複雑・ファジー小説

フレコ〜集団就職残酷史
日時: 2018/12/31 12:10
名前: 梶原明生  

フレコは玖数郡神楽に生を受けた。貧しい苦しみの中育ち、やがて15歳になった時にやむなく「集団就職」というご時世に乗る以外生きる道はなかった。彼女にとっての武器は母子家庭に育った厳しい教育だけでなく、贔屓にしてくれた小学校教師岩佐先生から学んだ「空手」があった。…これは我が母「フレコ」の若かりし日の、数奇の物語である。

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Re:フレコ〜集団就職残酷史 ( No.27 )
日時: 2019/08/28 18:49
名前: 梶原明生  

鳴り響き、当時配備されたばかりの懐かしい昭和のパトカーが数台駆けつけていたのだ。黒い制服に白い警笛紐を下げて、桜の大門付けた制帽を被った警察官が、木製警棒手に握って回転式南部拳銃を携えつつ続々居酒屋内に突入してくる。フレコはただ、霰もない姿で泣きじゃくる由美子を抱きしめて宥める以外なかった。「これは一体。」二階に上がった警察官は驚いた。泣きじゃくる娘達をよそに大の男達三人が伸びて倒れているのだから。「痛っ痛ぇーっ。」骨折している先ほどのボスが警察官に起こされた。「貴様が主犯だな。一体何があった、誰にやられたんだ。対抗組織のチンピラにでもやられたか。」「ち、ち、違う。痛たた。あ、あの小娘。あいつがやったんだ。あいつ暴行罪で逮捕してくれよなお巡りさん。」はぁっ、と言いたい顔になる警察官。「バカ言え。罪を逃れたくてあんな可愛い女の子を犯人扱いするとは、ふてー奴だ。 第一あんな女の子がお前ら大の男、しかもヤクザもんのチンピラを叩きのめせるわけなかろう。」「お願いだ信じてくれお巡りさん。確かにあいつにやられたんだよ〜。」「さては仲間割れでお前らの兄貴分とでも喧嘩になったんだろ。兄貴分庇う気持ちは分かるがな。詳しい話は病院行ってから、署で聞かせてもらう。覚悟しろ。」「そんな摂政な…」連行されるボス達。フレコや他の女の子は警察官に付き添われてようやく外に出た。「姉御ーっ。無事で何より。」「サッコ…じゃああんたが警察を。」「合点承知の介ってね。あたしができることはこれぐらいっすから。」「ありがとう。あんたに貸しができたね。」「どう致しましてってね。気にすることないっすよ。でも男顔負けの気っ風の良さ。益々姉御に惚れやしたぜ。」「サッコ。そういうのは好きじゃないって言ったでしょ。」「あ、お呼びでない。」当時の某コメディアンの物真似で多いに笑いを取るサッコ。しかし…「美川さん。あなたの戦いはこれからよ。」「梶原さん…ありがとう。」三人はパトカーに乗り、急遽警察署に向かった。…次回「黎明期」に続く。

Re: フレコ〜集団就職残酷史 ( No.28 )
日時: 2019/09/02 19:12
名前: 梶原明生  

「黎明期」……………………………………フレコ達はすぐ無罪放免となって寮に戻されたが、由美子はしばらく産婦人科で入院となり、まだ警察の聴取が残っているとのこと。彼女を傷つけたやつらがそれ相当に裁かれることを祈る以外なかった。いつものように仕事していつものようにお昼休みを過ごしていたのだが。「フレコちゃん凄いだで。まるで鞍馬天狗だで。」「そんなことないよ。…それよりさっちゃん。あの事どうなった。」「あの事って…」「ほら、自殺したいって友達が。」「うん…ただ、うちの会社に比べだら恵まれでるだに。」「さっちゃん。それでもその人も東北の貧しい村であなた同様口減らしに15歳で出された女の子よ。きっと辛いこともあるのよ。」「フレコちゃんの言うどおりかも。会いにいぐだ。」「そうね。何なら今度の連休に三人で行こうか京都に。」「え、フレコちゃん行っでぐれるなら心強いだで。行ごう。」サッコを見るフレコ。「何見てんすか。姉御が行くなら例え火の中水の中…」「ああ、いいからそれは。これで決まりね。」即席で決まった予定通り、三人娘が初めての京都の街に降り立った。「確か山科のごの辺…あっだ。」手紙にあった地図を片手に佐知子が見つけ出した。「車田紡績女子寮か。確かに豪華だね。」当時からすれば羨ましい話。トイレ、風呂は別でも市営住宅みたいにそれぞれ個室のある4階建ての寮。フレコはまたもや圧倒された。「ちょっと姉御、あれ。…」サッコが指差す頭上を見ると、金属格子から身を乗り出す女の子の姿。「マズい。」挨拶も無しに寮母室を無視して4階に駆け上がるフレコ。下から叫ぶ佐知子。「麻衣子ちゃーん。私、佐知子。バガな真似はしねーでけろ。」「さっちゃん。…」意識朦朧とした表情で夢か現かわからない声を聞いた麻衣子。ドアをそっと開けて忍び寄るフレコ。「何あなだ、やめで、やめで、死なせで。」気がついた時には遅かった。がっちりホールドされて鉄格子から離れさせられる麻衣子。「何があったかは知らないけれど、死んで花実が咲くものですか。」「ワァーッ。」フレコの一喝に一気に泣き崩れる。遅れて4階に駆けつけた佐知子とサッコ。「麻衣子ちゃん。…」「さっちゃん。…さっちゃん。」更に泣き崩れて佐知子に抱きつく麻衣子。しばし宥めるのに時間がかかった。…続く。

Re: フレコ〜集団就職残酷史 ( No.29 )
日時: 2019/09/06 20:54
名前: 梶原明生  

…「何があっただ麻衣子ちゃん。」「私ね、家に帰りでぇ。でも手紙には帰っで来るなっで。んで、仕事も遅いから毎日毎日おごられで…死にだぐなっただ。」「そんなごどあっただか。」佐知子は意気消沈して聞いていた。「姉御…」「うん。本来ならそんな弱気でと言いたいところだけど。辛い基準は一人の基準じゃないからね。あなたなりにつらかったのよね。でもそんなに遅いの。」「いんにゃ、最近やっと八割に追いついただ。でも男の班長が私ばかり責め立てで。この屑とが言っで、手をあげでぐるだ。」「わかった。」「あ、姉御。まさか…」「そのまさかよ。」すっくと立ち上がるフレコ。しかし行くまでもなく向こうから、飛んで火に入る夏の何とやら。「これは一体。君達は何だね。」「麻衣子さんの友達です。あなたは。」「車田紡績のこいつの班長だ。」「それから私は部長の剣崎だ。」中年男性の責任者二人が寮母さんに呼ばれて駆けつけたのだ。怯える麻衣子。フレコの目つきが変わった。「あなたこの子に手をあげる上、屑呼ばわりしているそうですね。」「あ、何だ。当たり前だ、屑に手を上げて何が悪い。」「植村君、よしたまえ。」剣崎部長が困り顔で制しようとしたが遅かった。「謝れ。麻衣子ちゃんは自殺していたかも知れないんだ。あんたのために。」今ならパワハラものだが当時はそんな概念すらなかった。「うるせー小娘のくせに。」フレコがただ者でないことを早く悟るべきだった。植村は鉄拳制裁するつもりが、制裁されたのは自分だった。内受けに即、横裏拳で顔面にヒット掴んだ腕を反対へ引っ張りまわし、腹にナイス回し蹴りを叩きこんだ。悶絶する植村。「ああ、どなたか知らんが、もうその辺で。植村君、君にも問題があるんだよ。」「し、…しか、しこいつに…」「君はもういい、下がりなさい。」寮母さんに付き添われて下に降りる植村。「すみません。ついカッとなって。」フレコは頭を下げた。「いやいや。私も彼の蛮行にいささか困り果てていたところだったんだよ。いいお灸になって逆にスッとしたくらいだ。」「恐縮です。」「さて、小田君。明日から紀美子さんとこに行きなさい。あそこならそんなにノルマはないだろう。」「あ、ありがどうございます。」麻衣子の件はこうして片がついた。しかし。「君はなかなか気概ある人だね。名前は何て言うんだい。」「梶原フレコと言います。土友生地に勤めてます。」「そうか。梶原君、私は今度請負会社を経営することになってね。」…続く

Re: フレコ〜集団就職残酷史 ( No.30 )
日時: 2019/09/12 18:31
名前: 梶原明生  

…懐から名刺を出す剣崎。「もし今の会社を辞める気になったらいつでも電話してきなさい。」「は、はい。」フレコは半信半疑に名刺を受け取る。これが後に転職のきっかけになろうとは、まだ当時の母フレコは知るよしもなかった。「あの時はまたオッサンの騙し技かなと疑心暗鬼になってたからな。就職してみたら意外と紳士で驚いた。」剣崎氏はやはりフレコと同じく集団就職の惨状を憂いていた方だった。この後麻衣子を気分転換に街に連れ出し、沢山おしゃべりして寮に帰した。夕日が差し掛かる特急列車内。三人は黄昏ていた。「フレコちゃん、ありがどうね。沢山借りがでぎただ。」「どういたしまして。でも私が借り返しただけよ。」「借りっで…」「労働基準監督署に手紙書いてくれたでしょ。あれなかったら今頃どうしてたか。」「ああ、あれ。言われだどおり書いだだけだで」「でも借しは借し。」「さすが姉御。眠狂四郎みたいっすね。」二人の言い合いに決着をつけるように、サッコが笑いを取った。時は春の終わり頃。もうすぐ17歳の誕生日が近付いていたある日、まだまだ肌寒い季節にストーブの灯油係としてフレコは夜、寮の倉庫から灯油を汲もうと来ていた。そこに男子寮から灯油係として来ていたおじさんがいた。当時33歳で、たまたま土友の途中採用の記事を見て倒産した会社から最近転職してきたのだ。名前は貴船真一。寒村の農家の長男で、いずれは家督を継ぐことになっていたのだが…今で言うところのブサメンで人がいい性格のため、この年まで女性と付き合ったこともなかった。そう、母と出会うまでは。…互いに倉庫のドアを開けようとして手が触れた。「あ、すみません。…」「いいえ、こちらこそ。ぼ、僕が開けますね。」やがて貴船は灯油入れを手伝うようになった。母フレコから見た第一印象は「優しくて笑顔の素敵な男性だった。」と、珍しく乙女な様相を見せるエピソードを聞かせてくれた。そして灯油が終わる季節になった時。もう声がかけられないと思った貴船は、フレコに愛の告白をする。「か、か、梶原さん。ぼぼ僕と、つ、つ、付き合って下さい。」顔を赤らめたフレコの初恋。「謹んでお受けします。」「やったーっ。」抱きしめる貴船を何の抵抗もなく受け入れた。翌日の休日は手を繋いでデートするほどのラブラブぶり。しかし清い関係だった。貴船も奥手であり、母フレコは言うまでもなく操が堅い。もし播磨みたいなことをしていたら言うまでもなく伸されただろう。…続く。

Re: フレコ〜集団就職残酷史 ( No.31 )
日時: 2019/10/22 21:36
名前: 梶原明生  

…しかし貴船氏は違ったのだ。やがて17歳の誕生日を迎えた頃、化粧、ネイルマニキュアサロンの営業が土友紡績生地会社に来ていた。「これからの女性は製造業であっても美しくキレイでなければ。」と言う山本リンダのような女性営業マンが勧めてくる。「ねぇキレイ。私美しくなれるかしら。」八重子は何の抵抗もなくマニキュアに化粧を施す。男性社員が冷やかす中、フレコの番になった時に事は起こった。「まぁ、あなたなら中村玉緒さんみたいだから化粧にイヤリングにネイルで見違えますわ。」フレコは当時まだ美容とは何かを知らなかった。てっきり物売りぐらいに考えていたからだ。「さて、まずイヤリング。まぁやっぱりキレイ。今度はマニキュアいきますね。」「やめてください。」「え…」フレコは山本リンダの取った手を振り払った。「私はここに着飾りに来てるんじゃありません。人は塗り壁じゃないんです。そんな着飾ったところに本当の美しさはありませんから。…」キョトンとする山本リンダ。「フレコちゃんいいでねぇか。キレイだで。」「そう思うなら二人仲良く塗り壁になれば。」「フレコちゃん…」「あっしゃ姉御の意のまま進むままってね。」サッコは早々に立ち上がった。仕方なくついていく佐知子。このため、未だに母フレコは着飾る姿を忌み嫌っている。我が家の伝統と言ったところだろうか。やがて夏も終わり、生活に余裕が出てくるとフレコは寮の裏庭に「巻藁」を170センチはある木の板にくくりつけ、地中に三分の一を埋めて「巻藁突き」のできる塔を立てた。「コン、コン、コン、」拳や足で突く鍛錬が始まった。「へへ〜、姉御。」「あんたたち何よ。」「いやね、そろそろあっしらにも空手教えて欲しいと思いやして。」来ていたのはやはりサッコに佐知子。「わかったわ。」「ヤッターっ。」かくして土友工業空手部の幕開けとなった。「姉御、腹減って。」「仕方ないな。おでん屋は閉まってるし。橋渡った雑貨屋なら袋ラーメン売ってて開いてるけど。行ってこようか。」「師匠がいぐごどねーだ。あたしがいぐだ。」「姉御、あたしも行きますから安心して。じゃあ。」二人は雑貨屋へと急いだ。橋を渡って袋ラーメンを購入するといそいそと帰るのだが…「よぉ、姉ちゃんかわいいね。俺達と付き合えよ。」風体の悪い男達4人が道を塞ぐ。「何だよあんたら、どいてくれよ。さもないとアチョーッ。」習ったばかりの空手を披露するのだが、どう見てもヘッピリ腰。…続く。

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