複雑・ファジー小説

変革戦記【フォルテ】
日時: 2019/02/05 22:35
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM
参照: https://m.youtube.com/watch?v=oXxfk4iPPjY

※全年齢版


参照:イメージソング『Beat Your Heart』(ブブキ・ブランキ第1期OP)


国を守るための防衛兵器───巨大な機体、『フォルテッシモ』が普通になりつつあった時代。
突如としてフォルテと呼ばれる能力に目覚める者たち。フォルテを持つ彼らを、人々はフォルトゥナと呼ぶ。
しかし、彼らを狙い、彼らを連れ去って自己利益のためだけに利用しようと目論む悪の組織があった。その名も『グローリア』。あらゆるものを掌握し、いずれは国家転覆をも狙うフォルトゥナだけで構成された組織である。当然フォルテッシモも、グローリア専用機を大量に生産しており、かなりの数を所有している。
だがそれに大人しく屈服しているわけが無い。そのグローリアに対抗すべく、『マグノリア』という組織が作られた。未成年のフォルトゥナの少年少女たちで構成されている。
グローリアに支配されているこの状況に風穴を開けるため、グローリアを倒すため、何よりも家族や仲間を守るため、彼らは戦う!


※注意※
こちらの作品は、18禁板にて連載開始予定の小説、『f-フォルテ-』の全年齢熱血ロボアクション版になります。
こちらを見てから18禁板版を見ようとチャレンジするのは、大変おすすめ致しません。
こちらから先に見た方は、18禁フォルテの存在はそっと胸にしまっておきましょう。
そして18禁版からこちらを見た方は全力でお楽しみください。
もちろん、こちらから先に見た方も。
キングゲイナーやGガンダムのノリとほぼ同じです。雰囲気で楽しんでください。
この作品はフィクションです。実在する個人、団体、その他とは一切関係ありません。
(9/7 コメライ→複ファへ移動)


18禁と同じ点
・基本の組織や用語
・キャラクター(例外あり)
・世界観(例外あり)

異なる点
・話の内容
・話の明るさ
・結末
・連載する板


用語集>>1
登場人物一覧>>2
第1話【Magnolia】
>>3 >>4 >>5 >>6 >>7 >>8 >>9
(まとめ読み用)>>3-9
第2話【Oshama Scramble!】
>>10 >>11 >>12 >>13 >>14 >>15 >>16
>>17
(まとめ読み用)>>10->>17
第3話【fake town baby】
>>18 >>19 >>20 >>21 >>22 >>23 >>24
(まとめ読み用)>>18-24
第4話【Distorted†Happiness】
>>25 >>26
第5話【Marionette】
第6話【Welcome to the Black Parade】
第7話【絵空事】
第8話【Red doors.】
第9話【Red Like Roses.】
第10話【サンクチュアリを謳って】

(応募スレはリク板をご覧ください)
※応募されたキャラクターについて
できる限り応募された内容に沿って使わせていただきます。どうしても全年齢に出るならばこうして欲しいというご要望がありましたら、随時受付を致します。可能な限りでお応えさせていただきます。
もちろん全年齢版のみ、または18禁版のみに出してほしいというご要望も受付します。
ご遠慮なくお申し出ください。

Page:1 2 3 4 5 6



Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.7 )
日時: 2018/03/24 08:26
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM

「ってて…ここどこだ?」

 遊喜は半ば落ちるような形である場所に到着した。尻から落ちたためか、そこに強い衝撃が走り、びりびりと尻が傷む。痛みが治まらない尻をさすりながら、遊喜は今いる場所を見渡す。
 今遊喜がいる場所は薄暗く、軽く照らす照明すらない。窓もない。一緒にいるはずの泥と玖音もいない。あるのは大量の書物と、書類と思われる紙の束があることくらいだ。明らかにここは浅草の仲見世通りと呼べるような場所ではない。こんなところが、浅草にあっただろうか。

「明らかこれ転送エラーだよな…」

 遊喜はへこんだ。さらに落ち込んだ。さっきの初歩的なミスと言い、今起きた転送エラーといい、今日はとことんついていない。なんでこんなことが立て続けに起こるんだ。遊喜はため息をついて肩を落とした。そんなときである。

『ヰ吊戯、聞こえますか。指令室』
「えっ、あ、はい?」

 突然インカムから、先ほど転送したはずの指令室から通信が入った。遊喜はあわてて返事をする。

『転送エラーが発生しました。あなたがいる場所は本来転送するべきでない場所です』
「たはー…ですよねー…で、どこ?」
『落ち着いて聞いてください。あなたのいる場所は───』

 後に続く言葉はなかった。なぜならば

「いたぞ!侵入者だ!マグノリアのフォルトゥナだ!」

突如としてその場所の扉が開かれ、遊喜たちにとっての『敵』───グローリアの連中が乱入してきたからだ。





「な、なんてところに飛ばしてるんですか!」
『原因は不明。現在調査中です』
「そんなマニュアル通りの返答しないでください!」

 同時刻、浅草。予定通りに転送された泥と玖音は、インカムの向こうでいくらか落ち着きを取り戻し、通常業務に戻ろうとしている指令室のオペレーターに、口々に文句を言っていた。やれなんでエラーを起こしただの、やれなんで局地的なエラーだのなんだのと問い詰めるが、指令室のオペレーターはマニュアルにある通りの答えを返すだけ。まるでどうでもいいからさっさと与えた任務をこなせ、そして帰ってこい、あとは知らんと言わんばかりである。普段は温厚な泥も、これにはだんだんといら立ってくる。それは玖音も同じ。

「早く原因を解明しないと帰った後アンタらの頭部に風穴開けんぞクソ役立たず野郎」

玖音が怒気たっぷりにそういうと、オペレーターは言葉を動揺しながらも強めた。

『…その言葉、撤回しなさい』
「いやだね。勝手な都合で後回しにするアンタらに文句言われる覚えはないよ。それとも何?向こうでもし、遊喜が殺されたとしたら…『指令室(バカども)のせいで遊喜が死にました』って『リーダー(あの人)』に言われたい訳?」

紡がれた言葉に、オペレーターは一気にだんまりを決め込んだ。よほど嫌なのか、返答をあきらめたのか。どちらともわからないなか、玖音は続ける。

「わかったらさっさと対応しろ。そんで遊喜を引き上げろ。たとえ『同年代』でも───容赦はしない。覚えておけ」

それを最後に、玖音は通信を一方的に切る。これ以上は言っても無駄だと結論付けたのだろう。泥も同様だった。

「そんじゃ早く終わらせようか」
「そうだね───隠れてないで出てきたらどうだい?そこのお二方」

玖音が持っていたスナイパーライフルを構え、泥が声をいくらか張って言うと、物陰から怪しげな人物が2人出てくる。すでに周囲はデジタルデータへと変換されていたのか、いつのまにやら人はいない。おそらくその2人───グローリアの構成員がしておいたのだろう。1人は男で黒のスーツ、もう1人はやはり男でベージュのトレンチコート。お互い様だがとても、この浅草の、それも仲見世通りに似合う服装ではない。

「気づいていたか」
「まあとっくに。僕たちは『周囲変換』をしてないからね。それに見え見えなんだよ…その殺意。気持ち悪い」
「フン、マグノリアのガキ共にしちゃいい鼻をもってやがる」
「ガキに気づかれる殺意ぷんぷんにおわせるほど雑魚ってことだよ言わせんないい大人が」
「…いっちょまえに挑発しやがって。しってっか?目上には敬意を───」
「知らないね」

 その言葉を言い終える前に、玖音はライフルから放たれた弾丸で、『確実に』トレンチコートの男の肩を打ち抜いた。
それなりに近い距離にいたせいか、打ち抜かれた肩、そして腕は見事に吹っ飛んだ。トレンチコートの男はワンテンポ遅れて絶叫する。痛みによって、つながっていた腕がなくなったことによって。とんだ腕はいくらか遠い場所に落ちる。ぼとりと。

「こ、このクソガキ共!」
「なんだ。結構もろいようにできてんな。ってかオリジナルの弾丸作ってもらったんだっけ、そりゃ飛ぶわ」
「誰に頼んだの…?」
「坊ちゃん」
「ああ、彼か」

 どうやら弾丸は『特別製』だったらしい。確実に腕が飛ぶようなものを作ってくれと、玖音は『坊ちゃん』に頼んだようで。それを今、玖音はふと思い出した。そしてうっすらと口角を上げる。

「さてと泥。さっさと終わらせるよ」
「わかってるよ!」

 浅草、仲見世通り。2つの組織による『戦闘』が、人知れず始まりを告げた。





「どええええ!?」
「なんだ1人か。なら捕まえて『バックアップ』にしてやらあ!」
「は!?バックアップ!?」
「オラオラ捕まえろ!!相手はフォルトゥナといえどクソガキ1人だ!」
「うわこっちくんな!っつーかこいつらグローリアかよ!!」

 突如現れた3人組のグローリア構成員に、遊喜は倉庫内を逃げ回るばかり。外に出ようとしても構成員の1人が、周囲をデジタルデータにさせて空間を切り離しているため、脱出はほぼ不可能。いつもの転送先から帰る方法をしても、空間が切り離されているために、『本部からなにも来ない限り』、外に出てもどこかの空間へ放り出され、迷子になるだけだ。そうなったら帰還方法はまずない。絶体絶命のピンチである。通信を取ろうと思っても、なぜか本部とつながらない。

「こんの、逃げ足早いなコイツ!」
「おいフォルテ使って捕まえりゃいいだろうが!」
「そうだフォルテ…!えっとたしかここに…あった!」

 逃げ惑う中、構成員の一言にハッと気づき、遊喜は腰につけていたポシェットからカードを取り出す。そしてカードを高く掲げ、叫んだ。

「こい!俺のサイキョーカード!『 機械仕掛神(デウスエクスマキナ) 』!」

その時、カッとカードが光り輝く。風は巻き起こり、その光はどんどん増していく。思わず目をつぶらなければ耐えられないほど。それまで強気だった3人組は、腕で顔を覆い、目をぎゅっと閉じる。
光と風がやんだ後、視界を開かせたその先にいたのは、『歯車がぎっしりと詰め込まれ、所々から蒸気が噴出している機械でできた人型のようなモノ』であった。背後には様々なパーツを寄せ集めてできた羽が六枚あり、その相貌は見事に『機械仕掛けの神』。遊喜は先ほどまでの落ち込みようはすでになく、自信に満ち溢れた笑顔を浮かべている。
 ───フォルテ、『デュエリスト』。カードゲームのキャラクターや呪文、罠を、そのカードさえあれば召喚し使役できるという夢のようなフォルテ。それが彼、ヰ吊戯 遊喜が手にした『異能力』であった。

「さあ、始めようぜ!『リザレクション』!」

 今ここに戦場(ワールド)は敷かれ、戦闘開始(リザレクション)の鐘は鳴る。





「まさか直接連れてくるとはねえ」

 場所は戻り、浅草。序盤のほうまではよかったものの、グローリアはあろうことかフォルテで『穴』を開き、『絶対治癒』を持つフォルトゥナと、ほかにも戦闘要員のフォルトゥナを4人引っ張り出してきた。『穴』は彼らの拠点とつながっているのか、泥や玖音が倒しても倒しても戦闘要員はそこから出てくるし、傷を治癒してくる。これではキリがない。

「ちょっとこれは…」
「泥、体力は」
「少し疲れてきたかな…『制御装置』をはずしても、保つかどうか。双六さんは」
「弾丸がギリギリだねえ。普通のも持ってきたけど、こりゃ無理だ」
「本部と通信が取れたらいいんだけど」

こちらでも同様、なぜか本部と通信が取れなくなっていた。なぜそうなったのかはわからない。
人数は圧倒的に不利に陥っていた。こちらが2人、相手は合計8人。しかもこの後もまた誰か来るのだと思うと、2人でこの場を鎮静化させるのは無理があった。

「どうする?」
「泥、首のほうの制御装置で何パー抑えてるっけ」
「80%だけど」
「外して」
「え」
「80%ならギリ人格壊れないっしょ。残りの20%で抑えてるんだから」
「…わかった。もしもの時があったら、よろしく」
「ん」

 ニヤニヤとこちらを見てくるグローリアに、泥は心の中で舌打ちをして、首につけている首輪にも似たソレ───制御装置に手をかける。特定の位置にあるボタンを押して、外そうとしたその時である。

「制御装置から手を放してください。その行為は必要ありません。…ようやく来れました」
「フン、僕たちに感謝することだな。いち早く気づいてやったんだぞ」
「坊ちゃんは後ろに隠れててくださいね?弾丸作ってくれるだけで大丈夫ですから」
「むっ、真巳!僕だってなあ」
「だったらいい加減私から1本とってくださいまし?」
「ぐぬぬ」
「おしゃべりはそこまでだ。早く終わらせてヰ吊戯のもとへいくぞ」
「おまえも偉そうにっ!」

突如としてにぎやかになる。泥の肩にはみなれた白い手が置かれていた。背後には甲冑を付けたメイド、銃筒 真巳と、いかにもな貴族服を着て、やはり甲冑を身に付けた少年───薬莢(やくさや) 生真(いくま)───がいた。
そしてその白い手の主は───

「───時雨!」
「あとは僕たちがやろう。任せておけ」

時雨はそういうと、手にしている錫杖を構える。


「ただ食われるだけの───クソガキだと思うなよ」


続く

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.8 )
日時: 2018/03/26 23:22
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM

 まず誰よりも行動が早かったのは真巳。ホルターから装填済みの銃を2丁取り出すとそれぞれ相手方2人に向けて発砲する。弾丸はヂッと軽くかすめた程度。相手方のフォルテの効果なのか、たいして物理的なダメージはないようだ。だがそれでいい。かすめたくらいでいいのだ。相手方を揺らせればそれでいい。これは開始の合図でしかないのだ。すかさず玖音が次の狙いを定め、治癒のフォルテを持つ構成員に弾丸を放つ。確実に、『肝臓』を。
 ───フォルテ、『ロックオン』。自らの攻撃が『必ず』、『絶対に』、命中するフォルテ。たとえあまりにも離れた距離から投げられたナイフでも、至近距離から放たれる拳でも。『どんなものでも』必ず『狙った部位』に命中する。それが玖音がが手にしたフォルテであった。
 そのフォルテで見事に弾丸は、治癒のフォルテを持つ構成員の、肝臓のある部位に命中する。特別製の弾丸であることも手伝ってか、撃たれた構成員のその部位は見事に肉片と赤い液体をあたりに散らしながら吹っ飛んだ。なんとも気持ち悪い光景だ。玖音はそれでも2発目を素早く装填し、再び構成員に向けて撃つ。今度は頭の、眉間を狙って。弾丸はそのまま眉間を貫き、すでに肉塊と化していた『それ』はさらに見るも無残な姿へと変わり果てた。その光景を間近で見たグローリアの他の構成員は震えた声でつぶやく。

「あ、悪魔…!狂ってる…!こんな…ッことを平気なツラしやがって…ッ!」

だが玖音はそれに対し、淡々と返す。

「子供連れ去って実験台にして、あまつさえフォルテッシモに組み込むような連中のどこが悪魔じゃないと?」

 言外に玖音は、『それに比べて自分らは、ただ殺してるだけ。たったそれだけのことだ』という自らの感想をのせる。玖音からしてみればただそれだけのことだった。連中に比べればまだマシだと。眉も、口角も、目の色も変えずに、無表情で。

「せいぜい殺されないように頑張るんだね、グローリア『様』」

 それだけ言うと、玖音は最後の『特別製の弾丸』を装填した。





「俺のターン!スペルカード、『捕縛の鎖』発動!」

 同時刻。遊喜はポシェットに付けたカードホルターにある山札から1枚のカードをドローし、そのカードを発動させる。あたりから幾本もの鎖が地を貫き、構成員3人をまとめて捕縛した。鎖は見事に構成員の体を、壊れんばかりの力で締め上げる。ときどきミシミシと耳障りな音が鳴るのは、気のせいではないだろう。ゴリゴリとも音がする。

「さらにスペルカード重ね掛け!『彷徨う亡霊』発動!」

また新たなカードをドローし、構成員の周りにあたかも『呪ってやる』と言わんばかりの亡霊が、数体出現する。これは元のルールでは『相手に状態異常:呪い(出たダイスの目ターン分行動不能)を付与する』という効果をもっている。それに従い、遊喜はズボンのポケットに押し込んでいた6面ダイスを取り出し、放り投げた。コロコロと転がっていき、ダイスの目が示される。ダイスは6を上にして止まった。そのとたんに亡霊は構成員にしがみつき、聞くに堪えないうめき声を耳元であげる。みるみるうちに相手方の顔色はどんどん悪くなり、おなじようなうめき声を出し始めた。まるで地獄絵図だ。

「やっりぃ!『ずっと俺のターン』だ!よっしゃいくぜ!!」

その光景に引くわけでもなく、怖がるわけでもなく。遊喜はただ嬉しそうにまた新たなカードをドローする。

「スペルカード!『幾億の幻影』を発動させて!デウスエクスマキナをダイス分だけ出現させる!」

遊喜は輝かしい笑顔で、ダイスを再び降る。今度のダイスは2を上にして止まる。そのとたん、デウスエクスマキナは2体の幻影を作り出し、計3体のデウスエクスマキナが出現する。ちょうど相手方の人数と同じ数だ。都合がいい。大きさも相まって、ただただ威圧感が増す。そして遊喜は手を高く上げ、そして勢いよく振り下ろし、叫ぶ。

「いっけえええ!『 終焉を告げし歯車(ワールドブレイカー) 』!!」

 その瞬間、デウスエクスマキナ達はまばゆく輝きだし、高く飛んだと思ったらそれぞれが、体内の歯車を動かして、最終的には『真っ赤に染まったコア』がさらけ出される。そのコアに高エネルギーが集まり始め、限界まで集まったド同時に一瞬コアがキラリと輝く。その直後、3体のデウスエクスマキナから、巨大なレーザービームにも似た『何か』を放出する。捕縛の鎖や彷徨う亡霊の効果もあってそこから動くことなく、構成員3人はモロに『ソレ』を食らう。やけに耳障りな音を立て、思わず鼻をつまむくらいの焦げ臭いにおいとともに、跡形もなく消え去った。それと同時に役割を終えたデウスエクスマキナはいずこへと消えていった。
遊喜は疲れによるものか、それともほっとしたことによるのか、全身の力が抜けてその場に座り込む。

「…案外あっさり終わったぁ」
『聞こえますか、ヰ吊戯』
「どぅわ!?」

 突如としてインカムから声が響く。あまりに突然のことだったので、遊喜は驚いて思わず後ろにのけぞってしまう。

『通信回復を確認。それと同時に戦闘終了を確認。ご苦労でした』
「(なんだコイツ偉そうに)」
『転送システムの回復が確認されました。これよりヰ吊戯を、本来の転送場所である浅草、仲見世通りに転送します』
「え、さっきまで戦闘してたのにもうかよ」
『本体の任務はそちらです。今回のはエラーに伴って行われたものにしかすぎません。本来の任務を忘れないように』
「お前ふざけてんの?頭オカシーの?フォルテ使う戦闘は、フォルトゥナに精神的ヒローと肉体的負担をかける。さっくり終わったからまたすぐに戦闘できるかっつったらちげーんだよわかってんの?ってわかるわけねーか。お前らただシレイシツで戦闘だらだら見てたまになんか文句言うだけの簡単なオシゴトしてるだけだもんな。前線で戦わねーからわかるわけねーか。あー忘れてタワー。まさか俺よりバカがいるとはなー。びっくりしちゃうなー。リーダーにいいつけてやろ!」
『……私語を慎みなさい』
「いやだね!これだから『非戦闘員』の『指示だしステーション』は困るんだよー。もしかして俺たちに『カロウシ』だっけ?してほしいの?俺ら死んだら困るのはお前らだぞ。ロクにたたかえねーで文句言うんじゃねーよエラソーな態度しちゃってさ!リーダーに報告するから」
『やめなさい、余計な一言は身を滅ぼします』
「誰に言ってんだか。リーダーに今回のこと報告されなかったらさっさと本部に戻せや『頭でっかち』の『オエライサマ』!」
『……了解。本部に転送します』

 震えた声でオペレーターが言うと、通信は一方的に切れる。遊喜はインカムを荒っぽく取り外し、それを投げ捨て踏みつけて壊す。よほど頭に来たらしい。

「これだから『大人ぶった子供』は嫌いなんだよ。あいつらグローリアとグルじゃねーの?」

苦々しく吐き捨てると、転送が開始されたのか、彼の体は次第に光の粒子となって、最後には消え去る。
 周囲変換が解かれたその場所には、壊されたインカムも、何も残っていなかった。





「『弾き飛べ』!」

 浅草。遊喜が戦闘をあっさり終わらせた頃。こちらはまだ激しい戦闘が行われていた。時雨が力を込めて叫ぶと、残りの構成員はみごとに『文字通り』、『その通り』に弾け飛んだ。それぞれが建物の壁にめり込んだり、ぶつかった衝撃で建物を構成していた素材が崩れ、その者の上に落ちてくる。
 ───フォルテ、『言霊』。念を込めて口に出した言葉が、その言葉の通りに『具現化』するというフォルテ。例えば、『燃えろ』と1本の木に念を込めていったとする。するとどうだろう。その言葉を浴びせられた木は『文字通り』燃える。ごうごうと、盛んに。『崩れろ』とがれきの山に言うとする。そのがれきの山は瞬く間に崩れ落ちる。『風よ吹き荒れろ』といったとする。その瞬間に穏やかな風は一気に暴風と化し、あたりの人や物を飛ばしていく。それが時雨に与えられたフォルテだった。
 時雨は手にしていた錫杖の『首の部分』を握りしめ、そのまま上へと引き上げる。すると見事な細身の刀がすらりと姿を現した。それを弾き飛ばされても性懲りもなく襲い掛かってくる相手に向け、そのままぐさりと刺す。刺した向こう側の刀身には、赤い液体がこびりつく。それを時雨はいっきに引き抜く。刺された相手はそのまま地に落ちた。

「この程度か」
『通信回復確認』
「む」

 突如として全員のインカムから声が響く。若干若い女の声だった。

『よーっす。オレだ』

その声に、しゃべり口調に、時雨はある『言葉』をつぶやく。

「…『ナナシ』か?」
『おうよ。ずいぶんと手間ァかかってるみてえじゃねえか』
「そうでもない。治癒を持つフォルトゥナは双六さんが始末した」
『穴は閉じたのかよ』
「ぬ…そういえばあったな」
『お前鈍感すぎんだろ』

そう、指摘されていた通り、グローリアが作った穴は、まだ閉じてすらいなかった。気づいた時にはその穴から、また新たな構成員が出てくる。今度は4人。それまで始末した構成員と今現れた構成員を足し引きすると、合計7人になる。時雨は布の向こう側で眉をしかめる。

「増えたな」
『だから───オレが手伝ってやる』
「は?」

 その瞬間に通信は切れて、いつの間にか時雨の隣には、白い刀を携えた少女が立っている。その少女は相手をぐるりと見てニヤリと笑う。


「あまりにも暇だったんでな。来てやったぞ」


続く

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.9 )
日時: 2018/03/29 08:52
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM
参照: https://m.youtube.com/watch?v=-kxUFola5YI

「おい…暇って」
「シレイシツの奴らがうるせーんで来てみた。なるほどおもしれえことになってやがる」

突然に現れた少女、『ナナシ』は時雨を見て、にやりと笑う。この状況を、心から楽しんでいます、というように。
 彼女───ナナシは名前がなかった。それどころか生年月日、過去経歴が一切【ない】、もしくは【不明】という謎の多い少女である。片手には白く輝く刀『白狼丸』を手にし、いつも棒のついた飴を食べている。そして口調、態度ともにこれでもかと言わんばかりに悪い、ということだけが彼女を形作るものだった。ナナシはケッと悪態づく。

「ホントはオレだけ来る予定だったんだがな。コイツもついてきやがった」
「え」
「ナナシちゃんが行くなら私も行くもん!」
「じゃぁかしい善人」

 ナナシが苦々しい顔で背後をちらりと見やると、そこからひょっこりと別の少女が顔を出す。その少女は片手に『ピコピコハンマー』を手にしており、ナナシはふざけてんのかとひとり呟く。
 ピコピコハンマーを手にしている彼女───善澄(よしずみ) 善佳(よしか)───は、ナナシの隣にたち、ふんすと胸を張る。邪魔だとナナシがいやそうに言っても、彼女は話を聞いていないのか、私はナナシちゃんのお友達だからね!とさらに誇らしげに顔を輝かせる。2人のその様子に、時雨はますます毒気が抜かれるばかりだ。

「お前らなにさぼってるんだよ早く終わらせろよ!」
「坊ちゃん早く弾丸を」
「弾丸くれ」
「お前ら2人は消費が激しすぎる!ほら!」

 そんな中、生真が状況を無視して談笑していた3人に向けて大声をあげる。その生真に対し、問答無用で次々と真巳と玖音は弾丸を要求する。すぐにできるわけじゃないんだぞ!と文句を言いながらも、2人に早急に作った弾丸を放り投げる。時雨はこうしちゃいられないと、また錫杖の首の部分を握り直し、宙を舞う構成員に向けて突き刺した。
 ───フォルテ、『バレッター』。弾丸、薬莢(やっきょう)を無限に生成するフォルテ。それ以外のことは一切できない。ほかにできることと言えば、通常では作れないような『特別製』の弾丸を生成できることくらいか。それでも銃をメインにして戦闘する真巳と玖音にとってはありがたい存在だ。それが生真のフォルテである。生真はまたきっとすぐに弾丸を要求されるんだろうなと思いつつ、生成する。その間、前線に出て戦闘する彼の付き人である真巳に変わり、泥が彼の護衛を任されている。次々に襲い掛かるグローリア相手に、泥は遠慮なく豪拳を叩き込む。あっけなく吹っ飛ばされるが、なかなかしぶといようで起き上がってはまたやってくる。それの繰り返しでそろそろ泥自身、飽きてきたところだ。

「はあ…」
「にしてもやけに回復早くないか向こうさん」
「穴も相変わらず開きっぱなしだし、そのフォルテを持つフォルトゥナはもう倒したの?」
「先ほど弾き飛ばしたて気絶させたが…どうやら『フォルテの効果を永続させるフォルトゥナ』がいるらしくてな。閉じようにもそいつもなかなかしぶとい。腹を斬ったがすぐに再生した」
「で、その間にもわらわら出てきやがる、と」

 ナナシがそういうと、それに呼応するかのようにまた穴から3人ほど出てくる。これで相手は10人になった。力で無理なら数で押しと通ろうということだろうか。さすがにいらだちが沸き上がる。しかもいくら倒そうとしても次の瞬間にはつけたはずの傷が再生されるいう始末。おそらく相手のうちの誰かが『そういうフォルテ』を相手全体にかけたのだろう。余計なことをしてくれる。

「───なら。フォルテがきかねーくらいにボコればいいだけだろ」

 そしてひとつの結論を、ナナシはニヤリと笑いながら、あえて向こうにも聞こえるように言う。

「ナナシちゃん賢い!賢いポイントひとつあげるよ!」
「いらねーよ」
「そんな無茶な…!」
「泥、その首の制御装置はずせ」

 瞬間、泥の動きが止まる。

「おいナナシお前───」
「時雨。オメーはフォルテ使って穴閉じろ。メイドとスナイパーは撃ちまくれ。んで坊ちゃんは弾丸作ってろ。善人、オメーはもぐらたたきしてろ」

 時雨が反論する暇も与えずに、ナナシは間髪入れずにほかのメンバーに指示を出す。最後に彼女は時雨を見てこう言った。

「アイツらを跡形もなくボコんなら、全部出すんだよ。どうせ殺しちまうんだから」

 そういうとナナシは単身で突っ込んできた相手の顔面に、遠慮なく蹴りをかました。刀は使わずに。自らの足で相手を落とした。その場でもがくそいつに、ナナシはまた頭部をサッカーボールのように蹴り上げた。かなり力を入れてやったようで、彼女の靴には血のようなものが少しばかり付着していた。

「あとさ、脳みそやられたら、いくらフォルテかかってたって関係ねえよなァ?」

事実頭部を蹴り上げられたそいつは、よほど痛むのだろうその部分を、手で覆いながら苦しんでいた。聞くに堪えないうめき声があたりに響く。仲間のその無様なその様を見た相手方はすっかり引き腰になっている。どれだけ傷をつけられようともフォルテのおかげで痛みもないし、傷もすぐにふさがれていたはずなのに、脳みそが詰まっているその部分をやられただけであっさりと沈むなんて。そう思っているのだろう。ナナシはますます笑みを深めた。

「わかったらとっととやんだよ。死にたくねえだろ」
「ナナシちゃん、私は?」
「いいか、あいつらは全員モグラだ。もぐらたたきするとき、モグラのどこをたたけばいいか知ってるだろ」
「頭だね!」
「いまからやるのはもぐらたたきだ。そのインチキハンマーでぶったたいてやれ」
「はーい!」

 ナナシのその一言に笑顔で答えると、善佳は向こうへ走っていき、たまたま目についたフォルトゥナの頭部めがけてピコハンを思いっきりたたきつけた。するとどうだろうか、ピコンとかわいらしい音が聞こえたと思ったら、瞬間たたきつけられた頭部は、まるで道路に落ちて車に轢かれたザクロのように、無残に飛び散った。脳漿や血液をあたり一面に飛ばしながら。これには時雨たちも、グローリアも、目を見張り呆然とする。ただ1人、真巳はこんな光景を主人に見せるわけにはいかないということからか、生真の目を素早くふさぐ。
 いったいあのピコハンにどれだけの威力が備わっていたというのか。それとも張本人の力が強すぎるのかフォルテの影響なのか。肝心の善佳はその光景を見る前に、ナナシのもとへと戻ってきていた。自分の先ほどの行為で何が起こったかも知らずに。

「おけ?」
「よーしいいぞお前はもう下がってろ」
「え?うんわかった!」

 どうやら彼女は言われたことを真に受けるタイプの人間なのか、ナナシがそういうと素直に従った。ナナシはいまだ呆然とする時雨たちに「何やってんだよ早くしろよ」と文句を言う。その言葉にハッとしたのか、真っ先に玖音が動く。すでに装填済みの弾丸を、すっかり腰を抜かしてしまった相手の1人の頭部に向けて放つ。結果は想像通り。頭部を、しかも眉間を確実に打ち抜かれたそのものは一部がはじけ飛び、物言わぬ肉塊と化した。それを皮切りにして、止まっていた戦闘が再び始まった。グローリアの残りの7人は、狂ったように時雨たちに襲い掛かる。その顔は恐怖か否か。とてつもない形相をしているのは確かだ。だが狙いはほとんど定まっていないようで、まったくの虚空にむけて刃物を振り回していたり、たとえ届いたとしてもかるくはじかれる。いったい何がしたいのか、本人たちですら判断が危うくなっているようだ。その間に泥は素早く首につけられていた『制御装置』を解除し、ゴトンと重々しい音を立てながらそれは重力に従って下に落ちる。瞬間泥の髪色はそれまで何物にも染めれれていないかのように真っ白だったものから、途端にどす黒く染まる。髪の毛もぶわっと一気に量が増えて地につくくらい長くなる。そしてラベンダーを思わせるような紫の瞳の片方は、血のように真っ赤に染まる。そして赤く染まった目の周りには、血管にも似た何かが走る。
 これこそが泥が授かったフォルテ、『狂化(バーサーカー)』である。自我を失い、最終的には人格が壊れる代わりに、驚異的な力を手に入れるフォルテ。だがそれは、制御装置をすべて外し、100%解放した時の話である。普段は両手首両足首でそれぞれ5%ずつ、首で残りの80%を制御しているため、『すべて外さない限り』、あるいは『両手首両足のみの制御装置の解除』または『首の制御装置の解除』ならば、自我は保たれる。それでも本人にはかなりの精神的、および肉体的疲労がかかる。だから、そんなフォルテが、泥は何よりも嫌だった。それでも。それでも友のため、仲間のため、彼はこのフォルテを使い続ける。

「めんどうだから…一気に蹴散らそうか」

 普段よりいくらかトーンを低くしてそうつぶやくと、腕を上げた次の瞬間には、7人のうち5人の頭部が吹っ飛んでいた、否、消し飛んでいた。それによるものか、穴は急速にしまっていき、最終的には消え去った。もう増援が来ることはないだろう。
 それに続くように真巳も笑顔で愛用の、1つだけ弾が入れられたリボルバー式の銃を、ゆっくりと1人の頭部へ向ける。だが生真は前に出て彼女を止めようとしたのか大声で名前を呼ぶ。その顔は悲壮か後悔か。

「ま、真巳!」
「坊ちゃん、お静かに。残していただき…ありがとうございます」

 ぼそりというと、その銃から発砲音とともに放たれた弾丸は確かに頭を貫いた。生真はその光景を見るまいとして、目をぎゅっと閉じる。残すはただ1人のみ。素早く時雨は地面を蹴り上げて真正面からそいつに近づくと、刃先を眉間に向けてピタリとくっつける。なぜだろう。自然と口角があがってしまう。なぜそうなるかはわからない。もしかしたら僕はとうに『おかしくなって』いるのかもしれない。でもどうでもいい。そんなものはなにもかも、どうでもいい。

「結局あなたも…そしていずれは僕も死ぬんです。ただあなたは僕よりも先に、そして僕に殺されるだけ。そこに違いはないでしょう?」

 嬉しそうに、楽しそうに、『弔いの言葉』を贈ると、思いっきり刺し貫いた。





「お帰り。よーがんばったな」

 戦闘が終了し本部へ帰ってきて、各々は散り散りになる。その中で時雨は医療室でバイタルチェックを受けてそれが終わり、自室へ戻ろうとすると、煙草をふかして白衣を着た男がのんきに現れた。目元がなにか特殊なマスクで隠されているからなのか、表情はあまり読み取れないが、口角を上げてせせら笑っていることから、きっと楽しんでいるのだろう。何に?わからない。

「リーダー、見ていたのですか」
「そりゃーマグノリアのリーダーだぞ?見てねーわけねーよ」

時雨が聊か不機嫌そうに言うと、リーダーと呼ばれたその男は笑いながらガシガシと時雨の頭を乱暴に撫でる。そのせいで時雨の髪の毛はぐちゃぐちゃになる。
 いかにも悪事に手を染めています、といような格好のこの男こそが、マグノリア創設者にしてリーダー、葛狭(かさま) 狂示(きょうじ)である。未成年のフォルトゥナでまとめられているこのマグノリアで、唯一の成人が彼である。今年22歳を迎えたらしい。本人は素性を良くも悪くも語ろうとせず、また表立って出ることがあまりに少ないため、『とりあえず煙草吸ってるのがリーダー』という認識がマグノリアの中で定着している。
 彼は新たな煙草に火をつけながら時雨に対し、「お前ら暫く休暇な」と言い渡した。

「え、そ、そんな突然に!?」
「泥は制御装置取ったからしばらく動けねーだろうし、ナナシと善佳は無許可転送で形だけだが説教と反省文&外出禁止、そんで生真は精神的カウンセリングで真巳はそれにつきっきり、玖音は休暇届出してきたし、お前も俺が休暇届出しといたから」
「だ、出しといたってそんな勝手な…」
「リーダーからのありがた〜いプレゼントだと思え。フォルテを使う戦闘は精神的、肉体的疲労が尋常じゃねえからな」

んじゃな、と手をひらひらさせながら去ろうとする狂示に対し、時雨は待ったをかける。

「どした」
「今日、転送エラーが起き、ヰ吊戯がそれに巻き込まれたと聞きましたが、どうなったので?」
「ああ。グローリアの構成員3人に絡まれたらしいが、全員跡形もなく消したってよ。その後本部に直帰。ケガはねえって」
「そうですか…」
「ま、オペレーターからお前らの場所にそのまま転送されそうになったらしいがな。キレて説教してやったらしいぞー」
「なんでそんな楽しそうなんですか…」
「いやああのオペレーター共、今日付けで前線送りにしてやったからな」
「特権の乱用ですね」

時雨はかんらかんらと笑う狂示に、あきれたような視線を形だけでも送る。だが当の本人はそれを無視して「休んどけよー」と言い残して今度こそ去っていった。
 残された時雨はこれ以上ここにいても時間の無駄だと踏み、深いため息をついて自室へと戻っていった。



第1話【Magnolia】 終

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.10 )
日時: 2018/04/04 16:33
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM
参照: https://www.youtube.com/watch?v=WHcFDJCjY3s

 時雨たちが休暇に入ってから3日。与えられた休暇は1週間。ぞのおよそ半分を消化したのはいいものの、出撃もないとなると特にやることがなさ過ぎて、ただひたすらに部屋でぼうっとしているだけで1日が終わってしまう、というサイクルで時雨は3日を自堕落に過ごしていた。外に出て鍛錬でもすればいいのだろうが、なぜかやる気が起きない。このままではいけないと思いつつも、すべてのことに手がつかない。時雨は己に与えられた休暇を持て余していた。

「やっほ」

 そんなときである。時雨の部屋の扉を開き、無遠慮にも入ってくるのは、彼の双子の姉である超子。ベッドの上に座り、ただぼうっとしている時雨をチラリと見やると、ふぅと息を吐く。

「あんたさあ、少しはぱーっと遊ぼうって気にはなれんのかね」
「…姉上、いらしてたのですか」
「え、反応遅…ってか、もーそんなんじゃだめでしょ!せっかく休暇なのにサー」
「やることがないんですよ…」
「そ・う・じゃ・な・く・て!」

がしっと超子は時雨の肩をつかむ。思いっきり強く。ぎりぎりと肩に超子の指が食い込み、時雨はあまりの痛さにぱしぱしと超子の腕をたたく。しかし超子はそんなことをお構いなしに話を続ける。

「リフレッシュしに、家に戻ってみたら?」


第2話
【Oshama Scramble!】


「え」
「だーかーら!そんなに疲れてるんなら、家に戻ってみたらッて!静かな場所だし、ゆっくりできるでしょ?」
「そ、そんな急に」
「もう連絡は入れてあるよ?」
「用意がいいですねずいぶんと」

じとりとした声で超子に言うも、超子は「ほめていいのよ!」と誇らしげに言うばかりで、時雨は何なんだとため息をつく。

「あとね、泥くんにもいってあるから」
「はっ!?」

超子から思いがけない一言が飛び出したせいか、時雨は思いっきりベッドから立ち上がる。どうどうと時雨を落ち着かせると、超子はまた口を開く。

「泥くんと時雨で、時雨の家でゆっくり休んできなよ。あすこはただでさえ山の中だから、猶更ゆっくりするならいい場所でしょ。おじさんたちには連絡入れてあるから」
「ずいぶんと…急展開ですね…」
「あんた前から頑張りすぎなのよ。この前だって急な出撃に自ら出てっちゃうんだから…まともな休みなんてあってもないようなものじゃないリーダーが休暇を1週間もくれたのが幸いだったけど、3日もそうしてんなら強硬手段に出るしかないじゃない」
「でもそれじゃあほかのみんなが」
「休めないって?まーったくあんたは!確かにあんたも大事な戦力よ。フォルテ抜きにしても、『陰陽術』が使えるのはかなり強い。よくわからないけど。フォルテッシモの操縦もフォルテッシモ自身も、ほかを寄せ付けない。いくつもの作戦のかなめであり続けたわ。で・も。ちゃんと休養もとらないで、ただ部屋でぼけっとしてるまんまで休暇を終わらせようって?ほかにやること見つかんないから?バッカねー、そんなんで休暇あがってもあんたまともに動けないわよ」
「それはどういう意味ですか姉上、僕だってちゃんと動けますよ。それだったらこの休暇も捨てて」
「ぼけっとしてたあんたがムキになるんじゃないッ」
「ァだっ」

 超子からつらつらと飛び出てくる言葉に少々腹に据えかねた時雨は、ぐっと顔を超子に近づけて反論するも、後頭部に回った彼女の手刀がゴスッと直撃する。いいところに当たったのか、時雨は思わずその部分を手でおさえてその場にうずくまる。そのまま放っておくがごとく、超子は時雨の目の前に荷物をつめたのであろうキャリーをずずいと差し出す。

「はいこれ荷物ね。転送ルームで泥くんと一緒にいってね」
「な…いつの間に」
「うん、昨日やっといた!」
「姉上ぇぇ…!」

 「やってやったぜ!」と誇らしげに、きらきらと輝く満面の笑みでそう言われてしまうと、もう時雨はただ恨めし気にうなるしかなく、しぶしぶそのキャリーを受け取る。早く行った行ったとせかされると、もう行くしかなく。時雨はとぼとぼ部屋を出て転送ルームへと向かっていった。それを笑顔で見送った超子は、時雨に向けていた笑顔を崩し、至極真面目な顔へと変わる。

「お姉ちゃんは心配だわ。あのままじゃきっと、いいえ、絶対に精神も壊れる…だからこそ。だからこそなのよ。ごめんね時雨。あんたはこうでもしないと、絶対に体も心も壊しかねないから。わかるのよ。あたしは───あんたのお姉ちゃんだもの」

いつもより強めの口調で、トーンでそうつぶやくと、彼女もまた主の消えた自室から去っていった。





「というわけでっ」

ぱんっと小気味いい音が鳴る。その場にいるのは超子と歌子、そして松永───松永(まつなが) 久舵(ひさかし)───、そして

「私たちもいるわ」
「エレちゃんたちもありがとねっ!」

 まるで精巧なドールを思わせる容姿をした少女───エレクシア=エレーヌ───を含め、4人はリーダー、狂示の部屋へと集まっていた。相変わらず未成年が目の前にいるのにも関わらず、リーダーとあろうその人物は、新たな煙草を取り出しそれにジッポで火をつけて、1つ吸う。すこし部屋は煙たくなるが、それを気にせず超子は話を続ける。

「時雨を強制的に帰省させて休ませる作戦大成功!だよ!」
「FUUUU!イカしてんぜ超子ォッ!姉特権ってやつだNA!」
「(それ作戦とは言えないんじゃ)」
「ハハッ、元気だなーお前ら。んまあ時雨を帰省させたのはよくやった。休暇やったとしてもどうせ部屋でぼけーっとしてるだけだろうと思ってたんでな。玖音は休みなのをいいことにサバゲ―やりにいったっつーのに」
「あの子はいつも無茶をするもの。エレーヌもそういっていたわ」
「とりあえず無理やり休ませた時雨の話は終わりにしといて。リーダー、何かない?」

 長くなりそうだと踏んだのか、超子はいったん話を切って狂示に別の話題を振る。彼はそのために来たんだろうがとせせら笑い、煙草の火を落とす。行儀悪く部屋に置かれた専用の机に腰掛け、足を組むとふむ、と頭の中の棚を引っ掻き回す。そうすること数分、なにかを見つけたようでああと声を出す。

「最近なんか栃木の日光で連中の研究施設を見っけたって話があったっけな。普段は見えねえように幻術かなんかで隠してるらしいが」
「どんな施設?」
「おう、その辺は調べといたから教えてやろう。どうせそこ破壊しろって発令出すつもりだったし。ちょうどいいやお前らに任せるわ」

 そういうとニヤリと笑いながら狂示はまだ残っていた煙草を灰皿に押し付け、つぶす。そしてゆっくりと話し始めた。

「栃木県日光市。そのあるポイントで連中の研究施設が発見された。発見日は今日から5日ほど前だ」

仮にそのポイントを『A』とする。そのポイントAで発見された研究施設は、普段は幻術のフォルテか何かしらを使って見えないように施しているらしい。その施設ではフォルトゥナの子供を連れ去って研究の実験台にするのはもちろんのこと、そのフォルトゥナの子供を慰み者にしたり、洗脳や薬剤を施し『ペット』として裏社会に販売したり、さらには人身売買オークションにかけたりしているとのことだ。極めつけは子供を使って『そういうこと』をさせる商売までも手を伸ばしているらしい。すでに被害にあっている子供は数えたらきりがない。中には『ペット』として買われたり、オークションで競り落とされていって消息が不明な子供もいる。こんなことを、今現在国家権力を握ってこの国を支配している組織がやっていることなど、人々は到底思えないだろう。否、思わない。

「そんなもんをほっとけるかっつったら、できるわけねえだろ。というか普通そうだ」
「やっぱり大人は嫌いだわ…私も、エレーヌも。丸ごと潰さなきゃね」

そう『彼女(エレクシア)』がそういうと、途端に右の金色の瞳だけが眼振を起こした。

「ええそうねエレクシア。わたしもよ。沸々と沸き上がっているの…とてもとても『痛い』ものが」
「お、エレーヌじゃねえか。どうだいやってみるか?」
「勿論よ。行きましょうエレクシア」

そして出てきた彼女、『エレーヌ』は狂示をひとつ、嫌悪感たっぷりに見上げると、そのまま部屋から出ようとする。それを超子はがしりと腕をつかんで止める。まだ話は終わっていない、というように。彼女(エレーヌ)は顔こそは変えないものの、足取りはどこかいやそうに戻ってくる。狂示はのんきにも、「ずいぶん嫌われてんなァ」とケラケラ笑う。

「あなたも大人だもの」
「ひっでえな。俺は今でこそ22だが、作った当時は未成年だぜ?」
「今は今よ」
「あーへいへい耳が痛いねェ」
「オイオォイ、リーダーはそんなに睨むもんじゃネェYO、フレンドルィイにいこうZE!」
「静かにしてくださる?」
「オレッチが静かでいられると思うかYO?FUU」
「そうね。あなたはそういう人だったわね…」
「で。話を戻すぞ」

 このままでは本筋が流れてしまうと思ったのか、狂示は机から降りて待ったのジェスチャーをして話を戻す。

「お前らに任務を与える。その施設をフォルテッシモで潰してこい。塵になるまで、徹底的につぶせ。いいな。おそらく中に連れ込まれた子供はもう手遅れだ。無理に救出して元に戻そうと思っても、それはゆであがったゆで卵を、もとの生卵に戻すくらいには不可能だ。いいな。『跡形もなく』残すな」


それは『死刑宣告』にも似た『任務』が、たった今下された。

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.11 )
日時: 2018/04/14 23:19
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM
参照: 酒飲んで書いたからすんごい短い

 超子たちが狂示から指令を受けていた同時刻。時雨は転送ルームで泥と合流して、時雨の実家である場所へと降り立っていた。時雨は久々に帰って来た実家を真正面から見て、ふう、とため息を一つ漏らす。泥はそんな時雨を見て、時雨、と彼の名を呼ぶ。

「大丈夫?もしかして、本当は帰りたくなかった?」
「まさか。ただ、姉上の強引さに呆れただけだ」
「ふうん」

ならいいんだけどさ。と泥はひとり、心の中でそっとつぶやく。泥は気づいていた。時雨がこの場所にきて家を見て、なぜため息をついたのか。なぜああ答えたにもかかわらず、物憂げな様子が解けないのか。本当は気づいていた。だけど、あえて『知らないふり』をして時雨に聞いた。どんな答えが返ってくるのか、どんな声で来るのか。泥は時雨のその様子が見たくて、あえて質問したのだ。時雨の返答と声は、予想通りだったが、まあ良しとする。何が、と聞かれると、きっと泥自身もわからないのだろう。

「いこっか」
「ああ」

泥が『いつもの笑顔』で促すと、時雨もまた、重々しく足を動かす。
───時雨がため息をついて、まるで帰ってきたくなかったというような態度をとった理由はただ一つ。

2人の目の前には、『ゆうに100は超える石造りの階段』が上へ上へとのびていたからであった。





 階段をのぼりはじめておよそ数十分。
ようやく上り終えた2人は、疲れのあまりに荷物によっかかるように崩れ落ちる。普段から体力仕事───と言えないかもしれないが───をしていたとしても、あまりの段数に気が遠くなるほどの階段を、休みなしで上り詰めたら、さすがに疲れるものは疲れる。足がこれ以上、動くのを拒否している。なぜ階段を飛ばして転送してくれなかったのか、正直半日かけて文句を言いたい気分だ。

「さすがに、これは」
「僕もこれには慣れないな」
「もう家の中入らなくていいんじゃないかな」
「そう思えてきたぞ」

肩で息を整えながら、時雨と泥は話をする。もう一歩も動けないようで、その場にとどまって目を閉じて眠りの落ちそうになる。だが

「誰かお客様かしら…?」

ひょっこりと現れた女性が時雨の家から出てきてなにかつぶやくなり、彼らの意識は清明なものとなる。動かない体の代わりに顔だけをそちらにあげると、時雨はあっ、と声を上げる。

「母上…」

つい口から出てきたその言葉に、出てきた女性ははっとして時雨たちを見る。そしてふっと微笑む。

「…あら、時雨ちゃん?それに今日は泥くんも一緒なのねえ」
「あ…倖(ゆき)さん、お久しぶりです…」

へらりと笑い、そういうと、倖と呼ばれたその女性───春夏冬 倖は、倒れこんでいた2人をひょいと抱え上げて、微笑みを崩さないまま家へと入っていった。今日のお昼はとびきり豪華にしなくちゃね、と嬉しそうに呟きながら。





 ところ変わってマグノリア本部。先ほどリーダーから破壊命令を下された4人は、作戦を練り上げるべく、大きなプロジェクタのある会議室へと集まっていた。プロジェクタの横には超子が立ち、ほかの3人は部屋の真ん中に設置された椅子に座って超子を見る。

「では。作戦会議を始めるよ」
「まず内容をまとめよっか」
「そうねん。それから始めましょ」

歌子がそういうと、超子はプロジェクタに、上から撮影された襲撃予定の場所、『ポイントA』地点を映しだす。一見何もないように見えるが、特殊な解析で発見したデータに変えると、途端に何もなかったはずの場所に、三角形で形つくられた何かが現れた。それにテキストが重ねられ、『グローリア栃木支部』と映し出される。

「今回襲撃するのは、ここ、栃木県日光市に在る、『グローリア栃木支部・フォルテ研究機関』。リーダーからもらったUSBに入ってた情報によると、ここでやっばいことしてるみたい」
「それはさっき、言ってたわ。もちろんエレーヌも聞いていたわ」
「そうねん。そいでリーダーはここに、フォルトゥナの子供たちがとらえられて、慰み者にしたり『そういうこと』に使ったり、人身売買オークションにかけてたりしてるって言ってたよね。あー反吐が出るわ」
「本当にね…」
「そこを、あたしらがフォルテッシモで奇襲をかけて、ぶっ潰す。やりたくはないけど、中にいる被害者の子たちもまとめてね」

 そう超子がいくらかトーンを落として言うと、ほかのメンバーもずうぅん、と空気が落ちる。だが松永だけは違った。

「オレッチも気分はBADだZE…だがな、無理してHELPしても、救われねえことだってあるかもしれねえんだ…だからこそオレッチたちがここでDESTROYしてやんねえとNA。HOPEがこの先にあるかどうかなんてわからねえかもしれねえから、オレッチはだからこそこのMISSIONを達成したいんだ…」

 どうしても言葉の節々や、最後の未来形な一言で台無しになってしまうのだが、言いたいことは確かに伝わったようで、超子は松永に賞賛の言葉を贈る。

「たまにはいいこと言うじゃん久チャン!」
「FUUUU!オレッチはやるときゃやるんだZE!」
「言葉遣いの意味はよくわからなかったけど…でも、言いたいことはわかるよ。被害にあった子たちの為にも、頑張らなきゃだよね」
「言いたいことはあるけれど、それが救いになるなら。私も、『わたし』もやるわ。…やれるかどうかは別だけど」

意外な人物の一言により、メンバーは本来の明るさを取り戻す。この明るさを取り戻したところで、会議を再開させる。

「では。まず襲撃方法なんだけど。周囲変換をするのはもちろんなんだけど。その後だね。データによると、この建物もんのすごい頑丈にしてあるみたいなんよ。あたしらの襲撃を予測してかしらね」
「わざわざ建物を見えなくしておいてさらに建物にも施しをするなんて…ずいぶんと大人は嫌なことをするのね」
「ほんとね。なのでここはまず、歌子ちゃんのフォルテで建物自体を弱体化させる。その間絶対、連中も仕掛けてくるはずだから、歌子ちゃんを囲うようにして、あたしらが守る」
「でもYO!それってYO!もし歌子が『別のどこからか襲撃』されたらどうすんだYO」

 その問いに、歌子はふっふっふっと不敵に笑う。何か策はあるのか、度肝を抜くような、何かすごい策が───


「なにもかんがえてませーん!!」


 その一言に全員が椅子から滑り落ちた。


続く

Page:1 2 3 4 5 6



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


E-Mail


URL


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大7000文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。