複雑・ファジー小説

フレコ〜集団就職残酷史
日時: 2018/12/31 12:10
名前: 梶原明生  

フレコは玖数郡神楽に生を受けた。貧しい苦しみの中育ち、やがて15歳になった時にやむなく「集団就職」というご時世に乗る以外生きる道はなかった。彼女にとっての武器は母子家庭に育った厳しい教育だけでなく、贔屓にしてくれた小学校教師岩佐先生から学んだ「空手」があった。…これは我が母「フレコ」の若かりし日の、数奇の物語である。

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Re: フレコ〜集団就職残酷史 ( No.5 )
日時: 2019/02/08 20:47
名前: 梶原明生  

…やがて近道になる野山の山道を四人で歩き抜いてそれぞれの家に送り届けた。最後に早紀子。「姉御、命の恩人だ。今日の借りは一生忘れないぜ。」そう言い残し、家に入る早紀子。日はとっくに暮れていたが、慣れた山道。フレコは一人無事に家に帰った。それからはしばらくの間四人で登下校するようになったが、あの男達は二度と姿を見せることもなく、警察沙汰にもならなかった。その後は特に何事もなく、学校と母の米屋でのバイトを手伝う日々。やがて中学生三年間の終わりがやってくると、誰もが進学か、就職かの二者選択になる。当時はむしろ進学より就職、すなわち「集団就職」が多くなっていた。言うまでもなくフレコもまたそうせざるおえない。三者面談でフレコは集団就職を選んだ。2月の寒い頃、山間部の雪道を歩いて学校に向かうと、フレコがこれから勤める紡績下請け会社の面接官が数名来ていた。「君が梶原フレコ君かね。」「はい。」「今から適性テストするから。」そう言って教室で差し出されたのは木の積み木みたいな道具。「それをバラバラにしてどれだけ早く元通り積み上げられるかタイムを計るからね。それでは用意、はじめ。」一斉に積み上げはじめるフレコ。秒針による昔のストップウォッチが使われていた。「はい、34秒。早いね合格だよ。これで我が土友生地工業株式会社に就職決定だ。切符を手配するから3月末に集団就職列車に乗って奈子屋市に来なさい。」「はい、よろしくお願いします。」こうしてフレコの就職先は決まった。しかしここからが、集団就職の本当の現実を垣間見ることにろうとは、まだフレコは知るよしもなかった。…次回「集団就職」に続く。

Re: フレコ〜集団就職残酷史 ( No.6 )
日時: 2019/02/20 21:24
名前: 梶原明生  

「集団就職」……

春は訪れてもまだ寒さ遠からじ。3月下旬、卒業式を済ませた玖数群の15才の金の卵が蒸気機関車に乗ってそれぞれの就職場所へ旅立っていく日が訪れた。後で知ったことだが、彼等中卒の産業労働者が何故「金の卵」と言われたのか。それは納得行くと同時に、多少の怒りがないかと言われれば、いいえとは言えないだろう。今と違って都心部は慢性的な人手不足に悩んだ。ならば都心部の若者が就職すればいいじゃないかと思うだろう。ところがどっこいそうはいかない。第三次産業である事務、営業、企画といったいわゆる「ホワイトカラー職」と、医者弁護士教師といった昔からの上流階級職が都会のステータスであり、多くの都会の若者は劣悪な第二次産業を嫌った。そうなると安い賃金で劣悪な福利厚生でも雇える金の卵ならぬ「金蔓の鉄砲玉」が必要となる。その餌食に打って付けだったのが「職場のない地方寒村の若者」だった。この事実を何人の当時15才が知っていただろうか。…続く。



Re: フレコ〜集団就職残酷史 ( No.7 )
日時: 2019/03/23 00:41
名前: 梶原明生  

…ごくわずかだったことだろう。さて、フレコの乗った満員列車はモクモクと蒸気の煙を吐いて一路、奈子屋市を目指した。「姉御、ようやく探しやしたぜ。」「サッコまたあんたか。」それはまさしくあの早紀子であった。「そんなつれないこと言わずに。あたいはね、たとえ火の中水の中、姉御についていくって決めたんだから。あ、これ餞別のミカン。食います。」「いらない。」言いながらもフレコは流れゆく窓外の景色を見ながら内心嬉しい顔をしていた。やがて顔見知りの級友達は、岡山、広島と通過するごとにドンドン降りていき、大阪で一番のピークを迎えた。半分以上が降りていく。「さよなら。」「頑張れよ。」「また会えるよ泣くな。」そんな号泣が聞こえる中、フレコは目がクラクラになりかけていた。「何じゃこりゃ。お、大阪とは何という大都会なんじゃ。」玖数群の田舎町しか見たことない彼女にとって、それはまさに「未知との遭遇」だったろう。戦後とは言え既に日本は経済成長真っ只中。居並ぶビル群と最新の大阪駅に圧倒されっぱなしだった。「姉御、悲しくないんですか。ほとんど行っちゃいましたよ。グスン…」ハンカチ片手に涙する早紀子の話などほとんど耳に入らなかった。そしていよいよ京都を抜けていざ奈子屋市へ。ここでも大阪と負けじ劣らじのビル群と駅ターミナルに圧倒された。「ようこそ君たち。土友紡績の須田だ。ついてきたまえ。」「はい。」こうしてフレコと早紀子の土友紡績での生活が始まった。しかしそこは想像を絶する重労働と理不尽な経営陣との生活が待っていた。…続く。

Re: フレコ〜集団就職残酷史 ( No.8 )
日時: 2019/03/29 15:42
名前: 梶原明生  

…「姉御、どんな寮ですかね。個室の洗濯機、冷蔵庫、テレビ、ガス、バストイレ付きのモダンな部屋だったりして。イヒヒッ、奈子屋市みたいな大都会ならありえますよね。ね。ね。姉御。」車に揺られながら不思議そうな顔をするフレコ。「は、冷蔵、洗濯機、ガス、…何それ。」「はーーーっ。あ、姉御、知らないんすか。」知るはずもなかろう。幼少期から中学まで苛烈な生活を余儀なくされ、玖数群の山奥田舎で育ったフレコにとって、食い物に貯蔵できる余裕どころか粥すら食えない時がザラで、洗濯は川で洗濯板を使い、照明も蝋燭。いや、それすら節約のため滅多に使えない。そんな生活をしてきた彼女が知るはずはなかった。テレビも庄屋さんとこで見せられ、「人が箱の中で何かしてるもの」と勝手に名前付けてたくらいだから。やがて土友紡績生地株式会社に着いた。「先ずは寮から見てもらおう。荷物は置いてそれから工場内を案内する。」「やった姉御、いよいよモダンな寮…ゲッ。」早紀子は顎が外れかかった。すでに東北組の同年輩男女が畳10畳少しくらいのタコ部屋で、少ない荷物を置いてくつろいでいた。しかも衛生的とは言えない、一昔前の雑居房のような佇まい。「えーっ もしかしてあたしたちの寮ってここ…」開いた口が締まらない早紀子をよそに、さっさと上がるフレコ。土友部長は声を荒げた。「何贅沢言ってんだこの馬鹿者が。住まわせて職を与えてやっただけ有り難く思え。」「え、は、はい。」仕方なく上がる早紀子。「とんでもないとこ来ちゃったな。姉御、平気なんすか。」「え、何で。こんな生活玖数群と変わらないけど。」「ええ…ま、まぁ姉御がそう言うなら…」渋々納得する早紀子。何事もなくこの日は夜を迎えたが、朝6:00になった時点で物事は急展開する。「いつまで寝てるんだ。部長のわしが既に来てるのにこのザマは何だ。」長旅の疲れも取れぬまま、フレコだけは身支度していた。「サッコ、起きて。首になるよ。」「あんもう眠いっすよ。」寝ぼけながら洗面などが始まる。この時軽いカルチャーショックを受けたと我が母フレコは後に語ったことがある。「へーっ洗面器に顔突っ込んで洗うの、東北じゃ…。」横分け三つ編みにした佐知子との出会いだった。両手で水を張った洗面器に顔ごと漬けて両手で洗う。視線を感じて横を見る佐知子。「エヘヘ、あんた九州から来た人だで。」「あ、そうよ。私梶原フレコ。あなたは。」「乾佐知子。」二人は不思議とウマが合った。…続く

Re: フレコ〜集団就職残酷史 ( No.9 )
日時: 2019/04/10 18:29
名前: 梶原明生  

…やがて質素な食事が済んだら土友社長宅の庭掃除。その庭に圧倒された。フレコは川の字テトリス状態で八畳一間で寝ていたのに、社長はまるで別世界。それが終われば作業着に着替えて生地製造の金属の巨体たる機械の前に立った。「うわ、すごいっすね姉御。こんなの扱うんですか?」轟音が響いているにも関わらず、耳栓もなければマスクもない。安全基準すらこの時代には皆無に等しかった。「今日から君達にここを担当してもらうからな。」即座に役割分担が課せられていき、現場の班長から怒号が飛んだ。「何やってんだお前っ。ちんたらしてんじゃねぇ。」「このバカやろうっ、生地はお前らより大事なんだ。今度やったら張り倒すぞっ。」こんな班長の罵声は日常茶飯事だった。フレコは一生懸命仕事を覚えていき、新卒の中でも好成績を残した。しかし、できないやつは槍玉に挙げられる。小山内友之という少年もそうだった。彼のストレスは幾ばくのものだったろう。こうして昼の30分休憩以外は夜中の7時まで仕事。しかしそれだけではなかった。夕食30分が終わると今度は社長宅や家族経営であるがゆえに、その親戚宅まで全員で掃除、ベッドメイキング、片付けまでやらされて、終わるのが夜中0:00時。しかもそれから男女同じ浴場を使うので、30分交代で男女入れ替わりで風呂に入るから、下手すると就寝は夜中2:00。それで6時起床なので、寝る時間は4時間。まさにハードワークそのものだった。母曰わく。「あんな勤務15歳だからできたんだよ。今やったら死んでるね。」笑顔で語るが目は笑ってない。これで給料は信じられないくらい安いわけだからたまったものではない。一番信じられないのは工場勤務の新人をまるでメイドか使用人扱いしていたことだ。 しかし母等にとって、これが当たり前なのかと思う以外なかったろう。「か〜っ、姉御、疲れるっすよ。」早紀子が肩を回しながら寮に戻る。「サッコさん、私もー疲れだで。あど、どれくらい持つんだべか。」「二人とも、大丈夫。私たち一人じゃないんだよ。頑張って仕送りしないと。」「頑張れるかよ。」急に少年の声が入ってきた。「小山内君どうした。」「お前らわからないのかよ。明らかに奴隷扱いじゃないか。俺は奴隷じゃない。」そう言うなり布団をかぶる小山内。呆気にとられた三人は、また明日早いこともあって、すぐに就寝した。翌朝、佐知子がフレコに耳打ちしてきた。「フレコちゃん、実は私女の子の日だで。」…続く。

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