複雑・ファジー小説

春風の向こう側
日時: 2020/08/07 20:24
名前: ガオケレナ (ID: tftNTdUs)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12355


 風の吹く先には、何も無かった。既に満たされていたからだ。それに気付かなかった。気付けなかった。

 突然全ての記憶を失くした私は何者で、何処で、何をしていたのか。すべてが思い出せない。

 残された手掛かりは三つ。

 その手掛かりを追いながら、私は己がこれまで導いてきた答えを改めて覗くことになっていく。

 これは、私のこれまでと、そしてこれからを紡ぐー私の物語ーだ。


以下は順次追記予定

【主な登場人物】

私……作中の主人公。とある出来事がきっかけで記憶を失い、自分が何であるのかの一切を忘れてしまう。本名はパルヴィーズ。

レザー……私の弟。娘がいる。

マリアン……レザーの娘で私の姪。記憶に関する知識を披露する。

【しおり】

第一の手掛かり……>>1-

第二の手掛かり……>>

第三の手掛かり……>>


改めましてガオケレナです。
普段は二次創作板でコソコソと自己満でしかない作品を書き続けていた私ではありますが、今回私が本来書きたかった、そして本当に伝えたかった事の一部を表してみようかなと思い遠征する事にしました。
あまり長くはない作品を予定しておりますが、その時までどうぞ宜しくお願い致します。

※コメントは雑談板の私のスレかTwitter垢へ宜しくお願いしますね※

Page:1



Re: 春風の向こう側 ( No.1 )
日時: 2020/08/01 12:44
名前: ガオケレナ (ID: F343Lai/)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no

 
 その目は、突然開かれた。
 安らかな眠りから覚めたような、心地よい朝を迎えたようだった。
 だが、それとは裏腹に不穏な影が幾つかあった。

 不規則に揺れる鼓動。
 乱れる呼吸。

 その瞬間、私は悪夢にうなされていたのだと実感した。気分の良さはほんの些細な一瞬でしかなかった。

 私が呻いたせいだろうか。
 その声に気が付いた誰かが慌ただしく駆け寄って来る。

 知らない顔の、見たことの無い女性。
 年相応に皺を身につけている、私よりも二回りほど年配であるのは確かな人だ。

 その顔は見えない不安に恐怖し、怯えているようだった。
 だが、私が起き上がったのを見るとまるで重い荷物を降ろしたかのようにほっとし、そして今この場に居る人々を集めるために叫んだ。

 人々が一箇所に集まってきた。
 同時に私は理解した。一つの屋根の下で一人用のベッドに寝かされていたことを。要するに、家に居るということを。

「見て! 目を覚ましたわ!」

「もう……大丈夫なのか? あれから変わったことは?」

「まだ何も……」

 この家の持ち主たちなのだろうか。四人ほどで私を囲んではそのように会話をしだす。自分が置いてけぼりにされているようで嫌な気分だ。それに、誰も彼もが知らない人たちだ。これほどの恐怖が他にあるだろうか?

「とりあえずお医者様に連絡しましょう。起き上がったと」

「時折呻き声が聞こえたぞ……? 本当に何も無かったのか?」

 私は、どうしていいのか分からなかった。
 周りの人々は、私を見て安堵しているようだが、状況が全く分からない。先程の皺のある女は早速電話機に手を取っては誰かと連絡し始めている。前後の会話からして相手は医者だろう。

 私は、私の身に何が起きているのか、さっぱり分からないのだ。

「此処は……何処だ?」

 私は部屋をぐるりと一通り見た後に呟く。

「貴方は……誰だ?」

 私はこの部屋にいた、私を不思議そうに見つめている若い少女に向けて言った。

「今日は……何曜日、だ?」

「やっぱりな……」

 皺のある女と会話をしていた私と同い年くらいの、長い顎髭をした男がため息混じりに残念そうに呟く。

「あれから状態は変わっていないらしいな」

「状……態……?」

「そうよ。貴方は昨日まで病院にいたのだけれど、一度目を覚まして……。お医者様も大丈夫だと言うから家に連れて来たのだけれど、また寝てしまって……。それで今あなたは起きたのよ?」

「ダメだ、分からない……。何なんだ……何があったんだ……」

「パルヴィーズ」

 医者と通話中であるのだろうが、皺のある女は私を見てそう呼んだ。どうやら私の名前は"パルヴィーズ"らしい。少なくとも、彼等の中では。

「あなたは……記憶を失っているの。皆それを知っている。でも、あなたは知らないわよね?私たちが誰で、自分が何者で、今何処にいるのかも」

 その通りだ。私は何も分からない。唐突に記憶喪失だと言われてもそれが事実なのかも理解し難い。

 仮に記憶が無くなったとしても、今見えている世界があまりにも鮮明なのだ。

 だが、彼女は待たせてはくれなかった。すぐに事実を述べ始めた。

「パルヴィーズ。いい? ここはあなたの家。私たちは家族。そして今は……。千三百九十八年……四月三十一日よ」

 放心状態とはこの事を言うのだろうか。
 彼女の言葉の一つひとつを取ろうとしても、私自身が追い付けない。手を伸ばしても届かない。

 暑いせいか開きっぱなしの窓から、熱気と共に外を走る騒がしい音が耳をいたずらに刺激する。

 その音の正体は、街を見れば飽きるほど有り触れている、一般的な自動車の走行音だった。

Re: 春風の向こう側 ( No.2 )
日時: 2020/08/03 20:23
名前: ガオケレナ (ID: FFRec9Wj)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


 私は扉を開けて外に出てみた。
 何かが分かるかもしれない。ふとそう思ったからだ。

 途端に熱気が走った。
 頬を刺す痛みに、私は目をぎょっとさせつつ道を歩く。
 家の前には車が二台は通れそうな路地があり、右手の方向には大きな通りがあるとのことなのでそちらを進んでみた。

 騒がしい車の正体が分かった。
 片側三車線はあるだろう十分な大きさの道路が広がり、必要以上にスピードを出した自動車が尾を引くように走り去ってゆくのだった。
 振り向けば、石造りの家々が連なる。その中に私の家が、先程出てきた家があった。
 どうやら住宅地のようだ。

 イラン。その首都のテヘラン。

 私が今在る国、そして私が今居る地だ。

「イランは……西アジアに位置している国で、ペルシャとも言うの。今私たちが話している言葉もイランで話されている言葉……ペルシャ語だよ」

 いつか学校で習った知識なのだろう。私の姪を自称するマリアンが教えてくれた。私を不思議そうに見つめていた少女が彼女だ。

「大丈夫か……?私の話す言葉はおかしくないかな?」

「大丈夫。変なところはどこも無いよ」

「兄さん……本当に記憶喪失なのか?なら、何故違和感なく言語を扱える?俳優のスカウトでも受けているのか?」

 彼と私の年齢が近しい理由が分かった。
 彼は私の兄弟で、更に私が年長だという事だった。つまり、マリアンの父親だ。

「やめなさい、レザー。パルヴィーズは本当に記憶喪失なのよ?」

「そうだよお父さん。記憶には三つの領域があるの……知らない?」

 二人の女性に抑えられてばつの悪そうな顔をする私の弟ことレザーは「どういう事だ」と言いながら娘の説明を聞く。

「人の記憶はひとつじゃないの。意味記憶、エピソード記憶、手続き記憶。全部別々だし別の領域なの。おじさんは言葉を話せるけれど、物は使える?車の運転とか……」

「おいおい、ちょっと待て。今の兄さんに車を渡す気か?そんな危ない事出来るわけが無いだろ」

 途端に口喧嘩が始まった。
 娘は「手続き記憶が無事なら危険でも何でもない」と言い張り、その父親は「絶対にさせない」と大人気なくその主張を譲らない。

 二人とも落ち着けと言いたくなったが、どうやらこれが"普通"らしい。互いに会話に熱くなって声を大きく上げているだけのようだが、私には不穏な光景にしか見えなかった。

 だが、父親が折れるとぱたりと喧嘩もどきは止み、二人とも口調が戻り、共にそれぞれの扱い方にも変化は起きない。

 どうやら本当に当たり前の光景のようだった。私としては親子喧嘩に発展しなかっただけでも本当に良かった思いだ。

「ねぇ、パルヴィーズ」

 皺のある女が尋ねてきた。曰く、私の母らしい。

「どうしても思い出せないのかしら……?昔の思い出とか、人の顔とか」

「あぁ……。本当に分からないんだ。記憶がごっそりと……持っていかれたようだ」

「パルヴィーズ。私はマリアンほど頭は良くないし、どうすればいいか分からないの。でもね、協力はしたいのよ。何をすれば……いいのかしら?」

「お婆ちゃん!そうしたら、皆で旅行に行きましょうよ!家族皆で行ったところとか……、おじさんにとって思い出深かったところとか!」

 私にとって思い出のある場所など一体何があるのか検討もつかないのだが、皆は妙に納得しているようだった。口々に彼女に賛同している。

「いい考えだね。本人は思い出せないようだが、幾らかそれらしい所はあるしな……。行けば思い出せるヒントになるかもしれないしな」

「なんて賢い子なのかしら!私は幸せ者だわ!こんなに優しくて頭のいい孫を持つなんて」

 家族で彼女を持ち上げる光景が少し異様にも見えたが、母にとっては孫が可愛くて仕方がないらしい。ピンと来ない以上乗り気にはどうしてもなれなかったが、流れで私も参加する事になった。と、言うより私が居なければ始まらないのだが。

 こうして、私の記憶を巡る旅が始まった。

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