複雑・ファジー小説

Kの鳴く空に
日時: 2019/03/14 10:31
名前: ギフト屋




お姉ちゃんを殺したのは、誰。



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Re: Kの鳴く空に ( No.1 )
日時: 2019/03/14 15:08
名前: ギフト屋


 鳩見坂公園前。
 昼間だというのにバスを利用している客が予想以上に多くて、私はイライラしながら座席から立ち上がった。
 混んでいるのも無理もないか。
 ここ、鳩見坂の町には電車がない。市から出るには車を30分程走らせた場所にある、隣町の駅まで向かわなければならい。しかも、電車は1時間に1本あるかないかだ。
 そんな田舎町だから、移動手段がバス中心になるのはやむを得ないのかもしれない。


「おねえちゃん、ゆみちゃんね、50円しか持ってなかった……」
「えっ? 嘘、だって、さっきお財布に100円あるって言ってたじゃない」
「100円だと思ったらね、50円玉だったの……」
「どうするのよ、降りられないじゃない!」


 運賃箱の前でなにやらもたついている姉妹の後ろに並んで、ICカードをぎゅっと握りしめる。
 ……早くしてよ。
 これだから、田舎って大嫌い。
 田舎はゆったり時間が流れているとか、都会と違ってのんびりしていて皆が大らかとか、おばあちゃんがそんな風に言っていたけど、私からすればただ単に周りに気が使えない奴が多いだけに見える。東京の通学電車にはここにいる乗客の何倍もの人がひしめき合っていたけれど、乗り降りもスムーズだったし、こんなにイライラさせられることも少なかったと思う。


「ねえ、あなた達お金ないんでしょ。これ使って」


 姉妹の会話から察するに、バスの料金を支払えないのだと思う。
 私は財布から500円玉を取り出して、姉妹のうちの姉の方の手のひらにそれをぎゅっと押し付けた。
 今にも泣きそうだった妹が、姉のセーラー服の裾をきゅっとつまみながら、私を見上げてくる。見慣れない顔だな、なんて、そんなことを思ったのかもしれない。それもそうだ。だって私は先週ここに越してきたばかりなのだから。ただでさえ人口が少ない鳩見坂なのに、そのほとんどは老人ばかりで、若い人は揃いも揃って引っ越していく。そんな町だから、子ども同士はみんな顔馴染みといっても過言ではないと思う。
 

 呆然としている姉を押しのけてバスから降りると、びゅうっと吹き抜けてきた冷たい風に制服のスカートが捲られる。それを直して、しもやけにでもなりそうな手の指先を1、2度擦り合わせながら、うっすらと雪の積もっている道を歩き出した。



 

「待って! 友代ちゃん!」


 

Re: Kの鳴く空に ( No.2 )
日時: 2019/03/14 19:06
名前: ギフト屋


◆この物語のあらすじ

ある年の冬の出来事。
家庭の事情で東京から田舎町「鳩見坂(はとみざか)」へ引っ越してきた「智花(ともか)」。
転校先の鳩見坂中学校で、智花は1日にして学校のアイドルになってしまう。
だけど、何かがおかしい……。
なぜかクラスメートや教師たちは、智花のことを頑なに「友代(ともよ)」という名で呼んでくるのであった。

やがて、智花は「友代」という名が只のニックネームではないことに気が付く。

友代とは、いったい誰なのだろうか。

謎を紐解く為に奔走する智花に、不可解な出来事が重なっていく――。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
初めまして。アクセスありがとうございます。
ギフト屋と申します。

マイペースに執筆していけたらと思いますので、どうぞお付き合いよろしくお願い致します。

今回のお話のジャンルは青春ミステリーです。
書き込みは大歓迎ですので、仲良くしていただけると嬉しいです。



Re: Kの鳴く空に ( No.3 )
日時: 2019/03/16 19:27
名前: ギフト屋


第1話「故郷」



「待って! 友代ちゃん!」


 後ろから叫ぶように誰かを呼ぶ声がして、思わず振り返った。
 するとそこには先程の姉妹のうちの姉が、私の方を見ながら、真剣な顔つきをして立っていた。
 私の近くには誰もいないし、恐らくこの子は私に向かって叫んだのであろう。でも、私は友代なんて名前ではない。

 人違いだろう。
 人でごった返した渋谷や新宿ならまだしも、こんな田舎の町で人違いするなんて、どうかしているわね。

 彼女と目が合い、数秒。
 私は再び踵を返して、自宅を目指すために足を動かし始めた。
 これだけ視線が交わればさすがに人違いだったことに気づいたはず。結構恥ずかしいと思う、こういうのって。今頃赤面しているだろうか。


 新しい制服が仕上がるまでは、今までの学校の制服を着用できる。
 お気に入りだったのにな。この茶色いブレザー。
 来週からは、私も鳩見坂中学の生徒。あの子と同じセーラー服を着なくてはいけないのか。そんなことを考えたら、重い溜息がこぼれ出て、寒い空気に溶け出したそれは、深く白い色をしていた。


「待ってってば!」


 後ろから腕をつかまれハッとする。
もしかしたら人違いかもしれない――そんな懸念は微塵も感じられないような素振りで、あくまでも確信を持って私のことをはっきりと呼び止めている彼女に、驚かされた。
 ……なんなの?
 おねえちゃん、この人だぁれ? きょとんとした妹の問いに嬉々とした表情で姉が答えていた言葉は、友代ちゃんよ! という一言で。
 腕を掴まれたときにずり落ちたスクールバッグを肩にかけ直して、私は彼女の手を振り払った。


「人違いよ。貴女なんなの? 急に」
「またまた〜! 友代ちゃん、戻ってきてたのね。鳩見にはいつから? 元気にしてた?」


 今さっき振り払われたばかりの手を再び伸ばし、私の右手を握ってきた彼女が、興奮気味に早口で話し続ける。
 私は怖くなって、1歩2歩と後ずさりしたけど、彼女は私の動きに合わせて黒いローファーを前進させる。
 こんなに至近距離で私の顔を見ているのに、どうして人違いだと気づかないのだろう。
よっぽど私に似ているのだろうか、その、友代という人が。


「悪いけど本当に人違いよ。私は藤目智花。ほら見て、制服も違うでしょ。先週東京から引っ越してきたの」
「藤目……智花……?」


 信じられない。そんな顔で私の名前を口にした彼女に、妹が不思議そうに呟く。


「おねえちゃん、この人、友代ちゃんって子じゃないの?」


 彼女は私を一瞥して、妹の手をとり「ううん、鳩見が久々だから、照れてるのよ」と笑っていた。
 ここまで言ったのに未だに私を友代だと決めつけているようなその発言に割って入ろうとした刹那、正午を知らせる時報のエーデルワイスの曲にかき消され、行き場をなくした私の声が尻つぼみになって消えていく。


「たいちゃんもね、元気だよ。それじゃ、私たち急ぐから。また学校でね」


 ひらひらと手を振って、妹の手を引き去っていく彼女のその勢いに、私は何もいうことができなかった。
 いそいそと歩いていく姉妹の後ろ姿。2人のお揃いのヘアゴムと、お揃いのポニーテールをぼうっと眺めていたけど、ふっと我に帰り、あぁ寒い……なんて呟きながら両手のひらを擦って私は指先を温めていた。

 なんだったんだろう。あの子。まぁ、いいや。


Re: Kの鳴く空に ( No.4 )
日時: 2019/03/17 15:54
名前: ギフト屋

 

*******


「ただいま、おばあちゃん」


 ぐらぐらと煮立っている鍋を覗き混むと、筑前煮の甘じょっぱい香りがぷんと漂ってきて、唾をごくりと飲み込んだ。朝はいつも食欲がなくて抜いているから、このくらいの時間になるとお腹がすいてくる。東京に住んでいたころはコンビニのご飯がメインだったけど、ここへ越してきてからはこうしておばあちゃんが毎日料理を作ってくれるから、田舎は好きになれないけれど食事の面では満足していた。


「お帰り、ともちゃん」
「図書館見てきたよ。思ってたより広かった。でも人が全然いないのね」


 昔から小説を読むのが好きだった私は暇さえあれば図書館に行っていて、新しい町の地を踏むと、ここにはどんな図書館があるのだろうかと毎度わくわくしているのだ。
 引っ越しの片付けやらでここ1週間忙しく、図書館に行く時間なんてなかったのだけれど、今日はやっと覗くことができて良かった。田舎の図書館だからそんなに期待していなかったけど、予想以上に充実していて吃驚した。図書館につくまでに強烈な坂をのぼらなければならないのはマイナスポイントだけど、そのおかげで読書スペースから一望できる鳩見坂の景色は絶景だった。晴れている冬の夜に行けば、きっとまばゆいまかりに星が輝いて見えるのだろう。


「ここは年寄りばかりだからねぇ……家から出る人も少ないのよ。特に、こう寒くっちゃね」
「ふぅん」


 テーブルに並んでいるキュウリの漬物をつまもうとしたら「とも」と一言おばあちゃんに静かに注意されたので諦めた。お腹空いてるんだから、1個くらい良いじゃない……とも思うけど、お世話になっている以上我儘は言いづらい。


「あとね、今日鳩見坂中学の子がいたよ。バスに」
「珍しいわね、こんな時間に。ともちゃんと同じ2年生の子かね」
「さあ? でも、私のこと“友代ちゃん”って人とずっと人違いしてきたのよね。なんか気持ち悪い」


 人のことをやたらと気持ち悪いなんて言うもんじゃないよ。おばあちゃんの性格からしてそんなことを言ってきそうだと予想できて、しまった、と一瞬思ったけれど、おばあちゃんは私の話を聞いているのかいないのか、何も言ってくることはなかった。注意されないで良かったと思う一方、なにも言ってくれないというのもそれはそれで不安になってくる。
 本気で怒ったのだろうか? いやいや、まさか。これくらいで。
 無言で料理を作っているおばあちゃんを警戒しながら、キュウリの漬物にそっと指先を伸ばす。「とも!」と注意されて、私は少しほっとしていた。


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