複雑・ファジー小説

白百合と手記
日時: 2018/09/06 23:49
名前: K ◆FJjoZBA4mU

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         古びた日記帳。悪夢の記憶、或いは君との幸せの記録。
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Mon., 10 Sep. ( No.5 )
日時: 2018/09/10 23:04
名前: K ◆FJjoZBA4mU

 地下室の片付けは明日にしようと思う。……明日にもきっと、明日にと口にする或いは綴るのだろう。嗚呼、今宵はなんて夜なのだろう。雨音が騒がしく、とても眠れたものではない。天上に輝く月を思う事は出来ても、拝む事が出来やしない。あの輝きは今宵、私の前に姿を表してはくれないのだ。どうしたとしてもふと、君を思い出す。君は雨に濡れてやいないだろうか。家の中で暖かに過ごしているだろうか、と。心配になる、とは全く烏滸がましい事としれども、ただただ君が幸せに、幸福に生きているのか、苦しみはその心にないのかが不安で、不安で仕方がない。叶うならば、君が幸せに其処に居て、共に私も居るならば……と、今日もまた、他愛なく、不躾で、不埒な妄想に耽るばかりであった。あの柔らかな金の色が、世のどの宝石よりも美しく煌めき、澄んだ水の色が、いつまでも鮮明に焼き付いている。その月明かりを吸い込んだ様な、星で出来ているかのような金糸を指にとってそっと編み込む夢を見ていたい。触れる度に弾ける煌めきはきっと、私の瞳の中に飛び込んでいつまでも続く煌めきの花火を見せてくれるのだろう。

 ……好きな少女がいるのだと友人に打ち明けようか、悩んでいる。恐らく私の感情は、世間一般に忌避されるべきものなのだろう。あの子の名も、私は知らない。けれどもきっと美しい名なのだろう。どの様な名であれ、君が授かった名であるならば、私にとっては美しい、神聖なものに相違ない。……けれどももしも、もしも叶うならば……私が君に名をあげよう。私が君のために考え、悩み、選び取った名を、その花唇で紡いで欲しい。きっと、蜜のようにとろりと甘い声音が私の鼓膜を揺さぶるのだろう。思うほどに、胸は高鳴る。感情の昂ぶりとは各も恐ろしいもので、今この瞬間の私を切り取って、罰として張り出してやりたいくらいだ。
 恋文、というものをふと考えたが……見ず知らずの人間からそんなものをもらったとしても、君を怯えさせるだけなのだろう。君と共に暮らす夢を見ていると、清らかな君を守りたいと……一方的な感情の押し付けに相違あるまい。一目惚れというのはひどく暴力的であり、純粋であるからこそ質が悪い。私は今幸福であるが、この思いを伝えられる君を思えば……如何に恐ろしいものであるか、想像するに易い程だ。

 ああ、けれど……けれども君はきっと歌うのだろう。夜色に塗りつぶされた空に張り付く星と、其の中でもひときわに輝く月と、私の目だけが君を見る中で。私の紡ぐ愛を、愛として受け止めて、優しい笑みとともにその花唇から蜜の言葉を紡ぎ、歌ってくれるのだろう。あくまでも、私の空想と想像、妄想のなかでならば。君の好きなものはなんだろうとただぼんやりと考えている。……君の好きなものならば、私もきっと好きになる、当たり前だ。そういう風に“私の世界”は出来ている。

Tue., 11 Sep. ( No.6 )
日時: 2018/09/11 22:57
名前: K ◆FJjoZBA4mU

 私の世界には、君以外要らないのだろうか……等とふと考えてしまう。日増しに、私の心を支配する黒は面積を増していく。君は今日、何をしているのだろう、誰と何を話して、誰と過ごして……誰と時を共有し、誰の瞳を見つめているのだろう。清らかな君は世の穢れから隔絶されるべきであると私は思ってしまう、願ってしまう。共に飛び立つ事は叶わない。ならばせめて、君の美しさを、純潔を、純白を、私に護らせてはくれないだろうか。寂しいばかりの感情が、夕闇の色に染まる様な感情が、私の心を埋め尽くす。……果たして“心”というものは何処にあるのだろう。この胸の内であろうか、それとも脳髄の奥であろうか。……いっそ其の全てを壊しつくして、何も考えず、ただ敷かれたレールの上を、定められた社会規範に則って歩むだけの肉塊になれたならば幸せなのだろうか。何も思考せず、ただ世界を享受し、君に思いを馳せず、ただ世間一般からみた“普通・平穏”を過ごす事こそが、幸いなのだろうか。……否、そうではない、それではまったく造花ばかりの花園と、世界は相違なくなってしまう。月明かりに焦がれず、天上に張り付き輝く星を知らず、夜の帳が下りきった中を死者の様に虚ろな瞳で徘徊するなど、何が幸いであろうか。されど、私の内に燻るこの感情は、私が平穏なる生活を望むというのに、存在を大きく、主張を声高らかに述べるばかりなのだ。おぞましい、おぞましい……悍ましい。月女神に狂わされたのならば嗚呼、どうか、存在を許容せぬ神よ、今ばかりは、私を救い給え!
 ……永遠を望みたい、永久は何処にあるのだろう。天上か、或いは地下深くか。……君と共にただ永久を過ごしたい。なにもない夢の跡地で、されど君への恋心を純愛と認めて、ただふたりだけで暮らしたい。白い部屋がいい、真白く、美しい部屋で、二人。……光は君で、私は自ら輝かずともかまわない、ただ君の光を見ていたい。この心を押し留めて、ただ二人、永久を共に。この思いこそが真実ならば、君の白い指をそっと撫でて、叶うならば喰んでしまいたい。

 変わらず、私は何を綴っているのだろう。自らのことであるというのにまるで、己の事では無いような気さえしてしまう。いい加減に地下室を掃除する準備をしなくてはなるまい。今日も結局鍵に手を付けてすらいない。柔らかな夢に溺れて、珈琲を飲んでいただけだ。無意味な思索はやめなくては、けれど最早、私の中から君の存在を差し引いてしまえば何一つ残らない様な気がしている。きっと本当に、そうなってしまうのだろう。私の内に巣食うものはきっと永遠に消えることはなく、燻り続け、君を思う糧になるのだろう。……嗚呼、明日の茶菓子は何にしようか。考えながら今日はもう、眠ろう。月も私を見放した、明日はどうか、良き日に。

Wed., 12 Sep. ( No.7 )
日時: 2018/09/12 23:34
名前: K ◆FJjoZBA4mU

 どうにかこうにか、地下室の掃除を始めた。……処分しなくてはとわかっていても処分し難い物がどうにも多くて困ってしまう。恐らくは父のものであろう古い時計であったり、母が何時かに買ったのであろう絵であったり、なぜこの家に置いておくのだかわからないものも少なくはない。……或いは、此処へ来た折に私が持っていってもいいかと尋ねたものもあるのかもしれないが。其の中にも花を模したブローチがあったものだから、ついつい上へと持ってきてしまった。君に似合う気がした、というのがどうせ理由なのだろう。反射的に持ってきてしまったが、あれを手にとった瞬間の私はきっとそう考えたに違いない。なにせ、今も私はそんな事を考えながらこの文字を綴っているのだから。君は、花のような人だ。嫋やかで、外へだせばあっという間に枯れてしまいそうな、清らかな花だ。温室の中で大切に、大切に育てなくてはいけない、そんな花をどうしたって思い起こす人だ。このブローチは、何の花を模しているのだろう。一見するとよくわからないが……母ならば知っているだろうか。或いは、祖母のものなのだろうか……気にはなる。今ならまだ実家に尋ねる事もできるだろうから、明日にでも手紙を出してみよう。
 地下室を掃除し始めて思うのは、やはりこの家に私一人というのはどうにも、家に食われてしまいそうで恐ろしいと言うことだ。父のはからいではあるし、いまさら実家へ帰る気も無いのだが……いささか広すぎる気がする。いい加減に友人に誘いをかけるべきだろうか、家で茶会でも……と呼べる友人は少ないが一応は居るのだし。…………ただ、どうにも、誘いをかけて迷惑ではないかという其の一点ばかりが気になってしまう。気にする前に手紙でも送ってしまえばいいのだろうが……難しい。友人と言葉を交わせば、この心の内にある黒点から目をそらしていられる気がする。気の所為であるとしても、思い込むことにする。

 片付けた後の部屋のレイアウトは大凡考えてある。先日日記に綴った通りで構わないだろう。好き勝手、自分の思う部屋にしてやろう。白で塗りつぶせばきっと君に似合いの……否、私の心を照らす明るい部屋になってくれる。さて、美醜とは何を以て判断するべきか、という思索の旅へと向かうことにしよう。そうしてそのまま眠ってしまえば丁度いい。……月明かりも朧で、薄らとしている夜ならば、きっと冷静でいられると信じている。……以降満ちていく月を思おう。日増しに大きくなる其れを見上げて、明日には涙しよう。恐らくは、それが最も私の無聊を慰めてくれる。真の慰めが何たるかなど、私が最も理解しているがそれはきっと、許されぬ悪である故に。

Thu., 13 Sep. ( No.8 )
日時: 2018/09/13 23:21
名前: K ◆FJjoZBA4mU

 片付けの息抜きにと、いつもの喫茶店へと向かった。変わらず落ち着く店内から、今日もまた君を見つけられたのは最早運命と呼ぶほか無いのだろう。キルシュトルテと紅茶の組み合わせは久々に試すとなかなかに良いものであったし、君のかんばせが柔らかに艶めき、煌めく瞬間を見ることが出来たのは幸いと呼ぶ他にない。……嗚呼、けれど、あの男は誰なのだろう。やけに楽しげに語らっていたが……否、詮索はやめよう。穏やかで、優しそうな人であったから、きっと君には似合いの相手で、私などよりもずっと、ずっと君に相応しい相手なのだろう。私は断じて、君を脳内で穢した事はない。触れたとしても優しく、慈しむために相違ない。……胸の高鳴りが抑えきれぬ事実ばかりは、否定はできない。君を見つめるだけでこの心が高鳴り、乱されるのは偽りようがない事実である。されど、君をこの手で穢したいなどと思ったことはない。一度たりとも。或いは、清らかなる君のために私が動くということが既に穢らわしいとしても、だ。
 しかし、一人の男の存在などで私の心が乱されるというのも愚かしい話だ。私は君に触れられない、君は私を知りもしない、楽しげに語らう男のことも何一つ知りはしない。其の耳元で愛を囁く事も、蠱惑的な瞳を真っ直ぐに見つめる事も。其の手を引いて北へと走る事も出来はしないというのに。柔らかな日差しを浴びて、眩しそうに双眸を細める君を、その日差しから守る事も出来やしない。月明かりの糸で君を絡め取って、連れ去れるならば、私の心も休まるのだろうか。あのほほ笑みを、私に向けてくれたら、等と何度妄想しただろう。思えば、もう一週間である。悍ましい感情を書き溜めて、すっかりこの日記も何処か薄暗い、宵闇の色を帯びて来たように思えてしまう。……鍵でも掛けようか。そうして地下室に置いておくのも悪くはない。誰の目にも触れなければ、何時か私の中だけで燻り、消えゆく感情なのだろう。……死する時はきっと、この感情の終わりであると信じたい。渇望は永久にはならず、この瞬間ばかりを埋めていく。埋め尽くしていく。……そうであってほしいものだ。ひどい飢餓感は恐らく、一時のものであろう。どうせいつか飽きるのだ、いつだってそう言うのもだろう。そういうものだ。そういうものでなくてはならない。私がまだ冷静に、私を見つめられる内に、この燃え盛る様な、否、凍えるような感情をどうにかこうにか消しされたら良い。消しされずとも誰もが抱く“普通”にならなくては……。まだ誰にもバレてはいない、まだ誰も私の渇望を、愚考を、穢れを知りはしないのだから。嗚呼、しかし、普通とは何なのだろう。誰もに認められる普通とは……少なくとも、名も知らぬ君に想いを寄せ、こんな文章を残す私の様な存在は普通では無いのだろうということだけはわかる。……私の世界では普通でありたい、せめても、私の世界に置いて、私は社会適合者でありたかった。

 ……思索を無駄とは思わないが、永遠に続いてしまうのも良くないのだろう。明日は……いい加減捨てるものを選ばなくてはいけないだろう。このままでは地下室の荷物はきっと棚に収まりきらない。……やはり地下は倉庫のままがいいのだろうか……難しいものだ。

Fri., 14 Sep. ( No.9 )
日時: 2018/09/14 23:41
名前: K ◆FJjoZBA4mU

 ……今日は嫌に気分が悪い。昨日の君の笑顔と、其の隣の男を思い出すたびに胸が痛み、苦しみが増していく。こんな事ならばいっそ、思考など排した人形になってしまった方が良いのではないかと思うほどだ。苦しみとは、かくも痛みを伴うもので其の痛みは、私の胸に深く突き刺さりえぐり続ける毒の牙の様ですらある。仮令牙を抜いたのだとしても、私の胸には毒が残り、延々とこの胸を傷つけ続けるのだろう。貴様の形をした恐怖は、常に私の背後に迫り、この首を刈り取る瞬間を今か今かと待ち続けているのだろう。悍ましい、恐ろしい……怖い。怖くてたまらない。其の鎌の切っ先は、すでに私の背を切り裂きかけているのだろう。ならば私は、どうしたらいいのかと考えるが……凄惨な方法ばかりが浮かぶのはどうしたって、恐怖の形が貴様であり、私が醜い緑の目をした何かを心に飼ってしまったからなのだろう。忘れたい、忘れられない……君のあの月女神の如き美しい笑みは、私の心に深く突き刺さっている。毒のようで、けれども毒にあらず。美しい輝きを私の胸に突き刺し、貫いている。恐怖とは、嘆きとは、或いは……否、思索は沼にほかなるまい。君が関わる事象ともなるとどうしても、思考は延々と続いてしまう。苦しい……しかし、君を想う瞬間の甘美な痛みは、どう足掻こうとも忘れられない喜びである。
 ……明日にはまた、あの喫茶店へ行こう。甘いものが食べたい。紅茶と甘味を楽しんで、次は君との幸いを夢見よう。夢見るだけならば許される。きっと、きっとだ。夢見る自由すら奪われたならば、私はきっと狂うのだろう。……嗚呼、真に狂ってしまえば楽なのかも知れない、と思うのは恐らく疲れているからだ……そうだ、そうでなくては。そうでなくてはいけない。狂えば、父に、母に……兄に、祖父に申し訳ないとは思うが、心の内にこの欲望を、悪しき欲を飼い続けるよりはマシな気がするのだ。狂っている、というレッテルによって私も身内もある種、救われるのではないだろうか。狂っているから仕方がない、気狂いであるのだからどうしようもない……そう思われるならばいっそ、楽なのではあるまいか。嗚呼、悍ましい思考ばかりが、私の脳にこびりついている。実行するわけにはいかない、出来っこない……そう思うのに、私は、君を。……君を、嗚呼、どうしたいのだろう。否、否、こうしたいという欲はある。あるのだが……それを実行してはならないと私の理性的な部分は囁きかけてくる。同居している本能は、望む侭に君の手を引けと嘲笑っているというのに。……駄目だ、今日はどうにも、良くない日だ。……稀にあるが、嗚呼、やはり、気分がいいものではない。もう眠ろう、月すら眠る夜ならば、私が眠るのは定めであるとして。

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