複雑・ファジー小説

スプラッシュメモリー
日時: 2019/02/19 20:33
名前: 天ぷらうどん ◆hb6qoUVYpQ

プロローグ
>>1

月藤高等学校新聞部
>>2 >>3









短編。軽い気持ちで読んでください。
毎週火曜日更新。

Page:1



Re: スプラッシュメモリー ( No.1 )
日時: 2019/02/19 20:20
名前: 天ぷらうどん ◆EF4y/q4eOk

 茹だるような夏の日。連日最高気温を更新し続ける田舎町でだれきった子ども達が小学校の教室という、一部屋に集まっていた。間宮良輔もその一人である。
 夏休みとは一体何であるのか、暑さで勉強できないからこそ、存在する休みではないのか、今この瞬間、今日こそ夏休みにすべきではないだろうか。学校は頭がおかしいのでは無いだろうか。
 照りつく太陽、容赦なく皮膚に降り注ぐ日光は頭をぼうっとさせて、座席に座る良輔は体の芯まで溶けてしまいそうで、いつもなら耳を傾ける情報通の噂も汗と一緒に流れていった。

「はーい。静かに」

 聞き慣れた女性の声が聞こえたと思えば、雑談していたクラスメイトの声も静かになった。良輔も崩した体を起こし、座り直す。

「先生、転校生が来るって本当?」

 おちゃらけた女子生徒が立ち上がって元気に言った。
 転校生? そんな話聞いていないぞ。良輔は寝耳に水だった。

「こら、あんたちょっと早いよ」 

 先生が怒って、教室にどっと笑いが起こった。どうやら本当らしい。
 先生が教室のドアの方へ歩いて行く。周りもしん、と静かになった。先生のハイヒールの音は転校生が来るまでのカウントダウンみたいだった。

「どうぞ、入って」

 先生がドアを引くと、一人の生徒が教室に足を踏み入れる。
 坊主頭に太い眉、背が高くがっしりした身体。獲物を捕らえるような鋭い目つき。
 転校生は、その男は、まるで百戦錬磨の武道家、いや、自分達よりずっと大人びてみえた。

「はい。じゃあ挨拶してくれる?」

 優しい笑顔で先生は男にチョークを渡す。男は掌にのったチョークを黙ってじっと見つめた。

「書いて、名前」

 緑色の黒板に先生はノックすると、男はハッとした表情になり、チョークを持って腕を振り上げた。
 男はそれから何度もチョークをスナック菓子のようにいとも簡単にバキバキと折ると、やっとこさ黒板に字が書かれる。
 内田 司
 それが男の名だった。内田さん、か、と無意識の内にさんを付けてしまう良輔は、手についたチョークの粉を払う、司に視線を注いだ。

「じゃあ、自己紹介」

 先生に手で指示された司は、視線を下に向けると、息を大きく吸い込み深呼吸した。司の吸い込む音は大きすぎて、後ろの方に座っている良輔にも聞こえた。司は一瞬目を閉じたが一気に目を見開き、口を大きく広げた。

「はっ……はじっ……はじめっ」
「はじめまっ……っ……」
「はじめましてぇっ! うっ、うっ、うっ」
「うっ……うっ、うちっち」

 良輔は司の姿にあっけに取られていた。教室いたるところにクスクスと笑う声が聞こえる。

「お前! ギャップありすぎぃ」

 お調子者の男子が突然立ち上がり、司を指差す。
 とたんに洪水のような笑い声が、教室全体に響く。先生が手を鳴らして止めようとするが、皆は笑いが止まらないようだった。
 司は周囲を見回しておろおろとした表情になると、目を真っ赤にし始めた。
 マジかよ、良輔はそう思うと、司は目から大粒の涙を流しながら、廊下へ走り去った。

Re: スプラッシュメモリー ( No.2 )
日時: 2019/02/19 20:31
名前: 天ぷらうどん ◆EF4y/q4eOk

「ハッピーバレンタイン!」

 あらゆる物が埃に被っているような部室でクラッカーが鳴り響く。

「うるさっ! ちょっと、どうしたんですか部長?」

 思わず黒髪のポニーテールからひょっこり出た耳を塞いだ東山あかりは、部室の前に立つ黒い長髪の美女、部長を睨む。
 睨まれた部長は意に介さず部室――月藤高等学校新聞部に入り、座っているあかりの前に仁王立ちし切り出した。

「バレンタインよ」

 あかりは訝しげに見つめると、部長は馬鹿にしたように鼻で笑う。

「もう少しでバレンタインデーなのにこんな場所にいるなんておかしい」
「いや、部長が言い出したんですからね、バレンタインスペシャルで特集記事書くって。生徒会に新聞出すっていう書類出しちゃいましたよ」

 偉そうな部長に、あかりはピシャリとそう言う。
 部長は、わなわなと震え出した。

「あーーーーーー!」

 大声で叫び始めた部長をあかりは面倒臭いと思った。

「だいたい何を書くの? 誰も見ないよ、そんなもん」
「私はやめようって、最初に言いましたからね」

 頭を抱える部長にあかりは溜息をつくと、編集作業をするパソコンに向き直った。薄型モデルでも、最新モデルでもない、ただただ大きいディスプレイに黄ばんだキーボードを使って文章を打ち込んでいく。

「あかり〜」
「何ですか」

 だらしなく口を開けた部長に投げやりに答える。

「何かいいネタないわけぇ?」

 とことん、他力本願な女だなとあかりは苛つく。
 しかし、かといってあかりも大して思いつくことがない。特集記事というが、話題性のあるニュースではないと発行したところで、手に取ってくれる人も少ないだろう。

「今日やって来た転校生の話はどうですか」

 あかりの隣でボソッと低い声がしたと思えば、眼鏡をかけた黒い短髪の男が腕を組んで座りながら、こちらに顔を向けていた。

「小谷さっすが〜! あかりとは違うわ〜」

 小谷英介は涼しい顔で頷き、指で眼鏡を押さえパソコンに再び視線を合わせた。あかりは呆れ返る。

「いや、あの、転校生は確かに話題性ありますけど、それで何を書くんですか?」
「小谷、その転校生ってどういう人なの」

 英介は、部長に視線だけ動かすと淡々と転校生について話しはじめた。

「二年三組の女子です。顔は可愛いらしいです。性格も明るくてすでにクラスでは人気者であるとか」

 あかりはどうでもいい気持ちになり、また作業に戻った。

「二年ってあかりの学年じゃない。じゃあ、あかり、今から取材行ってきて。よろしく」

「はぁ!?」

 すっかりほくほく顔になっている部長。突然の命令にあかりは頭が痛くなっていった。
 だが、何言っても無駄か、この無茶苦茶な新聞部部長三年、九条美里には。

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