複雑・ファジー小説

 最強魔導師は商人をしている
日時: 2020/03/27 20:37
名前: マッシュりゅーむ

 
 『セイカゲ』で知ってくれた人はこんにちは。はじめましての方は初めまして。マッシュりゅーむです。
 今作品は、僕が仲間と書いている『セイテンノカゲボウシ』、閲覧数4,000回を記念――ということを名目上に、僕が前からやってみたかった、僕個人の小説となっております。


〜文章での注意事項〜
 ゴリゴリのファンタジーにしたいと思います。読みやすく、面白い小説になるように頑張りますので、よろしくお願いします。

 題名で分かる通り、主人公は無自覚最強――最強まではいかずとも、そんな感じです。
 こういった設定が嫌いな方もおられると思いますが、ご了承ください。

 物語の世界は、この世界と違いますが、pやkmなどの物理の単位を新たに作るとややこしくなるので、それはこの世界でも同様とします。

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第二幕 第一章 [ ( No.21 )
日時: 2020/03/12 19:13
名前: マッシュりゅーむ

 それから軽く昼食を取った後、僕達はこの町を出た。途中でモンスターも少し出たが、止める暇なく馬車が勢いのままそのまま突っ込んですべて潰してしまった。返り血も風の勢いですべて跳ね返してしまうからなし。少し豪快だが、まぁ、いいかと思っている。うん。

 そして、また数時間後、また新たな村――今度は田舎っぽい普通の村――に着いた。
 一旦宿を取り、不必要なものをそこにおいて再び外に出た。
 そこは比較的小さい村なので、前の町のような市場はなく、普通に村の人通りが多くて邪魔にならない一角に店を構えて商売をした(結果は上々だった)。
 終わり次第宿に戻り、夕食を取り、一泊してまた馬車を走らせ、一回野宿――と思いきや予想よりもこのゴーレム馬車、めちゃ速かったようで、その日の夕方前には最後の村についていた。

 この最後の村には物を売りに来たのではなく、カイやミナの、少し数日分の疲れを癒そうとの配慮だ。流石に宿にいる以外馬車に乗りっぱなしからの仕事、そしてまた馬車、というループには疲労が溜まっているだろうと。現に今彼らは元気に外を走り回って………あれ?

 そ、それはともかく、ふと何とはなしに売り物を確認してみたら、当初よりだいぶ減っていた。それは商売が順調にいっている証なので、単純に嬉しかった。


 そして僕らはまた一泊し、村を出た。


***


「アースさん?予定だとこれでもう……」
「うん、この林を抜ければ――もう国境まですぐだ」
「おぉ〜〜!やったぁ!」
 遠くまで続く木々の間の道。その、地形を表す看板の前で、カイの問いに僕が答え、ミナが歓声を上げる。ミナだけではなく、僕も、恐らくカイも気分が高揚している。
 なんてったって、あともう少しで人生初の隣国だ。どんな文化があるか、どんな人々に会えるか、全く想像できない。だからこそ楽しみなのだ。

 本来、僕には無縁の世界故に。

「よし、じゃあ行くか」
 早速林を抜けようとして、馬車を走らせるためゴーレムに命令をしようとする。と、―――

『ギギャァォゥ………――』

「――!?なん、だ?」
 急に響いた、悲鳴にも似た高い音。ゴーレムの出した音でもない。ミナとカイはこんな声は出せない。というか、音は林の中から聞こえてきた。
 これは多分、いや絶対―――

「――モンスター?」
「「!?」」
 呟く僕のこえに反応して身を縮めるミナとカイ。それを横目に、あの声の正体となるモンスターは何か調べるために、頭の記憶の本棚の中にある『怪物辞典』という、現在確認されているモンスターのことがすべて書いてある本を頭の中で取り出し、ページを捲る。
 あの、形容しがたい嫌悪感と忌避感が体を駆け巡るような鳴き声の持ち主は……―――
 そして、同時並行としてモンスターの魔力を視ようと『魔眼』も発動させる、と――

「――ッ!?チィッッ!!」
「あ、アースさん!?」
 カイの呼びかけを無視し、一人で林の木々の中に飛び込む。
 今の僕には余裕がない。なぜなら、『魔眼』が捕らえた魔力は、僕の説を裏付けるようにモンスターのものと、更にもう一つ―――人間のものであったから。


「【身体強化】ッ!!」
 脇目も振らずに、ただ自身の能力を底上げする魔法名を唱え、『魔眼』の示す方向へと砂ぼこりと落ち葉を舞いさせながら足を動かす。僕の中ではもう、「人を助ける」という使命感に似た気持ちしかない。

 魔力とは万物の生き物に宿り、そして魔力とはその生き物の全てを表しているといっても過言ではない。

 なぜあの人が危ないと感じ取ったかというと、今モンスターに対峙しているその人間に戦闘能力がないことを、その弱小な魔力で読み取ったからだ。
 そして遠目から視る両者の距離は近い。近すぎる。

 即ち、非常にまずい。

「なんで逃げないんだよぉ!!」
 一瞬で通り過ぎる風景を横目に木々の間をすり抜けながら焦燥感によってそう叫んでしまう。先程から、モンスターも、その人も、不自然なほど動かない。その人はそのモンスターに抗おうともせず、何故かモンスターも停滞したまま。


 そしてようやくたどり着いた、その現場を見て、なぜ二者共に動かなかったのか理解する。

「あぁ、〈華毒木霊(ドライアド)〉だったか!」

 果たしてそこにいたのは―――標準の人間の女性の様な体躯に、薄気味悪い毒々しい緑の表面、棘の付いた長い蔦を頭部から垂れ流しにした、木のモンスターだった。
 そして、そのモンスターに目先には、何やら仕立ての良い服に身を包んだ中年の男性が、膝立ちになり、高揚した顔でじっと〈ドライアド〉を見詰める姿が。
 恐らくこれは――

「――ユニークスキル、【魅了粉】」

 それは、スキルの中でも上位のモンスターや、才能ある人々が多く持つ、《個々技能(ユニークスキル)》と呼ばれるものの一つ。
 〈ドライアド〉の【魅了粉】――これは、頭部に二つ付いている、赤い薔薇の様な器官から放たれる言わば花粉の様なもの。それを吸ってしまうとその名の通り魅了されてしまう。

 そして、〈ドライアド〉にとってこの技は秘儀と言っても過言ではない。これを放つと、このモンスターは一時的に動けなくなる習性がある。

 つまり、なぜ先程両者とも動かなかったか、説明がつくのだ。

『ギシャアァォゥ――!!』
 このモンスターの習性として、魅了された獲物をその蔓で雁字搦めにし、その棘で養分を吸うというものがある。
 そして、既に時間が経ち、また動けるようになったこのモンスターは、その薄気味悪い口を歪め、新たな獲物へと目を向ける。

―――即ち、僕へと。

「――ッ、不味い……っ」
 〈ドライアド〉は本来、自然の多い場所を好む生物なのだが、その目撃情報はなかなかない。
 それは単純にこのモンスター自体がレアということもあるのだが、それ以上に―――強いから。
 蔦による遠距離攻撃、鋭い枝の槍からなる腕での近距離攻撃、更にはその《ユニークスキル》。その豊富な攻撃の種類に加え、自然の地の利を生かしたその俊敏さも合わせて、遭遇して生きて帰った人間が少ないのだ。

 そんな事例もあり、このモンスターは三大ギルドの一つ―――冒険者ギルドにて、危険度を表す階級がF〜S級あるうちの、B級モンスターに登録されている。
 B級というと、ベテランの戦士が3人程度集まってようやく倒せる程度。

 つまるところ、こんなちょっと魔法の得意な15歳の小僧には勝てない相手ということである。

 とはいえ、このまま背を向け逃げても追いつかれそうだ。

 ならば残るは―――前進するのみ。
「どうする……?」
 じりじりと獲物に向かって近づいてくる怪物を前に、恐怖で凝り固まった脳と体を何とか動かしながら考える。
 こういった植物系モンスターに効果的な魔法属性は――火。しかし、周りには気が沢山生えており、一歩間違えば火事になる。
 全方位は木で囲まれ、当然ながら地面も人道から外れたここらでは草が前面に生えわたっている。
 で、あるならば――

「――上だッ!」
 刹那、遂に〈ドライアド〉が迫ってくる。木の根にも似た脚でこちらに一気に近づきながら同時並行でその髪の蔓を使い、僕を捕えようとする。
 その間、僕は魔力を瞬きにすら満たない時間で集め、前方――迫りくる怪物に手を翳す。まずは怪物を舞台へと誘うための魔法を。
 その両手の槍が僕の喉笛を掻っ切る一瞬前――ぎりぎりのタイミングで魔法を放つ。

「【物質浮遊(フロート)】――!!」        ・・・・・
 つい最近商業でも使った魔法で一気に〈ドライアド〉を上へ上げる。〈ドライアド〉は驚愕で数舜固まり、林の木々よりも上に行く前にその髪の蔦を近くの木の枝に巻き付けその上昇を止めようとする。が、僕の本気の【フロート】の力はそんな抵抗をもろともせず、耐えられず折れた枝ごと空に引き上げる。

 そして、僕自身も浮きながら木の上に移り、更に上にいる〈ドライアド〉に向けてもう一度腕を向ける。これは、空という舞台ならば、偶然通りかかった渡り鳥ぐらいしかこれから放つ魔法の被害を受けないことを考えての行動だ。

 冷や汗と緊張が背を駆ける。

 一度きりのチャンス、もう使えない初見殺し。恐らくこれで失敗すれば、知性のある〈ドライアド〉は学習し、二度と同じ小手先の魔法は通用しないだろう。

 ならば自分のできる最大の火力で。最高の魔力で。

 最強の――――魔法で。

「いけ――」

 手に力を入れ、標的に対し、咆哮する。


「――【灼熱黒牢(ヘルヴァナフレイム)】ァァッッッ!!!!!」


 その喉から出た大声と真逆に腕から余りにも静かに、一直線に一条の紫色をした炎が放たれる。
 そして、それが〈ドライアド〉に不自然なほど音もなく着弾した時、〈ドライアド〉は―――静かにこの世から姿を消した。

「……はぁ、はぁ………」
 堰を切ったかのように荒い息が口から木霊する中、後には、何もなかったように快晴の空だけが残された。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

―――超常火属性魔法、【灼熱黒牢(ヘルヴァナフレイム)】
 それは全てを焼き尽す紫の悪夢。絶対に逃れることのできない焔の檻。
 その、巨大な渦に、静寂の死に巻き込まれた瞬間、相手は断末魔も、塵さえ残さずこの世界から消えゆく。

 空間系統の無属性魔法はすべて超常魔法とされているが、実は、それ以外の属性の超常魔法は一つずつしかない。
 この魔法は、有属性魔法――ここで言う無属性以外の魔法――の六つのものの中の一つ。火属性の超常魔法。


 もちろんアース君はこのすべての超常魔法を覚えています。
 展開速くてすみません。次回でこの第二幕の第一章は終わりの予定です。

第二幕 第一章 \ ( No.22 )
日時: 2020/03/12 19:14
名前: マッシュりゅーむ

―――数時間後。

「ありがとうございました……」
「いいえ、無事でよかったです!」

 林の入り口。置いてきた馬車の前で、僕は助けた男性に感謝されていた。
 金の刺繍が入った淡い紫の、貴族が着るようなスーツに身を包み、深い堀の顔立ちにコールマン鬚が良く映える、ダンディな人だった。

 この男前な人が先程頬を高揚させてうっとりモンスターを見ていたという光景が………。衝撃的過ぎてまだ頭から離れない。

「お礼をしたいのですが、生憎持ち合わせも乏しく……。商人さん、貴方今度ファンレンの王城の近くに寄ることはありますか?」
「えーと………」
 と、その人が話を持ち掛けてくる。ファンレン王城というと僕たちが出発してきたあの王都のことだろう。

「予定だと恐らく……三週間ほど、ですかね」
「三週間で王都に来ると」
「はい。予定では」
「ではその時に―――」
 男前さんは裾から小さな紙きれ――名刺をおもむろに取り出し、こちらに手渡しする。

「―――王城でこの名前で尋ねてみてください」
 その、一見して高級だと分かる紙には、名前と職業が淡々と書いてあった。
「はいっ!え〜と、カール・フォン・リットンさんですね」
「はい。……では仕事も終わったので私はそろそろ行きますよ。今日は本当にありがとう」
 再度お辞儀をし、去っていくカールさん。仕事……ってこんなところで何してたんだろう。
 名刺に書いてある職業を見てみる。


「仕事は………右大臣」


 ………。

 え、ホントあの人何しに来てたの?

「アースさ〜〜ん、はよ行こ〜〜」
 退屈したミナの間延びした声が馬車の中から聞こえる中、「右大臣……?」と僕はずっと首を傾げていた。


***


―――迷宮。
 迷宮とは、この世界に数多く点在するモンスターの巣窟、古代秘宝等の宝の在処。
 どこまでも続きそうなその暗澹の奥に進めば進むほど、怪物の強さは増し、比例するように出てくる財宝は豪華になる。
 危険を冒しまでその財宝を、強さを、この世界の発展を追い求める者達は、その勇敢さに、いつしか『冒険者』と名付けられた。

 そして。

 その迷宮が多く存在し、その恩恵を受けている国がある。

 ついた名前は―――『迷宮国ヴルスグルナ』


 ファンレン王国の、隣国に位置する国である。





―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
第一章が終了しました〜〜。有難うございます。

第一章では主人公や仲間たちの職業の風景が主の章でした。
そのせいで戦闘シーンが少なくなってしまい、最後の〈ドライアド〉戦もなんかこじつけみたいになってしまいました。すみません。
まぁ、結構大事な話だったので、この章で書かなくては……!と焦ってしまった所もあります。

さて、次の第二章からは、最後に書いた通り『迷宮』が出てきます。と、いうことで戦闘描写も多くなってくると思われます。頑張ります。

これからも是非温かい目でこの物語を観て行ってください。

第二幕 第二章 T ( No.23 )
日時: 2020/03/22 19:11
名前: マッシュりゅーむ

―――あれから数日が経ち、僕たちは国境を越え、勢いをそのまま都心部まで突っ込んでいった。
 目まぐるしく変わる風景に自分の感性を感化させながら道程を進んでいくのは心が人知れず踊った。
 特にミナはずっと燥ぎっ放しだ。

「――あれは!?」
「あれは迷宮の一種だね。そこまで大きくなくてモンスターもあまり出てこないから、一般の人とかが観光に来たりするんだよ」

 そうやって聞かれるたびに僕の知っている限りの情報を彼女に提供している。一応この世界の地理は全て勉強済みだ。まぁ、勉強といっても大体は暇つぶしの読書で知ったことだけど。

「――あの人たちは!?」
「ん〜?あぁ、冒険者だね。ここは世界でも有数の迷宮都市だから、色々な冒険者がたくさん来るんだよ」
「へ〜。……なんか臭そう」
「臭そうって………」

 そんな感じで馬車を進めること一日半、僕たちはこの国の都市に着いた。
 本当はもっと時間がかかる予定だったのだが……。迷宮が多くあることで空気中の魔素も増えているのか………それで【ゴーレム】の能力が上がったのかな?

「―――……アースさん、着いたんですか?」
「ん?……あぁカイ、起きたのか」
 この移動中殆ど眠ることに集中していたカイが起きたので、一旦考えるのを止め、まずは宿を探すことにした。


***


 それから数分後、僕はこの、ヴルスグルナ商業者ギルドに来ていた。

「すみません。行商で売った商品の確認をお願いします」
「はい、では伝票の提示を」

 用意していた紙を受付の人に出す。これで売った商品と、そこから僕がもらえる分――言うなれば給料がもらえるのだ。

「確認しました。ではこちら、今回の報酬です。続けて行商を行いますか?」
「あぁはい。お願いします」
「畏まりました。―――ではこちら、次の商品の表です。こちらをこの本館の裏手にあります倉庫の方に提示し、お受け取りください」
 表を確認する。ファンレンのギルドで受け取ったのと違い、この国ならではの特産品なども見受けられた。

 しかし、その中でも不可解な点が。

「あの、魔石関係の商品が少ないように感じるのですが………」
「お気づきになられましたか」
 受付嬢さんは困ったように笑いながら言う。
「最近魔石が手に入りにくくなったらしくて……。何の理由かどうかは冒険者ギルドの方が冒険者達に調査(クエスト)を発注して捜査しているらしいのですが」
「なるほど……」

 魔石は、空気中の魔素の純度が高い場所で多く取れる。つまり、迷宮に多く点在することが多いのだ。
 この国は迷宮が多いので、世界でも有数の魔石輸出国なのだが……。

 魔石は色々な物に使われている。夜の明かりや調理場の冷蔵庫やコンロ等が例だ。魔法が使えない人でも魔石――一般に使えるように加工された魔石を『充魔石』と言う――を交換すれば自分の代わりに魔力で炎や氷を生み出してくれるので、もう人類は魔石なしでは生きていけないとまで魔石に依存している。

「もう原因は分かったかもしれませんがね。まだこちらは報告を受けていません。……………アイツ等マイペースすぎていつも報告おせぇんだよなぁ………」
「へ?」
「いえ、なんでも!」

 意図せず彼女の小声を捉えてしまった。どうやら商業者ギルドと冒険者ギルドは仲が悪いらしい。


 その後礼を言い、ギルドを出た後、ふと思った。
「うーん。暇だし冒険者ギルド行って聞いてくるか……」

 それが間違いだった。


Re:  最強魔導士は商人をしている ( No.24 )
日時: 2020/03/27 20:15
名前: マッシュりゅーむ

 キィー…、という音を立てながら、その薄汚れた観音開きのドアを開く。その音を聞き、建物右奥に設置されたバーカウンターに座る者――冒険者たちがこちらを一瞥してくる。
 商業者ギルドとは似ても似つかない雰囲気に、知ってはいたものの軽く驚いてしまう。

 今、僕はこの都市の北東に位置するこのヴルスグルナ冒険者ギルドに足を踏み入れていた。

 どこか無遠慮な視線を感じながら、話――魔石が取れない案件を聞こうと足を進め、投げやりな視線で何かの資料を眺めている受付の男性に声をかける。

「すみません」
「……冒険者登録ですか」
 その面倒くさそうな声音に一瞬怯みながらも応答する。
「いえ、その………最近魔石の採取が滞っていると聞きまして……」
 その話を詳しくお聞きしたいのですが、と伝えると、その人は溜息をつき、
「………情報収集ならよそでやってくれませんか。今こちらは忙しぃんですよ」
「えぇっ……」
 まるで相手にされず受付が受付の意味を全く成していないことに頬を引きつらせてしまう。
 う〜ん、でもまぁ別にそこまで聞きたいことでもないし、いっか、と、早々に諦めてそのままギルドを出ようとする。

―――バンッッ――――ッ!!

 と、その時、急に目の前で入り口の扉が勢いよく開かれ、吃驚して思わず後ずさる。

 見ると恐らく冒険者であろう武装をしている男女4人がそこに立っていた。
 見た目で判断するに、近接、中距離、斥候が一人ずつ。良く統率の取れたパーティーだ。

 残念ながら遠距離の魔導士はいないが………。

 しかし、その三人よりも遙かに存在感を放つのが彼らの先頭に立つ、一人の人物。
 恐らくこのパーティーのリーダーであろうその女性は、筋骨隆々とした身体をガッチリした武装で固め、背にはこれまた大きい大剣を背負っている。

 見ているだけで気圧される………というかここまでの巨女を今まで見たことがない。

「【強靭な巨刃(ワイルドダモクレス)】だ……」
「A級冒険者パーティー……」
「じゃあ、あの女があの………」
 ざわざわと広がる冒険者たちの小声。ちらりと耳に入った単語からは上から二番目の強さを意味する「A級冒険者」という言葉も聞こえてきた。

 A級冒険者というのはこの世界には両手の指の本数で足りるくらいの数しか存在しないと聞く。

 ってことは………超有名人じゃないか!

 そして彼らは崇める様に、畏怖する様に、先頭の巨女を見やる。

「あれが……」
「ちげぇねぇ……」

 生唾を飲み込み、どこか嬉しそうに周りの冒険者はその名を呟く。


「【爆弾女(ゴリラ)】だぁ………!」


 …………ええええぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!?

 そのあんまりな名前に驚き心の中で絶叫してしまう。

 確かに強い冒険者は二つ名みたいなものが付く事もある。その者が認められ、皆から称賛された称号。

 これもその類だろう。

 だけど……これは、ねぇ?

 そう思いつつその【ゴリラ】さんの顔色を窺うと―――

「……?………ッ!?」
 そこには既に彼女の姿はなく、慌てて辺りを見渡すと―――先程彼女の噂をしていた者たちが蹴散らされていた。
 訳も分からず倒れる冒険者たち。【ワイルドダモクレス】の他の面々は、あ〜あ、やっちゃったよ、みたいな表情を浮かべる。

「今度その名を言ったらァ……」
 【ゴリラ】さんが一人の男性冒険者の上に片足を乗せながら喉からしゃがれた声を出し、周りを睨む。

「……今度は挽肉にしてやるからな……?」
「「「…………」」」
「―――返事はッ!!」
「「「は、はいっ!!!!!」」」
 思わず僕も返事をしてしまった。【ゴリ………彼女のその暴君ともいえる殺気を浴びて、このパーティー名の意味を正しく理解した。


 つまり常に心中ダモクレスの剣状態ってわけね。


Re:  最強魔導師は商人をしている ( No.25 )
日時: 2020/04/04 20:20
名前: マッシュりゅーむ

 と、彼女は何かに気付いたようにゆったりとした動作でこちらの方向を向く。
 図体や装備だけではなく顔のパーツ一つ一つごついので、その眼光も、竜をも射貫くような鋭さを持っている。

 その視線に、思わず自分が見られているのでは、と思わず錯覚してしまう。

 というか完全に僕を見ている。

「……………」

 え、なに、何なの?
 そう、緊張と困惑が心の中で駆け回る中、彼女はじっとこちらを睨む――いや、何やら思案している様子。
 何故こちらを注視しているのか分からないし、僕に何かあるのか、一体何を思っているのかで、今僕は内心ビクビクだ。

「―――おい」
「は、はいッ!」

 不意に、先程から一切変わらないテンション、声音で声を掛けられる。
 その言葉に思わず敬礼しながら自分の出来る限り最高の声で応答する。

 気分は宛ら怖い上司に叱られる下っ端だ。
 さっきから暴君ぶりをこれでもかと見せられていたので、出来るだけ相手を刺激しないように集中する。

「お前……魔導師だな」

 なので、次に告げられた言葉に、思わず一瞬呆けてしまった。
 ほぼ断定に近いトーン。それと同時にニヤリと吊り上げられる口元。

 相手方の雰囲気が、「どうだ、当たっただろう」と自信満々なものに変わる。

 なので非常に言いにくいのだが……ここは譲れないので億劫せずに言わせてもらう。

「い、いえ、僕は…いや!私は、唯の、商人です……!」
 そう、僕はこれでももう一端の商人。どもらずに堂々と、そう、堂々と名乗ることが許されている。
 例え相手が強面の筋肉ムキムキ巨人女でも、プライドがそれ以外を言うことを許さないのだ。

 僕は誇り高き商業者………!

「魔導師……………だな?」
「はい!そうですぅっ!!」

 うん、プライドとか知らね!

 いやだってしょうがないでしょ、そんな殺気とガン飛ばされたら。

「そうかそうか、やっぱり!」
 はっはっは、と高らかに笑う巨女さん。

「それならちょうどいいな!おい、あいつの代わり、此奴でいいか!?」
 何かをお仲間さんに確認している。何が何やら分からないが、取り敢えず悪寒がした。
 助けを求める様にその方向を向くと、そのお仲間さんは、彼女に絶大な信頼を寄せているようで「いいんじゃね」「いいよー」「うん」と即肯定していた。

 あれ、絶対適当だよ。

「よしっ!」
 彼女は頷くと、また再度こちらを向き、
「お前、ランクはなんだ」
 と、聞いてきた。
 ランク?冒険者ランクのことかな?
「いえ、僕は冒険者じゃないのでランクは……」
 存在しない、という旨を伝えながら、同時に、何の要件か知らないがとにかく関わるつもりはない事を言おうとする。

「そうか。じゃ、登録しよう」

 しかし【爆弾女】は待ってくれない。

「おい、此奴のギルドカード作ってやれ」
「へ?は、はいッ!!」
 少し前に僕が話を聞こうとして全く相手してくれなかった受付の男性がこうも簡単に従うところを見ると半眼を作りたくなるのだが今はそれどころじゃない。
「ちょっ……ど、どういうことか説明してくださいよ!」
「あん?なんだよ」
「いや、だからこうなった経緯を……」
「およ、話してなかったか?」

 話してないよ。

「いやな、クエストで魔石の不景気だかなんだかで迷宮潜ったんだが、そこに今まで見たことない化け物がいてな」
 くつくつと肩を揺らし笑いながら話始める。

 って、魔石のこと……!

 その言葉に、はっとし、成り行きで当初の目的が果たせそうなので黙って話を聞く。

「そいつが今回の件の主犯だってことで当たりつけてブッ殺そうとしたんだが……少々手こずっちまって仲間の魔導師がやられちまってなぁ」
「な、なんでそのモンスターが犯人だって……」
 素直に疑問をぶつけてみると、

「勘」

 勘かよおい。
 もう何に突っ込んでいいのか分からなくなってきた。
 でもまぁ、大事な時の「勘」は何気に大事かもしれない。戦いの中では常に多岐にわたる選択を強いられるからだ。

 経験からの一択。これに勝る選択など、ないのかもしれない。

 と、それはともかく。

「魔導師が負傷してしまっていないから僕を代わりに………ということですか」
「おう、そうだ」
「でも僕、魔術なんて人並程度にしか使えないですよ?」
 ようやく経緯を理解、納得する。
 しかし、僕は本当の魔導師でなければ、彼女が期待するような魔術など、多分使えない。
 仮にも相手は迷宮のモンスター。その強さはこれまで僕が倒してきたことのあるどのモンスターをも凌ぐだろう。
 そして、一緒に戦うのがA級冒険者という点についても、僕じゃついていけない。

 つまり役者不足。足手まといにしかならない弱者。

 そのことを伝えると、彼女は朗らかに笑う。
「いや、謙遜しなくてもいいぞ。アタシには人の実力を見抜く才能があるんだ」
「えぇ……いやでも、」
「それに、これから《ステイタス》を確かめればわかることだろう。………なぁ、カーリー!」
「は、はぁ……」
 カーリーと呼ばれた受付の男は返事をしながら、両手で長方形の薄黒い石板の様なものを手にしていた。

「では、準備が出来たのでこれからギルドカード作成の儀を行いたいと思います」


 ………これは、もう作るしかないかなぁ…。


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