複雑・ファジー小説

傘をさせない僕たちは
日時: 2018/05/30 21:51
名前: えびてん

はじめまして!
えびてんと申します!
ちょっとわかりづらいお話だと思うのですが、是非読んで頂ければと思います!



【 登場人物 】

@浅倉航平(あさくら こうへい) 25
→化学教師。
@水原茉里(みずはら まり) 24
→国語教師。
@武田夏樹(たけだ なつき) 17
→高校2年生。
@佐伯まな(さえき まな) 16
→高校2年生。
@瀬乃健人(せの けんと) 16
→高校2年生。
@西原恵(にしはら めぐみ) 17
→高校2年生。

@武田紗綾(たけだ さや) 24
→建築会社社員。
@井岡 瞬(いおか しゅん) 23
→建築会社社員。
@小宮山 剛
→建築会社社員。
@小宮山綾子
→小宮山の妻。

@柳木 蓮(やなぎ れん) 22
→大学生。
@宇野美琴(うの みこと)25
→ピアノ科教師。

@浅倉結以(あさくら ゆい) 18
→航平の妹。
@藤井心春(ふじい こはる) 24
→カフェ店員。
@坂口椋(さかぐち りょう) 26
→画家。

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Re: 傘をさせない僕たちは ( No.16 )
日時: 2018/08/20 21:12
名前: えびてん

#15 【 触れちゃいけないところ 】


「浅倉先生?どうかしました?」


しまった。
心春のメッセージに夢中になりすぎて完全に水原茉里の存在を忘れていた。
自分から誘っておいてなんて失礼なことを。


「ああっいえ!何も!さ、行きましょ!」


航平はそう言って携帯をポケットに仕舞い歩き出した。







店で昼食を摂りながら、まずは本題。


「武田夏樹くんのことです」


水原茉里が話を始めた。

ああ、そのことか。


「浅倉先生が建て替えるのは構いませんが、夏樹くんが望んでのことなんですか?かえって気を遣わせちゃうんじゃないかなって」


仕事の話は本当にズバズバ言う人だ。

水原茉里に言われ、航平は「…でも夏樹だってバスケがしたいと思います」と答える。


「もちろん、夏樹くんはメンバーの中でも1番といっていいほど上手ですし、合宿も行きたいと思います。けど、浅倉先生に気を遣われるのは嫌だと思うんです」


わからない。
夏樹はいつも笑顔でしかいないもんだから、何を考えてるのかなんて。
本当は誰よりも苦しいはずだ。


「前もあったじゃないですか。部活費用の件で夏樹くんが浅倉先生に気を遣うなって言ったこと」


水原茉里は淡々と言った。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ったく何度寝込めば気が済むんだよバカ」


夏樹はそう言いながらスポーツ飲料とゼリーを持ってきた。

紗綾はベッドで寝込みながら「ごめ〜ん」と夏樹に叫ぶ。


「俺は姉ちゃんの家政婦かよ。茉里ちゃんに迷惑かけんなよなー」


夏樹は言いながらベッドの脇にある椅子に腰を下ろした。


「本当申し訳ない…」紗綾はガクンとなる。


「茉里、なんか言ってた?」


紗綾が言うと、夏樹はため息をついてから答えた。


「まさか。むしろ紗綾大丈夫?って心配してるよ。ただの二日酔いから風邪引くとはね。茉里ちゃんは本当天使だな。こんなクソみたいな姉ちゃんと仲良くしてくれるなんて」

「うるさいなあ…!てかあんた、茉里ちゃんじゃなくて水原先生でしょーが」

「茉里ちゃんは茉里ちゃんなんだよ。はあ、茉里ちゃんに彼氏がいなかったらなあ〜」

夏樹の言葉に、紗綾は「え」と呟いた。
夏樹も「え」と紗綾を見る。

「え、なに」と夏樹。

「いや別に」と紗綾。

「いや嘘つけ」

「あ、いや、その、なんで茉里に彼氏がいるって…?」


あの金髪、彼氏ってことになってるのかな?


「なんでって、茉里ちゃん男と歩いてるのよく見かけるらしいし。俺は見たことねえけどさ」


「そうなんだ」


「そうなんだって、姉ちゃん友達なのに知らないの?」


「いやっ知ってるよ、そりゃ……て!茉里のことより夏樹はどうなのよ」


紗綾が話題を逸らすと、夏樹は途端に「は?!」と取り乱す。

こりゃなんかあったな。


「なんで俺の話になるんだよっ!」

「だってあんた最近彼女連れてこないからとうとうモテなくなったのかなって。それとも元カノたちにストライキでも起こされた?」

紗綾は不思議そうに言う。
夏樹は「なんでだよ、ちげえよ」と呆れた顔をする。









「あ、じゃあまなちゃんにとうとう彼氏ができたとか?」






紗綾がそう言うと、夏樹は凍りついたかのように真顔になった。

紗綾は「えっうっそ!まじ?」と驚いた表情で夏樹を見上げた。

「うっせー!今デリケートなとこなんだよ!しね!」

夏樹はそういうと立ち上がり、ムッとした表情で部屋を出ていった。



あちゃー。
うかうかしてたら誰かに取られたパターンかな?
てか、健人くんかな。

夏樹はよくまなちゃんと健人くんを家に連れてきていた。
他に連れてきた子と言えば今となっては元カノたちとか。

我が弟ながら可愛いもんだ。
なんやかんやで夏樹は何年も前からまなちゃんが好きだったからなあ。

さっさとアプローチすれば良かったのに。
1番近くにいたのは夏樹だったのに。


って、あたしも人のこと言える立場じゃないか。



と、その時携帯が鳴った。



『さや先輩!風邪って聞きましたけど大丈夫ですか?!』






井岡くんからだった。





Re: 傘をさせない僕たちは ( No.17 )
日時: 2018/08/27 16:42
名前: えびてん


#16【 素直 】




「ねえ夏樹くん!」


その日の放課後は騒々しかった。
廊下からそう呼ぶのは西原恵。

夏樹は「…どうしたの?」と恵を見る。

恵は笑顔で「今日一緒に帰ってもいいかな?」と夏樹を見上げた。


断るわけにもいかないし、かと言って2人きりとなると気まずい。


「あ、その、いいけどーーーーー」


夏樹がそこまで言うと、恵は嬉しそうに「ほんとに!?」と目を輝かせた。



断りづらい。



「…いいよ」


夏樹はそう言って少し微笑んだ。
恵は「やったあ嬉しいな!じゃあ掃除が終わったら教室に来るね!」と笑顔で答えた。


「いいよ、俺が西原さんの教室に行くから待ってて」

「ほんとに!?嬉しい〜じゃあ待ってるね!」

恵はそう言うと楽しそうに自分の教室に戻って行った。


はあ、なんかドッと疲れる。
嫌なわけじゃないけど…。


夏樹はそう思いながら窓際で健人と話すまなを見た。
まなは笑顔で健人と話している。



……いや、今日は西原さんと帰るんだ。
二人きりにしてやろう。


「夏樹ぃぃい!お前ばっかりずるい…」


高橋だった。

「なにがだよ」

「なんでお前ばっかり西原さんに気に入られてんだよ…夏樹なんか去年彼女作りまくって一時期女子に悪口言われてたくせに…」

高橋はそう言いながら肩を落とす。

「人聞きの悪い言い方すんな。たまたまその子が俺のこと恨んで愚痴ってただけだろ。西原さんも気まぐれだよ」

「西原さんみたいな子が気まぐれで男に猛アピールするかよ…」


そうかな。
西原さんの意図が分からない。

確かにみんなが美少女と言うだけあって顔がめちゃくちゃ可愛いのは事実。それは認める。
だって可愛いもん。

前の俺なら速攻手を出して付き合っていたことであろう。

でも今は…


夏樹は思いながらもう一度まなを見た。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

掃除が終わり西原恵のクラスに行くと、恵は友達と楽しそうに話していた。

笑顔が可愛い。
なんて、思っちゃう。

なのに、さっき健人と笑い合っていたまなの笑顔をふと思い出す。

すると、恵がこちらに気づく。

恵は話していた女子に手を振るとカバンを手に、夏樹の元まで小走りでやってきた。


「夏樹くんが迎えにきてくれてるなんて夢見たい〜!」


恵はそう言って微笑んだ。
男子の視線が痛いが気にしない気にしない...。


「..なんだそれ、素直すぎてはずいわ」


夏樹はそういうと振り返り、歩き出す。
恵は「素直が1番だよ」と言いながら夏樹の隣を歩く。


はあ、まなにどう思われてるのかな。
って、俺が西原さんと歩いてるところなんか見てもいないか。
どうでもいいことだよな。
気にしてるのは俺だけ。


とか、わかってるのにまなに遭遇しなきゃいいななんて思ってしまう。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「あれ、夏樹は?」


掃除を終えた健人が来た。
言われたまなは「ああ、なっちゃんは今日デートだって〜」と微笑んだ。


「デート?また彼女できたの?」


健人は不思議そうに言う。
まなは「ううん、めぐみんだって」と窓の外を指さした。

グラウンドにはたまたま歩いていた夏樹と恵がいた。


「いいよね、なっちゃん。そろそろ付き合うのかなあ」


まなは歩く二人を見て微笑みながら呟いた。


「寂しいの?」と健人。

「うーん、でもめぐみんみたいないい子そうな感じの子と付き合ったら嬉しいな」

「あいつ、性格悪い女とばっかり付き合うもんな」

健人もそう言って微笑んだ。

「本当だよね」

まなが笑うと、健人はカバンを手に「じゃあ俺らも帰るか」とまなを見た。

まなは少し驚いた表情で「え、うん」と呟く。

「...どうした?」

健人は不思議そうにまなを見る。


「ううん!何でもない!帰ろ!」


言いながら、2人は教室を後にした。



けんちゃんと2人で帰るなんて、初めて。

ドキドキする。
わたしたちはデートじゃないのにね。


Re: 傘をさせない僕たちは ( No.18 )
日時: 2018/09/09 03:08
名前: えびてん



#17【 病気? 】


『さや先輩!風邪って聞きましたけど大丈夫ですか?!』

井岡くんは本当にかわいい後輩だ。
あたしがたった1日休んだだけでこうしてラインをくれる。

『大丈夫だよ。ありがと』

あたしの返信は本当につまらない。

『なら良かったです(^Д^)』

こんなダサい顔文字を使ってくる所も可愛い。
井岡くんの笑顔は例えるなら尻尾を振って近づいてくる小型犬。

って言ってももちろん井岡くんの方が背は大きいし、声も低い。
でもまるで小型犬みたいな可愛らしい顔立ち。


こんなとき、あの人は連絡なんかくれない。

わかってる。
あたしのことなんか心配になるわけがないし、休んだことすら知らないかも知れない。

隣の部署なのにな。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「小宮山部長、この書類なんですか?デスクに置いてありましたけど。小宮山部長の名前も記載されてます」


瞬はそう言って小宮山に書類を見せた。
小宮山は無表情のまま「ああ」と言うと、パソコンに目を戻して言った。


「多分それ武田宛のファックス。武田に渡して」


言われ、瞬は「ああ、武田先輩は今日休みですよ。風邪引いちゃったみたいで」と答えた。

小宮山はキーボードを叩く指を止めることなく「じゃデスクに置いとけ。あとそれを武田に伝えといて」と淡々と告げた。


「分かりました。でもこの小宮山部長の名前は?」


「俺が発注して武田に依頼したから」


「ああ、そうなんすね。了解です」


瞬はそういうと自分の部署へと足を進めた。


「井岡」


言われ、瞬は「はい」と振り返った。
小宮山はどこか言いづらそうにしながら言った。


「...それ、やっぱり武田に言わなくていい。井岡が進めてくれ」


「え、でも俺この件なにもーーーーーー」


瞬の言葉を遮るように「休んだやつに任せられない」とだけ言うと小宮山は立ち上がり、オフィスを後にした。

瞬は首を傾げると、携帯を開いた。


『先輩宛の書類、届いてたんでデスクに置いておきますね〜』


メッセージを送った。
小宮山部長には言わなくていいと言われたけど。
こういうことはちゃんと伝えておかなきゃ。

なんて、ただの口実なんだけどね。
ただメッセージのやりとりをしたいだけ。

紗綾先輩大丈夫かなー。
お見舞いにでも行きたいところだけどさすがにうざいよなあ。
1人暮らしの女性の家に行くとか許されるのは大学生までだよなあ。


でもーーーーーー。









会いたいな。








『了解です!井岡くんありがと〜(・ω・)』


すぐにメッセージが返ってきた。
こういうわけのわからない顔文字を送ってくるところも何か惹かれる。
俺って変わってるのかも。


『携帯いじりすぎですよ笑』


瞬が返すと、またすぐに返信がきた。


『具合は悪くてもひまなの。』


『ちゃんと寝てください。笑』


『午前中に寝すぎて、てか今起きたし』


時間は17時過ぎ。


『逆に寝すぎですね。笑』


『寝ろって言ったくせに』


『じゃあ起きてください』


『起きてる!1人でひまなの!』


『俺が行ってあげましょうか?笑』


『またそうやってからかって。』


『からかってません(笑)さや先輩が心配なんで』


『絶対うそ笑』


こんな何気ない日常会話もやりとりができるだけで嬉しくなる。




こりゃ重症だな、俺。

Re: 傘をさせない僕たちは ( No.19 )
日時: 2018/09/12 22:12
名前: えびてん


#18 【 何かのきっかけで 】


浮気をするのは、今いる恋人のことを必ずしも好きじゃなくなったわけではない。

冷めたわけじゃない。

大切に思っていないからじゃない。


むしろその逆だ。
大切に思っていたらそんなことできないだろって、普通はそう思うだろ。

でも違う。

俺自身、自分が他の人に目がいくだなんて思ってはなかった。

浮気をする人間などろくな人間じゃない、とか別れてからやるべきだ、とか、真っ当な意見を持っていた。

もちろんその気持ちがなくなったわけではないし、否定するつもりもない。

でもいざそうなってみたら人間わからないものだ。

その場の感情にはどうしても勝てない。

新鮮な気持ちにはどうしても勝てないんだ。

だからといって浮気を肯定する気はさらさらない。
開き直っていると言えばそうだが、そうとしか言いようがない。




『今日は何時に帰ってくるの?』



妻からだった。



『はやめに帰るようにするよ』


『わかった!まってるね〜』


心が痛い?
それは最初だけだったかな。

綾子に気づかれることなんてきっとない。
この先ずっと。

綾子は俺のことを信じている。
信じきっている。

ばれることなんてない。
きっと。




『小宮山部長、やっぱり紗綾先輩に伝えておきました。』


メールがきた。
隣の部署の井岡からだ。

言わなくていいと言ったのにこいつは本当に余計なことをして余計な報告をしてくる。

ま、どうでもいいか。






剛は1人、深く溜息をつくと携帯をポケットにしまい、タバコを手にした。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「...すごい、あたしこんなとこ初めて来た。お兄にばれたら怒られそうだよ」


クラブだった。
暗めの雰囲気で音楽が鳴り響き、若者がたくさんいる。


「出た結以のお兄ちゃん〜。クラブって言ってもいかがわしいことなんてないから超楽しいよ」


花苗はそう言って微笑んだ。
結以は「でもめっちゃ楽しい」と笑顔で花苗を見た。


「でしょ?...ちょっとあれ!T大の人たちだよ」


花苗はバーのブースに座る男たち3人を見た。


「T大?ふうん...ちょっとかっこいいかも」


「かっこいいよね〜。なんかキラキラして...あ、やばい目合っちゃった変なやつだと思われたかな」


花苗はそう言って結以の方を見る。
すると、男たち3人組はこっちに歩いてきた。


「ちょ、やばい、向かってくるよ、かっこいいどうしよ結以!」


花苗はそう言いながら結以の肩を叩く。
結以は首を傾げながら彼らを見る。



「今俺らのこと見てたでしょ」


真ん中にいた男が冗談を言うように言った。


「ああ...T大の人かなって思って〜...」と花苗。


「知ってるの?俺たちのこと」


「まあ、イケメンって有名なんで」


「ふうん、悪い気はしないけどさっ」


彼らはそう言って微笑んだ。







「俺たちと遊ぼうよ」





あれ、もしかしてこれやばい?

Re: 傘をさせない僕たちは ( No.20 )
日時: 2018/11/09 23:10
名前: えびてん



#19【 取り返しがつかない 】



その後のことはよく覚えてない。
5人でカラオケに行って、花苗と真ん中にいた彼、森田くん...だったかな。

森田くんと一緒に先に帰って行った。
もう1人の男の子は、バイトだからと帰って行った。

そして今、あたしはもう1人の男の子といる。
お酒を飲みすぎたせいか、意識がぼんやりとしている。


「結以、大丈夫?」


彼、直登くんはそう言いながらあたしを見た。


「...ああ、うん、大丈夫」

「家どっち?」

「ああいや!本当に大丈夫!1人で帰れるから!」


男の子の2人で朝帰りなんか見られたら怒られちゃう。


「やだ、送らせて。近くまででいいから」


直登はそう言って結以の前にしゃがみこんだ。
結以は「へ?」と直登を見る。


「乗って。フラフラしてるし」

「いっいや大丈夫だよ!あたし重いし!」

「いいからほら」


直登はそう言うと無理やり結以の腕を引っ張る。
結以はよろけて直登によりかかる。


「ちょっほんとに大丈夫だってば!」


おぶられながら、結以は恥ずかしそうに言った。
直登は無視して歩き続ける。

その時、結以の携帯が鳴った。


『廣瀬陽介』から着信だった。


結以は画面を見るとそのまま携帯をポケットにしまった。


「出なくていいの?」と直登。

「うん、いいの...ねえ、直登くんってどこに住んでるの?」

「え、俺?俺はここから10分くらいのところかな」

「ふうん...あたし、直登くんち行きたい」

「なに、酔っ払ってんの?」

「うん、酔っ払ってる。だめ?」

「いいけど何するか分かんないよ」

「いいよ。だから行かせて」





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



直登の家はわりと広めのアパートだった。
清潔感があって、L字の黒いソファが置いてある。

奥の部屋にはベッドがあって、布団も綺麗に畳まれている。


「...潔癖なの?」


辺りを見渡し、結以はベッドに腰を下ろして言った。


「別に。ただ汚いのが嫌なだけ」


直登はそう言いながら携帯と財布をテーブルに置き、腕時計を外す。

直登は寝室にある姿見の前に立ち、シルバーリングのピアスを外し始める。

結以は「えー、それ外しちゃうの?」と鏡を見る。

「外すよ。今日疲れたし」

「あたしそれ結構すき。直登くんってかっこいいよね」

結以がそう言うと直登は振り返り、結以の頬に手を当てた。




やばい。
いや、わかってた。

わかってたっていうか、仕向けたみたいなもんだし。

それでもいいと思った。
覚悟もないのに1人でノコノコ初対面の男の家になんか来ない。





直登はそのまま結以に唇を重ねた。


分かってたとはいえ、ドキドキする。



「...言ったじゃん、なにするか分かんないよって」




そんなセリフ、きっと言うと思ってた。


だけど心臓が飛び出しそうなくらいドキドキする。




いけないことだってわかってるのに。
自分で撒いた種なのに。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


結以が下着を身につけていると、ベッドから直登が言った。


「結以」


言われ、結以は微笑み、再びベッドに入ると直登に抱きついて答えた。


「なに?」


結以の言葉に、返ってきた直登の言葉は意外なものだった。

















「...彼氏、いるんでしょ」















結以の表情から微笑みが消えた。
代わりに物凄い鳥肌が立った。


「...え、な、なんで?」


言葉を失った。
結以は目を泳がせながら言う。

直登は髪の毛を掻き毟ってから冷静に言った。


「胸元。キスマークあったから。それとも俺みたいな関係の男がいるとか?」


...この人、怒ってるの?




「...あ、あの、ご、ごめんなさい」



そんなことしか言えなかった。


「いや、別に怒ってないよ。それ気づいても続けた俺が悪いからさ。ただどういうつもりかだけ聞かせて。その首のキスマークは?」


どういうつもり?
そんなの...。


「こ、これは...」



結以は首を触りながら言った。












「...彼氏のです」













言った瞬間、直登は「そっか」とだけ言うと携帯を出した。


「...なにするの?」と結以。

「お互い連絡先消そ」

「えっ」

「...ごめん、こんなことしといて都合良すぎか」

「あっいや、そうじゃないけど...これで終わりなの?」

「終わりって?」

「もう、会えないの?」


結以が言うと、直登は少しは困ったような顔をした。


「...ごめん、困らせて」

結以が俯く。

「いや違う、その...どういう関係?俺たち」

直登に言われ、結以は一瞬で言葉が出てきた。

「...セフレ...に、なっちゃうか。あはは...」

「...なんで?結以は何でこんなことするの?彼氏に不満でもあるの?」




もちろん、不満なんて軽いもんじゃないよ。
たすけて、たすけて。




なんて、初対面のこの人に言えるはずがなかった。

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