複雑・ファジー小説

フレコ〜集団就職残酷史
日時: 2018/12/31 12:10
名前: 梶原明生  

フレコは玖数郡神楽に生を受けた。貧しい苦しみの中育ち、やがて15歳になった時にやむなく「集団就職」というご時世に乗る以外生きる道はなかった。彼女にとっての武器は母子家庭に育った厳しい教育だけでなく、贔屓にしてくれた小学校教師岩佐先生から学んだ「空手」があった。…これは我が母「フレコ」の若かりし日の、数奇の物語である。

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Re: フレコ〜集団就職残酷史 ( No.2 )
日時: 2019/01/01 23:41
名前: 梶原明生  

「生い立ち」… 昭和20年代、戦後の激動下に母フレコは誕生した。神楽という寒村にて富豪庄屋の次女として生まれる。私の祖母富子を母に持ち、長男幸久、長女菊子、そして後に生まれる次男秀元の四人兄弟。幸久、菊子が幼少時代までは富豪の庄屋に嫁いだ(と言うより嫌々嫁がされた)おかげで裕福だった。しかし、大東亜戦争直前に私の祖父にしてフレコの父である耕造が連日博打、酒宴、赤線三昧になり、借金の形に財産、土地、家屋を奪われ、やがては村一番の富豪から畳8畳のボロ東屋住まいになり村一番の貧乏になる始末。戦時中にあっても借金に借金でまた酒に赤線は止められず、親戚を総なめにするくらい借金だらけになりながらも、富子は四人の子育てと農作業で生活を切り盛りしていた。やがて終戦近く。赤紙が耕造に来なかったのは、身体検査で片足が不自由だったため。しかしいよいよ憲兵隊に連れて行かれるところをあの玉音放送が…そこからまた耕造の酒乱が始まった。このため医者にかかれず、当時の流行り病で次女菊子と弟秀元は帰らぬ人に。堪忍袋の緒が切れた富子は当時珍しく家裁に申告して離婚を成立させた。それでも農作業のアルバイトでは生活は苦しく、小学校に上がる頃は服は継ぎ接ぎの着たきり雀。体も栄養失調で小さかったため、よくクラスのイジメの的になった。そんな時…フレコの人生を大きく変える「岩佐先生」との出会いがあった。…続く。

Re: フレコ〜集団就職残酷史 ( No.3 )
日時: 2019/01/24 17:15
名前: 梶原明生  

…音楽の授業中、先生がフレコの歌の才能に惚れ込み、よく誉めることが多かった。しかし、これを妬むいじめの首謀者がいた。松子である。彼女はことあるごとに難癖を付けてフレコをいじめた。だからフレコにとって、先生から誉められないことが良かったのだが、そうもいかなかった。そんな時助けてくれたのが岩佐先生だった。松子は先生にはいい顔向けて人気取りしていたが、岩佐先生だけはごまかせなかった。この先生は質実剛健にして実直な方だった。奥さんは良妻賢母で、フレコを自宅に招いてご飯を食べさせたり、お風呂に入れたりしてくれた。その時初めて庭で巻き藁なるものを見た。幅15センチ、縦120センチほどの板に上25センチほど藁紐を巻き付けてある。「どうしたフレコ。」「先生あれなーに。」「あれか。空手の鍛錬具だ。」「空手…久米流とは違うの。」「そうか、お母さんとこは昔から久米流体術だったな。それとは若干違うな。久米流が底拳を上段に突き上げるが、空手は正拳で突く。そこが違う。…やってみるか。」「うん。」フレコは興味津々に巻き藁をつき始めた。これがフレコの空手との出会いだった。以降、いじめっ子には内緒で学校帰りに習う日々。そんな時、親戚筋から子供のいない夫婦からフレコが欲しいという養子縁組みの話が持ち上がった。初めての赤飯にお饅頭。大量に食べたのが災いして、「こんなに食べる子供は食費がかかる」と返された。やがて小学校六年生。小さい体は変わらなかったが、ある日いじめっ子に対して堪忍袋の緒がキレたフレコは、いじめっ子達を空手で倒した。これには松子も度肝を抜かれ、以来いじめはなくなった。やがて中学生となり、5キロ先の中学校へ歩いて通うこととなる。しかしここでも「早紀子」なる言わばスケバンがフレコに目を付けて因縁をふっかけてきた。ショートカットの男っぽい顔だったらしい。フレコは気にも止めてなかったのにいきなりのお出迎え。しかし結果は言うまでもないことに。以来早紀子は勝手に「姉御、おはようございます」などと挨拶するようになる。そういう世界が嫌いなフレコはなるべく避けるようにしていた。いじめのない中学校生活。しかし早紀子のせいでまたもや事件に巻きこまれる。…続く。

Re: フレコ〜集団就職残酷史 ( No.4 )
日時: 2019/01/28 19:51
名前: 梶原明生  

…フレコ、早紀子、その他級友二人と四人で下校中、土建屋っぽいワゴン車のオジサンに声を掛けられた。「なぁなぁ君達、良かったら乗ってかない。家まで送るよ。」今なら通報ものだが当時は緩やかだった。しかしそれが善意からのものでないことはフレコもわかっていたので無視して「行こう。」と早紀子達を促して歩き始めるのだが。「姉貴、いいじゃないっすか。オジサン達送ってくれるんだし。」気がついたら級友二人はすでに乗っていた。仕方なく見捨てられないフレコは早紀子と同乗した。しかし明らかにおかしい。すでに後ろによだれたらしたオジサン三人が手ぐすね引いて待っていた。「たまんないね可愛いね。」さながら北斗の拳のザコキャラ状態とはこのことか。「あの、オジサン。この子の家、道違うんですけど。」「あ、あれ、そうだった?ま、間違えたかな。ははっ。」車はどんどん人のいない山道へすすみ、言っても一向に戻ろうとしない。この男の様子で悟った。「だから止めろって。」助手席にたまたま座っていたフレコはブレーキに男の足ごと踏みしだき、女の子とは思えない力でハンドルを握った。「な、何する。」言うが、すぐに裏拳で顔面を殴って悶絶させられる。「お前らの目的はわかってる。私たちを犯す気だろ。早紀子、何してる。二人を出して。」「う、うん。」慌ててドアを開ける早紀子。呆気に取られた三人の男は一人は留める。「おおお、ちょいちょい待てよ待てよっ。」「早紀子、走りな。」「わかった姉御。」フレコは二人に叫ぶ。「何だガキがっ。」オッサンが二人降りてくるがその瞬間縦拳を胸に突くと見せかけ金的を蹴り上げ、倒したあともう一人は羽交い締めしてくる。しかし体重を落として頭で男の顎を突き上げ。親指を捻って羽交い締めを解いて逆にこちらの腕を絡め、肘関節を痛める。「痛ぇーっ。」その隙に肘打ち。人中に裏拳打ちで決まった。「その子に何かしたら殺すよ。」仁王立ちの形相に、さすがにもう一人のオッサンは素直になって、女の子の腕を放した。「フレちゃん、怖かったよ。」泣きながら抱きつく級友。「いいから。走るよ。」走った先に早紀子が待っていた。「やるーっ、さすが姉御。」「馬鹿、何ヘラヘラしてんの。誰のせいなの。」「はーい。でもどうやって帰るんです。」「この山は私の庭みたいなもの。ついてきて。」まさか幼い頃、玖数群の山々を駆け巡っていたことがここで役に立つとは思っても見なかった。…続く。

Re: フレコ〜集団就職残酷史 ( No.5 )
日時: 2019/02/08 20:47
名前: 梶原明生  

…やがて近道になる野山の山道を四人で歩き抜いてそれぞれの家に送り届けた。最後に早紀子。「姉御、命の恩人だ。今日の借りは一生忘れないぜ。」そう言い残し、家に入る早紀子。日はとっくに暮れていたが、慣れた山道。フレコは一人無事に家に帰った。それからはしばらくの間四人で登下校するようになったが、あの男達は二度と姿を見せることもなく、警察沙汰にもならなかった。その後は特に何事もなく、学校と母の米屋でのバイトを手伝う日々。やがて中学生三年間の終わりがやってくると、誰もが進学か、就職かの二者選択になる。当時はむしろ進学より就職、すなわち「集団就職」が多くなっていた。言うまでもなくフレコもまたそうせざるおえない。三者面談でフレコは集団就職を選んだ。2月の寒い頃、山間部の雪道を歩いて学校に向かうと、フレコがこれから勤める紡績下請け会社の面接官が数名来ていた。「君が梶原フレコ君かね。」「はい。」「今から適性テストするから。」そう言って教室で差し出されたのは木の積み木みたいな道具。「それをバラバラにしてどれだけ早く元通り積み上げられるかタイムを計るからね。それでは用意、はじめ。」一斉に積み上げはじめるフレコ。秒針による昔のストップウォッチが使われていた。「はい、34秒。早いね合格だよ。これで我が土友生地工業株式会社に就職決定だ。切符を手配するから3月末に集団就職列車に乗って奈子屋市に来なさい。」「はい、よろしくお願いします。」こうしてフレコの就職先は決まった。しかしここからが、集団就職の本当の現実を垣間見ることにろうとは、まだフレコは知るよしもなかった。…次回「集団就職」に続く。

Re: フレコ〜集団就職残酷史 ( No.6 )
日時: 2019/02/20 21:24
名前: 梶原明生  

「集団就職」……

春は訪れてもまだ寒さ遠からじ。3月下旬、卒業式を済ませた玖数群の15才の金の卵が蒸気機関車に乗ってそれぞれの就職場所へ旅立っていく日が訪れた。後で知ったことだが、彼等中卒の産業労働者が何故「金の卵」と言われたのか。それは納得行くと同時に、多少の怒りがないかと言われれば、いいえとは言えないだろう。今と違って都心部は慢性的な人手不足に悩んだ。ならば都心部の若者が就職すればいいじゃないかと思うだろう。ところがどっこいそうはいかない。第三次産業である事務、営業、企画といったいわゆる「ホワイトカラー職」と、医者弁護士教師といった昔からの上流階級職が都会のステータスであり、多くの都会の若者は劣悪な第二次産業を嫌った。そうなると安い賃金で劣悪な福利厚生でも雇える金の卵ならぬ「金蔓の鉄砲玉」が必要となる。その餌食に打って付けだったのが「職場のない地方寒村の若者」だった。この事実を何人の当時15才が知っていただろうか。…続く。



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