ってんだよ。小さい頃からかわんねぇなお前は。俺は敵国の長だぞ…柚を殺したんだぞ…そいつを生かしてどうする。今が殺す絶好のチャンスじゃねぇか。」
 「バカはそっちだろう。いいんだ。きっと何か理由があったんだろう?どうしようもない理由がそれでいいんだ。仕方がなくやったんだろう?そうだろう?…いいんだ。戦争がいくら続いても。いいんだ。お前が生きているなら。いいんだ…なあ、お前は死んだことにしよう。だから遠くへ、ずっとずっと遠くへ逃げろ。例え死んだことになっているとしても、生きているならそれでいいんだ。いいじゃないか…」
 「…ほんっとバカだなぁ、お前は。」

 死の間際だと言うのに、二人はどこかうれしそうで、幸せそうで、微笑んでいた。それを真澄は、もう諦めたかのような眼差しで見つめていた。

 「…言おう。イディオフィイア。君は知るべきだ。いや、知ってもいい。友を殺した友を許せるんだ。きっとこれを知っても君は大丈夫だよ。…あのね、君は…『ニンゲン』なんだ。」
 「『ニンゲン』?」
 「そう、『ニンゲン』。『ニンゲン』は…」
 「ガチャっ」

 いきなりドアが開かれた。クッキー国のものが侵入を嗅ぎ付けたのだろう。大勢のクッキー国のものが駆けつけてきた。その中には優香もいた。いくらイディオフィイアや真澄でも、この大人数と相手では勝てない。このままではイディオフィイアと真澄は殺される。

 「なっ…アガペー様!…な、なんだこれは!」

 優香は状況にあたまが追い付いていけず、混乱している。

 「イディオフィイア、最後まで話せなくてごめん。続きは君の愚鈍で優秀で隠し事をしてきた執事に聞くんだ。彼は知っている。」

 するとアガペーはポケットからライターを出し、火をつけた。アガペーのぞ増幅能力で火はみるみる内に大きくなり、あっという間に部屋をを囲んだ。短時間でここまで増幅させられるのはアガペーぐらいだろう。

 「なっ…ひ、火を消せ!早く!」

 優香が指示を出し、部下たちは懸命にビール消そうとするが、全く効果はない。

 燃える業火の中、アガペーは言う。

 「この先、僕らよりずっと生きる君が、苦しみませんように。君と、君を囲む世界が幸せでありますように。…大丈夫だよ、イディオフィイア。大丈夫。さあ、お逃げ。早く。」
 
 イディオフィイアはこくりと頷き、真澄と部屋を出ていく。

 「…はぁ。じゃ、優香。逃げよっか。」

 アガペーは優香の手を掴み、走り出す。

 「へ?は?逃げる?どこに?」
 「ふふふ。遠くに。ずっと、ずっと遠くに、だよ。」

 最近、戦争が始まってからはより一層、笑顔を見せなくなったアガペーが笑っている。その姿がどうしようもなく嬉しくて、優香は思わず頷いてしまった。

 「…はい!」

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