複雑・ファジー小説

パブリックスクール
日時: 2019/03/13 17:37
名前: サメノ

 2019年、フランス──主人公のアーロンが日々の生活を送るのは、寄宿制の男子校だった。自由なようで束縛的、最先端かと思いきや時代錯誤、そんなオルトン校で、アーロンはある日幽霊に出会い、500年前にタイムスリップしてしまった。最初は慣れない文化に戸惑うものの、次第にオルトン校の秘密が明らかになっていく。

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Re: パブリックスクール ( No.1 )
日時: 2019/03/13 21:43
名前: サメノ

 アーロンの人生は、未だ齢15にも関わらず、始めから終わりまで、全てが決まっていた。
 入学する学校、職、結婚相手に至るまで、誰かが自分の生まれる前から決めていた。そこに自分の意志はなく、他者のエゴだけが一方的に押し付けられていた。そしてそれに抗うことは出来ないということも、物心つく前から知っていた。




 アーロンは、教室の窓から降り注ぐ、5月の眩すぎる日の光に目を細めた。窓の向こうを見下ろすと、中庭で昼食を取っていたり、駄弁っている生徒の姿が、まるでまばらなドット絵のように見える。そして直感的に、そのドット絵の一部に自分は入っていないのだと思う。彼らと自分は決定的に何かが違っていて、唯一の共通点と言えば、自身の輪郭もなくすほど光る太陽の光を浴びているということだけだった。
 何が違うのかはわからない。けれどアーロンは物心ついた頃には既に人が苦手になっていた。気づけばいつの間にか、ふざけあったり笑ったり、ケンカをしたり、誰かを思いやって悩んだり泣いたり、そうして際限なく心を動かす人たちを、いつも遠くから眺めていた。不思議なものだと思っていた。みんな、なぜそれほどめまぐるしい生き方をしているのだろう? どうしてそんなに感情を揺れ動かすことができるのだろう? アーロンはいつもそんな風に思い、周囲を見回しては小首を傾げた。
 
 「あ、アーロン君、一緒に食べる?」

 男子生徒は苦笑して提案してきた。短めの髪型と日焼けした活発そうな顔立ちにはなんとなく見覚えがある。しかし、誰かは思い出せなかった。
 
 「いや、いい」

 アーロンが簡潔にそう答えると、男子生徒は気まずそうに去っていった。
 おそらくアーロンが1人で居るのを見て、放っておけなかったのだろう。今までにも、似たような生徒や教師に出会ったことがある。そしてその度に、アーロンは相手の気持ちを受け取ってこなかった。
 先程の男子生徒はアーロンから少し離れた所で他の数人の生徒と集まっていた。彼らの遠慮のない話し声がアーロンの耳に届く。

 「おまえアーロンと話してたの?」
 「いや、別に…それよりあいつ、変わってんな」
 「ああ、あいつ、なんか早くに両親亡くして家庭環境複雑らしいぞ。そりよりさー、神代、今日俺の番なんだよね」

 はじめはアーロンの話題があがりこそしたが、それも一時の事だった。気にかける必要もなく、彼らの心は目まぐるしく、転がるように、笑い声とともにオルトン校の伝統である、神代回しの話題に移っていった。
 オルトン校には、厄年の今年は、夜中にこの地を妖魔が闊歩するという、時代錯誤な信仰が今でも根強く残っており、神代回しはその厄よけのための、オルトン校に古くから伝わる伝統である。神代とは、妖魔から守ってくれる神の依り代として使われる蝋燭のことで、番が回ってきた生徒は、夜中、神代である蝋燭に火をつけ、夜が明けるまで火が消えないよう、見張る役目を任せられている。
 宗教に入っているわけでもないのに、こんな伝統があるのはおかしいのではないかと、アーロンは思っていた。
 それにオルトン校のおかしな所はこれだけではない。規則にもある。平等で自由な学校を謳っているわりに、成績によって制服をわけたり、在学中は学校より外に出てはいけなかったり、妙なのだ。
 しかしそれは、アーロンにとって、いや、全生徒にとって、興味を引くものではなかった。違和感を感じた所で、それは幻術にでもかけられているように、無意識に通りすぎる。立ち止まり、探ろうとはしない。そういう、些細なものなのだ。まるで自分の様だと思った。

 アーロンはあくびをしながら、携帯を操作しゲーム画面を開きはじめた。だからといって、アーロンはゲームが好きというわけではない。アーロンにとっては携帯ゲームでも読書でもテレビでも、なんでもよかった。意識をそこに向けているうちに、時間が流れ去ってくるるものなら、アーロンは大概好きだった。
 行き交う人の笑い声、放送されている名前の知らないクラシック、晴れわたった空、中庭に咲いている花の色──
 そうした周囲の存在を、アーロンは全て確認していたが、心動かすものは何一つなかった。自分の周りには、なにか薄い膜のようなものが張り巡らされていて、すべては自分からは程遠く、隔たった世界の出来事のように感じていた。
 そうして傍観者のように日々を送りながら、アーロンは待っていた。いつか死が来るのを。
 そんな風に生きても、この世界は生きていけるのだ。

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