複雑・ファジー小説

変革戦記【フォルテ】
日時: 2019/02/05 22:35
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM
参照: https://m.youtube.com/watch?v=oXxfk4iPPjY

※全年齢版


参照:イメージソング『Beat Your Heart』(ブブキ・ブランキ第1期OP)


国を守るための防衛兵器───巨大な機体、『フォルテッシモ』が普通になりつつあった時代。
突如としてフォルテと呼ばれる能力に目覚める者たち。フォルテを持つ彼らを、人々はフォルトゥナと呼ぶ。
しかし、彼らを狙い、彼らを連れ去って自己利益のためだけに利用しようと目論む悪の組織があった。その名も『グローリア』。あらゆるものを掌握し、いずれは国家転覆をも狙うフォルトゥナだけで構成された組織である。当然フォルテッシモも、グローリア専用機を大量に生産しており、かなりの数を所有している。
だがそれに大人しく屈服しているわけが無い。そのグローリアに対抗すべく、『マグノリア』という組織が作られた。未成年のフォルトゥナの少年少女たちで構成されている。
グローリアに支配されているこの状況に風穴を開けるため、グローリアを倒すため、何よりも家族や仲間を守るため、彼らは戦う!


※注意※
こちらの作品は、18禁板にて連載開始予定の小説、『f-フォルテ-』の全年齢熱血ロボアクション版になります。
こちらを見てから18禁板版を見ようとチャレンジするのは、大変おすすめ致しません。
こちらから先に見た方は、18禁フォルテの存在はそっと胸にしまっておきましょう。
そして18禁版からこちらを見た方は全力でお楽しみください。
もちろん、こちらから先に見た方も。
キングゲイナーやGガンダムのノリとほぼ同じです。雰囲気で楽しんでください。
この作品はフィクションです。実在する個人、団体、その他とは一切関係ありません。
(9/7 コメライ→複ファへ移動)


18禁と同じ点
・基本の組織や用語
・キャラクター(例外あり)
・世界観(例外あり)

異なる点
・話の内容
・話の明るさ
・結末
・連載する板


用語集>>1
登場人物一覧>>2
第1話【Magnolia】
>>3 >>4 >>5 >>6 >>7 >>8 >>9
(まとめ読み用)>>3-9
第2話【Oshama Scramble!】
>>10 >>11 >>12 >>13 >>14 >>15 >>16
>>17
(まとめ読み用)>>10->>17
第3話【fake town baby】
>>18 >>19 >>20 >>21 >>22 >>23 >>24
(まとめ読み用)>>18-24
第4話【Distorted†Happiness】
>>25 >>26
第5話【Marionette】
第6話【Welcome to the Black Parade】
第7話【絵空事】
第8話【Red doors.】
第9話【Red Like Roses.】
第10話【サンクチュアリを謳って】

(応募スレはリク板をご覧ください)
※応募されたキャラクターについて
できる限り応募された内容に沿って使わせていただきます。どうしても全年齢に出るならばこうして欲しいというご要望がありましたら、随時受付を致します。可能な限りでお応えさせていただきます。
もちろん全年齢版のみ、または18禁版のみに出してほしいというご要望も受付します。
ご遠慮なくお申し出ください。

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Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.17 )
日時: 2018/08/26 18:12
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM

 倖の手料理を思う存分堪能した時雨と泥。その後の片付けを手伝い、今は縁側でゆっくり、柔らかな日差しを浴びながら緑茶を飲んでいる。傍らには羊羹があり、それを少しずつつまみながら、ぼんやりのんびりと過ごしている。程よく広がる羊羹の甘み。

「いい天気だねえ」
「そうだな」

 特に続くことなく、そこで途切れる会話。だがそれでいい。マグノリアにいるときでは味わえない、静寂の一時。頬を撫でる優しき風は、心地よい音を立てて過ぎ去っていく。これでいい。こんなひとときが、何よりの癒やし、何よりの羽休め。たまには普段の使命を忘れ、平和な空間にいるのも良いものだ。

「平和だねえ」
「そうだな」

 2人は切り離された場所で、ゆっくりと心も体も癒やされていた。だからこそ、こんな言葉がつい口に出たのかもしれない。





 まずは超子が動く。補助の役割をしているのであろう杖を掲げ、精神を集中させる。杖の先には巨大な火球が出来上がり、それが限界までなると一気に爆発する。爆発した火球は小さい弾丸となり、グローリアのフォルテッシモに直撃していく。みるみるうちに食らったフォルテッシモは、火だるまとなり落ちていく。それでも減らせたのは、ほんの一部に過ぎない。
 それに続くように、御代のフォルテッシモ、【プテラノドン】が動く。手にしていた数多の特別性ナイフを、関節部位に向けて投擲する。ガシンガシンと見事に命中したナイフは、相手の動きを封じる仕事をしてくれたようで、狙われたフォルテッシモたちは動きが止まる。そこをエレクシアのフォルテッシモ、【アルテミス】がミサイルで撃墜する。着実に数を減らしていっている。その間歌子は超子のフォルテッシモ【マザー】の背後に隠れ、フォルテを使い疲弊していた体を休めていた。
 ────フォルテ『歌姫』。歌自体に力があり、その歌を歌うことにより、周囲に影響をもたらすフォルテ。本人の歌唱力が高ければ高いほど、その力は強大なものとなる。ただし歌の力が強まれば、次第に自らに降りかかる負荷も大きくなる。先程の歌はかなり強い力を持つ歌であるがために、体にかかる負荷は尋常なものではなかった。しばらくのクールタイムがなければ、その場から動くこともできないものである。
 だからこそ超子はさっさとこの場を切り抜けたかった。歌子のためにも、そして施設の中にいる手遅れの子どもたちのためにも。だが、数を減らしても減らしても、次々と増援はやってくる。かなり広い範囲で攻撃しているが、キリがない。しかもよくよく見れば、倒したはずのフォルテッシモは再生され、また浮上してくる。

「ねえこれやばくない?倒しても生き返って増えてって、やばくない?」
『待って、向こうの様子がおかしいわ』
「エレちゃん、それどこ?」
『あ、もしかしてあれうぇい?』

 エレクシアが何か感じ取り、それを御代が見つけ、示す。そこにはグローリアのフォルテッシモが2機。だが様子が確かにおかしい。片方のフォルテッシモは不自然な動きをしている。ふらふらと近くにいた別のフォルテッシモに近づいていく。何が起きるんだ?超子たちは気づかれないようゆっくり近づき、今か今かとそれを見る。途中攻撃を仕掛けられたが、一通り殴っておく。
 するとどうだろうか、不自然な動きをしていたフォルテッシモが、別のフォルテッシモに向かって、備え付けられていたのだろう『口』を大きく開け、食らいついた。バキ、メキ、といやな音が聞こえてくる。その口は非常に気味が悪く、まるでスプラッタホラー映画を見ているかのような光景が広がっていた。よく見れば食われているフォルテッシモからは、赤い液体が流れ出ていた。まるで血のようだ。
 ブチ、と繊維が切れる音がする。どうやら捕食しているフォルテッシモが、自らの餌を食べやすいように分割しているようだ。先程のは腕を千切ったのだろう。よく見れば千切れた腕から、肉片が飛び散っている。それも残すまいと、捕食する者はひたすらに食らう。
 いくらフォルテッシモといえど、あまりにもショッキングすぎるその光景に、超子は恐怖する。そしてエレクシアたちに見せるまいと、必死に3人、いや実質4人に下がれと言う。これは見ちゃいけない、見ちゃいけないものだ。ましてやエレクシア、エレーヌには酷(こく)すぎる。絶対に見せるな───そんな声が、超子の頭の中に響く。ええ、見せるもんですか。
 だが、そううまくは行かない。捕食者に自分たちが気づかれた。捕食者はこちらを見据えて、不自然に『にやり』と笑う。それがとてもとても不快なもので、超子は背筋を凍らせる。あんなもの、フォルテッシモじゃない。ただの『化物』だ。超子は捕食者に向き直り、4人に近づけさせまいとして、己の武器を構える。杖の先端が開き、火球が現れる。しかし超子は気づけなかった。守るべき4人の背後に、別の『捕食者(ばけもの)』が来たことに。それにいち早く気づいたのは、他ならぬ絶対に見ちゃいけない、エレクシアとエレーヌだった。

「────え」

 気づいたはいいものの方向転換が間に合わず、捕食者はアルテミスをしっかりと捕まえ、口を大きく開けて食らいつこうとする。だが、それは次に気づいた御代によって阻まれた。アルテミスから捕食者の手が剥がされる。

『エレエレちゃん!』
「大丈夫───何もないわ」

 エレクシアはすぐに返事をする。何だあの化物は。フォルテッシモの形をしているが、あれはフォルテッシモじゃない。もっと別の何かだ。もしかして超子は、これを見させないために、下がれと言っていたのだろうか。その結論に至ればそれとなく解せた。確かにスプラッターは趣味じゃない。その気遣いは正直ありがたい。だけど、目の前に現れた捕食者は、まだこちらを見据えている。そういえばあの機体、片方の腕が千切れているようだけど?

「それでも変わらないわね、潰してしまいましょう、エレーヌ。そうねエレクシア。潰してしまわなければ」

 一瞬だけエレーヌが表に出てきて口を開いたかと思えば、すぐにエレクシアへと戻る。エレクシアはアルテミスに武器を構えさせ、そのまま捕食者へと突撃していった。

「あ、私も行かなきゃ…!」

 それに続くように、御代もまたプテラノドンを捕食者へと突っ込ませるのだった。

 マザーは捕食者へむけて火球をそのまま放つ。だが捕食者は少し焦げた程度で、他はなんの傷もない。怯んだ様子すら見せていない。それどころかどうだろう、マザーへ向けて突撃をかましてくる。

「サイコキネシスッ!」

 超子はサイコキネシスを駆使し、度々捕食者の動きを止める。そしてそのまま遠方へ放る。だがそれをものともしない。構わずマザーへやってくる。超子は心底うんざりしていた。

「っとに、しつっこい!」

 捕食者はマザーを喰らおうとやってくる。何度も何度も。数を重ねるごとに、超子の体はフォルテの過剰使用で疲弊していく。冷や汗も流れ出てきた。目も少し霞んできた。腕は震え、足も冷たく、口の端からは血が流れ出る。口を全開にすれば、どばっと血が出てくるのだろう。そうはさせまいと、必死に口を閉じる。けどそのままだと気持ち悪くなるだけなので、半開きにして血液の流出を調整する。なんでこんなことができるかなんて、知らない。腹も食物を求めているようで、虫が鳴く。
 そうこうしているあいだに、捕食者以外にも増援がやってくる。グローリアの量産型フォルテッシモが。後ろには歌子がいる。彼女のためにも、ここを動かずに攻撃をしなければ。わらわらと無限に湧いて出てくるそいつらは、超子たちの周りを囲む。こちらを見て、せせら笑っているようだ。心底気味が悪い。

「こんなところで…お姉ちゃんは死なないし…歌子ちゃんも死なせない…絶対に時雨を笑顔で迎えに行くんだから…ケフッ」

 喋るたびに漏れでる血液は、口の中に嫌にこびりつき、気持ち悪い。よく見れば胸元は真っ赤っかだ。頭もなんだか冷えてきた。何も考えられなくなってきた。急激に体温も下がっていく。

「歌子ちゃん…は、寝てるのかな…疲れちゃったもんね…エレちゃんと御代ちゃんも……戦ってるんだ…」

 周囲を見れるモニターを見れば、アルテミスとプテラノドンが、別の捕食者と必死に戦っている様子が見える。だが及ばず、武器が手元から剥がされる。なすすべもなく、2機は捕食者に捕まってしまう。かなり力が強いようだ。

「(…ごめん、みんな……あたし……お姉ちゃんなのにね……お姉ちゃんなのに……ごめんね……)」

 これから来るであろう『死』にそなえ、超子は瞳を閉じた。気配でわかる、捕食者の影。ああ、口を開いてる。食べられちゃうんだ。
 そこで超子の意識は途切───



『───死ぬにはまだ早い、桐乃超子』



 れなかった。突如として捕食者の影が離れた気がした。ぼんやりする瞼を必死になってこじ開けてみれば、そこには

『お前たちは先に戻れ。ここは我々が引き受ける』
『そゆことや。脱出ワープ使ってはよ医療部で体治しぃや!』


 一筋の、『紫電』がそこにいた。


『いいか、早く戻れ。指揮官命令だ』
『医療部部長命令でもあるで〜、見たところ超子はんは、ICU行きかもしれんな〜。バイタルサインもおっそろしいほど下がっとるし』
 
 そう語りかけてくる2つの『おとな』は、いたずらをした子供を優しく諭すように、帰還命令を出してくる。エレクシアや御代を捕まえていた捕食者も、また別の『薬』が助けていたようで、自由に動き回れていた。ああ、助かったんだ。
 超子は石のように固まった体にむち打って、緊急の脱出ワープを展開、ディーヴァの腕を掴んで帰還した。残りの2機も次々と帰還した。

「……おい、那生」
『へーへー、わかっとるがな。全力で潰す、それだけや』
『遅れちまったNA!FUUUUU!』

 彗星のごとくやってきたフォルテッシモ【アビス】、そして【テオドール】に搭乗する───紅蓮流星と月見里那生は構える。そしてやるかと言うときに、別のフォルテッシモがやってきた。あの独特な『フョロイ』フォルムのフォルテッシモ、間違いない。

「松永。風邪はいいのか」
『すっかりだZE!オレッチ超☆健康体!』
『ハハッ大方弥里チャンのヤクやなぁ?ま。ええか。合法っぽかったし』

 一度は帰還したフォルテッシモ【愛宕丸】。そいつが戦場へ帰ってきたのだ。流星は誰にも、本人にもわからないような微笑を浮かべる。人は多いほうがいい。それでいい。流星はアビスに、二振りの刀を構えさせる。青く光るその刀には、稲妻が走る。テオドールも巨大なメスをグローリアに向け、愛宕丸は奇妙なポーズを取る。ファイティングポーズなのだろうか。いや、松永自身、カポエイラを習得していたというから、これはきっとカポエイラの構えなのだろう。
 流星は2機の様子を見て、口を開く。

「いいかお前たち。まずはこの雑魚どもを処理するぞ」
『りょーかいや!』
『オッッケェェーーーイ!!』

 それを聞き取るや否や、アビスはもう動いていた。まずは周りの雑魚どもの一掃。刀をひとつ振りかざせば、大半の雑魚は消滅し、またひとつもう片方の刀を振るえば、一瞬にして大群が消え失せる。刀には返り血一つもない。背後にいたテオドールは巨大なメスを大雑把に振り回し、傷がついたそこから隠し持っていたヤクを流し込む。するとどうだろう、みるみるうちにフォルテッシモが溶けていく。ジュウジュウと、嫌な音を立てて溶けていく。

『やっぱクロコダイル使ったヤクはええなあ。あっさり死におる』
「……那生」
『ご安心を、フォルテッシモにしか使えんように配合しとるから心配せんでええで』
「……今日は認めてやる」
『FUUUUUU!!オレッチも続くんだZE!!』

 そして飛び出していったのは愛宕丸。流線系のレッグが見事にブチ当たり、当たったフォルテッシモが遠くへ遠くへと飛んでいく。あれは確実に中身の人間は死んでいるだろう。内蔵もグッチャグチャになって。それだけではとどまらず、次へ次へと愛宕丸は足技を喰らわせる。まるで踊っているかのようだ。カポエイラ自体、踊るように見えるから、それはそれで間違っていないのだろうが。

『テメッチでFinnishだZE!』

 そうして残った捕食者の中の1つに、愛宕丸は見事に必殺の一撃を頭部に食らわせ、突き落とした。捕食者の頭部はきれいに吹っ飛び、ぷらんと愛宕丸の足にくっついていた。流石に頭部と胴体を切り離されたら、いくら復活して来たものも、できないだろう。

「(おそらくあの2つの機体、いや、片方は腕がちぎれていたから、1つか。ゾンビを打たれた搭乗者か。先程のはそのゾンビに食われたんだな)」

 ここに来る前、ゾンビに侵された機体があるらしいと連絡が入っていた。恐らく超子たちが見たのは、戦っていたのはそのゾンビに侵された搭乗者。その後ゾンビは捕食者となり、また新たな捕食者を生み出していたのだろう。いや実際そうなんだろうが。流星は目の前の捕食者と睨み合う。そして刀を構える。

「哀れだな。洗脳され、ゾンビに成り果ててまで、まだ動くというのか。私が、今ここで私が、お前を死なせてやろう。────一瞬で」


 次の瞬間、捕食者の頭と胴体は、一筋の紫電によって切り離された。





「っは!」

 超子の目がさめたその場所は医療部の天井。腕には点滴、頭には包帯、服は病院服をまとっていた。隣を見れば三森弥里がこちらをじっと見つめている。弥里と目があったとき、彼女はニンマリと笑って記録をつけ始めた。

「はい起きた〜。ここわかる?」
「え?マグノリアの医療部の…」
「せーいかい。うんうんフォルテのおかげもあるけど、ばっちりだねぇ〜ちなみに超子ちゃんが一番重症でしたぁ」
「あー……そっか、戻ってきたんだっけ」

 あのあと、脱出ワープを使って帰還したあとの記憶がない。多分かなりボロボロだったんだなあ、としみじみ思う。他の子はと聞くと、みんなまだ寝てるよ〜と呑気に答えてくれた。超子は胸をなでおろす。
 あの場で、あのタイミングで。指揮官たちが来てくれなかったら、多分、いや明らかに死んでいた。でも助かった。こうして命がある。生きている。超子は心底ほっとした。ああ、生きている。あたしは生きている。

「まーでも?フォルテかなり使ってたみたいだし?まだ寝てた方ががいいよ。ほれほれ」
「う、うん。おやす……」

 み、まで言い切れず、超子はすぐにまた眠り始めた。本当に疲れていたんだろう。すごい戦闘だったらしいし、まーしかたないか。弥里はそう思う。
 超子が起きる数時間前、任務に出ていた指揮官たちが戻ってきた。そのときに戦闘の様子を聞いた。雑魚どもを一掃したあと、施設を爆破しそのもの自体をなかったことにした、と。どういう意味かはわからなかったが、松永が元気そうだったのでいいか、弥里はそう思うことにした。
 その前に運ばれてきた超子たちはひどい状況で、すぐにでも治療が必要だったし、ほかの3人はとりあえず鎮痛剤と他メンバーのフォルテで治療した。そんで眠らせた。それでよかった。超子の治療には、少し手間取ったけど、目を覚ましたんだから良しとする。それでいいんだ。

「うん、うん。みんな治った、それでいいんです弥里ちゃん」

 弥里は満足げに頷いた。

「さてと!お仕事したし、タバコ吸ってこよ〜」

 白衣を脱ぎ捨て、弥里はパタパタと部屋を飛び出していった。だが、ピタリとその足が止まる。

「そういえば松っちゃんにあげた『おくすり』……どうしたんだろ?」


 まあいっか。気にしても仕方ないや。弥里はそう結論づけて、止めていた歩みを再開させた。



第2話【Oshama Scramble!】

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.18 )
日時: 2018/08/28 20:50
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM

 マグノリアには、ひときわクセの強い奴らがいる。毎日を面白おかしく彩り、生きていく。たとえそれがつまらぬものであろうと、何であろうと、面白おかしくしてしまう。日々のスパイスにしてしまう。退屈なんて言葉は存在しない。彼らにとって、退屈とは自由。何をしても構わない。それがスパイスになるのであれば、尚更。
 そんなクセの強い彼らは自らをこう名乗る。

『チームケイオス』ってね。


第3話
【fake town baby】


 栃木県日光市、ポイントAでの戦闘から一夜明け。戦闘に加わっていた朝山御代は、もうすっかり調子を取り戻していた。捕食者に捕まっていたとき、嫌に体中からメキメキと音がしていたが、もう治った。あれだけ苦しかった呼吸もこの通り。今すぐにでも出撃できる勢いだ。
 だが、病室に現れた存在を見て、何かを察する。

「入るぞ、朝山御代」
「げ……指揮官」
「と、オレも居るんだよなー」
「あれ?リーダー、ようやく引きこもり脱出うぇい?」

 よく見知った顔、指揮官である紅蓮流星は、御代を見るなりフルネームで呼んでくる。指揮官が来たということは何か言い渡されるのだろう。その先が読めてしまった御代は、うげえという顔をする。が、後ろからひょっこり出てきたマグノリアリーダー、狂示にその顔色を変える。めったに表に出てこないくせに、今日はどうしたんだろうか。
 狂示は引きこもりなんてしてねえよ、とおちゃらけ、ズカズカと入ってきて勝手にそばにあった椅子に座る。マイペースっていうか、なんというか。

「体調は大丈夫かー」
「うぇいバリバリ治ったうぇい」
「だ、そうだが」
「ふーむまあ時雨みてーに1週間休むなんてことはさせなくていーだろうな。超子は流石に病室から一歩も出んなとは、言っといたが…」

 どうなるかね、アレは。狂示は肩をすくめてそういう。超子に何があったというのか。それを押しとどめるように、流星は狂示の前に出て口を開く。

「朝山御代。お前に3日間の休養を言い渡す」
「……へっ?」

 突如言い渡されたその一言に、御代は口をあんぐりと開けた。何を突然言ってんだろうか、この人は。酒でも飲んだのかな。御代の今の顔を見て、狂示は笑い始めたが、それに構わず流星は淡々と告げる。当たり前だと言わんばかりに。

「フォルテを使ってはいなかったが、それでも相応の体力を要したはずだ。体力は無限にない。そしてお前個人としての代わりなどない。暫く安静にしていろ」
「うぇい……ナマコ指揮官」
「謹慎処分」
「ぷてー!」

 言い渡された内容に、ついつい冗談を挟んで返事をしてみるものの、間髪入れずに謹慎処分に格上げされる。御代は思わずおかしなポーズを取って仰け反るが、流星は顔色を変えずに「冗談だ」と返す。冗談に聞こえないところが恐ろしい。これ以上ふざけると本当に謹慎処分にされるかもしれない。そう思った御代は頷いて、おとなしく寝る体制に入った。流星の隣りに居たリーダーは、一連の光景をケラケラ笑いながら見ていたらしいが、用がなくなったのか、椅子から立ち上がり戻る準備をする。すでに流星は早々に部屋から去っていた。
 と、そこで狂示は何かを思い出したように、そうだとつぶやいてみせる。

「オウ喜べモーニングマウンテン。近いうちにまたなんかやっかもしんねーから。そんときゃ流星のヤローぶん殴ってでも認めさせてやらァ」
「……名前で呼べうぇい」

 ケケ、そんじゃな〜。そう最後に言い残すと、今度こそ部屋から去っていった。部屋に残された御代は、病床の上で天井を見る。シミひとつない、きれいな天井。

「誰かこないかな……超暇」

 ぽつりと呟いてみるが、それを拾うものは誰もいなかった。





 静かなくらいがちょうどいい。誰にも邪魔されず、誰からも見向きもされない。なんと素晴らしい空間なのだろう。この図書館という場所は。
 ここはマグノリアにある巨大な図書館。その一角に、とある少女は傍らに大量の分厚い本を積み重ね、その中の一冊を静かに読んでいた。メガネをかけ、長髪で、いかにも文学少女と言っても差し支えないほどの少女。名を、『英咲(えいさき)れお子』。れお子はここでの日々を何よりの楽しみにしていた。静寂なくらいがちょうどいい。本に囲まれて1日を過ごす。嗚呼なんと素晴らしき理想の日常。文学的な本を読み、心の癒し、知識の蓄えにする。これこそが人類が目指すべきものだろう。
 といいたいところなのだが、彼女が今読んでいるのは、大昔にやっていたという『特撮ヒーロー』をまとめたもの。よく見ると積み重ねられている本も、殆どが『ヒーロー』に関するものばかりである。だがそれでいい。読む本など偏っていい。それが自らの心を満たし、知識の蓄えになるのであれば。れお子はそう思っていた。

「れお子さん」

 ふいに声をかけられる。よく話す人物の声であったので、れお子は栞を挟んで本を閉じ、そちらの方へ顔を向ける。ああ、やっぱり貴方だった。

「……アスカさん。呼び捨てでいいのに」
「れお子さんだってさん付けじゃない。人のこと言えないと思うなー」

 アスカと呼ばれたその人───東野(とうの)アスカは、くすくすと小さく笑い、話を続ける。

「『会合』の時間。だよ?」
「え……あ、ああ。確かに。……それで?」
「もう!れお子さんも来るんだよ、ほら」

 アスカはそう言うと、れお子の手を引いて一緒に来るように言う。当のれお子はなんでそんなものに、などと言いたげな顔をするが、アスカがこの通りだ、拒んでも無意味だろう。もっと本を読んでいたかったのに。仕方ないかなあ。
 れお子は気だるげに立ち上がり、アスカとともにその会合とやらに行くことにしたのだった。





「モーニングマウンテンは?」
「暫く安静にしていろー、って指揮官に言われたってさ」
「へえ〜何やらかしたの?」
「さあ?指揮官に聞いても教えてくんなかった」

 結構な人数が集まり、わいのわいのと騒がしいここはマグノリアの大会議室。この前、フォルテッシモについての報告会をしたあの場所である。そこの丁度真ん中のスペースに円卓が置かれ、それを囲うようにある人物たちが座っていた。その中にはあの三森弥里もいた。最も、ヒロポンを手にしていて表情がいかにも危うげではあるが。
 円卓には空席は計4つあり、先程の会話を鑑みるに、これから席が埋まるのはそのうちの3つなのだろう。現に、空席になるひとつに、御代の写真が置かれた。端から見れば何かあったのかと問いただしたいものであるが。

「流石にそれは駄目だと思います」
「んー、じゃあ紙に『御代代理』って書いて椅子にはっつける?」
「その発想はどこから来るんですか…」

 やいのやいのと騒いでいると、扉が開けられアスカとれお子が入ってくる。2人が入ってくるのを見るなり、他のメンバーは2人の席を少し引いてやり、すぐに座れるようにした。礼を言いつつアスカとれお子は座る。これであと空席は1人となった。

「あとは指揮官だけかー。脱いでいい?」
「アウト」
「れお子即答すぎない?脱ぐけど」

 れお子にダメ出しをされたにもかかわらず、突然立ち上がって服を(全部とまではいかないが)脱ぐ者がいる。羽織っていたコートを投げ捨て、腰に巻き付けていたアクセサリーも投げ捨て、ついにはベルトにまで手をかけ始めたため、慌てて隣りに居たアスカが止める。流石にまずい。

「ヒナタさんそれはまずいって!男子いるし」
「えー」
「百合姉さんがスタンバってるし!」
「あっ、おとなしく服着てます」

 投げられた言葉にヒナタと呼ばれた彼女───保瀬(ほせ)ヒナタは一瞬で真顔になり、投げ捨てたはずのコートとアクセサリーを直し始める。その様子を見ていた百合姉さんこと、霧島百合(きりしまゆり)は、残念そうな顔をしてヒナタを見つめる。流石に百合姉さんが期待することはできないっす。言外にそう伝えるが、多分伝わってないんだろうなと肩を竦めた。諦めて席に座り直す。
 そうこうしているうちに扉が開き、流星がその場に入ってきた。いつもの服装は崩さずに、そのまま入ってくる。だからだろうか、部屋の中の空気が一瞬にしてピリッとしたものへと変わり果てる。流星は空いている席のうちの1つに座り、周りを見回す。欠席の御代以外が揃ったことを確認すると、流星はひと呼吸おいて口を開いた。

「全員揃っているな。念の為点呼をするが───朝山は安静、浅葱柚子(あさぎゆず)、英咲れお子、川上水木(かわかみみずき)、霧島百合、東野アスカ、藤山(ふじやま)まろん、保瀬ヒナタ、三森弥里、そして私。いない者は手を上げろ」
「指揮官ー、そのネタ古いです」

 全員の名前を読み上げ典型的なセリフをつぶやくが、即座に川上水木と言う名の少年に突っ込まれる。その隣にいた藤山まろんなる少女は、首を傾げてケタケタと笑った。意味がわかっているのか、わかってないのかは置いといて。流星は少し黙ったあと、1つ咳払いをして話を再開する。この者たちが集い、名乗る名はただひとつ。

「では。これより『チームケイオス』定例会合を執り行う。寝たら牙突をかますから、そのつもりで」


そう、ここに集まった者たちはすべて、クセの強い奴らが集うグループ『チームケイオス』の面々なのである。彼らはこれから、何を『しでかす』というのだろうか?


続く

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.19 )
日時: 2018/10/05 12:50
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM

「流星は?」
「チームケイオスの会合やて」
「へえ」

 マグノリア喫煙所。いつもならいるはずの別の2人がいない今このとき、リーダーの狂示と医療部長那生は、各々にタバコを吸っていた。狂示のタバコは少しタールが強めのものらしい、とは那生が言っていたことだが、割とどうでもいい。狂示は口からぼわっと煙を吐き出すと、何か考えるように手を顎に当てる。

「チームケイオス、チームケイオスねえ。ネーミングセンスの欠片もねえな」
「それ言ったらアカン」
「つぅかよお、今思い出したんだけどよ」

 自分から出した話題の流れを切り、ふと狂示は言う。タバコはすでに3本目へと突入していた。

「今日でちょーど、3年になるんだな」
「へぁ?なんや?」
「ホレ、青森の───」

 そこまで言うと那生も同様に思い出したようで、間抜けた顔を苦々しいものへと変えた。

「大火災……『青森大火災』やな」

 その言葉が口から漏れ出た時、喫煙所は異様な空気に包まれた。





「さて、まずは朝山だが。つい昨日の戦闘により、3日間の安静を言い渡した故、しばらくは来ない。以上」
「なんで指揮官は無傷なんですか」
「私が秩序だからだ」
「あっはい」

 ところ変わりチームケイオス定例会合。まず流星が欠席の御代について話を終えると、多少の茶番はあったものの、すぐに別の話題へと変わる。それは奇しくも今現在喫煙所にて、那生と狂示が会話していた、あの青森大火災についてだった。

「今日で3年目になる。あの光景は今でも忘れられない」

 その一言に、チームケイオスのひとりであり、青森出身の水木は体を固くする。
 ────青森大火災。それは、3年前に起こった、大規模な火災。青森県のほぼすべてが全焼。死亡者は…生存者が当時100人にも満たなかったというから、数えるだけ徒労になるだろう。
 かつて青森県を突然、火災と呼ぶには巨大すぎる火の塊が喰らうように広がった事件。出火原因は不明。フォルテによるものとも、自然によるものとも。青森県を、火の塊が数日感に渡って焼いた。その火が青森県の外を出なかったことが、不幸中の幸い、いや、奇跡にも等しいだろう。なにせ本当に、青森県以外は焼かなかったのだから。
 その大火災で奇跡的に生存したのが、川上水木。そして別にいるもうひとり。特に水木はその故郷を焼いた火災が原因となり、フォルテが目覚めフォルトゥナとなったのだから、無意識に体を固くしてしまうのは当然のことである。そのせいで、彼は笑顔を捨てたのだから。

「未だ捜査は進んでいない。無理もないだろうな、何せ何もないに等しい状態だ」
「出火原因もですー?」
「ああ。あんな火災を引き起こせるものなど、常軌を逸脱している。それが例えフォルテであってもな」
「そりゃそうよなー、どんだけ強いフォルテなんだって話になるし」

 水木の隣にいた柚子がため息をついて、椅子にもたれかかる。
 確かに柚子の言うとおり、それが例えフォルテだとしても、土地まるごとをいっぺんに焼くフォルテなど聞いたことがない。ましてやあったとしても、使用者の身が持たないだろう。そうなる前に使用者は丸焼きにされている。ならば自然現象か?いいやそれも違う。もし自然現象ならば、そんな大規模なものはよほどのことがない限りない。人が意図的にやった放火だとしても。それはないだろう。
 だからこそ、水木は手を握りしめる。固く固く、握りしめる。故郷や家族、友も焼いたあの炎。水木は憎くて仕方がなかった。そしてそのときに目覚めた自らのフォルテも、彼は嫌いだった。すべてが焼かれたあとに目覚めたフォルテ。それは全てを焼かれるさまを見てきた水木にとって、絶望するにはひどく簡単なものだった。

「水木、舌を噛むなよ」
「……はい」

 柚子にそう声をかけられ、いつの間にか力を込めていた奥歯を緩める。たしかにこのままにしておけば、気が付かないうちに舌を噛んでいそうではあった。手の力も自然と緩める。

「それでだ。今回チームケイオスはその青森大火災の現場───青森県に出撃する」
「理由を聞いても?」
「3年目だというのと、こちらの独自の調査だな。それにチームケイオスは青森出身者が多い。それもある」
「そういや弥里ちゃんも青森出身者だよねー。なんか覚えてない?」
「んー、火災起きる前に上京してたからしーらない」
「それでだ。今回の出撃はフォルテッシモを使わず、生身での出撃となる。対策はしっかりしておけ。出撃予定は本日正午。いいな。それでは解散」

 早々とたたまれた会合。言いたいことだけを言って満足したのか、流星はさっさと席からたち、懐からタバコを取り出して部屋をあとにした。あれは2時間吸うつもりだろうな、と柚子は思う。
 流星を皮切りにして、チームケイオスの他の面々も次々と席を立つ。その中でも会合中ただずっと笑っていただけだった藤山まろんは、席を立ったあと何かを思わせるような素振りを水木に見せつけた後に部屋をあとにした。残念ながら当の本人である水木は、それに一切気づくことなく部屋をあとにしたのだが。

「今日で3年目、ねえ。そりゃ当時は大騒ぎだったよねー」
「青森がなくなった……だったっけ」
「そうそうれお子のそれ。ずーっとひっきりなしにテレビはそればっかり。ほんとに突然だったから仕方ないんだろうけどさ。今にして思えば、あれ報道に熱が入り過ぎてやばいと思うのよ、いやほんとに」

 そうやってヒナタとれお子、そして後ろからアスカが加わり、3人で青森大火災当時のことを思い出していた。あれだけ巨大な火災だったし、なによりもひとつの県がもろともなくなった、というのはありえないことであったわけで。実際の映像がテレビでひっきりなしに流れてようやく、人々は現実なのだと受け入れることができたのもあるのだろう。にしてもやり過ぎな部分があったのは否めないが。

「かろうじて生き残った人たちにさー、言っちゃ悪いけど『ねえどんな気持ち?ねえねえ今どんな気持ち?』ってやったらだめでしょ…しかも亡くなった人たちへ一言お願いします、じゃないよほんとさあ」
「水木は受けてなかった分、そのニュース見てしばらく手がつけられなかった」
「うん、すごかったよねえ。時雨くんでさえ近づけなかったし」

 何もかもをなくした水木にとって、そのような報道はただ彼の傷をえぐるだけ。彼の荒れ様を思い起こすのは容易いことだ。

「にしても急だねえ。今日もう出撃って早くない?」
「いつもの指揮官は3日くらい間を置いていた。たしかに早い」
「だよねー」

 そうしてしばらく歩いていると、向こうから人影が2つ、こちらへと歩いてくるのが見えた。それはこちらにはどうやら気づいてはいないようであったが、アスカはその2つの人影に対していつものように挨拶をする。

「あっ、こんにちは〜」
「こんにちは〜。ほらナナシちゃんもご挨拶〜!」
「……っす」

 ナナシと呼ばれた少女は、もう片方の少女に言われると、声は小さかったもののちゃんと挨拶らしき挨拶をする。れお子はその2人を見てすぐに口に出す。

「……この子達、『ななよし』?」
「ななよし?えーっと……ああ!ななよしかあこの子達!」
「な、ななよし?なにそれ?」

 ななよし。その言葉にはたと気づいてアスカは手を叩く。だがヒナタだけは何もわからなかった模様で、アスカは彼女に対し説明する。

「えっと、確か『ナナシと善佳』で、『ななよし』だよヒナタさん」
「ちょっとまってよくわかんない」
「……ナナシって子と、善佳って子がいっつもいるからついたあだ名が『ななよし』」
「あ、そういう意味?」

 ようやく解せたようで、ヒナタはアスカと同じように手を叩く。そしてななよしと呼ばれた2人組をまじまじと見つめる。

「仲良いんだねー」
「もっちろん!」
「どこがだ」
「でもななよし、この前謹慎処分出されたって聞いたけど」
「外に出なければいいんだよ〜今から娯楽室行くの」
「そうだったんだ、私達も行く?れお子さんヒナタさん」
「そんならアタシも行く!れお子?」
「本読みたいから、あとで」

 それだけれお子は伝えると、2人に挨拶をしたあと図書室へと向かっていった。一刻でも早く安息の地へ向かいたかったのだろうか。自然と足が早くなっていく。

「……」

 れお子はなぜだか、胸騒ぎが起こったのに知らないふりをするように、家とも呼べる図書室へと急いだ。





「………ねえ、青森のあの火災のこと。覚えてる?



─────『カナム』。」




続く

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.20 )
日時: 2018/10/07 22:34
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM

 旧青森県。あたりはまっさらで、ところどころ焼け焦げたあとが未だに残っている。さすがにやけた匂いはもう残ってはいなかったが、それらしき痕跡は痛々しいほどに残っている。目の前に、見せつけてくるように。
 その地に降り立つのはチームケイオスの面々。今回は2手に別れ、それぞれを見回る。視界を遮るものなど何もないからか、随分と見晴らしがよく、それなりに安心感はあった。とはいっても、足元の問題があるので油断はできないのだが。

「ここは最初に燃えたとされる場所だ。未だ人骨が発見されるな」

 2手に別れた中の、流星が率いるグループは、大火災における出火元だとされる場所に来ていた。その中には川上水木の顔もあったが、表情は固いままだった。流星は水木に向け、声をかける。

「川上水木。お前が『カナム』を見つけたのは、ここの近くだったんだな」
「はい。そうです。僕は逃げている途中で、この近くで『カナム』見つけました」

 ぐっと拳を握りしめる。その様子に流星は構うことなく、あたりを調べ始める。水木の隣りに居た柚子は、彼の背中をぽんと叩いてやり、血が出そうなほど力を込めていた拳を緩めさせる。そしてふっと笑いかけると、僕達も少し調べよっか、と水木を別の場所へと連れて行く。残った弥里は流星にくっつき、地中などから出てきたものに、興味本位で薬剤をふりかけていく。

「『カナム』ちゃんはまだ寝てる?」
「はい……今日も反応はないです」
「そっか。『カナム』ちゃん、まだ起きないか」
「そもそも起きているところを見たことがないです。気がついたらいたし、気がついたら寝ていました。それに長い間、親族をたらい回しにされてたみたいで…」

 そこまで言うと水木は黙る。柚子もそれ以上の詮索は無用だと判断したのか、改めて周りを調べ始める。
 ───『カナム』。それは水木が青森大火災の時に、命からがら救い出した少女のことである。本名、年齢、過去経歴は一切謎。水木でさえ、『カナム』という名前と、ずっと目を覚まさないということだけしか知らない。いつからかはわからないが、『カナム』は寝たまま目を覚まさない。それどころか、目を開けて起きたことすらないのだ。最もそれは水木が彼女を知ってからのことであるが。ともかく、彼女はずっと目を覚まさず眠り続けている。いつ目を覚ますのかはわからない。そもそも目を覚ますのかすらわからない。
 現在彼女はマグノリアの地下施設にて保護されている。彼女専用の機材───というかカプセル───で、眠り続けている。何にも邪魔されることなく、何の妨げも許すことなく。なお、彼女のことを知っているのはチームケイオスの面々と、医療部長の那生、そしてリーダーである狂示のみだ。他は存在すらも周知されていない。時雨でさえも。

「───3年間。長かった?」
「いえ。とても短いものです。まだ3年目なんだな、としか思えません。未だに引きずってます。『なんであの時、もっと前に発現していれば』って、ずっと思ってます。ほんと、なんでですかね。柚子さん」

 そういった水木の目はけっしてきれいなものではなかった。どす黒く淀んて、その先の暗闇は恐怖心を煽らせるほど。口元は固く真っ直ぐに結ばれ、ただ何かをもらいたげに、柚子の方へと向かれていた。柚子はそんな水木に引きつつも、笑顔を崩さない。崩さずに口を開く。

「────僕は、何でもわかる神様じゃないよ」

 それだけいうと、さあ調査を続けようか、と話題を切って顔を逸らした。彼の項には嫌な冷たい汗が流れる。
 ほしい答えが来なかったのか、その柚子を少しにらむと、水木は同じように調査に戻った。

「(わあすっごい不穏。水木くん、そんなんじゃ助けられるものも助けられないよ。逆にそんなんじゃすぐ殺しそう。君絶対意図せず殺すたち悪いタイプだよね)」

 ただひとり。弥里だけは水木を見てそう思った。





「そっちなんか見つかった?れお子さん」
「何もない」

 一方変わって別のグループ。こちらではれお子、アスカ、ヒナタ、百合、まろんがあたりの調査を行っていた。だが新しく見つかったものなどは見られず、どれだけ調べてみてもハズレばかり。そうかんたんには行かないようだ。あったとしても放置されている人骨くらいで。流石に黙祷は捧げたが、ちょっと危険な気がする。

「まさかここまで人骨が放置されてるとはね」
「予想外、だった」
「それほど大規模だったのよ、この火災は」
「実際水木くんもその火災にあって、消えない火傷痕をつけちゃったらしいし、ああそういえばフォルテも───」

 ヒナタが何かを言いかけたとき、場の空気はピタリと固まる。ヒナタもあっという顔をして、手に口元を当てる。この場に水木本人がいなかったことが幸いだった、というようなことをれお子が言うと、ごめんと一言ヒナタが謝る。

「この話は軽率に出しちゃいけなかったやつよね。ごめんほんと」
「まあまあ彼本人がいないから、まだ良いでしょう。尤も、良い話でないのは確かだわ」

 百合はそう言うと、空を見上げて目を細める。嫌に良い天気ね。そうつぶやいてみせた。

「だいかさい、だいかさい?あおもりあおもーりー、まろんわかんないわかんないっ」
「ああ、そうだね。『今の』まろんちゃんにその『記憶』は共有されてないかあ」
「まろんはまろん、あなただあれ?わたしだあれ?わたしまろん?まろんだあれ?まろまろまろーんけらけらけらりん」
「うーん、これ別の『人格(おもかげ)』にして来たほうが良かったんじゃ」

 ───フォルテ、『人格(おもかげ)』。藤山まろんのフォルテであり、藤山まろんを『藤山まろんたらしめている』そのもの。かんたんに言えば多重人格、というやつだろうか。人格、姿形、声をもろとも『全く別のもの』へと変えるフォルテ。ただこのフォルテは限度はなく、ころころとしょっちゅう人格(おもかげ)が変わってしまう。本人の意思があったとしても、なかったとしても。だから、そこにいる『藤山まろん』が果たして『藤山まろん』であるかどうかすら、確かめるすべはないのである。もしかしたらもとから、『藤山まろん』など『存在しなかった』のかもしれないのだから。
 だから彼または彼女に、青森大火災の記憶は『ひとつを除いて』存在しない。記憶は共有されないのだから。

「まあまろんちゃんのことはアタシが抑えるからいいとして。とりあえずアタシたちは周りを警戒して、調査を再開しましょう。グローリアがここに来ないとは限らないんだから」
「はーい」

 その一言で各々また調査し始めた。何が見つかるとかは、次の瞬間の自分たちにしかわからない。





『なんで…なんでいま!』

 少年は絶望した。力が目覚めたのは何もかも手遅れになったあとだった。

『今になってこんなのがでるなんて……』

 少年は折れた。その力は手遅れになった自分をあざ笑っているかのようだった。

『こんなの……こんなの……こんなのぉ!!』

 少年は自らの手の周りに現れた『水球』を、自らの手で破壊した。


水球は少年の頭を濡らしただけだった。



続く

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.21 )
日時: 2018/11/28 20:37
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM

「そういや」
「どないしたん狂示」

 マグノリア医療室。たまたま遊びに来ていた狂示と那生は、互いに菓子をつまみながら昔話やらなんやらに花を咲かせていた。その中で唐突に、狂示は何かを思い出したようで、ぼそりと零す。那生はもう何個目かもわからない菓子に手を出し、狂示に声をかける。狂示は食べかけの菓子を一口で頬張りいくらか咀嚼し飲み込むと、茶を飲んで話を始める。

「いや、チームケイオスのメンバー。『2人』たんねーなと思ってな」
「2人ィ?誰と誰や?」
「ホレ。あの『魔法使いと弟子』」
「んんー……あぁ、せやな。どこいっとるんやろか」

 狂示と那生はまた思い出話を始める。それはマグノリアが今のような形になる前。そして今の形になってから。マグノリアにふらりと戻ってくる、『流れの魔法使いとその弟子』の話。
 チームケイオスで流星と同じくらいの歴で、特定の場所に居着かない。ふらりとやってきては窮地を救い、あるとき突然姿を消す魔法使い。そしてその魔法使いのそばを離れず、魔法とは似ても似つかないフォルテを使う、20に満たぬ弟子。

「今度はいつ戻ってくることやら」
「案外近かったりしてなぁ」

 狂示と那生はにやりと互いに笑うと、ひとつだけ残った菓子に同時に手を伸ばした。





 雲行きがだんだんと怪しくなってきた、燃え尽きた青森県にて。チームケイオスの面々は変わらず、周辺の調査を進めては居たが、特にこれといった発見はなく。すべてが徒労に終わりそうであった。現に、流星は顔にこそ出さぬものの、目は諦めが混じっている。他のメンバーも、もうめんどくさくなってきた、というのが本音だろう。絶対に声には出さないが。
 そのほんの数分後、別行動をしていたヒナタ達が、疲れた顔をして流星達のもとへ戻ってきた。

「しきかーん、こっちにはもう何もなかったですよー」
「保瀬ヒナタ。そちらは終わったのか」
「ええ、ええ。なーんにもなかったです。というかこの調査やって意味あります?こんだけ燃え尽きて何もないのに」
「『何もない』のを『確かめる』。それも立派な調査だ」

 流星はしれっとそう言うが、ヒナタは訝しげな顔をしてあたりを見回す。
 本当に何もない。建物と呼べるものは、殆どが燃え尽きてしまい、視界の邪魔となるものはないと言っていいほどだ。やはり調べても何も出てこなさそうだ。強いて言えば、雨が振りそうだなあとか、グローリア来たりしてなあ、とか。

「(わざわざ青森大火災の日に、水木くんのトラウマえぐるようなことしなくてもいいと思うんだけど)」

 ヒナタはちらりと水木を見る。当の水木は癒えない傷に塩を塗りこまれたかのように、顔には疲労と別の何か───例えるなら絶望───の色が、複雑に混ざり合っている。手は止まってどこでもない虚空を見つめ続けているだけ。隣の柚子はそもそも作業に飽きているため、全く別のことをしていた。とは言っても体育座りで寝ているだけなのだが。

「(水木くん大丈夫かな、隣の柚子はスルーしておくとして)」

 ヒナタは水木に近づき、声をかける。

「水木くん疲れた?」
「……あ、いえ。ちょっと考え事を」
「そっか」

 それ以降会話は続かなかった。それ以上踏み込むのは良しとしなかったのか、タネが見つからなかったのか。ヒナタと水木は互いに虚空を見つめる。やることがないから。飽きたから。
 その様子を弥里はじっと見ていた。面白そうとか、そういう理由ではなく、単に気になって。弥里はじっと2人を見続ける。ちょっかいを出してやろう、少し話しかけてみよう。そんなことは思うはずもなく、弥里はしばらくしたあとに注射器を懐から取り出し、そーっと水木の方へと近づいていく。音もなく、そーっとそーっと。───だが。

「やんないけどねー」
「えっ?」

 ぼそっと言ったあと、水木が咄嗟に振り向いたため、弥里は手にしていた注射器をすぐさま懐へとしまった。そしてニッコリ笑うと、水木の肩をがしりとつかむ。

「もうすぐ帰る時間だから、帰ったらヒロポン打とうね」
「嫌ですよ!?」

 ケラケラケラと弥里は笑うと、水木の方から手を外してもとの場所へと戻っていく。残された水木は何がしたかったんだとこぼしつつ、その場にまた座り込んで、何をするわけでもなく暇を持て余していた。
 弥里の方はというと、一瞬真顔になったかと思うと、すぐさまニッコリとした笑顔に戻り、流星の隣へと戻る。

「(なんだ、元気よく返事できるならまだいい方じゃん)」

 ヒロポンは打たなくていいかな?なんてことを思いながら、やることもないのであたりをぐるりと見回す。いやほんとに何もないなあ、まさか故郷がここまで燃えるとは思わなかった。なんて他人事なことを思う。

「きれいに燃え尽きたなー」
「…ああ、お前も青森出身だったな」
「えーまー。尤も大火災起こる前に上京してたんで、どうでも良かったんですけど」
「懐かしいな、あの頃のお前は見るに耐えない姿だった」
「ちょっともー懐かしすぎるからやめてくださいってば〜!」

 流星の背中をバシバシと遠慮なく叩く弥里。その顔には明らかに、『掘り起こすのやめろ』と書いてあった。顔こそ笑顔ではあったが、それが逆に恐ろしい。周りは青ざめた顔でそちらを見ている。

「背中が痒くなるからやめろ」
「はぁい。んでそろそろ帰る時間じゃないです〜?雨も振りそうですしぃ」
「……そうだな。特にこれといった発見もなかったしな。これではただ来て荒らしただけになってしまったが」
「ほんと何しにきたんですかね」

 全員の顔には披露の文字が浮かんでいる。結果は何もなかった、得られたものはそれだけだった。これ以上ここにいても無駄だろう。

「さて、帰るとするか。本部に通信……?」

 流星が帰還しようとして、インカムをつけて通信をつけようとした。が、流星はあとに続くであろう言葉を発さなかった。何かあったのだろうか。

「指揮官?早く帰りましょ?」
「……おかしい。繋がらん」
「へっ?」
「何度も通信をかけてはいるんだが……応答がない。完全に繋がってない」

 そして次の瞬間、れお子が何かに気づき、大声を上げた。

「全員伏せろッ!!」

 刹那、鼓膜に響くのは爆発音。爆風がチームケイオスを襲い、音は衝撃波となってやってくる。辛うじてヒナタが体の一部を『盾』に変化させ、ある程度の被害は防げた。煙は濃く、各々は口元と鼻を手で覆い、誤ってその煙を吸わないようにする。
 ようやく煙が晴れてきた頃、ヒナタは変化を解除し、その爆発音がした方向へ顔を向ける。

「ッ、皆戦闘準備!」

 そこには、『グローリア』の紋章である『槍と剣』が描かれている旗が立っていた。周りには、それらしき人物が数人ほど。そしてこちらへ向けて、銃口のようなものを向けている。明らかにこちらに明確な敵意を持っていることが伺える。その背後には、フォルテッシモの姿も何機か確認された。確実に、こちらがマグノリアであることを分かっている。もしわかっていなければ、無闇矢鱈に武器は構えないし、そもそもフォルテッシモなど持ってこない。
 チームケイオスの面々は、一同にそれぞれの武器を構える。あるものは銃、あるものは刀、あるものは鞭、あるものは注射器。

「通信が繋がらないのは奴らのせいですかね、指揮官」
「十中八九そうだろう。『周囲転換』もなされているからな」
「もっと警戒しておくべきだったわね。いくら燃え尽きた青森県とはいえ、ここにグローリアが来ないという保証はないわけだから…」

 そう言って百合は憂鬱だわ、とため息をつきながら鞭を振るう。その瞳にはかすかな怒りが生まれている。

「───チームケイオス、緊急事態。グローリア襲撃アリ。これより我々は迎撃を行う。総員、戦闘を開始する」



『我々は、混沌であり狂気である』






「───お師匠。何やらめんどくさそうなことになってるけど」
「そんなにめんどくさそうかな?まあ、だけどまだだめだよ」
「何がですか?」


「───奇跡は、突然くるものさ」


続く

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