複雑・ファジー小説

魔法がつかえない
日時: 2019/12/29 22:30
名前: わたを (ID: 49hs5bxt)

はじめまして。なんだかなあな恋愛小説です。

登場人物
七海 なな子(ななみ ななこ)
伊藤 陽太 (いとう ひなた)
相川 晃大 (あいかわ こうだい)

もくじ
1「魔法のステッキは握れない」
 1 >>1-

Page:1



Re: 魔法がつかえない ( No.1 )
日時: 2019/12/29 16:58
名前: わたを (ID: 49hs5bxt)

 結構、楽しみにしてたのになあ。
 ファミマで買ったタピオカミルクティーを啜る。パッケージには、笑ったパンダもタピオカをすすっている。パンダでもなんでも、タピオカを啜る時代なんだよ。
 ICカードを押し付けて、改札を通る。まだ電車は来ない。頼りない若者なので、あたしはベンチに座って、タピオカを飲み続ける。あんまり美味しくない。硬いような柔らかいようななんだかよくわからない感触がする。その割には高かった。もう二度と買わない。パンダは信用してはいけない。
 ポケットの中のスマホが振動する。取り出してみると、陽太からのラインだった。
『バイト無理』
『いける』
『いけない』
『いける』
『てか修学旅行の班、マジで無理や』『ななこと回りたかった』
『わたし絶叫乗ったらえぐいから』
『逆に気になる』『バイト行ってくる』『こんどふたりでいこう』
 熊がにこにことあほらしく笑っているスタンプを送ってスマホを閉じた。
 あたしだって残念だよ。あたしだってかっこいい彼氏と楽しく回りたかった。
 タピオカがうまく飲めない。ミルクティーは全部飲んでしまったのに、タピオカはまだ残ってる。ストローで一粒ずつさして吸い込んでいく。
 修学旅行の班決めって、人生においての重要度って結構、いや、大分高いと思う。一生に一度しかないんだから、誰と回るかって、なによりも大事だ。しかもディズニー。夢の国だ。それなのに私は大きな失敗をしでかしてしまった。陽太のふたりでいこうって言葉だけが頼りだ。夢の国をたいして仲良くもない男女6人で駆け回ることになってしまった。改めてそう考えると死にたくなる。中学生じゃああるまいし、抜け出して仕舞えばいい話なんだけど、陽太はあたしがいなくても楽しんでしまう。同じ班になれなかったなら、もう一緒に回れない。あいつの周りを囲む、人の目が痛いから。あたしって人間は周りの人間にとって、いつでも鬱陶しい女でしかなかった。地味なポジションに位置しているのに、あたしは結構モテてしまった。周りの人より少しかわいいくらいだけど、人生においてそれは結構重要だった。それでもやっぱり、あたしは地味で陰気臭い女だ。七海さんだから、いいよねって目で見られると、あたしがそっちにいくよとしか言えないし、というかそれしか選択肢にはない。魔法が使えたらなあ。魔法のステッキを一振りして、何もかもをかえてやるのに。あたしの手の中にはスマホしかないから、いくら振り回しても魔法は使えない。もしもボックスもない、この世界ですから。
 陽太に申し訳なくなった。一緒に回ろうとか言ってたのに。かっこよくて明るくて優しい陽太が、あたしのことを彼女として扱えば扱うほど、あたしを見るクラスメイトの目は冷たくなっていく。やだな、とは思うけど、彼女らしくさせてくれる陽太にそんなこと言えるはずもなかった。陽太はあたしに残された唯一の居場所だ。陽太に嫌われたら、いよいよ学校という場所は無でしかなくなる。
 同じ班になったメンバーを思い出していく。まず、あたし。その次に、急に学校に来なくなった女。電波気取ってる女。それから眼鏡の男二人と、相川くんだ。あたしは普通にクズなので、興味のない人間の名前は全然覚えられないし覚えようと思わない。友達はほしいけど、女は信用できないし嫌いだ。何を言われるかわからないあの世界に身を置きたくはない。男もかっこよくないと嫌だ。だから友達ができない。あたしは女が嫌う女なのだ。あたしもあたしみたいな女が身近にいたら嫌かもしれない。
 ということで、相川くんは、闇鍋みたいな班の中で唯一、あたしがかっこいいなと思える人だ。地味で目立たないし声もちょっとダミ声だけど、箸の持ち方が綺麗で立ち姿が綺麗で、なにより顔がかっこいい。クラスの女も度々話題にしているみたいだった。あたしも度々、ツイッターで話題にさせてもらっている。男性アイドル育成ゲームのキャラクターや売れない地下アイドルが本気で好きだったりするあたしのフォロワーにはちょっとウケがよくて、結構いいねがもらえたりする。いいね乞食ってわけじゃないけど、かっこいい男の子の話で盛り上がるのがすきなので、相川くんはいいネタなのだ。
 何もかもをツイートに変えてしまうことが、あたしの唯一の楽しみだった。ようやく飲み終わったタピオカをゴミ箱に捨てる。学校が終わってすぐの御堂筋線は空いているので、簡単に座れる。
 スマホを取り出して、青いアイコンをタップして、文字を打ち込んでいく。『修学旅行の班、わけのわからん寄せ集めに入れられてわろた。でも陰キャくんと同じ班なのはあり。美少年しか信じねえ』
 昨日も陽太と通話していたのでとてつもなく眠いのだが、二千位以内に入らないと推しのデータをレベマにできない。不器用なあたしはうまく受け答えしながらゲームをすることができないので今のうちにやっとかないと。きっと今日も陽太と通話をする。電車の微妙な揺れが心地いい。だめだ、眠い。大人しくスマホをしまって、目を瞑ることにした。

Re: 魔法がつかえない ( No.2 )
日時: 2019/12/29 22:29
名前: わたを (ID: 49hs5bxt)

 急に意識が覚醒した。誰かに声をかけられて、肩を叩かれた気がした。
「七海さん、終点やけど」
 目の前にいるのは、相川くんだ。最悪だ、爆睡してたのに。こんなことなら、大人しくアイドル育ててるんだった。これもツイッター行きだなとか考えつつ、マフラーをまきなおす。
「ごめん、ありがとう。反対方向いくとこやったわ」
「別に、気にせんとって」
「ほんとありがとう」
 電車を降りる。相川くんも一緒に降りた。でも相川くんって、こっち方面だったっけ。あたしと相川くんは大体学校に行く時間が同じみたいで、学校の最寄駅ではよく彼を見かける。陽太と待ちわせているので、そこで話しかけたことはない。でも、私が見落としているだけかもしれないけれど、電車の中やこの駅で彼を見かけたことはなかった。
 改札まで変に距離があるせいで、気まずい。気まずいのが嫌で、よくある質問を投げかけた。
「……相川って、こっち方面だっけ」
「違うで」
「なんか、用事?」
「うん」
 そっかといって、そこで会話は終わってしまった。あたしはもちろん、ツイッターで陰キャくんと称しているくらいだから、相川くんも、そう口数が多い方ではない。
「修学旅行さあ」
「え、うん」
「楽しみやな」
 そういって相川くんはこっちを見て少し笑った。身長がたいして変わらないせいで、くりくりした大きな目としっかりとあってしまう。まつげ、長すぎない。フランス人形かよ。
「同じ班やしね。ディズニーやし」
「おれ初めてやねんなあ、ディズニー」
 改札を出る。じゃあここで、といって相川くんとは別れた。
 本心かどうかはしらないけど、こういうところがクラスメイトの女達を沸かせるんだなあと思った。あたしもちょっと沸いた。肌が白くて顔が小さくて、目が大きくてまつげが長い。そんな美青年にそんなことを言われて、いいなと思わない女はいない。画面の中で微笑んでいる推しが、現実の世界にいたらきっとこんな顔面だ。
 それから家に帰って、夜ご飯までずっとゲームのイベントをこなしていた。あたしの生活はだいたい、こんな感じで堕落している。部活も入っていない、バイトもしていないゲームとアイドルとSNSが趣味の女子高生なんてきっとこんなもんだ。相川くんのことは、もちろんツイートした。フォロワーが五十でいいね十六は結構大きいと思う。
 ふと相川くんはあのあと何をしていたのか気になった。いろいろ思考を巡らせてみた。でも、相川くんの何気ない仕草をすこし誇張してツイートするというのが、あたしの相川くんという存在の処理方法で、実際は何も知らないにも等しいから、全く想像がつかなかった。
 夜ご飯はカツカレーだった。特に会話もなく作業的に食べ進める。無駄に燃費が悪いせいで、動いた量の倍くらいは食べないとやってられない。やってられないけど、食事という行為は面倒なので好きじゃない。七海さんって細いよねとクラスメイトの女に言われたことを思い出したけど、母さんも食べる割には細いので、完全に遺伝だと思う。その女は細いとは言えなかった。デブは遺伝するみたいだ。
 シャワーだけ浴びて、お風呂上がったよと陽太にラインする。兎が両手を挙げ喜んでいるスタンプが送られてきて、それからすぐに着信音が鳴り始める。
『今日のバイト、ちょっとおもろかってんな』
「そうなん?」
『六組の山下っておるやろ?そいつがさあ』
 くだらない会話を続ける。陽太は話が面白いので、二時間三時間はあっという間だ。陽太の周りに人が集まるのはきっとこういうところだ。高校生は面白くて騒がしいものに敏感だ。他人を下げる内容だろうがなんだろうが、とにかくそういうのが好きなのだ。さらに陽太は、他人を下げた話はしない。誰かの話をする時も、その人のことを面白おかしく仕立て上げていいように言う。そういうところなのだ。こんないい人がどうしてあたしのことなんかが好きなんだろう。
 話の話題はなんとなく修学旅行の話になった。
『なあ、まじで修学旅行の班分け無理なんやけど』
「いいやん、仲良いメンツ揃ってるし」
『それはそうやけどさあ、やっぱなな子とまわりたかってんて。絶対抜け出してきてな、あれいこ、お化け屋敷みたいな…』
「ホーンテッドマンションね」
 下調べは結構していたりする。
 そうはいうけど、結局あたしが浮くのは目に見えている。なにかしらの行事のたびに陽太はこういってくるけど、結局他の人に囲まれてあたしなんかには構えなくなる。陽太のことは、好きだけれども、こういうところをなんだかなあと思ってしまう。陽太はそう思ってないんだろうけれど。
『そっちの班って誰がおるん?』
「名前覚えてないけど、えーっと、オタク、電波女、メガネ二人組、』
『ひど、もう12月やで』
「うるさいな。あと、相川」
『…へえ。てか、なんであいつだけ名前覚えてんねん』
「かっこいいから」
『おれというものがありながら!アイドルとかもさあー…』
「大丈夫、大丈夫。陽太がいちばんかっこいいし好きだから」
『やったー』
 ちょっとおかしくなって笑う。こういうところが好きだったりする。ついでに相川くんに会ったことも話そうかなと思ったけど、普通に怒られそうなのでやめた。陽太はちょっと重いから、相川くんってかっこいいよねときめいちゃったなんかいってしまったらきっと拗ねてしまう。でもあたしはちょっと重いくらいが男は可愛いと思う。
 時計はもう11時を指していたけど、多分、もうちょっとだけ続くと思う。多分明日も寝不足だ。

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