複雑・ファジー小説

傘をさせない僕たちは
日時: 2019/10/30 13:29
名前: えびてん (ID: mkDNkcIb)

はじめまして!
えびてんと申します!
私の身近な人と身近な人は実は知り合いで、世間は狭いなあと感じることが多くてこのお話を書こうと思いました(*゚-゚)
主にそれぞれの恋のお話です( ´ ` )
ちょっとわかりづらいお話だと思うのですが、是非読んで頂けたら嬉しいです!

【 登場人物 】

@浅倉航平(あさくら こうへい) 25
→化学教師。
@水原茉里(みずはら まり) 24
→国語教師。
@武田夏樹(たけだ なつき) 17
→高校2年生。
@佐伯まな(さえき まな) 16
→高校2年生。
@瀬乃健人(せの けんと) 16
→高校2年生。
@西原恵(にしはら めぐみ) 17
→高校2年生。

@武田紗綾(たけだ さや) 24
→建築会社社員。
@井岡 瞬(いおか しゅん) 23
→建築会社社員。
@小宮山 剛(こみやま つよし) 42
→建築会社社員。
@小宮山綾子(こみやま あやこ) 39
→小宮山の妻。

@柳木 蓮(やなぎ れん) 22
→大学生。
@宇野美琴(うの みこと)25
→ピアノ科教師。

@浅倉結以(あさくら ゆい) 18
→航平の妹。
@相原直登(あいはら なおと) 19
→結以の友達(?)
@日向希穂(ひなた きほ) 19
→直登の大学のクラスメイト。

@藤井心春(ふじい こはる) 22
→カフェ店員。
@坂口椋(さかぐち りょう) 26
→画家。

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Re: 傘をさせない僕たちは ( No.65 )
日時: 2020/03/16 18:22
名前: えびてん (ID: Rzqqc.Qm)





#63 【 愛して 】



みんな、あたしに夢中だった。

周りから注がれる羨望、嫉妬、男からの好奇の目。
すべてが気持ちよかった。

そう思い始めたのは中学生の頃、仲の良かった女友達の相談がきっかけだった。

「中山くんのこと好きなんだよね。美琴、協力してくれる?」

そんなことを言われた。
あたしは"もちろんだよ"と笑顔で答えた。
その時は本心だった。

彼女が中山くんと上手くいけばいい、本当にそう思ってた。
あたしは彼女に協力しようと、特に仲が良かったわけではない中山くんに話しかけた。

彼女はいるのか、好きな人がいるのか、どんな人が好きなのか、どんなものが好きなのか。
とにかくたくさん聞いた。
それを彼女に教えた。
喜ぶ彼女の姿を見て、心から上手くいって欲しいと思った。

だけど、そんな日々もすぐに終わりを告げた。
ある日突然、彼女があたしを無視した。
どうしてかとしつこく聞いた。
そして返ってきた言葉は意外なものだった。

【中山くんに告白したら美琴のことが好きだからごめんって言われたんだけど】

分からなかった。
どうして中山くんがあたしを?

それから彼女とは疎遠になった。
彼女は友達にあたしに中山くんをとられた、と言いふらし、あたしは女子に無視された。

後から聞いた話、中山くんは好きな人のことなんかを突然聞いてきたあたしが、自分のことを好きなのではないかと勘違いしたようだった。

それを知った時、あたしはそのせいでいじめを受けた悔しさと共に、"気持ちよさ"を感じた。

あたしは中山くんを好きだったあの女よりも上なんだ、そう思った。

なんだ、人の気持ちを動かすのなんて簡単じゃん。
みんなに愛されたい。
あたし以外の誰かを好きだなんて許せない。
あたしが1番なのに。
みんなあたしが好きだって言ってくれるのに。



1人だけは、あたしを好きにはなってくれなかった。
あたしを愛してよーーーーーー。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「・・・美琴さん、好きだよ」

ベッドの中で、蓮は言った。

「ありがとっ蓮くん」

あたしはそう言って微笑んだ。

やっぱ大学生って盛りなのかな。
ここ1ヶ月、ずっと蓮くんと体を重ねてすっごい疲れた。
まあ、年下も案外気持ち良いんだけどね。

何より気持ち良いのは体より、蓮くんの言う"彼女"から搾取できたこと、かな。
そんな得体の知れない女に負けるなんて有り得ない。

だから奪ってやった。
蓮くんがあたしを忘れて"彼女"と向き合う、なんて言うから。
あたしのこと、忘れないでよ。

その時、蓮の携帯が鳴った。
《水原茉里》からの着信。
蓮は焦ったように携帯を裏返す。

美琴は目を細め、舌打ち。
蓮は「えっ」と言って美琴を見た。
美琴は急いで笑みを作る。

茉里って言うんだ、あの女。
大して可愛くなかったけどなー。

蓮くんがあたしに忘れるなんて言った日の前日、夜コンビニに行った帰り、蓮くんと知らない女が抱きしめあっているのを見かけた。

結局この男も他の女の所行くんだーーーーー。
そう思ったら苛立ちがこみ上げてきた。
絶対に渡してたまるか。

ってな訳で蓮くんをラブホに連れ込んで成功。
で、今に至るわけ。



そんな時に同窓会のハガキが届いた。
彼は来るだろうか。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ええっ?!別れたの?!」

茉里は驚きのあまり、手に持っていた枝豆をテーブルの上に落とした。
紗綾はハハ、と笑いビールを飲んだ。

「ちょっと色々あってさ・・・不倫やめなきゃなーって思ってたしね。夏樹にまで言われたら、バカだったよ」

紗綾はそう言って微笑んだ。
茉里は「そっか」と頷いた。

「まあ、紗綾が納得したなら良かったよ」

茉里は微笑む。

「納得かな?うん!」

紗綾はビールを飲んだ。

「良かった。というか、夏樹くんとはどうして喧嘩したの?」

「ああ、夏樹が失恋したらしくて」

「ああ・・・まなちゃんのこと?」

「茉里知ってたの?」

「夏樹くん分かりやすいから。ああでも、最近は彼女できたのかと思ってた」

「彼女?!あいつまなちゃん以外にいい子いるの?」

紗綾は面白がったように食いついた。

「んー、違うクラスの子なんだけど、その子が夏樹くんのこと好きみたいだったから。あ、それも可愛い可愛いって言われてる女の子」

「へえ!あいつやるじゃん〜!」

「あ、あ、でも夏樹くんはまなちゃんが好きなんだよね?」

「んーそうみたい。ま、あたしが口出したことで喧嘩しちゃったし・・・このことは言わないでおく〜」

紗綾はそう言って微笑んだ。
茉里は「そうだね」と紗綾に笑いかける。

「で?茉里はどうなの?あの金髪と」

紗綾は焼き鳥を食べながら言う。
茉里は「ああ・・・」と言って箸を置いた。

「実は・・・ちゃんとするから待っててって言われたの」

紗綾は「お!」と言って目を見開く。

「それって付き合うってこと?!で?どうなったの?!」

茉里は途端に俯く。

「それが・・・それから1ヶ月、なんの連絡もなくて・・・電話しても出ないし、メッセージは返ってこない」

「はあ?!」

紗綾は一気にイライラしたような表情を浮かべた。
茉里は苦笑する。

「いやいや、意味わかんないし!なんなのあいつ!とことんクズ!」

「・・・もう、諦めた方がいいのかな、蓮くんのことは」

「茉里・・・」

紗綾は顔をしかめる。
茉里は「なんかもう、わかんないや・・・」と言いながら涙を流した。


Re: 傘をさせない僕たちは ( No.66 )
日時: 2020/04/07 17:56
名前: えびてん (ID: BcUtmJZZ)






#64 【 可哀想 】


プリントをまとめると、溜息をついた。
携帯を見ても、蓮からの連絡はない。

「どうしたんですか?溜息なんかついて」

声が聞こえた。
向かい側のデスクから、航平が微笑んでいた。
茉里は笑みを作り、「ああいえ」と航平を見た。

「ちょっと最近寝れなくて」

茉里がそう言うと、航平は首を傾げた。

「何か悩み事ですか?」

「いえ、大したことじゃ。最近残業ばかりでちょっと疲れちゃっただけです」

「これからまた残業ですしね。無理しないで下さいね」

「はい、ありがとうございます」

航平は教科書を持ち職員室を後にした。

はあ、いいなあ浅倉先生。
彼女さん幸せなんだろうなあ。

茉里はそう思いながらまた携帯を見る。
すると、紗綾からメッセージが来ていた。

『今日もごはん行かない?私も話したいことある!』

という内容だった。

『いいよ!7時くらいになるけど大丈夫?』

茉里が返すと『了解!』とすぐに返信がきた。

紗綾、気遣ってくれてるんだろうな。
紗綾も失恋したばっかりで辛いはずなのに。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「乾杯〜!」

紗綾はそう言ってビールを飲んだ。

「はあ〜結局ビール飲みたくなる〜」

紗綾が微笑んだ。
茉里も微笑み、「で、話したいことって?何かあったの?」と問いかけた。
紗綾はジョッキを置き、改まって話し出す。

「後輩の様子がさ、最近おかしくて」

「後輩?」

「うん、井岡くんって言うんだけど、まああたしが教育係だから元々仲は良いんだけどね。何か、やたらと飲みに誘ってくるしやたらと連絡くるし」

「へえ、紗綾に気があるんじゃない?」

「いやそれがさ、井岡くん総務の女の子といい感じだって聞くし、かと言ってチャラチャラしてる感じでもない好青年だからさ、何考えてるんだろって感じ」

「聞いてみたら?」

「ええっ無理だよ!なんかあたしが意識してるみたいで恥ずかしい!しかも年下に!」

紗綾は恥ずかしそうに言った。
茉里は笑いながら言う。

「ええーでもこのままじゃーーーーーー」

茉里の話の途中、突然話しかけられた。




「あれ、どこで会ったことあるような」




声の方を見ると、可愛らしい女が微笑んでいた。
紗綾はしばしの沈黙の後、「ああ!」と彼女を指さした。

「金髪といた人!」

言われ、茉里は「え?」と言って紗綾を見た。
紗綾は「あ・・・その、あたしが酔っ払って文句言った時の・・・」と呟く。
茉里は「じゃあこの人は蓮くんの・・・」と不思議そうに彼女を見上げた。

「宇野美琴って言います。蓮くんは〜あたしの生徒です」

美琴はそう言って微笑んだ。

「生徒?先生なんですか?」と紗綾。

「ええ、大学で教師をしています。その節はどうも」

言われ、紗綾は「え、ああ・・・ご迷惑おかけしました・・・」と軽く美琴に頭を下げた。

「せっかくだしご一緒してもいいですか?今日1人で寂しくて」

美琴に言われ、紗綾は「え、いやそれはちょっとーーーー」と茉里を見た。
茉里は少し俯いたあと笑顔で顔を上げた。

「いいですよ、何かの縁ですしね」

「恐縮です」

美琴はそう言って微笑み、2人の席についた。
紗綾が茉里を見ると、茉里は不安げな表情を浮かべていた。
美琴を見ると、逆に自信を満ちた表情を浮かべている。

たしかに美人だけどこの女、絶対にただの教師じゃないよね・・・。

「お2人はどういうご関係なんですか?」

美琴に言われ、紗綾が答える。

「ああ、あたしと茉里は中学の友達で」

言うと、美琴は「そうですかあ」と微笑んで続けた。

「蓮くんとは?どういうご関係で?」

美琴は明らかに茉里を見ている。

茉里のこと知ってるの?






「・・・蓮くんは、私の友達です」



茉里はそう言って美琴を見た。
美琴は「あら、そうなんだぁ」と微笑む。

「てっきり彼女か何かかなあって」

「あなたには関係ないですよね」

茉里も負けじと言い返している。

「確かに〜それなですね」

「宇野さんは?ただの先生が生徒と夜の街、歩きませんよね」

茉里に言われ、美琴は待ってましたと言わんばかりの表情。

「んーただの先生、ではないかなあ?昔から知ってるので」

「昔からって?」

「塾の講師だったんですあたし。蓮くんはその時から生徒で」

「塾の生徒だったからって夜一緒にいらっしゃるんですか?」

「いちゃだめな理由でもありますか?」

「・・・だって、ただの先生でしょ」

「向こうはそう思ってないみたいですけど」

美琴はそう言って微笑みながらカクテルを飲んだ。
茉里は「え?」と言って美琴を見る。

「蓮くんってね、ああ見えて甘えん坊なの。でも甘えさせ上手なんですよ〜」

美琴に言葉に、紗綾は「ちょっとあんた」と美琴を睨む。
美琴はフフっと微笑む。

「茉里さんみたいに頭の堅そうな人には甘えられないのかも知らないですけどね〜」

「どうして私の名前」

茉里は美琴を睨むように見た。
美琴は余裕の表情を浮かべる。

「あんなにしつこく電話かけてきて、そりゃ相手されなくても仕方ないんじゃない?大体、蓮くんはあなたのことなんか本気にしてないのに」

「なんでそんなこと・・・」

「なんでかって?教えてあげましょうか。茉里さんが蓮くんにしつこ〜く電話かけてきてるとき蓮くんが何をしているか」

「・・・なにしてるんですか」と茉里。

「あたしのこと抱いてるの。何度も何度も、美琴さん美琴さん〜好き好き〜って」

言われ、茉里と紗綾は目を見開いた。

「は?あんた教師でしょ?生徒とそんなことしていいわけ?犯罪じゃない」

紗綾が言うと、美琴は「あのね」と紗綾を見る。

「罪って、どうして罪になるか知ってる?罪って言うのはね、公になって初めてそれは罪になるの。誰にもバレない、知られない嘘は嘘じゃない、真実なの。それは罪にはならないの」

「あんた頭おかしいんじゃないの・・・!あんたは、あの金髪のこと好きなの?」

紗綾は顔をしかめた。
美琴はハハハッと笑う。

「あたしが蓮くんを好き?そんなわけないじゃない。大学生なんて子供よ」

「だったらどうして」と茉里。

「気持ち良いから。誰かに好かれるのって気持ちが良いの。でももっと気持ち良いのは"搾取"すること」

美琴はそう言って茉里を見た。

「そう、その顔。あなたから蓮くんをとって、あなたのそういう悔しそうな顔を見る、それが気持ち良いの。だからキスでもセックスでもしてあげるの。需要と供給が成り立ってるでしょ」

「あなたは間違ってる・・・!それであなたは幸せ?」

茉里に言われ、美琴は「ええ、あなたより遥かにね」と微笑んだ。

「蓮くんがあなたを好きでも、そんな関係ずっと続くわけない。蓮くんが幸せなわけない」

「そうね、幸せじゃないでしょうね。でもそれは永遠じゃなくていい。飽きたら忘れて欲しいくらい。でも他の女に目がいったらまたセックスすればいい」

「あなた・・・!」

茉里は怒った表情で美琴を見た。
すると紗綾が制するように言った。




「茉里。放っておきなよ、こんな可哀想な人」




言われ、美琴は不思議そうな表情で紗綾を見た。

「可哀想?あたしが?」

紗綾は淡々と答える。




「人を傷つけることでしか愛してもらうことができないなんて、可哀想な人」






紗綾はそう言って立ち上がり、1万円札をテーブルに置いた。

「あとは1人寂しくどうぞ、奢るんで。茉里、帰ろ」

紗綾はそう言って茉里の腕を引き、その場を後にした。








可哀想?あたしが?
バカバカしい。





美琴は1人カクテルを飲んだ。


Re: 傘をさせない僕たちは ( No.67 )
日時: 2020/04/30 20:31
名前: えびてん (ID: BcUtmJZZ)





#65【 再会 】


あたしが可哀想なんてあの女は言ったけど、あたしは全然可哀想なんかじゃない。
あたしはみんなに愛されてきた。
昔も、これからもずっと。



「うわ!宇野じゃん!相変わらず可愛いな〜!」

同窓会へ行くなり、受付の男子に言われた。
名前はー、なんだったっけ?

「やだな〜もう、お世辞言っても何も出ないよ〜」

あたしはそう言って微笑んだ。

「お世辞じゃねえって〜。てか俺のこと覚えてる?」

覚えてるわけないでしょ、あんたみたいな小物。

「覚えてるに決まってるじゃ〜ん!あーでもあれから何年も経ったし、今度はなんて呼べばいい?」

覚えてない時の決まり文句。

「えー河島だと普通だしなー」

河島・・・ああ、河島弘樹だ、たぶん。

「じゃあ河島は河島だね〜」

美琴はそう言って笑いながら人差し指で河島の肩とツンと押した。
河島は照れたような表情を浮かべながら「えー弘樹って呼べよ〜」と微笑んだ。

「じゃあ後でねっ」

美琴はそう言うと会場に入る。

入るなり、まず女子が駆け寄ってきた。
半数は覚えてない。

「美琴〜!久しぶり!もうめっちゃ可愛いじゃんやっぱ〜!」

当たり前でしょ、そんなこと。

「そんなことないよぉ〜。みんな変わんないね〜!」

そんな他愛もない会話をしながら、周りを見渡した。




彼は来ているだろうか。





「お!坂口!久しぶり!」




そんな声が聞こえ、美琴は目を見開いた。
振り返ると、そこには"彼"がいた。

「あ、坂口くんじゃん・・・あ・・・」

女子の1人が言った。
その場にいた全員、気まずそうな表情で美琴を見た。

・・・何よ、その顔。
別に今更どうだっていいわよ。




「久しぶり、坂口」

美琴はそう言って彼に話しかけた。
彼、坂口椋は「おお宇野、変わんねえな」と微笑んだ。

そう、この笑顔。
あの頃、このクシャッとした笑顔にあたしは夢中だった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「本当久々だよね、何年ぶり?」

ベランダで坂口が言った。
美琴は「んー10年くらい?」と微笑む。

「10年かあ・・・そんな経ったんだな、あれから」

「そうだね」

「宇野は今何してんの?」

「大学で先生してる」

「ええ先生!すげえじゃん!」

坂口は嬉しそうに言った。

何であんたが嬉しそうなのよ・・・。

「坂口は?何してるの?」

「俺はー、画家?まあ無名だけど」

坂口は少し恥ずかしそうに笑った。

「画家か・・・坂口、絵上手だったもんね」

「全然。もうほぼお絵描き教室の先生だよ。宇野は夢叶えてすごいな」

「まあね、楽しいよ、仕事」

男子から人気で楽しいの、あたし。
だからあんたになんかもう。



「その・・・今も続いてるの?」

美琴はボソボソと言った。
坂口は「続いてるって、なにが?」と不思議そうに美琴を見た。

「・・・薫と」

言った瞬間、坂口は一瞬、笑顔を消した。

あれから10年、まだ続いてるの?
あたしを捨ててまで選んだあんな女と?
そんな気まずい顔しないでよ。
今更、あんたになんか興味ない。










「・・・死んだよ、2年前に」








坂口はそう言って微笑んだ。




え?


Re: 傘をさせない僕たちは ( No.68 )
日時: 2020/05/19 18:32
名前: えびてん (ID: GbYMs.3e)






#66 【 本心 】



「・・・薫が死んだって、どういうこと?」

美琴は困惑した様子で坂口を見た。
坂口は苦笑しながら話し出す。

「びっくりするよね、俺もびっくりした。薫、癌でさ」

「癌・・・?!」

「そう」

「なによ・・・それ」

坂口はどこか寂しそうにハハ、と微笑んだ。
楽しくなんかないはずなのに。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


坂口椋とは、高校の同級生だった。
クラスが同じで、唯一あたしになびかなかった男。

とってやりたかった。
小川薫と言う目障りな女から。

小川薫は顔や体型は普通だし、頭も良い訳じゃない。スポーツだって苦手な方だった。
それなのにいつも周りには人がいた。
男も女も関係なく、薫の周りにはいつも友達がいた。

どうしてあんな普通の子がそんなに好かれてるの?
不思議でならなかった。







「ねえ美琴ってうざいよね」

そんな言葉、聞き飽きた。

放課後、教室に忘れ物を取りに行った時に聞こえた声だった。

あたしが可愛いから妬んでるんでしょ?
悔しくともなんともない。



思ってるはずなのに、あたしはどうしていつも泣いちゃうんだろう。


本当は悔しかった。
あたしのことを何も知らない女たちがあたしのことを悪く言ってはみんなで笑う。
教室ではヘラヘラ話しかけてくるくせに。


「ねえ美琴誘おうよ」

そんな言葉は嬉しかった。

「えーなんで?うざいじゃんアイツ」

「だってアイツ顔だけは良いから美琴来るって言ったら男子も来るじゃん」

「あーそれな?」

そんな会話も、聞き飽きた。

あたしがあんたたちに一体何をしたって言うのよ。
勝手に嫉妬してるだけのくせに。
なんであたしばっかりーーーーーー。



女子たちが帰ってから、あたしは教室で1人、自分の席に座った。
机はもうびちゃびちゃに濡れた。

ああ、拭くの面倒臭いな。
明日みんなに会ったら笑顔浮かべなきゃな。

そう考えれば考えるほど、涙が溢れた。

その時、ガラッと教室のドアが開く音がした。
ハッとした。
つい、目を見開いてドアを見てしまった。

そこには部活中の坂口椋がいた。



「宇野?どした?」


坂口は不思議そうにあたしを見た。
あたしはすぐに笑顔を作った。

「・・・なんも!忘れ物しちゃって戻ってきただけ」

「そか。俺も忘れ物。じゃまた明日な」

坂口はそう言うと机からタオルを出し、美琴に手を振った。

「うん!部活、がんばってね!」

「さんきゅ!」

ガラガラ。
ドアが閉められた。

ああ、また1人だ。

また涙が出てきた。

ガラガラ!
今度は大きく聞こえた。

美琴は驚いた表情でドアを見た。
坂口がいた。

「宇野!」

少し、息が切れていた。

「・・・な、なに?」











「がんばれ!」










坂口はそう言って、オレンジジュースを投げてきた。

「・・・へ?」

美琴はジュースをキャッチし、不思議そうに坂口を見た。

坂口は微笑み、「じゃ、今度こそまた明日な!」と言って教室を後にした。







あたし今、心から嬉しかった。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



本当は悔しかった。
みんなに悪口を言われること。


「ねえさっきの美琴うざくなかった?」

「わかる。エリが宮田のこと好きなの知ってるくせに宮田に色目使っちゃってさ」

「まじ最低だよね」

「まあ顔くらいしか自慢できるものがないしね、美琴って」


ああ、まただ。
悪口言う前にトイレに誰か入ってるなとか思わないのかな。

すると、誰かが入ってくる足音が聞こえた。

「あ、薫〜」

ああ、小川薫。
あの気に食わない女。
あんたも悪口大会に来たんだね。

「みんなどうしたの?集まって」

薫の声が聞こえた。

「そういえばさ、薫はどう思う?美琴のこと」

「美琴ちゃん?どういうこと?」

「ほら美琴って男に媚びてばっかでうざくない?さっきなんてエリが宮田のこと好きなの知ってて色目使ってたんだよ?どう思う?」

宮田なんか興味ないのに、あたし。








「みんな、美琴ちゃんと仲良くないっけ?」







薫の声だった。

「え、仲良いわけないじゃん。美琴と仲良くしてれば男子と仲良くなれるから仕方なく仲良くしてるだけだよ」

気づいてるし、そんなの。

「はは、なにそれ」

薫が笑った。

「何?なんで笑ってんの?」

「だってそれ、みんな美琴ちゃんに嫉妬してるだけじゃん」

薫は笑いながら言った。

同調すると思ってた。

「は?」

女子たちは声色を変えた。
薫は微笑みながら答える。



「美琴ちゃんが可愛いから、男子に好かれてるから、それが気に入らないだけでしょ、それ。宮田くんに色目使ってたってさ、だったらエリちゃんが頑張ればいいじゃん。それでも宮田くんが美琴ちゃんを好きって言ったならそれは仕方ないでしょ、美琴ちゃんの勝ちだよそれ。てか美琴ちゃんは別に宮田くんのこと好きなわけじゃないと思うし。まあ分かんないけどさ」




個室の中で、美琴は驚いた表情をうかべた。

あたしは小川薫とそんなに話したこともないのに、どうしてこの女はあたしのことこんなに分かるの?

「私は美琴ちゃんのこと、ただただ可愛いな〜っていつも思うよ。そんなに話したことないけど、悪い子じゃないと思う」

薫の言葉に、女子たちは「あんた調子乗ってんじゃないの?」と薫に敵意を向けた。



だめ、この子があたしの代わりにイジメられるーーーーーーー。



美琴は立ち上がり、個室のドアを開けた。



「・・・美琴」


その場にいた全員が、驚いた表情を浮かべた。

薫は笑顔で近づいてくると、美琴の隣にたち、女子たちに言った。



「美琴ちゃん可愛いもんね。嫉妬して悪口言うのってどうなの?」



薫はそう言って微笑んだ。




・・・何言ってんの、コイツ。




Re: 傘をさせない僕たちは ( No.69 )
日時: 2020/07/24 20:13
名前: えびてん (ID: cdCu00PP)





#67 【 衝撃 】



あたしと薫は仲良くなった。
あれ以来、あたしの悪口は聞かなくなった。
全部、薫のお陰だった。
薫と仲良くなってからは女子ともよく話すようになった。



「ねえ、なんで助けてくれたの?」

帰り道、聞いてみた。

「助けたって?」

薫は不思議そうに言った。
美琴は「トイレでのこと」と答える。

「ああ、あれ。別に助けてないよ。私の意見言っただけ」

薫はそう言って微笑んだ。

「でも薫、あたしと仲良い訳じゃなかったのに。自分もいじめられるかもしれないのに」

「私は美琴ちゃんと仲良くなりたかった、ずっと」

「なんで?」

「んーめっちゃ可愛いし、あざといとか言われてたけどなんて言うか、それすら可愛いなって思ってたし。本当はいい子だって思ってた」

「バカじゃないの」

「バカだよ。美琴ちゃんよりもずっと」


このバカのことが、あたしはすごく好きだった。
いつまでもこんな日々が続けばいい、心からそう思っていた。




同時に、あたしはあの日から坂口のことが気になって仕方がなかった。

「坂口」

放課後、下駄箱で話しかけた。
坂口は「おお宇野、おつかれ」と微笑む。

このクシャっとした嘘のない笑顔、好きだな。

「坂口って駅の方だよね、一緒に帰ろ」

美琴はそう言って坂口の腕に絡みつく。
坂口は照れ臭そうに「な、なんだよ急にっ」と笑った。

「えーだめ?」

美琴はそう言いながら坂口を見上げる。

「い、いや良いけどさ・・・!」

「ほんとっ?やったー!じゃ帰ろ!」




男を落とすのなんて簡単。
結局男の子だもん、坂口だって同じ。
坂口に、あたしを好きになってもらいたい。



だけど、この恋はそんなに容易のものではなかった。






「ねえ美琴って坂口と付き合ってるの?」

最近、そんな質問をされることが増えた。
満更でもなかった。

「え〜そんなんじゃないよ〜」

美琴は笑顔で答える。

「えーそうなの?だって最近いつも一緒じゃん」

「仲は良い、かなあ?」

「きゃー、やだ、美琴は坂口のこと好きなの?」

「全然全然。恋愛とか全然分かんなくて」

「うっそ、美琴モテるのに。そういえば彼氏いるとかあんま聞かないよね」

「全然モテないよ〜」

「えーほんと?坂口、美琴のこと絶対好きだって」


あたしも感じていた。
坂口はあたしのこと、少なからず意識はしてくれてるはず。
大体、あたしがあそこまで積極的にしてその気にならない男なんかいない。
こんなの、初めて。

だけどそれから何ヶ月経っても坂口はあたしに告白してこなかった。
どうして?




「坂口〜一緒に帰ろっ」

その日も、あたしから誘った。
考えてみれば、いつもあたしからだった。

でもその日、返ってきたのは意外な言葉だった。








「ごめん宇野・・・俺、彼女できたから宇野とはもう帰れない。ごめん」






ーーーーーーーーーえ?


どうしてそんなに言いづらそうなの?
あたしに手を出したわけでもないのに。
あたしが、一方的に好きだったってこと?
その気持ちに気づいてたーーーーー?





「へ、へえ!良かったね!おめでとう!」

目が熱くなるのを感じだ。
涙が溢れ出すのを必死に堪えた。

「うん・・・ありがとう」

何で、そんな顔するの?

「・・・か、彼女って?この学校の子なの?」

聞きたくない。
でも気になった。

坂口はしばらく沈黙した。










「俺、小川と付き合うことになった」









え?



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